忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
法皇両翼会議行われる中、
一度帰還した
そして三獣士達も、避難民と捕虜を入れての数万を引き連れて
帰還したガビルは、急ぎリムルが待つ執務室へと急ぐ。
リムルは執務室で机に座り、帰還したガビルから「ミリム様から預かりました」と、差し出された手紙を受け取り封を切る。
(何だ、これ?)
それは――
『ミリムだぞ! 今度遊びに行く時に、ワタシの世話を焼きたがる者共を連れていくのだ。その者達に、〝料理とはどういうものなのか〟を教えてやって欲しい。以前ツキハとコハクに頼んだのだが、全く役に立たなかったのだ! これは切実な願いなので、親友であるお前に是非とも頼みたい。本当に、本当にお願いするのだ!!』
と、書かれた文面からは切実さというか、必死さが窺える内容だった。
リムルは一通り読んだ後、この手紙の内容をガビルに伝え、何か心当たりがあるかとガビルに尋ねた。
するとガビルは。
「ええ、少しだけですが。我輩は竜を祀る民のヘルメス殿と
と、話し始め。
どうやらミリムに出される食事が料理などされておらず、肉だけは焼いてあるという状態だと、ヘルメス殿から聞きましたと告げた
「……ふーむ。わかった。ドラゴニュートは人と同じ味覚だよな?」
「はい。我輩も進化したお陰で、豊かな味覚を獲得しました。以前は味気なかった食事が、今は楽しみの一つとなっております!」
「だろ? それならさ、美味しい物を食べたら、それをまた食べたいと思えるんじゃないか?」
リムルの意見を聞いたガビルは、納得したように深く頷く。
「なるほど、そうであったか! ヘルメス殿が言ってのはこの事だったのですな。この殆ど料理をしないという風習をなくしたいと、いう事ですな!!」
リムルは、ガビルの言う通りなんだろうなと、思った。
風習かどうかはわからないが、今度来た時は盛大に持て成してやろうと言い、ガビルもそれに大賛成する。
リムルはガビルに、洞窟の研究室に戻るよう言い付けると、自分が幹部になった事を思いだしたのか、「ハハッ」と、誇りに満ちた顔で返事をして執務室を後にした。
シンと静寂が訪れた執務室でリムルは、お茶を入れるディアブロを見ながら、つい十日前にディアブロから聞いたファルムス王国での事を、ぼんやりと思いだしていた。
それは……。
――十日前の執務室での出来事――
〝傭兵商会・ルヴナン〟との契約も無事締結が済み、応接室でのんびりしていた時の事。
早々に帰還したディアブロに対して、問うたリムルの疑問。
「ところでさ、ヴェルドラとツキハの決闘が終わったのはいいんだけど。お前は何でこんなに早く帰ってきてるんだ? ファルムス王国を滅ぼし、ヨウムを新たな王として立てる。その任務を放りだして帰って来たという事は、応援が必要なのか?」
「いえいえリムル様、その必要は御座いません。全て計画通り、順調に進んでおります」
紅茶を飲みつつリムルはディアブロの報告を聞き、応接室でお茶御馳走になっているツキハとコハクがディアブロに茶々を入れるも、ディアブロはそれを意に介せず報告を続ける。
「最初に、あの者共を元の姿に戻しました。肉塊になったままでは不便でしたので――」
「肉塊!? って、アレか!」
「え? なになに?」
「なんどすか、肉塊って?」
一瞬動揺したリムルに、ツキハとコハクが肉塊という単語に食い付き、しきりに見せろとせがんできた。
そして、その場にいたシオンがピクリと身体を震わせる。
(だよねぇ。あれをそのままとか、非常にマズいよなぁ。俺も尋問部屋を訪れて一度見たけども、見なければ良かったと、後悔したんだよな……。ってか、ツキハとコハクはそんなに見たいのか、アレを?)
リムルが『思念伝達』を使って記憶映像を見せるのを躊躇していると、ディアブロがあっさりと「これですよ」と、『思念伝達』を使い二人に見せた。
すると――
「これ!? ぶはっ、あは、これ、これって、マジ肉塊じゃん! ぶははははは」
「ぷっ……。なんおすか、これ? 肉、肉って、ほんまに生きた肉塊じゃおまへんか。あははははは」
何故か大うけである。
(えぇー。アレ見てそこまで笑えるって、その根性が凄いわ! いったい今までどんなもの見て来たんだオマエらは!!)
リムルは心の中で激しくツッコミを入れる。
そんなリムルを
シオンのユニークスキル『
この
ようは、シオンが進化する時に〝料理が上手くなりたい〟と強く願って生まれた
このユニークスキルでシオンはエドマリス王とラーゼン、レイヒムを生きたまま解体、そして生きたまま肉塊としていたのだ。
この生きたまま解体される時の痛みなどは一切感じさせずに、意識を保ったまま自分が解体される様を眺める事になるという拷問を通り越した何かに、エドマリス王とラーゼン、レイヒムは、シオンの気が済むまで味わったのだ。
それを箱に詰めて、ディアブロはファルムス王国まで馬車で輸送したのであった。
リムルとコハクの言い合いも、とりあえずその件は一端保留という事になる。
それを見てディアブロが、報告の続きを話し始めていく。
ファルムス王国に向かう中馬車の中で、三人に作用するシオンの力の残滓を解除する事に成功した。
「厄介な……何ですか、これは? 法則が変に捻じ曲げられて、素直に回復魔法が通用しないではないですか……」
ディアブロは愚痴りながらも、
魔法を極め、この世の法則を全て
ディアブロはそれを、素直に喜ばしく思う。
解除に成功したディアブロは、まずレイヒム、次にラーゼンを回復させた。
気の向くまま解法を行ったディアブロだが、最後のエドマリス王に目を向けて、その手を止める。
元の姿に戻ったレイヒムが
「感謝します。感謝しますぞ!」
歓喜し涙を流しながら、ディアブロに感謝の言葉を述べるレイヒム。
同じく元の姿に戻ったラーゼン。
「
ラーゼンは、王への忠誠心からディアブロに懇願するも、そんなラーゼンを
「クフフフフ、私に願い事ですか? クフフ、その代償は高くつくと、理解しているのでしょうね?」
優し気な笑みのディアブロ。
しかし、その瞳に温かさなど有るはずも無し。
「……あ……いや……わ、儂は……」
ラーゼンは恐怖した、顔は青ざめ、後悔だけが先走る――
ラーゼンは思いだす、あの戦場での事を。
目の前に悠然と座り嗤うディアブロが、恐るべき悪魔である事を。
そもそもが、
これがもし、小国になど出現したら、国家存亡の危機に陥ってしまう。
だから
その魔力は、生半可な魔法結界などものとはせず、強烈な
後は、一方的な魔法による蹂躙が始まるだけである。
冒険者で立ち向かうならば、最低でもAランク以上でなければ、相対しただけで殺されてしまう。
ラーゼンからしても、一人では相手にはしたくないと
だがしかし、目の前のディアブロはその比ではなかった。
ディアブロからは、一切の
ただその目は、闇夜に浮かぶ月の如く、そしてその月は真紅に避けているという印象を窺わせる時調的な目。
一度見たら忘れられない、そう表現するに相応しい目であった。
その目以外人と変わらない――それは異常だった。
つまり、ある一定状の強さを持つ魔物を拒絶する都市の防衛機構を素通り出来るという事になるのだ。
人間が魔物に対してもっとも優位に立てるのは何か?
それは、知恵と用心深さである。
知恵ある魔物もいるが、そんな存在であればある程に、己の力を誇示し、
だがもしも、そんな魔物が
街中で突然出現する
想像もしたくない光景である。
そこでラーゼンは、またもある文献の事を思いだしてしまう。
それは――
〝番外魔王〟の二人が、最初に滅ぼした小国に
その一文にはこう記されていた――
ある日突然、二体の魔物が街の中心部に現れた、と。
例外が既に存在していたのだ。
ラーゼンは、悟った。
想像もしたくない光景が、千年以上も前に起こっていたと。
何故今まで考えなかったのだと、ラーゼンは今更ながら、いかに〝番外魔王〟達が人間社会に溶け込んで来たのかと考え、それに戦慄を覚えた。
そして、目の前のディアブロもまた、原初が一柱であり、名を持つ悪魔。
それが意味するのは、〝番外魔王〟達と同じ事が出来るという事にある。
いや、それよりも恐ろしい事実が、いや〝番外魔王〟と同じく触れてはいけないものに触れたという、事実に気が付いたラーゼン。
そう、このディアブロが仕える
二万の軍勢を事無げに殲滅した魔物。
恐ろしくも美しい金色の瞳に、
そしてラーゼンは理解した。この世には触れてはいけない存在がある、と。
原初の悪魔すら従える存在、魔王リムル。
(あの魔王ならば、たった一人でファルムス王国を滅ぼすなど、容易であろうからな……)
馬車が揺れるのも構わず、ディアブロの前に
「代償の高さは承知の上です。何卒儂を――いえ、私を、貴方様の下僕の末席に加えて下さい! 今後、この身を、いえ、命を含む全てを、貴方様に捧げます。ですからどうか、エドマリス王に御慈悲を!」
ラーゼンは、その忠誠心の全てをディアブロに捧げ、それにディアブロは
「いいでしょう。お前程度でも、人の世では強者なのだそうですね。であれば、使い道もあるでしょう。元より、リムル様の命令なくその者を殺すつもりなどありませんよ。無事に解放して差し上げましょう。ただし――」
ディアブロの次の言葉を待ち、ゴクリと唾を飲み込むラーゼン。
ディアブロは、醜悪な姿のエドマリス王を重鎮達に晒して、自分が敬愛するリムルに弓を引いた愚かしさを知らしめようと考えていた。
レイヒムはその場の空気に当てられ固まったままであった。
「私が見逃すのは一度だけです。その後の行動次第では、王の命どころかファルムス王国から生命の息吹が消え失せる事になるでしょう、ね」
その言葉はファルムス王国にとっての最後通達にも等しかった。
この言葉は――つまり、リムルの意に沿うなら良し、そうでなければ……。
ラーゼンも、レイヒムも、いまだに肉塊のまま箱詰めにされたエドマリス王までも、ディアブロの言葉を正しく理解した。
そう、この言葉通り
三人は愚か者ではあるが、馬鹿ではない。
今ここで、ディアブロに協力する事こそ、自分達が生き残る唯一の道なのは明白であった。
「無論ですとも! 何でも言って下され、私はどんな事でも協力させてもらいますぞ!」
レイヒムは跪き、ディアブロの靴を舐めんばかりに頭を下げ、媚びへつらう。
「私の忠誠は、貴方様に!」
ラーゼンの覚悟は決まった。
王が無事でも意味はない。
ただ、長年ファルムス王国を守護して来たラーゼンの
そして今、苦悩と絶望の中にいるエドマリス王も、それをい理解している。ラーゼンが、王である自分とファルムス王国を見限った、と。
そして、この選択は正しいのだろうとエドマリス王は思う。
魔王に逆らったら、国が滅ぶ。
エドマリス王も知っている、古い文献に残された〝番外魔王〟が滅ぼした二つの小国の伝承。
ならば、選ぶ選択肢は二つだけ。
魔王に恭順するか、抵抗を試みて滅ぼされるか、そのどちらしかない。
故にエドマリス王は――
「余はファルムス王国最後の王として、ディアブロ殿の望むように協力しましょうぞ――」
諦めと道理を悟りつつ、エドマリス王はそう宣言した。
ディアブロが、ラーゼン、レイヒム、エドマリスから
ユニークスキル『
結果、三人はディアブロに隷属する事になるのであった。
「御安心を。私に従うならば、悪いようにしませんよ。クフフッ」
ディアブロは嗤い、優しくそう囁く。
そして、ディアブロ達がファルムス王国に到着し、降ろされた箱が謁見の間に運び込まれた。
ファルムス王国は上や下への大騒ぎとなっていた。
無残な姿で帰還した王の姿に、重鎮達の顔は青褪めた顔で見る。
玉座の上に恭しく置かれた箱。
その中身は、肉汁が糸を引き悪臭を漂わせ、内臓をちぎってそのままくっつけた様な歪な、肉塊。
悍ましくも中央にはエドマリス王の顔が埋め込まれ、虚ろな目を時折キョロキョロと動かしていて、確かにそれは生きていた。
馬車から降ろされた箱を最初に見た近衛兵が、不敬にも叫び声を上げたが、それを責める者は誰もいなかった。
主の変わり果てた姿に、
絶叫を上げる者、泣き叫ぶ者、あまりの恐怖に小便を漏らしながら嘔吐する者、腰を抜かし這いずり回る者。
誰しもがそれを、王だとは思いたくはなかった……。
王が本物であるか確認をしたが、紛れもなく――
その肉塊は王であった。
「な、何をしておる! 早く、早く王をお助けするのじゃ!!」
一人の大臣が慌てたように叫び、ようやく皆が一斉に動き出す。
すぐに王宮に残っていた魔術師達が集められた。
魔術師達は、各々様々な回復魔法や、呪いを解除する魔法など、あらゆる魔法を試した。
更には、西方聖教会の高位神官まで呼び出し、回復魔法を試すも――
どのような手段を持っても、王を元の姿に戻す事は出来なかった。
「ショウゴよ! これは一体どうしたのじゃ!? 説明せよ!」
ラーゼンは黙したまま、今だ何も語らなかった。
レイヒムと並び立ち、ショウゴの姿をしたラーゼンはそれを見ながら、元同僚達に少しだけ同情した。
ディアブロに隷属した今、同僚を裏切る事に躊躇はないラーゼン。
全てはディアブロの命じるまま。
黙ってレイヒムと、この作業を見ているのも、全ては計画通り。
ラーゼンは、ディアブロの下僕として、この国をどうするつもりなのか説明を受け、自分が何を為すか正しく理解した。
ディアブロはこうも言った、「遅かれ早かれ、〝番外魔王〟の二人も
何がどうやってそうなるかは、ラーゼンにはわからなかったが、ディアブロが言うのならそうなのだろうと、それを心に留める。
そして、この国は魔王の遊び場となる。それも、国自体がオモチャとして。
だがしかし、魔王の思い描く計画をディアブロから聞いた時、ラーゼンは希望を感じていた。
ファルムスの地が今以上に繁栄する未来が、ラーゼンの脳裏に浮かんで視えたのだ。
その未来を実現する為ならば、古い現体制を崩すのもやむなし、そうラーゼンは考えてしまう。
だから、やる事は一つ、予定通りに事を進めるのみ。
「落ち着け、儂はラーゼンじゃ。王をお守りして、英雄殿と協力をして逃げ延びて来たのじゃよ」
「何!? 貴様は、いや貴殿はショウゴではないのか?」
「ショウゴの奴は……どう、いや、そう言う事でしたか」
「なるほどな、それにしても戸惑うわい。しかし、あのラーゼン殿が、生意気なショウゴの姿になるとはのう」
最初は皆戸惑いをみせたものの、ラーゼンが偉大な魔導師である事を思い出し、その場に入り者達は納得をする。
その上で、改めて皆からラーゼンに質問が飛ぶ。
貴族達が口々に、何故逃げおおせた? 我等が軍勢は敗北したのか? まさかおめおめと逃げ帰って来たわけではあるまいな? など、矢継ぎ早に捲し立てていく。
国を支える国家の重鎮達。
重鎮達の中にも、戦争を隠れ蓑にして私腹を肥やそうと考える狐も多い。
そんな彼等にとって、財を失う敗戦など到底受け入れられぬ事態であった。
「静まれ、静まれ、皆の者。先ずはラーゼン殿の話を聞こうではないか。さあ、ラーゼン殿」
場を鎮めたのはミュラー公爵であった。
これも予定通りの行動。
昨晩ディアブロが動き、ブルムンド王国の
状況は静かに、ディアブロの思い描いた通りに進んでいく……。
ラーゼンは「王を救う為に英雄ヨウムが魔物の主と交渉し、回復薬を持って帰る手筈となっている」
と、説明する。
それを聞いた大臣の一人が直ぐに門番まで伝令を走らせる。
これで、ヨウム一行はフリーパスで迎えられる手筈が整う。
それからファルムス軍に何が起きたのかと説明を始めていくが……。
説明を始めてすぐに、その場が騒然となってしまう。
そう――〝暴風竜復活〟と、そこに〝番外魔王〟の二人が現れたとの、一言で。
「ば、ば、馬鹿な」
「あの地に、邪竜が復活し、更に〝番外魔王〟の二人が現れただと!?」
「そ、そ、そんな……ヴェルドラは消滅したのではなかったのか!? ましてや、あの〝番外魔王〟の二人までがそこに来たなどと……」
「こうしてはおれん。すぐに聖教会に報告して、
「伝承は誠であったかー。邪猫共が、邪竜に付き従ってるというのはー!」
「終わりじゃあ! これが事実ならば、もう手立てはない。この国に残る兵だけでは、戦力が全く足りぬぞ!」
「その通りよ! すぐに騎士団を呼び戻すのじゃ!」
「左様。〝魔法通話〟が通じぬならば、フォルゲン将軍に伝令を走らせればよかろうぞ!」
「皆悠長な事を言っておる場合か! この事が民に知れ渡る前に脱出せねば、逃げる事も
阿鼻叫喚。
まさにそれに相応しく、恐怖で混乱する者、迎え撃とうと主張する者、民を見捨てて逃げ出そうと申し出る者などと、これが一国を支える重鎮達なのかと、目を覆うばかりの光景であった。
そんな者達を、ミュラー公爵が一喝して黙らせる。
「静まれい!! 騎士団が無事であっても同じであろうよ。それにヒッター殿、慌てたところでどうにもなるまいよ。一体、どこに逃げるというのだ? かの〝暴風竜〟と〝番外魔王〟達は、紛れもない
ミュラー公爵の言葉に、冷静さを取り戻す重鎮達。
訪れる静寂の間に、ラーゼンが説明を再開する。
ファルメナス軍の完全敗北という、〝暴風竜〟ヴェルドラの復活と、そこに駆け付けた〝番外魔王〟ツキハとコハクによって、全員が行方不明となった〝
ラーゼンの語る戦場での出来事に、その場にいる者達は皆言葉を失う。
余りにも
それは信じ難い話であり、皆がそう感じていた。
それでも現状を把握しようと、質問を行う者が出始める。
「ラ、ラーゼン殿。信じ難い事ですが、それは本当なのでしょうか? 本当に、全員が行方不明なのですか?」
「
質問をした貴族は、古い文献に残る〝暴風竜〟ヴェルドラと〝番外魔王〟ツキハとコハクの暴虐の限りを尽くした記実を思い出し、その場に力なく崩れ落ちた。
意を決して大臣達が、ラーゼンに質問をぶつけて来た。
「ラーゼン殿……。それで、生き残った者達はどうなっておるのです?」
「そ、そうじゃ。フォルゲン将軍は無事なのか? どうなのじゃ? 行方不明と言われたが、生き残りは何名なのじゃ?」
その質問にラーゼンは、首を横に振って答えた。
事実は、リムルの怒りに触れ全員死んでいる。
しかし、ディアブロとの打ち合わせで、それは隠して、全員が行方不明と説明するように命じられていたのだ。
「どういう意味なのじゃ?」
「ですから、全員行方不明なのですよ。ヴェルドラの復活により、あの地にいた騎士や魔物達は消え失せました。残る者も、そこに〝番外魔王〟ツキハとコハクが駆け付けたと同時に消え失せました。残ったのは、我等のみ……」
「そんな馬鹿な――っ!?」
「今一度お尋ねするが、生き残った者が逃げた訳ではなく、本当に消え失せたのですね?」
「いや、補給部隊は後方に配置されていたはず……。その者達は、無事であるのでしょう?」
ラーゼンは沈黙で答え、そっと目を伏せる。
その様子を見て、全員がラーゼンの説明を信じ込んだ。
本当に――騎士団は消滅したのだ、と。
一人の大臣がその場に泣き崩れた。
補給部隊の安否を尋ねた大臣で、彼は初陣となる息子をこの戦争に送り出していた。
息子を前線ではなく、安全な後方に配属するよう根回しまでしたのに、それが無駄になったのだ
だがしかし、このような悲劇はしょせん膨大な数の中で起きた一つの事例でしかない。
今回の行方不明者は、二万名。
それも帰って来る希望は、万に一つもない……既に死んでいるのだから。
誰もが皆、ヴェルドラの復活と、そこに駆け付けた〝番外魔王〟ツキハとコハクと関連付けて考えてしまっている。
つまりは、消えた者達はヴェルドラ復活の生贄になり、生き残った者体は駆け付けた〝番外魔王〟二人により、消滅させられたのだと、思い込まされる。
ヴェルドラとツキハとコハクへの熱い風評被害になるのだが、それはリムルの達の思惑通りであったのだ。
ディアブロは、ラーゼンを使って見事にファルムス王国の重鎮達の意識誘導をして見せたのだった。
丁度その時、まるでタイミングを見計らったの如く、玉座の間に靴音が響く。
ヨウム一行が到着したのであった。
参謀のミュウラン、護衛のグルーシス、
そして、最後に入って来たのは執事服を着こなすディアブロであり、その
普通、玉座の間には冒険者のように地位の低い者は入れない。
だが今回は、大臣の伝言により案内役が待機しており、ヨウム一行はスムーズに玉座の間まで来れたのだ。
「遅くなってスマナイな。だけど、何とかあの人の説得に成功したぜ」
ヨウムが代表して堂々とした声でラーゼンに声をかけたが、粗暴なところは直ってはいない。
貴族的な物腰など一朝一夕で身に付くはずもなく、それはそれで仕方のない事であった。
だが、貴族達にとってはその態度は無礼極まりない事であり、だからこそ反発する者が出て来る。
「何じゃ、貴様は! 平民風情が無礼であろう!」
王を回復させる為の薬をヨウム一行が運んで来る、そう聞かされてるにも関わらず大臣の一人が怒号を上げた。
ここは王城であり玉座の間、
だからこそ、大臣はヨウムの砕けた口調が許せなかったのだ。
それに内心慌てたのはラーゼンだった。
ディアブロの目を見て、怒りを買ってないかを確かめるラーゼン。
大臣に周知されていなかったというと、
とり急ぎ仲裁に入るラーゼンだった。
「お待ちください、カルロス卿。その者達こそ、我等を救ってくれた者。王をお助けできる唯一の手立てなのですぞ!」
「何ですと? ラーゼン殿達を助けた、と? 王国の守護者たるラーゼン殿の言葉とは、思えませぬな。一体どういう事なのですかな?」
やや不満そうに言うも、ラーゼンは数百年に渡って王国を守護して来た実績もあるので、ラーゼンの言葉を軽んじる訳にもいかず、貴族達は一旦矛を収める事にする。
そう彼等は、ラーゼン達がどのようにして助かったかを聞く事で、自分達の安全に繋がると打算を働かせたのであった。
それに答えようとラーゼンが口を開きかけたところに、横から別の声が割り込んで来た。
「それは私からお答えしましょう」
割り込んで来た声の主は、レイヒム大司教だった。
ラーゼンは心の内で助かった思いつつ、レイヒムと目配せし合う。
ディアブロに視線を向けると、笑みを浮かべ見守る姿勢だった。
ラーゼンは安堵し、続きはレイヒムに任せる事にする。
「おほん。それで、ラーゼン殿達はどのようにして助かったのですかな?」
「〝暴風竜〟ヴェルドラが復活し、〝番外魔王〟ツキハとコハクがそこに駆け付けたという話は、ラーゼン殿から説明を受けたようですね。そうあれは、血を血で洗う激しい戦いでした。数では我等が上回っていたのですが、地の利は魔物共にあったのです。思ってた以上に苦戦し、多大な犠牲が出ました……」
広間はしんと静まり返り、レイヒムの声だけが玉座の間に響き渡る。
「そして、戦場の混沌とした気配が、ヴェルドラ復活の鍵となったのです。戦場に突如として出現したヴェルドラと、そう時を置かずして現れた、〝番外魔王〟ツキハとコハクによって、敵味方関係なく犠牲が出たのです」
「儂は、その場に居たレイヒム殿と二人で王をお守りするので、精一杯でした」
自分には、為す術もなかったと強調するラーゼン。
更に続けるレイヒム。
「いかにも、その通りですぞ。私とラーゼン殿は後方の本陣にて、目の前で起きる惨劇に絶望しておりました。目の前に迫る死、全てを砕く偉大なる〝暴風竜〟と、全てを滅す雄偉なる〝番外魔王〟の二人を前に、我等は死を覚悟したのです。ですがその時、我等と〝暴風竜〟、〝番外魔王〟の二人の間に立ち塞がった者がおりましたのじゃ――」
ラーゼンはディアブロをチラリと見る。
ディアブロが満足そうに頷いているのを確認すると、小さくレイヒムと頷き合う。
「――その方こそが、魔物共の主であるリムル様だったのです」
「その通りです。儂もレイヒム殿も、死を覚悟しておった。しかし、魔物の主であるリムル様がヴェルドラ様とツキハ様、コハク様を説得して下さったのです」
ラーゼンの言った言葉に、一同は驚き
「説得ですと!? あのヴェルドラと会話が成り立ったと!? 何より〝番外魔王〟達が矛を収めるなど、どんな対価を支払ったのですか?」
「そもそも、邪竜ヴェルドラの前に立つというのも自殺行為じゃて。濃密な魔素を浴びると、大半の生物は死に絶えるのじゃ。邪竜ヴェルドラの傍にいて平気な魔物は、あの危険極まりない邪猫二体くらいじゃぞ!?」
「それを、一体どうやって、説得など……?」
騒ぎ立てる貴族達。
「皆様もご存じのはず。魔王リムル様は、ジュラの大森林の盟主だと」
「それは、勝手に自称してるだけであろう?」
大臣の一人がそう言った瞬間、ディアブロの目が細められ不快そうに眉を
それを目にしたラーゼンが、内心引き攣りながら慌てて、その大臣の言葉を
「自称などとはとんでもない。彼の御方は、ジュラの大森林の管理者である
ラーゼンは、リムルがドライアドを通じてヴェルドラとツキハ、コハクと交渉を行ったのだと説明した。
この言葉で更に説得力が増した。
森の管理者は、ヴェルドラが眠る地を守る力ある魔物として認知されている。
自由組合の定める等級でも、Aランク以上であり、推定で特A級に匹敵する危険な存在なのだ。
そんなドライアドが従うならば、リムルという魔王の力は相当なものだと判断できる。
ここにいる貴族達で、それを理解できない者はいない。
各々が上位の貴族であり、日々の情報収集を怠る者は誰一人としていないのだから。
「そうであったか……」
「敵に回したのは、失敗でありましたな」
自分達から魔物の国へ侵攻してしまったという事実が、貴族達に重く
「まずいですな。邪竜との交渉が可能な事は喜ばしいが、邪竜に剣を向けた事に対して邪猫共は、許してはくれぬのではないのか? それに、そのリムルとやらが我等と敵対しているというのは、非常にまずい、まず過ぎる……」
一人の大臣がそう呟き、他の重鎮達の顔からは血の気が抜け、青ざめていく。
リムルに仲裁を頼むどころではなく、下手をすれば激怒したツキハとコハクを
その時だ。
今まで無視されたような形になっていたヨウムが、広間の中央まで歩み出た。
そして、落ち着いた声で話し始めていく。
「ああ、皆さん。その点に付いては安心して欲しい。俺はな、
そこでまたしても、ヨウムの発言は
「おお! なるほどなるほど。では、その方が間に立って、我等の要望を伝えるのだ。よいな? 内容については追って沙汰する故、別室にて控えておれ」
先程ヨウムに怒鳴ったカルロス卿が、偉そうな態度でヨウムに言い放つ。
本当に身分差というのは厄介である。
英雄といえども、ヨウムは平民。
しかし、カルロス卿は伯爵位を有する高位貴族。
そうした身分意識に
通常であればその態度も問題はないが、今は状況が悪すぎた。
空気を読めないカルロス卿に、幾人かの貴族達が不快な目で見始めていた。
「おいおい、ちょっと待てって。そりゃあよう、普段ならあの人も気さくなんだが、今はな、違うぜ? その理由はあんた方が良く知ってるはずだろ?」
「何だと、貴様!?」
「あんたら、リムルさんの国に喧嘩吹っかけたろう? あれは、ガチでまずかった。あれでリムルさんの仲間に犠牲が出たもんだから、あの人、激怒してしまったんだわ」
「平民
ヨウムの発言は無視、尚且つ、尊大に言葉を吐き捨てる。
(チッ、ほんと、これだから貴族ってヤツは……)
内心で舌を打ちつつ表情は崩さず、落ち着いて静かに説明を続けるヨウム。
「いいか、先ずは俺の話をちゃんと聞け。あんたら使者も送らず、宣戦布告もせず、〝異世界人〟達を送り込んで好き勝手に暴れさせたらしいな? 俺はな、戦争の仲裁に出向いたんだが、それを聞かされて唖然としたぜ。それでもよ、俺もこのファルムス王国の生まれだ。祖国を滅ぼされるのは忍びないし、何とか怒りを静めて交渉をしてもらえないか頼み込んだんだよ。そこのラーゼンさんにも頼まれたしな。いいか、あんたらはリムルさん以外にも、盛大な怒りを買ってるんだからな――」
そこでヨウムは一旦説明を区切り、一呼吸置いてから説明を続けた。
「今にもな、殴り込んできそうな〝番外魔王〟ツキハ様とコハク様を抑えているのは、誰であろうリムルさんなんだぞ! もし、この二人が解き放たれたなら、この国は、半日と持たず
最後は、鬼気迫る表情で説明を終えたヨウム。
これは演技ではなく、ファルムス王国に来る前にヴェルドラから、ツキハとコハクが今までやって来た事を聞かされていたからだ。
特に最初の小国を滅ぼした経緯などを、それは事細かく聞かされ、ヨウムはそれに戦慄し、〝番外魔王〟二人の恐ろしさを身に刻み付ける事になったからである。
そして、ここで空気を読めぬ貴族が横暴に振舞うと、洒落では済まなくなりファルムス王国が本当に滅びる事になると、背後にいるディアブロの気配を感じ、ヨウムはそう考えた。
ヨウムは、ツキハとコハクの事を聞き、更にディアブロを見て、本物の悪を知った。
自分達が
真なる悪党とは、権力に媚びへつらう事は、断じてない。
ツキハとコハクの〝傭兵商会・ルヴナン〟での契約交渉は、相手が王だろうと高位貴族だろうと、対等な契約でなければ絶対に受けないし、利用したり尊大に出ようものなら――必ず報復が為される事になる。
それは、悲惨な結果をもたらして……。
そう、何者にも屈せず、その意思を貫くのだ。
今ディアブロが大人しくしているのは、リムルから受けた命令を忠実に守っているからであり、ヨウムが新王として立つ時の妨げにならないようにしてるだけ。
下手に貴族達を処断すれば禍根が残るし、口止めとして皆殺しにすれば、悪評が流れるのは避けらない。
理想的とするならば、反抗的な貴族達が自分達から挑んで来るという状況を作り出す事。
だからこそディアブロは、口を出さずに観察を続けているのだ。
だが、貴族達がディアブロの逆鱗に触れると、貴族達の命運は即座に消え失せるだろう。
ヨウムは、そう考えていた。
相談に乗ったミュウランや、グルーシスも同意見だった。
ラーゼンという強者を手玉に取れる程の実力者であれば、主戦力を失ったファルムス王国を滅ぼすなど、
そんな状況だからこそ、ヨウム達の方が貴族達よりも、より緊張して
ディアブロが人の命など、何とも思っていないのは明白。
そこに貴族だ平民だとかなどの違いは存在しない。
人の命など、等しく無価値。
エドマリス王の扱いをみれば、自明の理。
もし――魔王リムルを
だからラーゼンは、それを理解し、ヨウムの言葉に賛同をする。
「カルロス卿! 黙れ、控えるのじゃ!」
「なっ。ラーゼン殿は、平民風情の肩を持つのですかな?」
「黙らぬか! 事情も知らぬくせに出しゃばるではないわ!!」
凄まじい圧で、カルロス卿を一喝するラーゼン。
普段は冷静沈着なラーゼンが声を荒げる事は珍しく、その場にいる貴族達全員驚いて口を
「良いか、皆の者。ヨウム殿の言葉は事実じゃ。ショウゴ達三人は魔物達の幹部に倒された。して、全軍で蹂躙しようとすれば〝暴風竜〟と〝番外魔王〟の二人に阻まれ、我等の敗北は決定したのじゃよ。生き残ったのは、儂と、レイヒム殿、そしてエドマリス王の三名だけだった。その捕らわれた我等を、ヨウム殿が必死に交渉して、我等が解放される事になったのじゃ」
事前に取り決めた内容を話していくラーゼン。
疑いを抱く者は誰一人おらず、話は進んでいく。
「――つまり、王は戦場で呪いを受けたと? そして、そのような御姿になられてしまった、と」
「王が和睦を約束されたから、魔物の主は話し合いに応じる気になったというのか……」
「我等が大国ファルムスが、魔物に屈するじゃと!?」
「……どうしようもあるまい。卿は戦うつもりかね? あの〝暴風竜〟と〝番外魔王〟の二人を、敵に回す事になるのだぞ?」
「い、いや、それは……」
打てる手は既になし、主戦力は壊滅。
だが、
しかも、〝暴風竜〟と〝番外魔王〟の二人が、魔物の主の説得で動かない現状、正面切って
ここに、結論は出た。
「提案を受け入れようではないか、のう、皆の者」
ミュラー公爵の発言に大半の者が頷き、不満を抱く者もいたが、それを口にする者はいなかった。
こうして、ファルムス王国と
これが決定した時点で、ディアブロが動く。
「クフフフフ、懸命な判断です。それでは約束通り、この国の王の呪いを解呪して差し上げましょう」
そう言いながら、悠然と歩み出た。
「何者だ、貴様は!?」
「これは失礼しました。私の〝名〟は、ディアブロと申します。そして、偉大なる我が王リムル様の、忠実な
妖しく誇らしげに告げるディアブロ。
名を告げられた重鎮達は、戸惑いどうしていいかわからず、声を掛けるタイミングを失った。
その名乗りに顔を恐怖で
ラーゼンだけは知っている――その悪魔が〝名〟を持った意味を。
世の中には知らぬ方が幸せな事がある……。
ラーゼンは重々しく溜息を吐き、内心で無知なる者達を
すると、動くディアブロを警戒し、玉座の間の陰から一人一人を注視していた王室近衛騎士達が飛び出て来てディアブロの前に立ち塞がろうとする。
しかしディアブロは、そんな彼等を無視するように、玉座に安置された箱に近付いていく。
ディアブロを制止しようとするも、王室近衛騎士達の身体は硬直したように動かない。
王室近衛騎士達は、Aランクには及ばないもの、Bランク上位者であった。
そんな騎士達八十名が、ディアブロを前にして一歩も動けずにいたのだ。
襲い来る、恐怖。
騎士達は、その研ぎ澄まされた生存本能にて、ディアブロの危険性に気付いたのであった。
手を出せば――確実に死ぬ、と。
「それでいい。無駄に死にたくは、ないでしょう?」
そう満足そうに言いながら箱にまで近付き、歩を止めるディアブロ。
ディアブロは、懐から取り出した
すると、劇的な変化が表れ。
薬がかかると同時に、王の身体は元の壮健な姿へと戻っていった。
そして、ディアブロの目論見は成功したのだ。
医師や魔術師達が驚きの声を上げた。如何な手段を用いても回復させる事が出来なかった王を、あっという間に人の姿に戻したのだから。
「それは一体、何の薬ですか……?」
「
一人の貴族の問い掛けに、ディアブロは優しく返答する。
その効能は、身体の部位欠損すら完治すると言われ、
しかし、その製法は今では失われており、ドワーフ族がそれを再現しようと躍起になってると噂されていたが……。
それを量産できるならば、欲しがるものは後を絶たないだろう。
ディアブロは配下になってからの短期間で、リムルが回復薬の宣伝に力を入れている事をガビルなどから聞き、このような場でありながらも王を利用して、効果的な宣伝を行ったのだ。
短期間での情報収集能力の高さと、事を進める細やかさは見事の一言。
一切の妥協をしないディアブロは、敵に回せばこれほど恐ろしい事はないのだが……。
ラーゼンやレイヒムなどが、ディアブロが王城の者達を皆殺しにするのではと恐れていたが、ディアブロはそんな些末な事はしない。
それさえも計算に入れて、
まさに、恐怖と、慈悲――アメとムチである。
そうしながら、大臣や高位貴族といった国家の重鎮達の思考を誘導していくのだ。
誰もが見守る中、元の姿を取り戻したエドマリス王。
「御気分はいかがですか?」
ディアブロの問い掛けに、
「あ、ああ……助かった。感謝する」
そう答えたエドマリス王だが、半分は演技で半分は本音だった。
ディアブロのユニークスキル『
既に『
何一つ身に付けていないエドマリス王のところへ、慌てて
それを身に付け一息をつくエドマリス王に、視線で合図を送るディアブロ。
エドマリス王もそれを合図に、小さく頷く。
「さて、ファルムスの王、エドマリス王よ。我が王であらせられるリムル様より、伝言があります」
「聞こう、
ここで初めてエドマリス王が、魔物の国を国家として認めた。
これを
「では、申しますよ。これより二週間後にこの地にて、両国代表による和睦会議を行いたい。講和条約の締結に先立ち、我が国が貴国に突きつける条件は以下の通り――」
懐から羊皮紙を取り出したディアブロ。
――汝らに、三つの選択肢を与えよう――
その一文で始まる書状を読み上げていくディアブロ。
内容は、かなりえげつない内容であった。
一つ目の選択 王が退位し戦争賠償を行う事。
二つ目の選択
三つ目の選択 戦争を継続する事。
この三つ目は選択しであって選択肢ではない。
一つ目と二つ目が選べないなら、戦争を継続するというもの。
何故この三つ目が盛り込まれていたのか?
今や周辺国からは、この戦争行為に対しての賛同は得られず、ファルムス王国は危うい立場に置かれていると言えるからだ。
そうこれは、宣戦布告なしに戦争行為に及んだファルムス王国に対しての――
脅しである。
破滅を提示し、それを回避する為には多少の無茶を飲ませる為の……。
朗々と良く通る声でそれを読み上げるディアブロの顔は、愉悦に満ちていた。
ディアブロがそれを読み終えた瞬間、「何という、無茶だ……」という嘆くような大臣の呟きが漏れ出るも、ディアブロはそれを意に介さない。
「――以上となります。それでは二週間後までに、よりよい答えを用意しておいて下さい」
「ま、待って欲しい! それは余りにも、時間が足りないというものですぞ! せめて、一月、一月待って欲しい!――」
「黙りなさい。二週間もあれば十分でしょう」
「いや、しかしですな! これは宮廷会議だけでは決定しかねます。他の貴族達も召集して、ファルムス王国としての全体会議を通してですな――」
「黙れと言いましたよ? お前達の都合など、私には関係ないのですよ。いいですか? つまらない小細工を
一方的にそう言うとディアブロは、王や貴族達に背を向け、ヨウム達を残して一人その場をさった。
「――と、こんな感じで揺さぶりをかけておきました」
と、笑顔で報告を終えるディアブロ。
「あ! そうそう、賠償金って、幾ら位にしたんだ?」
「賠償金として、星金貨一万枚を要求しております」
「い!? 一万枚?」
聞いたリムは、あまりの金額に驚いてしまう。
現状での、貨幣の国家的な価値をリムルのいた世界に照らし合わせると――
概ね、銅貨一枚が百円。
銀貨一枚が一万円。
金貨一枚が百万円に相当する。
そして、星金貨一枚は、約一千万の価値になる。
となると、賠償金貨一万枚は、一兆円に相当するのだ。
「それ、吹っかけ過ぎじゃないのか?」
というリムルの言葉に対してディアブロは、問題はありませんと答え、どう転んでも選択肢は一つしかありませんと笑顔で言った。
最低でも星金貨千枚は回収出来ると断言した。
その根拠は、一枚の価値にして一千万から一億に相当する訳で、金貨での両替となると一苦労なのである。
だから、大口取引もなく死蔵となっている星金貨は、吐き出しても影響がないとディアブロは睨んでいた。
更に、ファルムス王国は責任を押し付ける第三者を作る手段を取るであろうと、付け加えた。
王立騎士団はリムルが壊滅させ、王家を守る者はもういない。
今貴族達と敵対すれば、エドマリス王にとっては死と同義。
貴族達の言いなりになるほか手はない、表向きは。
裏では、貴族達の策略でディアブロが言う、〝責任を押し付けられる第三者〟が出来上がると、言う。
貴族達は、エドマリス王を生贄にするつもりだ、と。
そして、エドマリス王はそれを読んで、対抗手段を考えるだろうと。
(すると、どうなる?)
ディアブロの説明を聞きながらリムルは思案すると――
《解。その為には、ヨウム一派を取り込み協力関係を維持するのが上策――》
『――そうする事で、エドマリス王は身の安全を図り、ディアブロの思惑通りになるのか。ヨウムは俺と繋がってるしな』
リムルの思案に『
「なるほど。エドマリス王は、ヨウムを味方に、つまりは俺達を味方に引き入れようと動くわけだな」
「流石はリムル様、恐れ入ります。ご明察です」
「って事は、時が来たら、ヨウム達に戦力を貸し出せばいいんだな?」
「はい、その通りです。下僕となったラーゼンより連絡が入る手筈となっております。その時は宜しくお願いします」
リムルの問いに、笑顔で答えるディアブロ。
「良し、任せるぞディアブロ。何かあったら、報告を頼む」
「ハッ! お任せ下さいませ、我が主よ!」
………………
…………
……
――(……こんな感じだったんだよなぁ)
お茶を一口飲み、何とはなしに執務室の窓から外を眺め、あの時ツキハとコハクがディアブロに言った言葉が、気に掛かっていたリムル。
リムルに説明を終えたディアブロに、コハクが尋ねた一言。
『ディアブロ。一つ聞いてもよろしおすか?』
『何でしょう、コハク?』
『あんさん、レイヒムとやらに影で護衛を付けてますのか?』
『護衛? そんなもの必要はありませんよ、コハク』
『さよかぁ。なら、よろしおす』
『何か、含みがある言い方ですね?』
質問をしたコハクの態度に少しイラッとしながらも、その言葉の真意を探るディアブロ。
そこにツキハが割って入る。
『あのさぁ、コハクが言ってる事はね、人間を舐めたらアカンよ、という事なんだよディアブロ』
『舐めたら? 既にあの国は崩壊寸前です。レイヒムを仮に始末しても、何の得にもならないでしょう。もう、こちらは種をまき終わったのですから』
『うーん。根本的に誰が得するとかじゃなくて、〝誰達〟が〝誰〟を利用して消えてもらいたいのか? そこなんだよねぇ。まだ確信はないんだけどね』
『誰、達? 誰ですそれは?』
意味深な言葉を言いながらもツキハは、自分の考えにはまだ確信は持っていなかった。
それにディアブロが問い返すと。
ツキハは黙って右手の平を上にして、ディアブロに差し出した。
それにディアブロは。
『何ですか、それは?』
訝し気にツキハに言うディアブロ。
『察しが悪いでぇ、ディアブロ。こっから先は、料金が発生するという事や』
『料金? ああ、情報料ですか』
『せやで、ディアブロ。情報料頂かな、こっから先は話せませんなぁ』
『相変わらずの守銭奴ですね、貴女達は』
『それが商売やさかいな、うちらの。ふふっ』
ディアブロの嫌味に、微笑で返すコハク。
結局この時はリムルもあまり気にもせずに、三人の話だけを聞いていただけだった。
それが今になって少しだけ気に掛かっていたが、ディアブロの説明でもファルムス王国に何が出来るでもなく、今はディアブロの提示した条件に対してどうするかで、国はてんやわんやだろうと考え、とりあえず、その気に掛かる事は隅に置いておく事にしたリムル。
だがしかし、このコハクとツキハの懸念は後に……。
そして、神聖法皇国ルベリオスでは――
コンコン
会議の間の扉をノックする音が、響き渡る。
「入りなさい」
短く許可を出すヒナタ。
そして、部屋の外で扉を守る騎士が、扉を開け入って来たのは。
ヒナタの予想もしない、人物がいた。
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