忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。76話です

 今年も「忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件」を
 どうぞよろしくお願い致します!





76話 テンペスト幹部会議+〝番外魔王〟《前編

 

 

 とりあえずの平穏を取り戻したリムル達は、国策の取り決めや、貿易品の拡大、インフラ整備など、多種多様な案件の会議を行っていた。

 

 その会議には、コハクとツキハも呼ばれていて参加していた。

 

 ドワーフ王国迄の街道は完成し、旅人や行商人の安全な旅が確立され、ブルムンド王国への街道も順調に完成に向けて工事が急ピッチで行われていた。

 

 そんな中、ベニマルが〝傭兵商会・ルヴナン〟の戦力の一部をテンペスト軍へ組み入れたいと申し出て来た。

 

 長方形の会議机の上座にリムルが座っており、コハクとツキハは真向かいの下座にいた。

 

 リムルが自分から右横に座ればと勧めたが、コハクが「うちらは、あくまでも契約の一環として来ただけやから、ここでよろしおす」と言い、下座に席を取ったのだ。

 

 この二人を会議に参加させるのは、凄まじく難儀した……。

 

 

 先ず、リムルが参加要請に傭兵商会・ルヴナンの支店へ赴いたのだが……。

 

 ものすごく嫌な顔で、「むり、いや、だめ、却下」と、ツキハに速攻で断られていた。

 

 魔王達の宴(ワルプルギス)の時、ギィからコハクとツキハを呼び出す苦労を滔々(とうとう)と聞かされたリムルは、この時に二人をこういう場に参加させる難しさを痛感したのであった。

 

 そして、それを聞き付けたディアブロが「私が説得しましょう」そう言うなり、リムルが止める前に『空間転移』で支店へと転移して――

 

 案の定ツキハと戦い(喧嘩)が勃発し、慌ててやって来たリムルが二人を止めて、何とかその場を収めた。

 

 更にそれを聞いたシオンが「私にお任せを!」と、光の如き速さで飛び出していくも――

 支店にいたコハクに拉致られ、「ええとこに来ましたな。ちょっと手伝いなはれ。うふふ」と何処(いずこ)へと連行されてしまった……。

 

 どこへ行ったのか、それは定かではないが……ほくほく顔で帰って来たシオンを見て、リムルが頭を抱えたのは言うまでもない。

 

 

 そして、テンペストの秘密兵器――

 

 シュナが立ち上がる。

 

 まず、眷属の(おさ)イチコのところへ行き、事の経緯を細かく説明し、策を、もとい――

 説得の方法を二人で探る。

 

 イチコ(いわ)く、攻め落とすのはツキハ様と、シュナに告げる。

 難攻不落のツキハ様を落とせばコハク様は、自然とついて来る、と。

 

 シュナは話し合いの中、ある事に気付く。

 そう、ツキハの一番好むものに。

 

  そうしてイチコと一緒に支店を訪れたシュナは、ツキハに会議に参加するよう要請するが、やはり「いや」と、この一言であっさり断られた。

 

 だがしかし、そこはシュナ。

 傭兵商会・ルヴナンが交わした契約の内容を隅から隅まで頭に叩き込んでいるシュナは、この会議に参加する必要性、そしてテンペストの内部事情を細かく知る場になると、ほんわり優しくツキハに説明する。

 

 それでも、「めんどくさい。だから、ダメ!」と言い放つ、が。

 

『会議に参加なさると、ゲストの御二人には――つい先日出来上がった試作品の日本酒というものを、プレゼントしますよ』 

 

 と、にこやかにシュナがツキハに言った。

 

 すると――

 

 ツキハの猫耳がピクリと跳ね、尻尾がピンと真上に立つ。

 

『日ノ本の酒!? マジなの? くれるの?』

 

 〝食う 飲む 遊ぶ(戦う)〟が三原則であるツキハの目が、キュンと猫目になり光り輝く。

 

 テンペストでは、リムル主導でここ最近米の再現に成功していて、まだ大量生産とはいかないが、白米と魔素で作った黒米が取れるようになっていたのだ。

 

 何故この世界でリムルが元いた世界の米が取れるのか? それは、シオンのユニークスキル『料理人』に含まれる『確定結果』で結果を改竄(かいざん)し、こちらにある米に似た種を、白米に品種改良したのである。

 

 その米で作った酒であった。

 

『はい。樽で御一つずつプレゼント致します♪』

『いく!!』

 

 即落ちである。

 

 美味い酒に目が無いツキハ、それが元居た世界の酒となれば、(うなづ)かない訳がない。

 イチコから聞いたツキハとコハクの好みそうな事を、細かく分析し、シュナが導き出したツキハ攻略の策は見事的中し、今現在二人は会議に参加しているのだ。

 

 

「と、いう具合に、傭兵商会・ルヴナンの戦力の一部を組み込みたいのですが、どうですかコハク様?」

 

 今あるテンペスト軍に、傭兵商会・ルヴナンを遊撃部隊として組み込みたいとベニマルが進言する。

 これはリムルも承諾済であり、幹部達も賛成していた。

 

「うーん、うちらの一部戦力どすかぁ……。でもな、あんさんらとこには、ベニマル直属親衛隊・紅炎衆(クレナイ)、ホブゴブリンの緑色軍団(グリーンナンバーズ)、ゲルド率いる黄色軍団(イエローナンバーズ)、隊長ゴブタの狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)、ガビル率いる飛竜衆(ヒリュウ)、シオンの紫克衆(ヨミガエリ)と、既に充実した部隊がありますやないか。まあ、確かにうちらはテンペストの非常事態にはルヴナンの戦力は出しますけどな。しかしな、あちこちの契約先に傭兵を派遣してますさかい、そんなに常駐させれる部隊はありまへんで?」

「ええ、それはわかっています。現時点で我が軍には、隠密性が高く大規模に運用できる部隊はありません。いきなりの襲撃に備えて、即動ける部隊を設立したいのです」

 

 そこまで言うとベニマルはコハクを見る。

 

 コハクは会議机の上に置いた、右手人差し指で机の上をゆっくりトントンと叩きながらツキハに視線を移すと。

 

 大樽で貰った日本酒を既に〝酒樽君〟に入れていて、会議中にクピクピ飲んでいた。

 参加はしているが、まるで発言をする気は無く、コハクに丸投げ中のツキハである。

 

 コハクの右眉がピクンと跳ねあがり、(このスカタンは!)というように、右隣に座るツキハにゲンコツを落としたい衝動に駆られていた、が。

 

 とりあえずベニマルに、どんな部隊がいるのか? 部隊規模はどうするのか? そんな議論を始めていった。

 

 議論が進む中、コハクがある一点を話す。 

 

 「それよりもやベニマル。うちらの傭兵商会・ルヴナンの部隊をあんさんところの軍に一部編入すると、西側諸国に別の意味で警戒されるで?」

「え? それはどういう事です? 傭兵商会・ルヴナンは人とも契約は古くから交わして来ているのでしょう?」

「せやで。でもな、傭兵商会・ルヴナンの悪名が高いのも、事実なんや。人間とは古くから色々やらかしてますからな、うちらは。うふふ」

 

 どこか楽しそうに薄い笑いを浮かべ言うコハク。

 

 コハクが、他国に必要以上に警戒されるのは不味(まず)いんと違うか? と、ベニマルに言い。

 それを聞いたベニマルは、どうしたものかと考え込んでしまう。

 

 そこへ。

 

主様(マスター)主様(マスター)が元いた世界の記憶に、外人部隊というものがあります。特に有名なものがフランスという国の外人部隊であり、国籍人種を問わず選抜試験を合格した者が採用されるシステム。これをテンペストに設立し、表向きはテンペストの管轄下でありながら、裏で管理運営は傭兵商会・ルヴナンに任せるというシステムにすれば、秘密裏に傭兵商会・ルヴナンの傭兵も、個体名ベニマルが言う通り、テンペスト軍に組み入れられるかと。仮に部隊の実態が露呈しても、ルヴナンとの契約の一環であるとつっぱねれば問題ありません。表向きはテンペスト人魔傭兵部隊なのですから》

『そうかぁ~。外人部隊ねぇ、なるほどな。外人ならぬ人魔傭兵部隊も面白いか……。表向きはテンペスト人魔部隊。その実態は、正規軍ではない、ルヴナン傭兵が入り混じる人魔傭兵部隊にすれば、部隊としてのフッワークも軽くなるかもな。もともと傭兵商会・ルヴナンは、人、魔人、獣人などの傭兵がいると二人が言ってたしな。よし――』

 

 『智慧之王(ラファエル)』から告げられた事にリムルは、これなら西側諸国にこれ以上の警戒心を与える事はないだろうと考える。

 

 問題は、契約以外で傭兵商会・ルヴナンが、テンペスト軍に組み込まれる事であり、そのカモフラージュとしては最適であり、更に独立遊撃部隊として活用できると、そう結論を出した。

 

 議論を交わすコハクとベニマルの間にリムルが割り込んだ。

 

「あー、議論中にすまない」

「なんおす?」

「リムル様?」

「ちょっと、俺の考えた案があるんだが、いいか?」

「かまいまへん」

「はい、リムル様」

 

 リムルの提案に耳を傾けるコハクとベニマル、そしてその場にいる幹部達。

 ツキハは、シュナにおつまみを所望していた。

 

 それをチラリと見ながら、(ほんとこういうの嫌いなんだな、ツキハは。ククッ)と、一瞬苦笑いを浮かべ、自分の案を切り出していく。

 

「ベニマルの意見もそうだが、コハクの言うリスクも考慮してだな、正規軍とは別に人魔部隊というものを作ろうと思う」

「人魔部隊、ですか?」

 

 ベニマルが、それは何ですか? というようにリムルに問う。

 

「人と、魔物の混成傭兵部隊だよ。国籍、人種は問わない。無論、魔物でもOkだ。これはテンペストに有事が合った際に正規軍より先に動き、正規軍が動くまでの時間稼ぎをする部隊。表向きはテンペストの管理だが、裏では傭兵商会・ルヴナンに、この部隊の管理運営を任せたい。どうだ、コハク?」

 

 そう説明を終えたリムルは、コハクに返答を求めた。

 

 そして、返答は意外にも――

 

「ほぉー。あたし等と同じ傭兵部隊を作ると? まあ、あたし達は人類と仲良しこよしをやるつもりはないんだけどぉ。もちろん人材募集をかける時に生じるリスクは、入ってるんだよね?」

 

 酒樽君から酒を飲んでいたツキハが、ポテチをパリパリと食べながら口を開いて来た。

 リムルの求めに問いで返したツキハに、リムルが答える。

 

「ああ、もちろん入っているさ。その為の傭兵商会・ルヴナンなんだよ」

「ほぉほぉ。傭兵商会・ルヴナンに諜報員の洗い出しをやれと言うんだね?」

「そうだ。ソウエイでもいいが、諜報活動に関しての実績は、お前達の方が遥かに長い。何てったって、千年以上の長きに渡ってそれをやってきてるんだからな。ソウエイも優秀だが、こと人間に関しては、まだまだ知らなければいけない事が沢山ある。その点、お前達ならすぐにでも対応できるんじゃないか?」

 

 そうリムルはツキハに言って、ニヤリと軽く口元に笑みを浮かべる。

 

「ふーん、そこまで考えてるのかぁ。まぁ、人と魔人、獣人などがあたし等のところで傭兵などやってるから、やれと言われればすぐにでもやれるよ。でも――」

「でも?」

 

 ツキハが一旦言葉を区切る。

 

「傭兵商会・ルヴナンが、その人魔部隊の裏にいるというのが露呈した時の対策は、考えているの?」

「ああ、それは考えてあるよ。どうせ有事が起こった時に周辺諸国から勘繰られるだろうけど、契約内だと押し通すさ」

 

 リムルはツキハに言いながら肩を(すく)めた。

 

「そう。なら、わかったよ。その人魔部隊の運営管理は、傭兵商会・ルヴナンが請け負うよ。コハク、細かいところの打ち合わせは、頼むね」

「へぇ、任せなはれ(ほんまに遊んでるかと思えば、的を得た事を()うのは相変わらずどすなぁ。ふふふ)」

 

 ツキハはリムルの提案を受け入れ、コハクに後の事は任すと言い、酒樽君からクピクピと上手そうに酒を喉に流し込む。それをコハクは、微笑みながら見ていた。

 

「そうだ、部隊名とか考えないとな。部隊名はだなぁ……うーん……デルタは、安直か……。そうだなぁ……お転婆娘達が率いる部隊、ルードネス(お転婆)とかは、どうだ? 俺の元いた世界でお転婆を、ルードネスと言う単語があるんだよ」

「お転婆? あたしとコハクが? なにそれ、面白いこと言うねぇ。うくくっ」

「そうなんだが、嫌か?」

「うふふ。うちらがお転婆娘どすか。ええで、それかましまへんえ、リムル」

「だねぇ。あたしもそれでいいよ」

「よし、ベニマル。人魔部隊を正規軍とは別の枠組みに組み入れる。後の細かい打ち合わせはお前に任す」

「はっ! リムル様」

 

 こうしてこの件は、傭兵商会・ルヴナンが運営管理をすることに決まり、正規軍の命令系統とは別に位置する事となる。

 そして、人魔部隊の指揮権はツキハとコハクにあるが、テンペスト正規軍が戦地合流した際はベニマルの指揮下に入ると取り決めが行われた。

 

 ここにテンペスト軍とは一線を(かく)する、人魔部隊・ルードネスの発足となったのだ。

 

 

 そこで一旦短い休憩を挟み、会議の続きを始める。

 

 次に報告に上がったのは、リムルが魔王となった事でジュラの大森林全域がリムルの領地なり、国境線が広がった事。

 

 そうリムルは、ジュラの大森林にある資源を全て手中に収めた事になる。

 今までは、あくまでも樹妖精(ドライアド)が築き上げた地盤のみがリムルの領地であった。

 特に大森林に流れるアメルド大河の東側は無法地帯だったのが、今やリムルの許可なしではそこにある資源すらも手を付けられない事態になっていた。

 

 川向うに住む部族にとっては死活問題であり、至急盟主に挨拶をしたいと面会の許可を魔国連邦(テンペスト)に願い出て来ていたのだ。

 

 ガビルの父親からも挨拶の申し出が入っていて、そこでリムルは―― 

 

「なあ、思ったんだけどさ。どうせなら大々的に俺が魔王になった事を宣伝した方がよくないか? バラバラに押しかけられるより、この街のお披露目も兼ねた方が楽だろ?」

「と、言いますと?」

 

 リグルドが戸惑うようにリムルに尋ねる。

 

 それにリムルは、その閃いたアイデアを皆に説明していく。

 

 一つ目は、魔国連邦の首都であるこの街は、今や町から街へと発展して、ジュラの大森林に住まう魔物間では知名度が加速度的に高まりつつあるという事。

 

 その発展に伴い人手も足りなくなってきている現状、そろそろ街の住民を増やす時期に来たとリムルは言う。

 

 更に、今いる獣人達は技術を取得し、いずれはカリオンの下へと帰って行く。

 その穴埋めも考えなければいけない。

 新しく技術やその他諸々の教育を施すなら、纏めてやった方が効率的だろうと。

 

 今や、食糧事情も改善され順調に生産力も上がって来ている。

 街での住民受け入れも余裕が出来た。

 

 そして、新しく発足した人魔部隊・ルードネスに志願する他国の人間や魔物で増える事は確実だと。

 

 既にツキハとコハクの眷属達は、ここ魔国連邦(テンペスト)に移住して来ていた。

 リムルの許可の下、一般居住区に住んでいるが、一部の者はキャットタワーを本宅にしている眷属もいる。

 幹部用居住区に住んでもいいとリムルが言ったが、イチコ以下他の眷属達は、自分達はあくまでもテンペストに協力する者なのでと、丁重にその申し出を辞退していた。

 

 つまりは、今のリムル達の現状は人手が足りない、この一言に尽きるのだ。

 だからこそ、ここで一気にお披露目をして住民獲得を目指す。

 

 リムルに挨拶に来るならば、そのついでにこの街を見てもらえる。そうすれば、この街に移住を考える魔物もいるのではないかと、リムルは力説をした。

 

 皆が真剣にリムルの説明に耳を傾ける。

 

「それにさ、最近ずっと緊張の連続だったろ? 新しく〝番外魔王〟ツキハとコハク、それに眷属達も仲間となった事だし。たまには息抜きもしたいだろ? だからさ、皆でお祭りをしようぜ! って話だよ。挨拶に来させる時期を決めて、街をあげて盛大に歓迎しようじゃないか!」

 

 リムルがそう言い、どうだ? と皆を見回していく。

 

「お祭りか……いいなそれ! 美味い食い物! 美味い酒!」

 

 まずツキハが食い付いた。

 

「祭りどすか。ええ稼ぎになりますなぁ。ふふふ」

 

 コハクも食い付いて来た。

 

「素晴らしい、とても素晴らしい案ですぞ!」 

 

 リグルドが席を立ち声を上げる。

 

「やりましょう! 是非とも盛大に!!」

 

 シオンも立ち上がり拳を握る。

 

 続々と皆が「やろう!」「楽しみです!」「すぐに準備にはいらねば」など、皆の瞳が爛々(らんらん)と輝き始めた。

 

「どうせ俺のお披露目も兼ねるんだ。盛大にやろうぜ!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 満場一致で祭り開催は決まった。

 

(さて、予算かぁ。まあ気にしてもしょうがない。リグルドが何とかするさ。最悪ツキハとコハクに資金を借りればいいだろう。『智慧之王(ラファエル)』さんの推測じゃ、とんでもない資金力をもってるらしいからな。まあでも、今の俺達はクレイマンから接収した資金があるから大丈夫だろう)

 

 そんなこんなで、魔国連邦(テンペスト)主催による大規模な祭りの開催をする事になったのだ。

 リムルは祭りの細かい検討は後でする事にして、この議題を終えた。

 

 

 ここで区切りがいいのでリムルは、休憩を兼ねた昼食の時間とし、ハルナ達がワゴンに乗せた昼食を運んできて配り始める。

 

 

 昼食が行き渡り、和やかな時間が会議室を包んでいく。

 

 ……………… 

 

 …………

 

 ……

 

 

 昼食も終わり、会議再開が再開された。

 

 リグルドからの報告が始まる。

 

 ()ず、取引相手の商人が増えたと言い、他の国家の動きは今のところ目立った報告はないと告げた。

 

 更にここに来て、魔導王朝サリオンの天帝であるエルメシア・エル・リュ・サリオン自らが、魔国連邦との国交樹立を宣言したと、リグルドから報告が上がる。

 

(ああ、これ『早く街道整備しろよ』と言う副音声が聞こえて来そうだな、ククッ。でも、俺達への強力な援護射撃にはなるな。本当に心強い限りだよ)

 

 リムルがそう思った通り、この宣言が各国首脳に魔法で伝達され、その宣言文に多くの国が頭を悩ませる事態に陥っていた。

 

 この素早い宣言には、ツキハとコハクが天帝に秘密裏に上げた報告書が後押ししたのもあった。

 

 その報告書の末文にはコハクの文字で、『魔国連邦(テンペスト)と組んで損はなし。むしろ、早よ国交樹立しなはれ!』と、記されていたのだ。

 

 とにもかくも、リグルドはフューズやガゼル王とのやり取りで聞いたとの事だった。

 

 

 次にソウエイからの報告が上がる。

 

 ソウエイは色々な調査を任されているが、ツキハとコハクが移住してからは、周辺諸国の調査などは傭兵商会・ルヴナンと分担して行っていた。

 

 特に裏社会の情報などは、傭兵商会・ルヴナンが提供する裏情報に目を見張るものがあり、いくらソウエイといえども、知り得る事が困難な情報が多数存在していた。

 

 どうやってその情報を得たのかソウエイはツキハとコハクに尋ねたが、流石にそれは教えられないと言われた。

 

 そんな事もあり、傭兵商会・ルヴナンから情報を買いつつも、場合によっては協力調査という名目でツキハとコハクの眷属達と合同調査をする事もあったのだ。

 

 その報告の一つで、街道工事に伴う事で周辺に住む魔物の集落がないか、また工事を行っても問題がないかなどの事を話していく。

 

 この事前調査については、リムルが特に念入りに行うよう指示していた。後のトラブルを防ぐ為に。

 

 リムルは魔王になってからは、いくら自分が楽しく暮らせる国を作りたいからといって、持っている力を行使して、反対する者を力で抑え込むといった手段は取らない様に、自分に(いまし)めていた。 

 

 共存共栄がリムルの理想であり、人も魔物も等しく平等なのである。

 

「街道工事計画のルート上、その周辺に敵対魔物は確認出来ませんでした。近隣の集落の魔物は、リムル様の計画を説明すれば、快く街道工事計画に同意を得ております」

「おお、そうか。それは良かった。なら、ゲルドの手が空く前に測量その他を――」

「――お待ちください、リムル様」

「ん? どうしたソウエイ」

「一つ問題が御座います。ジュラの大森林はリムル様の管轄ですが、その境界にはクシャ山脈があります――」

「ああ、長鼻族(テング)の隠れ里どすな」

 

 ソウエイの発言にコハクが言葉を付け加える。

 

 中央都市リムルから南西方面にあるシス湖に連なる山脈地帯。

 そこにはハイオークも移住した山々で、そこがクシャ山脈なのであった。

 

「――はい。コハク様の言う通りで、これは地元の民からの情報です」

「そうか。コハク、そのテングは知っているのか?」

「詳しくは知りまへんな。商いをあそことはした事がないんや。でもな、テングは中々の戦闘民族なんやで」

「そうです。温厚な民でもありますが、その本質は戦闘民族なのです。元魔王のフレイでさえ、彼等と直接事を構えるのを避けていたそうです。ですので、一度は声をかけておいた方が宜しいかと――」

 

 ソウエイは、リムルの判断を仰がなければいけない事に申し訳なそうにしていたが、リムルは違った。

 クシャ山脈はジュラの大森林から外れた領土外、そしてフレイの支配領地からも外れた、完全に独立した土地となっている。

 

 テングの土地に無断で立ち入れば、何らかの軋轢が生じ争いに発展するかも知れない。

 その行為を侵略と取るかも知れない。

 だから、ソウエイの行動は適切なのであったのだ。

 深く考えずに突っ走らず、慎重に行動する。

 

 この一連の行動は、リムルの中でソウエイに対する評価が高まったのであった。

 

「そうだな。じゃあ、俺が――」

「リムル様お待ちを。それでしたら、俺が行って来ますよ」

 

 リムルがさっと行って話を済ませて来ようとしたところへ、ベニマルが待ったをかけた。

 

 魔王が軽々しく出向くべきではないと言い、かえって警戒させてしまう危険があるとベニマルが言う。

 確かにその通りだとベニマルに任せると言おうとした時――

 

「お兄様、最近アルビス殿と仲が宜しいようですね。まさかとは思いますが、逢引きがしたいとかそのような理由ではないですよね?」

 

 シュナの言葉にリムルが超速反応する。

 

「ほう。どういう事かな、ベニマル君?(本当だとしたら、これは由々しき事態ですよ!)」

「誤解ですよリムル様。シュナよ、馬鹿な事を言うな。いいな」

 

 平然とシュナの言葉を否定するベニマル。

 その態度は堂々として、どこをみても嘘など吐いてるようには見えない。

 

 だがしかし、そのベニマルに平然と爆弾を投げつけるおバカがいた――

 

「違うニャ。ベニマルよりも、アルビスの方がメロメロなのニャ! にゃははははは」

 

 いきなりベニマルの後ろに現れた、サンコであった。

 

「うお!? さ、サンコ、いつからそこにいたんだ!?」

 

 そして、サンコが言い放った言葉にベニマルは不覚にも動揺してしまう。 

 

「ニャ? ツキハ様とコハク様の護衛に付くのは当たり前ニャよ?」

 

 いつもの如く幻隠で気配を偽り隠し、『空間迷彩』でずっとこの会議室にいたのだ。 

 

 この眷属達による不意の出現はリムル以下皆も慣れてはきていたが、それでも驚きはするのである。

 因みにリムルは『智慧之王(ラファエル)』から、眷属が一人来ていると告げられていた。

 

「護衛か。ま、そうだな、護衛はしっかりとやらないとな。それよりも、不確かな事を口にするもんじゃないぞサンコ」

「ニャ~? 不確かなこと? 違うニャ。アチシも女だからわかるニャよ。アルビスはベニマルのことをスキスキなのニャ!」

「お、おい!! (う!? シュナの笑顔が……)」

「ブッ……うははははは。サンコおもろ、あはははは」

 

 十二才位の少女体型のサンコが腰に両手を当て尻尾をぶんぶん左右に振り、無い胸をグンと張りながら、にこやかに言う。

 ツキハが腹を抱えて笑っていたが、ベニマルは敢えてそれを見ない事にした。

 それにベニマルは、慌ててサンコを止めようとするが、シュナの笑顔が凄まじく圧を放っていたので動けずにいた。

 

 そんなベニマルに追い打ちが放たれる。

 

「御安心をリムル様。ベニマルがいなくとも、問題ありません。リムル様には、私がついております!」

「そうニャ、ベニマル。シオンに任せて往生するニャ!」

「はあ? 何を言いだすんだ、シオン? それにサンコ、往生とか意味わからんぞ?」

「フッ、アルビスのメロメロスキスキ策に(はま)り、この国を去る気なのでしょう? 何処へなりとも、去るがいい!」

「とっとと去るがいいニャ! あ、ルヴナンに来るかニャ? お手当はいいニャよ?」

「おいシオン、どういう解釈をしたらそんな話になるんだ!? それとサンコ、悪乗りはやめろ!」

 

 シオンがまたもや意味不明な事を言い出し、それにサンコが悪乗りする悪循環。

 ベニマルは青筋を立てつつ、シオンに慌てて文句を言い、サンコを叱りつける。

 

(いやいや、俺も彼女がいないからさぁ、ちょっぴり嫉妬したけど。ベニマルが俺達を置いて去っていくなんて思いもしなかったわ。シオンの発想には呆れるけど、サンコの悪乗りもタイミングがいいというか、なんというか。まあ、あれだわなぁ)

 

 そんな事を思いながらリムルは。

 

「おいシオン。流石にそれはないよ」

「そうだぞシオン、サンコ。リムル様、俺を信じて下さるのですね!」

「当たり前だろ。お前は俺の頼るべき片腕だしな。信じるも信じないもないよ」

 

 ベニマルにそう言いリムルは、収拾がつかなくなる前にこの件を片付ける事にした。

 

「まあいいや。これ以上話してもシオンが馬鹿な勘違いをして、それにサンコが悪乗りしそうだし、この件はベニマルに任せるよ!」

「はい、承知致しました! リムル様」

 

 疲れた顔ながら力強く答えるベニマル。

 

 そして、後ろを振り返るとサンコはいなかった。

 いつの間にかツキハのところにサンコはいて、そのサンコにツキハが親指を立てながら「ナイス、ワルノリ」と言い、サンコがニヤリと笑みを浮かべ親指を立てていたの見てベニマルは……。

 

(あぁ……絶対ツキハ様の影響が大きいよな、アレ。猫は自由か、自由過ぎんだろ主従揃って!)

 

 と、内心突っ込みを入れ、どっと疲れが出たベニマルなのであった。

 

 

 そんなベニマルを置きながら会議は、後半へと入っていく。

 

 

 





 この作品を読んで頂き有り難う御座います!

 次回、テンペスト幹部会議+〝番外魔王〟(後編)を、よろしくお願いします!






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