忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
今回は閑話になります。
それは、遠い遠い、遥か昔の出来事。
〝星竜〟ヴェルダナーヴァが顕在していた時代の、世界の記憶。
チリリッ チリッ チリリリリリ チリッ
セレーネ 出来たぞ 血肉を喰らい 魂をも喰らい 鍛え上げられていく お前の魔剣が
スーキヌム ついに出来たのね フフフ これで また挑める 〝星竜〟ヴェルダナーヴァ様に
俺達の 飽くなき闘争本能を 満足させてくれるのは 〝星竜〟ヴェルダナーヴァ様のみ
ええ そうね 私達の 純粋で凶悪な闘争本能がもたらす この飢餓にも似た 虚ろな心を
満たしてくれるのは あの御方のみ
もう何度死んで 復活したのでしょうね……私達……
セレーネ…… 俺達は死ねぬ 何をしようとも 復活してしまう
悲しいわ この星を傷つける事は 私の望みではないのに……
それは 俺も同じだ セレーネ
この抑えきれない凶悪な闘争本能さえ 無くなれば 貴方とも 平穏に暮らせるのかしら?
俺の血も肉も魂も 全てが お前の物だ 俺の愛するセレーネ
だから どこにいようと どんな世界でも 俺の愛は変わらない
ありがとう スーキヌム
私も 貴方を愛している そして 貴方と共に 滅びたい
ああ この魔剣ならば ヴェルダナーヴァ様も 本気を出して 俺達を 殺してくれるだろう
俺の魂と お前の魂を 糧に 打った 魔剣だ
星を傷つける事になるかも知れないが 俺達の悲願の為には やむを得ないさ
俺達を滅する事が出来る者は ヴェルダナーヴァ様だけなのだから
さあ 魔剣を鍛え上げる為 強い魔物を狩り 力を蓄えよう セレーネ
そうね 今度こそ 終わりにしましょう
そして――
共に滅びの道を……
ああ共に 滅びの道を……
チリリリリリリッ チリリッ チリッ チリッ チチチチ チリッ
………………
…………
……
「うがっ……あぁ、ん?……夢? なんで? ほえ?」
自室で寝ていたツキハが、訳の分からない記憶? 夢とも付かない物をいきなり見て、
(なんだ、アレ? あたしは、あんな記憶なんかないし……あの男、と女は……誰だ? えーと名前言っていたな。名前、名前……? 思い出さないというか、名前が出てこないじゃん! う~ん、ま、いっか。大した事じゃないんだろう。多分、ヴェルドラとマンガを読み過ぎたから、その影響かな。起きるか、ん!?)
心の内であれこれ考えるも、大した事じゃないと先程まで見た夢みたいなものを放り投げる。
そして、起きようとすると、自分が横からガッチリ抱きしめられている事に気付く。
「あ゛……?」
…………
……
仰向けになったまま、左横を見て両眉が吊り上がるツキハ。
「おい、ド変態。なに全裸になってあたしを抱き枕代わりにしてるんだ? オメエの部屋は、二階だろ?」
ツキハが静かに怒気を最大限に込めて、吐き捨てる。
「う、う~~~~ん。起きたんどすかぁ……おはようさんどす、ツ・キ・ハ――」
カプッ♪
「にょわあああああああああああああっ!!!」
起き抜けのコハクに耳たぶを噛まれ、ツキハの大絶叫が部屋の外まで響き渡った。
その絶叫にキャットタワーで寝ていた眷属達が、何事かと小屋から皆が顔を出し、ツキハとコハクの家を一斉に見る。
そして。
「「「「「またか……」」」」」
と、ボソリと呟き、ゴソゴソと顔を引っ込めた。
「アンタねぇ……死ね」
「うふっ!?――」
低い声で、コハクに言い放つツキハ。
〝コハク撃退用雷遁・
最大電撃発動。
バチチチッ!
激しい電撃を撒き散らすツキハの尻尾の先端が、コハクの頭にコツンと当てられる。
バシッ! バリリリリリッ!
「きゃうん!!」
凄まじい音を立てながら、電撃の網がコハクの身体を覆った。
電撃に焼かれたコハクの身体がプスプスと白い煙を上げる。
むくりと上半身を起こすとツキハは、『重力操作』で右手の障子を開け、縁側の雨戸も同時に開けると、パンパンッと小気味よい音を立てて開いた戸から、外の朝日が目に飛び込んで来た。
無言で左手でコハクの首根っこを掴むとツキハは――
勢いよく外に投げ捨てる。
ズズン! 重々しい轟音を立てながら地面を抉り飛ぶ全裸のコハク。
二十メートルもの直線をまるでモグラが地面を掘り進んだように地面を抉り転げ回りながら、キャットタワーの近くで止まり、降り注ぐ土の中に埋まっていた。
その衝撃でキャットタワーが揺れ、寝ぼけた〝忍魔猫〟が数匹――
「「「「「――ニャア!?」」」」」
バタバタと下に落ちて来ていた。
「はあぁ。風呂行こ」
コハクを外に投げ捨てたツキハは、しょうもなというような顔で呟き、ルヴナン敷地内にある露天風呂温泉、〝ネコ湯〟に向かう。
露天風呂形式のこの浴場は、コハクの結界呪符により、外からは中が見えないようになっていた。
外からは、壁が浴場全体を覆ってるように見えるのだ。〝幻想領域〟の応用である。
ネコ湯に来たツキハは、脱衣場で寝間着代わりに来てた白いTシャツみたいなものとクリーム色の短パンを脱ぎ、浴場に入ると、そのまま温泉に浸かる。
「あぁ~。いつもながら、この温泉は魔素を適度に含んでて、気持ちいいわ~♪」
首まで湯に浸かり、気持ちよさそうに言うツキハ。
ネコ湯に引いてる水は封印の洞窟からの地下水を引いていて、その地下水に含まれている魔素を調節しながら温泉に流していたのだ。
これは、カイジンが作成した魔素ろ過装置の試作品をリムルが手を加えて作った、オーダーメイドのろ過装置であった。
人間が入る事を考慮しない魔物専用の温泉、それが〝ネコ湯〟。
この〝ネコ湯〟にはコハクが作った『転移陣』が設置されていて、迎賓館の温泉脱衣場から、リムル配下の魔物だけ〝ネコ湯〟に来れるようになっていたのだ。
なので、シュナやシオン、ゴブリナ達もちょくちょく〝ネコ湯〟に来ていて、男湯の方もベニマル達などが同じように来ていた。
迎賓館にある温泉は、人間も入る事を考慮していて、魔素が含まれない様にしていたからで、魔物にとっては適度な魔素は心地良いので〝ネコ湯〟を利用する事もあったのだ。
〝ネコ湯〟の効能は、魔力回復はもとより、多少の怪我などはポーションや回復魔法を使わずとも癒す効果もあり、更にポーションなどでは回復出来ないスタミナの回復効果など、多種多様な効果もあった。
これは、人間に有効な温泉成分が魔素により変質した為と、ベスターの調査で判明していた。
そんな温泉にゆったりと湯に浸かるツキハのところに、声かける者が現れる。
「天気の良い、朝風呂は格別どすなぁ。うふふ」
いつの間にか投げ捨てられた状態から復帰して来たコハクが、浴場に入って来ていた。
「チッ、もう復帰したんか。ド変態、ちゃんと土を落としてから入ってよね。わかった?」
「はいはい、わかってますえ。ほんの少しお茶目をしただけやないか。そない怒らんでもええんやない? ツキハ。ほんま、いけずやわぁ~」
「なーにが、ほんの少しだよ。全裸でほんの少しとか、頭爆発してるの? ド変態」
「うちにとっては、ほんの少しなんやで? あんま、いけず
「やってみなよ。マジにぶっ殺すからね? マジに時雨で、アンタの〝幻魔核〟をぶっ刺すよ?」
「ええで、やってみなはれ。ならうちは、あんさんにあんな事や、こんな事を、たぁ~っぷりと、お返ししますえ~。あんさんの、大事な〝ピーーッ〟! を〝ピーーッ〟して 更に〝ピーーッ〟して、もっと更に――」
「うらぁ!!」
ズゴン!!
ザバアッと盛大な波しぶきを上げて、ツキハの横に来たコハクが打ち上げられていた。
〝打振〟を込めたショートアッパーで打ち上げられたのだ。
直径十メートルの円形浴場の真ん中にバッシャーンと落ちて来て、尻を突き出したままプカプカと浮かぶコハク。
「千年くらい死んどけ!」
顔を真っ赤にしてケッと吐き捨て、ツキハは解放されている天窓の空を、「はぁーっ」と溜息を吐き見上げる。
暫しの沈黙の中、空を飛ぶ小鳥の鳴き声がチチッチと聞こえて来る。
そうしてると、尻を突き出し浮かんでいるコハクが身を起こすと、唐突にツキハに問うて来た。
「なあツキハ。あんさん、アレ見ましたか?」
「アレ? ああ、あの変な夢みたいなもん?」
「せや。アレはというか、あんな記憶はうちにはないで……」
「あたしにも、ないよ……」
二人して顔を見合わせて、真剣な顔で言う。
「思い当たるなら、マンガの読み過ぎでというか、〝異世界転生物〟のマンガを最近見ていたからねぇ。それで、空想の記憶を作り出したとか、じゃないかな?」
「ああ、あんさんがヴェルドラはんと取り合いしながら見ていたマンガどすな。〝異世界にいったら○○を出す〟とか、〝ありふれた○○で世界○○〟とか、〝転○したら剣○○○〟とか、ようけ読んでましたなぁ」
「そういうコハクだって、〝オーバー○○○〟とか、この素晴らしい○○に○○を〟とか読んでたじゃない」
「あれ、中々にハマリましたえ。ふふ」
「人間の頃にとっぴょうしもない夢見る事あったからさ。それが偶然に再現されたんじゃないかな」
「せやねぇ。その
「まあ、あの夢みたいなもんは、殆ど内容が記憶に残らなかったからねぇ。変な男と女が出て来て、なんか喋ってたような、みたいな? 感じしか記憶にないもんね」
「うちも、ツキハと同じやねぇ」
しばらく頭を捻りながら考えるツキハとコハクだったが……
「まあ、考えてもしょうがないよ。どうせ、大したことじゃないしね」
「せやね。どうせ、しょうもないアレやろな」
と、結論を出した二人。
この、ツキハとコハクが見た、記憶? 記録? 夢? みたいなものは何を告げていたのか?
それはいずれ――
ツキハとコハクを脅かす事になるのか? もしくは、二人の身に何か起きるのか?
その答えは、わからない……。
ならば――
今はまだ、その時が来てはいない事は明白なのだろう。
チリッ チリリッ
チリリ チリッ チチチッ
チチッ
そんな二人に気付かれずに、時空震ノイズが――
そっと密かに、音を潜め鳴らす。
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