忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。79話です

 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 
 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますのでご了承ください。






79話 忍魔猫たち(リムル視点

 

 

 幹部会議も終わり、それから三日後の事。

 

 俺は、ルヴナン支店がある敷地に来ていた。

 

 

 

 人魔部隊ルードネスの事務所を作るついでに、この敷地を広げる事と、この敷地の隣に新たに土地を広げる為に。

 

 結局、最初の土地も東京ドームと同じ面積の広さになって、その隣も同じ面積の土地を整備したんだけど……。

 

 何か、最初の土地に小さい倉庫みたいな小屋? が幾つも立ち並んでいて、更に近々ルヴナン系列の行商隊もくるらしく、手狭に成りつつあるからと、コハクから新たな土地購入の申請を受けて、俺が許可して土地の整備を今やり終えたんだ。

 

 そう言えばこの倉庫、俺が元いた世界の普通自動車が一台入る位の大きさだな。

 

 これは、眷属達の私物やら何やらが、仕舞われてるらしい倉庫とイチコ殿から聞いた。

 すると、キャットタワーの下に並ぶ二十もの倉庫の近くに、一際目立つ倉庫というか、大型のダンプカーが二台入る位の工房? が一つ建っている。

 

 ん? 看板があるな。

 

 俺は近づいて見てみると――

 

 〝ツキハの工房 立ち入る者には死を!〟

 

 と、書かれていた。

 

 工房……アイツ何か作れたっけ? 解せぬ、なにか不穏な陰謀を感じるのは、気のせいだよな?

 

 だよな? な?

 

《告。その予感は当たっていると推測します》

 

(ん? 智慧之王(ラファエル)先生が何か言ってるが、空耳だろう、うんうん、そうだろう)

《……》

 

 と、まあ、こんな感じで土地を再整備して、新しく整備した土地の方にルードネスの事務所を建築中なんだ。

 

 そうそう、ツキハたちの家の隣には、小さい1LDKの家が建てられた。

 この家はイチコの家で、ツキハとコハクのお世話をする為にとお願いされて、隣に建てたんだ。

 

 今では、家の掃除から食事の世話までしてるみたいだな。

 何でも、ツキハの部屋は放っておくと、瞬く間に足の踏み場がなくなるらしい。

 

 服の散乱から始まり、主に酒瓶とか酒樽などと、ってお前はどこのオヤジだ! と、ツッコミをいれたいわ!

 

 まあ、あれだ、ツキハとコハクはよく商業地区にある飲食街にご飯食べに行ってるから、恐らく掃除がメインなんだろうな。

 何気にコハクの部屋はどうなんだと聞いたら、綺麗に整頓されていますよと、イチコ殿がニコリ笑ったんだが、その笑みが一瞬引きつっていたのは気のせいなのだろうか……。

 

 うーん……あ!? あれかな、この間コハクにねだられてファルムス王国貴族の情報と引き換えに、アニメ絵のツキハ抱き枕を作ってやった事、とか?

 

 何故アニメ絵かというと、その方がバレた時にツキハの怒りが天元突破しないからそうだ。

 

 そう言えば最近ヴェルドラと一緒になって、三人で漫画を読みふけっているからなぁ、アイツら。

 その影響でコハクが、こっそり頼みに来たんだよなぁ。

 ツキハに見つかったら非常に不味いんだが、絶対に俺には被害は来させないと言い切って押し切られた感はある。

 うん、あの情報には価値があったから後悔はしてないよ!

 バレたらコハクが何とかすると言ったから、それを信じよう、そうしよう!

 

 とまあ、女の子の部屋の事を詮索するのもあれだし、これ以上はやめておこう。

 

 別に女の子の部屋に興味があるとかでは、断じてないからね!

 

 で、今日ここに来たのは、ルヴナン支店がえらい事になっているとリグルドから聞いて、視察に来たのだけど。

 

 何だ? この人だかりは!

 

 入り口で何か貴族同士が揉めているし、外に五十人位の列が出来てるしで、何でこんなに各国の貴族達? いやこれ、密偵や使者もかなりいるんじゃないか?

 

 あれだな、ソウエイの調査によると、そもそもがルヴナンと契約する事自体が難しいといっていたな。

 決められた符号と、幾つもの紹介人を介して初めてルヴナンに辿り着くと。

 

 古くから契約を交わしている貴族などは、それとは別に接触方法があるらしいが、それが露見する事はないらしい。

 露見しない方法は、ソウエイの推測によると、何らかの呪法か二人の能力(スキル)によるものかも知れないとの事だった。

 

 それが俺の国に支店を作ったんだから、噂を聞き付けた貴族やなんやらが押し掛けるのも当たり前だよな。

 

 とりあえずこの敷地には、中央都市リムルからの『転移陣』からでないと来れないようにしていて、ルヴナンに用がある者は中央都市で検閲しているから、今のところは問題はないはずなんだけどなぁ。

 

 多分貴族やら密偵やら使者やらが大挙して来たから、リグルドも慌てたんだろう。

 まあ、敷地は壁が無いように見えても、コハクが仕掛けたトラップ呪符が至る所に仕掛けてあるし、呪符結界で囲まれているから、魔王クラスでないとこのトラップと結界は突破できないんだよな。

 

 一度ソウエイ達が訓練と称して突破を試みたんだけど、ソーカたちはトラップに引っ掛かってあえなく御用。

 ソウエイも結界突破を試みたんだけど、『影移動』さえ封じられていたから結局無理だったんだよなぁ。

 智慧之王(ラファエル)先生も、俺クラスじゃないと突破は無理と言ってたし。

 今度あの呪符結界の原理を聞いてみようかな、でも、教えてくれるか? 

 いやいや、絶対に情報料を取られるな、うん、間違いない。

 

 

 とりあえず俺は、ルヴナン支店へと向かった。

 

 二階建てのルヴナン支店、一階が受付とそれの対応を行う部屋になっていて、二階が執務室と応接室に密談をする部屋に分かれているんだ。

 

 そして、入り口前で来往して来る客に対応している眷属の一人が俺に気付き、さっと入り口の扉を開けて、軽く一礼しながら俺を中に入れてくれた。

 

 中に入ると、そこは――

 

 

 

 

 カオスだった。

 

 入り口から入ってすぐに横長のL字型受付カウンターがあり、そこに薄桃色の通常の丈の小袖を着た、亜人化した眷属の女性が六人並んでいて、個別に客人に応対していた。

手前のカウンターが受付で五人なのか、曲がった先には一人いるが、あの受付は何の対応をしてるんだろう?

 

 しかし、カウンター前には三十人もの貴族や使者、密偵などがひしめき怒鳴り声を上げていて騒然としてるな。

 

「私は主様からの命でここまで来たのです。何卒、何卒、ルヴナンの責任者に御取次ぎを!!」

「おい、私はギルダンガ伯爵であるぞ! わわざわざこんな魔物の国まで来てやったのだ。契約してやる故、責任者をさっさと出さぬか! そこの魔物、早くせい!」

「貴様ぁあああああ! 無礼であるぞ! ワシをイングラシア王国のゴーダレス男爵と知っての言葉か? 慎まぬか、この魔物風情が!」

「君、そこの君。僕はヒッター子爵だ。ちょっとどこの国とは言えないけど。火急の案件上、直ぐに責任者を呼んでくれないか? ほら、これで頼むよ。君の稼ぎでは見る事の出来ない金額だろ?」

 

 とまあ、俺を前にしてよく言うなコイツら。

 

 あ、そうそう、今俺の姿は他人にはただの少年としか認識されていないんだ。

 

 コハク特製〝認識誤認呪符〟で、そう認識させていると説明を受けてな。

 

 だから今、この呪符をポケットに忍ばせていてさ、眷属達以外には俺が魔王リムルだと認識できないんだよ。

 

 しかし、魔物風情とか眷属達に言って大丈夫なのか? 後で殺されたりしないよな?

 ってかさ、俺の国でこの暴言、まだまだこういう風評は消えないよなぁ。

 いいさ、気長にこの風評を消していくしかないしね。

 

 ん? あの子爵、金貨十枚差し出してるけど、あれ、絶対鼻で笑われているぞ……。

 

 まあ、眷属達が幾ら稼いでいるかなど知る訳がないし、どう見てもお前よりは稼いでると思うよ?

 なんてたって、俺のところの特産品を爆買いするくらい、金を持ってるからなぁ。ウククク

 

「にゃあにゃあ、ドカーーンと稼げる依頼はないのかニャ? にゃあヤモコ(八百子)、早よ出すニャよ」

 

 ん? サンコの声がするな。

 

 俺は、カウンターの曲がった先に目を向けてみたら、いつの間にかやって来ていたサンコが、一人だけ離れている受付の眷属に話し掛けていた。

 

 ほぉ、セミロングで赤毛のちょっとキリッとした顔系のお姉さんか?

 歳は、二十才半ば位に見える。

 着ている服はというと、たの受付のお姉さん達と同じ薄桃色の小袖に、淡い紫色の薄羽織着ているのか。

 

 八百匹目の雌魔猫だったから、ヤモコ。うーん、ツキハが名付け方法考えたらしいが、安直……ハッ?

 

 俺も人の事は言えなかった……いや、数が多過ぎたんだよ! 万単位で名付けとか無理だろ! なっ?

 

 と、言う事にしてくれ。

 

 で、サンコはいつもの装束か、確か三毛猫種の忍魔猫だと言ってたなベニマルが。

 

 サンコのヤツ、カウンターに上半身を乗せて、両足をパタパタさせながら何か言ってるな。

 

 ってか、この依頼者がひしめいてる中で自由過ぎるだろ。

 

 で、その会話に聞き耳を立てているとだな……。

 

「何言ってるのサンコ。当分個人宛の依頼はないと通達があったでしょ? 聞いてないの?」

「ニャんだとー!? 聞いてないニャよ? なんで?」

「はあ~、何で聞いてないのかしらね。バカなの? 死になさい、塵芥(ちりあくた)も残さず死になさい」

「ニャんだとーー! バカ言っていいのはニコお姉だけニャよ! ぶっ殺すニャよ?」

「はいはい、どうせこの間賭けに大負けして、スカンピンなのでしょう?」

「アレはアイツらがアチシを嵌めたのニャ。だから、アチシは被害者なのニャ!」

「ねえ、サンコ。貴女には、学習するって頭はないのかしら?」

「学習する頭? なんニャそれ? アチシに頭はあるニャよ?」

「だからぁ、間違いからとか、色んな事を学んでそれを次に生かす事などを言うのだけど。意味わかってる?」

「間違い……? アチシは、なんか間違いをしたのかニャ? ベニマルも同じ事言ってような……ニャ?」

「……ごめん、頭が痛くなってきたわ。アンタ一度、イチコのお腹に戻って生まれ直して来なさいよ。そうしたら、学習という事が理解出来るかもよ?」

「ニャ? たまにお仕置きされると、身体分解されて一週間は魂ごと(かあ)様のお腹に隔離されるんニャ……よ。あれは、とても恐ろしいのニャ。あれな、一週間ずっと、ニコニコと微笑む母様から、お説教という〝OHANASI〟が繰り広げられるニャよ! あの恐怖は味わった事がある者しかわからないニャ。ニコお姉ですら、尻尾の毛が剥げる勢い! ハゲマルドンの到来ニャ! だから、学習とかいう、如何(いかが)わしい物がアチシに生まれるとか、断じてないのニャ! ニャアッハッハッハッ」

「……もういい。帰ってくれる、サンコ? 業務の邪魔だわ」

「ニャんだとーー! ニャ!?――」

 

 ハゲマルドンって、それハルマゲドンだろ……。

 

 そう言えばベニマルが、サンコはよく会話が噛み合わなくなってわけわからんと笑いながら言ってたけど、それ以上じゃね?

 

 今聞いた会話など、会話として成立してない気がするよ、ベニマル……。

 

 そんな事を思っていると、いきなりイチコ殿がサンコの後ろに現れたよ。ほんと、アイツらはいきなり現れるよなぁ。一応微かな空間の揺らぎを感じたから誰か来たなと思ったけど、イチコ殿とは……。

 

 サンコ、ご愁傷様だな、ククッ。

 

「あらあらサンコったら。母の娘なのに、そんな劣化した頭しかないなんて、母は悲しいわ」

 

 〝幻想領域〟でヤモコとサンコを包みながら現れたイチコ。

 

 サンコの尻尾の毛がボワワッと盛大に逆立ち、後ろを振り向いたサンコの目が大きく見開かれていた。

 

「ふぎゃぁぁぁぁぁ! か、(かあ)様? 何故、こ、ここに来たニャ?」

「あらあら。ここはルヴナンの支店ですよ? 来てはおかしいかしら?」

「いやいやいや、いいニャよ。じゃ、アチシは用があるからいくニャ――うぎっ!」

 

 へぇー俺には見える様に結界をって、あ、そうか〝幻想領域〟とかいう空間結界って二人が話していたな。

 

 あーあ、逃げようとして首根っこ掴まれたな。

 

 観念したかサンコのヤツ、プラーンと吊り下げられて借りてきた猫の様に大人しくなってるじゃないか。

 

 と、思ったら違ったな……。

 

「うニャあぁーーーー離せー! アチシは無実ニャよーー! ごめんニャさいーー! 裁判を、裁判を要求するニャあぁーー!」

「裁判? あらまあ、サンコったら。では、簡易裁判を行いますね、ふふふ。被告サンコ。ギルティです」

「はあっ!? 上告するニャ! 不服ニャよー!」

「黙りなさい――」

「――くぇっ……」

 

 あ! 首絞められて落ちたな。

 

「ヤモコ、お騒がせしましたね」

「いえいえ、大丈夫ですよ。いつもの事です、イチコ」

「では、コハク様の所へルードネス設営に関しての書類を、渡しにいきますね」

「ええ、二階の執務室にいますよ」

 

 気を失ったサンコを右手に抱えながら、二階に消えていくイチコ殿。

 

 これがいつもの事だと? 俺はとんでもない者たちと、契約を交わしたのではないだろうか……?

 

 ちょっと、不安になってきたかも知れない。

 

 しかしまあ、こんなにも依頼者が押し寄せるとは、思ってもみなかったな。

 

 ここにいるのは皆眷属なのか、よく応対している。

 手慣れているというか、人間の事をよく熟知しているのか。

 これも、コハクとツキハの教えなんだろう。

 

 やっぱ、千年以上も人間を相手にしてると、そうなるよなぁ。

 俺も、ベニマル達にもっと人間の狡猾さなどを教えていかないと、いけないな。

 

 油断はしないが、そこを上手く人間と共存出来る糸口を見つけていかないと、またあの惨劇が繰り返される事になる。

 

 次に、同じ事が起きたら、俺は……。

 

 …………

 ……

 

 おっと、いけないいけない。

 

 覚悟は決めたんだ。

 後ろは振り返るな、俺。

 

 こういうところはコハクとツキハを見習わなきゃな、あの自由奔放な二人を。

 フフッ。ほんと、戦国時代に生きた忍び、か。

 

 どんな十七年だったんだろうか……?

 一度尋ねてみたいのだけども、タダでは教えてくれないよなぁ、ククッ。

 

 暫く受付の状況や依頼人達を見ていたんだが、何やら外の方が騒がしくなっていた。

 俺は入り口の扉を開け外に出てみると。

 

 大剣を背に担いだ冒険者? 傭兵? のような大男が、お約束のように入り口前にいる眷属のお姉さん? に絡んでいた。

 

 肩より長めの黒髪を首後ろで一纏めにした三十台前半位に見える、オカン系猫亜人のヨヨコ(四十四)という眷属らしい。

 

 人の良さそうな穏やかな顔付で、受付の眷属と同じ格好をしていた。

 

「おい女、テメエ今俺の事を睨んだか? ああ!?」

「何言ってたんだい。つべこべ言わずに後ろに並んでおくれ。皆、並んで待っているんだよ――」

「――おい! いいか俺はな。百戦錬磨のちょっとは名の知れた傭兵だ。その俺様が、傭兵商会ルヴナンに入ってやろうとわざわざこんな魔物しかいない国に来てやったんだ。四の五の言わずにさっさと、傭兵商会ルヴナンのボスを出せ!」

「だから先程から言ってるじゃありませんか、ルヴナンは傭兵の募集を行っておりませんと。それを望むなら、お引き取りをお願いするしかないよ?」

 

 腰に手をやり、やんわりと御断りを告げるヨヨコ。

 

 そんなヨヨコをどうしようかと見ていたんだけど、そうしたら俺に気付いて、『思念伝達』を送って来た。

 

『あら、リムル様。お忍びで御視察ですか? すいませんねぇ、こんなお見苦しいところを見せてしまって。ハッハッハッ』

『いや、気にしないでくれ。それよりも俺が何とかしようか?』

『いえいえ、リムル様の御手を煩わせるなんて(あるじ)に知れたら、お叱りを受けますんで、そのまま忍ばれていて下さいな。今お姿をお見せすると、ここがパニックになってしまいますからね。ハハハッ』

『そうか、わかった。静観するとしよう。なるべく手加減してやれよ? ククッ』

『ええ、もちろん心得ておりますよ。ハハッ』

 

 なんか、陽気な若いオカンって感じだな、本人には失礼かもなんだが、フフッ。

 お手並み拝見といこう。

 

「女、少し怖い思いをしないと、わからないようだな」

 

 そう言うと、大男は背に背負った大剣を抜き放ち構えた。

 

「えーと、荒事がお望みですかい?」

 

 切っ先を向けられても、にこやかに応対か、まあ、そうだよな、何せ、番外魔王の眷属だからな。

 

 その眷属に喧嘩を売るなんて、ものを知らないにも程があるぞ。

 

 列に並んでいる依頼者たちの中には、アイツ終ったなとか、どこの馬鹿だとか好き放題に言ってて、それを聞いた大男の顔が真っ赤になってて、更に頭がヒートアップしたみたいだ。 

 

「少し痛い目に合って、俺様の強さに震えるがいい!」

 

 あっ、大剣を振り上げやがった。

 

 だが、その剣は振り下ろされる事はなかった。

 

「なっ!? え? なんだ――」

「あらあ、ヨヨコ。何か揉め事かしら?」

「これかい? 大した事じゃないよロロロオ」

「なんだお前は? ぬおぉーーーー!!」

 

 振り上げた大剣の切っ先を、後ろから現れた美青年が右手指先で摘まみ止めていた。

 

 アレは確か、よくある男だが心は乙女のオネエ眷属だったな。 

 しかし、ほんと綺麗な顔立ちしているな、一見すると女性と見間違いそうだ。

 

 あんな見た目でも、傭兵商会ルヴナンの裏部隊の副リーダーであり、暗殺者なんだよなぁ。

 

 六百番のロモコをリーダーに、七百番までの眷属で構成された、暗殺部隊。

 

 シュナが言っていたけど、かなりの手練れらしい。

 クレイマンの城に侵入した痕跡が殆んど無く、驚く事にアイツらが通った後に死体が無く、たった一滴の血痕すら見当たらないと報告が上がっていた。

 

 宝物庫扉付近に残留した微かな魔力の痕跡にシュナが気付いて、それで判明したとの事だった。

 

 後、宝物庫の財宝が不自然に減っていたと、ソウエイが苦笑いしていたんだよ。

 コハクが徹底して暗殺術を仕込んだ百体の眷属かぁ、末恐ろしいもんだよ、まったく。

 

 まだあの大男、大剣を振り下ろそうとしているな、流石に無理だろ。

 そう思って見ていると。

 

『あらあらあら、リムル様、何か主様に御用ですか? 急ぎの用ならば、コハク様が支店におられますので、お呼び致しましょうか?』

『あ、いや、ちょっと様子を見に来ただけだから、気にしないでくれ』

『あらぁ、そうなの? お暇なら、ワタシでよければお相手致しますわよ?』

『いやいや大丈夫。本当に様子を見に来ただけだから』

『あら、残念』

 

 ロロロオが凄く残念そうに『思念伝達』を終えた。

 

(なんだ、その本当に残念そうな顔は? シオンを連れて来なくてよかったな。シオンが荒ぶる光景が目に浮かぶよ……)

 

 しかし、眷属たちってほんと自由だな、いや自由過ぎないか? 

 

 こうみると、眷属たちって、マジヤバくね? 

 ある意味野放しにすると、駄目なヤツだ、これ。 

 

 俺がそう思っていると、大男が叫んでいた。

 

「くおぉおおおおお! はなぁせぇえええええ!」

「あら、離せばいいのね? はい」

「ぬぉ!?」

 

 いきなり大剣を掴んでいた右手指を離した、ロロロオ。

 大男の大剣は勢い余って、地面に勢いよくぶつかり、刀身の三分の一を地面に埋めていた。

 

 すると、ロロロオが大男の首後ろをスッと撫でると。

 

「あがっ、が……何を、した?」

 

 大男の動きが止まった。

 

 ん? 目を凝らしてよく見ると、何か糸のように細い針? みたいなものが首後ろに刺さっていた。

 

《告。個体名:ロロロオは自分の髪の毛に魔闘気を纏わせ、極細の針を作りそれを神経に挿し、そこから微弱な電流を流して男の身体を麻痺させていると推測します》

 

 お? さっそくの智慧之王(ラファエル)先生の解説、ありがたい。

 なるほどねぇ、髪の毛を極細の針にか……あれも、暗殺術の一つなんだろうか? ほんと、あれじゃ殺されても何で死んだか判りにくいうえ、抜けば証拠も残らない。

 

 もし、完全に敵に回っていたら、俺達は間違いなく苦戦していただろうな。

 いや――負けていたかも知れない。

 

 上には上がいる、その事を忘れては駄目だ。

 

 フフッ、コハクとツキハに出会えたのはほんと僥倖(ぎょうこう)だった。

 ヴェルドラには感謝だよ。

 

 俺より五千年も前にヴェルドラと出会っていた二人、そして俺もヴェルドラと出会い盟友となった。

 

 これって、凄い偶然だよな? うーん、まぁいっか、俺の運が強かったという事だ。

 

 さてさて、ロロロオはどうでるのかな?

 

「ウフッ。ちょっと、貴方の神経にイタズラをさせてもらったわよぉ」

「か、身体が動かねえ……」

「乱暴は駄目よう。オ・ニ・イ・サ・ン」

「ほざけ、魔物がッ! 何が傭兵商会ルヴナンだ! ただの魔物の集まりじゃねえか。おい、よく聞け優男。人間様にはな、勇者と言う最強の人物がいるんだよ。あんまり人間様に逆らうと勇者に――ヒィッ!?」

 

 大男が勇者と口にした瞬間、そこには凄まじい殺気が破裂したように大気を裂いた。

 

 おいおいおい、何て殺気をだすんだ、ってか列に並んでる人たちが、なに?

 

 ロロロオが眼前で手を叩き合わせ、パンッと乾いた音が鳴り響き、術名を発すると言霊(ことだま)が宙を走る。

 

「〝幻遁 架空陣・夢幻天影《むげんてんえい》〟」

 

 むげんてんえい

 (夢幻天影)

 

 

 宙に文字? これが忍魔術というものなのか。

 

《告。今個体名:ロロロオと大男、個体名:ヨヨコ、それと主様を含む周辺だけが現世と亜空間、もしくは異空間の狭間に隔離されました。これにより殺気による精神への被害は、そこの大男だけに向けられます》

 

 ふむ。『空間操作』系の術式を眷属達は使いこなすのか、いやはや何とも怖いことだ。クククッ

 

「ねえ、貴方。勇者を口にするのはやめておきなさいな。アレは駄目よ、因果が巡るから。それと貴方、Eランク程度の強さじゃない。その強さじゃルヴナンでは、秒で死ぬわよ」

「あ、は、はい……いや、でも、俺は――」

「傭兵というのも嘘でしょ? 貴方からは、染み付いた血の匂いがしないもの」

「えっ、あ……ちが、俺は、よう――」

 

 微笑み言うロロロオの目が細く鋭利になり、静かに言葉を放っていく

 

「はいはい、もういいわ。とりあえず中で話を聞くから、少し、おだまり」

「かん、かんべんし、あがっ!……」

 

 ロロロオが右人差し指で大男の喉元を上に撫で上げながら言うと、大男は手に持った大剣をガシャリと地面落とし、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。

 

 あーあ、完全にあの異様な殺気に当てられたな。

 

 しかし、凄まじい殺気を放つなロロロオは。

 

「リムル様、失礼を致しました。とりあえずこの者は、背後関係を洗って何も無ければ解放しますんで、それで宜しいでしょうか?」

「ああ、それでいいよ。何か、ただのお上りさんにしかみえないから、程々にな」

「ええ、わかっていますわリムル様。この、あまり手入れされていない大剣を見れば、フフフ」

 

 そう言ってロロロオは大男を肩に担ぐと、架空領域を解除して何食わぬ顔でルヴナン支店へと入っていく。

 

 列に並んだ者たちは、何が起こったんだと呆気に取られた顔で、大男を担いだロロロオを見送った、

 

 まあ、そうなるよな。

 

 いきなり大剣を振り上げた大男がロロロオに大剣を止められて、ロロロオが近付いて何か言ったら大男が気絶したんだから、そうもなる。

 

 空間の狭間に隔離して、その姿は見えるようにする……これ、めっちゃ高度な空間操作じゃないのか?

 

 まだまだ謎が多いよなぁ、忍魔猫たちって……。

 

 問題は無さそうなので俺が立ち去ろうとすると、ヨヨコが俺に軽く会釈をして、列に並んだ依頼者たちの対応に戻っていった。

 

 ふぅ……とりあえず、帰るとするか。

 

 俺は敷地の中を散歩がてら歩いていると、キャットタワーの下に忍魔猫たちの集団がいた。

 一、二、三……九十八の忍魔猫に、その前に茶トラの忍魔猫が一匹。

 

 なんかニャーニャー鳴いてるけど、何してるんだろう。

 

 俺は視線を忍魔猫たちのほうへ向け、立ち止まってみた。

 

 茶トラの忍魔猫、確かロモコだったか? すると、あの九十八の忍魔猫は、ルヴナン暗殺部隊なのかな。

 

『はぁーもう。何でここに来る度に、私に聞こえる様に舌打ちをするんですか?』

『『『『『チッ!(ペントハウスよこせや、ロモコ!)』』』』』

『えーと、喧嘩売ってます?』

『『『『『チッ!(ペントハウスよこせや! このちゃっかりさんが!)』』』』』

『売ってますよね?』

『『『『『売ってるわ! ボケがっ!』』』』』

 

 九十八匹の忍魔猫たちが一斉に背を丸め伸びあがり、尻尾を逆しの字に曲げて横にステップを踏み始める。

 

 おお? クッ、クククッ。

 ほんと久しぶりに見たなぁ、猫の〝やんのかステップ〟、アハハハハ。

 

『はぁー、いい加減にしてくださいよ、めんどくさい。じゃないと、焼き斬りますよ?』

『『『『『ロモコの癖に、やってみろやぁー!!』』』』』

『そんなにペントハウス欲しいなら、あげますよ。アナタたちが争って勝ち残った方に』

『『『『『にゃに!?』』』』』

 

 いきなりのロモコの発言に、九十八匹の忍魔猫たちはお互いに近くの者と顔を見合わせる。

 

 そして、それは始まった。

 

『死ねやごらぁあああああ!』

『かかってこいやぁー! 駄目オスども!』

『メスの癖にイキがってると子作りすんぞ、ごるぅあぁー!』

『やってみろやああああっ! 玉潰すぞ、うらぁあああ!』

『こら、こっちくんなって、くるなぁーー!』

『はいはい、ごめんなさいよぉ。ちょこっと死んどけ』

『え? え? あ!? ダメだって。こら、そこ危ないって。だから俺ばかり狙うのやめろぉー!』

『あああああああ! 誰だぁー、俺に爆炎呪符投げた奴はぁー!』

 

 ウニャァアアア!

 シャアアアアアッ!

 ミギャァアアアアッ!

 

 凄いな、集団猫喧嘩……何か爆発してるし、猫が吹っ飛んでるし。

 何が理由であんな大喧嘩をしてるんだろう……。

 

 ん? 茶トラの忍魔猫がこっちに来る?

 あ? 亜人化した。

 

 ほう、茶髪でぽやっとした可愛い系かぁ、歳の頃は二十代前半くらいかな?

 

 着てる装束はツキハ達と同じ、色は紺色なのね。

 尻尾だけは白と茶色の茶トラ模様なのか。

 

「こんにちわ、リムル様」

「おお。ロモコだよな?」

「はい。ロモコです」

 

 ポヤヤッと笑みを浮かべ挨拶をしたロモコだが、ロングの髪を纏めて右前に垂らした三つ編みのお下げが、中々にいい。

 コホン、ちょっと感想を言っただけだから。

 

 そうだ、あの大喧嘩の理由を聞いてみるか。

 

「ロモコ、あの大喧嘩の理由は聞いてもいいか?」

「はい? ああ、あれですか。あれは私のペントハウスを賭けた争奪戦です」

「え?」

「ペントハウス争奪戦です、リムル様。フフッ」

 

 争奪戦であそこまでやるか普通、って普通じゃなかったわ、この暗殺部隊は。

 ツキハに聞いた時に、眷属達の中でも特に問題児が集まった部隊だと言っていたな……。

 

 周りに被害は、大丈夫か。ルヴナン支店からは離れてるし。

 

「それにしてもいいのか? せっかく手に入れたペントハウスを手放しても」 

「大丈夫です、リムル様。間違いなく、あの人たち共倒れになりますから」

「はい?」

「容赦がないんです、あの人たち。だから、皆が大技をぶっ放して、みんなを巻き込んで終わりですね。フフッ」

「えぇー……」

 

 ロモコがコロコロと笑いながら俺に言った瞬間、それは訪れたんだ。

 

『『『『『死ねや、バカども!』』』』』

 

 一斉に光り輝く九十八匹の忍魔猫たち。

 

 そして――

 激しい轟音と共に、放物線を描きながら吹き飛んだ九十八匹の忍魔猫。

 バタバタと地面に落ちて来て、動く者は一匹たりともいなかった。

 

「それではリムル様。これで失礼します」 

「お、おう」

 

 にこやかに去っていくロモコ。

 うーん、したたかだなぁ。

 

 ホント、容赦ねえな。

 

 見た目では弱そうに見えるわ、馬鹿そうに見えるわで、ほんと面白いなアイツらは、ウククク。

 

「アンタらあああああっ! 何やってんのー、おちおち昼寝も出来ないでしょうがぁー! ごらあぁーーーーっ!!」 

 

 ん? ツキハいたのか。

 

 あ、今まで動かなかったヤツラがいきなり跳ね起きて、蜘蛛の子を散らすように逃げていくわ。

 

 プッ……ククッ、アハハハハハハハハ。

 

「逃げんな! 逃げたら、わかってるよね?」

 

 怒ってる怒ってるツキハのヤツ。

 ハハッ、一斉にツキハの所に戻って来たな。

 

 皆揃ってお説教か、こういう争いだったら大歓迎なんだけど、なぁ。

 

 そうはいかないか……まあ、なるようにしかならないし、手は打ったしで、後は不慮のアクシデントさえなければ、いけるさ。

 

 

 さてと、執務室に戻るか。

 

 




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