忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
※作中の魔獣、魔猿グレイヒヒは作者のオリジナル魔獣です。
夜の月明かりに照らされる中央都市リムル。
そんな静かな夜半過ぎ、リムルの私室である庵で二人の男の姿が見えた。
縁側の方の障子を開け放ち、リムルとヴェルドラが酒を酌み交わしていたのだ。
火鉢をお互いに向き合うように囲み、火鉢の上には小さな鍋が置いてあり、その中には
リムルがその中の一本を取り出し、ヴェルドラが持つお
「ふむ……今度は酒の味、匂いともにハッキリ出ているな、これも上手い!」
「だろ? さっきのはぬる燗といってな、温度は四十度くらいで酒の香りがよく出るんだよ。で、今のが
「この日本酒という酒は、冷やして良し、温めても良しと、中々に良い酒なのだな。ツキハがよく人間の頃に飲んでいた酒が飲みたいとこぼしていたが……聞いていた以上に上手いな!」
「フフッ、そうだろそうだろ。やっと米を作れるようになって、念願の米の醸造酒を作れたからな。この醸造酒を今度の祭りで貴賓に振舞おうと思ってるんだ。これも魔国連邦の特産品にするつもりなんだよ」
「なるほど。ツキハとコハクが上手いと太鼓判を押していたから、各国にも受けるだろうよ」
「そうか、アイツらそんなに喜んでたのか。ならこの酒もブランデーと同じくいけるな。ククッ」
二人は顔付合わせ、笑い合いながら酒をお互いに注ぎ、飲み干していく。
空になった徳利にリムルが酒を注ぎ、鍋の中に徳利を浸けこんでいった。
それからリムルは、何とはなしにツキハとコハクの事をヴェルドラに聞いていた。
「なあ、ヴェルドラ」
「なんだ、リムル?」
「あの二人と出会ったのって、どんな経緯だったんだ?」
「ん? ツキハとコハクか……。うーん、五千年前に突如として我の前に現れたんだが、何で我の前に現れたんだろうな?」
「いや、それを俺が尋ねてるんだが?」
「お、そうだな、すまぬすまぬ。そうだ! 何か我の妖気に誘われたとか何とか言っていたな。生まれたてとか言っておったから、多分転生したばかりで我の前に転移して来たんだろうよ」
「ほぉー、でさ、その時の二人って、強かったのか?――」
「いや、弱かったぞ」
「え?」
「弱かったな、二人とも」
リムルの問いに、即答で弱かったと答えたヴェルドラ。
それにリムルは、「まあ、俺も転生したてはあんまり強くなかったからな」と呟き、話を続けていった。
「でさ、ツキハとコハクが俺と同じ〝特殊な魔物〟なんだよな?」
「うむ。そもそも、魂だけで世界を渡ると、普通は魂が耐えられぬのだ。魂は分解され、記憶も完全に失われるのだぞ。それを完全な記憶を残して、魔素から魔物となって生まれて来るなど、我の知る限り実例は無かった。だから、ツキハとコハク、それにリムルよ、お前達は特殊な魔物なのだよ」
「〝特殊な魔物〟、か……。それって、何か意味があるのかなぁ」
「わからぬ。でもな、お前もあの二人も――特殊な強さを持っておる。我の範疇を超える何かを、な」
「特殊な強さねぇ。そう言えば、お前との決闘の時にツキハが放ったあの技、あれの正体は何なんだろうな」
「さあな、あの技に使った力の事を何度ツキハに聞いても、そのうち教えるからと笑っていて、教えてはくれぬ。『解析鑑定』でも判明せぬエネルギーなど、どうやったら作れるのだ?」
「それこそ、さあなだよヴェルドラ。ただ、この世界の常識外の力だったりして? 何てな、ククッ」
「それこそ、ありえぬだろう。クククッ」
冗談めいたように笑い言うリムルに、ヴェルドラが同じように笑い返す。
「ところでヴェルドラ。今日はツキハは来ないのか?」
「うむ。何やら今日は大事な用事があると言って、サンコと二人でジュラの大森林の奥地へ行ってるぞ」
「森の奥へ? 何で夜にそんな奥地などに行くんだよ」
「うーむ、我が聞いても、百五十三年周期のとても大事な夜だとしか、教えてくれなかったな」
「はあ? なあ、何かとてつもなく不穏な感じがするのは、気のせいか?」
「うぬー……。我に聞かれても今更だと思うのだが、リムルよ」
「まあ、それはそうなんだけどな……」
リムルは、ツキハがサンコを連れて大森林の奥へ行ったことが気になったが、ヴェルドラの言う通り今更な気もして、とりあえずは気にしない事にしたのだが……。
その頃、ツキハとサンコは大森林の奥地へと来ていた。
樹々に生い茂る葉の間から差す月光の明かりに、淡く照らされる大地。
そこに二人はいた。
「にゃあツキハ様、そろそろかニャ?」
「だねぇ、そろそろ来るよ」
「あ、続々と集まって来てるニャよ魔猿グレイヒヒども」
「やっぱり来たかぁ。うーん、これ百匹くらい集まるかな」
「にゃあにゃあ、殺してもいいのかニャ?」
「駄目よ。あいつらも、この魔タタビを狙って来てるだけだから、殺しは無し」
「えーっ、あいつら殴っても殴っても向かって来るからメンドくさいニャよ?」
「まあ、適当に遊んであげればいいじゃん。サンコ好きでしょ? ドつきあい」
「いくらアチシでも、そんなドツキ合いは望んでないニャよ? ツキハ様はバカなのかニャ?」
「サンコ、バカはアンタでしょ。バカを放り投げて、あたしに振らない。ドつくよ?」
「ふにゃ!? そ、それは勘弁ニャよ。バカはアチシでした!」
「うんうん、わかればよろしい。お、そろそろだよ。サンコ、準備しな!」
「はいニャ!」
真夜中過ぎのジュラの大森林の奥地。
百五十三年周期で、この苔の生えた樹々の根元に生えるキノコがツキハとサンコの目当ての物なのだ。
このレアなキノコは魔タタビと呼ばれ、魔獣達の好物であり、特に猫種の魔獣や獣人などには至高の物だった。
そして、この二人が来ている奥地の場所が、唯一この魔タタビが生える場所である。
満月の真夜中に生えて、朝日が昇るとともに枯れてしまう魔タタビ。
この日を逃すと、また百五十三年待つ事になる、超レアなキノコの魔タタビ。
魔タタビ、この味は、一度食べた物を虜にする程に美味であり、凄まじい恍惚感をもたらすキノコ。
中毒性や食した者に害を与えることは無いが、その味は食べた時の恍惚感も合わさり、忘れる事の出来ない美味しさ。
闇で出回るこの魔タタビには、貴族達などが媚薬などに調合して、お目当ての相手に使う為、凄まじい金額で取引されていた。
この魔タタビを調合した媚薬は、他の媚薬とは懸け離れた効能を持ち、神の媚薬とも呼ばれていた。
余談だが、コハクが一度この魔タタビ媚薬を、ツキハに使おうとして、思い切りツキハにシバキ倒された事があった代物でもあった。
他の地域でも魔タタビは取れるが、大量に取れるのは、ここ、ジュラの大森林の奥地だけである。
周辺にはAランクの魔獣などが生息しており、場所が場所だけに、ツキハがこの魔タタビ生息地を独占していたのだ。
因みに、以前はヴェルドラに許可を貰っていたのだが、今はリムルがこの大森林の盟主になったので昼間にツキハは、夜のキノコ採りの許可をリムルに取り付けていた。
忙しい書類整理の途中にツキハがキノコ採取の許可を取りに来ていたのを、リムルはすっかり忘れていたのであった。
今回も闇市に流す分と、ある目的の為に使う分を取りに来ていた、ツキハとサンコ。
そして、この魔タタビ生息地に住む、体長八十センチの魔獣、灰色の長い毛を持つ魔猿グレイヒヒも、この魔タタビを食する為に、ここに集まって来ていたのだ。
その数、ざっと百匹近くが、ツキハとサンコを取り囲んでいく。
ツキハが背中に丸
待つ事数十分、樹々の根元にキノコが頭を出し、みるみるうちに高さ十センチ、傘の直径十五センチのキノコに成長する。
すると、一斉にグレイヒヒがその魔タタビに群がっていった。
ウギィーッと咆哮を上げ襲い来るグレイヒヒ。
「魔猿ども、じゃまするニャーッ!」
魔タタビに群がるグレイヒヒを、超高速移動するサンコが殴り飛ばしていく。
残像を残しながら動くサンコに、次々と倒されるグレイヒヒ達。
グレイヒヒ、小さい体躯ながらも握力は有に三百キロを超し、その腕力と脚力は大木や岩石などを一撃で砕く。
俊敏な動きから繰り出されるその怪力は、人間にとっては脅威そのものだった。
群れで襲い来るこのグレイヒヒに出会ったら、とにかく全速で逃げろ、それが冒険者達の認識であった。
そのグレイヒヒを片っ端から殴り飛ばすサンコ。
手加減してるせいか、無駄に耐久力に優れたグレイヒヒは、倒されても倒されてもサンコに向かっていく。
そのサンコを横目にツキハはひょいひょいと、魔タタビを採取しては背に背負った丸籠に投げ入れていった。
籠が一杯になると大樽に入れて、また魔タタビの採取にいく。
サンコから離れたグレイヒヒがツキハに襲い来るが、ツキハそのグレイヒヒ達の顎を、コンコンと軽く叩き、昏倒させていった。
気性の荒いグレイヒヒ達は、サンコに敵意剥き出しに襲い掛かっていて、そのサンコを囮に魔タタビ採取に励むツキハ。
大樽が一杯になる頃、ツキハがもういいだろうとサンコに言おうとした瞬間――
一匹のグレイヒヒが、サンコの後ろから組み付き、後頭部に思い切り噛み付いた。
「ニャ!? あにゃにゃあぁーー!!」
いきなり噛み付かれたサンコは、慌ててグレイヒヒを振りほどこうとするが、怒り狂ったグレイヒヒは両手でサンコの頭を押さえ、両足はサンコの胴を挟み締め付ける。
「うにゃー! なにするニャ、離すニャよぉー!」
そこらを走り周りながら両手をブンブンと振り回すサンコ。
その進路上にいるグレイヒヒ達が巻き込まれて吹き飛んでいく。
ガッチリと噛みついたグレイヒヒの牙はサンコの頭から離れず、サンコは暴れ回る。
「なにやってんの、アンタ……」
そんなサンコを見てツキハが、呆れたように言い放つ。
「残りはサルどもにやるから、帰るよサンコ」
大樽を背に背負い、左手に背負い籠を持ち、ツキハが「先帰るから、後ヨロシクねぇ」そう言うと、その場から飛び去って行った。
サンコ、置き去り確定。
「はにゃ!? 待つニャ! ツキハ様、酷いニャー! 毎度毎度、猫使いが荒いニャよぉーーーー!!」
真夜中の大森林に、サンコの声が
一方リムルの庵では、まだ酒を酌み交わしていた。
「良い月だなぁ、ヴェルドラ」
「うむ。このような酒の飲み方も乙なものだな、リムルよ」
リムルの言葉に、お猪口の酒をグィッと飲み干し、ヴェルドラが答える。
「月……うーむ、そうだ月だ」
「ん? いきなりどうしたヴェルドラ」
「いやなに、ツキハの用事が何かわかったのだ」
「お! わかったのか」
「うむ。ぬう、確か、百五十三年周期で取れる超レアなキノコだったか。それが、今宵満月の日に取れるキノコなのだ」
「へー、そんなキノコあるのか。それ、美味いのか?」
「いや、うーむ、そうだな……。お! そうだ、物凄く高く売れると言っていたな、ツキハのヤツ」
「高く売れる? 食べなくて何に使うんだよ、ヴェルドラ?」
「いや知らぬ。高く売れるとしか聞いてないないぞ」
「ふむ……。あ! 昼間、キノコ採取に大森林の奥地に行くから、許可をくれと来たんだったわ。あれかー、忙しくて許可だけ出してたんだった。サンコを連れてキノコ採取か、なーんか、企んでないだろうな、あの二人」
「それはないだろうよ、リムル。まあ、キノコを高く売りつけて、金を稼ぐ、そんなとこだろう」
「ならいいんだけどな。でも、今更か、ククッ」
「そうだ、リムルよ。もう味方に付けたのだ、今更だ。ハハハハッ」
月夜の庵に、リムルとヴェルドラの笑い声が響き、差し込む月光が二人をほわりと映し出していく。
一夜明けたテンペスト。
いつもの如くリムルは執務室で、様々な書類に目を通していた。
そこへ――凶報が届いた。
慌ただしく執務室へ入って来たソウエイ。
「リムル様。ヒナタが動きました」
「なに!? で、人数は?」
「一人だと?」
リムルはヒナタが一人と聞いて、少し思案を始めると――
ソウエイの影からソーカが飛び出して来た。
「お待ちを! 新たな動きがあったと報告を受けました!!」
「何があった?」
リムルの問いに、更にソーカの影からトーカが飛び出して来た。
「ソーカ様、ヒナタを追って聖騎士四名が動き出したと!」
叫ぶようにソーカからの報告が飛ぶ。
「たった四名だと?」
「はい。ですが、その者達の実力はかなりのものみたいです。どうやら魔法を使ったのか、あっという間に追跡を振り切られまして……。でも、イチオ殿だけが同じく、あっという間に追って行きました」
トーカは
動き出したヒナタ、リムルはヒナタが何故少数だけでこちらに向かったのか……。
その真意を探り損ねていた。
(うーん、わからんな。これは、どういう事だろう?)
ヒナタの思惑はどこに?
事態は大きく動き出していく。
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