忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。82話です







82話 大司教 暗 殺

 

 

 ヒナタが動いたと凶報が入り、慌ただしくなるリムルの執務室。

 

 

 そして、急遽ゲルド以外の幹部達が会議室に召集され、緊急対策会議が開かれた。むろんツキハとコハクも、その会議に呼ばれていた。

 

 皆が集まりソウエイの報告を聞くと、みるからに幹部達の顔に緊張が走る。 

 

 特にソーカ達が聖騎士達に振り切られたと聞いた時、幹部達に動揺が走った。

 しかし、イチオが『空間迷彩』を使いつつ追っていったと聞き、幹部達は安堵の顔を浮かべる。

 何よりもソーカ達は一応Aランクを超えていて、それを振り切った聖騎士達の実力が窺えた事に幹部達は驚いていたのだ。

 

 そして、そのソーカ達を振り切った聖騎士達を追っていったイチオにも、驚きの顔を隠せなかった。

 ソウエイ達も優秀である。しかし、それだけでは埋まらない何かを眷属達は持っていた。

 だがこれから、ソウエイ達も修練を重ね、そう遠くない内にその域に達するのだろう。

 

 この二大諜報機関を持つテンペスト。

 いずれ世界は、その恐ろしさを味わう事になるであろう事は明白であった。

 

 

 ソウエイの報告を纏めると、ヒナタ以下四名の聖騎士。

 しかも、その四名は中々の手練れと見受けられた。

 

 足手まといは排除して、最高戦力でリムル達に挑むのか?

 生半可な戦力では、邪魔にしかならないと判断してのことだろうか?

 

 リムルは、幾つもの推測を頭の中に並べ立てていく。

 

 

「ヒナタは、俺達と戦うつもりなのか……?(俺のメッセージを見て、戦いを回避して話し合いに応じてくれないかと、期待していたんだけどね……)」

 

 リムルはヒナタと戦う事はあまり考えたくなかったのだが、こればかりはヒナタ次第だと思わざる得なかった。

 

 それにソウエイが、何ともいえないような顔で答える。

 

「不明です。ですが、怪しげな剣を背負っていたので、話し合いというような雰囲気ではあり舞えんでした。イチオ殿はこの剣について何か知ってはいませんでしょうか?」

 

 そう言いながらツキハとコハクに目を向けるソウエイ。 

 

「せやねぇ。詳しい事はわからしませんけどな、あれは何やら切り札的な剣らしいおすえ」

 

 コハクは、ヴェルドラもこの会議に参加しているので、敢えて竜破聖剣(ドラゴンバスター)の事は伏せておいた。

 

 何よりツキハがこの剣の事を知ると、間違いなくルベリオスに殴り込みをかけるのは目に見えて明らかだから。

 そしてヴェルドラも『クワッハハハハ、そんな剣で我に挑むとは、笑止! いくぞツキハ!』とか言って、ツキハと一緒に飛び出しかねないからだ。

 

 だから、イチオからの報告でこの剣の正式名称だけはツキハにも伏せておいたのだ。

 

「うーむ、切り札ねぇ。それだけでは判断出来ないな……」

「リムル様、聖騎士達は完全武装なのですけれど――」

「え? あぁ、そうなの? それさ、かなり本気っぽい?」

「はい! 恐らくマジっぽいです!」

(えぇ、マジなのか……)

 

 トーカの元気のいい答えを聞き、リムルはヒナタに合流する完全武装の聖騎士達の事を考え、話し合いよりも戦いになる予感に襲われた。

 

(戦いかぁ。出来れば話し合いで解決したかったんだけどな)

 

 話し合いの道は立たれたかなと、リムルは残念な気持ちで考える。

 

 魔物を邪悪な存在と切って捨てる行為、そしてわかりあえる可能性すら斬り捨てる行為。

 果たして、その先に何を望み、何を目指すと言うのか……?

 

 お互いを理解しようとしなければ、そこには――

 相手を滅び尽くす道しかなくなる。

 

 話し合いの拒否、ヒナタがそれを選択するのならば、それは一方的に自分達の考えを押しつける行為に他ならない。

 

 自分達の教えこそ正義、そこに本当の正義なんてあるのかと、リムルは考える。

 

(初対面から人の言葉に耳を貸さないヤツではあったけども、そこまで馬鹿にはみえなかったんだよな。やっぱり、ルミナス教の教えのせいなのだろうか? 相手が魔物だから、言葉を聞く必要のないと、いう事なのだろうね。宗教の名の(もと)に流れた血が多い事など、俺達の時代の日本に生きて来た者ならば常識だろうに……。いや、待てよ。ツキハとコハクみたいに違う時間線の日本から、来たとか? ってそうそうそれはないよなぁ。少し考え過ぎだな。とにかく、自分の目と耳で感じた事を、自分の頭で判断する事が大事だろうに。それをしないのは、思考放棄をしているに過ぎない愚かな行為に近いんじゃないだろうか? まあ、そうはいっても結局のところ、得た知識をどう使うかは本人次第だし、それによって生じる判断や行動は本人の責任に帰結するしな。ヒナタが俺達と敵対すると選択したのならば、俺達は受けて立つだけだ)

 

 リムルは最悪の結果へと進み出した事に頭を振り、気持ちを切り替えていく。

 

「考えても仕方ない。ヒナタへの対策を考えよう」

 

 ヒナタが攻めて来るのが確定に近いものとなった今、放置も出来ないと、リムルは考えた。

 ヒナタはリムルが相手をするとして、残りの聖騎士達を誰が相手にするのか、それを決めねばならなかった。

 

 先ず、ツキハとコハクは論外、オーバーキルになり兼ねなく、後の交渉が困難になる。

 勿論、ヴェルドラもこれには出せない。

 

 ならば、ベニマル以下ハクロウ達を迎撃に当たらせるか? そんな思案をリムルが巡らせていると―― 

 

 更なる凶報が入った。

 

 

「リムル様。御報告が、あります……」

 

 何やら神妙な顔付でディアブロが、言いにくそうに口を開いて来た。

 

「どうしたディアブロ? もしかして、何か問題が起きたのか?」

 

 リムルは、いつものように自信満々な様子ではないディアブロから、問題が起きたのだろうと察した。

 

「はい、レイヒムが死にました。死因は不明ですが、恐らくは殺されたものと……」

 

 ディアブロはが最後にレイヒムを見た時は、身体的異常は全く見当たらず、暗殺されたか事故にあったかの、二択だと告げた。

 

「ツキハとコハク、それにリムル様が口封じを懸念していたというのに、これは、私の落ち度です……」

 

 申し訳なそうに告げるディアブロ。

 

「それと既に、ファルムス王国周辺国家に、『悪魔の策謀によって大司教が暗殺された』という伝聞(でんぶん)が出回っております。それが魔法通信によって事情が拡散され、それに呼応するように各国の神殿騎士団が動き出しました。恐らく数日の間に準備を整え、新王エドマリスに合流するものと思われます……」

 

 ディアブロは苦々しい表情で言う。

 

 するとそこへ。

 

「まあ、起きた事をとやかく()うても仕方ないやろ。これは落ち度と()うよりも、人間の狡猾さと手段を読み違えただけや。いくらディアブロでも、人間の本質を完全に見抜くなど無理おすやろ。人間を深く知る者は、人間だけや。だからあの時うちらは、レイヒム暗殺を懸念したんや。うちらなら、確実にレイヒムを消すさかいな。目的を果たす為に、レイヒムを餌にディアブロの目的を潰す、こんなとこやろ。相手も一筋縄では、いかんというところどすな。せやろ、リムル?」

「ああ、確かにな(人間を深く知る者は、人間だけか……言い得て妙だが、コハクの言う通りだよな)」

 

 コハクが暗にディアブロの落ち度ではなく、魔物が人間の本質を知るには難しいと、ここにいるリムルの幹部達に言ってるように話し、リムルもそれに深く頷く。

 

「しかも、レイヒムの暗殺は、多分ルベリオスで暗殺されたんやろな。流石にあそこはうちらでもおいそれと手が出せんし、ルベリオス内での暗殺ならどうもできんおすえ。でもな、相手も一つミスを犯したんやで」

 

 ニィッと口端を上げて軽く笑いを浮かべ言うコハクに、リムルが問う。

 

「ミスだと?」

「せやで、リムル。レイヒムはディアブロのユニークスキル『誘惑者』に落ちてたんや。だから、暗殺されたレイヒムの事がこちらにもわかったんや。早い遅いやあらへんで? 奴らはな、内部に暗躍してる者がいますよと、こちらに教えてくれたんやで。ルベリオス内での暗殺は、部外者には不可能やからな。これがわかっただけでも、大きいと違うんか?」

 

 コハクの言葉にリムルは、少し考えに(ふけ)る。

 

(そうか……ヒナタが動き出したこのタイミングでの、レイヒム暗殺)

《解。全ては繋がっていると思われます》

(だよな。しかし、やれやれだなこれは。まだ神敵認定はされてないだろうが、これは時間の問題かもな。正式に認定されたら全面戦争不可避、か……)

 

 智慧之王(ラファエル)の指摘に、リムルも深く頷く。

 

「コハクの言う通り、教会内部も一つに纏まってはいないかも知れない」 

 

 リムルが静かに言うと、ベニマルが進言して来た。

 

「そう言えばリムル様、ゲルドを呼ばなくてよかったのですか?」

「ああ。ゲルドは今、大きな仕事を頑張ってくれているからな。今回は俺とヒナタの問題だし、戦いになっても大軍は必要とはしないし、今の仕事に集中してほしいんだ」

 

 ベニマルの進言にリムルは、今は必要じゃないと返す。

 

(この世界の理不尽、個の力があまりにも強大過ぎると、数の力に意味がなくなってしまうんだよな……)

 

 そんな事をふと、考えてしまうリムル。

 

(やって来る聖騎士達は、個々人がAランクオーバーの強者(きょうしゃ)達。相手にするならば、幹部達でないと相手にならない。どの道、今からではゲルドの部下を全員呼び戻すのは困難だし、俺の転送魔法を使うのも可能だが、現地に部隊編成をするのに時間がかかり過ぎる。となると、幹部達とその配下で事に当たる方が、迅速に対応できていいだろうな)

 

 そう考えたリムルは、幹部達と少数の配下達で迎撃に当たろうと決めた。

 

 そして、この街の周辺には既に警戒網が敷かれ、イチオと連携してヒナタ達の動向を把握している。

 

 ここに来て、ソウエイ達の情報収集能力が各段に上がってきているのを、リムルは実感していた。

 ソウエイは金で雇った情報屋を利用したり、自らの『分身体』を変装させ送り込んだりしていたのだ。

 

(ほんと、ソウエイのヤツに忍者の心得とか教えた事があったんだけど、本当の忍びが身近になった事で、俺の教えた事と、番外魔王眷属の忍びの術などを見よう見まねで、独自に発展させつつあるんだよなぁ。そう言えば、ソウエイが言っていたな。番外魔王の眷属達は、街にいる冒険者や商人の者とよく酒などを飲みにいってると。喧嘩はするし、問題も起こすけど、そのどれもが一貫性のある行動に見えると。情報収集能の為に相手の懐に知らぬうちに忍び込む、そんな行為にもみえると……。魔物でありながら、人間に警戒されずに懐に忍び込む、これは凄まじく高度な諜報戦だと言っていた。気さくに人間に接触する、この接触法を知りたくてコハクに一度教えを請いにいったらしいけど、『こんなもん、教えて出来るものじゃないで。知りたいのなら、一杯人間と触れ合いなはれ』と言われたらしい。まあ、アイツらの情報収集能力についてあまり詮索は出来ないからな。やり過ぎると敵対行動とみなされて、違約金を取られたうえ全面契約破棄、もれなく敵認定されるというね)

 

 リムルはいつの間にか腕を組んで目を瞑り、考え込んでいるのに気付かずにいた。

 幹部達はそんなリムルを見守りつつ、リムルの言葉を待つ。

 

 コハクは出されたお茶を優雅に飲み、ツキハはリムルと同じように腕を組み、目を瞑ったまま時折なにか頷いていた?

 

(まあ、ソウエイ達の情報収集能力が上がるのには大歓迎だし、〝隠密〟という役職が、まさにソウエイに取って、天職だったんだろう。何せ、いい御手本が身近にいるのは大きい、って!? 不味い不味い、考え込んでたか)

 

 ここに来て、ようやく自分が考え込んでいたのに気付くリムル。

 

「うん、とにかくだ。ここは、今いる幹部達とその配下でヒナタ達に当たろうと思う」

 

 リムルの発言を聞き、それにソウエイの発言が続く。

 

「先程報告した神殿騎士団の動きですが、ファルムス王国を囲むように続々と集結している模様。ロモコ殿達がファルムス王国周辺に散って監視しているのですが、少数規模での移動ゆえその動きは速く、その総数は三万を超えるだろうとの事です。その目的は、〝悪魔を滅ぼす〟事であり、内乱そのものに干渉するつもりはない模様です。ですがこのままでは、他国やファルムスの有力貴族達からのヨウム殿への援軍は期待出来ません」

 

 それを聞いてディアブロの顔色が悪くなっていくが、自分でも情報は掴んでいたらしく、驚く様子はなかった。

 むしろ、話題に出ている悪魔というのが間違いなくディアブロを指しており、どこから情報が漏れたのか、そこを気にしているようであった。

 

(三万か……。これはかなり大規模で無視は出来ない規模だな。兵站(へいたん)も農村部から補給し放題だし、持久戦になったら、不利なのはヨウム側か。面倒な話になって来たな)

 

 ヒナタだけではなく、ヨウム側も危うい雰囲気を醸し出しつつある現状にリムルは厳しい顔を取る。

 

 何気にチラリとツキハの方へ目を向けると、目を瞑ったまま腕を組み頷いているのを見て、今回はアイツも真面目に考えてるんだなと思った。

 

「――しかし各国の王達は、西方聖教会に同調して軍を動かしてはおりません。イチオ殿の報告によると、教会内部には少なくとも三つは派閥があるようで、それにより命令系統が複雑になっているようなのです。内情をもっと詳しく知ることが出来れば判断も付きやすいのですが……」

 

 小さく頭を振りながら告げるソウエイ。

 

「なあ、コハク。その派閥の具体的な事は、わかるか?」

 

 ソウエイの報告にリムルがコハクに尋ねる。

 

「派閥どすか? せやねぇ、あの小娘(ヒナタ)が率いる聖騎士団、それに法皇直属近衛師団。その上に君臨する〝七曜〟、この三つやねぇ。あ、神殿騎士団はこの三つの下位組織みたいなものやから、数には入らんで?」

「聖騎士団に近衛師団、それに〝七曜〟か。なあ、この七曜ってのは、何だ?」

「七人の老師から成る大賢人と呼ばれる者達、そこまでしか掴んではおまへんな」

「そうか、それだけでも助かる。また何かわかったら、直ぐに報告を頼む。情報料には糸目は付けないから」

「へえ。わかりましたえ」

 

 とりあえず、ルベリオス内部に存在する三大派閥が判った事で、安堵の表情を浮かべるリムル。

 

(しかし、謎の多い組織だよなぁ……ユウキもよく知らないと言ってた程だし)

 

 リムルのそんな考えを読み解くようにディアブロが、口を開く。

 

「こんなことなら、もっと詳しくレイヒムに事情を聞いておくべきでした……」

 

 悔しそうに言うディアブロ。

 

 基本ディアブロは、自己完結している。

 下等と見下す者からは、意見を聞いたりはしない。

 

 それがツキハとコハク達とは違うところであり、今回はその事が裏目に出たのだ。

 

 するとそこへ――

 

「その通り! お前の失態だぞ、ディアブロ。ならばここは、先輩として私がお前の代わりに指揮を取った方が良さそうだな、ディアブロ!」

 

 ここぞとばかりにシオンがディアブロに、言い放つ。

 

 後輩であるディアブロが重要な任務についているのが裏ましいのか? というシオンの発言に、普段なら即座に言い返すディアブロが黙っているのを見て、(仕方ないな。俺が変わりにシオンに聞いてみるか)と、リムルはシオンに問うてみた。

 

「それで、シオン。仮にお前が指揮を取ったとして、どうするつもりだ?」

 

 万に一つの可能性を秘めて、素晴らしい作戦があるのかと問うリムル。

 

「はい! 勿論、私が部隊を率いて王侯貴族を皆殺しにします! ツキハ様もサンコ殿も常日頃(おっしゃ)っています。舐められたら終わり。舐めた(やから)は即潰せ! と――」

 

(そんな可能性は、なかったよ)

 

「馬鹿野郎! そんなん却下だ、却下!! ってか、ツキハもサンコも何ぶっそうな事吹き込んでんだよ!」

 

 現支配体制の頭を潰したら、本末転倒である。それこそ内乱が勃発して、我も我もと覇権を狙う者が後を絶たなくなる。

 

 国を統治するのならば、頭だけを()げ替えてゆっくりと新しい制度を浸透させていく。

 この方法が一番被害が少なくて済むと判断し、それを見越したからこそリムルは、頭の切れるディアブロにこの任務を任したのだ。

 

 だから、シオンには無理な相談であったのである。

 

「やはり、駄目でしたか……。ツキハ様達みたいには、上手くいかないものですね」

 

 シオンも自覚していたのか、あっさりと引き下がり、リムルの背後に静かに控える。

 

 最初から駄目なら言うなよと思うリムルだったが、シオンの雰囲気からしてディアブロの仕事を奪うつもりはなかったんだなと感じた。

 

 というより、その失敗を庇おうとしての行動だったんじゃないかと、リムルは考えた。

 

(そうか、シオンなりに気を使ったんだな。相変わらず不器用というか、あれだな、ククッ。それよりもだ)

 

 そう思ったリムルは、ぶっそうな事を吹き込んだ張本人を見るが、まだ目を瞑ったまま腕を組み頷いているツキハを見て――

 

(んん? 何かおかしくね? まだ頷いている……あ、止まった。うーん、もしかして――)

《解。個体名ツキハは〝居眠り(低位活動状態)〟をしていると断定します》

(だよなぁ。よくみると、誰かの発言に反応して頷いているみたいだし)

《解。ある言葉のワードに反応して、頷く行為をするように設定していると推測します》

(あぁ……。これもう、芸が細かいとか言う以前に、能力(スキル)だろ! なんだ、この無駄に高性能な能力はよ!)

 

 さりげなく智慧之王(ラファエル)がツキハの居眠りを暴露し、またもやツキハに対して心の内でツッコミを入れざるを得ないリムル。

 

 そしてコハクの方に目を移し、視線でツキハが居眠りを噛ましているぞと訴えるリムル。 

 

 パコーン!

 

 気持ちのいい乾いた音が会議室に響き渡った。

 

 コハクが裏拳で、ツキハの顔面をシバいたのである。

 

「あがっ!? え?  ん? あぁ……」

 

 いきなりシバかれて低位活動状態を解除されたツキハは、周りを見渡し、皆の目が自分の方に向いているのを確認すると、バツの悪そうな顔を一瞬だけして、キョロキョロと何かを探すように首を回す。

 

「サンコは……いないの?」

「あんたの悪巧みに付き合って森の奥へ行ったまま、まだ帰って来てまへんで」

「え? ……ナニシテンノヨ、サンコッタラ」

 

 ブツブツと何かを呟きながら巻き込める相手がいないのを悟ると、お茶を配っているハルナに「お茶ちょうだい」と、にこやかに頼むツキハ。

 

(うむぅ、あの図太い神経はどこから来てるんだろうか? 五千年も生きてるとああなるのか?)

 

 全く気にする様子も無くお茶を飲むツキハを見て、半ば呆れた様な心境になるリムル。

 

 そして、緊迫した空気が台無しになった会議室だが、どこかピリピリと切り立った感じは消えていた。

 

(フゥッ、まったくアイツときたら。でもあれだな、あんまりピリピリした空気もよくなかったしな。ほんと、天然というか、掴みどころがわからないな、ツキハのヤツ。ククッ)

 

 緊迫した空気が変わり、リムルは気持ちをすんなりと切り替えることが出来て、自分の考えをディアブロに告げる。

 

「ディアブロ、誰にでも失敗はある。ツキハとコハクからその可能性を聞いた俺でも、まさか本当にレイヒムが殺されるなんて思わなかった。それに、お前の正体がバレたのなんて、そこまで問題じゃないだろう?」

「え!? しかし、ですが、リムル様……? 悪魔の関与と騒がれては、任務の続行に……」

 

 驚いたようにリムルを見るディアブロ。

 気落ちしていたのは、任務から外されるのは間違いないと、思い込んでいたからである。

 

「ディアブロ。いいか、失敗したからといって、責任を取って辞めますじゃないんだ。それをどう挽回するか、これが大事なんだよ! 失敗しました、では責任取って辞めますは、誰でも出来るだろうが! 既に、ヨウムと俺の繋がりは公表してある。ディアブロは悪魔だ、だが、それがどうした? お前は俺の部下だ。周囲がいくら騒ごうが、全く関係ない。俺の国には、ヴェルドラがいる。そして今や、番外魔王とその眷属達がいるんだ。そんな問題は今更だろう? だからな、今問題にすべきは、レイヒムを殺した犯人は誰かだろ。それがディアブロではないと、証明すればいいだけだ。そこまで難しく考える問題じゃないよ」

 

 そう、ここは魔王の国。

 悪魔がいたとしても何の問題もなく、様々な配下がいてもそれが自然であり、そこに不自然さは存在しないのだ。

 

 

「そうですよ。シオンだって貴方に代われるとは、思っていないでしょう」

 

 シュナが優しく言葉をふわりとかけて来る

 

「いいえ、シュナ様。私ならばツキハ様みたいに、即座にファルムス王国を灰燼に――」

 

 意気揚々と言いかけたシオンを、シュナが一瞥(いちべつ)して黙らせる。

 その鋭い眼光は、シオンでも逆らえない迫力があった。

 

 そこへツキハが「あたしを巻き込むんじゃないよ、シオン!」と言い、コハクが「あんさんが自慢げに、小国を二つ滅ぼしたと話して聞かせるから悪いんえ」と言い放ち、シュナがにっこりとツキハを見るや、グリっと勢いよく首を横に向けるツキハ。

 

「――思ってすらいませんでした。ですが、不器用であるも、シオンなりの激励だったのですよ。貴方もリムル様に御仕えしているのだから、小さな失敗で落ち込んでいる場合ではありません」

 

 優しくも厳しい言葉を送るシュナ。

 

 シオンが「シュナ様、それは買い被り過ぎです。私は第一秘書の先輩として、この新参者に威厳を見せつけただけです!」と、ドヤ顔ながらも、どこかしか照れ隠しをしているようにも見えた。

 

(ふーん、やはりアレはシオンなりの激励だったのか。ほんと不器用でシオンらしい。それを見抜いたシュナも凄いな。しかし、ツキハのヤツほんとシオン達と仲が良くなるの早いよな、コハクもだけど。やっぱり女同士通じる物があるのかね) 

 

 そんな事を考えながらリムルは、この件について纏める。

 

「ま、そういう事だな。援軍については、これからの作戦次第だ。最悪の場合は、ルヴナンに出張ってもらうし、その隙にゲルド達を呼び戻しても良い。そして、俺が前線に出るさ」

 

 リムルの言葉を聞いてもベニマルも全く動じず、大事なのは部隊の迅速な運用だと、数の不利を気にする素振りも見せない。

 

 そう、リムルの話を聞きながらベニマルの頭の中では、迅速かつ攪乱に秀でた部隊、ルヴナンの傭兵部隊を組み込むプランも考えていたのだ。

 このルヴナンを使う事は強敵を想定したプランであり、ヨウム派援軍を最適な位置に展開する構図が幾つも描かれていく。

 

 ベニマルは、神殿騎士団の全軍を相手にしても問題はないとばかりに、その自信には一切の迷いはなかった。

 

「――では、私がこのまま作戦を続行しても宜しいので……?」

「当たり前だろ、ディアブロ。こっちはヒナタの相手で手が一杯だ。ファルムス王国の攻略はお前の仕事だ」

 

 ここで言葉を区切りリムルは、ニィッと軽く笑いを浮かべディアブロを見る。

 

「レイヒムを送り出す事を許可したのは、俺だ。その責任は俺にもあるさ。だから、このファルムス王国攻略は、お前が全うしろ。それとも、無理そうか?――」

「いいえ、とんでも御座いません! リムル様が信頼してお与え下さった仕事。是非とも最後まで私にお任せください」

「やれるか?」

「クフフフフフ、当然です!」

「良し、任せた。キッチリ汚名を返上してくれ、ディアブロ」

 

 リムルの言葉により、自身と余裕を取り戻したディアブロだが、そこへ。 

 

「ディアブロ。あんさん一人でやるもよろしおすけど、舐めた者をいわすには一人くらい補佐を連れていって、より完全にシメてもええんやないか? ふふふ」 

 

 コハクがディアブロに事無げに言う。

 

 コハク(いわ)く、舐めた事をした(やから)は死ぬより辛い恐怖を見せろと、暗に言っていたのである。

 

 このコハクの発言に幹部達は皆、否の声を上げなかった。

 

 暫し顎に手をやり、思案するディアブロ。

 それはすぐ終わり、コハクに次の言葉で尋ねる。

 

「コハク。それは、貴女のところから誰でも一人、貸してくれると?」

 

 冷えた笑みを浮かべコハクに問う。

 

「ええで。誰でも好きな者を一人連れていきなはれ。ふふっ」

 

 コハクもまた斬れるような笑みで、ディアブロに返す。

 

「ククッ、そうですか。不本意ではありますが、それも面白いかも知れませんね。リムル様、宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないさ。この作戦の指揮者はお前だ。お前の判断に任せる」

「ありがとうございます、リムル様。では、コハク。イチコを貸してもらえますか?」

「ええで。イチコ、ディアブロの指示に従って動きなはれ。くれぐれも出過ぎた真似はあかんで」

 

 コハクが後ろに控えるイチコに命じる。

 

「はい、コハク様。仰せのままに」

 

 後ろに控えたイチコがコハクに深く頭を下げ、頭を上げるとディアブロの方へ静かに歩き行き、ディアブロの後ろに控える。

 

 

 そんな立ち直ったディアブロを微笑みながら見ていたシュナが、おもむろに口を開く。

 

「リムル様、不躾ですがご提案が御座います」

「ん? 珍しいな、シュナが提案なんて。何か意見があるのなら言ってくれ」

 

 シュナが会議で提案するのは珍しい事であった。

 

 そして、シュナが提案を話し始める。

 

 

 

 




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