忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。87話です

 ※作中使用の特殊フォントは、〝ライム酒様〟作成の特殊フォントを使用させて頂いています。 

 特殊フォントの反映には時間が掛かる場合がありますので、ご了承ください。







87話 逃 亡 猫 

 

 

 ツキハが工房に戻って来る、二時間前の出来事。

 

 

 サンコは必死に逃亡先を考えていた。

 

(どこニャ、どこに身を隠すニャよぉー)

 

 中央都市リムルの街中を三毛猫状態で、建物の屋根から屋根を飛び移りながら疾駆するサンコ。

 

 ツキハから如何(いか)に逃げるかを考えつつ、サンコは無い知恵を振り絞る様に思考能力を全開にする。 

 

(どうするニャ、どうするニャ……!? そうニャ! 小石隠すには砂利の中ニャ!)

 

 サンコは、屋根の上でキィーッとブレーキを掛けるように立ち止まると、(きびす)を返し、とある住宅区に向かってダッシュしていく。

 

 サンコが向かった先は、幹部専用住宅区。

 

 そこに住居を構える一人の幹部の所へ向かったのだ。

 

 

 サンコの逃亡先選択、その①

 

 ① 古巣(・・)に戻り隠れる。

 

 だが、そこはもっともバレる危険性が高い場所。

 必然的に、そこは除外される。

 

 

 サンコの逃亡先選択、その②

 

 ② 敢えて魔国連邦(テンペスト)から出ずに、中央都市リムルに潜伏する選択。

 

 気配を隠蔽して紛れ込ませれば、当分は潜伏出来るかも知れない?

 

 その、〝かも知れない〟に賭けたサンコは、②の選択を選んだのだ。

 

 

 幹部用住宅のとある一軒家。

 

 その庭で一人の男が上半身の着物を(はだ)け上半身は裸になり、下は袴に裸足で木刀を持ち、一心不乱に剣の型の鍛錬をしていた。

 

「せいっ!」

 

 鋭い気合と共に振り下ろされる木刀。

 

 その凄まじい剣圧はふわりと地面の砂塵を巻き上げ、その男の足元に軽く渦を巻いていた。

 

 そこへ一匹の三毛猫サンコが飛び込んでくる。

 

「うおっ!?」

「邪魔するニャ、ベニマル。ちょっと緊急事態ニャよ! しばらく(かくま)ってくれニャ!」

「はあ? サンコか?」

 

 早口でまくし立てたサンコは、ダッとベニマルの家に駆けこむと、押し入れの戸を開けて中に入り込み、ピシャンと閉めて、押し入れに立て()もった。

 

 いきなり現れて押し入れに立て籠もったサンコに呆気に取られたベニマルは、物干し竿にかけていたタオルを手に取り、上半身に流れでた汗を拭きながらサンコに尋ねる。

 

「なあ、サンコ。いきなり来てどうしたんだ?」

『ニャ? 訳は聞いてくれるなニャ。とにかく命の危険が危ないのニャ!』

 

 ベニマルの言葉に『思念伝達』で返すサンコ。

 

『あぁ、そうなのか。でもな、危険が危ないは、意味がわかんらんぞ? おおよそ検討は付くけどな』

『ベニマル、そこは気にしたら負けニャよ?』

『なあお前、今首を傾げながら言ってるだろ? 落ち着いて言葉を話せって、俺がいつも言ってるだろうが。どうせ、また何かやらかしたんだろうけどな』

『ニャ、ニャにを言ってるニャ、ベニマル。些細なことを気にしてはダメニャ。ミリム様もそう仰ってるニャよ?』

『はぁー。全くお前と来たら、何でそこでミリム様が出て来るんだよ……』

 

 サンコの慌てぶりから大方の予想が付いたベニマルは、呆れたように大きく溜息をつく。

 

『まあ、事情はわかった。けどな、一つ言っておく。とばっちりは御免だからな。いいな、サンコ』

『わかってるニャよベニマル。じゃあアチシは今から気配を隠蔽して潜むから、サラバニャ』

『ちょ、お前……って、いつもながら見事に気配を隠すもんだな。消すではなく、隠し偽るか。ソウエイがこの技術を習いたがってるのも、頷けるよなぁ。ククッ』

 

 今まで感じていたサンコの気配が、瞬く間に周囲の気配と交わり、サンコの気配が隠されていく現象にベニマルは思わず笑みを(こぼ)した。

 

 朧流隠形術の気配を消す術とは、一線を画するサンコ達が使う隠形術。

 この、隠形術を得とくすべくソウエイ達は眷属達と行動を共にしたり、合同情報収集を行ってたりする事が多くなっていた。

 

 これに関しては、最初にサンコと接触したベニマルの体験談による事が大きかったりもする。

 

 そして、ツキハとコハク曰く。

 習うより慣れろ、ようするに見て盗めと、ソウエイ達に言ったのだ。

 

 実際、気配を消す事は完璧に行えるのだから、後はその応用である。

 

 ようするに、気配を消す事は動かなければ有利だが、実際動けば音が鳴るし、大気が動き微かな空気の乱れも起きる。

 

 その、動いた時の音や大気の乱れなども誤魔化すことが出来るのが、ツキハ達が使う隠形術の特徴でもある。

 

 特に、ユニークスキルや究極能力(アルティメットスキル)持ちに対しては、ただ気配を消すだけでは格上に対して感知される危険性が大きく、能力(スキル)持ちの『魔力感知』や『万能感知』などを掻い潜る為の術なのだ。

 

 それが、ツキハとコハクの眷属達が使う、気配を偽り隠し、周囲の気配と同化させる。

 これが、ツキハ達が使う隠形術の正体であった。

 

 そして、ソウエイ達の訓練成果も着実に表れている昨今、この二大諜報機関が魔国連邦(テンペスト)にもたらす恩恵は計り知れないものがあると、ベニマルは考えていた。

 

「フッ……。本当に、敵にならなくて良かったな」

 

 軍師として、敵より先に情報を掴み、その情報を操り先手を打つ、これが如何に重要なのかを体現した今日この頃、その事を思い、小さく口に出し呟くベニマルであった。

 

 とりあえずは押し入れに隠れたサンコは放置して、剣術の鍛錬に勤しむベニマル。

 

 木刀を振り続けること二時間が経ち、押し入れに隠れているサンコは呑気に寝息を立てていた。

 

 

 そこへ、身を斬るような妖気(オーラ)を感じたベニマルは。

 

「これは!?」

 

 その感じた方向へ目を向けると。

 

 空からふわりとツキハが舞い降りて来た。

 

 ベニマルの家の庭に降り立ったツキハは、チロリとベニマルを見ると、静かに問うてきた。

 

「なあベニマル。ここに、うちの馬鹿が来たでしょ? どこに隠れてるのかな?」

「え? あー、誰ですかねぇ?(なんだ!? いきなりサンコの逃亡先バレてるじゃねーか!)」

「いるでしょ? ふふっ」

 

 来るなり、サンコの逃亡先を確定したツキハにベニマルは、目を泳がせながらしどろもどろになりつつ、次の言葉を『思考加速』をかけて模索する。

 

(どうするんだこれ? ツキハ様の口調は一見穏やかだけど、あれ、絶対怒ってるよな? なあ? どうやればトバッチリを回避できる……)

 

 心の内で自問自答を繰り返すベニマル。

 嫌な汗がツーッと、ベニマルの額に一筋流れ落ちていく。

 

『にょわああああああ!! もうバレたのニャ!? 終わった、アチシの人生は、ここで終わった……。だがしかし、そこはベニマル次第ニャ! 隠し通すのニャよぉおおお!!』

 

 今まで爆睡していたサンコが、ツキハの気配に気付き、『思念伝達』で絶叫する。

 不意打ち気味に頭の中に響くサンコの声にベニマルが驚き、怒り気味に返す。

 

『おい! いきなりデカイ声出すんじゃねえよ! それと何だ、俺次第って、巻き込む気満々じゃねーか!!』

『ベニマル、ここは男を見せるのニャ! 幼気(いたいけ)なアチシを守るのニャ!』

『ほうー、お前が幼気だと? なあサンコ、お前は俺より遥かに年上じゃねーか! それに他者に守ってもらう程に弱くはねえよな? いや、(むし)ろカリュブディス蹴り貫く幼気な生き物など存在しねえ! どの口が言う、ああ!、どの口が言うんだよ!?』

『どの口? この口ニャよ? ニャふ』

 

 ベニマル怒りのツッコミにサンコは、自分のにこやかに笑った猫顏を思念イメージで送り、言い放った。

 

 プチン

 

 何かが切れた音がサンコの耳に届く。

 

『ニャんだ?』

 

 サンコの脳裏に?が浮かんだ、その時――

 

 『思考加速』を解除したベニマルが、ツキハに声をかける。

 

「ツキハ様」

「ん? なにベニマル」

 

 ツキハの名を呼んだベニマルは、爽やかな笑顔で自分の家の部屋にある押し入れを指差す。

 

 その指差された方に視線を向けたツキハは、ベニマルにニヤリとした笑みを返し、押し入れのある部屋に上がり込んでいった。

 

『ふぎゃああああああ! ベニマル、アチシを売ったなー!』

『売った? 人聞きの悪いことを言うなぁ、ククッ。俺言ったよな? トバッチリは御免だと。だから、そう言う事だサンコ。ククク』

『おまえなぁああああああ! あ、ああああ、来る、怒りの大魔人が来るニャよぉおおおお。隠れるところ、隠れるところは、どこニャーー』

 

 ベニマルにバラされ、ツキハに見つかったサンコは、パニック状態で押し入れの中をガタガタと駆け回る。

 

 少しでも見つからないようにと、自身の体を小さい子猫状態まで変幻(ヘンゲ)させるも、焼け石に水状態のサンコであった。

 

 押し入れの隅にある木箱の裏でプルプと震えるサンコ。

 

 そして。

 

 カラッと押し入れの戸が開けられる。

 

「サンコ~、大人しく出て来なぁ。今なら、軽いOSIOKIで済ませてあげるよぉ」

 

 サンコの耳に、地獄の底から響くようなツキハの声が届いてくる。

 

 ツキハが押し入れの戸を開けてから数秒後、観念した子猫状態のサンコがゆっくりと出て来ると――

 隙を突いて、ツキハの横を駆け抜けようとする、が。

 

 ガシッと、あっさりツキハに首の後ろを摘ままれ、ツキハの眼前にプラーンとぶら下がった状態になる。

 

「ほほう、この期に及んで、まだ逃げようとするの?」

「ニャ、ニャァー。ゴメンしてくださいニャ、ツキハ様。な、なんでもするニャよ?」

「へえー、何でもねぇ」

 

 もうどうにもならない事を悟ったサンコは、如何(いか)にしてツキハのコワーイOSIOKIを逃れようか、それだけを考えていた。

 

 そんな二人を見ていたベニマルは、「全く、何をやったんだか」などと呟いていると、遠くの方で更なる妖気(オーラ)を感知した。

 

「なに!? これは……コハク様?」

 

 ベニマルがそう声に出した瞬間、ツキハの尻尾の毛がボワッと盛大に逆立ち、あからさまに動揺が見てとれた。

 

「ヤバ……もうバレてるし」

 

 サンコをプラーンと眼前に摘まみぶら下げたまま、ツキハが言葉を溢した。

 

 すると、サンコが恐る恐るツキハに問うて来る。

 

「ニャ? なにやったのニャ、ツキハ様?』

「え? えーとね、アンタの名前で臨時予算申請を出したのよ。偽造だけどね』

「はニャ!? なぜアチシの名前が出て来るニャ?』

「大丈夫だよサンコ。その臨時予算申請を承認したのは、あたしだから』

「それ、全然大丈夫じゃないニャ。しかも、アチシも共犯者になってるニャよね……?』

「うん、思い切りなってる』

「アホなのかニャ!? コハク様にあれだけこっぴどくOSIOKIされたのに、懲りずにまたやるなんて、ツキハ様は学習って知ってるのかニャ!?』

「うん、アンタよりはよく知ってるよ。そもそも、アンタにだけは言われたくないわよ!』

「アホな(あるじ)だから、アチシもバカになったニャよ! 責任取るニャ、バカ主!』

「はああ!? アンタねえ、主に対してその態度、ド突くわよ!』

「やってみろニャ! 道連れに自爆してやるニャ!』

「自爆技? はーん、あたしの自爆技の方が凄いからね!』

「ニャにおー、アチシの究極自爆技をお見舞いしてやるニャ!』

「はあ!? あたしは国を亡ぼすくらい朝飯前だからね!」

「アチシは万の兵を粉微塵に出来るニャよ!」

 

 サンコとツキハの言い争いは、差し迫った危機すら忘れる程にヒートアップしていく。 

 

 何やら明後日の方向に向かう二人の言い争いにベニマルは、「サンコって、ツキハ様に激似じゃないか?」と、思わず口をついて出てしまう。

 

 ギャアギャアと騒ぎ立てるサンコとツキハ。

 そんな二人は、言葉の意味不明さと口調が段々と激しさを増していく、が。

 

「……あ? もう半分も囮が潰されたじゃないか。ヤベぇ……」

「ど、ど、どうするニャ?」

「仕方ない、逃げるか?」

「どこへニャ?」

「とりあえず、ここにも〝対コハク用・追跡妨害呪符・惑わす君〟を仕掛けておこう。時間稼ぎにはなるはず?」

「ツキハ様。首(かし)げて言うのはやめるニャ。不安になるニャ」

「心配するな。あたしも不安だ」

「ニャー、意味不明ニャよツキハ様。そもそも、何でアチシが共犯者になるニャ。理不尽ニャ!」

「サンコ、いいかい? 魔王はね、理不尽な生き物なんだよ。わかるね?」

「知らんニャ。番外魔王は、魔王じゃないニャ」

「細かい事は気にしない、いいね?」

「そこは気にしないと、ダメじゃないのかニャ?」

「いや、いいんだよサンコ。今は、コハクの魔の手から逃げる事を考えないとダメだぞ」

「いきなり話をズラすニャ、ツキハ様。でも、なんで魔の手ニャ? どっちかと言うと、激怒の手が追って来るニャよ」

「だよなぁー。こうなれば、未来の自分に怒られてもらうしかないよねぇ……」

「はニャ!? もしかして、『時空間操作』で、時を操れるのかニャ、ツキハ様?」

「え? むりむり。そんな超高度な術も技もないけど?」

「ニャァ……だから首を傾げて言うのはやめるニャ、ツキハ様。なんで積極的に不安を煽りにいくニャよ……。ってか、コハク様の怒りの覇気が魂の回廊を通じて、こっちに流れて来てるニャよぉおおおお!」

「あ……もう〝惑わす君〟残り三分の一だわ。マジヤバじゃん。サンコ、アンタここで囮に――」

「――いやニャ! 何言ってるニャよバカ主!」

「ちょ、ちょっとアンタ何してんの!? コラっ!――」

 

 散々言い争いを続けていたサンコは、ツキハの囮になれの言葉を聞くや、摘まみぶら下げられた状態で身体をバタバタと暴れさせツキハの手を振り解くと、子猫状態のままツキハの頭の上にガシッと四肢を広げ張り付いた。

 

 ツキハが「コラっ! 降りろ!」と言っても、四肢の爪をガッチリ頭にくい込ませていくサンコ。

 

「アダダダダダ、痛くはないけど、ってか。爪に打振を流すのはやめろ!」

「連れてくニャ! 一緒に逃げるニャ! 一人置き去りはあんまりニャー!」

「わかった! わかったから爪を立てるのはやめろ! ねっ? 降りろって!」

 

 頭に張り付いたサンコを引き剥がそうとするツキハだが、サンコはそれに全力で抵抗していた。

 

 

 完全に置いてきぼりにされたベニマルはというと。

 

 そんな、言い争う二人を見ながら。

 

(やっぱり、ツキハ様の影響がデカイよなぁ……。サンコの行動原理の原点が、ここにあったんだな……)

 

 と、内心ぼやき、遠い目で二人見るばかりであった。

 

 

 そして、〝惑わす君〟完全消滅まで残り、僅かになる。

 

 それを感知したツキハは、慌てて〝惑わす君〟の術を行使していく。

 

 印を九つ結ぶと、右足で軽く地面を踏み鳴らし、パンと両手を眼前で叩き合わせ、ツキハが言霊(ことだま)を口にすると、宙に文字が浮かび上がる。

 

 かくせ ぬばたまの やみ

 隠せ ぬばたまの 闇

 

 まいおどれ まほろばの げんじゅふ

 舞い踊れ まほろばの 幻呪符(げんじゅふ)

 

「忍魔術・幻遁 〝対コハク用・追跡妨害呪符・惑わす君〟。続いて〝惑わす君・改〟!」

 

 術名をツキハが告げると、ツキハの前に光の粒子が渦巻き、二枚の呪符が具現化した。

 その呪符は真下にスーッと降りていき、地面に吸い込まれるように消えていった。

 

 これで、〝惑わす君〟の設置は完了した。

 

 ツキハはベニマルの方に向くと、矢継ぎ早に(まく)し立てる。

 

「いいかいベニマル。あたしとサンコは逃げるからアンタは知らぬ存ぜぬを貫き通す事、いいね? とにかくしばらく帰って来ないから、リムルには宜しく言っておいてね。じゃあいくね!」

「え、あ、はい」

 

 それだけ言うとツキハは、頭にサンコを乗せたまま『空間転移』で何処へと転移していった。

 

 後に残されたベニマルは、呆気に取られた様に頭をポリポリと搔きながら、苦笑いを浮かべるだけであった。

 

 そして、そんなベニマルの背後からいきなりコハクが現れた。

 

「!? な、こ、コハク様?」

 

 周囲にある気配に紛れ、突然現れたコハクに驚くベニマル。

 

「なあベニマル。ここに馬鹿二人来ましたやろ?」

「あ、はい。たった今まで、こ、ここにいました」

 

 一見優しい微笑を浮かべ言うコハクだが、その内面に凄まじい妖気(オーラ)を感じ、しどろもどろになるベニマル。

 

「どこに、行ったんや? 知ってたら、教えてくれはりますか? ふふ」

「あ、えと、『空間転移』で転移したので、転移先まではわかりません」

「そうどすか。まあ、よろしおす。どうせあんさんは、巻き込まれたくちでっしゃろ? すまんかったなぁベニマル。馬鹿二人が迷惑をかけてからに」

「いえ、迷惑だなんて、とんでもない」

「サンコがよく遊びに来てるみたいやけど、これに懲りんと、仲ようしてあげてな」

「あ、はい。このくらいは何とも思わないですよ」

「ふふっ。なら、また探すとしましょかぁ」

 

 コハクはベニマルの言葉に微笑み返すと、『神の手(ゴッドハンド)』を発動し、逃げたツキハとサンコの痕跡を追跡する。

 

 しかし、コハクの『神の手(ゴッドハンド)』が発動した瞬間――

 ツキハの術が起動した。

 

 またもや無数の囮呪符が周囲に現れ、妨害魔力と妖気(オーラ)を撒き散らしながら飛び散っていく。

 

「はあ? ほんま、悪あがきしますなぁ」

 

 コハクは、やれやれといった顔で言い捨てながら、『神の手(ゴッドハンド)』で囮呪符を潰していった。

 

 そうして、ほぼ囮呪符を潰し終わったところで、待ってたかのように〝惑わす君・改〟が起動した。

 

「な!? まだあったんか!」 

 

 コハクがそう声を上げた時、ポンと地面から空中に飛び上がった囮呪符が、いきなり爆発四散する。

 

 爆散した囮呪符は、キラキラと光り輝く魔素粒子となり、コハクに纏わり付くように包み込んでいった。

 

「なんやこれ?」

 

 訝し気に言いながらその場を動くと、魔素粒子はコハクに纏わり付いたまま一緒に付いて来た。

 

「まーた、しょうもないもの作りはりましたな。あんのスカタンが!」

 

 その光る魔素粒子は、コハクの魔力回路を一時的に狂わせる妨害魔素粒子だったのだ

 

 しかし、その効果は一時的な物であり、ツキハが逃げる時間は十分に稼げる代物だった。

 

 これにより、『神の手(ゴッドハンド)』の精度が著しく低下し、とりあえずはコハクの追跡を逃れたツキハとサンコだったのだ。

 

「しかし、この魔素粒子は……なんや頭がボーッとするみたいな……。あ!? あれか、魔タタビの粉を仕込んでるんか。ほんま、こんな使い方をよう思いつきますわ。はぁ、馬鹿は怖いどすなぁ。ベニマル、害はないけど、この魔素粒子に触れたらあかんで? 多分、酩酊状態にならはるから、気いつけてな」

「え? 酩酊状態ですか?」

「せや。この魔素粒子の中に、魔タタビの粉末が仕込んであるねん。微細な粉になってこの魔素粒子と一緒に漂ってますんや。まあ、害はないから安心おし」

「そうですか。ですが、本当にあの噂に聞く魔タタビなのですか?」

「せやで。この間な、ツキハとサンコが取って来たんや」

「なるほど。そんなレアなキノコを採取していたとは」

「とにかく、少し離れなはれ」

「はい、わかりました」

 

 それを聞いたベニマルは、コハクから距離を取るように離れていく。

 

 コハクは光る魔素粒子に触れながら、『解析鑑定』で解析を始める。

 

「まあ、効果は五分といったところどすか」

 

 〝惑わす君・改〟の効力を解析したコハクは、ベニマルに「えらい迷惑かけたな」と言い、妨害魔素粒子を纏ったまま、「ほな、さいなら」と言うと、ルヴナン支店へ帰って行った。

 

 コハクが去った後のベニマルに、どっと疲れが押し寄せる。

 

「何か……疲れたな。汗でも流すか」

 

 はーっと溜息を吐きつつ、自宅の風呂へと向かって行くのであった。

 

 

 

 ルヴナン支店へ戻ったコハクは、眷属達にツキハとサンコを見かけたら、「すぐにうちに言いなはれ」と命を出し、お役目で出払ってる眷属達にも『思念伝達』でそう伝えた。

 

「戻ってきたら、即捕獲やな。その後は、どうしますかなぁ。ふふ、ふふふふ、ふふっ」

 

 執務室に戻ったコハクは、窓の外を見ながらどこか嬉しそうに薄く笑い、捕獲したツキハにどんな〝OSIOKI〟をするか? あれこれ妄想を膨らませながら、思案に(ふけ)っていく。

 

 

 

 

 なんとかコハクの追跡を逃れたツキハとサンコ、二人の向かった先は……。

 

 どこなのか?

 

 

 

 そして、馬を走らせるヒナタの下へ、四人の聖騎士達が追い付いて来る。

 

「ヒナタ様、一人で抜け駆けですか?――」

「――貴方達、何をしているの?」

 

 声をかけて来たのは、アルノー、バッカス、リティス、フリッツの、四名の隊長達だった。

 

 

 

 




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