忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
魔物と人が行き交う、魔国とドワルゴンを結ぶ街道。
それは、幅広い道に石のレンガを敷き詰めた、前衛的な街道だった。
荷を引く馬車や、旅をする者達を運ぶ馬車は、街道の真ん中を軽快に走っていく。
更に驚くべきは、街道の随所に、魔獣などを寄せ付けない結界が備え付けてあり、十キロ間隔で旅人が休憩できる施設があり宿屋は四十キロ毎にあった。
そして、果ては街道を警備する、ホブゴブリンの詰め所迄あったのだ。
更に目を引くのは、街道沿いの少し奥に鉄のレールが敷かれている事。
そこをのんびり魔国へ向けて歩く、ツキハとコハクがいた。
「しかし、凄いな。これ、あのスライムの魔物が、ハイオーク共に作らせたんだろ? この技術……どこから仕入れたんだろうね。特にあれ、ドワルゴンまであの鉄の棒を敷いて何かを動かそうとしてるし」
「さぁ、この世界にこんな高度な建築技術は、ありまへんからなぁ。あれは、〝魔導列車〟という乗り物らしいおすえ」
「へえー 乗り物ねぇ。しかし、大きい国の街には石畳の道はあるけど、ここまで大規模なもんないしね。まあ、工事はハイオーク共のスキルなんだけど。基礎技術は――間違いなくスライムの魔物、リムルが
「どすなぁ。建築技術、ポーションの精製技術、あの
「そうだよねぇ。でも、あの配下たち、いや眷属なんかな? 一体あの膨大な数のハイオーク、ホブゴブリン、鬼人……どうやって名付けしたのよ……
「ほんまに、最弱のスライムの魔物やのに……あれは、ただのスライムや、おへんな!」
「だろうね……あたしみたいに、能力を隠すスキルを持ってるのかな? それとも、他にない特殊なスキルを持ってるかだね……もしかして……いや……デモ、イヤイヤ、ブツブツブツ」
「なんえ?」
ツキハが独り言のようにぶつぶつ言いだして、コハクが聞き返すも、「なんでない」と返し、ツキハは行き交う人々や魔物を視線で追う。
程なくして魔国へ着き、街の大通りにある。ベンチが設けられてる一角で、噴水があるベンチに二人は腰を下ろす。
近くの屋台で、
近くに寄って来た魔猫達に、分けていた。
それは、猫種亜人が、魔猫に餌をやってる風景にしか見えず、数匹の魔猫達が、ツキハとコハクの足の周りにたむろう。
ニャァー ニャオォー グルグルグル ニャーウ
別の場所でも、ホブゴブリンのカップルが、野良魔猫達に、手に持った肉串の肉を千切って分け与えていた。
そこへ。
短髪で魔導師のローブを着た女性が、ツキハとコハクの隣にあるベンチに腰を下ろした。
すると、ツキハとコハクがその女性に『思念伝達』を送る。
『よお、元気してた? ミュウラン』
『久しぶりどすな、ミュウラン』
『お久しぶりです、コハク様、ツキハ様』
『クレイマン様から、聞いております。御二人も、潜入調査を依頼されたとか』
『ちと、違う。潜入工作だね』
『!? それは、この国に何か仕掛けるとかなのですか?』
『まあ、そんなとこおす。調査の方は、ミュウラン、あんさんが、ほとんどしてますやろ? うちらは、あんさんが出来んところの方おすな』
『そうなのですか……』
コハクの言葉に少し俯き、何とも言えない表情を浮かべるミュウラン。
その時、ツキハの右目の〝魔隻眼〟とコハクの左目の〝忍魔眼〟が、仄かに光ってるのにミュウランは気付かなかった。
コハクは二本指を立てた右手を、胸元で軽くサッと右横に振る。
すると、ミュウランの足元から、ミュウラン全体を包む『空間断絶』結界を気付かせずに張り、同時に『猫騙し』が掛けられた。
それを確認したコハクが、ふわりとした言葉でミュウランに語り掛ける。
『なぁ、ミュウラン。あんさん、気になる男でも、いてはるんか?』
『えっ!? まさか、いえ、あの……クレイマン様の配下であり、魔人である私に、そんな事は……』
『そうおすかぁ~ そうはみえまへんけどなぁ。うふふふ』
いきなりの問いにミュウランは我を忘れて、身をモジモジさせながら答えた。
『別に魔物だろうが、人間だろうが、魔獣だろうが、亜人だろうが、よろしおすやんか。どんな生き物でも、恋をする権利はあるんどすえ。それが女の特権なんや! ふふ』
『あ、でもミュウラン。こんな変態にはなっちゃダメだぞ! まっとうな恋をやらないとね』
『何
『だから、観念しないし! もう、諦めてよねしつこい!』
『クッ……ププッ……プッ、クスススッ。あ!? すみません、ツキハ様コハク様』
二人のやり取りに思わず吹き出すミュウラン。すかさず謝罪をいれ、俯いたまま何度も頭を小さく下げていた。
『かましまへん。でも、あんさん、女の顔になってますえ。ふふっ』
『え? えっ?』
コハクに言われた言葉に顏を真っ赤にしながら、更に俯くミュウラン。
『ほんま、かわええな~。三百年生きてても、やっぱり、おなごは、おなごどすなぁ。でな、ミュウラン。命令が来たら、どうするんや?』
それまでほわりとした言葉で語り掛けてたコハクの口調が、スッと何かを切ったような感覚を帯びたものに変わった。
ミュウランは膝の上に置いた両手をギュッと握り締め、ゆっくりと切り出した。
『わかりません……でも……私は……わ……』
『その時になったら――悪魔にでも、魂を売るんどすか?』
『え!? それは……』
ミュウランは答えられずに、唇を噛み締め、クレイマンの命令が来た時に、自分はどうするのか? 様々な考えが頭の中を巡るも、答えを出しかねていた。
するとコハクが、今度は優しく包み込むよに言葉を投げる。
『ええか、ミュウラン。あんさんの立場は、潜入工作員や。でもな、どうしてもって言う時にはな、自分の考えに従いなはれ。何者でもない、あんさんの意思や。悪魔に魂を売るなら――売り時を、間違えたらあかんで。ええな?』
『はい……ありがとうございます。コハク様』
自分の意思と言われて、ミュウランは何かを決めたような顔を見せ、太陽の眩しい光が差す空を見上げる。
そこへ一人の、人間の男がミュウランに近づき声を掛ける。
「ミュウラン! ここにいたのか」
「よ、ヨウム。どうしたの?」
「いや、な。美味しいスイーツの店を見つけたんだ。今から、行こうぜ!」
「え? あ、うん」
少し、はにかんだ顔を見せ、腰を上げると、ヨウムと並んで歩き出していく。
コハクは、小さく『がんばりなはれ』と言葉を送り、『空間断絶』結界を消し『思念伝達』を切った。
「ほんと、コハクは変な所で、優しいよね。変態の慈悲って奴? くくく」
「変態は余計おす! 恋する乙女には、優しいんどすえ、うちは。ふふふ」
「乙女ねぇ。何百年、何千年経っても、乙女ってか? めんどくさくない?」
「はあぁー あんさん、少しくらいは乙女心を持ちなはれ。いつまでも、ヴェルドラはんと遊んでるから、ガサツなんどすえ」
「もう、百年位あってないし、会いにいこうとしてたら、消えてるし……いつの間にか、ここら辺にデカい街出来たし……あぁー なんか腹立ってきた、ちょっとここら辺吹っ飛ばしていい?」
「スカタン!! やめなはれ! なに考えてますのや。クレイマンに違約金払わなあかんくなりますやんか! ってか、いきなり戦争になりますえ!」
「いや、冗談だし。怒らなくていいじゃない!」
コハクにえらい剣幕で怒られ、ぷーうっと頬を膨らませプイッと横を向くツキハ。
そこへコハクが、更に戒める。
「なに
「はいはい」
「返事は、一回おすえ!」
「ほぉーーーーい!」
「はぁ~……。それじゃ、宿でも探しに行きましょか」
やれやれとコハクは腰を上げ、ツキハも残りのサイコロ焼きを魔猫達に上げると、腰を上げる。
日も暮れ始め、酒場や料理屋のある通りが、魔物や人で賑やかになっていく。
その通りにある、酒場と料理屋を兼ねた、宿屋の三階に部屋を取る二人。
部屋に入り、コハクはベッドに腰掛けると、ツキハは通りに面した側の窓を開け、その縁に腰を預けて、眼下に行き交う魔物や人を眺める。
しばらく外の景色を眺めていて、ふと『解析鑑定』で見たミュウランの事を口にする。
「ねえ、コハク。ミュウランのあれ、盗聴も兼ねてたよね?」
「どすな。〝
「あいつは、配下を誰一人として、信用してない節があるからね。あの〝心臓〟、〝疑似心臓〟だったね。配下を生きた盗聴器とする、スキルか」
「どすな。魔素を介さない、物理的な電気信号に、地磁気を使用した――暗号化通信を出してましたな。あれは、みな筒抜けおすな……」
ツキハとコハクは、『解析鑑定』でミュウランを見た時、〝疑似心臓〟が鼓動を打つたび生体波長と混じり、微弱な電気信号を発信していたのを感知していた。それが地面を伝わりクレイマンの元へ送られているのを見抜いたのだ。
だから、途中でさり気無く『空間断絶』結界をミュウランに施し、コハクが話す間だけ当たり障りのない、偽の暗号化信号を『猫騙し』でツキハは送っていた。
「助けんの?」
「まさか。仮にも三百年生きてる魔人おす。何をするにもしても、クレイマンの配下になる取引をしたのは、自分や。その責は背負わなあかん。それでも、好きな男はんを守りたいと言うなら――世界の全てを敵に回す覚悟がいりますんや! だから、〝がんばりなはれ〟と、
覚悟、それを聞いたツキハは……ミリムとの最初の戦いの時を、思い出す。
コハクは、己の存在が消滅してもツキハを守ると言う、覚悟を見せ、実践した。
だから、コハクがいう覚悟には重みがあり、ツキハは一言「だね」と、小さくポツリと返した。
しばらく、静寂な時間が流れて行き。
ツキハが何となく口を開く。
「そう言えばさ。魔国の盟主リムルって、人間と仲良くしたいってのを明言しているよね。なんか、魔物らしくなくない?」
「どすなぁ……なんや、けったいな魔物どすなぁ」
けったいな魔物――
人類からそう認識され、危険視されているツキハとコハク。
その筆頭にいる二人、その事は投げ捨てて話を続ける。
「この国の魔物って、その教えを守って――ほんと人間に親切だよね。いいんかな……人間は魔物より狡猾で、油断ならない生き物なんだけど、ね」
「うちらも、元は人間おすから。逆に、警戒しますからなぁ」
「ねっ。あたしら、人間とは基本敵対関係だものね。ふひひひ」
「まあ
二人で顔を見合わせ、軽く笑い合ツキハとコハク。
「でもさ、この国の戦力――尋常ではないね。あの鬼人のベニマルとか、そこらの魔物では歯が立たんでしょ? それに、あのハクロウと言う奴。あれ、朧流の使い手じゃん。ビャクヤの弟子なんか?」
「いや、孫どすな。三百年以上前にビャクヤは、オーガの里にいましたな。そこで子を作ってますなぁ。その子の子が、おそらくハクロウおすえ」
「へえー 孫かー。あれは、中々の使い手だわ」
「あら、珍しいおすな。あんさんが、剣で他の者を褒めるやなんて」
「オークロードの時の戦いの時に見てたけど、あの仕込み刀から繰り出される抜刀術は、見事なもんだったよ。ビャクヤ……剣の腕前は本物だったからな。くくっ」
ツキハはビャクヤと斬り合った時の事を思い出し、軽く含み笑いを漏らす。
「そうおしたな~。あんさん、打刀を持った剣士が居ると聞いて。方々探し回って、手合わせを挑みましたな。あれは、稀に見るいい斬り合いおしたえ」
「そっかー、ジュラの大森林で見つけたから。なるほどねぇ、ビャクヤの奴、オーガの里にいたのか~」
「あそこには、魔猫いませんでしたから、詳しくは知りまへんけど。ふふっ」
いつの間にかコハクはベッドからツキハの隣に来て、同じように下の通りを見下ろしていた。
「それと、ハイオークのゲルド、龍人族のガビル、この魔物も要注意おすえ。そうそう、ガビルの方はなんや、一つ抜けてましたな。ふふ」
「後、鬼人のソウエイ。こいつが影使いで、イチコが隠密に特化した魔物って言ってたよ」
「そのソウエイも。龍人族のソーカを筆頭に、トーカ、サイカ、ナンソウ、ホクソウと言った手練れを部下に持ってますえ。ほんま――この魔物達、A級の実力は確実に持ってますな。そして、鬼人のシュナ。
「ホブゴブリン達もB級は確実に、あるね。そうそう、あの無駄に乳がデカい鬼人、シオン。大太刀使いだけど、けっこう厄介な奴だな。うん、なんか――けしからん奴だ!」
「あんさん……なんぼ自分の胸が慎ましいからって、そんなんで敵対心燃やすのは、やめなはれ」
「はあっ!? なに遠回しに胸が小さいって言ってんの? 殺すよ? ぶっ殺すよ? いいんだね!?」
「
「だ・か・らぁー それが小さいって言ってんのよぉおおおお!」
いきなり胸の事で言い合いになり、しばし二人でギャアギャアと言い合って、下を行き交う人や魔物が、三階の部屋の窓辺で大声で言い争ってる二人を見上げていて。
ツキハとコハクはそれに気付き、バツの悪そうに口を閉じた。
しばらくして、コハクがポツリと漏らし、ツキハもそれに相槌を打つ。
「魔国の戦力……下手すると、大国とも楽勝で喧嘩出来ますなぁ」
「ねえー。ここと
「どすな~。ファルムス王国の強欲王に、西方聖教会まで動きはる気配をみせてますしな。あの少年と中庸道化連の奴らも、裏で動いとるしで。なんや、キナくそうてたまらんおすな。ジュラの大森林に突如として出来た国、魔国。そして、尋常ではない品質の品の数々に技術。時をそう置かずして貿易の要は、間違いなくこの魔国になりますな。これは、久しぶりに――荒れますえ。ふふふ」
「だね……さぁーて。どこに、銭の種があるか、なぁ~。くくく」
二人とも、思惑ありげに軽い笑いを浮かべていく。
夕闇がゆっくりと闇に染まり、大通りの喧騒が一層賑わって来る。
クレイマンの思惑とは別に、ツキハとコハクも別の思惑を持つ。
様々な者の思惑が魔国を中心に、交わっていく。
魔国に取って、ツキハとコハクは――。
吉と出るのか?……それとも。
凶と出るのか?
その行方は……。
九話を読んで頂き、ありがとうございます!
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