忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。91話です








91話 聖と魔 ②

 

 激しくも、どこか異様な光景を放つ戦場。

 

 

 大人のホブゴブリンやゴブリナ、そして青年少女のホブゴブリンにゴブリン達。

 そんな年齢も様々な紫克衆(ヨミガエリ)

 

 圧倒的な実力差、その前には小細工など通用しないのが普通である。 

 

 しかし、シオン率いる紫克衆(ヨミガエリ)はそれを見事に(くつがえ)し、聖騎士達を翻弄(ほんろう)していた。

 

 その、紫克衆(ヨミガエリ)達の戦いを誇らしげに見ているシオン。

 

 顔には満足気な表情を浮かべていたが、どこかしらもの足りなそうな雰囲気も放っていた。

 

 紫克衆(ヨミガエリ)の訓練には、毒や麻痺系などの薬物や魔法を施した武器をクロベエに作ってもらい、それで実戦さながらの訓練を積み重ねて来た紫克衆(ヨミガエリ)

 

 そのお陰で今や紫克衆(ヨミガエリ)達は、毒物や麻痺系に対する耐性を獲得していた。

 

 格上に対する戦い方を眷属達に教え込まれた紫克衆(ヨミガエリ)達。

 個人では一人の聖騎士に劣るが、常に二人一組で一人に当たる戦法でその差を埋めていたのだ。

 

 忍びが使う集団戦法、その一端(いったん)をシオン達紫克衆(ヨミガエリ)は伝授されていた。

 

 体捌きに小太刀術や短刀術は朧流、戦場(いくさば)での戦い方は忍魔猫達が使う戦法。

 この双方の武術と戦法がミックスされた戦い方は、圧倒的な力の差を埋めるには有り余るほどの効果を見せていた。

 

(さて、ここからは……。ん?)

 

 リムルは、そんな紫克衆(ヨミガエリ)の戦いを見ながら、ここから先は過酷な持久戦になるだろと考えた、が――

 

 その考えは、見事に裏切られた。

 

 にんまりと紫克衆(ヨミガエリ)達の戦いを眺めていたシオンが、いきなりその顔から笑みを消し、顎をクイッとしゃくったのだ。

 

 

 そのシオンの視線の先には、ゴブゾウとゴブアがいた。

 

 

「あ、とうとう我慢しきれなくなったかシオン? ククッ」

「違いますやろ。一気に勝負をかけるんとちゃいますか? フフッ」

 

 いつの間に大きい木の上の枝に腰かけているツキハとコハクがそれを見て、クスッと笑う。

 

「それよりも――」

「ツキハも感じましたか」

「うん。一瞬だけ気配を見せた者がいたね。それも、多分ワザと」

「せやね。首都リムルの方向に行くような感じ方どしたけど――」

「いるね」

「せやな。間違いなく、この戦場(いくさば)のどこかに潜んでるやろな」

「狙いは、リムルか……。または、幹部のベニマル達か……」

「それとも、うちらか……」

「完全に気配を隠しているね。かなりの手練れだわ」

「せやね。消すより、隠されるほうが厄介どすからなぁ。うちらみたいに」

「コイツさ、次に気配を見せた時は、あたしが斬るよ」

「へえ、任しましたでツキハ」

 

 完全に忍びの顔になった二人に、内なる殺気が渦を巻き始めていく。

 

 

 陰に潜むその者は今、周りの樹々の気配に己を同化させこの戦場を注視していた。

 己が動く最良な状況を、見極めながら。

 

 

 そんなツキハ達とは別に、シオンから視線を向けられたゴブアとゴブゾウは、どうすべきか戸惑い顔を見合わせていた。

 

「えーとですね。まさか、私共も参戦せよと?」 

「ええ!? で、出ないのダスか? いくら何でも自分達だけでは、あの強そうな人達に勝つのは厳しいのダスけど……」

「いえ、そうではなくて。勝たなくても時間稼ぎが出来ればいいのではないかと」

「ええ!? な、何が何でも勝てと命じられたと、聞いたのダスけど?」

 

 ゴブアは会議の内容は知っていた。

 扉の前で警護をしていたので、会議の内容は聞こえていたのだ。

 

 しかしゴブゾウは、初耳だっようで目を白黒させて驚き、しどろもどろになっていた。

 

 ゴブゾウでは(らち)が明かないと思ったゴブアは――

 

「あのですね。作戦会議の打ち合わせでは、私共は待機という事だったですよね?」

 

 と、シオンに問うた。

 

 だがしかし、そこでシオンがゴブアを一喝する。

 

「は? 馬鹿か、貴様ら。今まさに、目の前に勝利が転がっているのが、何故わからんのだ? いいか? 格上に勝利してこそ壁を越える事が出来るのだぞ。ツキハ様とコハク様も、そう申していただろうが。その機会を与えてやろうというのだ。感謝してほしいくらいだぞ」

 

(いやいや、シオン。勝利が転がっているのに、相手が格上って、ちょっと違う気がするんだけども)

 

 シオンの言い分を聞いてリムルはそう思ったのだが、そうではなかった。

 

 なんとゴブアは、そのシオンの言葉に納得をしたのだ。

 

 いきなり目の色を変え、口元に不敵な笑みを浮かべながら、こう言った。

 

「そうですね、その通りです。少し消極的でした。その機会、この〝紅炎衆(クレナイ)〟に是非お任せを!」

 

 シオンの申し出にアッサリと乗ったゴブア。 

 それに、満足ぞうに頷き返すシオン。

 

 一方、ゴブゾウの方は。

 

「あ、あのう……。そ、それって、命令違反にならないダスか?」

 

 恐る恐るシオンに聞き返す。

 

「ん? まだいたのか、貴様。さっさと言われたとおりに動け。それとも、新作の料理の実験台になる方がいいか? どっちか好きな方を、選ばせてやろうか?」

 

 それを聞いたゴブゾウは、シオンの脅しに屈し、一目散に戦場へと駆けていった。

 

(あー、なんだ、ゴブゾウ頑張れ)

 

 抜けた外見の割に生真面目なゴブゾウ。

 そんなゴブゾウが、シオンを好きなのをリムルは知っている。

 しかしリムルは、ことこういう事に関しては口出しはしない方がいいと思っていた。

 

 だから、見守ることに徹するリムルであった。

 

 そんなやり取りを見ながらリムルは、とりあえず戦場へと視線を戻す。

 

 そして……。

 

「いいのか、ベニマル?」

「良くはないです、が。臨機応変というのは間違っちゃいません。ああ見えてもシオンは、直感が非常に優れています。サンコも手合わせの時、それを褒めていました。だから、勝てると踏んで、ああいった命令を出したのでしょう」

 

 リムルが思わず聞いた言葉に、ベニマルは肩を(すく)めて答えた。

 

 ここから本格的な攻防戦が始まっていく。

 

 残る聖騎士達は、六十名。

 

 その聖騎士達に対して、二人一組の紫克衆(ヨミガエリ)が正面を受け持ち、一人の〝紅炎衆(クレナイ)〟がそのサポートを受け持つ。

 

 更に、番外魔王の眷属数名が気配を隠し偽り、『空間迷彩』をかけて潜み不測の事態に備える。

 この、二重三重に策を施した状況を見極めたシオンの直感が、勝利を確信したのであろう。

 

 全力戦闘。

 

 これを行えば、如何に〝紅炎衆(クレナイ)〟といえど聖騎士には劣る。

 しかし、そこまで絶望的な力の差はない。

 

 Aランクオーバーといえど、聖騎士は下位の力しかないのである。 

 では、〝紅炎衆(クレナイ)〟はというと、限りなくAランクに近い実力を有していた。

 

 補助をする者がいれば、案外いい勝負になったのだ。 

 だからこその、二人一組にサポートが一人という組み合わせなのだ。

 

 そして、〝紅炎衆(クレナイ)〟には交代要員もいる。

 倒れ深手を負ったものを、常に見張っている者達がその者と交代していく。

 この見張りから漏れた者は、潜んでいる眷属達が即〝紅炎衆(クレナイ)〟達に伝え、迅速に倒れた者の退避を眷属達が手助けをする。

 

 どこにいるかわからない。

 しかし、確実に戦場に潜み、戦況を監視している眷属達。

 

 この安心感が、〝紅炎衆(クレナイ)〟や紫克衆(ヨミガエリ)達の戦いに迷いを生じさせなかったのだ。

 

 デスループ、そう呼ぶには相応しい聖騎士達の状況。

 どんなに致命傷を負わせても、次から次へと交代した者が聖騎士達に向かってくる。

 

 その度に聖騎士達は、体力を削られ精神を疲弊させていく。

 

「切りがない、何なんだよこいつ等は……」

 

 額に大汗を浮かべ、焦燥感に襲われた言葉を呟く聖騎士。

 今までに体験した事のない終わりなき戦い。

 

 もはや、聖騎士達の顔には余裕など一つも無かった。

 

 

「しかし、凄まじいものですね。この戦闘能力……。まだ、あれほどの者がいたのですね、この国には」

 

 そう言ったのはアルビスだった。

 

 戦場に向けられたその視線の先には紅炎衆(クレナイ)ではなく、紫克衆(ヨミガエリ)が映っていた。

 

「ああ、あれは厄介だぜ。高い不死性。そして、戦闘継続能力。しかも、イチコ殿達の仕込みと来てる。頭を失った程度では止まらなそうだし、オレでも手こずりそうだ」

 

 アルビスの言葉に(うなづ)くスフィア。

 

 三獣士であるアルビスとスフィアにも、そう思わせる程の戦いだった。

 

(そうだよなぁ。聖騎士達には交代要員など、いないものな。もしこれが敵だったなら、厄介極まりないよな……) 

 

 アルビスの言葉にそんな事を思うリムル。

 

 

 そしてシオンは――

 

 戦況を眺め薄く笑みを浮かべながら時折舌なめずりをしていて、チラッと見えたピンクの舌先が、怪しく濡れて見えていた。

 

 おもむろにリムルに振り向くシオン。

 

 そのニッコリとした笑顔には、ゴブゾウに見せた般若のような顔からは想像も出来ない顔であった。

 

「リムル様、予定通りです!」

「番うわ! 全然予定にはない行動だろうが!」

 

 シオンの言葉に即ツッコミを入れるリムル。

 

「お褒め頂き、光栄です!」

「褒めてねーし!」

「それではリムル様。私も、そろそろ行って参ります!」

「え? どこへ……いくの?」

 

 そう言うやいなやシオンは、両足に力を込めると、一気に地を蹴り弾かれるようにその場から飛び出して行った。

 

 リムルの問いかけを置き去りにして残されたのは、シオンに蹴られ、もうもうと舞う地の土煙だけ。

 

 戦場には怒号や叫びが声が木霊(こだま)する。

 

 

 一方、木の上で戦況を見ていたツキハとコハク。

 

 ゆらゆらと動かしていた尻尾が、いきなりピタリと動きを止めた。

 

「お、来たようだね。行くか」

「来ましたな」

 

 何かを察知したツキハとコハクは、木の枝から飛び降りるとふわりと地面に着地し、リムルの下に向かっていった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

  

 疾駆する者。

 

 それは、引き伸ばされた感覚によって、乱立する樹々の間をすり抜けるように駆けていく。

 精霊の力をその身に宿し、全速力で森を駆け抜ける者、ヒナタ。

 

 やがて、森の開けた場所に出ると、五名の上位魔人の姿が目に飛び込んできた。

 

 間違いなくヒナタの気配には気づいているはずなのだが、その視線は遥か先に固定されていた。

 

 ヒナタもその視線の先を追ってみる。

 

 

 そこに見た光景は、敗北の色が濃厚な自慢の部下達の姿であった。

 

 思わず舌打ちをしそうになったヒナタは、何とか我慢をする。

 

 ヒナタを襲った腹立たしさは敗北に対してではなく、敵対行動を取ってしまった現状にであった。

 

 既に戦端が開かれている以上、交渉だけでは済むとは思えなかったヒナタ。

 何故なら、こちら側に事情があったとしても、それはリムルに関係のない話なのだから。

 

 リムルは戦場を見つめたまま動かず。

 

 またヒナタも、その場に自然と佇む。

 

 そうしながらヒナタは、これから先どう動くか考えつつ、相手の戦力を読んでいく。

 

(強力な上位魔人が四名に、その先にも一人、異質な妖気(オーラ)を持つスーツ姿の女が見えたわね。手前の二人の女性は獣人族(ライカンスロープ)ね。報告の中にあった元魔王カリオンの配下だとしたら、三獣士だわね……)

 

 そこいらの魔人など歯牙にもかけぬ、凄まじい強者の風格を放っていた。

 

 しかも、その二人に並ぶ者もまた、三獣士に見劣りはしていなかった。 

 

 いやむしろ――

 

 黒い二本の角が生えた、紅い髪の美丈夫。

 そして、その隣に青い髪に白い一本の角が生えてる青年。

 

 それらを見ながらヒナタは、もう二人いるはずの魔人を探す。

 

 番外魔王ツキハとコハク。

 

 ヒナタがどんなに気配を探っても、二人の気配は感じられなかった。

 

(いない……? いや、間違いなくこの戦場に眷属達といるはず……)

 

 姿も気配も感じない番外魔王の二人だが、ヒナタには確信があった。

 

(いる……。どこかで私達を見ている、の? そういえば……)

 

 

 ヒナタは、ルミナスから聞いた番外魔王の事を思い出していた。

 

『よいか、ヒナタ。あの二人は、そこにいるが、そこにはいない。じゃが、確実にそこにいるのじゃ。姿を隠し、気配を隠し偽る事に関しては、我ら太古の魔王すら騙すほどじゃ。あの二人が本気で潜んだら、最古の魔王ギィですら見つける事は困難なのじゃ。例外はミリムくらいじゃな。どんなに隠れ潜んでも、必ず見つけ出したとギィに豪語していたな。ゆめゆめ忘れるでないぞ、番外魔王はいるべき場所には必ずいる、眷属達と共にな』

 

(まるで、あのお話に出てくる猫みたいだわね。本当に何なのかしらね、番外魔王の二人は……)

 

 一番警戒するのは見えない敵。 

 

 ヒナタは一度、番外魔王討伐に失敗している。

 というより、正確な情報が意図的に省かれていた形跡があった。

 

 まず、番外魔王と呼ばれてはいるが、それは形式的な意味もあり、事実上は現魔王達と何ら変わらない実力を持っている事。

 

 ヒナタは〝七曜の老師〟達から、魔王に成り切れないが魔王に近い力を持つ魔物だと、準魔王級の力しかないと説明されていた。

 

 そして、第三次番外魔王討伐に赴いたのだが、結果は……。

 

(あんな大技を持ってるなんてね。もし、今回もあれを使われたら間違いなくこちら側が全滅する……。でも、今回は魔王リムルの意向が絡んでるみたいだから、それはないでしょうね。もっとも、警戒はすべきだけど……)

 

 そう、今警戒すべきは、あの鬼人族の男二人。

 

 ヒナタは一目見た時に、二人の正体を見抜いた。

 

(鬼人族……違うわね。あれは、妖鬼(オニ)、ね。鬼人族の進化系統の一つ……そこに至る者は極々少数だという話だったかしら。間違いなく特A級の危険度。いえ、違うわね)

 

 ヒナタはそう考えながら、紅髪の妖鬼(オニ)に視線を移し、目を鋭利に細めていく。

 

(あの紅髪の魔人、漏れ出てる妖気(オーラ)……〝魔王種〟を超える力を秘めている。フフッ、そうだったわね。既に、ここは魔王の領域)

 

 この状況にも関わらずヒナタは気付かぬうちに口端を上げ、笑みとは違う何とも言えない表情を浮かべていた。

 

 そして、遅れて追いついてきたアルノー達に妖鬼(オニ)と三獣士の事を伝え、番外魔王が必ず潜んでいるとも付け加えた。

 アルノー達は、番外魔王の二人がこの戦場に潜んでいると聞かされ一瞬顔を強張(こわば)らせたが、そこは聖騎士隊長である四人、すぐさま己の警戒レベルを引き上げた。

 

 

 アルノー達が追い付いてからヒナタは、リムルにだけ視線を固定していた。

 

(……以前に邂逅(かいこう)した時とは比べ物にならない、圧倒的な存在感、か)

 

『相手をしてやるよ。俺とお前の一騎打ちでな』

 

 思い出されるリムルの言葉。

 

(そう、そうなのね。貴方は私との一騎打ちを望んでいたのだったわね。なら、番外魔王の横槍はないのかしらね。邪魔をされたくはないと、いう事なのね?)

 

 更に、冷えたような笑みを人知れず深めるヒナタ。

 

 最悪、私一人の命で部下達を見逃してもらいたい、ヒナタの脳裏にそういう考えが(よぎ)るが……。

 

(いや、違う。圧倒的に勝利し、私の謝罪を受け入れてもらう)

 

 そう密かに、覚悟を決めたヒナタ――

 

 それと同時に、スーツ姿の女魔人が動く。

 弾けるように大地を蹴り、凄まじい圧力を纏い、遠方のレナード目掛けて跳躍したのだ。

 

 ヒナタがそれを見極めた後、リムルがゆっくりと視線をヒナタの方に向けて来た。

 

 

 リムルとヒナタの視線が今、交差する。

 

 

(来たか、やれやれだぜ。まあ、状況は想定内。だが、何事も油断なくだ)

 

 リムルは後ろ振り向きつつ、ヒナタを見る。

 

 そこに立つヒナタは涼しい顔をして、戦場を見ていた。

 

 

 目が合った二人。

 

 

 そのまま無言で見詰め合う、リムルとヒナタ。

 

 

 戦場を駆け巡る戦いの音、そんな音を搔き消すかのように二人の圧が、戦場を静かに包んでいく。

 

 

 




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