忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。92話です


 ※作中に出てくる〝残心〟についての、簡単説明です。

 〝残心〟とは、日本の武術の中で、攻め終わっても、敵に備えての注意を解かない、心の構えです。
 要するに、敵がいなくなるまで注意を解かず、集中し続ける事にもなります。

 
 ※〝打刀〟
【挿絵表示】






92話 聖と魔 ③ 古流剣術

 

 

 無言で見詰め合ったままのリムルとヒナタ。

 

 

 それを同じく無言で見守るベニマル、ソウエイ、アルビス、スフィア。

 

 

 最初に口を開いたのはリムルだった。

 

「やってくれたな、ヒナタ。言うまでもないだろうけど、ここは俺の領土だ。予告なしに戦端を開いたのはお前達だ。だから、こちらは宣戦布告と取り、お前達に害意ありと判断する。先制攻撃を許すほど、俺は甘くはないんだよ――」

 

 仕掛けたのはどちらが先なのか、それは些末(さまつ)な問題。

 

 〝聖浄化結界(ホーリーフィールド)〟を張られた時点で負けが確実になる。

 そう、軍事行動を取られた時点で潰すのは、至極(しごく)当たり前なのだ。

 

 実際、〝聖浄化結界(ホーリーフィールド)〟を張られたとしても、打開策はある。

 

 それは、番外魔王の二人が〝聖浄化結界(ホーリーフィールド)〟を、決壊させることが出来るとリムルに言っていたから。

 

 但し、自分達が前面に出ると、魔国連邦(テンペスト)が〝神敵〟認定を受ける恐れがあるとも言った。

 

 人類の敵、番外魔王は良くも悪くも人間から恐れられ、西方聖教会以外にも千年以上前から幾度となく、人類に討伐隊を差し向けられていたと、二人はリムルに話していた。

 

 それだけ、ルヴナン率いる番外魔王の二人が、人類にとって脅威だったのは紛れもない事実。

 

 人間は、実態のわからないものには怯えるものなのだ……。

 

 それでリムルは、今回は番外魔王の二人とルヴナンには、戦場のサポートに徹してもらうことにした。

 

 だがしかし――

 

 テンペスト軍側に明らかな損害が出た場合は、番外魔王の二人とルヴナンに参戦してもらう。

 

 これが最終的にリムルが下した判断である。

 

 〝神敵〟認定か? 大切な仲間が倒れるのを敢えて飲み込むか? どちらかを選ぶとしたら?

 それを天秤に掛けるまでもなく、リムルが選ぶのは大切な仲間である。

 

 最悪、〝神敵〟認定されても実力でそれを覆し、人類との共存を模索すればいいと、リムルはそこまで覚悟を決めていた。

 

 切れるカードの切り札は多い方が良い、その一枚目が番外魔王であり、ルヴナンなのだ。

 

 

「ええ、そうね。それが当然でしょうね。私だって、何故レナードが命令違反したのかわからないのよ」

 

 リムルの言葉にヒナタは、平然と言い返してきた。

 

「フッ、よく言うよ。レイヒムを殺して、その罪を俺達になすりつけようとしているんだろう? お陰で、ファルムス王国の新王派が勢いづいて困ってるんだよな」

「レイヒムを、殺して……?」

「ああそうだ。そちらに呼び出されていた大司教レイヒムがな。言っておくが、レイヒムには俺の伝言を持たせただけだ。それ以上は何もしていないし、何も言ってないぞ」

 

 リムルがそう言うと、ヒナタは一瞬だけ右眉をピクリと跳ねさせ戸惑うような表情を見せた。

 しかし、それ以降は一切の表情は崩さず、眉一つ動かさなかった。

 

 冷え切るような冷たい視線をリムルに向け、それが美人であるが故にどこか不気味な怖さを(かも)し出していた。

 

(これだよ……。美人なんだけど、これがかえって冷酷な印象に磨きをかけてるんだよなぁ)

 

 冷え切るような視線を向けられたリムルは、心の内でポソリとぼやいた。

 

 

「そう、そういう事なのね」

 

 ヒナタが小さく呟く。

 

「なあ、俺の伝言は受け取ってくれたんだろう?」

「ええ。間違いなく受け取ったわよ」

「で、その答えがこれか?」

「ええ……、そうね。少し違うのだけれど、それを言ったとしても信じてはくれないのでしょう?」

「いや、信じてもいい。だがな、その前にあの集団を止めるのが条件だ。即刻、国へ帰還を命じろ」

 

 リムルは、シオンと交戦中の者を指差し、ヒナタもそちらを見るも、小さく首を横に振った。

 

「あれは、もう無理ね。止めに入る前に、決着がつきそうだもの」

 

 レナードと戦闘を繰り広げるシオン。

 それにもう一人、レナードには劣るが、かなりの実力者だった。

 

(んー、あの二人……十大聖人だろうな。シオンのヤツ、本性剝き出しにして戦ってるな。ああなったらもう、お互い決着がつくまでは放っておくしかないか。ヒナタの言い分を認めるのは(しゃく)だけど、仕方ないか)

 

 リムルが内心そう思っていると、そこに若い騎士が口を挟んで来た。

 

「何を言う! この状況でこちらの戦力を戻すなど、そんな要求は飲めないし、ヒナタ様はどうなる? ヒナタ様を呼び出した貴様が何もしないと、そんな保証がどこにあるのだ!?」

 

 リムルの言葉に憤慨した若い棋士が叫ぶ。

 

(それを言うならさ、最初から話し合いをする気がなかったと受け取れるんだけど……)

 

 若い棋士の言葉にリムルがそう思っていると。

 

「黙れ。今この場で話をしていいのは、リムル様とヒナタ・サカグチのみ。お前達に口出しは許されていない。大人しくしていろ」

「何だと!」

 

 若い棋士、それはアルノーであった。

 ベニマルが制止するもアルノーは止まらず、腰に下げた剣の柄に右手をかける。

 

 その時――

 

「まあ、待ちなはれ。あんさんら、そんなに死に急ぐこともないやろ?」

 

 虚空からいきなり若い女の声がした。

 

(やはり、いたわね)

 

 その声にヒナタの表情が一気に変わり、研ぎ澄まされた眼光がリムルの前に固定された。

 

 すると、リムルの前の空間が異様に波打ちだし、スーッと猫耳が生えた黒髪の頭が現れ、上から下にまるで絵を描くようにコハクが姿を現していく。

 

 そして、ベニマルの前にも同じように、ツキハの姿が現れていった。

 

「え!?」

 

 アルノーは、いきなり虚空から現れた番外魔王の二人に言葉を失い、剣の柄に右手をかけたまま動きを止めてしまう。

 

 魔力も空間系魔法の予兆も表さず現れたツキハとコハクに、ヒナタ以外の四人は驚きで固まっていた。

 

「ああ、大丈夫だ。今回は番外魔王もルヴナンもこの戦いには、サポートとして以外の行動はしない。あくまでも、戦うのはテンペスト軍だ」

 

 リムルは、いきなり現れた二人に驚くこともなく、ヒナタとその後ろに控える四人の若い騎士達に言った。

 

 ヒナタだけは冷静に場の状況を見極めつつ、自然に己の間合いを調整するようにススッと静かに動いていった。

 

「せやな。リムルの言う通り、うちらは表立って手出しはしまへんから安心しなはれ。もっとも、剣を抜きたいのなら、遠慮なく抜いてもかましまへんで? フフッ」

 

 剣の柄に手をかけたままのアルノーを見て、コハクはコロコロと笑いながら言い放つ。

 

 コハクの言葉にベニマルが、お手柔らかにお願いしますよと、目で訴えていた。

 ソウエイは、いつでも動けるように警戒を解かず、アルビスとスフィアも周囲を警戒していく。

 

 

 今だ警戒を解かず剣の柄から右手を放さないアルノーを見て、ツキハが動いた。

 

「なあ、お前。柄から手を放しな、忠告はしたからな。抜くんじゃねぇーぞぉ」

 

 ツキハはだるそうに言いながら、無造作にアルノーの間合いに入っていき、左手親指で打刀の(つば)をグッと押し、〝妖刀時雨〟の鯉口(こいくち)を切る。

 

 間合いに入られ、アルノーが剣を抜こうとした瞬間――

 

 パパンッ。

 

 乾いた音が鳴り響いた。

 

 刹那の攻防。

 

 剣を抜こうとしたアルノーは、柄を持った右手を左側にのけぞるように上にあげ、左手も剣の鞘を握ったまま上に上げさせられていた。

 

「な、にが……?」

 

 自分に起こった事に理解が追い付かないアルノーは、驚愕の目で自分の右脇腹を見て微かに言葉を漏らす。

 

 剣は抜かれずに、ツキハの抜かれた刃が逆袈裟斬りをするように、アルノーの右脇腹に押し当てられていたのだ。

 

 ツキハは、アルノーが剣を抜こうとした瞬間に、鯉口を切ったままの柄を左手で握ったままアルノーの右手の甲を自分の打刀の柄で上から叩き押さえて剣を抜けなくして。

 更に、その柄でアルノーの右肘を上に打ち上げのけ反らして時雨を抜刀し、逆袈裟斬りの形のまま刃を止めていたのだ。

 

(あれは、柄を使った日本の剣術の……技? あちらにいた時に、動画サイトで見た古流剣術の技に似ているわね。ならば、五千年前のこちらの剣術ではない。ここ、数百年の間に日本からの『召喚者』か『転移者』に教わった……? いや、残っている文献には、番外魔王ツキハの剣は直刀ではなく反りの入った片刃の剣だと記されていた。本当に、何者なの番外魔王の二人は……)

 

 ヒナタはツキハが見せた技を分析しつつ、幾つもの仮説を立てるが、そのどれもが的を得なかった。

 

「で、お前。よく殺気を抑えてたね。条件反射的に抜こうとしたのは頂けないけど。殺気を込めてたら、お前の胴は真っ二つになって落ちてたよ。ククッ」

 

 ツキハは刃を鞘に納めながら〝残心〟は解かず、鯉口を切ったまま左手で鞘を握り、親指は(つば)に添えたまま顎をクイッと動かし、アルノーに後ろに下がれと促す。

 

 先程の攻防で実力差を知ったアルノーは、大人しくヒナタの後ろに下がっていった。

 アルノーもまた聖騎士の中では強者であり、相手の力量を見極められない愚か者ではなかった。

 

「番外魔王ツキハ。貴女は、どこでその剣術を覚えたの? それは、私の知っている知識では、古流剣術と呼ばれる実戦剣術であり、戦乱の武術。どこの人間に教わったのかしら?」

 

 おもむろにヒナタが、ツキハに問いかけて来た。

 

 ツキハは〝残心〟を解かずにそれに答える。

 

「どこの人間? うーん、それを知りたいのなら、あたしを倒さないと。そうしたら、教えてあげてもいいかなぁと。でも、あたしがアンタと戦ったらリムルが怒るかもだしねぇ。うーん、そんなに知りたい小娘(ヒナタ)?」

 

「「「「な!?」」」」

「黙れ。今はツキハ様と、ヒナタ・サカグチが話している」

「「「「……」」」」

 

 小娘呼ばわりしたツキハの言葉に、アルノー達が声を上げるも、ベニマルの圧に四人は押し黙った。

 

 ヒナタは小娘呼ばわりされても表情を崩さずに、淡々と返す。

 

「ええ、知りたいわね」

「ふーん。じゃあさ、ちょっとあたしと遊ぼうか? アンタ、討伐隊を半壊させられた事への恨みもあるだろうしね」

「恨み? あの時は、貴女達二人の力を見誤っただけ。それだけよ」

「見誤った? クククッ、言うねぇ。アンタさ、その顔。『最初に人を殺したのは、幾つの時だ? この世界に来る前だろう?』」

「……」

 

 ツキハは言いながら、最後の方は『思念伝達』でヒナタに問い返した。

 

 ヒナタはツキハと話しながら凄まじい殺気を目に込め、そうしながらも何者にも負けないといった覚悟が込められていた。

 

 その目は、戦闘狂でも殺人鬼の目でもなく、何か大切なものを守るための覚悟であったのだ

 

 他の誰もが気付かなかったが、ツキハだけは、それを見逃さなかった。

 

(ほんま、久しぶりに見ましたな、あんな目は)

 

 そして、コハクもそれに気づいていた。

 

 ここからは、ツキハが『思念伝達』に『思考加速』を軽く五十万倍を掛けてヒナタに問うていく。

 超加速された思考に、時間が置き去りにされる。

 

『アンタ、この世界に来る前に人を殺してるだろう?』

『……何故、そんな事がわかるの?』

『あたしとコハクは、ずーっと長きにわたり戦乱の世を渡って来たんだ。アンタのその目。とてもじゃないが、この世界に来てから身につけたものじゃあない。覚悟を持って人を殺した目だよ、それは』

『覚悟……?』

『アンタの戦う力の源は、その殺しが起源じゃないのか? 魔物から弱い人間を守ろうとする、その思いは』

『魔物に苦しめられている人間は、今もいるわ。だから、私達がいるし、私は魔物と戦うのよ』

『弱い人間ねぇ。うーん、魔物のあたしから言わせてもらうと、人間も大概だと思うけど? まあ、いいや。何が言いたいかというと、アンタはリムルと違って、この世界に来る前に既に人を殺していた。アンタの強さはそこから来てるんだろうなと、思ったのよ。何となくだけど、ただの人殺しとは違うと思ったんだ。あたしは、ね』

『……』

 

 ヒナタは元いた世界、日本で実の父親を殺している。

 暴力を振るい続ける父から母を守る為に。

 

 しかし、その母は父を失ったことで壊れた。

 母を守る為が、母を壊した。

 

 そんな葛藤の中……。

 ヒナタは十五の時、この世界に『転移者』としてやって来た。

 

 最初に出会ったのは数人の盗賊、拉致されかけた時にヒナタは躊躇なく、その盗賊達を殺した。

 この世界に来た時に身につけた、ユニークスキルを使って。

 

 それからは、戦いに明け暮れる生活を送り、やがてシズと出会う事になる。

 シズから色々な事を教わり、やがて考えの違いから袂を分かつ事になるのだが、心の中では尊敬する恩師であった。

 

 やがて、魔物から人々を救う西方聖教会の教えに感銘し、聖騎士となり今に至る。

 

 だから、魔物から人々を救うというヒナタの信念の起源は、この出来事が発端だったのだろう。

 

(チッ。魔物が、人間を知ったように言うわね……。人間……? 何故、人間の心理を魔物が理解できるの? まさか……リムルと同じ、転生者……なの?)

 

 魔物のツキハから見透かされたように言われ、ヒナタは内心舌打ちをするくらいに腹立たしかった。

 

 だが、何故人間のように考える事が出来るのかと考え、ある一つの考えに辿り着く。

 

『ねえ、貴女。もしかして、魔王リムルと同じ転生者なの?』

 

 唐突に問うヒナタ。 

 

 それにツキハは。

 

『いんや、違うよ。まあ、あたしの事が知りたければ、あたしの遊びに付き合って勝ちなよ』

『そう(違うか。そうなれば、人間の仲間か、それに近い者がいたのね。それであの二人に、人間の事を教えたのでしょうね)』

 

 問いはあっさりと返され、その言葉には一切のブレがなく、ヒナタはツキハの返答を信じてしまう。

 

 騙し騙され、陰謀渦巻くこの世界。

 

 五千年もそんな世界を渡って来たツキハから、真実を引き出す事は出来なかったヒナタ。

 やはり、経験の差は大きいのである。

 

 そして、ヒナタは――

 

『いいわ。その遊び付き合うわよ』

 

 ツキハの誘いに乗って来た。

 

 それを聞いたツキハは、即『思考加速』を解除し、リムルにお伺いを立てる。

 現実世界では、一秒にも満たない時間だった。

 

「ねえ、リムル。ちょっとだけこの小娘(ヒナタ)と遊んでいいかな?」

「遊ぶ?」

「うん。前に話したじゃない討伐隊のこと。その、第三次討伐隊を半壊させられた遺恨があるみたいだからね」

「遺恨? うーん、仕方ない。いいぞ」

「え? いいの?」

 

(なるほど。『思考加速』と『思念伝達』を使って、ヒナタと何か話していたか。その顔、で話が終わってたからな。あの後の続きがあったんだろう……? 何を話して、おっとやめやめ。多分、うん、余計な詮索は止めておこう)

 

 リムルからOKをもらえるとは思ってなかったツキハは、少し驚き聞き返していた。

 

 そしてリムルも、ツキハが何を話していたかを気にするも、聞かれたくはない? 女の事情? もしくはヒナタに関して何かを言ったのだろうと察した。

 

「あんまり長くは駄目だぞ。俺との一騎打ちがあるからな」

「あ、うん、わかってるよ。そうだね、五分くらいもらえるかな?」

「え? いいのか五分くらいで?」

 

 今度は、五分で良いと答えたツキハに対して、そんな短くて良いのかとリムルが驚き聞き返す。

 

「うん。それくらいあれば、あたしの遊びは終わるから」

「そうか、わかった。くれぐれも気を付けろよ」

「わかってるって。ありがと、リムル」

「殺したらあきまへんで、ツキハ」

()らないって。わかってるよコハク」

 

 そう言いながらツキハは、リムル達に後ろに下がるように言う。

 

 ヒナタもアルノー達が心配する中、命令と称して後ろに下がらせようとするが、アルノー達はその命令を聞かず、その場に留まり続けた。

 

 それを見ていたベニマルが、ゆっくりとアルノーに近づき言った。

 

「さっき、本当は俺を斬るつもりだったろう?」

「ヒナタ様の交渉の邪魔をしたくなかったからな。少し脅すつもりだったが、まさか番外魔王が割って入るとはな」

「フッ。俺に向かっても、結果は同じだったけどな」

「そうか? ふふ。少し、離れた所で話そうか」

「いいだろう」

 

 場に似つかわない爽やかな笑顔で、ベニマルとアルノーがその場から離れて行った。

 

 このアルノーという聖騎士、ツキハに抑えられたものの、四人いる聖騎士の中で一番強い騎士だった。

 

 だから、それを見抜いたベニマルが動いたのだ。

 

 そして、アルノーよりベニマルの方が実力は上と見抜いているヒナタも、それを止めなかった。

 何故なら、ベニマルからは明確な殺気が放たれていなかったのだ。

 

 ベニマルに続いて、更に二人動くものが出る。

 

「さて、貴方達も退屈でしょう? リムル様とツキハ様のお邪魔にならないように、暫く私達が、相手をして差し上げてもいいわよ? フフッ」

「だな。オレも、〝十大聖人〟の実力、試してみたかったんだ!」

 

 妖しく微笑みながらアルビスが言い、スフィアも左手の平に右拳をバシンッと打ち付けながら言う。

 

「では、自分が」

「仕方ないな。付き合うぜ」

 

 そう応じる、フリッツとバッカス。

 

 そして、残されたのは……。

 

 紅一点の聖騎士リティスとソウエイ。

 

「行くか?」

「ええ、そうですね」

 

 場の空気を読み、この二人もこの場から離れて行った。

 

 これで、リムルの思惑通りにヒナタとの一騎打ちを邪魔する者はいなくなった。

 後は、ベニマル達が予定通りに足止めに徹してくれてる間に、ヒナタと決着を付ければいいだけ。

 

 こうしてこの場に残ったのは、リムルとツキハにコハク、そしてヒナタだけになった。

 

 

 一旦、周囲を軽く見回して、ツキハが口を開く。

 

「さてと、ルールは簡単。アンタが、あたしに七回斬りつければ、アンタの勝ちだ」

 

 ツキハの言葉を聞いたヒナタの眼光が鋭く光り、スーッと細められていく。

 

「貴女、死ぬわよ」

 

 その発せられた言葉は感情が一切乗ってなく、低く重圧が伴っていた。

 

 ヒナタの必殺技の一つ、七彩終焉刺突激(デッド・エンド・レインボー)

 

 相手を七回斬りつければ、必ず死に至る凶悪な技。

 この技は、以前リムルを追い詰めた技でもあった。

 

 ヒナタの持つ剣、月光の細剣(ムーンライト)

 この剣はレイピアであり、斬るよりも突くことに優れた剣であった。

 ヒナタの剣技から繰り出される超高速の突きは、並大抵の者には防げない。

 

 

 それを知って尚、ツキハはこの遊びを仕掛けてきたのだ。

 

「いいよぉ。殺せるなら、殺してみな」

 

 嬉しそうに口端に笑みを浮かべ、言い放つツキハ。

 

 ツキハは、鯉口を切ったままの時雨を帯から三分の一ほど前に出し、右肩を前に出した右半身の構えを取りながら、ヒナタの間合いちょい手前で足を止める。

 

 

 対するヒナタは、鞘からレイピアを抜くと、左肩を前にした左半身の構えを取り、自分の背に右手に持ったレイピアを隠した。

 

 

(ほぉー、刃の長さで間合いをはからせないように隠すか。中々どうして、殺しに来てるねぇ。うんうん、これは楽しい死合いになりそうだよ。って、殺し合いはやったら駄目なんだわ。リムル激怒待ったなしは、勘弁よ~)

 

 どこか楽し気に心の中で、言葉を漏らすツキハ。

 

 ヒナタも、時間限定といえど、あの時中途半端に終わった戦いの続きが出来るのを、どこか嬉しそうに薄い笑みを漏らしていった。

 

(これは、チャンスね。出来るならば、いえ、ここで番外魔王ツキハを倒す!)

 

 

 対峙したまま、お互いに間合いをはかる。

 

 

 緩やかな風がツキハとヒナタの間を通り抜け、砂塵をふわりと巻き上げていく。

 

 

 

 




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