忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。93話です








93話 聖と魔 ④ 半分遊び 

 

 

 お互いに間合いを計るツキハとヒナタ。

 

(何、かしら? この何もない空間に感じる、違和感は……)

 

 ヒナタは、ツキハとの間合いをはかりながら、どこかしら自分とツキハの周囲に微かな違和感を感じていた。

 

 そんな見えない何かに警戒していると、ツキハが軽く溜息(ためいき)をつき、ギロリと自分の右斜め後方の空間を睨む。

 

 

「はぁ。アンタら、サボってないで仕事しな。小娘(ヒナタ)との斬り合いを見たいのはわかるけど、今はそんな事してる暇ないでしょうが。はよ、仕事に戻りな!」

『『『『フニャッ!』』』』

 

 ツキハが、静かに少し低い声で言うと、数ヶ所の空間がポワワンと揺らぎ、急ぐようにその場から去っていった。

 

(やはり、眷属達も近くにいたのね)

 

 揺らぐ空間が遠ざかるのを見ながらヒナタは、先程から感じていた違和感の正体が眷属達だと確信する。

 

 

「ごめんごめん。うちの子達が邪魔したね」

 

 ツキハは悪びれもなく言うと、ヒナタの間合いギリギリで自分の間合いを重ねる。

 

「別に。何となく存在を感じてたから」

「そう」

 

 ツキハの言葉にヒナタは感情もなく返し、ツキハもぶっきらぼうにそれに答えた。

 

  自分の間合いギリギリに入って来たのを確認したヒナタは、そこで足を止め。

 自然体のまま、全身の力を高めていく。

 

 ツキハも静かに抜刀すると、左半身の構えを取り、自分の右足辺りに下げるような形で刃を置く。

 

 この何も起こらない空間では、仮想の斬撃が幾重にも走り、お互いの見えない太刀筋が交差していった。

 

 そう今、ツキハとヒナタは、見えない攻防を繰り広げていたのだ。

 

 ツキハが右足を前に出した、正眼の構えを取った瞬間――

 先に動いたのはヒナタだった。

 

(先ずは、一つ目)

 

 ヒナタは、予備動作もなしにスッと一歩前に踏み出したかと思うと――

 目にもとまらぬ速さで、突きの初撃を繰り出す。

 

 ギィッン! 響く刃の交差した激突音。

 

 ヒナタは瞬時に体を入れ替え、右足を前に出した形のまま、右手を伸ばした超高速の突き技。

 

 それは常人では知覚することは(かな)わず、特A級の魔物でも防ぐことは無理であろう必殺の一突き。

 

 だがしかし、その突きは()らされ、逆にツキハの突きがヒナタの右胸に放たれていて、切っ先が微かに触れたまま止められていた。

 

 その突きは、刃が横に向けられたままの突きだった。

 

(……何を、したの?)

 

 ヒナタは絶対的な自信をもって繰り出した突きが、何か見えない力で逸らされた感覚に驚愕し、更にツキハの刃の切っ先が自分の右胸に当てられている事に目を疑った。

 

 ヒナタは、すぐに意識を切り替え、その場から後ろに飛び退(すさ)って、一旦間合いを空ける。

 

 先程と同じように左半身を取り、レイピアを背に隠すヒナタ。

 またツキハも、同じく左半身を取り、右足側に切っ先を下に向けたまま構える。

 

(確実に番外魔王ツキハを突いたはず……。でも、私の切っ先は逸らされ、番外魔王ツキハの刃が私の胸に突き付けられていた。あの私の突きは、致命傷にもなり得る突き、だったはずなのに……)

 

 ヒナタは『思考加速』を使いつつ、状況分析をする。

 

(あれは、恐らく古流剣術の、剣技。だとすれば、無暗な斬撃や突きは逸らされ、カウンターが来るのは間違いない……。日本刀ならではの、攻防一体の技。本当に恐ろしいわね、実際に目にしてみると。ならば……) 

 

 冷静に今置かれた状況を分析し、日本刀における剣技を、自分の記憶から知り得る情報を総動員する。

 

 一撃目でツキハの剣術の腕を認め、それに対処する為に意識を切り替える速さは、聖騎士団長であり、西側最強と(うた)われたヒナタだからこそ、慢心や油断はそこになかった。

 

 ヒナタの剣技は突き主体の攻撃である。

 超高速の突きと、縦横無尽に繰り出される斬撃。

 

 この剣技を得意とするヒナタは、大抵の敵は初撃で致命傷を負わせ、もしくは怯ませ優位性を確保する。

 

 超高速の突き技は、特A級の魔物でも瞬時に七回突き、死に至らしめて来た。

 レイピアの特性を遺憾なく発揮するヒナタの剣技も、もはや達人級である。

 

 その攻防を見ていたリムルが、小さく呟いていた。

 

「あの突き技、よく(かわ)して逆に突きを当てられたな。あの超高速の突きは、めちゃくちゃ厄介だったんだけど……」

 

 その呟きに、コハクが淡々と答える。

 

「せやな。リムルの打刀では、あれは出来まへんなぁ」

「俺の打刀では、無理なのか?」

「せやで。リムルの打刀は、直刀やおまへんか。()りのない刃では、ツキハが使った技は無理おすえ」

「反り?」

「せや、あの刃の反りが重要やねん」

「えーと、どうやるの?」

「リムル、ハクロウから剣術の修行をつけてもろうとるんでっしゃろ? 少しは、自分で考えなはれ。フフッ」

「え? ああ、はい」

 

 リムルの問いに対して、悪戯(いたずら)っ子みたいな顔をして返すコハク。

 

「まあ、よろしおすやろ。簡単なことなんやで。突きの刃が来た時に己の刃を合わせ、ちょいと左に(ひね)れば、相手の突いてきた刃は、勝手に逸れていくねんで」

「合わせた瞬間に捻る……。ああ、そうか! 刃の反りに従って相手の突きの軌道が変わるのか。しかし、あの速さで突いてこられて、よく反応出来るよなぁ」

「フフッ、正解や。師匠が良いと、弟子も理解が早いおすな。まあ、よく見ておきなはれ。他流派の技も、勉強になりますからな。なあリムル、あんさんの強さは能力(スキル)から来てるのが大きいんや。だから、もっと己を磨かなあきまへんで。フフッ」

「え? ああ、そうだな。俺も精進しないとな」

 

 唐突に、自分の強さが能力(スキル)から来てるとコハクに言われ、リムルは一瞬、智慧之王(ラファエル)の事を言われたのかと内心ドキリとするが、コハクの態度がいつもと変りなく、それ以降能力(スキル)に付いては一切触れてこなかったので、杞憂に過ぎなかったなと、リムルは思った。

 

 だが、コハクとツキハは、薄々気付いていたのだ。

 

 リムルの中に、とてつもないものが潜んでいると。

 

 

 リムルとコハクがそんな話をしてる内に、ヒナタとツキハの攻防が、徐々に激しさを増していた。

 

 虚と実を織り交ぜたヒナタの斬撃。

 片やツキハの方は、その斬撃を(ことごと)く防ぎ、いなしていた。

 

(……そう。伊達に日本刀を下げているのではないのね。ならば、その剣技頂くわ)

 

 

 ガギギギィッン! 火花が散り、甲高い金属音が鳴り響く。

 

 あまりの斬撃の速さに、ヒナタの剣を持つ手は残像を残し、幾重にも見え。

 そしてツキハの剣を持つ手も、残像すら残さない速さで動いていた。

 

 ヒナタが三段突きから手首を返し、下からの左上に向けての斬り上げ。

 更に、そこからくるりと手首を返しながらの右斜め袈裟斬り。

 

 その斬撃をツキハの刃が受け止めた瞬間――

 

 ユニークスキル『簒奪者(コエルモノ)』が発動した。

 

「フッ」

 

 ヒナタの口元が微かに緩み、笑みを漏らす。

 

 『簒奪者(コエルモノ)』とは――

 

 それは、上位者に対し絶対優位とする能力(スキル)

 この力は、対象者の能力(スキル)技能(アーツ)を見破ることが出来、しかもそれらを奪うことが出来るのだ。  

 

 奪ったものを使いこなせるかは別問題であり、奪った相手の努力の結晶を奪い去るという意味では、とてつもなく凶悪で無慈悲な能力(スキル)であった。

 

 もし、対象者がヒナタより格下であれば、鑑定結果は《対象外》となる。

 この場合、相手の力を奪えないのだが、ヒナタの勝利は揺るがない。

 

 対象者がヒナタより格上だった場合は、鑑定結果は《失敗》か《成功》となる。

 

 この鑑定結果が出た時点で、対象者は強敵と判断出来るということ。

 

 《成功》と出れば、相手の能力(スキル)技能(アーツ)は丸見え状態。

 仮に《失敗》と出ても、何度でも繰り返していれば、いつかは奪える。

 

 そう、何度でも挑戦可能なのだ――

 力を奪い取る『簒奪』と、相手の力を学び取る『複写』。

 この二つの力が、恐るべきユニークスキル『簒奪者(コエルモノ)』なのだ。

 

 だから、五分という短い時間の中でも休まず攻撃をしていれば、いつかは対象者から力を奪える。

 その力量をヒナタは、十分過ぎるほど持ち合わせていた。

 

 以前、最初にリムルと対峙した時には、《対象外》と出た。

 

 格下と舐めて、リムルに逃亡を許すことになったヒナタは、更に能力(スキル)の底力を上げる為、力を磨き抜いた。

 

 その結果、掟破りの裏技、『強制簒奪』を得ていた。

 これは、格下であろうと対象者の力を奪えるように、『簒奪者(コエルモノ)』を昇華させたのだ。

 

 このようにヒナタの『簒奪者(コエルモノ)』は、相手との力量を計る役目も担っていた。

 

 

 そして、ツキハに対して出た鑑定結果は――

 

(……?)

 

 だがしかし、取った! と、確信したヒナタの思いもつかぬ間、無情にもヒナタの脳裏に一文字が浮かび上がる。

 

《不》

 

(不? 妨害ではなく、不……。信じられない、ルミナス様との時は《妨害》と、出たのに。何故?)

 

 ヒナタは困惑した。

 

 自分より遥かに格上の場合、力は奪えず《妨害》と出る。

 

 魔王ルミナス・バレンタインと対峙した時に出た鑑定結果が、《妨害》。

 対象者から力は、奪えないのである。

 

 困惑しながらもヒナタは、攻撃の手を止めることなく、あらゆる方向から斬撃を放ち、突き技を叩き込んでいく。

 

 だが、その攻撃の合間に出る鑑定結果は、《不》の一文字。

 

(どんなに『簒奪者(コエルモノ)』を使おうとも、結果は《不》。《妨害》ではなく、《不》とは、ね。そう、どんなに私が能力(スキル)を磨こうとも、奪えないのね……。番外魔王ツキハ、貴女の力は、異能ともいえるレベルと判断するわ)

 

 鑑定結果が《妨害》と出れば、その《妨害》をたらしめるものをヒナタが凌駕すれば、簒奪も可能となるかも知れない。

 

 だが、ツキハの鑑定結果《不》は、絶対に奪えない。

 

 どんなにヒナタが自身の能力(スキル)を磨こうとも、届かないところにあるとヒナタは感じた。

 

 そう、強さの次元の違い。

 

 これにヒナタは気付くも、それでも尚ヒナタは諦めずに攻撃を続ける。

 

 一気に間合いを詰め、連続刺突を繰り出し、即座に半歩間合いを外しながら、その間合いに飛び込んで来たツキハに、横(なぎ)ぎからの手首をしならせた、ハ方向からの斬撃を放つ。

 

 バッ バババッ バッバババッ 刃と刃がぶつかり八つの火花を散らしていった。

 

 ヒナタは、もう一つのユニークスキル『数学者(カワラヌモノ)』で知覚速度を五百倍にまで加速させていた。

 

 勝負を始める前、『数学者(カワラヌモノ)』で番外魔王ツキハを見た時は、普通の魔王級にしか見えなかった。

 

 ルミナスから聞いた不気味さなどはそこにはなく、ルイやロイより格上とは判断できたが、それだけであった。

 

 最初に、知覚速度を百倍程度で仕掛けていたが、『簒奪者(コエルモノ)』が通用しないと分かった時点で知覚速度を五百倍にまで加速させていた。

 

 倒すことは諦めてはいないが、またここで無理をすることもしなかったヒナタ。

 

 本命は、リムルとの一騎打ちなのだから。

 

 それでも、五分という限られた戦いの中、番外魔王ツキハを倒すべくヒナタは剣を振るい続けていく。

 

 『簒奪者(コエルモノ)』が有効でなければ、自身の磨いてきた剣技と魔法の数々、これで仕留めれば良い。

 仮に、ここで倒せなくとも、今度は万全の態勢で倒しに来れば良いと、そう思考を切り替えたヒナタ。

 

 こと戦いに関しては、柔軟な思考を働かせるヒナタであったが。

 これが、別の方向にも向けば、こういった争いも避けられたのかも知れない。

 

 

(決め手の一撃が、(ことごと)く返される……。番外魔王ツキハの太刀筋の予測は、完璧のはず。なのに、吸い込まれるように私の剣が弾かれ返されていく。何かしら、この何とも言えない感じは……)

 

 ヒナタは、『数学者』の『予測演算』を駆使して、番外魔王ツキハの刃の軌道を予測していた。

 にも関わらず、予測した軌道に来たツキハの刃が、自分の刃を弾き返していくのに違和感を覚えていた。

 

 例えるなら、予測への欺瞞。

 

 ツキハは、今ままで磨き鍛え抜いた剣技のみで戦っていた。

 

 どんなにヒナタがツキハの刃の軌道を予測していても、虚と実を巧みに操りしツキハの剣技は、ヒナタの『予測演算』に欺瞞ともいえる現象を引き起こしていたのだ。

 

 そう、技能(アーツ)には『予測演算』では計算しきれないものがある。

 

 無意識の中にある、動作。

 

 ツキハは、無意識に自分に最適な剣技を振るう事が出来る。

 その都度、最適な間合い、放つ斬撃を、意識の外で出す事が出来た。

 

 考えるより先に、体が動く。

 あらゆる事を感じた瞬間に体が動き、技を放つ。

 

 ツキハの剣技は、そんな境地にまで至っていた。 

 

 それでも、ツキハの目指す剣の道はもっと先に、ある……。

 

 

(ほんと、一回も有効な攻撃を入れられないなんて、これ程とは思わなかったわ。番外魔王が今回表立って動かなかったのは、リムルのお陰かしらね。だからといって、一騎打ちに手心を加える気は毛頭ないけど)

 

 ヒナタが一度大きく間合いを外し、短く息を吐く。

 

(フゥッ。そろそろ、時間かしら)

 

 体感的に五分という時間の終わりを感じたヒナタは、ツキハを見据えたまま、右手に持った伝説級(レジェンド)月光の細剣(ムーンライト)の切っ先を上に向け、眼前に構える。

 

(へぇー、良い眼だねぇ。やっぱりこの女、面白いわ。それにあの年で、よくここまで剣技を磨いたもんだ。くくくっ)

 

 ヒナタが最後の攻撃を仕掛けてくるのを察したツキハは、ヒナタに向けて嬉しそうでありながら冷え斬るような笑みを浮かべて見せた。

 

(……どこか、得体の知れない笑み。あの笑みは、魔物がする笑みとはどこか、違う気がする。それが何かは、わからないけど。フフッ)

 

 ヒナタもツキハの笑みに対して、同じような笑みを浮かべ返す。

 

 

 その二人を見ていたリムルは、内心何とも言えないような気持ちを漏らす。

 

(何かあれ、妙におっかなく見えるのは、気のせいだろうか? 解せぬ……)

 

 この疑問は、永遠に解決される事はないだろう。 

 リムルの周りに、そういう女性が寄ってくるのは、必然なのだから。

 

 そんな馬鹿な事をリムルが考えていると、ヒナタが先に動いた。

 

 ダンッと勢いよく地面を蹴った瞬間には、その場にヒナタはいない。

 蹴られた土くれだけが、その場に舞っていた。

 

 ヒナタはツキハの間合いに、敢えて飛び込んでいった。

 間合いに入って来たヒナタを迎撃する為に、右足を前にしたツキハの鋭い突きが放たれる。

 

 その突きを払い、カウンターの突き技を見舞うヒナタ。

 

 ギキィンッ!

 

 二つの甲高い金属音が、空間に響き渡った。

 

 

 結果は――

 ヒナタの首筋に、ツキハの刃が紙一重で止められていた。

 

 刹那の攻防。

 

 ツキハの突きをヒナタが払い、カウンターの突きを見舞ったところを、更にツキハの刃がそれを払う。

 そのヒナタの突きを払った瞬間、同時に(たい)を入れ替えて、前軸足が左足になった左半身の形になり、ヒナタの首筋を斜めに斬るような形で切っ先を止めていたのだ。

 

 ツキハが繰り出した技は、カウンターに対するカウンターであった。

 

 

「そこまでやな、二人とも」

 

 ここで五分が過ぎ、コハクがツキハの遊びの終わりを告げた。

 

「まさか、あのカウンター突きを、更にカウンターで返して来るとはね」

 

 ヒナタはレイピアを鞘に納めながら、淡々とツキハに言う。

 

「いやー、中々に鋭い踏み込みからの突きだったよ。あたしでなければ、あれで終わってたね」

 

 ツキハも刃を完全に(さや)に納め残心を解き、ヒナタに言葉を返した。

 

「貴女にとっては、しょせん遊びだったと、いう事なのね」

 

 ヒナタは、ツキハを睨むように言いながら、遊ばれたという事実に言いようのない腹立たしさに襲われる。

 

 その言葉にツキハは。

 

「まあ、そう悲観しなさんな。あたしを、半分でも本気にさせたんだから、誇って良いと思うよ。一部の者を除いては、あたしに半分の本気も出させずに死んでいくんだから、ね」

 

 今度は先程からの戦いからは想像出来ない、屈託(くったく)のない笑みを浮かべて言う、ツキハ。

 

 その笑みにヒナタは、ほんの少しだけ警戒を緩め言葉を返した。

 

「そう。なら今度は、完全に本気にさせてあげるわ」

 

 普通の表情で返したヒナタの言葉には、次は倒す、そういう感情が込められていた。

 

「そうだね。あたしにこれだけ剣技を出させたのは、そうそういないからねぇ。でもさ、アンタも本当の本気を出してないよね? くくっ。リムルとの一騎打ち期待しているよ、ヒナタ」

「!?……」

 

 ツキハが初めてヒナタの名を呼んだのと、自分がまだ完全に本気を出していないのを見抜かれ、ヒナタは一瞬驚き声が出なかった。

 

 そして、ヒナタの前に歩き近寄って来て、誰にも聞こえないような小さな声で、ヒナタに言った。

 

「アンタさ、まだ隠し玉があるだろ? それを見せなかっただけでも大したもんだ。まあ、この遊びでその一端を拝もうと思ったけど、アンタの能力(スキル)がわかっただけでもいいかな。取れなかっただろ? あたしの力。くくくっ」

「……(能力(スキル)の事がバレた……? そうね、ルミナス様から聞いた番外魔王二人の事。魔王でなくとも魔王と同等、それも最古と太古の魔王達と渡り合える程の力の持ち主、だと。これは、番外魔王に対する教会内の認識を改めるべきだわね、色々と)」

 

 ツキハが自分の名を呼んだ。

 この事は、番外魔王ツキハが、自分を敵だと完全に認識したと考えるヒナタ。

 

(敵と認識してくれたと、いう事なのね。番外魔王ツキハ。いいわ、今はまだ……でも、必ず貴女を倒してみせるわ。フフフッ)

 

 今までは敵とすら認識されてはいなかったことに腹立たしさを覚えながらも、敵と認識してくれた事にどこか嬉しさを(にじ)ませるヒナタであった。

 

 後にヒナタは、ツキハと何度も手合わせをする事になるのだが……。

 

 そんなヒナタを見ながらツキハがポソリとヒナタに何かを告げ、超高速で印を五つ結び、同時に『空間遮断結界』を張り、一切の音をリムル達に聞こえなくした。

 

「でさ、アンタだけ先に戦ってリムルに見られて不公平だから、助言を一つだけ」

「助言?」

「そう、アドバイスとも言うかな。アンタがリムルに勝てるのは、今のうちだけだよ。次にやったら、間違いなく瞬殺されるよ」

「……」

「まあまあ、そう怒らないって。今はまだ、発展途上の途中かな? だから、アンタにも勝機はある。でも、その力の進化は凄まじく早い。そう遅くないうちに、あたしらとガチで()り合えるほどになる。間違いなく、ね」

「ねえ、番外魔王ツキハ。本当に何者なの、貴女?」

「あたしか? ただの魔物だよ。くくっ。知りたければ、あたしを――」

「倒すのね」

「それもありだけど。もっと、簡単な方法もあるよ」

「簡単な、方法?」

「それはね、アンタがリムルと仲良くなれば、条件なしで教えてやってもいいよ」

「フッ。それはまた、難しい事を。聞くけど、魔王リムルは、貴女達の秘密を知っているの?」

「知ってるよ~。後、ヴェルドラもね。ウキキッ」

 

 ヒナタは、ツキハがヴェルドラと呼び捨てにした事に対して、軽く溜息を付いた。

 

「はあっ。あの伝承は眉唾(まゆつば)ものだったんだけど、本当に〝暴風竜〟ヴェルドラと懇意にしていたとはね」

「いいかぁ、邪竜とか抜かしてみろ。即刻、その首を刎ねてやるからなぁ」

「それは、その時の状況にもよるわね」

 

 にわかに殺気を忍ばせた言葉で言うツキハに対して、ヒナタはそれを意に介せず答えた。

 そんなヒナタをにやにやと見ながら、ツキハは会話を続ける。

 

「ちと話が逸れたけど。ようは、最初から殺す気全開でやれという事よ」

「貴女、どっちの味方なの?」

 

 ツキハの言った事に対してヒナタは、何を考えてるのといったような顔で返して来た。

 

「もちろんリムルの味方だよ。契約主だし」

「でも、今の貴女の言葉は、魔王リムルを倒せと言ってるように聞こえるわよ」

「そうだよ。だって、今ここで倒れるようなら、リムルが考えてるような国なんて出来っこないからね。ここでアンタに負けるようなら、そこまでという事で、あたしらは手を引くよ。でもね、リムルはどこか違う感じがするんだよぉ。何かさ、ずーっと遊んでいたいと、思わせるほどにね」

「何だかんだ言って、貴方達。魔王リムルの事を買っているのね」

「買っているというより、これから訪れるであろう新時代に向けての期待と、遊び心を満足させてくれる何かを、かな。ふふっ」

「時代の変革、か……」

 

 ツキハのリムルが創る新時代という言葉に、間違いなく魔国連邦(テンペスト)から始まる変革の嵐の予感にヒナタも気付いていた。

 

 その予兆は、ブルムンド王国を初めに、他国へと広がりつつあったからだ。

 

 それから会話を終えたツキハは、『空間遮断結界』を解除し、離れ際にもう一言ヒナタに告げた。

 

「アンタは強いよ。人間の部類では、最強と言っていい。じゃあ、良い戦いを期待しているよ」

「ええ、魔王リムルに勝つのを見てなさい。番外魔王ツキハ」

 

 ツキハはヒナタの返答を聞き終えると、クルリと背を回し、リムルとコハクがいる場所へと戻っていった。

 

 

 

 




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