忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件 作:にゃんころ缶
お互いに間合いを計るツキハとヒナタ。
(何、かしら? この何もない空間に感じる、違和感は……)
ヒナタは、ツキハとの間合いをはかりながら、どこかしら自分とツキハの周囲に微かな違和感を感じていた。
そんな見えない何かに警戒していると、ツキハが軽く
「はぁ。アンタら、サボってないで仕事しな。
『『『『フニャッ!』』』』
ツキハが、静かに少し低い声で言うと、数ヶ所の空間がポワワンと揺らぎ、急ぐようにその場から去っていった。
(やはり、眷属達も近くにいたのね)
揺らぐ空間が遠ざかるのを見ながらヒナタは、先程から感じていた違和感の正体が眷属達だと確信する。
「ごめんごめん。うちの子達が邪魔したね」
ツキハは悪びれもなく言うと、ヒナタの間合いギリギリで自分の間合いを重ねる。
「別に。何となく存在を感じてたから」
「そう」
ツキハの言葉にヒナタは感情もなく返し、ツキハもぶっきらぼうにそれに答えた。
自分の間合いギリギリに入って来たのを確認したヒナタは、そこで足を止め。
自然体のまま、全身の力を高めていく。
ツキハも静かに抜刀すると、左半身の構えを取り、自分の右足辺りに下げるような形で刃を置く。
この何も起こらない空間では、仮想の斬撃が幾重にも走り、お互いの見えない太刀筋が交差していった。
そう今、ツキハとヒナタは、見えない攻防を繰り広げていたのだ。
ツキハが右足を前に出した、正眼の構えを取った瞬間――
先に動いたのはヒナタだった。
(先ずは、一つ目)
ヒナタは、予備動作もなしにスッと一歩前に踏み出したかと思うと――
目にもとまらぬ速さで、突きの初撃を繰り出す。
ギィッン! 響く刃の交差した激突音。
ヒナタは瞬時に体を入れ替え、右足を前に出した形のまま、右手を伸ばした超高速の突き技。
それは常人では知覚することは
だがしかし、その突きは
その突きは、刃が横に向けられたままの突きだった。
(……何を、したの?)
ヒナタは絶対的な自信をもって繰り出した突きが、何か見えない力で逸らされた感覚に驚愕し、更にツキハの刃の切っ先が自分の右胸に当てられている事に目を疑った。
ヒナタは、すぐに意識を切り替え、その場から後ろに飛び
先程と同じように左半身を取り、レイピアを背に隠すヒナタ。
またツキハも、同じく左半身を取り、右足側に切っ先を下に向けたまま構える。
(確実に番外魔王ツキハを突いたはず……。でも、私の切っ先は逸らされ、番外魔王ツキハの刃が私の胸に突き付けられていた。あの私の突きは、致命傷にもなり得る突き、だったはずなのに……)
ヒナタは『思考加速』を使いつつ、状況分析をする。
(あれは、恐らく古流剣術の、剣技。だとすれば、無暗な斬撃や突きは逸らされ、カウンターが来るのは間違いない……。日本刀ならではの、攻防一体の技。本当に恐ろしいわね、実際に目にしてみると。ならば……)
冷静に今置かれた状況を分析し、日本刀における剣技を、自分の記憶から知り得る情報を総動員する。
一撃目でツキハの剣術の腕を認め、それに対処する為に意識を切り替える速さは、聖騎士団長であり、西側最強と
ヒナタの剣技は突き主体の攻撃である。
超高速の突きと、縦横無尽に繰り出される斬撃。
この剣技を得意とするヒナタは、大抵の敵は初撃で致命傷を負わせ、もしくは怯ませ優位性を確保する。
超高速の突き技は、特A級の魔物でも瞬時に七回突き、死に至らしめて来た。
レイピアの特性を遺憾なく発揮するヒナタの剣技も、もはや達人級である。
その攻防を見ていたリムルが、小さく呟いていた。
「あの突き技、よく
その呟きに、コハクが淡々と答える。
「せやな。リムルの打刀では、あれは出来まへんなぁ」
「俺の打刀では、無理なのか?」
「せやで。リムルの打刀は、直刀やおまへんか。
「反り?」
「せや、あの刃の反りが重要やねん」
「えーと、どうやるの?」
「リムル、ハクロウから剣術の修行をつけてもろうとるんでっしゃろ? 少しは、自分で考えなはれ。フフッ」
「え? ああ、はい」
リムルの問いに対して、
「まあ、よろしおすやろ。簡単なことなんやで。突きの刃が来た時に己の刃を合わせ、ちょいと左に
「合わせた瞬間に捻る……。ああ、そうか! 刃の反りに従って相手の突きの軌道が変わるのか。しかし、あの速さで突いてこられて、よく反応出来るよなぁ」
「フフッ、正解や。師匠が良いと、弟子も理解が早いおすな。まあ、よく見ておきなはれ。他流派の技も、勉強になりますからな。なあリムル、あんさんの強さは
「え? ああ、そうだな。俺も精進しないとな」
唐突に、自分の強さが
だが、コハクとツキハは、薄々気付いていたのだ。
リムルの中に、とてつもないものが潜んでいると。
リムルとコハクがそんな話をしてる内に、ヒナタとツキハの攻防が、徐々に激しさを増していた。
虚と実を織り交ぜたヒナタの斬撃。
片やツキハの方は、その斬撃を
(……そう。伊達に日本刀を下げているのではないのね。ならば、その剣技頂くわ)
ガギギギィッン! 火花が散り、甲高い金属音が鳴り響く。
あまりの斬撃の速さに、ヒナタの剣を持つ手は残像を残し、幾重にも見え。
そしてツキハの剣を持つ手も、残像すら残さない速さで動いていた。
ヒナタが三段突きから手首を返し、下からの左上に向けての斬り上げ。
更に、そこからくるりと手首を返しながらの右斜め袈裟斬り。
その斬撃をツキハの刃が受け止めた瞬間――
ユニークスキル『
「フッ」
ヒナタの口元が微かに緩み、笑みを漏らす。
『
それは、上位者に対し絶対優位とする
この力は、対象者の
奪ったものを使いこなせるかは別問題であり、奪った相手の努力の結晶を奪い去るという意味では、とてつもなく凶悪で無慈悲な
もし、対象者がヒナタより格下であれば、鑑定結果は《対象外》となる。
この場合、相手の力を奪えないのだが、ヒナタの勝利は揺るがない。
対象者がヒナタより格上だった場合は、鑑定結果は《失敗》か《成功》となる。
この鑑定結果が出た時点で、対象者は強敵と判断出来るということ。
《成功》と出れば、相手の
仮に《失敗》と出ても、何度でも繰り返していれば、いつかは奪える。
そう、何度でも挑戦可能なのだ――
力を奪い取る『簒奪』と、相手の力を学び取る『複写』。
この二つの力が、恐るべきユニークスキル『
だから、五分という短い時間の中でも休まず攻撃をしていれば、いつかは対象者から力を奪える。
その力量をヒナタは、十分過ぎるほど持ち合わせていた。
以前、最初にリムルと対峙した時には、《対象外》と出た。
格下と舐めて、リムルに逃亡を許すことになったヒナタは、更に
その結果、掟破りの裏技、『強制簒奪』を得ていた。
これは、格下であろうと対象者の力を奪えるように、『
このようにヒナタの『
そして、ツキハに対して出た鑑定結果は――
(……?)
だがしかし、取った! と、確信したヒナタの思いもつかぬ間、無情にもヒナタの脳裏に一文字が浮かび上がる。
《不》
(不? 妨害ではなく、不……。信じられない、ルミナス様との時は《妨害》と、出たのに。何故?)
ヒナタは困惑した。
自分より遥かに格上の場合、力は奪えず《妨害》と出る。
魔王ルミナス・バレンタインと対峙した時に出た鑑定結果が、《妨害》。
対象者から力は、奪えないのである。
困惑しながらもヒナタは、攻撃の手を止めることなく、あらゆる方向から斬撃を放ち、突き技を叩き込んでいく。
だが、その攻撃の合間に出る鑑定結果は、《不》の一文字。
(どんなに『
鑑定結果が《妨害》と出れば、その《妨害》をたらしめるものをヒナタが凌駕すれば、簒奪も可能となるかも知れない。
だが、ツキハの鑑定結果《不》は、絶対に奪えない。
どんなにヒナタが自身の
そう、強さの次元の違い。
これにヒナタは気付くも、それでも尚ヒナタは諦めずに攻撃を続ける。
一気に間合いを詰め、連続刺突を繰り出し、即座に半歩間合いを外しながら、その間合いに飛び込んで来たツキハに、横
バッ バババッ バッバババッ 刃と刃がぶつかり八つの火花を散らしていった。
ヒナタは、もう一つのユニークスキル『
勝負を始める前、『
ルミナスから聞いた不気味さなどはそこにはなく、ルイやロイより格上とは判断できたが、それだけであった。
最初に、知覚速度を百倍程度で仕掛けていたが、『
倒すことは諦めてはいないが、またここで無理をすることもしなかったヒナタ。
本命は、リムルとの一騎打ちなのだから。
それでも、五分という限られた戦いの中、番外魔王ツキハを倒すべくヒナタは剣を振るい続けていく。
『
仮に、ここで倒せなくとも、今度は万全の態勢で倒しに来れば良いと、そう思考を切り替えたヒナタ。
こと戦いに関しては、柔軟な思考を働かせるヒナタであったが。
これが、別の方向にも向けば、こういった争いも避けられたのかも知れない。
(決め手の一撃が、
ヒナタは、『数学者』の『予測演算』を駆使して、番外魔王ツキハの刃の軌道を予測していた。
にも関わらず、予測した軌道に来たツキハの刃が、自分の刃を弾き返していくのに違和感を覚えていた。
例えるなら、予測への欺瞞。
ツキハは、今ままで磨き鍛え抜いた剣技のみで戦っていた。
どんなにヒナタがツキハの刃の軌道を予測していても、虚と実を巧みに操りしツキハの剣技は、ヒナタの『予測演算』に欺瞞ともいえる現象を引き起こしていたのだ。
そう、
無意識の中にある、動作。
ツキハは、無意識に自分に最適な剣技を振るう事が出来る。
その都度、最適な間合い、放つ斬撃を、意識の外で出す事が出来た。
考えるより先に、体が動く。
あらゆる事を感じた瞬間に体が動き、技を放つ。
ツキハの剣技は、そんな境地にまで至っていた。
それでも、ツキハの目指す剣の道はもっと先に、ある……。
(ほんと、一回も有効な攻撃を入れられないなんて、これ程とは思わなかったわ。番外魔王が今回表立って動かなかったのは、リムルのお陰かしらね。だからといって、一騎打ちに手心を加える気は毛頭ないけど)
ヒナタが一度大きく間合いを外し、短く息を吐く。
(フゥッ。そろそろ、時間かしら)
体感的に五分という時間の終わりを感じたヒナタは、ツキハを見据えたまま、右手に持った
(へぇー、良い眼だねぇ。やっぱりこの女、面白いわ。それにあの年で、よくここまで剣技を磨いたもんだ。くくくっ)
ヒナタが最後の攻撃を仕掛けてくるのを察したツキハは、ヒナタに向けて嬉しそうでありながら冷え斬るような笑みを浮かべて見せた。
(……どこか、得体の知れない笑み。あの笑みは、魔物がする笑みとはどこか、違う気がする。それが何かは、わからないけど。フフッ)
ヒナタもツキハの笑みに対して、同じような笑みを浮かべ返す。
その二人を見ていたリムルは、内心何とも言えないような気持ちを漏らす。
(何かあれ、妙におっかなく見えるのは、気のせいだろうか? 解せぬ……)
この疑問は、永遠に解決される事はないだろう。
リムルの周りに、そういう女性が寄ってくるのは、必然なのだから。
そんな馬鹿な事をリムルが考えていると、ヒナタが先に動いた。
ダンッと勢いよく地面を蹴った瞬間には、その場にヒナタはいない。
蹴られた土くれだけが、その場に舞っていた。
ヒナタはツキハの間合いに、敢えて飛び込んでいった。
間合いに入って来たヒナタを迎撃する為に、右足を前にしたツキハの鋭い突きが放たれる。
その突きを払い、カウンターの突き技を見舞うヒナタ。
ギキィンッ!
二つの甲高い金属音が、空間に響き渡った。
結果は――
ヒナタの首筋に、ツキハの刃が紙一重で止められていた。
刹那の攻防。
ツキハの突きをヒナタが払い、カウンターの突きを見舞ったところを、更にツキハの刃がそれを払う。
そのヒナタの突きを払った瞬間、同時に
ツキハが繰り出した技は、カウンターに対するカウンターであった。
「そこまでやな、二人とも」
ここで五分が過ぎ、コハクがツキハの遊びの終わりを告げた。
「まさか、あのカウンター突きを、更にカウンターで返して来るとはね」
ヒナタはレイピアを鞘に納めながら、淡々とツキハに言う。
「いやー、中々に鋭い踏み込みからの突きだったよ。あたしでなければ、あれで終わってたね」
ツキハも刃を完全に
「貴女にとっては、しょせん遊びだったと、いう事なのね」
ヒナタは、ツキハを睨むように言いながら、遊ばれたという事実に言いようのない腹立たしさに襲われる。
その言葉にツキハは。
「まあ、そう悲観しなさんな。あたしを、半分でも本気にさせたんだから、誇って良いと思うよ。一部の者を除いては、あたしに半分の本気も出させずに死んでいくんだから、ね」
今度は先程からの戦いからは想像出来ない、
その笑みにヒナタは、ほんの少しだけ警戒を緩め言葉を返した。
「そう。なら今度は、完全に本気にさせてあげるわ」
普通の表情で返したヒナタの言葉には、次は倒す、そういう感情が込められていた。
「そうだね。あたしにこれだけ剣技を出させたのは、そうそういないからねぇ。でもさ、アンタも本当の本気を出してないよね? くくっ。リムルとの一騎打ち期待しているよ、ヒナタ」
「!?……」
ツキハが初めてヒナタの名を呼んだのと、自分がまだ完全に本気を出していないのを見抜かれ、ヒナタは一瞬驚き声が出なかった。
そして、ヒナタの前に歩き近寄って来て、誰にも聞こえないような小さな声で、ヒナタに言った。
「アンタさ、まだ隠し玉があるだろ? それを見せなかっただけでも大したもんだ。まあ、この遊びでその一端を拝もうと思ったけど、アンタの
「……(
ツキハが自分の名を呼んだ。
この事は、番外魔王ツキハが、自分を敵だと完全に認識したと考えるヒナタ。
(敵と認識してくれたと、いう事なのね。番外魔王ツキハ。いいわ、今はまだ……でも、必ず貴女を倒してみせるわ。フフフッ)
今までは敵とすら認識されてはいなかったことに腹立たしさを覚えながらも、敵と認識してくれた事にどこか嬉しさを
後にヒナタは、ツキハと何度も手合わせをする事になるのだが……。
そんなヒナタを見ながらツキハがポソリとヒナタに何かを告げ、超高速で印を五つ結び、同時に『空間遮断結界』を張り、一切の音をリムル達に聞こえなくした。
「でさ、アンタだけ先に戦ってリムルに見られて不公平だから、助言を一つだけ」
「助言?」
「そう、アドバイスとも言うかな。アンタがリムルに勝てるのは、今のうちだけだよ。次にやったら、間違いなく瞬殺されるよ」
「……」
「まあまあ、そう怒らないって。今はまだ、発展途上の途中かな? だから、アンタにも勝機はある。でも、その力の進化は凄まじく早い。そう遅くないうちに、あたしらとガチで
「ねえ、番外魔王ツキハ。本当に何者なの、貴女?」
「あたしか? ただの魔物だよ。くくっ。知りたければ、あたしを――」
「倒すのね」
「それもありだけど。もっと、簡単な方法もあるよ」
「簡単な、方法?」
「それはね、アンタがリムルと仲良くなれば、条件なしで教えてやってもいいよ」
「フッ。それはまた、難しい事を。聞くけど、魔王リムルは、貴女達の秘密を知っているの?」
「知ってるよ~。後、ヴェルドラもね。ウキキッ」
ヒナタは、ツキハがヴェルドラと呼び捨てにした事に対して、軽く溜息を付いた。
「はあっ。あの伝承は
「いいかぁ、邪竜とか抜かしてみろ。即刻、その首を刎ねてやるからなぁ」
「それは、その時の状況にもよるわね」
にわかに殺気を忍ばせた言葉で言うツキハに対して、ヒナタはそれを意に介せず答えた。
そんなヒナタをにやにやと見ながら、ツキハは会話を続ける。
「ちと話が逸れたけど。ようは、最初から殺す気全開でやれという事よ」
「貴女、どっちの味方なの?」
ツキハの言った事に対してヒナタは、何を考えてるのといったような顔で返して来た。
「もちろんリムルの味方だよ。契約主だし」
「でも、今の貴女の言葉は、魔王リムルを倒せと言ってるように聞こえるわよ」
「そうだよ。だって、今ここで倒れるようなら、リムルが考えてるような国なんて出来っこないからね。ここでアンタに負けるようなら、そこまでという事で、あたしらは手を引くよ。でもね、リムルはどこか違う感じがするんだよぉ。何かさ、ずーっと遊んでいたいと、思わせるほどにね」
「何だかんだ言って、貴方達。魔王リムルの事を買っているのね」
「買っているというより、これから訪れるであろう新時代に向けての期待と、遊び心を満足させてくれる何かを、かな。ふふっ」
「時代の変革、か……」
ツキハのリムルが創る新時代という言葉に、間違いなく
その予兆は、ブルムンド王国を初めに、他国へと広がりつつあったからだ。
それから会話を終えたツキハは、『空間遮断結界』を解除し、離れ際にもう一言ヒナタに告げた。
「アンタは強いよ。人間の部類では、最強と言っていい。じゃあ、良い戦いを期待しているよ」
「ええ、魔王リムルに勝つのを見てなさい。番外魔王ツキハ」
ツキハはヒナタの返答を聞き終えると、クルリと背を回し、リムルとコハクがいる場所へと戻っていった。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
次回の更新もよろしくお願いいたします!