忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

94 / 239
 お待たせしました。94話です








94話 聖と魔 ⑤ 人の身の限界

 

 

 どこか満足した顔で、リムルとコハクのところへ戻って来た、ツキハ。

 

 その様を見ているヒナタは、次なる真の戦い、リムルとの一騎打ちに集中すべく、静かに気を高めていった。

 

 

 リムルとコハクの前に、満足そうな笑みを浮かべ立つツキハ。

 

「ほんとに、あんさんは戦人(いくさびと)やなぁ」

 

 ツキハの表情を見て、コハクもまた、どこか嬉し気に表情を緩めながら言う。

 

「それで、どうやったんや?」

 

 だが、その表情もすぐ消して、コハクは真顔になりツキハに問うた。

 

「ん? どうもこうもないよ。面白かった、それだけだよ。くくっ」

 

 含み笑いをしつつツキハは、それに答えた。

 

「そうどすか。で、さっき何を話してたんや?」

 

 スッと目を細め、コハクはツキハに問い詰めるように言った。

 

 それにツキハは。

 

「良い戦いを期待してると、言っただけだよ。後は、アンタがリムルに勝てるのはこの戦いだけだとも、言った」

「え!?」

「はぁ。また、あんさんは……」

 

 ツキハの返答に驚き声を上げたのは、リムルだった。

 

 そしてコハクは、また余計な事をといった顔で苦笑いを見せ、頭を浅く横に振る。

 

「この一騎打ちが、ヒナタが俺に勝てる唯一のチャンスだという事なのか?」

「そうだよ。リムルはまだ強さの発展途上中だもの。今二人の実力は、多分拮抗してると思う。だから、リムルも殺す気で挑まないと、負けるよ? くくくっ」

「まったく、その含み笑いは何を意味してるんだか……。お前の見立てでは、どっちが勝ってもおかしくないと、言う事なんだな?」

「うん。だから、持てる手は全て出して頑張りな、リムル」

「そうか。俺も剣術に関しては、まだまだ修行中の身だからなぁ。ほんと、出し惜しみは無しでやらないとだよな」

 

 ツキハの言葉にリムルは、自分に言い聞かせるように返した。

 

 すると、ツキハがリムルに近づき、右人差し指でリムルの胸の真ん中をトンと差し当てた。

 

 そして、リムルの顔を下から覗き込むように、口を開く――

 

「うんうん。アンタのさ、そういう前向きなところ好きだよ。崖っぷちに立たされても折れないその心は、どこで鍛えたんだろうねぇ。前世の三上悟君は、くくくっ」

「なっ……(元人間の忍びで、猫耳と尻尾がある亜人型の魔人、ツキハ。可愛い顔してこの言いようのない怖さを出すのは、やっぱり戦国乱世に生まれ育ったからなのだろうか……)」

 

 リムルの顔の下から覗き見るツキハの表情は笑っていても、どこか不気味な印象をリムルに与えていた。いつも見るツキハとは、別人に見えていたから……。 

 

 そんなリムルの思いを置き去りに、ツキハは言葉を続けていく。

 

「リムル、アンタはまだまだ強くなる。でもね、この世界にはアンタと同等、それ以上の者が存在する。遠からず、その者達と戦う事になるよ、間違いなくね」

「俺以上の者か……。俺の望む国を創るならば、いずれ、そういう者達ともぶつかる事になるだろうな」

「ふふっ。やっぱりアンタは、面白いわ。ヴェルドラから聞いてる以上に、ね」

「そうか? ありがとう。ククッ」

 

 ツキハの誉め言葉? なのかわからない〝面白い〟に、クスリと笑いを漏らすリムル。

 

「でさ、アンタ。ヒナタに無様な負け方を、したら――」

「――したら?」

 

 そう言いながらツキハはリムルの胸から指を話すと、数歩ほど背を向けて歩き、足を止め――

 

「あたしが、アンタの国をもらうぞ」

 

 振り向きもせずに淡々と言い放った言葉は、リムルの背中をゾクりとさせた。

 

(つっ……。何ていう重圧(プレッシャー)なんだ。これが、何千年も(いくさ)を潜り抜けて来た魔物が持つ重圧なのか……)

 

 ツキハはほんの少しだけ本気の覇気を、権能『気動操作』でリムルにだけぶつけていたのだ。

 

 そして、その言葉を言い終えた後、クリッと小首を(かし)げてリムルに振り向き。

 

「なーんてね、冗談だよ、くくくっ。一騎打ち頑張ってね、リムル」

 

 先程の重圧(プレッシャー)が嘘のようなにこやかな顔で、リムルに言うツキハであった。

 

 一瞬で重圧を掻き消し、微笑み言うツキハの表情を見てリムルは。

 

(まったく、どこまでが冗談なんだか。戦いに男も女もない、戦乱の世。ツキハ達の日本はそんな世界だったな。まあ、味方になってくれて良かったと、つくづく思ったわ。さっきのツキハ見てたら……)

 

 リムルはヴェルドラからもツキハとコハクについて色々教えてもらっていたのだが、戦う忍びの顔を見たのは今回が初めてだった。

 

 魔国連邦(テンペスト)に移住して来てからは、サンコと一緒に〝遊んでいる事(悪だくみ)〟が多く、今のツキハの顔は、それとはかけ離れた顔をしていたのだ。

 

(そうだな。ツキハの言う通りにここで負けたら、俺の望む国など出来るはずもない。ならば、勝つしか道はない。皆が、俺の望む国創りの為に頑張ってくれているんだ。俺が無様を晒すわけにはいかないよな)

 

 リムルはツキハに言われた言葉を嚙み締めつつ、自分から離れて行くツキハとコハクをチラリと見ると、すぐさまにヒナタへ視線を戻し、ヒナタに向かって歩き出す。

 

 リムルの見るヒナタは先程とは少し違って、背には大剣を背負っていた。

 

(いつのまに大剣を出したんだ?)

 

 リムルは訝し気に思いながらも、ヒナタに近づいて行く。

 

 

 静かに佇むヒナタは『数学者』で、近づくリムルを観察していた。

 

(やれやれ、全くもって魔王種という魔物は、とんでもない成長性をするものだわね)

 

 現時点でリムルの実力が読み解けぬヒナタは、リムルの実力が自分と同等かそれ以上と判断した。

 

(本当にこの世界は、優しさが欠片もない……。番外魔王ツキハの不気味さといい、魔王リムルの急成長は、異常、いや、魔王リムルが規格外過ぎるのかも知れない。ルミナス様とは違う、何かを感じざるを得ないわね。人類に仇名すもの、魔物。人類と共存を望む、魔王リムル。今は、この一騎打ちに勝つ事が最優先。少しでも気を抜けば、私が倒されるでしょう、ね)

 

 リムルの実力を脳内修正したヒナタは、一気に己の気を高めていく。

 

 

 そして、リムルもヒナタの数メートル前まで近づき、そこで歩を止め、ヒナタと対峙する。

 

 

 ヒナタは鞘から〝月光の細剣(ムーンライト)〟を抜き、ツキハと戦った時と同じ、後ろ背にレイピアを隠す構えを取った。

 

 鋭く細められた眼光からは、一切の慈悲は感じられなかった。

 

(まあ、そう来るよな) 

 

 リムルも完全に戦闘態勢に移行しながら直刀の打刀を抜き、右片手持ちで左半身の構えを取る。

 

 

 緩やかに吹いていた風が、ピタリと止まった。

 

 風に(なび)いていたリムルの長い髪が、ふわりと元に戻った。

 

 音が遠くなった感覚、離れた所で戦うシオンの戦闘音さえも消えていくようだった。

 

 

 リムルとヒナタを包む空間が、静寂の間に置かれていく。

 

 

 が、その静寂を破るように動く、一閃の影。

 

 

 リムルが先に動いたのだ。

 

 

 瞬動法で一気に間合いを詰め、ヒナタに斬りかかったリムル。

 

 それを見越したかのようにヒナタは、無駄のない動きでリムルの片手右横()ぎを弾き躱す。

 

 リムルの片手横薙ぎは囮。

 ヒナタの間合いに入るための布石であった。

 

 ギャギィインンンッ!

 

 弾かれ合う刃の激突音。

 

 片手から両手持ちに切り替えたリムルは、ヒナタの左腕側を肩から斬り下げるように、本命の袈裟斬りを放つ。

 

「ヤバっ!」

 

 袈裟斬りを放ったリムルは思わず声を出し、瞬動で一気に後ろに飛び退(すさ)った。

 同時に下から斬り上げられたヒナタの切っ先が、リムルの目の前に飛び込んでくる。

 

 リムルの袈裟斬りに対して、ヒナタの取った行動は――

 

 袈裟斬りを繰り出したリムルは体の真ん中が開いた為、それにヒナタは右に移動しながらリムルの真ん中を取り、レイピアを下から斬り上げるようにリムルの柄を握る両手を狙ったのだ。

 

 それに気付いたリムルは、瞬動でその場から一気に離脱したのだった。

 だが、リムルの両腕には薄く、斬られた跡が残っていた。

 

 これが常人ならば、その場で両腕を斬られ終わっていただろう。

 

 超人的な力を持つ〝仙人級〟と、〝魔王種〟と呼ばれる魔物。

 

 知覚さえも覚束ないその攻防は、一手間違うと終わる……。

 

 そんな戦いだった。

 

 

(一つ入れられたか。残り、六つ……)

 

 リムルは正眼の構えのままヒナタとの間合いを計りつつ、ヒナタの出方を伺う。

 

(鑑定結果……《妨害》。そう、君もルミナス様と同じ高みに至ったと、いう事なのね。やはり、番外魔王ツキハの鑑定結果《不》は、有り得ない結果だという事になる、か。でも、今は――)

 

 ヒナタはリムルから視線を放さずに、短く息を一つ吐くと。

 

 背負っていた大剣、竜破聖剣(ドラゴンバスター)をその場に投げ捨てた。

 

 こんなものでは、魔王リムルは倒せない、ヒナタはそう悟ったのだ。

 

 右手に持った〝月光の細剣(ムーンライト)〟の刃が日の光を受け、一段と輝きを増したかのように光を放っていた。

 

 そして、淡く輝く光がヒナタを包み込んでいく。

 

 その光の輝きは段々とまばゆくヒナタの周囲を照らし、その眩しい光にリムルが目を細める。

 

(何だあの光の輝きは……?)

 

 ヒナタに起こった不可思議な光景にリムルは警戒を解かずとも、その光景に目を奪われていった。

 

 

 パッとその光が収束し、輝く光の鎧衣(ヨロイ)となり、ヒナタを聖なる力で覆い尽くす。

 

 〝精霊武装〟

 

 その光の鎧衣(ヨロイ)は、聖騎士達が着用する〝精霊武装〟の原典の衣(オリジナル)

 勇者も用いたとされる、西方聖教会の秘する対魔兵器。

 

 対竜対魔の武装であり、精霊に愛される者しか使えない代物であった。

 

 

 こうして〝精霊武装〟を(まと)ったヒナタは、あらゆる制約から解き放たれる。 

 

 今のヒナタは〝仙人級〟すらも超越する――

 

 真なる〝聖人〟へと至ったのだ。

 

 

「出しやがったか、西方聖教会の最終兵器、真の〝精霊武装〟を。あたしが()り合いたいくらいだわ。相手が〝聖人級〟か、いいなぁリムル」

 

 〝精霊武装〟を纏ったヒナタを見て、どこか嬉し気にありながら残念そうな口調で呟くツキハ。

 

「手ぇ出したらあきまへんで、ツキハ。それこそ、リムルが激怒しますさかいな」

「わかってるよコハク。でも、久しぶりに戦いごたえのあるヤツがいて、どうにも疼くんだよねぇ。あたしの心が、さ。うひひっ」

「あんさんも変わりまへんなぁ。まったく、忍びの頃からずっと戦人(いくさびと)やさかいな、ツキハは」

「そういうあんたもさ、口元が緩んでるよ。ほんと、お互い強いヤツを見ると、この心から湧き上がる戦いへの衝動が抑えられないよねぇ」

「せやねぇ。ふふっ、ふふふふ」

 

 (いくさ)生業(なりわい)にして生きて来た人間時代。

 

 この世界に転生して来て五千年余り。

 

 魔物として生きるツキハとコハクにとってこの世界は、天国とも言える世界だった。

 

 何故なら、強ければ時の権力者であろうと、一国の王であろうと、自分の身一つで滅ぼせるのだから。

 

 

 だがしかし、最強と呼べる魔物は自分達以外に存在する。

 

 

 自分達より強い存在、何よりもその存在が嬉しかった、ツキハとコハク。

 

 この世界の最強とは、常人が想像する事すら出来ない未知への探求である。

 

 そう、自由であろうとすればするほどに、強くなければならない。

 

 そして、その強さを求めツキハとコハクは、己の技量(レベル)を磨き鍛え続ける。

 

 この、飽くなき強さへの探求心こそが二人の強さの源であり、原動力でもあるのだ。

 

 ツキハとコハク、この強さを求め、戦いに喜びを見出(みいだ)す感情は人間の頃から持ち合わせていた。

 忍びの里では、戦人と呼ばれたツキハと、稀代の天才呪符忍術使いと言われたコハク。

 

 転生したこの世界に、元から居たかのように適合した二人。

 

 この魂の強さは、一体どこから来たのであろうか?

 

 絶滅した魔物、幻魔として転生した二人。

 

 リムルとの出会いによって、運命の歯車は緩やかに加速されていく。

 

 

 〝異世界珍道中〟、四千年以上前にツキハがコハクに言った言葉であった。

 

 旅先で珍妙な出来事に遭遇する事なのだが、正にこの世界がそれで、ツキハにとっては日々珍妙な事が起こる世界に感じていたから、この言葉をコハクに言った。

 

 世界をあちこちで戦いながら旅して回った時期もあった。

 やがてそれは、番外魔王という地位をこの世界最古の魔王ギィから〝申し付けられ(オシツケレラレタ)〟、旅は一旦終わりを迎えた。

 

 だがしかし、また世界を旅しながら戦い、いつしか眷属達を率いる事になり傭兵商会ルヴナンを立ち上げる事になる。

 

 ここで完全に旅は終わったかのようにみえたが、ある日コハクが『旅をしていないから、〝珍道記〟じゃおまへんか?』と、ツキハに問うた。

 

 それにツキハは――

 

『旅をしてないから〝珍道記〟だって? 〝心の旅路〟に終わりはないから、〝珍道中〟でいいんだよ、コハク』と、返したのだ。

 

 進化、技量(レベル)を磨く、ツキハはこれらを心の旅路と表したのだ。

 魂を強化すれば能力(スキル)の進化も促せる。

 

 (すなわ)ち、魂を鍛えるという事は精神の強化、ひいては心の強化である。

 

 技の鍛錬にしても、ただ技を磨くではなく、精神も一緒に鍛えなければならない。

 心なき技は(なまく)らも同然であり、これをツキハは〝心の旅路〟と例えたのだ。

 

 (おの)が鍛えし剣技、何ものにも動じない精神、絶対に諦めない心、これらが合わさり戦人(いくさびと)なる。

 

 天牙影千流開祖、十六夜 元斎(いざよいげんさい)が残した言葉であった。

 

 ツキハは転生してからも、この言葉を忘れる事はなかったのだ

 

 

 そしてツキハの見据える先には、対峙するリムルとヒナタがいる。

 

 この二人の戦いが、この先の世界の行く末を決めるだろうと、ツキハは考えていた。

 

 

 〝精霊武装〟を纏ったヒナタがゆらりと動き、その場に残像を残し消えた。

 

 舞い上がる土煙。

 

 同時にリムルも、同じようにその場に残像を残し消える。

 

 

 二人が対峙していた中間点で始まる、超高速の剣技の応酬。

 

 激しく散る火花と、叫ぶように響く金属音。

 

 

 一切の負荷を無視したヒナタの剣技は異常だった。

 

 その超高速の剣技に対抗する為リムルは、『思考加速』で知覚速度を百万倍にまで引き上げる事で、何とか反応出来るレベルであった。

 

 互いに受け流し、弾き、そして斬り返す、幾重にも重なる斬撃の閃光。

 

 この凄まじい斬撃の応酬の中、互いにまだ一撃も入ってはいなかった。

 

(マジかこれぇ! 魔王に覚醒して『智慧之王(ラファエル)』さんのサポートを受けてこれとか……。ヒナタのヤツ、魔物並みに化け物じゃねえか!)

 

 何とかヒナタの斬撃は防いでいるが、リムルもまた決め手に欠けて、心の内で声を上げる。

 

 リムルは、〝真なる魔王〟となった今の自分ならば、身体能力で圧倒出来るだろうと考えていた。

 

 だがしかし、事実は違った。

 

 結果は、互角である。

 

 ツキハの言った言葉が、今になって耳に刺さるリムル。

 

(そうか……。能力(スキル)や身体能力がどんなに優れていても、それが優位性を保てるわけじゃないんだな。技量を磨け、か。やっぱり、実戦経験の差は大きいよな。ツキハが言った、全てを尽くせ。ならば、俺の今出来る事は、この戦いの中で更に自分の能力(スキル)を進化させるしかないよな。じゃないと、ツキハに俺の国を乗っ取られてしまうかも知れないしなぁ。ククッ)

 

 ヒナタとの攻防の中、余裕はないのに、何故か心の内でクスリと笑いを漏らすリムル。

 

 片や凄まじい斬撃を繰り出すヒナタは、リムルに只ならぬものを感じていた。

 

(冗談じゃないわね)

 

 最初から全力で挑み、剣技で圧倒して早期に勝利を認めさせようと考えていたヒナタだが。

 

 そんなリムルは、なんなくヒナタの剣技の速度に付いて来ていた。

 

(十年かけて磨いて来た私の剣技。その全てに対応してくるとは、恐れ入ったわね……。五千年も剣技を磨いて来た番外魔王ツキハとは、別の何かを持っているかも知れない……。〝人の身の限界〟、か)

 

 人間は、魔法や能力(スキル)を駆使して、それでようやく魔物と戦えるだけの力が得られる。 

 

 それに対してリムルや精神生命体であるツキハは、呼吸すらも必要としない。

 

 体力の減少などとは無縁であり、魔法で回復などしなくても筋肉疲労すら起こさない。

 

 ただし、体内に持てる量の魔素量(エネルギー)が尽きれば、体力の減少と同等の事が起きるかもしれないが。

 

 その持てる魔素量(エネルギー)も、魔王級ともなれば膨大なものとなる。

 

 だから――

 

(フフッ、全く覚醒魔王級とは、理不尽そのものね。同じ土俵に立つと、それがよくわかる……)

 

 自嘲気味に内で笑い、自分の不利を嘆くヒナタ。

 

 魔物を相手にするならば、最初からわかっていた事。

 

 この世界は弱肉強食、故に戦うならば、絶対に勝てる条件を揃える事が大事なのだ。

 

 

 今ヒナタは、知覚速度を千倍まで高めた上で、更にその限界を突破して周囲の空間を認識している。

 

 凄まじい負荷が脳にかかり、毛細血管が破裂する中、その破裂した毛細血管を破裂と同時に自己回復魔法が自動で発動するように自分にかけていて、破裂、自己回復と、無限に繰り返されていた。

 

 魔物との戦いでは、一切の弱みを見せないヒナタの覚悟。

 

 この状態のヒナタには、世界が止まっているように感じられていた。

 

 それでも足りずにヒナタは、『数学者』の『予測演算』を駆使してリムルの攻撃軌道を予測する。

 

 袈裟斬りからの連撃を始め、超高速の突きを叩き込むヒナタ。

 

 その攻撃の全てを弾き(かわ)し、同じように攻撃を見舞うリムル。

 

 人としての限界を超えた動き。

 

 全力を出すヒナタの身体は、確実に悲鳴を上げ始める。

 鼻から微かに垂れて来た鼻血を、体さばきで体を(ひるがえ)しながらリムルに気付かれないよう、一連の動作の一つとして鼻血を(ぬぐ)う。

 

 この戦いは、長引けばヒナタの敗北が決定する。

 

 〝聖人級〟となった今も、ヒナタは人の身に縛られていた。

 〝半精神生命体〟となるには、今一つ乗り越える壁があるのだ。

 

(ツッ……。身体が悲鳴を上げ始めたか。早急に勝負を決めないと……)

 

 ヒナタはこの不利な状況を覆す手立てを考えていた。

 

 頼みの綱の『簒奪者』は、《妨害》されて役には立たない。

 

 ルミナスから授けられた、〝月光の細剣(ムーンライト)〟。

 

 この剣は凄まじい力を秘めていた。

 ヒナタの魔力を通し、闘気(オーラ)纏わせることで、生半可な回復能力では追い付けない致命的なダメージを与えることが出来る。 

 

 現に、『超速再生』を有する敵であっても、一刀のもとに両断出来るのだ。

 

 だからこそ、リムルの腕の一本でも奪えば、それで勝負は決着する。

 そうヒナタは考えていた。

 

 殺しはしない、要はリムルに敗北を認めさせればいいだけ。

 

 しかし、その一撃が入らない。 

 

 リムルは見事なまでの空間把握能力と、その身体能力で、自分が繰り出す剣技を見極めているようにヒナタは感じていた。

 

(認めないわけにはいかないわね。本当に凄い成長ぶりだわ。でも、それは身体能力に関してのみ。技量(レベル)までは、追い付いていない)

 

 リムルの進化は凄まじかった、が。

 

 その技量(レベル)は、以前に見た時からそれほど変化してないように感じたヒナタ。

 

 剣術。

 

 これは、気の遠くなるような修練を重ね、ひたすら反復練習を繰り返して培うもの。

 

 ヒナタはこの世界に来て、シズに剣技を教わり、シズと別れた後はひたすら自分の技量(レベル)を磨き続けて来た。

 

 ツキハと戦った時は、圧倒的な剣技の差をツキハに感じたヒナタ。

 今度は逆に、リムルにそう感じたのだ。

 

 そして、ヒナタはリムルに戦闘経験が明らかに少ないのを看破し、そこに勝機を見出(みいだ)す。

 

 リムルの剣技をそう読み取ったヒナタは、自分の攻撃に緩急を付けつつ、リムルに錯覚を起こさせる戦術に切り替えていく。

 

 そう、フェイントである。

 

 自分の培ってきた老練な技量を駆使し、リムルを翻弄していくヒナタ。

 

(な、何だ? 攻撃のリズムが明らかに変わった、のか?)

 

 ヒナタが繰り出す変幻自在の剣技、百万倍の知覚速度をもってしても、迫る刃がコマ送りしたかのように、突然剣の軌道が変化する。

 

(じょ、冗談じゃねえぞ!)

 

 それでも必死に喰らいつくリムル。

 

 リムルとヒナタの戦いも、佳境を迎えつつあった。

 

 

 そこへ――

 

 リムルとヒナタが戦う領域からは離れた所で、激しい音が木霊(こだま)していた。

 

 その音は、シオンが戦う領域からだった。

 

 

 リムルとヒナタが戦いを繰り広げる中、シオンもまた、聖騎士達と激闘を繰り広げていた。

 

 

 

 




 この作品を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新もよろしくお願いします!





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。