忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。98話です







98話 聖と魔 ⑨ リムル、最大のピンチ?

 

 

 レナードは、自分達が生き残った事に安堵し、一気に体力と精神を疲弊(ひへい)したのか、片膝を付き肩で大きく息をする四人の聖騎士達に声を掛けて回った。

 

 そして、未だぶつぶつと何事かを(つぶや)き返すギャルドを尻目に、にこやかに談笑しているシオンとニコを見ていて、ある疑問が頭を(よぎ)る。

 

(このシオンと名乗った魔物、本当に自分達を殺す気はなかったんだな……。伝承に残り言い伝えられて来た番外魔王の一桁番号眷属、狂乱猫ニコ。この魔物を見て、ほとんど生きて帰れた者はいない、これは事実であろう。だがしかし、言い伝えにある狂った魔物というのは、本当なの、か? あの風体(ふうてい)からは想像も出来ない強烈でどす黒い妖気(オーラ)を感じたのも、事実なんだが……)

 

 そこでレナードは何んとはなくニコを見つめたまま、魔王リムルの事を今一度考え直してみた。

 

(自分達が殺されなかったのは、あのシオンとニコという魔物の意志ではなく、魔王リムルの命令だからと言った。ならば、魔王リムルが悪魔に命じて大司教レイヒムを暗殺したという事に、矛盾が生じるのではない、か? そもそもよく考えてみれば、ヒナタ様は友好関係を築く事を目的に、魔王リムルに会いに向かっていたはず……。それを、魔王(みずか)ら邪魔をする理由が、ない)

 

 レナードの思考はこれまでの事を整理しながら、余計な情報は削ぎ落していき最適解を求めて思考する。

 

(争いと混乱、これを目的とするなら話は別。しかし、しかしだ、あの魔物シオン、ニコからはそれが感じられない)

 

 目まぐるしく頭の中を行き来する、思考。

 

 そんなレナードを見てか、ニコがカラコロと下駄を鳴らしながらレナードのそばに近づき。

 

「ねぇ、アナタ。私が狂乱猫ニコなのに、自分が生き残ってることが不思議だと思ってるのかなぁ?」

「え? いや、そんな事は……」

 

 いきなり話しかけられてしどろもどろになるレナード。

 しかしニコは、あろうことか口調を変え話を続けていく。

 

「まあ、アナタ達人間からすれば私達魔物は、脅威でしかないのはわかっているわ。でもね」

「あ、あぁ……」

 

 ニコが一旦(いったん)話を区切る。

 急に大人の女性が話すような口調にレナードは、更に戸惑い言葉が続かなかった。

 

「いい? 魔物でも、大事な家族や仲間を傷付けられたり殺されたりしたら、アナタ達人間と同じように悲しみ怒るの。そして、その怒りの大きさと報復がアナタ達人間とは(けた)が違うという事よ。私はね、常に狂気と正気の狭間にいるわ。今は、アナタと話す為にほんの少しだけ正気に寄り添ってるだけ。何故そんなメンドくさい事をしてるのか? という顔ね。フフッ」

「そ、そんな事は……」

 

 見た目は十二、三才位の姿のニコが、今は不思議と大人の女性に見えていた。

 

「まあ、アナタ達人間と一緒で色々あるのよ魔物にも、ね。私達だって悩みくらいはあるのよ。でね、シオンちゃんはね、一度アナタ達人間に殺されてるの。ファルムス王国の騎士の剣から同じ魔物の子供を(かば)ってね。その事がアナタに――」

「レナード。レナードだ」

 

 レナードは、後ろ手に体を右横に(かた)け下から覗き込むように話すニコに、自然と自分の名を告げていた。

 

「そう、レナードという名なのね。いい名前ね、ウフッ」

「あ、いや……」

 

 目の前にいる少女のほわっとした微笑みに、一瞬ドキリとするレナード。

 

(な? いや、魅了(みりょう)の魔法ではない、な。これが本当に狂乱猫ニコなのか?)

 

 自分がニコの微笑みにドキッとした事に魅了の魔法を使われたと錯覚したレナードだが、直ぐに魔法が使われた痕跡(こんせき)が無いのに安堵(あんど)する。

 

「で、続きなんだけど。その事がね、どのようにレナードに伝わっているのか想像は出来るんだけども。事実は、無抵抗の戦う力もない大人の魔物や女子供の魔物を含めて、その場にいる魔物を、皆虐殺したのよ。ファルムス王国の騎士どもがね」

「……」

 

 ニコから聞いた虐殺という、言葉。

 

 今までのレナードならば、魔物を討伐する事は使命であり、それを虐殺とは思わなかったであろう。

 

 しかし今、ニコから聞いた真実が、レナードの心を(わず)かに揺らした。

 

「その顔は、信じられないという顔ね。フフッ」

「違う、そ――」

「いいのよ。別に信じてもらう為に話したのではないもの。ただね、レナード。アナタ達人間と同じように私達魔物にも感情はあるの。中には、血を好み、人間を殺す事が生きがいみたいな魔物も多くいるわ。でもそれは、アナタ達人間にもいるでしょ? 獣人の子供を愛玩奴隷にしている貴族がいるのを知ってる? エルフを性奴隷にしている人間の商人がいるのを知ってる? そして、同じことをしている魔物もいるわけ。どっちが正義で悪なのかしらね。私には、同じ者にしか見えないのだけど。フフッ」

「……」

 

 ニコの口から出た魔物を専門に捕らえて商売をしている、奴隷商人の事実。

 一部の貴族にそんな趣味を持っている者がいるという噂は、レナードも知っていた。

 

 魔物は〝悪〟、この教義を疑うことなく今ままで聖騎士として活動して来たレナード。

 

 何が悪で正義なのか? 今まで疑問にも思わなかった西方聖教会の教えが、レナードの中で揺らぐ。

 

「はぁ、そろそろこの口調も限界かしらぁ。フフフフフッ。これね、ものすごく疲れるのよぉ。だからぁ、正気の私は、お・し・ま・いぃ~」

 

 ニコの雰囲気が先程とは打って変わって、元の間延びした口調に戻る。

 

「フフッ。ちょっとおもしろいものを、見せてあげるわねぇ~。魔物にも、人間と同じおバカで間抜けな子もいるんだということをねぇ~」

 

 そう言うとニコは、印を七つ結び、右指を二本立てて眼前に構える。

 

「忍魔術、魔獣召喚~。サンコちゃ~ん、来ませい~」

 

 さんこ しょうかん 

 (サンコ 召喚)

 

 ニコの眼前に言霊(ことだま)が浮かび上がり、右足でカンッと下駄を鳴らし、二本指を立てた右手を右真横にピッと切る。

 

 ニコを中心にして、地面に直径三メートル程の赤く輝く魔法陣が現れる。

 

 そして――

 ニコの前の空中に、ポンッとサンコが現れた。

 

 右手にお(はし)、左手に何かが入ったお(わん)を持ち、正座をした格好のままの召喚である。

 

 そう今回サンコは、テンペストの街の警備を任されていた一人なのだが、あまりにも暇なので出来たばかりの、シュナがプロデュースした〝甘味屋〟でこっそりお汁粉を食べていたのだ。

 店の給仕をしているお姉さんとお(しゃべ)りをしながら食べていた最中の、召喚である。

 

 座敷席で食べていたので正座をしたまま空中に浮かんでいるサンコは、状況が呑み込めず激しく目と首を動かし辺りを見回す。

 

 すると、すとんとそのまま地面に落ちて、正座のままポフッと着地した。

 お椀に入ったお汁粉を(こぼ)さない体幹(たいかん)能力は、流石は体術を得意とするサンコである。

 

 いきなり現れたサンコにレナード達は驚き身構えるも、正座してあからさまに食事をしてる最中だとわかる姿に気を抜かれる。

 

 キョロキョロと辺りを見回して、サンコは正座したままおもむろに、お汁粉を食べ始める。

 その様子をレナードと四人の聖騎士は、呆気(あっけ)に取られて見ていた。

 

 カッカッカッと箸を動かしあっという間に食べ終えると、水遁(すいとん)でバレーボール大の水玉を作り出し眼前に浮かべ、その中にお碗と箸を入れて洗い出す。

 

 洗い終え、右手にお箸、左手にお碗を持つと、残像も残さぬ速さで両腕を上下に振り動かし水を切り乾かすと、いそいそと(たもと)にお箸とお碗を仕舞う。

 

 そしてもう一度周りを見渡し、やっと口を開いた。

 

「ニャぁ……ここ、どこニャ?」

 

 間の抜けた声で言うと、甘い匂いに気付いたシオンが、早足でサンコに駆け寄る。

 

「あああーサンコ! アナタ、この戦いが終わったら一緒に新しく出来た〝甘味屋〟に行こうと約束してたのに、抜け駆け、いやサボっていましたね!」

「ふにゃっ! 何でシオンがここにいるニャ? それにニコお姉、どうしてアホ(づら)()げて笑ってるのニャ? それに、そこらにいる小僧(こぞう)どもは誰ニャ?」

「ここは、戦場です。今しがた聖騎士との戦いが終わったところなんです」

「サンコちゃ~ん。ぶっ殺されたいのかなぁ?」

「「「「「……」」」」」

 

 約束を破られたシオンは、正座したままのサンコを上から見下ろしながらプリプリ怒り、ニコはいつものようにサンコに返す。

 

 如何(いか)にも少女にしか見えないサンコに小僧呼ばわりされた団員の一人が、「俺、二十代だし、ガキじゃないし」と、落ち込みぶつぶつ呟いていると、他の聖騎士が、「大丈夫、俺達は立派な大人だ」と、(なだ)め励ましていた。

 

(サンコだ、と……!? 番外魔王の眷属の一匹、〝凶暴猫サンコ〟なのか? ヤツが通った後には、(しかばね)しか残らないと言われた、魔物……。ニコとそっくりな顔付きに髪の色は黒か。ニコとは反対側に下げている小さな三つ編みお下げ。ニコお姉と呼んでいた事から妹なのだろう。それにしても、今私の目の前にて会話をしているこの状況は……もう、訳がわからなくなるな)

 

 数々の凶悪極まりない伝承を残す魔物が目の前にいる事が、レナードにとって既に理解の範疇(はんちゅう)を超えようとして、心の内で頭を抱える。

 

 そこへ、シオン、ニコと話しているサンコが、どんどんと声を荒げ始めていて、レナードは思考を止めて慌ててサンコの方に視線を戻す。

 

「ニコお姉! ツキハ様みたいに猫づかいが荒いのはやめるニャよ! だいたい何でこんなアホなところに呼び出すのニャよ!」

「「「「あ、アホなところ……」」」」

「サンコちゃ~ん、アホなところとか、言っちゃかわいそうでしょ~。あははは」

 

 今までシオンと死闘を繰り広げていた聖騎士四人は、別の意味で心を折られ項垂(うなだ)れ落ち込んでしまう。

 

「それよりサンコ。アナタ、街の警備中のはずですよね? どうして〝甘味屋〟でお汁粉を食べていたんですか?」

「は、はニャ? そ、そ、それはだニャ。あれ、あれニャ、心のお洗濯ニャ。日頃から猫づかいが荒い守銭奴ツキハ様の愚痴を言いながらお汁粉を食べて、心をリモリッシュさせていたの、ニャよ?」

「何でそこで首を(かし)げて言うんですか、まったく。それと、リモリッシュではなくて、リフレッシュですよ、わかってますか? リフレッシュです」

「ニャー、リフレッシュ?」

「そうです、リフレッシュです」

「リフレッシュしたら、お洗濯出来るかニャ?」

「何をです?」

「心ニャよ」

「出来ます! いいですかサンコ。そもそも、配下が(あるじ)の事を悪く言ってどうするのですか。配下たるもの、いついかなる時も(あるじ)を立て使えるのが務め。私達より遥かに長生きしているアナタがそんな事で、どうするのですか?」

「ニャあ~、あのスーパー凶悪権化の塊のツキハ様を立てるとか、頭おかしいニャよ?」

「サンコ、何を言っているのですか! いいですか? 正しい主従関係とは――」

 

 サンコお得意の会話脱線に捕まり、自分の主従理論を話し始めるシオン。

 

 最初のサボり追及は、もう既に時の彼方である……。

 

 サンコ達と交流を始めてから、眷属達がツキハとコハクの猫づかいが荒いと日頃から愚痴を(こぼ)すのに驚いたシオン達。

 

 自分達はリムル様を敬愛し、いつもリムル様に何か出来ないかと考えてるシオンと他の配下達は、そんな眷属達の言動が信じられなくて、最初の頃はいつか処分されるのではないかと心配していたのだが。

 

 ディアブロから、昔からあんなものですよと聞かされて、それ以来配下達は気にしなくなった。 

 

 しかし、サンコと意気投合して仲良くなったシオンは、リムルの第一秘書を預かる身としてサンコに主従関係の大切さを()くのだが、大抵はサンコの会話脱線に巻き込まれて終わってしまうのだ。

 

 テンペスト側でサンコに言い聞かせる事が出来るのは、今のところリムルとベニマル、それにシュナだけ。

 シオンはまだまだ、サンコの会話脱線能力には勝てない。

 

 サンコの恐ろしいところは、この会話自体が計算づくではなく、天然の会話だから(たち)が悪いのである。

 

「あれニャ。ツキハ様に、リムル様の爪の垢を(せん)じて飲ませたいものニャ。ほんとうに、やれやれニャよ」

「そう、良いことを言いますねサンコ。リムル様は凄いんです!」

「だニャ~。アチシも猫づかいの荒い主から解放されたいニャよ」

「また、心にもない事を。フフッ」

 

 シオンは知っている、こうやって愚痴を垂れ流しながらもサンコがツキハの事を誰よりも好きな事を。

 

「それじゃ、アチシは街へ帰るニャ。ニコお姉、脳みそはちゃんと頭の中に仕舞うニャよ」

「街の警備、しっかりと頼みますよ」

「だからぁ、脳みそは捨てれないんだぞってぇ、いつも言ってるじゃないのぉ~」

「シオン。なんもかんも片付いたら、一緒に〝甘味屋〟に行くニャよ。アチシがご馳走するニャ!」

「ええ、楽しみにしていますよ♪」

「お姉ちゃんには~?」

「知らんニャ。魔ネズミでも喰ってるといいニャ」

「はいぃ?」

「じゃあニャー」

 

 こうしていきなり召喚されたサンコは大きく手をぶんぶんと振りながら、ニコの方はガン無視で『空間転移』でテンペストへ帰って行った。

 

 (あるじ)の愚痴を大っぴらに言う眷属を見たレナードは――

 

(仮にも番外魔王の眷属である配下が、主の愚痴を堂々と言うなど……私は夢を見ているのだろうか?)

 

 魔王配下の上下関係は、恐ろしく厳しい。

 (あるじ)の愚痴を言おうものなら、それは死を意味する。

 

 力が全ての魔物での関係で、上に反抗するなど普通ならあり得ない事だとレナードは知っている。

 だがしかし、サンコの会話から推測をすると、どうも日常的に愚痴を言ってるように感じられた。

 

 そう、レナードにとって衝撃であったのだ。

 陰で言うのであれば理解出来る。

 しかしこうも堂々と愚痴を垂れ流すのを見たのは、初めてである。

 

 魔王ではなくとも魔王に準ずる位置にいる、番外魔王。

 その配下が日常的に愚痴を言っているなどと、信じられない事であり、仮にも傭兵商会ルヴナンを率いてて、内部分裂をしないのかとレナードは考えた。

 

 しかし、その推測は立ちどころに搔き消えてしまう。

 

(いや、それならば千年以上もの永き間、傭兵商会ルヴナンの実態を掴ませないのに理由が付かない。恐怖ではない、何か……? それで力ある眷属達を従えているのだろうか? それが成立する主従関係など、存在するのか? 何なのだ、番外魔王の眷属達は……) 

 

 疑問、疑問だらけになるレナード。

 

 ツキハとコハクの〝猫は自由〟、この言葉通りの方針が主従関係を保っているなど、魔物は邪悪なるものとして見て来たレナードには、到底わかるはずもなかった。

 

 それでもサンコが、シオンに後で食べ物屋に行こうと言ったのはわかった。

 その光景は、人間の女の子が友達にどこか遊びに行こうと話し合ってる光景と同じだったと、考えるレナード。

 

(魔物が私達と同じ感情を、持つのか――)

 

「ねぇ、あれが私の妹のぉ、サンコちゃんよぉ。おもしろくてバカでしょう? うふふふ」

「あ、あぁ。いや、ちが――」

 

 魔物が何なのかと今一度考えてたら、不意打ち気味にニコが話し掛けて来て、思わず相槌(あいづち)を打って慌てるレナード。

 

「うふふ~、大丈夫よぉ。ほんとうのことだもの~」

「失言だった――」

「だからぁ、怒ってないって言ったじゃなーい。怒ったほうがぁ、いいのかなぁ? あはっ」

「い、いや……」

「もう、冗談よぉ。最後にこれだけは言っておくわねぇ、レナード」

「……」

 

 コロコロ笑い言うニコに、黙って(うなづ)くレナード。 

 

「もし、西方聖教会がサンコちゃんを傷付けたら。私は、西方聖教会の組織を根絶やしにするわ。跡形もなくね。そして、私が西方聖教会に倒されたら――」

 

 またもや口調が正気の側の方に戻り、言葉をそこで止めた。

 

 レナードは無言のまま息を吞み、ニコの言葉を待つ。

 

「アナタ達神聖法皇国ルベリオスは、ツキハ様とコハク様の尋常じゃない怒りによって、一夜にして滅びる事になるでしょう。覚えておきなさい、買ってはいけない怒りというものが存在する事を。そしてそれは、魔王リムル様にも同じ事が言えるのです。クレイマンという小物の魔王などと同じと考えては、いけません。いい? 真の魔王を相手にするとは、そういう事なのですよ」

 

 そこでニコの話は終わった。

 

 レナードは一瞬で乾き切った喉に、ごくりと音を立て唾を呑み込んだ。

 

「それじゃあレナード。今言ったことはぁ、頭の片隅にでも放り込んでおきなさいなぁ」

「き、肝に銘じておこう」

 

 何とか返事を返したレナードは、カラコロンと下駄を鳴らしシオンの所に行くニコを眺めていた。

 

 魔物に対する定義が、ガラガラと音を立てて崩れるのを感じたレナードだった。

 

(魔物とは何だ? 魔物とは交渉しない? 交渉どころか、普通に会話が出来るではないか。いや、確かに人に害をなす魔物も多くいたのも事実。魔王リムル、不用意に刺激してはいけなかったのではないか。誰が何の目的に……。この戦場に紛れていた暗殺者、本当の標的は誰だ? 魔王リムルの配下を暗殺したら、その怒りはどこに向かう……!?) 

 

 最初の考えに立ち返り、この争乱を企てた者の推測を始め、先程のニコの言葉がレナードの脳裏に浮かび上がる。

 

(今戦っているヒナタ様――)

 

 レナードの思考がようやくある事に行き着く。

 

(ま、まさか、この私が利用されていたのでは……)

 

 レナードの学友達の仇でもある魔王ヴァレンタインと、ヒナタが繋がっていると聞きレナードは即動いた。

 

 そこに冷静な判断はなく、その隙を突かれて騙され利用された。

 魔物は悪、実際邪悪なる魔物を見て来たレナードを動かすのは、容易であった事。

 

(利用……誰に……? !?)

 

 最悪の答え。

 

(私にこの事を告げたのは、〝七曜の老師〟)

 

 

 ここで、全てが繋がった。

 

 そう、自分が部隊を動かしたせいで、ヒナタの邪魔をする結果になった事を。

 既にヒナタは、魔王リムルと剣を交えている真っ最中である。

 

 もう、誰にも止める事は……出来ない。

 

(だ、駄目だ! ヒナタ様、申し訳御座いません!! 私の、私の迂闊(うかつ)さで、交渉が――)

 

 自分の仕出かした事への後悔の念で押し潰されそうになる、レナード。

 

 〝七曜の老師〟の思惑通りに動いたレナードは、天を仰ぎ見たまま、その場に立ち尽くす。

 だが張り巡らせられた悪意は非常にも、レナードの後悔の念など置き去りにして、刻一刻とヒナタに迫りつつあった。

 

 

 キンッ ギキキンッ ガギュンッ ヒナタとリムルが近付く(たび)に飛び散る火花に、(やいば)がぶつかる金属音が大森林に木霊(こだま)する。

 

 そして、その戦いを邪魔しないようにツキハとコハクは、二人を挟むように見守っていた。

 

 ツキハとコハク、それにニコとロモコ達はこの戦場全域に潜む暗殺者の気配にとっくに気付いており、泳がしていたのだ。

 

 ニコの報告を合図にツキハとコハクは、補足している暗殺者どもを、任意に狩れと命じた。

 

 暗殺者の暗殺者狩り。

 

 今回の報酬は、狩った暗殺者の魂。

 俄然(がぜん)力が入るロモコ達であった。

 

 だが、そんなツキハとコハクをも(たばか)り潜むものが一人、虎視眈々(こしたんたん)と訪れる機会を待っていた。

 

 

 ヒナタとリムルの超高速剣技の応酬。

 

 リムルの不足している剣の技量(レベル)を『智慧之王(ラファエル)』が、ツキハの見せた剣技をリムルの直刀打刀に合わせた技に最適化しサポートしていた。

 

 これでようやくヒナタと互角にやり合える技量(レベル)に達していたのだ。

 もちろんこれは、ハクロウから鍛えられた基礎と剣技があるからこそ、出来た技でもある。

 

 だがそれでも、徐々にリムルを押してくるヒナタの剣技は圧倒的でもあった。

 

 この戦いを見守るツキハは()ぐにそれを察知し、フッと口端に笑みを浮かべ、心の内で呟く。

 

(まったく、あんなに早くあたしの見せた防御の剣技を物にするかねぇ。今度から授業料取ろうかな、くくっ。でも、あれじゃあ一対一じゃなくて、まるで二体一みたいだわ。あの、シオン復活の時に見せた、リムルでありリムルでない者。あれがこのまま成長したら、マジに手強(てごわ)くなるよなぁ……。おっとぉ、いけないいけない。強いヤツを見るとコレだ。でも、ほんとうにこの世界は、おもしろいよなぁ。うくくく)

 

 リムルの中に潜む何か、その存在に薄々感づいているツキハとコハクは、これこそがリムルの最大であり最強の何かだと、考えていたのだ。

 

 

 ヒナタの緩急織り交ぜた攻撃に、リムルは徐々に焦りつつあった。

 

(ヤバい、非常にヤバい。身体能力は俺の方が上のはずなのに、何故か攻撃が全て読まれている。しかも闘気を纏わせたあの剣撃はマズイ。当たれば大ダメージは(まぬが)れないな)

 

 『思考加速』百万倍であれこれ考えるリムル。

 

 するとそこへ――

 

《解。致命傷にはなりませんが、大幅に魔素量(エネルギー)が減少するでしょう》

『だよな』

《告。受け損なった場合は、大ダメージは必須なのでご注意を》

『ほらな』

《解。あの攻撃は、法則を書き換える特殊な波長を発しています。『多重結界』をも、貫通する恐れがあります》

『マジかよ!』

《……》

『ん? まだ何かあるの?』

《告。次の攻撃が来ます――》

『うおっ!?』

 

 細剣(レイピア)を自在に操るヒナタの剣技。

 

 そこに派手な技や魔法などは存在しない。

 堅実な剣技で、確実な攻撃を仕掛けて来るだけ。

 

 上中下、下上中下、中下上と、幾重にも変化する剣の軌道。

 

 上を攻められていたかと思うと、いきなり姿勢を低くして足元を払ってくる。

 それも、フェイントを織り交ぜて。

 

 防戦一方に追いやられていくリムル。

 

(うおぉー! これ防ぐので手一杯じゃねーかっ! 今このヒナタとまともに戦えるのは、ハクロウくらいだろうけど、勝つのは無理だな。勝てるのは、ツキハくらいか。代わってもらうか? アホか俺! 何考えてんだ!!)

 

 ヒナタのあまりの猛攻に、とうとう一人ツッコミを入れるリムル。

 そんなリムルは、右に左に体を(かわ)しながら剣で防御する。

 

「え!?」

 

 だがしかし。

 

 ここに来て、ヒナタの剣速がまた一段と上がった。

 それに付け加え突然ヒナタの攻撃が、読めなくなったリムル。

 

「へぇー、まだ剣速を上げるのか。それに、誘い込まれてるなリムル」

 

 リムルとヒナタの攻防を見ながら、ツキハが呟く。

 

 リムルは剣の軌道を見て回避行動を取っていた。

 しかし今は、その動きの先を見越したように、ヒナタが追撃して来ていたのだ。

 

『あれ、あれれ? これ、何か違うぞ……?』

《解。攻撃予定地点へと誘い込まれています》

『なるほど。それでかー』

 

 リムルが攻撃を躱し逃げる先に、ヒナタの追撃が来る。

 そうリムルは、ヒナタに間合いの制空権を完全に掌握され制御されていた。

 

 つまり今リムルは、ヒナタの思うが(まま)に動かされていたのだ。

 

 サクッ、リムルの服の(そで)が斬られる。

 

 段々とかすり傷が増えていくリムル。

 

 

『ヤバい、ガチでヤバい! ツキハ、ツキハと交代ってぇ、そんな事出来るかぁー! 先生、智慧之王(ラファエル)先生――ッ!! 何か手はないでしょうか!?』 

《……》

『はあっ!?』

 

 リムルが先にツキハの名前を出したのが気に入らなかったのか、『智慧之王(ラファエル)』は――

 

 だんまりのままだった。

 

 

 リムル、最大のピンチ?

 

 おいーっ! 先生 智慧之王(ラファエル)先生! 聞こえてますかぁ――ッ!?

 

 




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