忍びが転生したら〝異世界珍道中〟になった件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。99話です







99話 聖と魔 ⑩ 奥 義

 

 

『おいーっ! 先生 智慧之王(ラファエル)先生! 聞こえてますかぁ――ッ!? ってか、早く対策を教えてください――ッ!!』

 

 リムルの必死な願いに、ようやく智慧之王(ラファエル)が動いた。

 

 何故か、はあっと溜息を吐くような感じで。

 

『え? 今、溜息を吐きました智慧之王(ラファエル)先生?』

《……》

『あ、すいません。お願いします』

 

 まただんまりが返って来たので、慌ててリムルは謝り返答を待つ。

 

《告。『未来攻撃予測』を習得しました。使用しますか? YES/NO》

 

『はい……? んん!? おおー! 流石先生。この人、マジでパないわー。先生なら期待に(こた)えてくれると思っていたよ。突然何を言われたか理解に苦しんだけど、とんでもない能力(スキル)を獲得したという――』

《告。獲得ではなく、習得です》

『あ、はい。(どっちでもいいよな?)』

 

 智慧之王(ラファエル)の即訂正ツッコミにリムルは、心の内で呟く。

 

 そんなリムルを察した智慧之王(ラファエル)が、習得までの経緯を説明する。

 

 智慧之王(ラファエル)(いわ)く。

 

 ヒナタの動きと攻撃を観察した結果、リムルの攻撃と防御に対処出来る理由が攻撃予測以外に考えられないと告げた。

 

 そこで智慧之王(ラファエル)が行ったのは、リムルがヒナタと戦ってる間に、ヒナタの行動から学習させてもらったと説明する。

 

『……って、そんな事が出来るの!?』

《解。可能です》

 

 

 一通り説明を受けたリムルは、早速『未来攻撃予測』を使ってみた。

 

 すると――

 

 幾つかの剣筋が視覚化され、光の筋がリムルの視界に浮かぶ。

 

 視覚化と言っても、脳内に浮かぶ視覚イメージに近いものだとリムルは感じた。

 

(感覚か……実際に見えているわけではないんだよなぁ)

 

 そこへ、その内の一つが光りを放った。

 

 リムルがその一つの光へ迎え撃つように剣を走らせると、面白いようにヒナタの剣の攻撃が迎撃されていった。

 

 それを何度か繰り返していると、時折剣筋が真っ黒に塗り潰されているパターンがあった。

 この場合は予測不可能な攻撃、つまり本気の攻撃が来ると智慧之王(ラファエル)が告げる。

 

 ヒナタのような剣の達人だからこそ、予測不能な攻撃も繰り出せるのだろう。

 

 ようするに、フェイントやレベルの低い攻撃は、全て予測演算可能という事。

 

 

 そして、このスキルの恐ろしい点は――

 予測演算ではなく、確定演算である事。

 

 確率が高いのではなく、予測に成功した瞬間にそれは確定され、必ずその場所に攻撃が来るのである。

 

(そうか、このスキル。予測ではなく、予測出来た瞬間から確定されるのか!)  

 

 ヒナタと剣を交えながらリムルもこのスキルの本質に気付く。

 

(それにしても恐ろしいな、このスキル。フェイントは既にフェイントではなく、逆に死地への一手になるとは、な……。これ、最強だろう!)

 

 そんな事を考えたリムルに、智慧之王(ラファエル)がある事を告げた。

 

 それは――

 

 この『未来攻撃予測』を習得した際に、記録したツキハとヒナタとの手合わせに、この『未来攻撃予測』を試験的に使用したら、ヒナタの攻撃は予測できたが、ツキハの攻撃は……。

 

 予測は出来たが、逆に予測出来た事に違和感が生じたと、告げた。

 

 それを聞いたリムルは驚き、何がツキハに起こってたんだと智慧之王(ラファエル)に問う。

 

 その現象に智慧之王(ラファエル)は、推測ですがと付け加え、次の事をリムルに言った。

 

 ツキハの攻撃、防御全てが無意識化の中で行われているのではないかと。

 意識した攻撃がフェイントみたいなもので、本気の攻撃は全て無意識に繰り出しているのではないか、と。

 

 ヒナタとの手合わせで、不意にツキハの剣筋が全く見えなくなる現象が度々起きていたとも告げる。

 

 百万倍に引き伸ばされた思考の中でリムルは、取得した『未来攻撃予測』が絶対ではない事を知った。

 

《告。個体名:ツキハは、達人の領域を既に超えているのではと、推測します》

 

 この時の智慧之王(ラファエル)の声は、冷静でありながらもどこかツキハに警戒心を抱いてるように感じたリムルだった。

 

 智慧之王(ラファエル)の推測はほぼ当たっていた。

 

 だがしかし。

 

 ツキハの強さの秘密は、鍛え抜かれた技によるものと、もう一つ――

 

 権能『猫騙し』の存在である。

 

 事象欺瞞(ぎまん)、確率妨害、予知予測妨害、能力隠蔽(いんぺい)偽装等、権能と呼ぶにはあまりにも凶悪過ぎる『猫騙し』。

 

 (アーツ)能力(スキル)、これらを上手く使いこなすことで、あの強さが生まれるのである。 

 

 

(そうか、予測は予測。いくら未来予測が出来たといっても、未来はちょっとした事で変わってしまうって、SF小説とかアニメで見たな。フフッ……。〝技量(レベル)を磨く〟、ツキハとコハクがいつも言っていたっけ。鍛え抜かれた技は、未来予測すらも(くつがえ)す、か。まあ、俺もまだまだと、いう事だ。俺は、俺の持ち味を生かせばいいんだし、何よりも俺には――最高の相棒である先生がいるしな!)

《……》

 

 リムルがそう思った時に、智慧之王(ラファエル)から照れたような感覚が一瞬流れ込んだような感覚をリムルは覚えたが、それを口に出すことはしなかった。

 

 一見水を差されたような感じだったリムルだが、()ぐにポジティブ思考に切り替えた。

 どんな苦境に立たされようとも、折れかけた心が膝を付かせようとしても膝を付かずに、前を向く。

 これがリムルの強さであり、ツキハやコハクとはまた違った自由人思考なのかも知れない。

 

 〝慢心〟。

 

 これにより、リムルから『未来攻撃予測』を手に入れた有頂天さは無くなり、〝慢心〟せずこの能力(スキル)を使いこなしていくだろう。

 

 

 そして。

 

(よし。勝ちにいくぞ――ッ!!)

 

 リムルは流れるような無駄のない動きで、ヒナタを追撃する。

 

 『未来攻撃予測』によって指示された剣筋に添って、繰り出されたヒナタの剣を弾き飛ばそうとするリムル――

 

 ヒナタに走る直感。

 

 このまま剣を繰り出すと致命的な失敗をする――

 そんな根拠のない勘が、働く。

 

 ヒナタは本来、筋道にあった誰もが納得出来る道理に合った行動を好む。

 

 だから、根拠のない行動などは取らないのだが、この時だけは自分の勘を信じたのだ。

 

 それがヒナタを救った。

 

 ヒナタのフェイントの一撃。

 

 リムルの左肩を狙った袈裟斬りに見せかけて、そこから手首を内に返して、左下からの逆袈裟斬りのフェイント。

 

 これがヒナタに幸いした。

 

 リムルがこの剣撃を巻き込み弾こうとしたところへ、ヒナタは剣を下に振り下げながら右に身体を回し――

 

 そのまま自分の左肩でリムルに体当たりをして、その場からの離脱に成功したのだ。。

 

「なッ!?」

 

 ヒナタの回避行動に少し驚き思わず声を出したリムルだったが、直ぐに何事もなかったようにヒナタへと剣を構え直す。

 

 態勢を立て直したヒナタもリムルに剣を向け、構える。

 

(何かが、違う?)

 

 ヒナタは、先程とは違う雰囲気のリムルに気付く。

 

 そこでヒナタは一度、試しにフェイントを織り交ぜた攻撃を仕掛けてみた。

 

 結果は――

 

 ヒナタが放ったフェイントを無視し、本命の剣閃だけを弾き、ヒナタの間合いへ直接斬り込んで来たのである。

 

 まるでヒナタの動きが分かってるかのように。

 

(――偶然!? いや、これは……違うわね。私の『予測演算』よりも正確な、未来予知に近い)

 

 ヒナタは、ほぼ完璧に自分の攻撃が読まれている事で、この結論に至った。

 

 

 そして、リムルの行動が急激に変わったのに、ツキハやコハクも気付いた。

 

 ツキハの目がスーッと鋭く細くなり、『思念伝達』と『思考加速』百万倍でコハクに話しかける。

 

『見た? 完璧にヒナタの手の内を読んでいたよ』

『せやね。あれは、鍛え抜かれた技の動きとは違うおすなぁ』

 

 コハクも目を鋭利に細くしてツキハに返す。

 鍛え抜いた技の動きと、能力(スキル)による動きかを判別できる観察眼を持つ二人。

 

 五千年もの永き間、己の技量(レベル)を磨き続けて来た結果であり、こと戦いに関しては(たぐい)まれなる才能を持つツキハとコハクならではである。

 

『間違いない。何か、新しい能力(スキル)を獲得、もしくは習得したんだろうね』

『せやな。恐らく、後者やね。あれは、未来予知に近いんじゃおまへんか?』

『だろうね、多分スキルだわあれ。まいったよねぇ』

『ほんとどすなぁ』

『土壇場で新しいスキルを習得するとか、あれ学習しやがったな……』

『戦いが長引けば長引くほど、学習するとか、ほんま難儀やわぁ……』

 

 最後の方は少し溜息交じりに話す二人。

 

 そして、それは――

 

 確信に。

 

『確定だわコハク』

『ほんま、信じられまへんけども』

 

 そこまで言うと、ツキハとコハクの疑惑が、確信へと至る。

 

『リムルの中に、あの時見たアイツがいる』

『いますな確実に。しかも、あの能力(スキル)は、自我を持ってる可能性が高いおすな』

『だね。あのシオンの復活の時見せたもう一人のリムル。あれは、能力(スキル)が術式を行使してたものね。ほんと、五千年生きて来てまさか、あんな非常識なもん見るなんて、中々どうしてこの世界は、摩訶不思議に満ち溢れているわ。うくくく』

『うちらと同じ、〝特殊な魔物〟リムル。ヴェルドラはんが言ってたおすけども、この世界に三体も同じ〝特殊な魔物〟が生まれて来るなんて、普通ならあり得へんらしいどすえ。あの奇怪な能力(スキル)は、それと関係あるんやろかねぇ……』

『どうだろうねぇ。まあ、あたしらも大概(たいがい)なんだけど……』

『ツキハ、この事は当分伏せておきますえ。恐らく、あの能力(スキル)は、もっとも隠さなあかんものやろうから』

『そうだね。あたしらのあの役立たずの〝番外権能〟と、一緒かもね。誰にも知られたくはないという点では……』

 

 とうとう『智慧之王(ラファエル)』の存在に気付いた、ツキハとコハク。

 

 しかし、同じ秘匿(ひとく)したい力を持つ二人は、これ以上リムルの能力(スキル)について、当分黙っておこうと決める。

 

 後にこの事案は、意外な形で決着を見る……。

 

 『思念伝達』と『思考加速』を解除したツキハとコハクは、決着が付きそうなリムルとヒナタの勝負の行方を見守る。

 

 

 リムルに思考を読まれていると感じたヒナタは、心の内で呟く。

 

(これは、驚くほどの成長速度ね。剣技は私が上……。でも、それを補って余りあるような、優れた能力(スキル)があるようね。鍛え抜かれた(アーツ)があっても、それを上回る能力(スキル)には勝てない、か。それを(くつが)すには、(アーツ)能力(スキル)、両方を兼ね備えた力がいるという事、ね。全くもってこの世界は傲慢(ごうまん)で理不尽で、本当に優しさの欠片が微塵(みじん)もないわ。フッ、フフフ)

 

 長年かけて鍛えたものを、一瞬にして砕かれた感覚にヒナタは、(いきどお)りを感じるどころか、口元が少し(ほころ)び、薄く笑みを漏らす。

 

 ヒナタは静かに、そして冷静に自分とリムルを比較分析する。

 

 出た結論は、恐ろしく勝率が低下した事。

 

 時間が経てば経つほどに、リムルが何か対策をして仕掛けて来る。

 

 ツキハが言った、〝勝てるのは今のうちだけだよ〟という、言葉。

 

 今になってこの言葉の真意が、ヒナタに重く()し掛かる

 

(あの言葉は、殺す気で行けということだったのね。殺さずに勝とうなどという甘い考えは、捨てるべきだった、か……。ならば、答えは一つ――)

 

 本来、完全に相手を殺す時以外見せるべきではない奥義で(もっ)て、勝利を掴むのみ。

 

 そう覚悟を決めるとヒナタは仕切り直し、間合いを一旦(いったん)外す。

 

 注意深く周囲の気配を探るヒナタ。

 いつの間にか周囲での戦いも決着をしていた。

 

 今まで吹いていた風がピタリと()んで、大気が()いでいく。

 

 

 ヒナタとリムル、互いに攻撃を仕掛ける事が出来ない。 

 

 二人とも先読みが極まり、行動を起こす前に結果が予想出来てしまうからだ。

 

 虫の声も止まり、小鳥さえも鳴くのを()め、時間だけが緩やかに流れゆき、戦場に似つかわない静寂な空間が、ヒナタとリムルを包み込む。

 

 そこへ、ヒナタが口を開いた。

 

「――リムル、いいかしら? 提案があるのだけど」

「なんだ?」

「次の一撃で決着をつけましょう。私は、私の持てる最強の奥義を、全力で仕掛けるわ。それに耐えれたら君の勝ち。耐えられなかったら――」

「俺の負けって事だな?」

「ええ、そうね」

 

 ヒナタはそう(うなづ)いた。

 

「それと、先に言っておくわね。この技はとても危険なの。死ぬ危険があるわ。それでも私の提案を受けるかしら?」

 

 これを聞いたリムルは(しば)し、沈黙を貫く。

 

 ()えてヒナタは、この奥義の危険性をリムルに()いた。

 

 この忠告により、リムルがこの奥義で死ぬ危険性が無くなった。

 

 これで安心して全力が出せると、ヒナタは思った。

 

 もしもリムルを殺してしまったならば――

 

 リムル配下の上位魔人達は悪鬼羅刹(あっきらせつ)と化して、人類の敵に回るだろう。

 

 そしてそこには、番外魔王ツキハとコハクも間違いなくいる……。

 

 〝暴風竜〟ヴェルドラと共に。

 

 〝神聖法皇国ルベリオスの壊滅〟、そんな言葉がヒナタの脳裏にふと(よぎ)る。

 

 

 そうならない為にも、リムルには生き残ってもらわないと駄目なのだ。

 

 

 本来ならば、気付かれないように準備を行い、必殺の一撃として放つ奥義。

 

 超絶聖剣技(オーバーブレイド)――崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)

 

 ヒナタが鍛錬の(すえ)編み出した、魔法と剣技の複合技である。

 

 その威力は絶大であり、まして、殺さぬように威力の調節など出来るはずもない。

 だからこそ、使えなかった奥義。

 

(この奥義……。君に見せたら、簡単に真似をされるようで嫌だったんだけどね。そして、番外魔王ツキハにこそ、見せたくはなかった。初見ですら通用するかわからないのに、もう、この奥義は番外魔王ツキハには通用しないでしょうね――)

 

 殺すと決めた相手にしか使わない技。

 

 見たものを全て学び取るようなリムルと、剣術を極めたツキハの前で使用せねばならず、ヒナタは少しだけ悔しく感じていた。

 

 だがヒナタには、これ以外落し所がなかったのだ。

 

(必ず、この一撃で決めるッ!!)

 

 

 リムルに敗北を認めさせる為にヒナタは、奥義を使う覚悟を決めた。

 

 

 以前沈黙を続けるリムルは。

 

(奥義か、余程自身があるんだろうな。だが、()せぬ。何でそれを前もって、俺に宣言したんだ?)

 

 リムルの疑問に智慧之王(ラファエル)が答える。

 

《解。ヒナタ・サカグチからは、主様(マスター)を殺す意思が感じられません。警告を発したのは、次の攻撃が非常に危険なものであるという事なのでしょう》

 

 それを聞いたリムルは、更に疑問が頭の中に浮かび上がる。

 

(なるほどね。俺を殺したくはない、と。んん? あれ? ヒナタって俺を殺しに来たんじゃないの? まあ、最初からおかしいと感じてはいたんだけど。うーん、今更感はあるよなぁ……)

 

 とりあえずこの事は後で考える事にしたリムル。

 

 そして、ヒナタに返答する。

 

「いいだろう。その勝負、受けて立つ」

「フフッ。君ならそう言ってくれると思っていたわよ」

 

 リムルが了承すると、ヒナタは笑ってそう返して来た。

 

 その笑みは無邪気でいて、年齢より幼く見え、見た目だけなら高校生にしか見えなかった。

 

(へぇ、あんな顔もするんだな。今までの大人びたヒナタよりも、今のヒナタの方が自然な感じだな) 

 

 初めて見たヒナタの裏表のない笑みにリムルは、これがヒナタの素顔なんじゃないかと思った。

 

「それでだ。これで恨みっこなしだ! お前が負けたら潔く、この国に二度と手出しをしないって誓えよ?」

「……? いいわ、約束するわ。君が望むから一騎打ちに応じたまでで、私としても今後の事を話し合いたいと思っていたし」

 

 ヒナタが納得をしたので、これで良しとしようと思った矢先……。

 

 リムルはヒナタの言葉に、妙な違和感を覚えた。

 

(あれ? やっぱり……何かおかし、い?) 

 

「俺が望んだから、一騎打ちに応じた、と、いう事?」

「そうよ。伝言は確かに受け取ったわよ」

 

 答え(うなづ)くヒナタ。

 

 それに対してリムルの違和感は更に大きくなる。

 

(待て待て待て、何だこの妙なズレは……。俺の伝言は確か、社交辞令から始まり、誤解を解くべくシズさんの事や子供達の事を説明したはずだ。そのうえで話し合いの場を設けたいといった内容だったはず。最後に締めの言葉として――)

 

〝『もちろん話し合いには応じてほしいが、納得がいかないのなら相手をしてやるよ。誰にも迷惑を掛けずに、俺とお前との一騎打ちで勝負を付けようじゃないか。でも、出来るなら争いは避けたい。俺としては、話し合いを望む。良く考えてみてくれ。それじゃあ、いい返事を待ってる。またな』〟

 

(ってな感じで、締めたよな。別に一騎打ちを望んだわけじゃないぞ? あれか? ヒナタって頭堅そうだから、そう取られたって事なの、か?)

 

 リムルが頭の中であれこれ考えていると。

 

「では、いくぞ」

「ちょ――ッ!!」

 

(こ、コハクじゃないが、アカン!! 何か変な誤解が先走りしてないか!? とりあえず――)

 

 また『思考加速』百万倍で、何とかこの誤解を解く対策を色々考えたリムルだが……。

 

(あー、無理だこれ。既に物凄い集中力で、俺の声も周囲の音さえも耳に入ってないだろうな。まあ、いいや。耐えきれば俺の勝ちだしな、簡単な話だ)

 

 ここに来て、いつものポジティブ思考に切り替えたリムル。

 

 そして、『思考加速』を掛けたまま周囲を窺う

 

(倒れ伏している者に、地面に座り込む者、力を使い果たした者が多いな。ベニマルは勝ったようだな。ふーん、平然としているのはベニマルとソウエイだけか。三獣士は『獣身化』せずに戦ったのか、聖騎士達同様に疲労困憊のようだな。後、ソウエイと戦った女性の聖騎士だけど、ソウエイと戦ってたはずだよな? 何ソウエイを見て頬を赤く染めてるの? おい、何があったんだよソウエイ!?)

 

 ソウエイに関しては、後でじっくりと話を聞こうと決めるリムル。

 

(シオンは、と、完全勝利したか。聖騎士達を引き連れてこっちにやって来てるな。もっと近くで俺とヒナタの決着を見る気だな。それに、ニコもいたんだな。負傷者はいるようだけど、犠牲者はいない、な。聖騎士達の方も回復薬があれば、問題あるまい)

 

 そんなリムルを見ながらツキハとコハクは――

 

『なあ、ツキハ。どう見るえ?』

『うーん。あれ多分、霊子を使った剣術と魔法の複合技じゃね?』

 

 ヒナタが集中しているのを見て、あっさりヒナタの奥義を看破するツキハ。

 魔法、闘気、妖気(オーラ)、精神エネルギーなどを混合して技を編み出すツキハにとって、ヒナタが何をやろうとしているのかは、簡単に見抜けていたのだ。

 そして、コハクも同様である。

 

『霊子の刺突技か何かだろうけど、あれ受けたら結構ヤバいぞ』

『せやねぇ。でも、何か受ける気満々やで?』

 

 コハクがそう言うと、ツキハがリムルに一言だけ『思念伝達』を飛ばした。

 

『猫さんの独り(ごと)。受けたらヤバい、以上』

『え!? ツキハ? おい?』

《チッ……》

『えぇ? 智慧之王(ラファエル)先生? 今、舌打ちしました?』

《……》

 

 ツキハがいきなり『思念伝達』を送って来て、受けたらヤバいと言った瞬間、リムルには智慧之王(ラファエル)が小さく舌打ちをしたように聞こえて、智慧之王(ラファエル)に聞き返すも、何も返事は返ってこなかった。

 

 とりあえず何がヤバいかわからなかったリムルは、(まあ、耐えるだけだ)と、『思考加速』を解除する。

 

 そして――

 

「ベニマル」

「はい」

「万が一俺が倒れたら、後は任せたぞ」

「フッ、御冗談を。我々にリムル様の勝利を疑う者など、一人もいませんよ」

 

 ベニマルが爽やかに言い返して来て、リムルはそれに肩を(すく)める。

 

 更にリムルは『思念伝達』を使い。

 

『ツキハ、コハク。もし、俺に何かあったら、皆を助けてやってくれ――』

『――やだ、めんどい』

『――いやおす』

『即答かよ!』

 

 これもまた、爽やかに即返された。

 

 リムルがツキハとコハクの方を見ると、二人はにんまりと笑っていた。

 

「あの二人。クッ、ククッ」

 

 それを見たリムルは声を殺してクスリと笑う。

 

 

(そうだな、万が一などと保険を打つなんて、信頼して待っている皆に申し訳が立たないよな) 

 

 リムルは今一度、覚悟を決めたあの日を思い出した。

 

「わかった、ベニマル。そこで、俺の勝利を待っていろ」

「ハハッ! リムル様、御武運を!!」

 

 ベニマルは片膝を付き、リムルに向かって(こうべ)を垂れる。

 

 すると、シオン、ソウエイと、テンペスト軍の皆が次々と片膝を付き、(こうべ)を垂れていった。

 

 

 凪いでいた風が、緩やかに動きだす。

 

 樹々が優しくざわめき、木の葉がかさかさと音を立てる。

 

 ヒナタの髪が風にふわりと(なび)く。

 

 

 自身に(まと)う力の集中の最中(さなか)ヒナタは、周囲に目を向けてみた。

 

 片膝を付き(こうべ)を垂れるリムルの配下達を見ると、如何にリムルが信頼され慕われているかが、はっきりとわかった。

 

 疲弊した部下達も見えたが、思ったより丁寧に扱われていた。

 捕虜に対する虐待なども、厳しく制限されているのだろう事は、配下達を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。

 

 

(そうね……。君の人となりを、最初から信じられれば良かったわね)

 

 今更ながらヒナタは、そう思った。

 

 

 だが、まだ手遅れではない。

 

 ヒナタはこのまま勝負に勝ち、新たな関係を結びたいと、そう心から――

 

 願った。

 

 

 

 そしてヒナタは――

 

 

 涼やかな声で詠唱を開始する。

 

 

 

 




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