トランスフォーマー:Alternation of Cybertron   作:pova

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「このキャラのイメージCVは誰ですか」という趣旨のコメントを旧版書いてた時にもらいましたが、マグナス&アイアンハイドとロディマス以外は特に考えていなかったので好きにイメージしながら読んでください。


オートボット-地球編⑩:An old friend,Part1

 

D

 

サイバトロン星_シルヴァート戦域_17561サイクル前_

 

 

辺り一面が、灰色の荒れ地だった。

無機質な岩肌や崩れ落ちた廃墟、スパークの劣化で褪色した死体はそこら中にあったものの、それらもみな景観に色を添えはしなかった。

そんな殺風景な空間の中に、何体かのオートボットが潜んでいた。

「コロッサスの部隊が来た!デッドロックもいる!!」

そのうちの一人、スピードストリームがそう叫ぶ。

彼らの前方には装甲車や改造車からなる敵の群れが高速で迫りつつあった。

 

辺り一帯に無数に転がってる自然のものなのかそうでないのかも判然としない、複雑な構造の遮蔽物や鉄塔が両者の視界を妨げる。砂混じりの乾いた風に吹かれながら、先頭に躍り出た改造車が更に加速を強めた。

暗闇のような黒と鮮烈な赤に彩られたその車体は瓦礫に乗り上げると同時に空高く跳び上がった。身を翻しながら空中で人型へと変形したそれは、落下も早く銃を抜き、着地よりも早く弾を撃ち放った。

「賭けてみるか?逃げ出すチャンスなんか与えねぇがな…」

乾いた銃声が何発か響き、オートボットの集団がいた隠れ場所の端で何かが潰れ、弾けるような音がした。

そこかしこに刺さるように位置している構造物の隙間を吹き下ろしていた有害な風は凪ぎ、辺りは何も聞こえなくなった。

 

「クリフはまだか!?」

撃たれたスピードストリームの隣にいたオートボットが発作的にそう叫び、半狂乱に飛び出していった。

 

「おい!よせスクラム」

周囲の景色と同化するように身を潜めていた灰色のオートボットが言いかけたが、次の瞬間には何かが貫かれる音がした。遅れて彼の苦悶の叫びが響き、すぐに静かになった。ほんの数クリック後には何かが引きちぎれる音と、地に落ちる音がした。

 

「ダウンシフト、スカイワープとレッドウィングが上から来てる」

サンストリーカーが落ち着き払った様子でそう呟いた。名を呼ばれた灰色のオートボットが空を見上げると、彼の言葉通りそこには黒い残像と赤い雷が尾を引いて飛んでいる姿が見られた。

 

「正面にバリケードが!」

前方へと身を乗り出したホットライダーがそう叫び、それを聞いた二人も慎重に顔をわずかに覗かせ、向こう側を見た。

彼らは次の瞬間には銃撃を受け、二人はすぐさま頭を引っ込めたが、ホットライダーはそれほど素早くはなく、またそれほど幸運でもなかった。

二人は"バリケード"が障壁などの装備を指しているのではなく、個体名の方であることを確認し、同時に彼ら自身の置かれている状況の悲惨さについても理解した。

 

「…なぁ」

ダウンシフトはふとそう呼びかけていた。

 

「何だ」

まだ体に首がついている者は彼の他にはもうサンストリーカーだけだった。

 

「お前は逃げろよ」

ダウンシフトは、自身の発言に彼自らも意外に思ったような表情を浮かべて告げた。

 

「冗談だろ?今更そんな馬鹿言うなよ」

サンストリーカーは怪訝そうな顔で言い返し、銃を構えた。

 

「この世界で…いや、どの世界でもお前が一番の相棒だ」

 

「そんな真似して英雄でもなるつもりか?馬鹿な真似はよせ…お前が命と引き換えにするほどの価値は俺にない」

 

「いつも散々自分に酔ってるくせに、らしくない…まぁ、そうかもしれないがな。サンストリーカー、お前はまだ俺達のところには来るな。逃げろ、お前は逃げて生き延びろ…あばよ」

ダウンシフトは決然とそう言い残し、銃を両手に持つと返事を待たずに飛び出した。

サンストリーカーの視界から消えた彼が、灰色の荒れ地を構成する無数の残骸の一つとなるのに時間はかからなかった。

 

 

地球_ベース217_ 2027年_11月28日_

 

 

サイドスワイプはサンストリーカーの覚醒したてで虚ろな顔をじっと見下ろしていた。

「また悪い夢でも見たか?酷い顔だ」

 

突然声をかけられたサンストリーカーは驚いて反射的に車に変形し、そのまま盛大に転んだ。

「…言わなくても分かるだろう。単なる記憶の反芻だ」

彼は居所が悪そうにそう告げ、立ち上がろうとして変形を解いた。

 

「分かるさ、長い付き合いだからな」

「しかしレッドアラートが喰われかけた時はどうなることかと思ったが…グリムロックがまともに動けてれば、まぁ他の仲間の再生にも希望が持てらな」

 

「いつにも増してよく喋るな…こっちは寝起きなんだぞ」

頭部を二、三周右に回転させながら、サンストリーカーは億劫そうにそう返した。

 

「あーそうそう、次に復活させるのはダウンシフトと決めたとさ。ホイルジャックが言っていたのを聞いた」

サイドスワイプは偶然思い出した風を装って、そう伝えた。

 

「…」

サンストリーカーは動きを止め、複雑な表情を浮かべながら押し黙る。

 

「でも俺は正直反対だ、今からでも止めに行こうと思ってる」

サイドスワイプがそう続けると、サンストリーカーの表情はにわかに険しくなり、まっすぐに彼を睥睨した。

「そんな顔するな。ハウンドも言ってたろ、時期尚早。焦り過ぎなんだよ皆揃って…そりゃあお前は相棒に会いたいかも知れん。だがグリムロックが目覚めた時どうなって誰に何をしたかを思い出してみるんだ」

サイドスワイプは兄弟を諭すようにそう言い含めた。

 

「別に俺があいつに会いたい訳じゃない、ただ…ただその義務があるだけなんだ」

サンストリーカーは短くそう言い、踵を返した。

 

「なぁ一つだけ教えろよ。もし奴が暴れ出して仲間に被害が及びそうになったら…お前、奴を撃てるか?」

サイドスワイプの表情が変わり、彼は戦士の顔でそう問うた。

 

「な…」

サンストリーカーはつまづきそうになりながら、足を止めた。

 

「その必要に迫られればお前は撃てるのか…まず無理だろ?お前だって味方を撃つのはもう厭だろうし、まして相手があの_」

 

「今の俺は敵でも味方でも撃つさ…兄弟と呼んだ相手でもな。分かったら黙れよ…!」

顔を向けられず、サンストリーカーは静かに怒鳴った。

 

「……必ず後悔するぞ」

「この俺が保証する。全財産賭けてもいいぜ」

口調とは裏腹に、サイドスワイプの面持ちは真剣そのものだった。

 

「なら今に見ていろ、スッカラカンにしてやるさ…!」

言い捨てるようにそう叫んで、サンストリーカーはがむしゃらに走り出していった。

 

A

 

リペアルームには白いサンストリーカーのようなボディをした物言わぬ機械が座らされていた。

サンストリーカーはその白いロボットを屈み込んで見つめ、しばらくすると大きく嘆息した。彼は立ち上がるとその黄色い腕でパーセプターの首を躊躇なく掴み上げ、そのまま壁へと叩きつけた。

「さてパーセプター、訊いてもいいか?」

引きつったような笑みを浮かべ、サンストリーカーはゆっくりと言葉を発した。

「ボディのデータはくれてやっただろう…なのになんでこんなことになってる?」

 

「スパークそのものの適合は問題なく行われた上変形も問題なく行えるがブレインモジュールが目覚めきっていない」

首関節を掴まれて壁に半ば埋もれながらも、パーセプターは平静そのものといった様子でサンストリーカーを睨み返した。

 

「俺はどうすればいい」

顔をぐいと近づけ、サンストリーカーが凄んだ。

 

「こういった症状の場合にブレインを目覚めさせる手法の一つとして誰かが付き添い彼を導いて自身の記憶を思い出させるというものがある」

パーセプターは手足を力なくぶら下げたまま、淡々とそう告げた。

 

「それでもエラーを起こしたまま暴れ出したらどうする!?」

サンストリーカーは彼を持ち上げ、無造作に床に放り投げた。

 

「そうなれば私のスパークかブレインモジュールを抉り出して詰め替えてもらっても構わん」

パーセプターは変形の動作を織り混ぜた動きで機械的に素早く立ち上がり、無表情のままそう言うと胸のウィンドウを開け放ってスパークを見せた。

 

「その時は必ずそうさせてもらうさ…行くぞダウンシフト。ついて来い」

サンストリーカーはそう言って出口に向かい、パーセプターにわざと肩をぶつけて去っていった。

ダウンシフトも緩慢な動きで立ち上がり、規則正しく四肢を動かして後を追った。

 

「…彼は大丈夫なのか?」

サンストリーカーが作った壁の凹みの反対側の部屋から、オプティマスがそう言って出てきた。

 

「ダウンシフト次第ですな」

同じく作業場から顔を出したホイルジャックはそう応じ、不安そうにパーセプターの方を見た。

 

「サイドスワイプの懸念は正しかったように思える…ホイルジャック、それとパーセプター。次に誰かを復活させることがあれば必ず一報を入れろ、勝手な行動は許さん」

ダウンシフトが閉め忘れた扉に向かって虚ろな視線を向けるパーセプターに、オプティマスはそう厳命した。

 

「努力しましょう」

パーセプターは頭部だけを回転させてオプティマスに向け、整然とそう返した。

彼はそれを言い終えると、回した首を戻して部屋を出ていった。

 

「今日はパーセプターの様子が妙だな」

オプティマスはホイルジャックの方を見てそうつぶやき腕を組もうとしたが、彼の左腕はまだ修理されてはいなかった。

 

「ブレインモジュールを最適化するリスキャニングを自分で行ったとか言っていましたが、それでしょうな」

 

「つまり以前の彼以上に合理性の塊な訳か?今のパーセプターは」

オプティマスは訝しげにそう問い、壁に出来た凹みを見ていた。

 

「二ヶ月前のグリムロックの失敗に思うところがあったのかもしれませんな」

連装式のルーペを外して作業場に戻り、工具の整理をしながらホイルジャックはそう返した。

 

「彼はそこまで軟弱ではなかったはずだが…私の知るパーセプターはもっとこう、不遜で無遠慮な科学者だった」

 

「サイバトロンにいた頃とは状況が違います。ただでさえ頭数が少ない以上、レッドアラートとホイストが食われただけでも戦力の低下は無視できません」

自身の助手に対するオプティマスの評を否定するでもなく、ホイルジャックはそう続けた。

「更にもしあなたがグリムロックに殺されていれば我々にはこの星で生き延びる術もディセプティコンに勝つ方法も残らなかったでしょう」

 

「パーセプターがそれを後悔したと?」

そうとは考えにくい、というような口調でオプティマスは短く言った。

 

「どうでしょうな。案外、彼の関心はあなたそのものよりもあなたが死んだら頓挫する計画の方かもしれません」

 

「サイバトロニアンX…いや、C-Xか。あの件、進捗はどうなっている?」

 

「数機分は基礎フレームと駆動部の組付けが完了したと聞いています。現在、無人状態で自律稼働可能なものが一機のみあるそうで…これです」

ホイルジャックはオプティマスを元いた椅子に座らせ、データパッドを彼の膝部の上に載せた。

 

「…装甲を紫色にしたのか。人間達もあまりいい趣味とは言えんな」

右手で三面図や製造ラインなどを写した画像をスクロールし、オプティマスは嘆息のような排気混じりに小さくそう言った。

 

「データ元のあなたよりも若干巨大化していますが、武装類は全て共用出来るように設計を改良しています」

 

「これか。粒子燃焼砲…偏執的なアウトラインと飾り気の無い構造だな。パーセプターらしい仕事ぶりだ」

オプティマスは更に数ページ進み、表示された武装類の設計図を細部まで眺めた。

 

「相変わらず鋭いですな。今現在、彼のブレインは記憶や感情を司る脳領域の割り振りを減らし、その分を思考や処理能力に回している状態です。より効率的な兵器開発が行えるはずです」

自身の側頭部を指でつつくようにし、ホイルジャックはそう告げた。

 

「元の彼に戻すことは可能か?」

 

「あれは可逆的な処置ですので、領域の割り振りを戻せばなんの問題もなく元通りですが…」

そう言いながら溶接器具のタンクを取り替えたところで、ホイルジャックはオプティマスが立ち去ろうとしていることに気がついた。

「どちらへ?まだ施術は完了していませんが」

 

「少しだけ休憩だ。今月何回目かも忘れたが、ガード時代の昔から腕のフレームを組み付けられる時の感覚には未だに慣れられないな…」

そう言い、オプティマスは椅子の背もたれ部に手をかけた。

「…しかし、気がかりだな」

 

「何がですか?」

 

「パーセプターのこともそうだが、ダウンシフトの身にもし間違いがあれば、失うものは大きいだろう。そしてそれはきっと…目に見える以上に大きな損失だ」

消え入りそうな調子でゆっくりとそう言い、オプティマスは部屋を出た。

 

A

 

サンストリーカーはアークの艦内を模した装飾の自室に二人の仲間を招き入れた。

「ダウンシフト、お前に聞かせたい話がある」

転がっていた箱を椅子にして腰掛け、サンストリーカーは自分と同じボディを持つ眼前の相手に対してゆっくりと話を切り出した。

「お前が聞くべき話だ。俺が誰かも思い出せるだろう」

 

「この波形を見るにブレインも活動自体はしているようだが…それらを発声や体の動作にまで結びつけることが出来ていないらしい」

ブロードキャストは情報機器に変形し、座らされたダウンシフトの後頭部にコードを繋げていた。

「その辺りはダウンシフト、君次第だな」

 

「悪いな時間取らせて」

ダウンシフトらの真横の作業台の上に佇むブロードキャストを見て、サンストリーカーは少し気まずそうにそう言った。

 

「気にしないでくれ。私がやりたくてしていることだから…それに、パーセプターのスパークがかかっているのだろ、他人事のような気がしなくてさ」

画面やボタンなど体のあちこちを点灯させながら、ブロードキャストは努めて快活に答えた。

「…さて、彼にはどこから話す?君との出会いからか?」

 

「あぁ。まず俺はサンストリーカー、お前の相棒でガンマンだったオートボットだ」

第一指で自らを指し、サンストリーカーは語りだした。

「ことの始まりは…雨だったかな。サイバトロン星で俺は兄弟達に支えられながら、画家としての勉強を続けていた」

 

「いいね、その調子だ」

反応を示さないダウンシフトの代わりに、ブロードキャストが応じた。

 

「画家とは言うが、まぁ結局なったのは壁画家だな。この基地の壁もいくつか勝手に作品にさせてもらった」

サンストリーカーはそう言い、部屋の天井を見上げた。彼の自室*1も創作対象の例外ではなく、大胆で奇妙な筆致の絵が書き殴られるようにいくつもその壁にはあった。

「ダウンシフト、覚えてるか?俺は画家仲間と二人で雨の中、ヘリックスの辺りを走っていた。雷が落ちたちょうどその時、俺達は転がってたお前を見つけたんだ」

「ひどい様子だった。ここがどこかも分かってないような虚ろな顔をしてたよ、今みたいにな。話しかけても応えやしない。何もかも忘れてたんだ。"ダウンシフト"って名前以外」

「最初聞いた時は妙な名前だと思ったさ…俺がメンターなら絶対つけない名だ」

「その後不思議なことを口走ってたっけな。"司令官はどこだ!?"ってさ。とりあえず二人でお前を抱えて家に連れて帰っていったんだ」

 

「そういえば君らは当時どこに住んでたんだ?」

ふと思い立ったようにブロードキャストが口を挟んだ。

 

「当時で言うところの"窯"の辺り…いわゆる下層都市ってやつだ。たまたま見つけた同型の何人かと兄弟と呼び合い、身を寄せ合ってどうにか生きてた」

後半は自嘲気味にそう言い、サンストリーカーは物憂げにダウンシフトの方を見た。

 

「羨ましい話だ」

 

「嫌味じゃないだろうな、全く…」

表情を伺うようにブロードキャストの表面を眺めながら、サンストリーカーは訝るように言った。

「お前を家に連れ帰った後も大変だったんだ。サイドスワイプは大声で質問攻めにするし、アラートは怯えて部屋に閉じこもる有様だった」

「しかしあの時コルドンが発作的に始めた歴史の講釈がなかなか有効でな、あのバカあれで語りは上手いから…場の混乱は収まったが、お前にも良い影響があった。この世界のことを知るたびにお前は少しづつ自分のことを思い出していったんだ」

「だから俺も今こうして話をしている。とうに空っぽの頭をどうにかフル回転させてな。俺は歴史はあまり好きじゃないが…あぁ、それにあの頃と違ってもう俺達の種には、誰かに教えられるような輝かしい歴史はもう何も、なーんにも残ってないんだ」

少し俯きがちになり、サンストリーカーは力なく笑ってそう告げた。

「そしてあの後すぐ、でもないか。しばらくして…始まったんだ、あの…戦争が。お前が四兄弟の五人目になる前にコルドンは死んだし俺の画家仲間もみんな兵士になった。俺とお前で会いに行った最後の日、あいつは紫のバッジを付けてたんだよ」

「アラートは警備員からオートボットになったし、サイドスワイプもレーサーを辞めてしばらくした後オートボットに入った。でも俺はまだ絵描きをやっていたかった。火薬の臭いと死臭が染みついた壁でも塗り潰す俺でいたかったんだ」

「ほら、俺って結構自分に酔いがちだからな…悪い癖なんだ。現実から眼を逸らすために…俺が見てたのは俺自身だった」

サンストリーカーは眼を伏せ、小さく首を振るとダウンシフトを見つめた。

「…いつ頃だったかな、お前もオートボットに入るって言い出したのは。ずっと俺に遠慮してたみたいだったが、俺はその時いよいよかと思ってさ…だから俺もついてくことにしたんだ」

「加入の儀式で誓いを述べて赤いバッジをもらった後、二人揃ってブラーの所に送られてな…銃の撃ち方なんて知らない俺らは何をするにも揃って大慌て。随分とひどい目に遭った…揃って味方の爆撃に巻き込まれたこともあったし前線に置き去りにされたこともあったし…他にも色々だ」

 

「ブラーは遠慮というものを知らないんだ。なまじ本人が優秀過ぎるばかりに他人にかける期待も大きい。もし戦争末期ならろくな育成もなしに激戦区に放り込まれてただろうね」

ブロードキャストは懐かしむように言った。

 

「大して変わらないじゃないか」

 

「君達は敵よりも先にブラーに撃たれただろう?彼に一定未満の能力しかない兵士と見なされればその時点で送り返されるんだ。君ら二人は認められたからこそ彼の部下になれたんだ。元はカップの方針らしいが…通過した後は戦術的思考と基礎動作をフレームの節々にまで叩き込むのだと、昔言っていたな」

 

「"銃の撃ち方から先のことは自分で学びなさい"って言われたのは忘れもしないがね…今となってはオートトルーパーと扱いは大して変わらなかったような気さえする」

そう言い、サンストリーカーは渋面を浮かべながら笑った。

「ブラーの下にいたのはだいたい830サイクル程だった」

 

「地球の感覚で言えば一つの国が生まれてから滅ぶに足る時間だろうね」

 

「有機生命体ってのはどいつも脆くて儚いものさ。昔から馴れ合うとロクなことはない」

 

「短命な種は何百万年と争い続けるようなこともない分、幸せだと私は思うな」

 

「だとさ、ダウンシフトはどう思うよ」

そう言い、サンストリーカーは何気なくダウンシフトの頭を軽く小突いた。

 

ダウンシフトは小突かれた頭を振動させ、サンストリーカーの方に焦点の定まらない視線を向けた。

彼はその口を震わせながら途切れ途切れに発言する。

「不幸…幸福」

「定義:不完全」

「状態:不可解」

「推奨:リスキャニング」

 

彼の発作的で不器用な動作を見て、ブロードキャストは後ろへと翻りながら人型へと変形しつつ言った。

「ほう…聞いたことを理解して自ら考え、機械的…という比喩も妙ではあるが、返事をすることは出来ているらしい…ただ意思や情緒のようなものはあまり感じられないな。私も人のことは言えないが…」

「ともかく、まだ時間が必要らしい」

 

「悪い、呼び出しが入った」

「一旦…切り上げるか。ブロードキャスト、こいつのブレインの最適化を頼む」

そう言い、サンストリーカーは寂しげに部屋から去っていった。

残ったブロードキャストはダウンシフトの後頭部を押さえつけ、操作を開始した。

 

A

 

パーセプターとプロールの手で、ダウンシフトは中央司令室運び込まれていた。

「ダウンシフト。君の知能を貸してほしい」

プロールは硬直したように立たされているダウンシフトの瞳の奥を覗き込むようにして、そう告げた。

 

「質問者のパーソナル認証を要求」

異物を睥睨するように、ダウンシフトは顔を動かさずに彼を見下ろした。

 

「プロールだ。この顔を忘れられたのは初めてだな」

汚いものでも見るような視線を向け、プロールは些か不機嫌そうにそう返した。

 

「大抵は忘れたくても忘れられまいそれにオートボットのエンブレムを見れば嫌でも思い出す」

パーセプターは睨み合う二人を遠巻きに眺めながら口を挟んだ。

「グリムロックがダイナボットのエンブレムをわざわざ新しく作ったのも道理というものだ似た例は多数ある」

 

「…ともかくダウンシフト、君を蘇生させたのは私だ。そして君に頼みがあるのもこの私だ。今の我々オートボットには何としてもスペースブリッジが必要だ。ディセプティコンと違い移動拠点を持たない我々は行動範囲でも展開力でも遥かに劣る。この星を守りきることは難しくなるばかりだな」

プロールは大仰なジェスチャーを伴い、鷹揚に言った。

「そこでパーセプターをしばらく君の助手に付けよう」

 

「久しぶりだダウンシフト思い出したことをこのデータパッドに書き出すか私に話すかしてくれればいいどんな些細なことでも」

大ぶりなデータパッドを雑に投げ渡し、パーセプターは事務的に淡々と告げた。

「君が私の助手になるものだと思っていたが」

 

「データの欠落を確認」

「ターミナルとのリンクを要求」

受け取れず床に落ちた端末を屈んで拾い、ダウンシフトはそれを見つめながらしばらく思案するように頭を巡らせて言った。

 

「パーセプター、今テレトランⅡは動かせる状況か?」

プロールは顎部に手を当て、ふと思い出したようにそう訊いた。

 

「ホイストが修理を試みてはいたようだが無理だな」

簡潔にそう返答し、パーセプターはプロールの方を見もしなかった。

「この基地の機器に接続するにしても言語も機器の規格もまるで違う以上は望み薄だブロードキャスト今来られるか」

パーセプターは短い通信を送った。

 

「な、何かな?」

パーセプターらしからぬ口調にうろたえながら、ブロードキャストはそう訊き返した。

 

「ダウンシフトのデータリンクの中継をしてもらいたいそれと再生してほしい会話ログがある」

事務的にそう告げ、パーセプターは返答を待たずに通信を切ろうとした。

 

「分かった。とにかくそっちに向かうよ、話はそれから詳し_」

ブロードキャストの返答はパーセプターが通信を終了したことで遮られた。

 

「会話ログ?」

プロールが片眉を上げ、素頓狂な声を出した。

 

「生前のダウンシフトと私との会話がブロードキャストの記憶に残っていたはずだ」

パーセプターはプロールの訝しげな顔をじろと見やり、億劫そうに意図を説明した。

 

「分からないな、その手の記録を取っていたのはリワインドだろう」

 

「よりにもよってプロールがこの仕様を把握していないとは嘆かわしい」

心底そう思っているといった調子で言い、パーセプターはわざとらしく肩を落とした。

 

「あ、待たせてしまったかな」

入室してきたブロードキャストは少し不服そうな面持ちで、そう言った。

 

「それより会話ログ"T02-XX-omni"のデータを呼び出してほしい」

 

「…性急だね」

ブロードキャストは動揺を隠せずにそう言い、変形した。

 

「リワインドが記録していたようなデータがお前の記憶の中にあるのか?」

情報機器へと変わっていくブロードキャストを見ながら、プロールがそう訊いた。

 

「そういう風に作らせたのは誰でしたっけね…カセットボットと親機は相互に連動していた方が効率的だとかなんとか言ってさ…」

愚痴るようにそう言い、ブロードキャストは苦笑した。

「おっと…データを見つけた」

「多少の破損はあるが、なんとか再生してみよう」

 

顕微鏡…お前か、俺を呼んだのは」

 

「時間を取らせてすまない」「スペースブリッジについての講釈に興味があってね」

 

「論文でも読み漁った方が早いんじゃないか?解説ぐらいならしてやれそうだが」

 

「そうしてもらいたいがお互い忙しい身だからね」「それでも技術者も記録も多くが既に失われていてスペースブリッジ関連のものはロストテクノロジーと化しつつあるし私もその貴重な話を聞けるうちに聞いておきたかったんだわざわざ書類を書き上げるよりは時間を食うこともないだろうしね」

 

「こいつを侍らせてるのはなぜだ?…いや、貴重な話とやらの記録係ってところか」

 

「あぁ、こっちのことは気にしないで。ちなみに頭のここが赤く光ってるのは録画中ってサインだ」

 

「よし、じゃあ歴史のお勉強からだな…顕微鏡、最初のスペースブリッジがどこにあったか知ってるか?」

 

「どこに"あったか"というなら巨神達の体内だと思うね」

 

「そう。彼らのみに備わった器官の一つ…言うなれば俺達にとってのコグのようなものだった。今の技術でもトランスフォームコグは修理こそ可能なものの、あのサイズと性能のまま新造するのは難しい」

「当然、より大きく複雑なスペースブリッジの製造など簡単なはずがなかった…だからスペースブリッジ工学はゆっくりと発展していった。巨神達に端を発する他の技術と同じように、解剖学やリバースエンジニアリングといったものと密接に連動しながらな」

 

「黄金期になってようやく最初のスペースブリッジが作られたのだったね」

 

「…一番最初の製作者についてはよく議論の対象になるな。ジアクサスかプリマクロンという説が有力ではあるが…いずれも"実験装置"の域を出ないものだった。腕一本通せるかどうかというゲートの小ささや、送る側と受け取る側が別々な"ステラスパナ方式"を取っているのが後の実用モデルとの違いだ」

「稼働時に多少の放射線が漏れ出すという特徴もあったが…これは結局実用モデルでも大した改善はなかったな」

 

「使用者の体に影響はなかったのか気になるところだね」

 

「緑のスパークが"発芽"する時に比べればマシらしいが、黄金期を終わらせたコズミックルストの蔓延の原因の一端はこの放射能でスパークやCNAが傷ついて免疫機能が低下していたせいだという説もある」

 

「その際に隔離政策の一端としてスペースブリッジは全てが停止させられたのだったね」

 

「ちょうどパーセプターが歴代最年少でパターナーになった頃の話だね。おっと失礼、つい口を挟んじゃったよ」 

 

「パターナーっていうとあれか…地下に潜って天体の研究してたとかって連中だな。彼らがあの当時スペースブリッジを使えるうちに回収してくれていれば話も違ってたんだろうが…」

「いや、技術的な話に移ろう。スペースブリッジってのは要するに空間を歪める装置で、クリスティアス-ティマイオス理論の上に成り立っている。この中核を成すのは一定の気象条件下でワームホールを生成・制御するための8つの長ったらしい理論式だ」

 

「クリスティアスとティマイオス…聞いたことのある名だ。同じ解剖学者だったロッサムとの確執は有名だね」

 

「それについては解説付きの資料を後で送ってやる…さて、元々巨神達の器官を模して作られたスペースブリッジという精密機器の塊は…ある種の生命体とも呼べるような特性を持つんだ。巨神達のスーパースパークを動力とするオリジナルと違い、スペースブリッジの稼働に使う動力はイオンエンジンや反物質、濃縮エネルゴンなど何種類かあるがそれによって出力特性や稼働の安定性が大きく違う。他にも大半の部品はその装置固有のもので互換性に乏しいのが特徴だ。それらは一つ一つが最高峰の職人たちの手作業で製造されていた」

 

「なるほど道理で"星の門の鍛冶"なんて大層な称号が彼らにあった訳だ」

 

「要はスパークに繋がれて機能する構造のものを他の動力源で動かそうとするからそんな手間が必要になるんだ。一定以上の品質を持つスーパースパークでもそこら辺から収獲できればそこまで難しい話じゃなくなるがそんなものは滅多に…」 

「いや、もし聞いた話の通りに()()()()()()()()()()()プライマスなら、最初の…そして恐らく最後に残ることになるスペースブリッジはこの星のコアにあるんだろうな。もはやそっちを探しにいった方がいくらか現実的だろう」

 

「星のコアはオプティマスがベクターシグマごと封印を施したせいで到達できない」

 

「あぁそうか…あいつ(プライム)はメガトロンにベクターシグマを奪わせないためにこの星そのものを緩やかな死へと導いたんだった。とんだ名采配だよな?」

 

「体制批判は編集の手間が増えるから控えめにしてもらえると嬉しいな。このところまたプロールとマグナスの検閲が厳しくなっててさ…ところでちょっと録画のデータを入れ替えようと思うんだけど、まだこの話続くよね?」

 

「いや…そうしたいところだが、ちょうど今用事が出来た。スクラムが俺を呼んでるらしい。残りは今度だなリワインド」

 

「続きのデータはないのか?」

プロールは聞き入りながら傾けていた頭を戻し、そう尋ねた。

 

「この後は知っての通りだ彼は戻って来なかったのでな」

パーセプターは目を閉じたままそう言った額部に手を当てて俯いた。

 

「あぁ、命令を出したのは私だったな。コロッサス隊に対する時間稼ぎのつもりだったが…」

プロールは思い出したようにそう言ったが、パーセプターは聞いていなかった。

 

「どうかしたのかブロードキャスト」

情報機器の姿のまま転げ落ちたブロードキャストを見やり、プロールが言った。

 

「え?あぁ悪いね、久々にリワインドの声を聞いていて…なんというか、胸の隙間が広がっていくような思いがしたものだから」

床に転がりながら人の形へと戻るとブロードキャストは頭を押さえ、よろめきながらそう言った。

 

「そうかもう聞けないんだったな」

特段の悪意もなく、パーセプターは自然とその言葉を口にしていた。

 

「……パーセプター、私が言えた義理ではないが今の発言は…」

しばし逡巡したかのような間を空けて、プロールが見かねたように口を挟んだ。

 

「いやいいさどうでも…あぁダウンシフトも聞いていたのか。どうかな、昔の自分の_」

「…データパッドに何を書いているんだ?」

ブロードキャストが見たのはその場に座り込んで、渡された端末に必死に何かを書き殴っているダウンシフトだった。

 

「思い出したんだ。顕微鏡、お前に書いてやる予定だったものを」

取り外したペンをパーセプターに向け、ダウンシフトは決然とそう言った。

 

「目覚めてから与えられた情報だけでここまで回復するとはな」

プロールは信じられないという顔で彼の様子を眺めていた。

 

「これも自我の強さのなせる業か」

パーセプターは小さくそうつぶやいた。

 

「ずっと忘れていた。とても多くのことを」

「もっと知らなければならない。この星のことも」

ダウンシフトは口惜しげにそう言い、辺りを見回した。

そして忙しなく頭を振り、震える手でそれを押さえた。

 

「素晴らしい…君だけが頼りだ。大いに期待しているとも」

プロールは彼を見下ろすと口角を上げ、愉快そうに語った。

 

「もし君が失敗に終われば私達はこの星ごと滅ぶ以外にない」

対照的にパーセプターは冷淡にそう告げる。

 

「…君ならそれを避けられるんだ。出来ることがあれば言ってくれ…ここにいる皆もそれに命をかける気でいる」

ブロードキャストはダウンシフトと目を見合わせ、彼の肩に両手を置き真剣な面持ちでそう言った。

*1
と彼が言い張って勝手に占拠している空き倉庫の一室

生存してほしいキャラ

  • オプティマスプライム
  • アイアンハイド
  • プロール
  • ブロードキャスト
  • ホイルジャック
  • パーセプター
  • ラチェット
  • ギアーズ
  • ホイスト
  • サイドスワイプ
  • サンストリーカー
  • レッドアラート
  • ウィンドチャージャー
  • クリフジャンパー
  • グリムロック
  • ホットスポット
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