トランスフォーマー:Alternation of Cybertron   作:pova

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オートボット-地球編⑪:An old friend,Part2

「なぁサンストリーカー」

「平行世界ってやつを信じるか?」

レッドアラートはリペアルームの天井を茫然と見ながら、そう訊いた。

 

「突然妙なことを訊くな」

サンストリーカーは寝かされているアラートの顔を覗き込むようにして、呆れ気味にそう言い返した。

「猛獣の腹に呑み込まれてどこかイカれたのか?」

 

「この世界とは別のどこかによく似た世界があるってやつだ。そんな戯言を信じてたのは俺の知る限りコルドン以外だとベクトリウム、ホットロッド、アラゴン、スキッズぐらいだが…」

そこまで言い、アラートは起き上がった。

「思うにダウンシフトもそうだったんじゃなかったか?」

 

「さぁな」

彼の左側頭部にある古い傷を眺めながら、サンストリーカーはそっけなく応えた。

 

「あいつはやたらスペースブリッジの原理や構造に詳しかっただろう。それこそバルクヘッド並みだ」

「今になってみると、奴だけは本物だったんじゃないかって、そんなことを思うよ」

痛む頭を押さえつけ、熱に浮かされたようにアラートはそう続けた。

 

「そのうち訊いておいてやるよ。病み上がりは大人しくしていろ」

サンストリーカーは心配そうな顔のまま、ぶっきらぼうにそう返した。

 

「別に今は…大人しくするほどの不調だってない。サンダーブラストに振り回されたことと眼が片方機能してないのが不愉快なぐらいだ…それで、お前なんかがなんでここに?」

アラートはそう言って強がり、サンストリーカーを見上げて訊いた。

 

「俺が仲間の見舞いに来るのがそんなに不思議か?」

屈んで目線を合わせると、サンストリーカーはアラートの額部を指で弾いて言った。

 

「当然だろ。頻度で言えばよその星で一つの文明が滅びる程の期間に一回あるかないかだ」

アラートはムキになってすかさずそう強弁した。

 

「否定はしないが…じっと落ち着いていられなくてな」

サンストリーカーは観念したようにそう言い、話を切り上げた。

 

「なんというか…お前やけに、張り切って…いや忙しないと言った方がいいか」

アラートは虚を突かれたような表情を一瞬浮かべ、サンストリーカーを片眼でまっすぐ見つめながらそう告げた。

 

「その眼じゃ物の見え方も違うらしいな?」

図星を突かれたらしいサンストリーカーは苛立ちを隠さずアラートの左眼を指差し言った。

 

「お前がそういう顔する時は…昔からろくなことはない」

アラートは顔を伏せ、虚しげにそう言いながら深く嘆息した。

 

「俺が画家だった頃から?」

 

「もっと前からだ、兄弟…」

サンストリーカーが言い終わるのを待たず、アラートはそう言い聞かせるように告げた。

 

「レッドアラート、具合はどうかな?」

リペアルームに救急車の姿のまま入室してきたラチェットがそう言い、期せずして彼は部屋を支配していた気まずい沈黙に割って入った。

 

「散々休んだんだ…左の眼以外はもうほとんど問題ないさ。俺も昔は衛生兵の端くれだったんだ、自分のことぐらいは分かるよラチェット」

早口にそう言い、アラートは立ち上がってラチェットの方を見た。

 

「なぁドクター、ダウンシフトのことなんだが…ポッドの中身の再生が上手くいかないだけであんな風になるのか?」

アラートのことを意に介さず、サンストリーカーはラチェットに尋ねた。

 

ラチェットは並んだ二人を見て、少し考え込んだ顔をした後、椅子に腰掛けゆっくりと口を開いた。

「あの領域に関しては私よりもホイルジャック達の方が詳しいとは思うが…通常ならあぁはならない、というのが私の意見だな。原因としては…そのボディのデータと彼のブレイン、そしてスパークの相性が悪かった、なんてことも考えられなくはない」

そこまで言うとラチェットは2つの椅子を取り出し、アラートとサンストリーカーに座るよう促した。

「戦前のサイバトロンでは…特にヘリックスやナイオンの周辺だったか、非合法にブレイン・コグ・スパークの三つを新たなボディに移植するような腐った闇医者がのさばっていた。しかし新たなパーツに体が適合出来ずにか、単に施術者の腕が私よりも悪かったからか…手術を受けた者は粗悪な体で過ごすうち、事故や劣化などで死に至ることが少なくなかった」

ラチェットは脚を組み直し、自身のツノの先を撫でるようにしながら続けた。

「ただ…彼はどうもそうした通常の例には当てはまらないように思えるんだ。特異な構造をしている」

 

「アラートも前そんなようなことを言っていたな…」

サンストリーカーは昔の記憶を思い出し、それと同時に言った。

 

「…あぁ、あいつは俺の感覚でも読み取れないんだ。まるで頭の中に何人もいるみたいな量の感情と思考が渦巻いてたんだよ」

 

「今のあいつの考えも読むことは出来ないのかよ?」

 

隣に座りながらも顔を背け合いどこか投げやりな会話をする二人を見て、ラチェットは決心したように口を開いた。

「その…サンストリーカー、レッドアラートのあの力は強力だがこれ以上使わせる訳にはいかない。これは医師としても、彼の友人としてもだ」

 

「ん…待ってくれラチェット、それはどういう…」

サンストリーカーはその言葉を聞いた後、少し遅れて反応した。

 

「以前、グリムロックの腹の中から吐き出された君とホイストのバラバラだった体を組み立て直すついでに、ブレインとスパーク、コグの精密検査をした。言うべきかどうかずっと迷っていたのだが…」

ラチェットはアラートと顔を見合わせ、思いつめた様子で切り出した。

 

「あぁ。そうだったな…」

アラートは消え入るように笑い、頭を小さく横に振った。

 

「結果は最悪だった、二人ともだ。特に君はそのサイコメトリーじみた力のせいか、ブレインの方に相当ガタが来てる。左眼を接続しようにも神経回路の損傷が激しく中枢まで視覚情報を伝達することそのものが難しい」

自身の左側頭部を指でつつき、ラチェットは自身の左側に座っているアラートを見て悲痛な表情を浮かべた。

 

「へぇ」

「最近、能力を使ってない時でもたまに漏電するようになってさ…なんか頭から寿命が流れ出してるような気分になるよな、あれ」

アラートは誰とも眼を合わせず、視線を空に投げ出して言った。

 

「何だよ…なんだよ、それ」

サンストリーカーは愕然とし、振り返ってアラートの方を見た。

 

「そんな顔するなよ兄弟…自分のことぐらいは分かる、って言ったろ」

俯きがちになり、アラートはゆっくりと見えない方の眼をサンストリーカーに向けた。

 

「…あ…あぁ、邪魔したな。悪かった」

その短い言葉さえも上手く発音出来ず、サンストリーカーはまとまらない思考と揺れる視界の中その部屋を後にし、当てもなく歩き出した。

 

A

 

「何か用か?ストリーカー」

ウィンドチャージャーはこちらによろめきながら近づいてくるサンストリーカーを見つけ、不審がってそう訊いた。

 

「見ての通りチャージャーと俺はフルステイシスの真っ最中だ。もう小さな観客らもいなくなったし勝負も決まりかけだが…」

ギアーズも振り返ってそう言いかけた。

「何だお前、ひどく思いつめた顔してるぞ」

 

「そうだろうよ。なぁ…命って…」

「命ってなんなんだろうな」

 

「俺達が今まで散々鉄屑に変えてきたものがそうだろうが」

ウィンドチャージャーは妙な問答に動じもせず淡々と返した。

「望ましくない感傷だ。ダウンシフトのことでも考えてたとみえる。精神性は成長がないな…そんなことだからあの時ボンブシェルにつけ込ま_」

盤上の駒を磁力で操作しながら、サンストリーカーを睥睨した。

 

「悪いかよ…!」

刺激されたサンストリーカーは対局している二人に殴りかかる勢いで近づいた。

 

「そうは言わん。例えばそうだな…この駒も、かつては命だったとしたらどうだ?」

チャージャーは片腕から磁力を放射してサンストリーカーの振り下ろした拳をたやすく弾き飛ばし、諭すように手元の駒を見せた。

 

「それが?」

転ばされたサンストリーカーは立ち上がり、怒気を滲ませた顔のまま訊いた。

 

「あぁ。グリフの亡骸を削って作ったからな」

指の先で駒を回しながら、チャージャーはそれを見つめていた。

 

「だが、それは…」

 

「…ある種の弔いかな。こうした形見をとる文化は黄金期より前、戦士の時代からあったものらしい」

 

「流儀こそ少し異なるがホイストもトレイルブレイカーのパーツを引き継いでいたし、俺の体もあちこちパイプスとビーチコンバーからの借り物だ。いつか返せる日が来るといいんだが」

ギアーズがそう補足し、色の違う腕の装甲を見せた。

 

「地獄の底でまた会えるだろ。で、チャージャーはなんでまたグリフなんかを選んだんだ?」

 

「彼女は俺の次にフルステイシスが上手かった」

 

「何か関係あるのか?途中まで話して説明した気になるのはお前らの悪い癖だよな本当にさ!」

サンストリーカーは呆れ気味にそう言い、頭を抱えた。

 

「何のためにグリフが大戦中もずっとサイバトロンに残ってたのか、考えてもみろ…要は死んでもチャージャーから離れる気はなかったって訳だよ。タップアウトには気の毒な話だがな」

ギアーズは愉快そうに言い、盤面の駒を神経質な手付きで整列させた。

 

「彼女は昔、自分のメンターの遺骸の欠片の話を俺にしてくれた。遺骸を世話になった皆で分け合ったから、何かを作るだけの量はなかったのが心残りだったらしい」

「戦争の中でロクな死に方はしないだろうが、その時は残った部分だけでも俺に持っててほしいと言ってた。互いに、そういう約束をした」

 

「…チャージャーはこの不細工な駒をいっつも持ち歩いてるんだったよな?」

ギアーズは意地の悪い笑みをこぼし、チャージャーの顔を見てそう言った。

 

「泣ける話だ。あいにくとそんな上等な機能は持ち合わせちゃいないが」

サンストリーカーは無機質にそう言い、目元をなぞって涙を払う仕草をして見せた。

 

「ギアーズ…やはりお前は底意地の悪さより口の軽さを真っ先に直すべきだな」

「結局、彼女は死んで俺だけが残った。ビーチコンバーもタップアウトももういない…正直、この命にしてももうそろそろなんじゃないかという気がしてくるな」

 

「やけに弱気だな?」

サンストリーカーは寂しく笑ったチャージャーの顔を見つめ、怪訝そうに言った。

 

「…自分でも段々と力の制御が効かなくなりつつあるんだよ。いつだって厄介事は向こうからやって来る」

ふと次の手を指そうとした瞬間、磁力の暴発で駒ごと盤が吹き飛んだ。

 

「マグネットパワーは余計なもんまで引き寄せるらしいな」

「さて…あの局面じゃどの道俺の負けか。とはいえ片付けはお前にやってもらうぞ」

時折口を挟みつつもしばらく熟考していたらしき間の後、ギアーズはそう言った。

 

「そういえば人間らにフルステイシスのルールを教えるとかいう話はどうなったんだ?」

サンストリーカーはチャージャーの方を見てそう訊いた。

 

「連中の頭には複雑過ぎたらしい。人間の脳じゃたったの8×8マスぐらいがちょうどいいそうだ」

ギアーズはそう言い、微かに嗤った。

「というかあの時クリフがやけに張り切ってたのはなんでだ?」

 

「あいつは下手も下手なんだが遊ぶのと教えるのは好きだからな。それでだろう」

「アストロトレインに真っ二つにされたその日にボロボロの体で対局したいと言ってきた時は面食らったが」

チャージャーはその場面を思い出したのか苦笑を浮かべた。

 

「あいつなんで死なないんだ?」

サンストリーカーはクリフジャンパーの不遜な顔を脳裏に浮かべながら、思い出したようにそう訊いた。

 

「今更だろ。流星群行きの片道シャトルに縛りつけられてた時とかラグナッツに衛星軌道から叩き落されてた時は結構惜しかったのにな」

ギアーズはそう言い、途中で堪えきれずに笑い声を漏らしていた。

「今まで不死身を自称する奴は大勢いたが…」

「その中でも八つ裂きにされた後くっついて元に戻る奴はあまり例がない」

 

「思うんだが命ってのは…スパークでもブレインでもコグでもないんじゃないか?それを切り取ったところで命は手に入らない」

チャージャーはどこか遠い目をしてそう言った。

 

「有機生命体はそのあたりいくらか簡単でいいよな。俺達はどんなパーツも換装したり組み付けたり出来るせいで余計複雑だ」

「スパークとブレインを他人の体に移し替えることだって出来る」

ギアーズはサンストリーカーの方を見、自分の頭を指さして言った。

 

「…それが悩みの種ってやつだ。何しても死なないバカみたいに頑丈なバカが身内にいるせいもあってか、ますます分からなくなってる」

「あいつの命は…今どこにあるんだろうな」

そう言い終え、サンストリーカーはまたふらふらと歩き出した。

 

A

 

作業場に続く廊下はいつも薄暗い。その光に照らされて灰色の人影が顔をのぞかせた。

「ダウンシフト?」

ブロードキャストがそう言いかけると、作業場からパーセプターが這い出てきた。

 

「今すぐ逃げた方が賢_」

出入口から出ようとしたパーセプターは、ダウンシフトに後頭部を踏みつけられ、上から銃で撃たれた。

 

「パーセプター!?」

部品を散らしながら力なく倒れ伏したパーセプターを見、ブロードキャストはただ驚愕した。

「どうしたんだダウンシフト!彼に何をした!?」

 

「(¢℃№⁇…№°”’\;~⊗≯」

ダウンシフトの目は焦点が定まらず、半開きになった口からノイズ混じりの電子音が漏れた。

 

「アラート!サイドスワイプ!いや誰でもいい、これを聞いた者は今すぐ中央通路まで来てくれ…なるべく早く、適切な人選で_」

反射的に来た道を引き返しながら、ブロードキャストはオートボットの全員にそう通信を送った。

彼が最後まで言い終える前に、ダウンシフトの銃が火を吹き、ブロードキャストの意識は消失した。

 

「おい具合は?」

サンストリーカーは胸に大穴の空いたブロードキャストを見つけ、冷静にそう声をかけた。

ブロードキャストは何分経っても目覚めず、とうとうサンストリーカーは苛立ちながら彼を蹴りで叩き起こした。

 

「アラートが来るものだと思っていたが…」

ブロードキャストは揺れる視界の中、眼前の人物を頭部の色と形状で把握した。

 

「俺ならここだ。平気か?」

サンストリーカーの後ろにいたアラートがブロードキャストを起こし、傷を見た。

 

「平気なものか…意識が不安定になってきた。空っぽな胸の隙間も底が抜けて風通しがよくなったよ」

「ダウンシフトはどこに?」

ブロードキャストはどうにか立ち上がり、そう尋ねた。

 

「基地の外に出ようとしているらしい。走って上に向かっているとかプロールが言っていた。それと…」

サンストリーカーはそう言い、苦々しい顔をした。

 

「パーセプターは?」

ブロードキャストは思い出したように作業場の方を振り返って訊いた。

 

「そう、それについて言おうと思ってたんだ。パーセプターは頭を撃たれた。今サイドスワイプとチャージャーが運んでる」

 

「分かった。ダウンシフトを追うぞ」

ブロードキャストは基地の複雑な内部構造を改めて確認し直し、そう言って走り出した。

 

「その体で?」

サンストリーカーは心配そうな顔をしてそう訊いた。

 

「私に寝てる暇なんてない」

「まだしばらくは動ける。元々こういう時のために頑丈に出来ているんだ…」

 

「事がことだ、サンダーブラストを連れてきた。鎮圧用の装備も一緒にな」

アラートはサンダーブラストを従えて合流し、不承不承ながらといった口調でそう告げた。

 

「信用してもらって結構」

サンダーブラストは意気揚々とそう言い、ブロードキャストを見た。

 

「…了解だ。こんな状況では仕方ないか」

煮えきらない表情を浮かべながら、ブロードキャストは諦観を滲ませて言い、変形して走り出した。

サンストリーカーとアラート、サンダーブラストも後に続き、地上へとつながるいくつもの出入り口の一つを目指した。

 

薄暗いトンネルの中に、灰色の人影がさまよっていた。

「いたな。まるで道に迷ってるみたいだ」

ブロードキャストはそう言い、変形して人型に姿を変えた。

 

「ダウンシフト!!」

サンストリーカーはそう叫び、彼に向かって走った。

 

「あの銃はなんだ!?」

ブロードキャストはその様子を目にし、彼がサンストリーカーに向けようとしているものを見て大慌てで走った。

 

「どうせそこら辺に落ちてたんだろ…サンダーブラスト!」

アラートはそう返し、仲間の名を叫んで何かを投げ渡した。

 

「裏技行くわよ、全方位に眼光をお見舞いしてやる」

サンダーブラストは跳び上がってそれを受け取り、頭部に装着した。

それは特殊な素材でできたバイザーであり、彼女の眼光を乱反射させ、空間全体にその効果を及ぼすことが出来た。

薄暗いトンネルが彼女の眼差しに包まれ、空間ごと焼けたような赤に染まった。

相手を操るサンダーブラストの能力によって、アラートを除く全員が動作を強制的に停止させられるはずだった。

しかしサンストリーカーは不愉快そうな顔をして足を止め、転倒した。

ダウンシフトとブロードキャストはその場に倒れ込んだが、一瞬で再び立ち上がった。

 

「思ったより効かない…!もう何なのこの連中…?あんたらまともな頭してないんじゃないの!?」

サンダーブラストは呆れ気味にそう叫んだ。

 

「返す言葉もないね」

ブロードキャストはダウンシフトの銃を奪い取ろうと揉み合いになりながら振り返ってそう言った。

 

「俺の頭は虫食いだらけだ…そんなもんが…効く、か…」

両者の足元に転がりながら、サンストリーカーがそう吐き捨てた。

 

「m∝∂∇≫⊕∀∌∷%」

ダウンシフトは銃を取られそうになり、ブロードキャストを蹴り飛ばして何かを発音した。

 

「何言ってるか分かんないけど、でも私多分バカにされてる気がする…」

ダウンシフトの態度を見て、サンダーブラストは苦い顔をしながら直感的に言った。

 

その時、トンネル内にエンジン音を響かせ、下から赤い車が高速で迫っていた。

「ブロードキャスト!怪音波みたいな奴やってくれ!!」

人型へと前転めいた動きで変形しながら、サイドスワイプがそう叫んだ。

 

「もう戻ったのか!その手があった…傷に響くだろうが、やってみるさ」

胸部の扉を開け放ち、ブロードキャストはダウンシフトに向けて音波攻撃を放った。

 

「効いてるの?あれ」

サンダーブラストは遠巻きに二人の様子を眺め、不審げにそう言った。

ダウンシフトは軽くのけぞり、苦しげに身震いしたが動きを止める様子はなかった。

 

「やはりもう大した出力も得られないか…彼に銃を向けたくはないが、そうも言っていられない!」

ブロードキャストは素早く銃を取り出した。

 

それを見るとダウンシフトは手にしていた銃を収めて変形した。

「逃がすか!!」

サイドスワイプがそう叫び、真っ先に変形して後を追った。

 

残った四人も彼らに続き、上へと続く通路を走り出した。

「なぁストリーカー、やはり奴はお前の体のせいで暴走しつつあるのかもしれないな。サイドスワイプも躍起になる訳だ」

何も言わずに目の前を走るサンストリーカーにアラートはそう切り出した。

 

「もう少しこう言い方ってものがあるだろうが…」

 

「私もう帰っていいかしら」

最後尾に続くサンダーブラストがしんどそうにそう言った。

 

「ダメだ」

 

「そう…で、なら何か勝算は?」

 

「それよりなぜあいつが上に逃げようとしているのかが気になる」

二回続けて彼女の言葉を撥ねつけ、アラートは何食わぬ顔で疑問を口にした。

 

「悪い虫にでも憑かれたんじゃなーいの?」

サンダーブラストはアラートに向かって投げやりにそう応じた。

 

「相手を操るのはサンダーブラストの得意分野だったな。寄生虫が宿主を操るようなことも宇宙を見れば珍しくはないが…彼の状況はそうした類のものではない」

その言葉を聞いたブロードキャストは納得したような表情で静かに言った。

 

「じゃあ何だっての…」

 

「プロールとパーセプターは彼を、テレトランⅡの代わりにこの基地内のネットワークとデータリンクさせようとしていた。本人の想定以上の回復を見て彼らは考えを改めたようだが…となれば自分で接続をしたとしか…」

「まさか、彼を頼るあまり重圧をかけ過ぎてしまったせいか…!!」

悔しげにそう漏らし、ブロードキャストは速度を上げた。

「…これは私の経験からだが規格の合わない情報の奔流にブレインが長時間晒された場合、大抵は処理にかかる負荷に気が狂いそうになる」

 

「あいつはそれに耐えきれず逃げ出したのか?…錯乱してるのもそのせいだと?」

アラートはブロードキャストにそう尋ね、サンストリーカーの方をちらと見た。

 

「あぁ。そういえば彼は目覚めてから基地のあちこちにあった落書きみたいな壁画を見ていたな…」

ブロードキャストは思い出しながらそう言うと、静かに考えを巡らせた。

 

「だからもっとマシな言い方がいくらでもあるだろ。だいたい、なんで描いた奴の前でそう言うんだ」

サンストリーカーは不服を通り越し、呆れたようにそう言った。

「それで?俺の落書きとあいつの行動に何か関係でもあるってのか」

 

「サンストリーカーの絵を見て何か思い出したのかもな。それで上に行こうとしてるとか」

 

「俺を呼んでるとでも言うのか?」

サンストリーカーはアラートにそう言い返しながらも、彼の言い分に一旦納得することにした。

 

「ここの扉が破られている…彼は地表に出たか」

ブロードキャスト達は地上へと続く通路の最後の区域に到達したが、隔壁じみた扉は車が突っ込んだような裂け方をした丸い大穴を空けられていた。

それを見た四人はすぐさまその穴を走り抜けて、外へと出た。

 

「だいぶ曇ってるわね。この様子じゃ、噂の雪ってやつにもお目にかかれそう」

サンダーブラストは久々の外出に体を伸ばし、能天気にそう言った。

 

「…いた」

サンストリーカーは灰色の景色の中に自分の似姿を見つけた。

「ダウンシフト?」

その足元に転がる黒と赤のものと紫の飛沫から目を逸らすようにしながら、彼は名を呼んだ相手に近づいた。

 

「…サンストリーカー」

ダウンシフトは呆然と立ち尽くしたまま、ぎこちない動作で振り向いた。

 

「分かるのか?俺のことが…!?」

 

「忘れる…ものか」

ダウンシフトは静かにそう言い、サンストリーカーを見て微笑した。

「また…灰色の空だ。連中の残りはどこから来る?今度は前のようにはいかない」

手にした銃を構え直し、彼は空を見上げた。

 

「落ち着けダウンシフト、この星に敵はいない。俺達だけだ。だから_」

サンストリーカーは諭すようにそう言い、彼に歩み寄った。

「…だから。お前の足元に転がってる奴の顔をよく見ろ…!それとお前がさっき頭を撃った奴のことも思い出してやれ。どんな顔をしてたか…」

ダウンシフトに厳然とそう言い渡すと、サンストリーカーは乱暴に彼の頭を掴んで下を向かせた。

 

「サイドスワイプ…!」

アラートは二人の足元に転がったものに目を向けるとそう言って驚き、走って近寄った。

 

「これは…これを、あいつらを…俺がやったのか」

ダウンシフトは短く悲鳴を上げ、エネルゴンを流して力なく倒れたサイドスワイプを見ると反射的に銃を落として数歩後ずさった。

 

「あぁ、そうだ…」

怒気を滲ませた口調でサンストリーカーはゆっくりとそう言った。

 

「どういうことだ…俺は…何をして_」

ダウンシフトは自分の頭を両手で押さえ、うずくまった。

 

「何って、あんたがかわいそうなパーセプターとサイドスワイプ君をその銃で撃ったんじゃない」

残る三人も彼に近づき、サンダーブラストは蔑むように見下ろして言った。

「…っていうかそれ私の銃じゃない!返しなさ_」

 

「気が散る。少し黙ってろ」

サンダーブラストが喚きながら伸ばした手を踏みつけるとレッドアラートがそう吐き捨て、慎重に銃を回収した。

 

「ダウンシフト、君は自分で接続を行ったのか?」

ブロードキャストは屈んで彼の目を見ながら訊いた。

 

「多分そうだ…が、よく思い出せない…意識が濁ってる」

過呼吸のような排気音混じりに、ダウンシフトは歯切れ悪く答えた。

 

「もしそうならそれは我々が君に期待をかけ過ぎたせいだ。すまなかった」

ブロードキャストは悲痛な面持ちでそう言い、拳を握りしめた。

 

「プロールも呼んでくれば?検分なら得意でしょ」

 

「…サイドスワイプはとりあえずは大丈夫だ。最悪でも今すぐ死にはしない」

アラートはサイドスワイプの上体を起こして傷口を観察し、そう言った。

 

「分かった。だが急いだほうが良さそうだな」

ブロードキャストはそう言い、サイドスワイプを丁寧に抱え上げた。

 

「そうか…俺の方はもう限界らしい」

安堵したように排気を漏らし、ダウンシフトは諦観したようにゆっくりとそう言った。

 

「何よ、役に立たない奴」

「…?」

そう吐き捨てたサンダーブラストは、ふと体表のごく微かな温度変化に気がつき、上を見上げた。彼女とよく似た色の空から白い雪がほのかに降り出し、彼女らの体に斑点のような模様を作りつつあった。

 

「ディセプティコンでも真っ当なことを言う奴はいるんだな…なぁ相棒_」

サンダーブラストを力なく睨み返し、ダウンシフトはそう言った。

「なんて呼ぶ資格はもうないな。サンストリーカー…最期の始末付けてくれよ。兄弟の仇をとると思えば優しいお前でも出来るはずだ」

ダウンシフトは起き上がり、サンストリーカーに掴みかかるようにして言った。

 

「勝手に自分だけ楽になる気か?まだ終わらせてやる気はないぞ」

レッドアラートは彼の肩を後ろから掴み、静かに怒声を張り上げた。

 

「まさかそのためにサイドスワイプを撃った…とは言わないよね」

ブロードキャストはそうだと信じたくはない、というような口調で不安そうにこぼした。

 

「アラート…ブレインが痛んで狂いそうだよ、俺は」

「自分の考えや思いついたことは全部書き残しておいた…少しはお前達の役に立つはずだ。後は、好き、に…」

言葉を言い終えるより早く、ダウンシフトは足取りを崩しその場に倒れ込んだ。

 

「でも今ここで殺しちゃっていいの?データの確認とか」

とっさに彼の顔を覗き込んだアラートを横目に、サンダーブラストはそう問うた。

 

「眼を見てみろ、もうオプティックの過収縮が始まってる。ブレインモジュールの記憶領域の破損、それにスパークの劣化が手当て出来る段階を超えた証拠だ…どの道もう長くはないし、ここから回復させる術もない」

その場にいた全員にそう通達し、アラートは銃の残弾を確認した。

 

「こいつにはこの雪も見えてないのかしらね」

 

「俺がお前にとってそうだったように、お前は俺の最高の相棒だったよ。俺はまだしばらくお前のいる場所には行けないだろう」

サンストリーカーは倒れたダウンシフトを立ち上がって見下ろし、白く染まりゆく大地に落ちた自分の影に重なるように横たわる似姿に向けて言葉を送った。

 

「‰θνωΖ⊄∵」

ダウンシフトの眼からは光が失われ、もう閉じることのない口から雑音が漏れた。

 

「そして最後には混線した神経回路が焼き切れ、発語機能も失われる。そして何も見えず、何も言えず体も動かずノイズ以外何も聞こえないまま…スパークの劣化に伴いエネルゴンの循環が止まり、ゆっくりと体を褪色させながら死んでいく」

アラートは淡々と言葉を続け、目を伏せた。

白一色だったダウンシフトの体は生体機能の低下により徐々に色褪せていき、白雪の中に澱みのように沈んでいった。

 

「二度も御免だ…見ていられない。アラート、銃を_」

自身の死骸が眼前に転がっているかのような奇妙な感覚に襲われ、サンストリーカーは神経質に側頭部のパーツを掻き鳴らした。

 

「…アラート?」

反応を見せない彼にサンダーブラストがそう名を呼んだと同時に、銃声と光が弾け、雪を紫に染めた。

 

A

 

「何が起きたのか、私に説明してくれ…」

たとえ通信が音声のみでも、憔悴しきっていると分かる調子で、オプティマスは言った。

 

「ダウンシフトの蘇生は、失敗に終わったというほかないでしょう。原因はボディとの相性や地球の機器への強引な接続などが考えられますが…アラートがダウンシフトの頭部を銃撃し破壊したため、ブレインの検分は不可能です」

プロールは通信コンソールの大画面を見上げ、端的に述べた。

 

「負傷者について報告します」

彼の横にいたラチェットが慣れた様子で発言した。

「胸部を撃たれたサイドスワイプは命に別条はありませんが…負傷の度合いから言って、しばらく戦闘には出せませんね」

「ブロードキャストは胸部を損傷しています。一通りの処置は試みましたが、彼の部品には替えがないものが多いので完全な修復は出来ません」

「現状、カセットボット達との連動や自力での通信などに難がある状態です。機能を十全に発揮させるためにはいくつか彼のボディタイプ専用の内部電装パーツを用意する必要がありますが…」

 

「新造は出来ないのか?」

オプティマスは確認を取るようにそう尋ねた。

 

「テレトランが頼りにならず、ホイストの頭の中にもその手の設計図が存在しない以上、難しいです」

 

「同型がいれば…となるとサウンドウェーブに協力させる必要があるな。考えておこう」

 

「そして、パーセプターですが…」

「頭部に銃撃を受けた影響でブレインが変質してしまったようです。意識は戻りましたが…あれではまるで別人です」

「思考や発言に倫理感や情緒の欠如が見られ、口数が大きく減りました。他に発声器官が不可逆な形で損傷しており、今の彼の声は聞くに堪えません」

 

「回復の見込みは?」

 

「一向に…ですがホイルジャック曰く、彼の新たな頭能はダウンシフトが書き残したデータの解読に役立っているようです」

ラチェットは哀れむような口調で言った。

 

「そうか…サンストリーカーは今どうしている?」

 

「一日中、自室で呆然としているようです。一応チャージャーを見張りにつけてはいます」

 

「…そうか、分かった。クリフとアイアンハイドが戦闘から帰還し次第、彼らに引き継がせよう」

「それと今後、ステイシスポッドの兵士達の再生計画は中止する。やはり我々はまだそれが可能な段階に達していなかったということがよく分かった」

「ところでラチェット、ホットスポットの回復はどうだ?」

 

「現状、特に問題はありませんが、快調ともいい難いですね。まだ少しの時間が必要かと」

 

「時間か…この二ヶ月、ディセプティコンとの戦いは増えるばかりだ。私も彼の回復を待ち続けているが、それに十分な時間が我々に残されているのだろうか?スタースクリームやサウンドウェーブ、オンスロートは接敵もできたが…メガトロンはまだ姿を見せんな」

「だがいずれ必ず現れる。その時に備えるためにも我々には助けが必要だ。それも強力な助けが…」




特に誰かが幸せにもならないし何かが成功することもないが今後の展開に必要かもしれないお話
多分旧版の方がまだ救いがありましたね
ボツになる予定でしたがいつの間にか書き上がってたので投稿しました、やっぱりそのうち消すかも
次回からはいよいよ一章一部たるボッツ編の終盤戦です

生存してほしいキャラ

  • オプティマスプライム
  • アイアンハイド
  • プロール
  • ブロードキャスト
  • ホイルジャック
  • パーセプター
  • ラチェット
  • ギアーズ
  • ホイスト
  • サイドスワイプ
  • サンストリーカー
  • レッドアラート
  • ウィンドチャージャー
  • クリフジャンパー
  • グリムロック
  • ホットスポット
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