トランスフォーマー:Alternation of Cybertron   作:pova

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タイトルは以前読んだ小説のオマージュです。
世界線を変える服用薬は出てこないので安心してください。
それではどうぞ。


オートボット-地球編⑫:Flow My Tears,The Policecar Said.Part1

地球_ベース217_12月12日_

 

 

「ここが地獄ってやつか?」

ホットスポットは希薄な意識が徐々に明瞭になるのを自分でも感じながら、かすれたような声でそう言った。

 

「意識が戻ったようだな」

ホットスポットの収まっているタンクの正面に立っていたプロールは、無感情な眼差しを投げかけて言った。

 

「誰かと思えばプロールか。やっぱりお前もこっちに…」

白焼けしたような視界の中に聞き馴染んだ声と紺色の影を捉え、ホットスポットは観念したようにそう言った。

 

「ここはベース217だよ…目を覚ませ。お前も私も、まだ死んではいない」

タンクに腕を激しく叩きつけ、プロールはゆっくりとそう言い聞かせた。

 

「あぁ…そうか、それであれからどのくらい経った?」

タンクの中を満たす液体の中をたゆたいながら、ホットスポットは呂律の回らない様子で言った。

 

「およそ三ヶ月だ」

 

「その間起きたことは?」

 

「説明しきれるものか…度重なるディセプティコンの襲撃、復活したグリムロックの暴走、アラートの連れ込んだアバズレ、ダウンシフトの復活にパーセプターの合理化、人工のロボット兵士…ハウンドのコグ、スカイファイアの合流…まぁ厄介事だらけだ。おかげで最近は誰も私の話を聞かない」

プロールはごく簡潔にそうまとめ、嘆息した。

 

「なるほどね、だから前より情けない感じがするんだろうな。性格は丸くなってるらしいが…なんというか、(かど)が取れたって感じだ」

タンクの中で上下逆さになりながらプロールを眺め、ホットスポットは見透かしたように言った。

 

「嫌味か?この(つの)は噛まれてこうなったんだよ。おかげで平衡感覚が狂ってよく転ぶようになった」

自らの頭の赤い触覚を指し、プロールは忌々しげに告げた。

 

「衰えたもんだな、ツノなんか替えてもらえばいいのに」

ホットスポットはそう応じながら、状態を確かめるように自身の頭部に触れた。

 

「私みたいな古いボディタイプのパーツなどもうアークには残っていない。新造しようにも、この複合センサーは見かけの割に複雑でな」

忌々しげに吐き捨て、プロールは小さく嘆息した。

 

「へぇ、ところでダウンシフトとグリムロックが復活してるなら会いたいんだがここから出してくれないか?」

何ともなしにホットスポットはふと、試しにタンクを内側から殴りつけてみながら言った。

 

「ダウンシフトならもう死んだぞ。グリムロックにしたっていつ暴走するか分からん…資源の浪費、結果的には失敗だな」

腕を組み、頭を傾けてプロールが冷淡に告げた。

 

「そういう自分を外側に置いた物言いは変わらないんだな、逆に安心さえ覚えるよ。とても頼りになる」

マスク越しに可能な限り最高の笑顔を向けて、ホットスポットは快活に言った。

 

「…お前に言われたことをずっと考えていた」

ホットスポットの皮肉を受けてプロールは何事か言い返そうとしたがそれを呑み込み、やがて言いにくそうに切り出した。

 

「俺なんか言ったっけかな」

ホットスポットは逆さのまま顎部に手を当ててわざとらしく考え込む仕草をとった。

 

「お前は"後悔させるな"と言った。その…私を…庇った選択に、ついてだ」

プロールは歯切れ悪そうに言葉を並べていき、一語言うごとに逡巡した。

 

「あれそうだったか」

ホットスポットはあっけらかんとした様子を装ってそう応じ、慎重に相手の様子を観察した。

 

「憎まれることには慣れている。軽蔑され失望されるのも毎度のことだ…だが所詮それは、私にとってやるべきことをやった結果に付随するごく些細なものだった」

プロールは彼が理解できないものに直面した時のような狼狽を滲ませながら、言葉を紡いでいた。

 

「そうならないように立ち回ることだって出来なかったわけじゃないだろ?やらなかっただけで」

彼の言動に引っかかるところがあったのか、ホットスポットが割り込むようにそう訊いた。

 

「2000発の弾丸の軌道計算さえ瞬時に出来る私だ、当然可能に決まっている。前線の雑兵の"心証"ごときにそこまで配慮する必要を感じなかっただけということだな」

プロールはそこで普段の高圧的かつ流暢な喋り方に戻ったものの、またすぐにしおらしく覇気のない語り口へと変わっていく。

「…だが、後悔されないようにする…というものがどういうことなのか私には分からない。私は誰かに身を挺して庇ってもらったことなどあっただろうか」

 

「別にそんな哲学してもらうために言った訳じゃないぞ。結局こうして生き返ったんだし、チャラでいいって」

腕を頭の後ろに組んだだらけた体勢で身を浮かばせながら、ホットスポットは眼を細めるとひどく面倒そうに返した。

「…引っかかってるらしいな、この前のあれが。ミックスマスターの言うことがそんなに気になったのかよ」

 

「戦前は連中と色々あった。コンストラクティコンを使って殺しの難事件を解決してみせたこともある」

 

「そりゃミックスマスターがあぁまで言う訳だ。頭のキレはハイウェイパトロールの頃かららしいな」

「つけるバッジの色が違えば、か…お前自身は後悔してんのか?」

 

「今となっては分からん…後悔するということも、後悔されるということも」

釈然としない顔をしながら、プロールは足元にあるホットスポットの上下逆さの顔を見下ろした。

「だが正しい解を見つけるさ、いつか」

 

「その正しい解とやらを見つけてどうなる?お前は自身の善性を肯定したいからそれに縋るんだろうが…奴の言う通りとびきりのワルだった過去は消せねぇぞ」

ひどく鋭い目つきで彼を見据えると、ホットスポットは冷徹に言い放った。

「しかし妙なところで融通が利かないというか生真面目というか…そんならもうあれだ、正直に生きてみるとかでどうだ?」

一転してホットスポットは彼の真新しい指をプロールに向け、おどけるように言った。

 

「正直?私のライブラリには存在しない単語だ」

しばし意表を突かれたような顔をして、プロールは臆することなくそう言い返した。

 

「言うと思ったよ…そんなままだと、いつの日か嘘や秘密を大量に抱え込んだまま誰にも顧みられず死ぬことになるぞ。溜め込んでるもんを吐き出してみないか?俺が水に流してやらんこともない。消防車だけにな」

彼を指した指でそのままコンとタンクをつつき、ホットスポットは呆れ顔で忠告した。

 

「酷いジョークだな…もう一度寝かせてやろうかと今本気で思ってしまった」

一瞬肩を震わせて小さく失笑し、プロールは笑みを浮かべてそう言った。

 

「正直で結構」

そう返し、ホットスポットは豪気に笑った。

 

A

 

「"カルペッサの大火"か」

「我が種族の大戦の歴史において比較的初期の出来事…カルペッサ市の通信塔を三十数名のニュートラルが占拠し、停戦と講話を叫ぶ内容の放送を流し続けた。そのような状況がおよそ数クリックほど続き、その間に周囲を取り囲んで睨み合っていた両軍の緊張も高まっていた……結果、通信塔の足元に仕掛けられた爆弾により塔は大爆発」

「中にいたニュートラル達は全員死亡…そこからの騒ぎは堰を切った様にすぐさま大規模な戦闘に発展した。解析の結果、用いられた爆弾はディセプティコン製のものだと判明。現場周辺に敵特殊工作部隊のものらしき痕跡あり」

「ニュートラルが被害を受けた事例で言えば他にもテトラヘックス空爆やナイオンの水路で発生した大洪水があるが、カルペッサにおいて非戦派の意見が封殺されたことが遠因となりこれらの事件は引き起こされ、サイバトロン星からニュートラル勢力は一掃された」

「この事件の犠牲者の数は分かっているだけでも32000以上…ナイトビートやジオセンサスにスモークスクリーン、デトライタスもいた」

ブロードキャストは探していた記録を読み上げながら、自分でも気づかぬ間に通信をオープン状態にしていた。

 

「声がすると思ったら…過去の事件記録を読み上げてたのか。通信が開いたままだったぞ…とうとう俺にも幻聴が聞こえるようになったのかと思った」

開いていた扉からハウンドが顔を出し、司令室の中央部へと降りながらそう言った。

 

「あぁ本当だ、なんでだろうか…いやすまないハウンド、ところで具合の方は…」

ブロードキャストは彼の動作を観察し、歩き方が不自然なものになっていることにすぐさま気がつき言葉を止めた。

 

「あのスモークなんたらのせいでコグが取られた以外、これと言って…まぁそのうちキツイお返しをかましてやるさ。ブロードキャストの方こそ、中の大事な部品がやられたとか聞いたが」

どこかぎこちない歩みのまま、ハウンドはブロードキャストと中央の通信設備を挟んで反対側に座った。

 

「替えがきかない内部電装が故障してるんだ。暴走した例の彼のせいでね」

少し言いにくそうに、ブロードキャストがそう応えた。

 

「…仕事に支障は?」

少し相手を慮るような顔をしてから、ハウンドは事務的に訊いた。

 

「ない、とは言えない。さっきの通信が開きっぱなしになっていた原因もこれなんじゃないかと思うね…それにカセットボット達の声がうまく聞こえないんだ、その上変形中は通信装置が動作しなくなった。まぁそのうち原型機(サウンドウェーブ)に提供してもらうさ…こっちには今彼の大事な部下がいるし、希望はある」

 

「そうか。あのラットバットも今は檻の中なんだったな」

伝え聞いたことを思い出した様子でハウンドは気味良さげに言った。

 

「それで彼の尋問をしてもらう時に話のネタでもないかと探していたら…自然と過去の事件記録に辿り着いたんだ」

ブロードキャストはボタンとパネルを操作し、事件記録や独房の映像などを一斉に映し出した。

 

「サンストリーカーが羽をもいだとかで、随分大人しくしてるらしいな」

正面の球状のスクリーンに投影されたラットバットの写真を見つめ、神妙な顔でハウンドが言った。

 

「…最近、彼をこれまで優れた兵士たらしめていた攻撃性が過剰かつ不安定なものになりつつあるように思える。オプティマスも手の付けようがないとこぼしていたよ」

そう言いながら、ブロードキャストはサンストリーカーがグリムロックの房に行き会話をしていた際の映像とその様子を思い出していた。

 

「今はあいつ銃を持ってないと手が震えるようになってるってな、サイバトロン星じゃ珍しくもない症状だったが。まぁ今はどうしてやることも出来ん」

諦観するように小さくそう言い、ハウンドは虚空を見つめた。

 

「それについては…まだ二人残っている兄弟達に任せるしかないだろう。撃たれたサイドスワイプも先程意識を取り戻したようだし」

ブロードキャストはそう言いながら、表示を切り替えて別の作業を開始した。

 

「昔は五人ぐらいいたのにな。俺も最後にアウトバックの顔を見たのは千年も前だったか…無論あいつはただの同型機ってだけだが」

ハウンドは面倒そうに懐からエネルゴンスティックを取り出し、咥えながらそうこぼした。

 

「同型機と兄弟機は違うのか?私にはそうしたものがないから感覚がよく分からないんだ」

完全にくつろぐ気でいるハウンドに、ブロードキャストは慣れた様子で振り返りそう尋ねた。

 

「アイアンハイドとラチェットやオプティマスとウルトラマグナスがそうでないところを見るに…同型かつある程度近い車種をスキャンした奴同士である種の契りを交わした状態を慣習的に兄弟機って呼ぶってだけのことだろうな」

そう言いつつ、ハウンドは胸のポーチ類を手探った。

「…ところで火ないか?ダウンシフトの件以降基地での武器やらの管理が厳しくなってるだろ?隠し持ってるとすぐバレるし」

ハウンドはブロードキャストに近づきながら、そう言った。

 

「大昔の連中の真似じゃないよね、まさかそれ」

ブロードキャストはいささか引き気味にそう言って、スティックを噛みかけのハウンドの暇そうにだらけた顔を見た。

「以前君が実包を燻らせてるのを見た時に比べれば驚きもしないが…」

そこまで言いかけると、思い出したようにブロードキャストは胸のパネルを開きその内部機構を露わにした。

「あぁ、これでいいかな?最近胸部を開けるとスパークやオイルが漏れ出したりしてしょっちゅう火花が散るしたまに燃えるんだ」

その言葉通りに、損傷した胸部はあちこちから火花が溢れ出す有様だった。

 

「助かるが…それは直した方がいいな。寿命にゃまだ早いだろう」

そう言いながらハウンドは火花に向けて手を伸ばし、持ったスティックに不器用に着火させた。

 

「そうでもないさ。私の命は燃えさしのようなものだよ」

作り笑いを浮かべてそう言い、ブロードキャストは穴の空いた胸をそっと閉じた。

 

「所詮代用品だな」

「…ところでお前の場合、サウンドウェーブは同型じゃないのか?」

吸ったスティックを味わうようにしみじみとした調子で言ってから、ハウンドは話題を変えてそう訊いた。

 

「いや…私は彼に似せて作られただけの紛い物だよ?機能だけを求められた模倣品。そう、それこそ君が今吸ってるのと同じ代用品さ。コピー商品なんだよ」

彼の最初の言葉に動揺したのか、ブロードキャストは慌ててそう応えた。

 

「卑屈だな」

紫煙を吹きかけ、ハウンドは彼の機微をじっと観察するように見ながら言った。

 

「もっとも、能力なら私の方が遥かに上だが…なんてね」

無理やりにブロードキャストはそうポーズをとり、言いきる前に咳込みながら力なく笑った。

 

「その調子だ。いつも通りの自信たっぷりなお前を見てると妙に安心する」

ハウンドは不味そうな顔をしながらもスティックを離さず、しんみりとした調子でブロードキャストを指さした。

「カセットボット達もいいボスを持てて幸せだろうさ。邪魔したな、長居する気はなかったんだが…あぁそうだ近くの庭園に出かけるって伝えといてくれるか?それが用事だったんだ」

立ち上がりざまにそう告げ、ハウンドは踵を返した。

 

「いや待ってくれ、君は今変形できないだろう。歩いて外出する気なのか?」

ブロードキャストはハウンド自身がそのことに思い至るよりも早くそう制止した。

 

「あぁ…確かにそうだったな!そうか、となると意外に不便だな。でも最近は植物に囲まれてるとなんだか妙に落ち着くんだ。エネルゴンや火薬の臭いよりは健康的だし…」

「よし、じゃちょっと使えるコグがないか探してくる。こいつの味は褒められたもんじゃないが、たまには代用品も悪くないもんだな…」

ハウンドはそう言い置き、煙をたなびかせて飄々と去っていった。

 

「あぁ、健闘を祈るよ」

彼が司令室を出ていった後、ブロードキャストはそうつぶやいた。

「…にしてもこんな僕がいいボスか。そんなんじゃないよハウンド、君はいつも面白いことを言うね」

また不意に通信を開いていないかと確認してから、彼は堪えきれなくなったかのようにそう言葉を溢れさせた。

「…本当に」

ドーム状の空間には残響のような弱音が吐かれたが、畢竟彼自身の他にそれを聞くものはいない。

 

A

 

「スカイファイア。彼女の復元は?」

オプティマスは足早に作業場に訪れるとまず、スカイファイアを見上げてそう訊いた。

 

「概ね順調かと。現状、ポッドの中身を組み込んだ基礎フレームの適合性に若干の不安は残りますが」

スカイファイアはひどく窮屈そうにしながらも、それを顔に出すことなく淡々としていた。

 

「意識は?」

オプティマスはタンクを見つめ、青とも緑ともつかない液体が充満された器に歩み寄った。

 

「流石に彼女ですからね、回復も早いですよ」

オプティマスと再生タンクの両方をじろと見下ろし、スカイファイアは快活にそう答えた。

 

「………誰だ、お前達?」

艷やかながらも芯の通った冷たい声が、タンクの中から鋭く響いた。声を発したそれは青く丸い瞳を大きく見開き、首と眼の可動域を試すように忙しなくあちこちを見た。

 

「オプティマスです、クイックシャドウ」

どこか嬉しそうな様子でそう言いながらも、オプティマスの声色は力ないものだった。

 

「…誰かと思えばサンダークラッシュとコデクサが可愛がっていた幼体か」

寝起きのような胡乱な調子でその声は響き、クイックシャドウは視界が明瞭になるにつれて意識を緩やかに覚醒させていった。

「パックスとか言ったな。しかし目が覚めるやいなや手足もなしにタンクの中というのは_」

「待て…これは本当に私の体か?まるで形が違うが。それより、どこなんだここは」

怪訝そうに、しかし慌てた様子もなくクイックシャドウは整然とそう訊いた。

 

「その…クイックシャドウ」

オプティマスは不安そうに、あるいは慮るようにそう名を呼んだ。

 

「何か?」

つぶらな瞳を機械的に動かしてオプティマスを見下ろし、クイックシャドウはごく短くそう返した。

 

「まず最初に念のため、お尋ねしたいことが…」

オプティマスは捕食者に威嚇された小動物のような慎み深さをもってそう発言し、ゆっくりと眼を合わせた。

「今現在の日時を言っていただいても?」

 

「3rdサイクル:3531」

クイックシャドウはその問いに対し、怪訝そうな顔をしながらもごく自然に答えた。

 

「…失礼しました」

予期していなかった返答にオプティマスは一瞬絶句し、うろたえたようにそう返した。 

 

「私の質問は無視か?」

尊大な態度でそう問い、クイックシャドウはオプティマスを睨めつけた。

 

「お気づきかとは思いますが、ここはサイバトロンではありません。いずれ事情はお話しますが、とても信じてはもらえますまい…失礼、すぐ戻ります」

オプティマスはそう言いながらスカイファイアに目で合図をした。

「スカイファイア、どういうことか訊きたいのだが…何が起こっている?」

二人は足早にリペアルームの方に移動し、オプティマスは不思議そうに小声で切り出した。

 

「時間に関する記憶が正確でなく…あるタイミング以降の記憶が欠落しているようですね」

そう応じた彼の口調は想定外の事態に対する不安さよりも未知の現象への好奇心の色が強く、それは彼がその鉄面皮に浮かべていた表情についても同様だった。

 

「それがいつ頃だったか分かるか?」

 

「恐らくはコデクサ女史が星と一体化した少し後でしょうか」

 

「それが起きたのは彼女がポッドに入るよりも遥か昔のはずだ。あの場に立ち会った私が言うのだ…間違いない」

少し言いにくそうにして、オプティマスは顔を伏せた。

 

「私はフィクシットではないので精神的な問題は分かりかねますが、彼女の中でその一件が大きなものだったことは想像に難くありません」

 

「クイックシャドウがステイシスポッドに入るまでの経緯は分かるか」

 

「当時私はまだディセプティコンのジェットファイアでした」

スカイファイアは更に屈んでそう言い、申し訳なさそうに小さく微笑んだ。

 

「あぁ…そうだったな。君がよく働いてくれるあまり、時折忘れそうになる」

オプティマスは呆気にとられてスカイファイアの顔を見上げ、嘆息しながらそう早口に応えた。

 

「もったいないお言葉です。恐らくラチェットなら事情を知っているものかと…」

スカイファイアがそう言いかけると、二人は揃ってラチェットの方を見た。

 

「えぇまぁ一応は。まず最初に、コデクサが星と一体化した前後の彼女の医療記録は…記憶している限りだと_」

ラチェットはサイドスワイプの処置を中断し、端末を操作しながら億劫そうに答えた。

「…オートトルーパーの件です。あれが彼女のクローン兵だったことは無論ご存じでしょう」

 

「知っているとも。確か今回彼女のスパークを入れるボディとして適合できたというのもそれが理由だそうだな…だからこそ私も君の案を承認し、我々の以前下した決定を覆してまで彼女を復元させる許可を出したのだスカイファイア」

不機嫌そうに低く唸るような声色でそこまで言い終え、オプティマスは怒気を顔に滲ませた。

「…話を遮って悪かった。オートトルーパーが最初に実戦投入されたのはさらに数百サイクルは後だったはずだが?」

 

「彼女のCNAサンプルの採取とクローン第一号の製造がちょうどその時期なんです」

最後まで言い終える前に、少し食い気味になりながらラチェットは続けた。

「もっとも作業そのものはアークタスやクォークら科学局がやっていたので、細かい内容までは知りませんが…彼女のスパークはその時のことを覚えているのでしょう。恐らくはその際に何らかの侵襲的な措置があったものと思われます…同意の上であったにしろ」

苦い顔をして言いにくそうにしながら、ラチェットは思い出していた。

 

「禁忌とまで言われたあのスパークを自己複製させる例の処置だろうか…?しかしならなぜそれが今になって…ラチェット、彼女がステイシスポッドに入ることになった原因は_」

 

「ケイオン近郊の墓地領域でのコロッサス部隊との戦闘だったはずだ。やはり君がまだディセプティコンだった頃だな」

「確かその時の損傷は…無数の銃創と胸部のカギ爪の跡、更に実剣で頭部を真後ろから穿たれ、抉られた」

 

「となると…デッドロックだね」

スカイファイアはラチェットが最後まで言い切るより前にそう確信し、気の毒そうな表情で言った。

 

「あぁ。その際のブレインモジュールの損傷がより彼女の状況を悪化させたのだろう」

ラチェットはスカイファイアを見上げてそう言うと、オプティマスに向き直った。

「スパークとブレインモジュールの傷によりそれらとリンクしているトランスフォームコグも機能不全に陥っています。今の彼女は手足を取り付けたとしても変形は_」

 

「…戦力にならないって?」

扉の開け放たれた音とともに、強引に入室したホットスポットが低く唸るように会話に割り込んだ。

手をかけた入り口の壁に指をめり込ませ、地響きとともに床を踏み潰しながら彼は音を立てて三人に近づいた。

 

「ホットスポット…もう歩き回れるまで回復したのか」

部下の勢いに気圧されながら、オプティマスは彼の顔を驚いた表情で見つめていた。

 

「えぇ、ラチェット達のおかげですよ。俺にも彼女と話をさせてくださいオプティマス」

ホットスポットはその背丈のせいでオプティマスを見下ろしそうになりながら強く頼んだ。

 

「しかし…」

 

「彼女の能力がまだ機能するのかを確かめたいのです。それに今は武器も持てずに暇ですしね」

「…頼みます」

ホットスポットの懇願を受けたオプティマスは観念し、彼を連れて作業場へと戻った。

 

「パックス、この青いのは誰だ?お前の身代わりか?」

 

「彼はホットスポット、頼りになる私の部下です」

 

「ホットゾーンやディフェンサーと呼んでいただいても構いませんよ。あなたと同じように、俺にも多くの名前があるのです」

彼女の冷徹な眼差しにも物怖じせず、ホットスポットは前に歩み出ながらそう名乗った。

「…覚えておいでではないのでしょうが、俺は以前あなたの部隊の一員だったこともあります。話があって来ました」

 

「誰だか知らんが不思議なことを言う、面白い冗談だな」

興味深そうに首を傾げ、クイックシャドウは眼前の相手を慎重に値踏みした。

 

「えぇ、では少しだけついでの与太話に付き合ってもらいましょう」

にこりともせずにホットスポットはすぐさまそう返答し、彼女が反応を見せる前に続けた。

「あなたが長い眠りについていた間…その間に我々の多くは、あなたの兄弟達…オートトルーパーに何度も命を助けられた。本物に勝るとも劣らない優れた働きでした」

 

「…」

不思議そうな、あるいは困惑しているような表情をその端正な顔に浮かべながらクイックシャドウは沈黙していた。

 

「第一世代型はあなた譲りの柔軟な思考と対応力に警備ドロイドの即応性が合わさった傑作だった。彼らのおかげで戦わずに済んだ者もいれば、命を救われた者もいました。きっと、それがあなたがクローニング元に立候補した理由だったんでしょう」

 

「ふっ…何だなんだ突然、よその星との間に戦争でも起きたか?」

堪えきれなくなったように笑いだし、クイックシャドウはおどけてそう言った。

 

「戦争は起きました。あなたの予見通りに…」

彼女の反応に驚いたのかしばしの沈黙を挟み、ホットスポットは語りだした。

「しかしもたらされた被害は我々の想像を遥かに超えるものでした。サイバトロンはもう死の星です。私も、友も、あなたも、オートトルーパー達も、皆がみな懸命に戦いました」

そこまで言うと、ホットスポットは絞り出すような声色でつぶやいた。

「だが結局、何も残らなかった」

 

「…それで、お前達は負けたのか?」

ホットスポットの真剣な返答を聞いて、クイックシャドウは平静に戻ってそう問うた。

 

「少なくとも勝ってはいません。ある意味では、まだ終わってさえいません……ギアーズじゃなくても、戦いの後に残ったのは敗者だけだと言うことでしょう」

 

「サイバトロニアンの敵は、同じサイバトロニアンでした。私達は星を二分した内戦を繰り広げ、同族で殺しあったのです…私は一方の勢力を率いたリーダーでした。授けられたプライムの称号に報いるべく死力を尽くして戦いましたが、結局は敗れ、母星どころか仲間さえ守れず置き去りにして、この辺鄙な星に逃げ延びてきたのです」

オプティマスがホットスポットの横に並び、補足するようにそう説明した。

 

「愚かしいことを…お前のような若造に背負わせる業でもあるまいて。信じがたい話だが、アイアコンの連中もよほど指導者に困っていたとみえる」

どこか遠い目をして、クイックシャドウは哀れむようにそう言った。

 

「いえ、彼は私達の知る最も優れたリーダーでした。その所業はゼータプライムもセンチネルもなし得なかったことです」

ホットスポットは彼女に近づいてそう力説した。

「…クイックシャドウ、覚えておいでか分かりませんがサイバトロニアンの女性型には皆イレギュラーとしての能力がありました。あなたのそれは触れた物の記憶を読み取る力です」

「私の頭に触れてください。私はこれまで戦いの全てを誰よりも近くで見てきました」

更に一歩進み、クイックシャドウのタンクに頭突きをする勢いでそう語りかけた。

 

「確かに私にはそれを知る権利が…義務があるのやもしれん。それに思考に靄がかかったままなのも癪だし、気になることもある。だが…手足もないのにものに触れろというのか?」

思案しながら頭を巡らせ、クイックシャドウはホットスポットを見下ろして訊いた。

 

「ラチェット、タンクを空にして開けてもらえないか」

懇願というより脅しのような気迫をもって、彼はそう頼んだ。

 

「まぁいいだろう。当てがあるらしいしな」

ラチェットの操作によって内部に充填されていた青とも緑ともつかない液体は抜かれ、タンクは左右に分かれるようにして解体された。

クイックシャドウは液体ごと放り出され、手足のない体が床に転がった。

 

「額を合わせて…今からあなたに数キロサイクル分の地獄をお見せすることになります、心してください」

ホットスポットはずぶ濡れで胴体のみのクイックシャドウを優しく拾い上げ、自身の頭部に近づけた。

 

「さっさとやれ」

 

「では…」

ホットスポットの額がクイックシャドウのそれと触れ合い、しばらく時間が止まったかのような静寂が広がった。

周囲が息を呑んで見守る中、ホットスポットは目を見開いてこれまでの記憶を思い出していた。

クイックシャドウは目を閉じ、受信に専念していた。

しかしやがて彼女の体は恐怖と絶望に震え、口からは徐々に悲鳴や苦痛の叫びが漏れだし、ホットスポットは途中でそっと頭を離した。

 

胴体を大きな両手で抱えられたまま、クイックシャドウは力なくうなだれる。

「少しづつ…思い出した。惨いな、本当に…無知のままでいたという一点で、私はほんの数クリック前の自分がひどく羨ましいよ」

彼女は言葉を続けようとしたが何も言えず、その目元を雫が伝った。

 

「クイックシャドウ…」

オプティマスはただ名を呼ぶことしか出来なかった。

 

「オプティマス。もし今、私に手と足が付いていたらお前の眼が飛び出るまでその顔を叩き潰してやるところだ…!」

名を呼ばれた方を振り返り、クイックシャドウは抑え込んだ想いを溢れ出させるように厳然と恨み言を放った。

 

「あなたの四肢の用意はもうじき済みます。それと彼もあなたに殴られる覚悟は既にあるようですので、これより"再建"の最終プロセスを開始しましょう」

箱を抱えたスカイファイアは二人の様子を見て愉快そうに言い、中に入っていた四肢の部品の山を彼女に見せた。

 

A

 

スパーク達の再生はスカイファイアの協力もあってようやく形になりつつある

作業場にいたパーセプターはノイズのような声で機械的に発言した。

負傷の結果として新調されたゴーグル状の右眼からも、以前と変わりない左眼からも生気は感じ取れない。

 

「トレイルブレイカーやビーチコンバー、それにグリフのためにも私は自分の出来ることをこれからも全力でやるよ」

 

トレイルブレイカーといえばあのD.O.Cとやらにはフォースフィールドが搭載されていた報告がある

 

「あぁ、その方法については…企業秘密という訳にはいかないかな?いや冗談さ、そんな顔で睨まないでくれたまえ。あれは私の古巣(ディセプティコン)での、イレギュラー能力をコピーして保存する研究の賜物さ。D.O.C自体、元は惑星の原住民を死滅させる兵器を作れという注文をされて出来たものなんだが、実はあれでもフルスペックとは程遠いんだ」

 

大した才能だアークを追って来れたのにも不思議はない

 

「才能ではなく運のおかげ。私はただ単にヘキサティコンを追ってきただけ…というごまかしが君に通るはずもないか」

「実を言うとプロールの施したある細工のおかげで大まかな航路と現在の位置はサイバトロン側でもキャッチ出来てはいたんだ」

 

志願したクルーの一人をアークのスパーク波長と連動した特大の発信機に作り変えたのはパーセプターだ

 

「だが君達が消息を絶っても我々はすぐに追いつくことが出来なかったのさ。そうしてこっちの時間で言うところの…だいたい二百年が過ぎた頃、私は周りの反対を押し切って一人で星を飛び立った」

 

長い寄り道をしたらしい

 

「そんな状態になっても相変わらず嫌味は言えるんだね。恐らく君達は偶然ワームホールに巻き込まれたことで地球に辿り着いたんだろう?途中で航跡が途絶えていて苦労したんだ。もっとも…ちょっとだけ、寄り道もしたがね」

にこやかな表情を崩さずに、スカイファイアはパーセプターを見下ろしてそう答えた。

「それでも希望はあった。今はオートボットであり、かつてはディセプティコンでもあった私にはアークとネメシス両方の痕跡を拾うことが出来たんだ…まぁそれでも手探り状態ではあったんだが」

 

そこでヘキサティコンの艦と遭遇した

 

「レヴィアサンが今は連中の艦なのは知っていたし、オーバーロードの性格的にもこの星系にいるなら呼んだのはメガトロンで間違いないと思ったから迷わず後を追った。これについては本当に偶然だったよ、これがなければさらに後二世紀は遅れて来ていただろう」

 

そうなれば我々は原住民ごと滅ぼされて地球もディセプティコンの星になっていただろう現状もそうなりつつあるが

 

「問題はそこだ。では思い出話はここまでにするとして…さて今の我々に足りないのは兵士の頭数というよりも作戦地域へ展開する機動力だろう。私も力になれなくはないが、根本的な解決にはなりにくい」

 

パーセプターもかねてより同じことを考えていた

 

「…君のその喋り方、やはり気になるな。何が君をそんなにさせてしまったのか、それを…教えてはもらえないかな?私は今話せることを全て話したのだが?」 

スカイファイアは見かねたようにそう訊いた。

 

その会話の内容を他の者に聞かせる必要がある

 

「わざわざ言わなくても、どこかでブロードキャストが聞いていると思うよ。プロールやオプティマスには既に概ね同じ内容を話してある。もしブロードキャストが聞いていなくともレッドアラートの"耳"には入ると思うが…あぁ、だから答えたくないのかね?」

片眉を跳ね上げるような顔をして、スカイファイアはからかうように訊いた。

 

ダウンシフトという名を聞いたことはあるか

不機嫌そうな低い声音で、パーセプターは短く言った。

 

「ないね」

 

そっけないスカイファイアの反応を見ると、パーセプターは気が変わったのか口を止めてデータパッドを開いた。

このパッドの中には彼の遺した2443ページの資料がある

確認すべきはまずこのぺージ17だ

 

「私としては質問に答えてもらえると嬉しいのだが…まぁ、察するにあまり触れられたくない話のようだね」

苦笑混じりにそう応じ、スカイファイアは渡されたパッドを指で潰してしまわないよう慎重に受け取った。

「このパッドは私が見るには小さいな。スペースブリッジの基礎理論式のように見えるが…」

不便そうに大きな指で操作し、苦難の末に彼はページ17にたどり着くことができた。

そこには機械的ながら雑な筆致で長い式がいくつも書き連ねられていた。

 

そこまでは読み解けたがパーセプターの専門外な上に用いられている記号の34.7%は意味を読み取れていない

パーセプターは顔色一つ変えず、しかし悔しげに聞こえる声色でそう言った。

 

「この星の自転周期や重力、質量…そして大気などの気象条件に合わせたものになっているらしい。単位や体系など根底から全く異なる文明同士の科学式を強引に繋ぎ合わせたかのように型破りだが…なんと美しい」

興奮をどうにか抑えながら、スカイファイアは饒舌に語った。

 

つまりこれは"グランドブリッジ"の根幹を成す数式であると

 

「そうとも…しかしこいつは面白いな」

「こっちには疑似人格構成のプログラムか…これは使えそうだ。そうか、なるほど!パーセプター、アークにあるテレトランⅡに関しても相談なんだが…」

 

聞こう

彼はスカイファイアを見上げ、まじまじとその顔を眺めながら口早に言った。

 

「基地の管理専用にダウングレードしたものをこのベース217に置くというのはどうだろうか。この資料は貴重な示唆に富んだ宝の山さ。この際ホイストも巻き込んでしまおう」

幼体のように悪戯っぽく笑い、スカイファイアは愉快そうに言った。

「どうにも面白い趣向を思いついてしまったな…ホイルジャックにも話しておきたい」

 

非合理的な選択だ現在ホイルジャックが必要な状況ではない上に今やパーセプターの頭脳は彼の能力を凌駕している

 

「自惚れはよしたまえ。それが君の常とはいえ…度が過ぎるようなら私が直してあげようか、無論一度頭を破壊してからになってしまうが」

スカイファイアは当然のようにそう反応し、表情を変えずに平然と言い放った。

「君の思考速度が向上しているのはよく理解している。だから長生きしたければそろそろ少しは謙虚さというものを学んでくれ」

パーセプターの胸ほどもある顔をぐいと近づけ、スカイファイアは困ったような顔をしながらそう通告した。

 

客観的事実に対してのその反応は非論理的かつ不可解な感傷と評価できる

恫喝に全く動じず、パーセプターは無表情でそう言い返した。

 

「あぁ、感情的になってしまってすまない…昔の君への愚痴まで今の君に言っても仕方がないな。私は物も文句も溜め込んでしまう性分でね」

スカイファイアは我に返ったようにそう謝罪し、顔を手で覆いながら慌ててそう付け足した。

 

ホイルジャックは先週からC-Xの実機調整のため秘匿されたラボに常駐している

 

「彼も今は忙しいのだったか?悪かった、君が正しい。彼には後で話すとするよ…秘密の研究所では通信も届かないだろうしね」

大仰な動作でそう詫びながら、スカイファイアはある言葉に興味を示した。

「ところでC-Xというのは…」

 

簡潔に表現すると人工のロボット兵士であり変形こそしないが完成すればプライムと遜色ない戦闘能力を発揮できる

パーセプターはスカイファイアからデータパッドを取り上げて別のタブを開きページを進め、彼にある画像を見せつけた。

 

「…なるほど、これはホイルジャックがかかりきりになる訳だ」

そこに映されていたのは人工のオプティマスプライムとも言うべき紫色のロボット達の列だった。

生存してほしいキャラ

  • オプティマスプライム
  • アイアンハイド
  • プロール
  • ブロードキャスト
  • ホイルジャック
  • パーセプター
  • ラチェット
  • ギアーズ
  • ホイスト
  • サイドスワイプ
  • サンストリーカー
  • レッドアラート
  • ウィンドチャージャー
  • クリフジャンパー
  • グリムロック
  • ホットスポット
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