トランスフォーマー:Alternation of Cybertron 作:pova
地球_ベース217_2027年_12月15日_
ハウンドは横倒しに積まれたドラム缶の上に座り、眼下の兵士達を眺めながらふと訊いた。
「有機生命体と俺達の明確な違いを一つに絞るとして、お前なら何にする?」
「不死身かどうか」
同じく基地の一角でくつろいでいたクリフジャンパーが、寝返りながら投げやりにそう応えた。
「死なないのはお前と他に何人かだけだろ。頑丈で長寿って話ならともかく」
赤く丸まった彼を蹴飛ばして、サンストリーカーはつまらなそうに言った。
「ならお前は?」
ハウンドは真新しいパイプを燻らせながら、サンストリーカーを見やって尋ねた。
「エネルギーの摂取方式だな。人間どもはエネルゴンを補給する俺達を見て"車が自分で給油するようなものだ"と言っていたよ。笑わせる…連中のちっぽけな認識の枠に当てはめればそうもなるんだろうが」
サンストリーカーは、談笑する兵士達を物憂げに見下ろした。
「人間らは一日に三回も燃料の補給が必要らしいが…回数も種類も、俺らの数万倍だろうさ。しかも見ろよ…大抵はどっかの獣でできてんだぜありゃ」
人型に戻ったクリフは覗き込むようにして眼を凝らし、彼らが口にしているものを気味悪げに観察していた。
「他の命を殺して糧にしてるって点じゃ俺達も大して変わらん。サイバトロンじゃ敵味方の死骸からエネルゴンを抜き出して啜ってたしな」
ハウンドは昔を思い出すように小さくそう言い、口から昇らせた煙を眼で追った。
「たまにハズレのスパーク持ってた奴のを吸っちまって痙攣しながら地面に転がってるのがいたよな。んでそいつが次の餌になって被害が拡大してくあれだ」
ハウンドの口から吐かれた紫煙を目で追いながら、クリフは呆けたような顔でそうつぶやいた。
「そんなこともあったな、今にしてみると懐かしくさえ思える。しかし以前から不思議だったんだがサイバトロンの食事…いや、そんな風情のある呼び方も似合わないか。"補給"は平和な星のそれと違って娯楽的な要素はまるでないのはなぜだろうな?戦争前だったらどうだか知らんが」
「戦前のタイプも…黄金期に生きてた連中でさえ基本構造は俺達とそう違わないはずだろう」
ハウンドの言葉にすかさずサンストリーカーはそう反応した。
「俺達のご先祖どもにそんな高度な"食事"がもし出来たとして、それらを楽しめるだけの発達した味覚や嗅覚…そしてそれらを受け入れて処理するだけのキャパシティが、機械の体にあるはずがない」
諦観や嘲笑の滲む声色でそう言い、サンストリーカーは苦い顔をした。
「なーんだお前羨ましいのか?人間が」
俯く彼の様子を横目に、クリフジャンパーは興味なさげに訊いた。
「そう聞こえたか?」
「まぁな」
「違う。これはただの嫉妬だ」
「じゃあ違わないだろ」
みるみる躍起になっていくサンストリーカーに対して、クリフは平静のまま淡々と反駁した。
「…あんな連中がなんで俺が欲しい物の全てを持ってる?平和で色鮮やかな世界に住み、兄弟も友人もいて…その上、安心して眠ることさえ出来る」
サンストリーカーはここではないどこかに羨望の視線を向けながら、不服そうにこぼして苛立った。
「昔のお前も持ってたもんだろうが。自分でそれ全部捨てといて言うもんじゃねーよ」
クリフは呆れるように嘆息し、その言葉を聞いたサンストリーカーは拳を握りながら立ち上がって彼に近づいた。
「言ってやるな。八つ当たりの一つや二つ、かましたくもなるだろうさ」
ハウンドは諌めるように慌ててそう告げながら、クリフに殴りかかろうとしたサンストリーカーを片手間に抑えつけた。
二人の取っ組み合いをなんとも言えない顔で眺めながら、クリフジャンパーは揉み合っている持ち主の手を離れて転がってきたハウンドのパイプを拾い上げた。
「ま俺としちゃ、今でも十分満足してるし別にお前の感傷にも大した興味はないんだけどなサンストリーカー…味も匂いもしなくたってこの星じゃ退屈しねぇしよ」
手にしたパイプを口に含みながら、クリフはまずそうな顔をして寝転んだ。
「味はどうだクリフ?そいつはそうそう味わう機会のないとっておきなんだが_」
クリフの言葉で激昂したサンストリーカーを容易く押さえつけながら、ハウンドはそう尋ねた。
「不味いし痛いし痺れるし焼けた回路の臭いがする。まるで拷問器具だぞ、劣化してるんじゃないのかこれ?」
咳き込むような仕草をしながら、クリフは息苦しそうに言った。
「そいつは灰のような味気なさと飢餓感、吸油ポンプを裁断機にかけられたような痛み、そしてインテークに走る電撃のような痺れ、ブレインが焼き切れた香りが特徴のフレーバーだ。それが本来の味だし、お前の感覚器も正常だ」
「エンジェックスやシーガー、サーキットブースターもそうだったが…サイバトロニアンの嗜好品は単に酩酊か痛みを引き起こすだけのものしか存在しない。当然だな」
造作もなくハウンドにひねられたサンストリーカーは倒れ込みながらそう言い、パイプに咳き込むクリフを冷ややかに見つめていた。
「そういう意味じゃグラディエーターの闇試合が流行ったのも根っこは同じかもな。あそこは痛みに酔う場所だった…サンストリーカーが良く知ってる」
クリフは寝っ転がってつまらなそうにパイプを吹かした。
「…忘れたさ」
右腕が逆方向に曲がった状態で座り込みながら、サンストリーカーは無愛想に返事をした。
「味覚も嗅覚も反応として検知するなら俺達でも出来る。でも結局それは、"口にしたものや周囲の状況が危険や異常なものでないか"という…個体が生存するための事象の区別や判定以上の機能を持たない」
気を逸らすようにそう口にしながら、彼は無理やりに腕を戻そうとする。関節の軋む音が広がり、サンストリーカーも少し顔を歪めた。
「…そして俺達の種は無味無臭の生活の中で、痛みと陶酔感に縋った訳だ。他の文明に比べて視覚を楽しませる娯楽が多かったのも理由は同じかもな…別に俺が壁画家だったから言う訳じゃないが」
「視覚ねぇ…そういやハウンドはヘリックスの庭園に入り浸ってたらしいな。俺達が新兵の頃よく噂になってた」
クリフは燃え尽きたパイプを雑に投げ返しながら、ハウンドにそう尋ねた。
「ボタニカの花園のことか…あそこはよその星から来た難民の受け入れ先でもあった。今思うとなんとも薄気味悪いし臭い場所だったが、当時の俺にとっては一番の楽しみだった。よその星から来た友人もいたしな」
そう言ってハウンドはパイプを器用に片手で受け取ると、胸にぶら下げたポーチ類に手際よくそれをしまった。
「一番?銃を撃つことよりもか?」
「…あれはその必要があるからやってるだけだ。そういう意味じゃ俺だってこの星の連中が妬ましいな。大半の人間達はトリガーの感触も火薬の臭いも知らずに豊かな自然を享受している」
口を挟んだクリフにハウンドは気だるげな顔でそう答えた。
「そんな連中の巣窟でも、俺はこの星の風景が好きだ。もしサイバトロンに帰る算段がついてもここに残るかもな。地球を守り、この星の自然の中にその一部として生きるために」
「…今まであぁいう手合いと組んでロクな結果にゃならなかったろ。ネビュロン人よか話せる奴らだけど、その価値があるのかどうか」
クリフは冷めた口調でそう言い、かつてのネビュロン星でのことを思い出していた。
「それは俺達次第でもある。ともかく、オートボットとしては受けた恩は返すべきだろう…オプティマスならそう言うだろうし、俺もその気だ」
ハウンドは諭すように、クリフに向けてそう言った。
「事実として、連中の支援抜きじゃ野垂れ死んでたってのは理解できるし感謝の念もなくはないんだがな…それでも受け入れがたいものがある」
サンストリーカーはハウンドに同意しつつも、浮かない顔をしてそう続けた。
「…そういやさぁ、あいつらみたいな有機体をエネルゴンに変換する技術があったよな」
クリフは兵士達を見下ろし、以前別の星で見た凄惨な光景を連想した。
「唐突だな。ピンクアルケミーのことか?効率の悪さで有名だが技術としては完成されてるものだ、お前が最近気に入ってるとかぬかしてた"クリフ君専用ドリンク"の正体もそれだ。あの一杯はこの基地から出た生ゴミと地上に生えてた草木から出来てる」
サンストリーカーは倒れたままクリフを見上げ、そう言って笑う。
「許せねぇな、どこのどいつだ!そんなふざけたアイデア出しやがったのは」
クリフはしばし呆気にとられ、次に瞬間的に顔を真っ赤にするとサンストリーカーの方を振り返って訊いた。
「お前だけは何入れても動くから実験台にちょうどいいって、プロールが」
そっけなく言いながら、サンストリーカーはゆらりと立ち上がった。
「あいつ…戻ってきたら殺す」
引きつった笑みを浮かべて、クリフは静かにそう言った。
「プロールといえば…」
人間のあくびを真似て大きく吸気する動作をしながら、ハウンドは思い出したかのように切り出した。
「何だよ?」
「この前試しに射撃訓練装置のランキングを見てみたら、一位があいつだったんだよな」
胸のポーチの一つからプロールの認識票を取り出し、見つめながらハウンドは続けた。
「別に意外でもないな…腕前をこの眼で見た身としては。あいつの銃を使ってみて分かったんだが、あれに内蔵されてた弾は一発ごとにそれぞれ異なる特殊弾頭だったんだ。つまりあいつはどの弾をどの順番で撃つかを全て出撃前に決めた上で戦っていたことになる」
サンストリーカーは懐かしむような小馬鹿にするような口調で言った。
「そらぁ大したもんだな。特に状況がプラン通りに進んでる時のことしか考えてないってとこが流石参謀殿だ」
クリフは特に驚いたふうもなく言い、小さく笑った。
「案外、あの自白も劇的なワープもあいつのプラン通りだったりしてな」
ハウンドはプロールの名とIDがサイバトロン語で刻まれた認識票をかざして小さく言った。
表面に染みつき、こびりついた紫の液体の跡が光を反射し、彼は眼を細める。
「一連の流れが奴の予測のうちだった可能性はある。最後に残った結果以外はな」
サンストリーカーは考え込むように顎部に左手を添え、そう告げた。
「あいつの上半分は今頃どこで何してんのかねぇ」
クリフはグランドブリッジから弾き出されたプロールの、引きちぎられて紫に染まった下半身を思い出して言った。
「…それで、結局プロールは見つかったのかね?」
グランドブリッジの調整をしていたスカイファイアに、ホイルジャックは後ろからそう問うた。
「下半分とペット以外は影も形もありませんでした。それよりホイルジャック、C-Xの武装仕様を拝見しましたがそれについて幾つか意見してもよろしいでしょうか?」
ホイルジャックの質問に簡潔に答えると、スカイファイアは手を止めた。
「忙しいのじゃないか?私がオプティマスなら小言の一つも言っているところだろう。今は他に注力してほしいことがあると」
「おっしゃる通り、それはそれは多忙ですよ。ブロードキャストのパーツを手に入れるためにサウンドウェーブにラットバットの身柄を引き渡す算段をつけなくてはなりませんし、その機に乗じてネメシスを攻略する手を考えておく必要もあります。預かっているマトリクスの解析とデータパッドの解読もやらなければなりません。余計なことを考えて後ろ向きになる暇もなくていいですが、休む間もありませんね」
矢継ぎ早に言葉を発し、スカイファイアは神経質そうな面持ちでホイルジャックを見下ろした。
「こっちに来てから働き詰めにさせてすまない、本当に」
少し気圧されたような様子で言い、ホイルジャックは忙しなく側頭部を明滅させた。
「私は200年分のインスピレーションを形にする機会を得たのです。内心、舞い上がっていますよ」
スカイファイアはにこやかにそう言い、含みのある笑顔を見せた。
「ネメシスを落とすのに、お前さんはどういう手を考えている?この老いぼれに少し教えてはくれないか」
「内面はともかくとして製造年で言うなら私の方がずっと年寄りですよ、ホイルジャック。ではまずネメシスを陥落させるため、現状では私の体をオプティマスと合体させることを考えていますが…あぁご安心を」
合体のことを聞いた途端に険しくなったホイルジャックの表情を見て、スカイファイアは慌てて付け加えた。
「当然それはあくまで選択肢の一つとして、です。現状の最有力候補ではありますが…ガラスガス弾頭の開発も順調ですし、加えてパーセプターに大脳検知弾やセレブロシェルの製造を進めさせています。また最悪の場合には、保管しているモザイクウイルスやコズミックルストを使うことも考えてはいますが…」
「合体とは…まさか"ゲシュタルト"を作る気なのか?あの呪われたコンバイナー技術の結晶を」
ゆっくりと発言したホイルジャックの声色は驚きや怒りよりも困惑が強いものだった。
「あくまで私を分解したパーツを彼に合体させるだけです。意識の混濁が発生する可能性は否定できませんが、被験者が発狂するようなことには絶対になりませんよ」
忍耐強く言い聞かせるような口調で、スカイファイアはそう豪語した。
「それにガラスガスは人間達にとっても有害ではないのか?」
理知的に相手を問い詰めるように、ホイルジャックは質問を続けた。
「危険性はありますね。しかし彼我の戦力差を鑑みれば、有機生命体らの多少の犠牲はやむを得ないと考えます」
なんでもないような顔をして、スカイファイアは整然とそう言い放った。
「許容できん。スピッターやコンタギオンのようになるつもりか?あれの開発は凍結しろ。私を後悔させたくないのならな」
間違いを諭すように厳しくそう言い、ホイルジャックはスカイファイアの胸のインシグニアを指で叩いた。
「…ご、ご命令とあらば」
最後の一言に動揺したのか、スカイファイアの返答はぎこちないものになった。
「その上、大脳検知弾とセレブロシェルだと?危険過ぎる。お前さんはどんな対策を講じる気だ?」
ホイルジャックはスカイファイアと目線を合わせると、彼をゆっくりと問い詰めた。
「弾頭や機器の制御をオートボットIDと連動させることで、もしこれらの兵装がオートボットに対して使用された場合は即座に自壊し使用不能になります。つまり敵に奪われたとしても味方への被害を防ぐことが可能なのです」
たじろぎながらも、スカイファイアはデータパッドの概略図やプログラムを見せて理解を得ようとした。
「制御をサウンドウェーブに乗っ取られることは考慮したか?そして何よりお前さんはこれらの兵器が安全だとアイアンフィスト達に誓えるのだろうな?」
にわかに語気を荒げ、ホイルジャックは重々しく問うた。
「無論です」
すがるような眼差しを向けて、彼は決然と言った。
「どうもお前さんは未だにディセプティコン時代の気性が抜けきっとらんと見えるな」
ホイルジャックは目を逸らし、肩を落として言った。
「戦争が終われば、あるいは下卑た手に頼らずとも勝てるほどに我らが優勢であれば…それも変わるはずだと考えています」
小さく丸まって見えた背中に向けて、スカイファイアは悲痛な面持ちで告げた。
「だが今はそのために細菌兵器まで持ち出す気でいるのだろう?」
両手を後ろに組むと、ホイルジャックはちらと振り返って言った。
「ですから…最後の手段として、です。そろそろ私の方から最初のプランについてご説明させていただきましょう」
スカイファイアは彼を寂しげに見つめると、話を続けた。
「この案は私ではなくテレトラン1.5のメンバーセレクト機能が導き出したものなのですが…今はこの計画に沿って自分の体の改修を進めているところです。手足を分離させ自律稼働が可能なよう、内部構造の置き換えや固定兵装、ハードポイントの増設も行っています」
そう言いながら彼は自らの左腕を取り外そうとした。
「…ところでお前さんはかつてプリマクロンが説いた優れた科学者の条件を知っているかね?」
ホイルジャックは葛藤を滲ませた表情でスカイファイアの左腕に触れ、意を決したようにそう切り出した。
「自分を実験台にすることに躊躇のない者…でしたね。大昔に聞きましたよ、彼から直接。ショックウェーブやジアクサスの例を見るにそう的外れな論ではないとは思いますが…」
ホイルジャックの様子に戸惑いながら、スカイファイアは歯切れ悪く答えた。
「彼らは優秀だったが他者に犠牲を強いることにもいささかの躊躇はなかった。私がショックウェーブを追放したのもそれが理由だ」
「長くなりそうですね」
「思い出話さ。付き合ってくれんか?」
「構いませんよ。つまり彼の頭脳と才能をディセプティコンに明け渡してしまったのは…他でもないあなただったと」
懺悔のような口調のホイルジャックに対し、スカイファイアは平静を装って応じた。
「それを言われると返す言葉もないがね。そういう意味では今でも未練や後悔は残ったままだ」
うなだれたまま腕から手を離し、ホイルジャックは手近なコンテナに腰掛けた。
「あなたが悔いているのは彼がディセプティコンとしてあなた方オートボットにもたらした被害に関して…」
スカイファイアは常以上の観察眼と洞察力をもって、眼前の相手の真意を探った。
「いやあなたに限ってそれは考えにくい。理解者とその才能を失ったことの方が重要だったでしょう」
「確かにそうだった…だから私はかつて、一つの許されない実験に手を出した」
ホイルジャックは慟哭のようなノイズの入り混じった声で答えた。
スカイファイアは彼の表情と口ぶりから一つの確信を得た。
「独創的で型破りなあなたがそこまで忌避する所業となれば、マシンクローニングぐらいですか…そうか!思えば初めからオートトルーパーがそう簡単に何体も生み出せたはずはない。原型となる存在を生み出した実験がない方が不自然なんだ」
「私は何体ものショックウェーブを作った。元は彼のスパーク…エラー品でしかない"クリンカー"の代替品になるものを生み出せないかと始めたものだった」
納得したような面持ちのスカイファイアに対して、ホイルジャックは答えを絞り出すようにか細く言った。
「そしてあなたはいつしか一線を越えた…ディセプティコンの価値観をもって評してもなお、倫理に悖る行為と言って差し支えないでしょう」
スカイファイアは自らの言葉がホイルジャックを傷つけてしまう可能性と彼の行いに対して科学者としての評価を下すことの重要性を秤にかけ、そして後者を優先した。
「ニ千個の失敗作を経て、正常なスパークを二つだけ生み出すことが出来た…今やその片方はサイバトロンに、もう片方はこの地球に存在する」
「なるほどあの二人がそうでしたか。となれば納得できることも多い…しかしショックウェーブのCNAや諸々のデータはどうやって…」
「元々ショックウェーブは自身の本来の姿に興味を抱いていた。彼はあるべき自分へと変わるための研究を行っていた時期があった…その産物の転用だ」
「しかしそれ以上進められなかった原因は何です?あなたの中に残っていた良心が咎め…いや、それはなさそうだ。きっと何か解決できない問題があったのでしょう」
ホイルジャックの反応や動作に注視し、スカイファイアは更なる推論を述べた。
「オートトルーパーの耐用年数が短い理由と同じだ。クローニングで作られたスパークの摩耗は純粋なサイバトロニアンのスパークに比べて短い。個体差はあるが最短で30サイクル、最長は…分かっている範囲では200万サイクル以上」
「十分だとは思いますが…ほとんど限りのないサイバトロニアンの寿命と比較してしまえばそういった評価にもなりますか」
「その後のマシンクローニングの計画は私の手を離れてクイックシャドウを素体にしたものに変わっていき、科学局主導になっていった。プロールの手引きでな」
ホイルジャックは両手を頭に載せるとプロールのアンテナを模して空元気のようにおどけてみせた。
「正直なところ…意志のないロボットの人形とはいえ、C-Xの…よりにもよってオプティマスを象った兵器の製造開発など苦痛でしかなかった。スカイファイア、お前さんはこれ以上ろくでもないものをその手で生みだしてはいかん」
「経験者の言葉は重く響きますね。貴重なお話を聞かせていただき感謝します」
スカイファイアはゆっくりとそう言って頭を垂れ、ホイルジャックを見た。
「しかし…ショックウェーブがディセプティコンに渡った後、行った研究や開発したものが、もしあなたを見返すためだったとしたら…納得のいくことが多いですね、驚くほどに。わざわざコンバイナーの実験にグリムロックら五人を使ったのもあなたとの付き合いが深かったからでしょうし…」
暗い表情でそう発言しながら、スカイファイアは自身のブレインを辿り関連する記憶を探していた。
「思想扇動や二種融合等の人工生命体とスペースブリッジに関しても、彼のかつての性急ぶりを見るに…私には彼があなたの先を行こうと躍起になっていたように思えてなりません。ディセプティコンの科学者達がオートボットに後れを取るまいとしていた、というだけでは説明できないものがあそこにはありました。結局は彼の出した犠牲もあなたの罪に_」
スカイファイアがそこまで言い終えた時、彼はホイルジャックが倒れていることに気がついた。
リペアルームに寝かされていたブロードキャストを横目に、パーセプターは自身の工作に従事していた。
「ブロードキャストは人工のサイバトロニアンと聞いた」
彼はふと流れていた音楽と作業の手を止め、つぶやくようにそう言った。
「作業中の雑談にしては華がないね」
力なく笑い、ブロードキャストは彼の横顔を見た。
「残念だが今のパーセプターにそうした要望に応える機能はない」
パーセプターは椅子ごと寝台の方へと向き直り、鉄面皮のまま申し訳なさそうにも聞こえる声色でそう告げた。
「構わないさ…」
かすれた声でそう言い、ブロードキャストは薄汚れた灰色の天井へと視線を移した。
「人工でなければなぜ僕はサウンドウェーブと同じ構造を持っている?奴は本物の例外、同型機など存在しない。彼に似せて造られたのが僕だ」
「ボディ形状・パーソナリティいずれも特筆すべき類似性はない」
そう短く言って、パーセプターは作業台の上に工具を引きずり出し、溶接の準備を始めた。
「そうかな…案外似た者同士だと思うんだ。望まれていた通りの能力を持って生まれ落ち、任務に必要なものだけを与えられて生きてきた」
ブロードキャストはゆっくりとそう言い、パーセプターの後ろ姿と散る火花を眩しげに見つめていた。
「ただ…僕は自分という存在さえよく知らなかった。そう、僕は他者との接し方も知らなかった」
「自己と知識を伴って誕生するサイバトロニアンは元より存在しない」
慰めのようにも訂正のようにも聞こえる口調で、パーセプターは補足するように言った。
「僕はありもしない自信を身に纏わせて必死に気丈に、陽気で軽薄に振る舞ってみせた。そうすることで頼りにされるのだと思ったんだ。元の性格はサウンドウェーブより陰険さ」
「ブロードキャストはロールアウトから460,350サイクルの間人格構成プログラムに従って鷹揚かつ不遜かつ軽薄に行動しその一環として個体の一人称に"俺"もしくは"俺っち"を用いていた」
パーセプターは両手に持った部品を慌ただしくも整然と組み立てながら、期せずして一つの単語でブロードキャストに過去の自分を思い出させた。
「あぁ…思い出したらこっちが恥ずかしくなってきたよ。その後からずっと使ってる"私"も未だにしっくり来ないんだ、オプティマスを意識してるんだけどやっぱり僕には似合わないらしい」
そう言って小さく笑いながら、ブロードキャストは両手で顔を覆った。
「一人称の変更はカセットボットを喪失した時期と重なるが当時の詳細な記録はない」
パーセプターの何気ないその言葉の後、室内は鋭い静寂に包まれた。
「経緯を聞きたいのか?ならはっきり言ってくれ……まぁ、君になら…いいか」
ブロードキャストは悲痛な表情をしばし浮かべた後、吐きそうになりながら言った。
「カセットボットは生まれたばかりの僕にとって頼れる先輩みたいなものだった。でもラムホーンとスチールジョー以外は皆、いつの間にか僕を置いていってしまった…グラフィとイジェクト、スラムダンスとレッグアウトは戦死。リワインドとナイトストーカーにノイズは今も行方知れず。そして最後に残ったストライプス…そしてサンドル、フリップサイズの三人は…」
声に混じる焦燥と雑音が大きくなっていき、そこまで言うと彼は一瞬、言葉に詰まった。
「この手で殺した」
「パーセプターは動機の開示を求める」
パーセプターは手を止めず振り向きもせず、ただ抑揚のない調子でそう言った。
「彼らは皆ディセプティコンのスパイだった。話し合おうとしたら襲い掛かられた_」
「いや銃を向けていながら話し合いというのもないか…ともかくそこから先は乱闘だ、何もかもを憶えているよ…」
ブロードキャストは右腕を上げ、震えている手に紫の飛沫を幻視した。
「フリップサイズの首を折った時の絶叫と力なく垂れる四肢」
「引き裂いたサンドルの胴からフレームを抉り出して引き抜いた時の感触」
「ストライプスに腕を噛まれた際の痛みと、彼の喉を噛み潰した時の怒りと高揚…穴を空けた喉元から吹き抜ける彼の消え入るような悲鳴」
「共通規格品と比較して32%高性能な音感センサでは極めて明瞭に聞こえたものと推察する」
全て言い終えたブロードキャストが短く上げた甲高い悲鳴を何も言わずに聞くと、パーセプターは慮るようにも茶化すようにも聞こえる口調でそう言った。
「そのせいかな、あの時僕も所詮獣だと分かったんだ。いつしか彼らの亡骸を見てそれをなんの感慨もなしに至極当然の結果だと思うようになっていた。そしてとうとう、虚勢で自分ってやつを装うのにも限界が来た」
ブロードキャストは右手で目元を覆うと、力なくそうこぼした。
「パーセプターが今まで腕だと理解していたブロードキャストの部位は前脚だったか」
「あぁ…いつも周りに誰かがいるオプティマスプライムなんかとはまるで違う。いつかはあぁいう風になれたらいいが実際は生まれてこの方、群れを知らない獣さ」
自嘲するように言い、ブロードキャストは小さく獣の鳴き真似をした。
「群れという概念など個体間の共同幻想に過ぎない」
「気休めに聞こえるよ。僕は今でも仲間達の輪に馴染めないままだ…僕に親でもいれば違ったんだろうが」
「サイバトロニアンに親は存在しない」
「仮定の話さ。それは設計の基礎となったサウンドウェーブか…あるいは僕を産み出した科学者達か…それともそれを命じたプロールか」
「機械がより優れた機械を作り出したことに変わりはない」
「そうでもないんだ…このバイザーあるだろ」
「他の者がそれを見た回数は少ない」
「これにはリアルタイムの自分の"残り時間"が逐一表示される…まぁなんとも悪趣味な機能があってね」
青く光るバイザーを展開させ、ブロードキャストは言った。
「サンダーブラストのバイザー以上に製造は困難だった記憶がある」
「これを用意したのはプロールだったが、作ったのは君だったのか?ある意味、君も僕の親の一人だね」
「もし以前のパーセプターなら確かな記憶がありブロードキャストが理解しやすい説明ができた可能性がある」
「気にはしないよ、この身に宿る誰かさんのスパークもどうせあと十年だ」
ブロードキャストはそこまで言うと、立ち上がって寝台を離れた。
「君と話すといつも不思議と本音がこぼれてしまうな。ところでパーセプター、君はさっきから何の作業をしているんだ?」
「プロールとサンストリーカーの銃を解体している彼らに使われることはもうない」
作業台の上には二丁の銃とその部品、そして工具が乱雑に散らばっていた。
「なら君が使ってみたらどうだ?」
ブロードキャストがそう言うと、パーセプターは真後ろまで頭を傾げて意外そうな顔をした。
「…いや、冗談だよ」
そう言った彼をよそにパーセプターの瞳の奥には閃きが宿っていた。
生存してほしいキャラ
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オプティマスプライム
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アイアンハイド
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プロール
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ブロードキャスト
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ホイルジャック
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パーセプター
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ラチェット
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ギアーズ
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ホイスト
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サイドスワイプ
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サンストリーカー
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レッドアラート
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ウィンドチャージャー
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クリフジャンパー
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グリムロック
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ホットスポット