トランスフォーマー:Alternation of Cybertron 作:pova
地球_ヴァロンズ港_2027年_12月19日_
無人の港に停泊していたタンカーは、二つに裂かれて今にも沈もうとしていた。
その破壊をもたらしたもの達はたった二体のディセプティコンであり、いずれも有能にして残忍な兵士であった。
彼らはただ眼前の敵を叩きのめし、そして今かつての同胞でさえも躊躇なく屠らんとしている。
「さてとジェットファイア…今はスカイファイアだったか?話の続きはどうした?ないなら終わりにしちまおうか」
手足のうちいくつかを失って地面に倒れ伏したスカイファイアの首元に刃を押し当てると、ディーノは複雑な意匠の頭部に悪戯っぽい笑みを湛えた。
「よいのかディーノ、殺してしまって」
彼の後ろにいたオレンジ色の大柄なディセプティコンは、良心と道徳ではなく冷酷さと疑り深さを内包した声色でそう問うた。
「…ならお前はどうしたい?こいつを生きたまま、スタースクリームに引き渡すのか?」
腕のブレードを収納して彼から少し離れるとディーノは意外そうな、あるいは面倒そうな顔をして訊き返した。
「是非はともかく、そうした方が賢明ではあるのだろうが…あの愚か者はこやつを見つけたら生け捕りにして連れてこいと喚いてたそうだな?私のようなメガトロン派が何体もネメシスから蹴り落とされて地上に潜伏せざるを得なくなった、その後に」
そのディセプティコンは腕を組み、似た顔をしたディーノを見ると呆れたようにそうぼやいた。
「あのご聡明なる参謀殿はこいつが絡むとただでさえ希薄な合理性と冷静さが地に墜ちる。今思えば先に艦を降ろされてた連中は幸運だ…なんせスタースクリームの当たり散らしとオーバーロードとの大喧嘩に巻き込まれなくて済むんだ、サビだらけの廃材にまみれていたお前も案外似合いの住処に流れ着いてたのかもな」
互いに同情するような眼差しを向けながら、ディーノは皮肉混じりに返した。
「これでも元土建屋だ。壊すより作る方が性には合っている…降ろされた後になってわざわざ呼びつけられるとは、思ってもみなかったが」
そっけなく答え、もう一人のディセプティコンはスカイファイアに近づくと首を掴んで持ち上げた。
「ジェットファイアをパワーで止められる奴は少ない。そして今の状況で俺の言う通りに動いてくれる奴はなおのこと少ない…まぁそういうことだ、ブロウビート」
「私はメガトロン様以外の将になったつもりはないし、今後もなる気はない…だが、どんな命令であれあの方の利になるものである間は従ってやる」
ブロウビートはゆっくりとそう言い、地鳴りのような咆哮を上げながら左腕上部のキャノン砲を展開させた。
「相変わらず見上げた忠誠心だね、なんで君のような者がまだディセプティコンに_」
首を掴まれたまま刻々と大きくなるキャノンの駆動音を顔のすぐそばで聞かされながらも、スカイファイアは常通りの調子でそう言いかけた。
「ボディに見合ったその度胸も、憎たらしいその薄ら笑いも今となってはひどく懐かしい…陣営を変えても性根までは変わらんとみえる」
手の力を緩めてスカイファイアを放り落とすと、ブロウビートはどこか虚しそうにそう告げた。
「どうした?らしくないんじゃないのかブロウビート」
ディーノは片眉を上げるような所作を彼の複雑な顔面で表現すると、困惑の声を上げた。
「ディーノ、こやつの持ってきた情報はメガトロン様の役に立つのではないだろうか…それに裏切り者をこの手で誅するのにもいい加減飽きた」
ブロウビートはその薄汚れた体を揺らして、どこか物憂げな様子で言った。
「あれだけ味方を焼き殺していれば、まぁそうだろうさ。かつてはどんなディセプティコンもあんたのその雄叫びを聞くだけで震え上がったもんだ。スタースクリームやブラジオンなんかは特にな」
ブロウビートの胸から全身へ脈々と広がるマグマのような流路を眺めつつ、ディーノはそう語った。
「ラットバットにしてもそうだ、昔からいけ好かん小物だった。この胸の溶鋼炉にぶち込みたいと思ったことも一度や二度ではない…!」
憤りを隠しもせず、むしろ爆発させるかのようにブロウビートはその雄弁さを発揮した。
「それで?」
慣れた様子のディーノは億劫そうな顔で続きを促すように問いかける。
「…がな、それでもサウンドウェーブが作戦の後方支援を円滑に行う上でラットバットは重要な装置だ。あの偏屈な頑固者なら自分のパーツくらいは悩みもせずに差し出すだろう」
「それについちゃ間違いないな」
ブロウビートの語る言葉通りの情景が容易に想像できたディーノは、短く笑ってから同意した。
「私も同感だ」
スカイファイアは座り込んで二人を眺め、落ち着き払った様子で冷静な言葉を発した。
「…それに結局、あの船の積み荷は空っぽで我らはまんまと誘い出された。その上なんの成果もなしでは私はともかく…お前は帰るに帰れまい、ただでさえ薄く脆い鉄板の上を歩いているような立場なのだろうしな」
ブロウビートは一抹の憐憫を覗かせて、ディーノを慮るようにそう続けた。
「まぁ…お前がそこまで言うんだったら、仕方ない。スタースクリームもこいつからの話なら多少は素直に聞くかもな」
表面上は嫌々といった様子を見せたディーノだったが、彼の複雑な表情には安堵や自嘲と微かな後悔の色が浮かんでいた。
「ご理解いただけたようで幸いだ…では話の続きといこうか」
スカイファイアは攻撃によって引きちぎられていた手足をどうにか引き寄せ、ゆっくりと再接続するとおぼつかない動作で立ち上がりそう告げた。
地球_ベース217_2027年_12月21日_
仲間の待つリペアルームに、クリフジャンパーは力ない足取りで傷ついた体を向かわせた。
「も、持ち帰って来たぞ…ほらこの通りだ」
手足は根元から引きちぎられた痕跡があり、体中に裂傷や銃創を刻まれた状態でありながら、彼は苦痛ではなく疲労に由来する渋面を浮かべるとそう告げた。
「見てたぞ。でかしたな、いつもながら期待通り」
ホイストは短い言葉でそう応え、クリフに彼専用の人工エネルゴン飲料を手渡した。
「死ぬかと思った…てか実際何度か死にかけたけどよ、おーいブロードキャスト!」
受け取ったそれを一息に吸いきって放り投げるとクリフはその場に伏せるように倒れ込み、ごろと寝転がって言った。
「また借りができたなクリフ」
ブロードキャストは小走りでクリフに近づき、その傷だらけの体を見下ろして申し訳なさそうに言った。
「おしゃべりは後にしてもらわんとな。せっかくの時間を無駄にしちゃならん」
クリフに追いつく形でリペアルームに入室したホイルジャックが工具片手にそう言い、彼の後ろにいたラチェットもその発言に首肯した。
「ホイルジャック、ラチェットも来たのか」
ブロードキャストは少し驚いた様子でそう言いつつ、元いた医療用の充電スラブの上に体を預けた。
「下のグランドブリッジは一旦停止させた。今は君のリペアが最優先だ」
片手間にブロードキャストへそう応えつつ、ラチェットは手際よく治療の準備を進めていた。
「よし受け取れ!これが大事な大事な例のパーツだ」
ホイストにパーツを手渡すと、クリフはやや大げさにそう言った。
「あ…あれ、俺の見立てが間違ってなきゃ部品はそのまま使えるはずなんだが」
ホイストはブロードキャストの胸部を開き、受け取ったパーツと内部機構とを見比べて言った。
「お前さんの観察眼は時として当てにならんな」
ホイルジャックは手を止めずに呆れた顔でそう言い、ホイストを一瞥した。
「形状が違うか。少しの加工が必要だな」
ラチェットはパーツをホイストから取ってそう言い、ホイルジャックに投げ渡した。
「やっとる暇がありゃいいが…」
するとホイルジャックは言い終える前に体内から素早く工具を取り出し、受け取ったパーツを改造する音で発言の後半はかき消えた。
「ブロードキャスト、すぐ施術に入る。リラックスしていてくれ」
背後の作業音を意識的に聴覚から排除し、ラチェットは寝転がるブロードキャストに諭すように告げた。
「無理を言ってくれるな」
「自分の意識をはっきりさせておき、胸殻に感覚を集中させて接続を受け入れる用意をするんだ。言うまでもないがとびきり痛むぞ」
ホイストは深く考えずにそう発言し、次の瞬間には手術前の患者に緊張を与えるのをよしとしないラチェットに連れられていった。
「俺と話すか?」
クリフジャンパーは寝ているブロードキャストのそばまで来てそう言った。
「何もしないよりはいいか。さて何を話す?」
無機質な天井を見上げる視界の端に赤いツノが小さく見えたのを知覚しながら、ブロードキャストはそう返した。
「色んな奴からいろーんな説明を受けたんだが…俺は結局ブロードキャストがなんでこの作戦に必要なのかよく分かってないんだ」
「なるほど、雑に言うならテレトランと宇宙に浮かんでる人工衛星、そしてスカイファイアの三つの間のやり取りを適切に管理する役目がある」
「いないとどうなるんだ?」
クリフは不思議そうにそう訊き、ブロードキャストの視界の中の赤いツノが揺れた。
「軍事衛星と入手した航路データとを照らし合わせて、ネメシスの正確な捕捉を可能にすることが出来なくなってしまう。何もない大空で透明な敵を見つけることの難しさについての説明は必要ないだろう」
「テレトラン!ウイルスや不審なプログラムがないか確認してくれ!」
ホイルジャックがテレトラン1.5とリンクさせたD.0.Cに加工したパーツを渡してそう叫んだ。
「でもその後はどうなるんだ?制御を乗っ取ったらステルスも消えるだろ」
「了解!スキャンしまーす」
D.0.Cは愉快そうに飛び回りながら、テレトランからの音声を再生した。
「確かにそうだが、乗っ取るまでが大変なんだ。セキュリティコードを照合して問題なくアクセス出来たとして、そこからはネメシスそのものの制御に干渉しいくつもの機能を支配下に置く作業だ。いわば電子の世界での城落としが始まる」
「問題はないで」
テレトランの診断結果がD.0.Cから発せられるとラチェットはそれを渡すよう促し、素早く受け取った。
「俺の好きな表現の仕方だな。その世界じゃどんな武器を使うんだ?」
「こちらにはテレトラン謹製の新型ウイルスという爆弾がある。それを私が受け取って精査と再調整をし、スカイファイアに積み込むんだ。彼が城の前に陣取ったらまずは大量の兵力を、つまり意味ありげな情報の大群をネメシスへと送り込む」
「見せかけだけの囮ってことだな!」
「さすがだクリフ、本命は爆弾だ。思わせぶりな偽情報や置き換わっているファイルに混乱した向こうが焦って艦内のデータベースを精査すると…」
幼体をあやしおだてる様子でブロードキャストはそう言い、どこか得意げになって話し続けた。
「いくつも紛れ込んでいたウイルス入りの仕掛けも開かれてドカンか。なるほど面白いな!」
「大量の無意味な情報を送ることでネメシス自体の動作も遅く不安定なものになる」
「なら乗っ取りも遅くなるんじゃないのか?スカイファイアも墜落とかしそうだが」
「ウイルスは無意味な情報を食いながら成長し、ネメシスの制御プログラムそのものを書き換えていくんだ。侵食のスピードは最初こそ遅いが、どんどんと加速していく」
「すごいな、爆弾が爆発したら中から共食いして増えるナノコンが湧いて出てくるのか」
「スカイファイアについても心配はいらない。大量の兵士達は解き放たれるまで皆、マイクロチップよりも小さくまとまっているんだ」
「俺ぁ感動したぜ。皆最初からそういう言い方をしてくれれば、今までインテリどもを嫌うこともなかったのに」
「よし、準備できたぞブロードキャスト。クリフは下がってくれ」
戻ってきたラチェットは両手に多くの工具を持った状態でそう言い、ブロードキャストを見下ろした。
「でも俺もなんか手伝いた_」
「そこで成功を祈っていてくれ…静かに、だぞ」
クリフの発言を遮り、ラチェットは慎重に表現を選んでそう応えた。
「だよな。そりゃそうだな、うん」
「クリフジャンパー!聞こえているか!」
気を落としたクリフの聴覚に、突如として聞き慣れた声の通信が割り込んだ。
「おっと無意味な軍勢を積んでるスカイファイアからだ…どうかしたのか?」
「無意味?…いや、私はそちらの進行が今どうなっているか聞きたいのだが」
クリフの発言を普段通りにあまり意に介さず、スカイファイアはそう切り出した。
「パーツの規格がどうとかで少し手間取った。間に合わなさそうか?」
「ネメシスが予定地点を超えてしまう可能性は捨てきれない。そうなってしまうと…」
「まずいよな、空飛ぶ城に対して俺達にゃ待ち伏せのカードしかねぇ以上…なぁスカイファイア、オプティマスの調子はどうだ?」
ふと思い出したようにクリフは質問を付け足した。
「想像だが、恐らく難しい顔をしていると思うよ。話してみるかい?」
スカイファイアは手短にそう答えつつも、クリフの声の後ろから聞こえる叫び声と騒音が気になっていた。
「いやいいんだ、そっちはもう飛んでるんだったな…あ、こっちの作業は終わったらしい。ドクターらの怒号と患者の悲鳴と機械音が織りなす喧騒がちょうど止んだよ」
「聞こえているぞクリフ…さてブロードキャスト、調子はどうかな」
ラチェットは嗜めるようにそう言い、続けて自信なさげに患者に様子を尋ねた。
「自分の中に他の誰かが居座っているような違和感は拭えないが、任務には全く問題ないだろう。いい手術をありがとう」
どこかラチェットを勇気づけるようにブロードキャストは礼を言い、朗らかな笑みを浮かべた。
「だってよ。きっちりリペア完了だな」
クリフはスカイファイアにそう言い、ブロードキャストに通信を繋げた。
「聞こえているな…ブロードキャスト、手はず通りに進めてくれ。作戦を開始するぞ」
スカイファイアは真剣そのものの声色で手短にそう告げた。
「了解、これよりテレトランと連動する。ラットバットの位置情報を元に制御システムへの介入を試みよう」
すぐさま兵士としての顔へと変わり、ブロードキャストは中央作戦室へと走った。
「こちらホットスポット!C-Xともども配置は済んでるぞ。パーセプターもいい子にしてる」
「よし、んじゃ俺もあっち行ってくっか…ハウンド!武器よこせ」
ホットスポットから入った連絡を受け、クリフジャンパーは武器庫に飛び込んだ。
「整備はしておいた、どいつもピカピカに磨き上げてある…いくらでも好きに持ってけ。俺の分までぶちまけてこい!」
大量の銃火器を並べ、ハウンドは自慢げにそう言うと屈んでクリフと拳を合わせるジェスチャーを行った。
「恩に着るぜ…おいラチェット!ブリッジの操作は頼んだからな!」
「まったく慌ただしい…」
ラチェットは入り乱れる通信にそう返しながらも、活気の溢れる仲間達の様子にどこか懐かしさを覚えながらグランドブリッジへと走った。
薄暗いスカイファイアのコンテナの中で、落雷や雨音に混じって言葉が響いた。
「ブロードキャストが復活し、もう間もなく作戦の第一段階が始まります。それとオプティマス…クリフがあなたのことを心配していました」
「彼にまで気を遣わせてしまっていたとは…いよいよ指揮官失格だな」
発言に連動してホログラムで表示されたスカイファイアの頭部を見つめながら、オプティマスは自嘲するようにそう言ってマスクを外した。
「何をそんなに悩んでんです?オプティマスプライムともあろうお方が」
揺れる機体の中で隣に寝転がっていたサイドスワイプが不思議そうに、かつ能天気に言った。
「…将軍からある話を聞かされた。我々全員に深く関係していることだ」
クイックシャドウはオプティマスの肩に手を置き、心配そうに見つめながらサイドスワイプに言った。
「サイドスワイプはあの場にいなかったが、どこに消えていた?」
オプティマスはここ数日の多忙のうちに訊き忘れていたことをようやく尋ねた。
「シンシアちゃんってこの前のオペレーターを乗せてちょっとばかしドライブに」
悪びれもせずにそう言い、サイドスワイプは微かに照れ笑いをした。
「相変わらず手が早いなサイドスワイプ」
つられて苦笑し、オプティマスは懐かしそうに言い返した。
「なんせ俺の肩書きは高速戦闘員ですからね。あの娘も目を回してましたよ」
「軽率な…ディセプティコンに発見されでもしたらどうする気だったのか」
クイックシャドウは呆れの混じった怜悧な声色でそう言い、サイドスワイプを指さして静かに糾弾した。
「…事の始まりは二百年以上前の話になる。かつて人間達がアークの存在を把握したのは奇跡でも偶然でもなく、我々の方から接触があったからだという」
オプティマスは雷鳴と揺れがスカイファイアの機体を揺り動かす中、静かに語り出した。
「じゃあとんだ早起きが俺らの中に?」
片眉を上げるような仕草を見せ、サイドスワイプは起き上がった。
「そうだ。そしてその頃に何者かが"黄色い獣"の姿をとり、彼ら人類に遭遇したという。あの絵や伝え聞いた話から恐らく、我々のうちの誰かがこの星の原生生物をスキャンして変形したのだろう」
数日前の光景を思い返しながら、オプティマスは考え込んだ表を崩さぬままそう答えた。
「いくら機械が周りにないからって、有機物への変形なんてことを?そりゃ不可能じゃないんだろうが…」
サイドスワイプは突拍子もない話に困惑しながらそう言った。
「我々サイバトロニアンは他の惑星で何かに擬態する場合、その対象の文明レベルが低いほど本来の力を発揮できなくなる…確かに、最良の選択ではなかった」
クイックシャドウはそう応えると、胸部のボンネットを開いてその中から何かを取り出した。
「それで…その誰かさんが人間達のペットになって、餌欲しさに俺達の情報を吐きまくったと?」
どこか釈然としない様子でサイドスワイプは探るようにそう訊いた。
「そうではない…かつて、後のベース217となる施設は彼の手によって建設された。そして過去のいくつもの戦争に一兵士として従事し、我々はそれらにまつわる決して表に出ることのない記録を見ることができた」
オプティマスは己が聞かされた話を反芻するようにゆっくりとそう語った。
「興味が湧いてきましたよ。どこに行きゃその黄色い勇士に会えるんです?」
戦いの話が出た途端に眼の色を変えたように、サイドスワイプは前のめりに強い興味を示した。
「私も同じ気持ちだった、だがもはやそれも叶わない。我々はあまりに遅すぎたのだ…最後の大戦の折、彼は"ショックウェーブ"との戦闘で負った傷が遠因となって1984年に死んだ。少なくとも将軍はこの写真を見せて我々にそう言っていた」
そう言ってオプティマスは前腕部からある画像を投影した。
「へぇこいつが。このオルトモードは…あの娘から聞いた話に出てきたな、確か機関車ってやつでしたか。獣ほどじゃないにしろ、蒸気機関で動く原始的な代物ですね」
サイドスワイプは浮かび上がった荒い画像を眺めながら、記憶を辿るようにそう発言した。
画像には二体のサイバトロニアンが格闘しているところが収められており丸く小さい方はハンマーを手にし、もう片方は左腕と一体化している銃口を相手に向けていた。
「画質も悪いしおまけに白黒じゃあの一つ目野郎にハンマーを振り下ろしてることぐらいしか分かりません。でも俺の記憶に間違いがなけりゃ、あいつはサイバトロンにいたはずじゃないですか」
「我々もそこで新たな謎に直面した。これがショックウェーブ本体であり、既に倒されているのだとしたら心配も必要ないだろうが…そこまで楽天的ではいられない。パーツも含め、痕跡のほとんどが残っていないそうだ」
画像に映っている暗く無機質なシルエットを見つめ、クイックシャドウはそう言った。
その影は全身に前時代的な戦車かあるいは戦艦の意匠を纏ってはいるものの、彼らの記憶の中にある仇敵の姿に酷似していた。
「他に手がかりは?」
「彼の遺体は頭部やインシグニア、ハンマー等の一部を除き、本人の希望によって適切に処分・再利用されたそうだ…個体の情報が記録されているものといえばその認識票だけしか残されていない」
クイックシャドウが取り出したものを指して、オプティマスは言った。
「なぜか濃い靄のようなものがかかっていて、この物の記憶はろくに読み取れなかった。精度が低い上に得られた量も少ない…ここに記されている名は私には聞き覚えのないものだったが、サイドスワイプは何か知っているか?」
サイドスワイプに認識票を投げ渡し、クイックシャドウは訝しげに言った。
「えーとどれどれ、名前はバン…ブル…ビー?」
ベース217の隠された通路の先には、埃と煤にまみれた古い部屋があった。
数十年ほど前には司令室であったのだろうその空間はクリフのような小柄なサイバトロニアン以外にはやや手狭なものであり、将軍は部屋の朽ちかけた椅子に座ると口を開いた。
「私が彼…NBE-01と最初に会ったのは父に連れられてこの基地の…ちょうどこの部屋にやってきた時だ」
オプティマスは出入り口の扉を破壊しながら窮屈そうに部屋を見回し、そして壁面に飾られている絵に視線を向けた。
「これは…サイバトロニアンですか」
その絵にはネコ科らしき獣の姿と、獣と同じ意匠を持った人型のロボットとが詳細に描かれていた。
「名は君らも知っているだろう。同じ艦で母星を旅立った仲なのだろうから」
将軍はまるで彼らが古い記憶を思い出すのを促すように、持って回った言い方をした。
「じゃあ、そいつは別の艦でこの星に来た訳でもなく…アークの乗組員?」
クリフジャンパーは絵に駆け寄って覗き込みながら、不思議そうに訊いた。
「こんな奴いたか?」
サンストリーカーは古びた絵画をつまらなさそうに観察し、その中の見覚えのない顔を見つめてそう言った。
「"バンブルビー"、諸君らも名を聞けば思い出す…とは思わん。彼曰く、当時はあまり目立つタイプではなかったそうだからな」
サンストリーカーを静かに見返し、将軍は淡々とそう告げた。
「アイアンハイドが数が合わないと言っていたあれか」
オプティマスは即座に該当する記憶を引き出し、驚愕しながら言った。
「バンブルビー?…まさか、あのビーがか?」
クリフジャンパーは動揺を隠さずに訊き返し、反射的に絵を眺めて被写体の中に旧友の面影を見つけようとした。
「クリフジャンパー…君は彼と同型だったか?そういえば彼から話を聞いたことがあったか」
将軍はどこか昔を懐かしむような眼差しで、クリフにそう語りかけた。
「芯も強いし小回りの利く腕利きでした。ずっと目立たなくてもいつも影で皆を支えてたんです」
「あいつが目立たない影になったのは他でもないお前の大活躍の前に埋もれていったからだろ。ずっと"クリフじゃない方のチビ"なんて呼ばれてたし」
サンストリーカーはクリフの言葉にそう毒づき、同情と侮蔑の混じった視線を絵に描かれたバンブルビーへと向けた。
「あまりよい評価を得られていないことは分かっていたが…まさかクリフジャンパーが一番彼に目をかけていたとは皮肉なことだな。そうそう、かつてこの基地もバンブルビーが一人で作ったものだ。温厚さや小柄なことで彼は侮られることも多かったようだが、その偏見を常に気概とハンマーで打ち砕いてきた強靭さの持ち主で…我らの最高の友人だった」
「その友人とやらには会えないのか?」
黙って聞いていたクイックシャドウはふと思い立ったようにそう口を挟んだ。
「バンブルビー…NBE-01は既に没した。遺骸もごく一部しか残っていない」
将軍は口惜しげにそう言い、壁に備えられている棚の引き出しを解錠すると何かを取り出した。
「それでもいい。私に見せてみろ、何か読み取れるはずだ」
身を屈めて高さを合わせ、クイックシャドウは好奇心を露わにしてそう促した。
「よかろう…このエンブレムと認識票がそうだ。それは君達サイバトロニアンのもの…持つべき者のもとへと返そう」
それぞれ大人の掌に余る大きさの形見を、将軍はそう言って丁重に手渡した。
クイックシャドウは厳かに一礼してそれらを手に取ると、黙して記憶の読み取りに集中した。
誰もが黙し静寂の広がる中で、クイックシャドウの呻くような声だけが断続的に部屋に響いた。
「なんか分かったのかクイックシャドウ、物の記憶がどうたらってのは」
作業を終えた彼女がふらつきながらゆっくりと立ち上がると、クリフジャンパーは待ちきれずにそう尋ねた。
「…駄目だな。理由は分からないが、あるいは相手のことを知らないからか?明瞭なものは大して見えてこなかった…ただ、話の内容に嘘偽りもなさそうだ」
「そしてNBE-02についても語らなければなるまい。彼の死にも関与した存在だ」
また別の棚を開けつつ、将軍はそう続けた。
「私がいつかの際に発見したショックウェーブらしき者がそうだと…そういうことでしょうか」
「その件については済まないことをしたと思っている。我々も君達にどこまで知らせてよいものか…後戻りの出来ないところまで巻き込んでしまうのではないかと悩んでいた」
憤りのこもったオプティマスの発言に、悄然と答えると将軍は何枚か写真を置いた。
「その写真の奴は…どこから来たのかや目的については謎だ、バンブルビーが呼んだ"ショックウェーブ"という名前以外に分かっていることはとても少ない」
将軍の説明をよそに、オプティマス達は古びた机の上の小さな数枚の写真を隅々まで観察していた。
こちらを見下ろすショックウェーブの顔を捉えた一枚の写真と眼が合い、オプティマスはふと形容しがたい震撼を覚えた。
テレトランの前に位置し、ブロードキャストはスカイファイアとの通信を再開した。
「こちらブロードキャストだ。調子が戻ったよ…待たせて悪かった」
「視覚的には見渡す限り雷雲ばかりだ、そちらでもラットバットは補足できているかな?」
スカイファイアはどこか心配そうな口調でゆっくりとそう問うた。
「天候のせいか少し不安定ではあるが問題ない、しっかり届いてる…座標確認。衛星とのデータリンク完了、進路はこっちの予測通りだ」
ブロードキャストはすぐに常通りの冷静な口調に戻り、任務の遂行に意識を集中させた。
「過去のデータからテレトランの予測した進路とスカイファイアの火器照準補正プログラムとを私がリアルタイムで連動させる。これで透明な標的でも狙った場所に当てられるはずだ」
「ディーノのセキュリティコードを照合する…アクセス完了。圧縮したデータファイルを送信。あと四秒ほどで増殖し始めるだろう」
スカイファイアは雲に紛れてネメシスの補正図と一定の距離を保ちながら航行し、眼前の戦艦へ介入を開始した。
「テレトラン、城攻め開始だ」
「命令を確認…ウイルス起動。急速な自食作用の発現を確認」
進行状況をモニターしているテレトランの表示に突如として異変が起きた。
「いや問題発生だ。敵艦の自己診断回路が自発的にこちらを締め出しつつある」
「これではまるでネメシス自体に意思があるような…」
「こ…こういう時プロールならどうしろと言うだろうか?」
ブロードキャストは動揺のあまりスカイファイアにそう訊いた。
「"想定外の事態だ"と言ったきり止まって考え込むか、あるいは銃と腕力で強引に突破するか…」
プロールに関する記憶を敵だった頃から思い出しつつ、スカイファイアは相反する二つの答えを出した。
「なら後者を取る。以前君が保管していると言っていたモザイクウイルスを使えないか?」
ブロードキャストはこれまで彼が見続けてきたプロールの姿と合致する選択肢を取った。
「乗っ取りたい制御プログラムそのものが根幹まで破損しかねないが…リスクを冒すのは嫌いではない。早速試してみよう」
スカイファイアはどこか愉快そうに言い、内部のデータチップに封印していたあるものをネメシスへと送信した。
「クリフに合わせて言うなら、共食いナノコンに加えて赤錆病をばらまいたようなものかな」
静かにそう独りごち、ブロードキャストは状況を注視した。
「ネメシスの自己診断機能、緩やかに低下を確認。ゆっくりと侵食の拡大が継続中だ」
「もしネメシスに意思があるとしたら、乗組員に異変を知らせるはずだが…なら警報の一つもないのは不可解だ」
「侵食、速度を上げて拡大中。制御プログラムの乗っ取りがおよそ半分完了」
「書き換えが概ね完了した。ネメシスの制御はもはやディセプティコンには行えない…操縦桿はこちらが握っているも同然だ」
嬉々としてそう言い、スカイファイアは加速をかけネメシスに接近した。
「ネメシスのステルス機能を解除、トランスワープ含め航行の停止を命令」
「猛威を振るったネメシスの防衛システムも、これで意味をなさない。出入り口の閉鎖まで自由自在…もっとも、それも君のウイルスが艦そのもののシステムを破壊するまでの間だけだが」
「あれは猛毒だが、遅効性だ…あの図体では毒が回るまで数時間はかかる。その頃には全てが終わっているだろう」
スカイファイアは雷雲の隙間から覗く紫の船体を睨み、後部の乗降口に向け鋭い機動で肉薄した。
地上の平原で、ホットスポットと彼が率いる三機のC-Xとパーセプターは静かに攻撃の時を待っていた。
雷雲に紛れていた紫の船体がゆっくりと墜落しながら、その威容を晒した。
「この距離であぁまではっきり見えるのか…かなりデカいな、今までずっとあんなのが空に浮かんでたのか!?」
C-Xの専任パイロットに選ばれた者のうちの一人が、物々しく狭苦しいコクピットの中でそう叫んだ。
「腰抜かしてるとこ悪いが野郎ども、驚いてる暇はないぞ!あれが憎きディセプティコンの母艦だ…すぐにスカイファイアが団体客を引き連れてくる。指示をしたら一斉に撃て」
ホットスポットはそう熱っぽく号令し、僚機を落ち着かせんとした。
「さっきの白いのが味方か」
冷静な声が通信に響き、C-Xのうちの一機が頭を巡らせて空中に浮かぶ巨大戦艦を見据えた。
「そうだ。俺達はあいつに釣られてやってくるヘリと戦闘機を落とせばそれでいい…作戦通り、こっちが死なない程度に撃ちまくれ!」
「C-X1、了解だ…俺の粒子燃焼砲が一番長射程だが弾道で居場所が丸分かりだな。護衛はファイヤーマンに任せる」
オプティマスが以前運用していたものと同様、無骨な長砲身を肩に担いだC-Xの中でパイロットがそう発言した。
「それを言うならファイヤーエンジンだな。しかし見ろよこの背中のミサイル、まるでロケットの柱に括りつけられてるようだ…」
微かに震える声で軽口を叩き合い、C-X2は各部に装備されたミサイルを見せびらかす動作をした。
「分かってるじゃないかジェフ、気に入ったぞ!辺鄙な片田舎にあるお前の実家が今後もし火事になったらいつでも駆けつけてやることにしよう。あとそのミサイルは懸架したまま飛行も可能だ。今日ここでお前自身が花火にならないことを願うぞ」
ホットスポットはかつて部下にそうしていたように二号機のパイロットに檄を飛ばした。
「無駄口を叩いてる暇はなさそうだぞロボット隊長殿、空が騒がしくなり始めてる」
「出撃したヘキサティコンを確認」
パーセプターはそう告げ、鋭い手さばきで銃を構え即座に狙いを定めた。
「予定通りに行く。ジェフの二号機とヘンリーの一号機、そしてパーセプターが敵を狙い撃って、俺が全員の盾になる。ダグの三号機は弾幕で連中を足止めすることに専念してくれ」
全員を一人づつ指さし、ホットスポットは途端に冷静さを取り戻してそう指示した。
「了解。ガトリングと特殊弾頭のオンパレードだ、腕が鳴るな…こいつ一機の弾薬費だけで一生遊んで暮らせる額だろうが」
両腕と肩部に多連装砲を懸架された特異なシルエットの機体の中で、パイロットが唸るようにそう言った。
「ようホットスポット。俺を忘れてちゃいないか?」
突然グランドブリッジが彼らのほど近くに展開し、空間の歪みと異音を伴いながら向こう側からクリフが飛び出した。
「クリフか!心強いな…お前だけは好きに暴れ回ってくれればそれでいい。なるべく俺達と離れた場所でな」
ホットスポットは掌を向け、跳び上がったクリフとハイタッチすると言い含めるようにそう告げた。
「分かってるさ。それより出撃前の号令はどうしたんだ隊長殿?」
浮足立っている様子でそう言い、クリフは陽気な笑顔を返した。
「…じゃあ久々に言うぞ、オートボット!鎮火開始だ!!」
ホットスポットはどこか照れくさそうな顔をしてから意を決してそう叫び、真新しい盾と斧とを力強く掲げた。
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