トランスフォーマー:Alternation of Cybertron 作:pova
「ねぇレッドアラート」
どこからか艶っぽい声が響き、それは名を呼んだ相手の神経を逆撫でしながら霧散するように薄暗い通路を通り過ぎていった。
辿々しい足取りで人気のない通路をゆっくりと往復していたアラートは、眼を閉じたまま一息に言い放つ。
「またお前か…見ての通り今忙しいんだが。歩行の感覚を取り戻すには継続と集中が一番重要なんだ、手伝う気がないなら帰れ」
「私だって貞淑ぶったイカレ女に胸に大穴開けられた後なんだけど?出力も安定しないし」
後ろから軽やかに歩み寄り、サンダーブラストは彼の両肩に手を載せて寄りかかった。
すると彼女に施された不十分な修繕の結果として、胸部の傷跡からオイルともエネルゴンともつかない粘性の液体が何滴か垂れて赤いアラートの背中と灰色の地面とを汚した。
「傷も塞がりきってはないらしいな。そんな状態で何しに来た」
にべもなくそう返し、アラートはぎこちない足音を断続的に響かせ来た道を少しづつ戻ろうとした。
「だから会いに来たんじゃない、応急処置をされた後は忙しいからってずっと放置…一応は衛生兵だったんでしょアンタ」
拗ねたような声色と表情を作り、サンダーブラストはアラートの肩に顎をのせた。
「正確には"元衛生兵志望"だが、それでよければ手を貸してやる。今はリペアルームも
彼女の挑発的な挙動への反応に労力を割かないことは、アラートの中でいつしか反ディセプティコン主義以上に明確な行動原理となっていた。
「へぇ、変形できるようになったんだ?」
サンダーブラストはふとその場で立ち止まり、しばし間をおいてから両手を口に当てて大仰に驚愕した。
「グランドブリッジを使う。俺はまだ変形する車種も決めてない」
振り返らずに言ったアラートは、時折りふらつく足取りで歩く速度を早めたために転びそうになる。
足早に後を追い、サンダーブラストは転びかけた彼を支えて隣に並んだ。
「ならあたしが自分用に取っておいたオルトモードのスキャンデータがあるんだけど、それにしない?絶対それがいいって」
どこか愉しげな表情で彼女はアラートにそう勧めた。
「船に変形する奴が車のスキャンデータを持ってるものか」
「その必要があったの。頼み込んで処置してもらったそのすぐ後にコグを取られたけど」
当時の痛みと屈辱を思い出したからか、言い終えるとサンダーブラストの表情は苦々しいものになっていた。
「あのオルトモードじゃ陸では不便だろうしな。納得だ」
アラートはクイックシャドウや彼女の行為について触れるのを避け、何も考えていない風を装って簡潔に言葉を返した。
「それだけだと思って?…思考を読み取る力はあるのに患者の心は分からないんだ」
消え入るようにそう言って、サンダーブラストは悩ましげに彼の横顔を眺めた。
「…治しようもないか」
二人だけの通路で、彼女は誰にも聞こえないほど静かにそうこぼした。
メガトロンが放った融合カノンの一撃は周囲の空間そのものを削り取りながらスカイファイアへと迫り、彼の胴を容易に貫いた。
「当然の報いか、裏切り者には似合いの_」
その場にいたオートボットは負傷者ばかりだったが、メガトロンは最も脅威度が高い者を即座に判定し行動に移った。
「ジェットファイア…愚かな」
彼はどこか口惜しそうな様子でそうつぶやき、胸に大穴を開けよろめくかつての忠臣を見下ろした。
「今さら戻れと言っても聞くまいが…」
反動で揺らめいた融合カノンを向け直しつつ、彼はそう言ってゆっくりと歩み寄った。
「…えぇ」
地面に膝をついた彼の体から、少しづつ部品がこぼれ落ちていく。
「確かに、あなたのもとにいた時より…私は愚かになったかもしれないが…」
途切れ途切れにそうつぶやき、スカイファイアは地響きとともに倒れ伏した。
青い空を力なく眺めるスカイファイアを、ただメガトロンは見下ろした。
「ディセプティコン航空部隊のジェットファイアよ…遺す言葉はあるか?」
スカイファイアの顔に融合カノンの砲口を突きつけ、彼はゆっくりとそう問うた。
「だが…正しいことを為すために、この命を懸けていると…今は一分の迷いさえなく、そう言い切れる…!!」
彼は最後に決然とそう言い、自身に向けられた融合カノンを掴んでメガトロンごと投げ飛ばした。
「私は⋯オートボットのスカイファイアとして死ぬ⋯!」
「な_」
メガトロンは驚きと怒りの中にありながらも、冷静に相手の様子を観察した。スカイファイアが今の動作を最後に動きを止めたことを瞬時に確認し、彼は残りの敵に注意と殺意の全てを向け直した。
「今なら無防備だ、変形させるな!」
宙を舞うメガトロンが反射的に飛行形態へ移行する様子を見たホットスポットはすぐさまそう指示した。
それを聞いたパーセプターが震える手で最後の一発を装填し、放たれた循環阻害剤はメガトロンの左足に直撃し変形途中のまま彼の体勢を硬直させた。
「雑兵どもが、煩わしい…」
勢いのままに地面に激突した彼はそうつぶやき、自身の右腕と融合カノン砲のジョイント部が着地の衝撃で破損したことに気がついた。
「俺が時間を稼ぐ!」
咄嗟にそう叫び、サイドスワイプは損傷した体を無理矢理に最高速まで持っていった。
ちぎれかけた融合カノンを気にしつつ、メガトロンは自身に刃向かう者の姿と朧げな記憶の中の名前と結びつける作業を終えた。
「銀色の…確かクロスカットとか言ったか」
複雑な軌道を描きながら高速接近するサイドスワイプに対し、メガトロンは悠然とそう言い放った。
「いい加減覚えろよ…俺の!名前は!!サイドスワイプだ!!!」
サイドスワイプはそう絶叫し構えた剣を突き刺さんと突進した。
「違ったか…?部下を忘れたことはないが_」
サイドスワイプの姿を捉え、咄嗟にメガトロンは地面に左手を叩きつけると辺り一帯が瞬時に凍結した。
「敵の名まで一々覚えてはおれん」
凍った地面の上を制御不能になりながら滑るように近づくサイドスワイプに対し、メガトロンは左手で無造作に彼の首を掴んだ。
「今にその必要もなくなる、毎度のことだ」
「な…!?」
サイドスワイプは意外そうにそう呻いたが、その声はすぐに止まった。
メガトロンの左手から氷塊のようなものが析出するように現れ、数秒のうちにサイドスワイプの全身は氷で覆われた。
「凍らされたのか!?あいついつからそんな魔法を…」
ホットスポットは驚愕し、眼前の状況にブレインが悲鳴を上げつつあることを遅れて知覚した。
「メガトロンは惑星に辿り着くたびに新たな力を手に入れるというが…」
身震いするほどの寒気に意識を取り戻したスカイファイアは、ぼやけた視界の中悄然とそう言った。一つ言葉を発するたびに体中の熱が抜けていくように彼には感じられた。
彼の背後で何者が落下する重い音と氷の地面がヒビ割れた音が聞こえ、次の瞬間にはその発生源はスカイファイアに銃を突きつけていた。
「その噂は事実だ。メガトロンが目覚めた今、全ての終わりは近い…」
サウンドウェーブはゆっくりとトリガーを引いた後、無感情にそう告げた。
「サウンドウェーブ…"近い"のではない。今ここで終わるのだ」
氷柱となったサイドスワイプを乱雑に蹴り飛ばして大小いくつかの破片に変えると、メガトロンはそう訂正した。
「ったく…話にならねぇ。勝手にやってろ、こんな星なんかいるかよ!」
間の悪いことにスタースクリームもスカイファイア同様に意識を取り戻し、すぐさま呆れたようにそう言って変形した。
そのまま背を向けて飛び去ろうとした部下に対し、メガトロンは温和な調子でゆっくりと呼びかけた。
「あぁ、お前のことを忘れていたな。スタースクリーム…」
メガトロンは半ば無意識のうちにスタースクリームの燃料と駆動部を凍結させ、動きを封じていた。
訳も分からぬまま飛べなくなったスタースクリームは反射的に変形を解き、凍りついた足をガタガタと震えさせながら振り返った。
「…あ、あんたが動けなくなっていたのは自業自得でしょう。そ…そもそも俺ぁ、特段ディセプティコンの不利益になるようなことはしてませんよ」
寒気のするような冷気とともにゆっくり一歩づつ迫るメガトロンに対して、スタースクリームはもがくように言葉を並べ立てた。
「焦ることはない、まだ何も言ってはいないではないか_」
部下の無様を冷徹に見下ろしたまま、彼はそう言った。
「が、既にサウンドウェーブから話は聞いている。全てな」
言葉を続けるにつれメガトロンの態度から部下に向ける威厳に満ちた寛大さは剥がれ落ち、猜疑と憤怒が露になっていく。
「…まずはお前と話す必要があるな」
メガトロンは融合カノンを氷の大地へと薙ぎ払うように撃ち放ち、自分達とオートボット達とを隔てるクレバスを生じさせた。
彼らが深い地割れと崩落を前に慌てて後退していくのを確認すると、次にメガトロンは腰を抜かしたようにへたり込んだスタースクリームを静かに見下ろした。
「お、俺なんかに構ってる暇があるんですか?ネメシスはあんなになってるしプライムだってあん中に_」
恐怖に引きつった顔と上ずった声色でスタースクリームは口を開き、ネメシスを指し示しながらまくし立てた。
メガトロンは何も言わず怒りのままにスタースクリームの胴を力強く蹴りつけ、言葉を遮った。
「その足りぬ頭で我の真似事などするからだ。部隊の補佐官程度が本来、貴様の器だと…とうの昔に言ったはずだが」
彼の首を掴み右手で体ごと持ち上げると、メガトロンは顔を見合わせて厳然と言い放つ。
「何を…!!」
スタースクリームは激情に任せて右肩の銃口を咄嗟にメガトロンの頭へと向けたが、発射する前に銃身はメガトロンに左手で凍結された後に難なく引きちぎられた。
メガトロンは呆気にとられたスタースクリームの額を左手で掴み、触れた部分からスタースクリームの頭がゆっくりと氷に包まれていく。
「何メガサイクル待ってやったかもはや分からんが、つくづく貴様には失望させられた。いよいよ我の見込み違いだったと認めざるを得まい⋯」
メガトロンは彼を後頭部から凍った地面に数度叩きつけ、地形が変わるほどのヒビを走らせた。
「お…お赦しを_」
スタースクリームの言葉はメガトロンの渾身の右拳に遮られた。二度、三度と打ち込まれたパンチは整っていた彼の顔部を大きな一つの窪みに変えた。
「貴様の考えることなど手に取るように分かる」
ひどくつまらなそうに言い放ち、メガトロンは掴み上げていた彼を雑然と放り投げた。
「サウンドウェーブ、撤退後の合流地点だが…」
スタースクリームの顔から散らばった破片を気にもせず踏み砕きながら、メガトロンは振り返ってそう尋ねた。
「既に通達は済んでいる」
サウンドウェーブは這って逃げようとするスタースクリームを無感情に見下ろし、ひどく淡々とそう応じた。
「目立たぬよう上手くやれ…それと飛行部隊を増員し再編する。今後の隊長はスカイワープとするが…これは我が直接伝えておこう」
凍ったエネルゴンやオプティックの破片で汚れた手を軽く払い、メガトロンは淡々とそう返した。
「そんな…俺から何もかも全て奪い取る気ですか!?」
振り返ってノイズ混じりの声を上げたスタースクリームの顔は、もはや口も眼も分からぬ程に痛めつけられていた。
「一つ大きな思い違いをしているらしいな。貴様の持つものは全て我が与えたものだ…もしディセプティコンでなければその哀れでちっぽけな自尊心と虚栄心以外、貴様に何が残る?」
メガトロンは倒れ伏したスタースクリームの後頭部を潰れるほどに踏みつけつつ、彼の背中に融合カノンを突き刺しながら仰々しくもゆっくりと告げた。
「認められるかよ…こんな_」
伏せたまま悔しげにこぼしたスタースクリームの言葉は途中でかき消された。
「愚物が」
その短い一言とともに融合カノンの一撃はスタースクリームの胸を貫き、彼の体は内側から弾け飛んだ。
レヴィアサンの艦内通路の一つを、スモークスナイパーは大慌てで駆けずり回っていた。
「ネメシスのトランスワープユニットをレヴィアサンに移植してみたんだけど…起動実験は成功したようね」
ブリッジに向けて急ぎながら、彼は早口に自身の成果を誇示し密かに己を鼓舞した。
「いつの間にそんなことを…」
ブルーバッカスは重傷を負いながらも、ヘリの状態で飛行するだけの余力は辛うじて残っていた。
「ヘキサティコンは装備の横領も職務のうちだったのか?それは知らなかった」
巻き込まれるようにしてレヴィアサンに乗り込んだスカイワープは嫌味たらしくそう言った。
「それに俺はなんでこんなところにいるんだ…?聞き分けが良すぎるのも考えものだな。下働きが長過ぎたせいか」
彼はいつの間にやらスモークスナイパーの口車に乗せられ、結果として今は両手でオーバーロードの下半分を引きずりながら移動させられていた。
「…昇進してぇな」
「無駄口叩かない!さっさとGBとオーバーロードを運びなさいよ、誰がこいつらを修理すると思って?」
負傷者を抱えて走る部下達に振り返ってそう叫び、スモークスナイパーは更に速度を上げた。
ニトロゼウスはオーバーロードの上半身を脇に抱えながらGBを引っ張って後を追っていた。
「覚えとけ雇われと黒いの、スモーキーは作業が早ェ。ンで心変わりはもっと早ェ」
彼は至極真面目な様子で振り返り、ブルーバッカスにそう忠告した。
「何か言った?」
スモークスナイパーはムッとした様子で責めるように短く問うた。
「…いや、それよりデモリッシャーはどうする?」
ブルーバッカスは自分が吊って運んでいる負傷者について質問を返した。
「そいつは後回し、そのへんに寝かしときなさい」
ブリッジに到着したスモークスナイパーは短くそう言い放ち、飛び上がって手早く修理の準備を開始した。
「了解した」
ブルーバッカスは人型へと変形し、ブリッジにデモリッシャーを引きずり込むとそのまま辺りへ放り投げた。
投げ捨てられたデモリッシャーは床にぶつかり小さくうめき声を発したが、彼自身も含めてそれに気を取られるようなものはブリッジにいなかった。
「なるほど、戦車の扱いはそれでいいのか」
スカイワープは何ごとか得心した様子でそう言い、スクラップと見紛うほどに破損したデモリッシャーを一瞥した。
ニトロゼウスがブリッジの艦長席にオーバーロードの上半身をそっと置くと、彼は意識を取り戻したのかノイズ混じりに発言した。
「スモーク、スナイパー…」
「あらオーバーロード、まだ口は利けるようね。何かしら」
名を呼ばれた彼はすぐさま駆け寄り、自身の側頭部をオーバーロードの口元へと近づけた。
「あんたの下半分はそこら辺に置いとくぞオーバーロード」
スカイワープは大破した戦車を放り投げるとそう言い放ち、慣れた様子で操舵席のコンソールに向かった。
「ネメシスの脱出艇が合流するポイントへ…向かうんだ」
「分かったから、安静に…ブルーバッカスとニトロ、あとおまけのスカイワープは操縦お願い。こっちにはステルス機能なんて便利なものはないんだから、あなた達の操縦の腕前に全員のスパークがかかってると思いなさい!」
スモークスナイパーは負傷した隊長の言葉に優しく応じた後、同じく負傷している隊員二人とおまけに檄を飛ばした。
一人の怒号と三人分の嘆くようなぼやきを操舵席から響かせながら、レヴィアサンはゆっくりと高空の向こうへと消えた。
ホットスポットは揺らめく意識の中、ネメシスとは別の方角から機影が接近してくるのを知覚した。
「輸送機?あれが最後の援軍か」
そのサイズやスピードから戦闘機の類でないことを彼はすぐに理解し、少し遅れて彼の視界にスキャン照合結果が表示された。
その輸送機の後部には積み荷が、より正確に言えば最強の兵器が鎮座していた。
物資や車両の空輸を前提に余裕を持って設計されたはずの空間に、それは押し込まれるようにしてその巨躯を収めていた。
「メガトロンか…出てくるのが少々遅過ぎたようだな、パイロット!速度を上げろ」
窮屈そうに首を伸ばして窓から地上を見下ろし、グリムロックはそうこぼした。彼が恐竜の姿で輸送機に収まるに至った経緯はごく単純であり、ホットスポットがそうであったようにグランドブリッジに入りきらなかったからである。
「無茶を言うなよ怪獣、お前さんのせいでいつになく機体は重いんだ」
操縦士は眼下に広がる氷の大地とその中心にあるクレバスに目を疑い、そこから吹き荒れる風に機体を持っていかれないよう必死に舵を取った。
「的になる前に積み荷を降ろすぞ!…ハッチ開放、頼んだぞメカザウルス!!」
副操縦士は地上から何かが光ったのを視界に捉えるとすぐさま後ろに向けて叫ぶようにそう伝え、機体後部の積み下ろし口を開放した。
ゆっくりと開く搬出口の隙間から凍えるような風が吹き込む中、グリムロックは這いずるようにして移動した。
「次までにはもっとマシな呼び名を考えておけ…グリムロック、降下するぞ!」
彼がそう言い終わるよりも早く、輸送機に衝撃が走りグリムロックは投げ出されるようにして落下した。
融合カノンで一撃のもとに輸送機を破壊すると、メガトロンは墜落する機影とは別の何かがこちらへ迫ってきていることに気がついた。
「醜悪な…やはり有機生命体の姿を借りる奴の気が知れんな」
距離が縮むにつれて彼はそれが怪獣の姿をした同族であることに気がつき、穢れたものを見るような表情で厭そうに言った。
サウンドウェーブは淡々と彼の発言を諌める。
「それは適切な発言ではない、少なくとも俺とカセッティコンがいるこの場では」
それはディセプティコン運動の黎明期から有機生命体を蔑視するメガトロンと、動物に変形する部下を持つサウンドウェーブがそばにいれば必ず生じる毎度のやり取りであった。
「よく飽きもせずにそう言えるものだ、無論お前達は別だとも」
愉快そうにも、毎度のやり取りに呆れているようにも聞こえる口調でメガトロンは定型句を返した。
「あれについても侮るべきではない。エネルギー放出量からスパークタイプはおそらくあなたと同じブライテストだ」
前方から落ちてくる鋼の恐竜と睨み合いながら、サウンドウェーブは平静のままそう告げた。
「…氷漬けか、貴様に似合いのつまらん趣向だ」
金属で構成された機械の恐竜はそう言い放ち、氷の大地に降り立った。着地点には隕石さながらのクレーターが生じ、そこだけが燃え盛るほどの熱を放っていた。彼は溶けかけた氷に爪を突き立てながら天に向けて力強く咆哮する。
「…今日は何人殺した?その数だけ風穴を開けてやる」
グリムロックは口腔から炎を迸らせ、メガトロンを睥睨した。
メガトロンは眼前の相手に対して無造作に融合カノンを撃ち放った。空間を消滅させながら迫った光球は、しかし恐竜の口から放たれた炎に阻まれて勢いをなくし、やがてあらぬ方向へと逸らされた。
「サウンドウェーブ」
メガトロンは意外な結果に驚き、しかしどこかで予期していたようにただ部下の名を呼んだ。
次の瞬間、彼は突進するグリムロックに跳ね飛ばされて宙を舞った。
「了解した。イジェクション…レーザービーク」
彼はメガトロンのわずかな声の調子の違いからそれが攻撃命令だと悟り、咄嗟に飛び退き突進をかわすと瞬時に行動へ移った。サウンドウェーブは銃を撃つと同時に胸からデータディスクのような薄い形状のものを解き放ち、それは崩れるようにして瞬時に鳥のような獣へと姿を変える。
「今や私も古龍の端くれだ。よもや…鳥如きが敵うとは思うまいな」
羽から銃を連射しつつ標的の周囲を鬱陶しく飛び回るレーザービークに対し、グリムロックはその動きに追従して炎を吐いて尾羽根を焼き払った。
「聞くに堪えん世迷言だ」
サウンドウェーブは肩部のキャノンを変形させ、全身のスピーカーと連動させた音波攻撃を放った。彼自身の機能に影響を及ぼさない範囲での最大出力で撃たれた音の波動は、周囲の空気を激震させながら一瞬でグリムロックへと迫った。
「何だ…こんなものか?」
サウンドウェーブの放った爆音波に対して、グリムロックは動じる様子さえ見せなかった。すかさず彼は尾羽根を失ったレーザービークに狙いを定め、跳び上がって更に半身を噛み砕いた。
体の半分が消失したレーザービークはサウンドウェーブの眼前に雑然と放り投げられ、冷たい大地にスクラップも同然の有様を晒した。
「私が音波如きで止められると思われていたとは…古来より、敵の力量を見誤った代償が安く済んだためしはない」
グリムロックに跳ね飛ばされた際に飛行形態となっていたメガトロンは、上から融合カノンを撃ち下ろそうとした。しかしパーセプターの弾のせいで変形は不完全なものになり、しかもダメージによる損傷のせいかチャージはまだ完了しない。
「そこのオートボット!こんな星の原生生物をスキャンした程度で誇り高きサイバトロンの古龍種を名乗るか?甚だしい思い上がりだ」
代わりのミサイルを一斉に放ちつつ苛立ち混じりに彼はそう言い、しかし先程の力任せのタックルのように巨大な殺意の塊が自身に猛然と迫る様子に対しメガトロンは形容しがたい懐かしさを感じつつあった。
「だが獣とは…悪くない趣向だ。闘技場の栄光を思い出させる……!」
そう言い終えた頃にはメガトロンは変形を解いて素手で地上へ降りてきていた。撃ち込まれた循環阻害剤の効果が遅れてやってきたためである。
「感傷に浸るのは結構だが_」
レーザービークを拾い上げ、距離を取ろうとしたサウンドウェーブをなぎ払った尻尾で弾き飛ばすとグリムロックは向かってくるメガトロンと激突した。
「試合をしているつもりはない」
グリムロックはその勢いのままにメガトロンの左肩に噛みつき、密着した状態で炎を吐くと一瞬のうちにメガトロンの腕をズタズタに焼き爛れさせた。
「痛みか…我が存在していることの証だ」
どこか愉快そうに哄笑し、メガトロンはその感覚を懐かしみつつ凍結させた右の拳を叩き込んだ。しかし殴りつけられたグリムロックのボディは非常に高温で、彼の拳がまとった氷はほどなくして溶け落ちた。
尻尾に弾き飛ばされていたサウンドウェーブはグリムロックの頭部に飛び蹴りを叩き込み、噛み付かれていたメガトロンを解放させんとした。
「イジェクション…ラヴィッジ、バズ_」
彼はその言葉を最後まで言い終えることなく、胸部から発射しようとしていた二体ごと胴体を噛み砕かれた。
「させると思うか」
蹴られた衝撃でメガトロンを口から放してしまったすぐ後に、グリムロックはサウンドウェーブに対して爆発的な怒りのまま反撃した。必然の結果として彼は左右からグリムロックの強靭な顎に挟まれ潰れゆくまま奥底から響くようなその声を最後に聞いた。
「私が戦車の頃と同じだと?見誤ったな」
「獣はただ無思慮に力を振るう…出来ることといえばやはりそれだけのようだな」
溶けた左腕を引き剥がし、メガトロンはそう嘲った。残る右手に背部から取り出した剣を構え、眼前の獣に真っ直ぐ向けた。
「グリムロック、トランスフォーム…!!」
サウンドウェーブの胴体を造作もなく噛みちぎり、上半分を中のカセッティコンごと踏み潰してから、グリムロックはゆっくりそう叫んで変形した。
その名を聞いた瞬間、メガトロンの表情に驚きと歓びの感情が戻った。
「まさか、とうの昔に死んだものと思っていたが…また見知った顔が出てきたものよ」
ほどなくして剣を携えた二人はゆっくりと歩み寄り、メガトロンは愉しげにそう言い放った。地球に墜落してから体は動かせず意識も定まらない日々を過ごしていた彼にとって、今この瞬間は既に比類なき充足の時間となりつつあった。
「変わらず傲慢を滲ませたような訳知り顔だ。忌まわしい」
グリムロックは憤怒の形相のまま手にした剣を振り回して言い放った。
「死に損なった上、再び獣風情に身を落としていたとはな…!」
力一杯に振りかぶった後に、両者の剣は激突した。メガトロンの剣は氷のように鋭く冷たい意匠を持ち、灼けた溶岩のようなグリムロックの剣と互いを侵食しあいながら剣戟を続けた。
「…メガトロンはその名を恐れぬ者だけが倒せると、貴様はかつてそう嘯いたな」
グリムロックは両手で振り下ろした剣に自身の重さを乗せた一撃を放った。剣が突き刺さった地点は煮立った火口のように変貌し、彼が一歩踏み出す度に足元には溶融する地面が広がった。
「我を恐れぬ者は存在し得ない。故に我を倒せる者もいない」
右腕だけのメガトロンは打ち合わず避けることに専念し、身を翻してそう応じた。それは遠回しな挑発でもあり、戦いの段階が明確に切り替わる瞬間だった。
「反証してみせよう…恐れは弱さの表れだ。なればこそ務まる者はあいつか私を置いて他にない」
グリムロックはネメシスを一瞥し、その中にいるはずの古い仲間を想起してからそう言い放った。
そして彼は剣の構えを変え、敵以外の全てを意識の外へと追いやった。
「人間とさ」
どこか弱々しい声がアーク内の暗い通路に響いた。
グランドブリッジでの移動はサンダーブラストのボデイに負担となったようで、彼女の抑えた胸からは先程よりも多くの液体が漏れ出していた。
「何か言ったか?」
アラートは彼女の様子をあまり気にする素振りもなく、聞こえた声に対してはまず聴覚機能の不調を疑ったのちにぶっきらぼうに問うた。
「人間と組んでたオートボットがいたんでしょ?バンブーだかビーブルみたいな名前の奴」
苦痛から気を紛らすためか、サンダーブラストはいつものおしゃべりを始めた。
「バンブルビーがどうした」
彼女の口から出るには意外な人物の名を聞き、アラートは怪訝そうに言った。
「そんなに凄い奴だったの?」
「いや。黄色いクリフジャンパーって言わなきゃ伝わらなかった事実が何よりの証だ。誰もあいつなんか気にしてなかった。俺とサイドスワイプの関係に似てる」
自嘲気味に早口で言い、アラートはそれきり黙って先を進む。
「そんな小者が人間どもと仲良くお仲間づくりをしたっての?尻尾でも振ったのかしら」
空虚な静寂を恐れてかいつもの見下すような口調でそう言うと、サンダーブラストは苦痛にゆがむ顔で小馬鹿にしたような表情を無理に作った。
「同じ状況ならプロールだろうがサンストリーカーだろうが間違いなく同じことをした。たとえこの俺でもだ」
傲慢な彼女の悪癖を遮るように切り出し、アラートは仲間の名を出すことで暗に彼を貶めることを諌めた。
「だがあいつがこうまで上手くやれたのには、正直なところ⋯驚いている」
「上手くやったって?」
単なる興味よりも好奇が濃く出た声色で、彼女は愉しげに問うた。
「あいつが自分の手で為した事柄については他の誰でもあいつより上手くやれただろうが⋯」
アラートはバンブルビーの小柄な体躯と、クリフジャンパーと比較して覇気のない姿を想起しながら客観的にそう述べた。
「恐らくあいつの手柄のもう半分はその逆だ。バンブルビーは隠れることは苦手だが愛嬌のある奴だという風評をいつだか聞いたいた覚えがある」
彼はそれが誰から聞いた話だったかとしばし思案を巡らせたが、クリフジャンパー以外に彼の話をする者はいなかったことを思い出した。
「古くからこの国には"黄色い大きな妖精"の話が各地にいくつも伝わってるんだと⋯オペレーターから聞いた話だ」
「へぇ、地球が平和ボケした星で良かったじゃない。素敵だこと」
過去に立ち寄った星々の政情を思い返してか、彼女は複雑そうな顔で呟いた。
「ディセプティコンの言うこととは思えないが」
「一度でも紫のエンブレムをつけた者は誰でも破壊と殺戮の使者って訳?」
前を歩くアラートを見下ろす眼差しを細め、拗ねるようにサンダーブラストはそう言った。
「少なくともお前は文句なしにそうだ」
目的地の扉の前で、アラートは振り返ってそう言ったが、幼気に拗ねた彼女は何か言いたげな表情で見つめ返すだけだった。
「言わんとすることは分かる」
最低限の動力がかろうじて残っているだけのアークでは、扉の開閉も手動で行う他なかった。重い扉をこじ開けながらアラートは言葉を続ける。
「⋯赤い方のエンブレムの連中はどうかと言えば⋯⋯違いは医師団と口先だけの理想主義くらいのものだ。どうせ廃墟と憎悪のほかに残るものもない」
アラート達がリペアルームに入ると、自動で点灯するはずの照明がちらちらと明滅し充電スラブや診療台の辺りに仄かな明るさがもたらされた。
「悲観的…でも種族ぐるみでロクでもないのばっかりなのは否定しない。だからこそそういうものが希少だと感じるのかも」
持ち込んだ工具や機材を広げるアラートの後ろ姿を眺めながら、サンダーブラストはそう呟いた。
「バンブルビーだけは俺達と違ったらしい。あいつは上手くやったよ⋯信頼と同盟⋯それにこの基地。俺には絶対作れないものを、得難いものを残してみせた」
「アンタだって残せたものの一つくらいあるんじゃないの?医者なんだし」
「治した奴は皆死んだ。ラチェットはともかく、俺は何も残せていない」
サンダーブラストの体を抱え上げると、アラートは彼女をそっと充電スラブに乗せた。
「誰か忘れてない?」
そう言うと彼女はアラートの顔を覗き込んでから、わざとらしく自分の顔の頬あたりを軽くつついてみせた。
「どうせ長生きしない」
アラートはそれにさしたる反応を示すこともなく、ただサンダーブラストの胸部の傷を見下ろした。
「医者が患者にかける言葉?…これだってイカレ女のせいだし」
「経緯はおおよそ想像がつく」
治療器具を手に取りつつ、アラートは辟易とした声色でそう返した。
「そういえば、羨ましいと思ったことはない?人間のこと。短い命を紡いで後の世に何かを残していく様に憧れてるのかも」
彼の示す反応への興味からか、あるいはこれからなされる処置のもたらす痛みに怯えてか、サンダーブラストはまた話題を変えた。
「そんな機能が搭載されてるボディならよかったんだろうがな。自己増殖なんて最初期のサイバトロニアン数体だけの特権だ、誰でも知ってる」
「サイバトロニアンがどうやって数を増やすかについては?」
彼女は疼痛に歪んだ顔で、からかうような表情と声色を無理に作った。
「またその手の話を…神学論なら相手が悪い、医師は皆
そこまで言い終えると、彼は彼女が不服そうに興醒めの顔をしていることに気がついた。
「長くなるようなら聴覚をカットしたまま施術を続ける」
そう淡々と言い放ちながら、アラートは彼女の震える手を握ってやった。
「誰か聞こえているか?」
「私は今ネメシスの艦内にいる…脱出艇を全て破壊するには時間が足りなかった。最後に残った小型の一機にはマトリクスとクイックシャドウを乗せて発進させた、あとは上手く合流してくれることを願うばかりだ」
「この通信がもし誰かに届いているなら、メッセージがある。今の私にはマトリクスもスピーチ原稿もない…だからオートボット総司令官の訓示などではなく、ただのオライオン・パックスからの言葉と思って聞いてくれ…」
「私はいつも、平和を願っていた。団結し、持てる力を行使することでその実現に近づけるのだと信じた。信じたかった」
「だが今、我々はまた新たな星を戦火に巻き込みつつある。この地球に住まう人間は幼い種族だが、その賢明さと懸命さを以ていつかは我々の助力など必要としないほどに進化するだろう…スカイファイアの話の通りサイバトロンは既になく、ならば今はこの星の生命の為に全てを懸けて戦うと…私はそう決意した」
「日々…任務の合間に地球の歴史を読み解くうち、私はあることに気がついた。思想や民族の対立…それが招く破滅的な戦争はかつてこの星でも起きていたのだ。だがその度に、彼らは星を滅ぼすことなく踏みとどまった」
「我々には…出来なかったことだ。そして今まで見たどの知的種族も成し得なかったことを、彼らはとっくに成していた。その理由は決して、彼らの軍事技術が未熟だったというだけの単純なものではない。我々や他の種と違い、彼らには絶滅戦争を前に踏みとどまれる程の理性と思慮があった」
「そんな彼らに我々が何をしてやれるのかと悩みもした。将軍から与えられる物資や活動拠点の対価として共に戦ってきたが、すぐにでも星を出ていくのが人類のためには最も正しい選択なのではないかという思いは日ごとに募り、私の中で重みを増していった…力の使い方を誤り続け、母星のみならずいくつもの星を死なせてきた我々だ」
「種族の存在自体が宇宙の災禍と断じられたこともあった…だが、我々は幸運にもその評価が誤りであったことを証明できる機会を得た…我々はディセプティコンから、いやあらゆる脅威からこの星だけは守らなければならない。死んでいった仲間達と、バンブルビーのためにも」
「彼は人間との協力関係の礎を築いて、我々の目覚めを待ち続けていた…簡単なことではなかったはずだ。私は一オートボットとして彼を心から尊敬し、また深く感謝している」
「…長くなってしまったな、もう地表がすぐそこに迫っている。オートボットよ、可能性に満ちた人類を…その平和と尊厳を守ることを我ら最後の責務と思い、たとえ私がなくとも戦い続けてほしい」
「クイックシャドウには既に伝えたが、マトリクスはスカイファイアに託す。もし彼に何かあれば、ホットスポットに…」
「では…いつかどこかでまた会おう。戦士達よ」
メガトロンとグリムロックの戦いはお互いに決め手を欠いたまま続いていた。
「貴様は所属する陣営を誤り、そして戦う目的を誤った!闘技場で勝ち得た名声を捨て、粗暴な殺戮者でありながら幻想のような平和を追うことを選び_」
グリムロックが足元の溶けた氷に足をすくわれた一瞬のうちに、メガトロンはその胸部に剣を突き刺した。
「一度は錆の嵐に晒されるだけの醜い怪物へと成り果てたはずだったが」
さらに空いた右腕で彼の顔面に全力のパンチを叩き込み、グリムロックは大きく吹き飛ばされた。
「ここはトカゲ崩れには似合いの死に場だ」
倒れ伏した相手に向け、メガトロンはゆっくりと融合カノンを向けた。
「グラディエーター崩れが、詩人にでもなるべきだったな」
グリムロックは事もなげに自身の剣を突き立て起き上がり、胸に刺さった氷のような剣を引き抜いた。
「飾り立てた御託も、とうに聞き飽きた!」
彼は力の限りそう叫び手にした氷の剣を投げ返し、メガトロンの剣は発射直前の融合カノンに突き刺さって大爆発を生じさせた。
「退屈せんな…いつぶりだろうか、こんなのは」
辺り一面を覆い尽くした爆炎が晴れた後、そこから這い出たメガトロンは右半身の装甲がズタズタに裂け、骨格フレーム同然の有様になりながらも動じずにそう言った。
彼は半壊した融合カノンごとフレームにまとわりつく装甲を振るい落とし、小さく笑った。
「我も耄碌したか?まさかな…まだ死ねまい。そうであるはずがない」
確信に満ちた様子でそうこぼし、彼はボロボロの右腕から転げ落ちたものを拾い上げた。
それは鎖で繋がれた棘付きの鉄球と形容されるような形をした何かであり、活性エネルゴンのような紫色の光を放っていた。
メガトロンはゆっくりとその武器の鎖のように見える部分を右手に纏わせ、指に棘が突き刺さるのも構わず球状の部位を握り込んで掲げた。
「グリムロック…トランスフォーム!」
相対したグリムロックも何かを語るようなことはせず、恐竜に変形した。
突き刺さっていた己の剣を咥えるようにして顎で保持し、口腔から爆炎を放ってその刀身を更に赤熱化させた。
「_り返す、こちらブロードキャストだ。誰かそちらの状況を教えてくれ!この霧では何が起きているのかまるで把握で_」
クレバスで遮られ彼岸の戦況をただ見守るしかなかったホットスポットらのもとに、繰り返し呼びかけてきていたブロードキャストの通信がようやく届いた。しかし音声は時折途切れ、明瞭とは言い難い。
「通信も通りにくくなってるな。この天気も多分メガトロンの魔法のせいだろう」
ウィンドチャージャーはそう言うと、周囲一帯を覆う霧を見渡した。
「聞こえてるかブロードキャスト…メガトロンはなんだか妙な能力を使ってるらしい、グリムロックがサウンドウェーブを潰したとこまでは見れたが…あとは雹と霰と吹雪ばかりで何も見えん」
「ウィンドチャージャーが凍結されたサイドスワイプの破片とクリフジャンパーの欠片を磁力で回収した」
「そういう訳で、ラチェットかホイストをなるべく早くよこしてくれ。あと人間の医者もだな」
それぞれの手に仲間だったものの塊を持ちつつ、チャージャーはそう続けた。
「C-Xのコックピットブロックは3つとも回収した。パイロットも二人はダメだったが、ジェフはまだ間に合う…急いでくれ」
ホットスポットは縋るようにそう言い、掌に載せているひしゃげた三つの小さな物体を見下ろした。
「了解した。戦闘が終わり次第、即座に救護を開始させ_」
「どうかしたか?また通信障害か」
不自然に途切れたブロードキャストの言葉に、チャージャーが問うた。
「…今しがたクイックシャドウとオプティマスの反応が途絶した」
「予想はしていたことだが…まずい、まずいぞ」
ホットスポットは愕然とした顔で、絞り出すように呻いた。
「だが、これで燃える者もいるはずだ…ブロードキャスト、彼を焚き付けてやるのはどうだろうか。そうでなければメガトロンは討てず、終わるものも終わらない」
スカイファイアは彼の頭の中で合理性とそれ以外の全てを秤にかけた後、淡々とした様子でそう提案した。
「扇動やプロパガンダには誰より飽き飽きしてる身の上だろうが、今はやるしかない」
気乗りしないだろうブロードキャストを慮り、チャージャーは慎重に言葉を吟味してそう諭した。
「聞こえるか…聞こえていてくれグリムロック、クイックシャドウとオプティマスの反応が消えた。これからスカイファイアをネメシス内の二人の捜索に差し向ける。君にはその時間を稼ぐためにそのままメガトロンを引きつけていてほしい」
暫しの逡巡の後、ブロードキャストは呼びかけを開始した。応答と呼べるものが返ってくるまで彼は同じ内容を繰り返し続ける。
「…スカイファイアは負傷してる。行かせるのか?」
ホットスポットが心配そうに問いかけた。
「無論最初からそのつもりだ、どのみち私しかいない。あと少しの間だけならどうにか動ける…融合カノンの音はもう聞こえないところをみると、飛んでるところを撃たれる危険はなさそうだ。急いで向かおう」
苦悶を滲ませた表情のまま、そう言い終えるよりも早くスカイファイアは変形し飛び去って行った。
「…私を突っ込ませるのはさっきの提案へのささやかな反抗心だろうか」
「となれば残りの全員であの霧の中に突っ込むか?」
心底厭そうにホットスポットがそう問いかけた。
「ブロードキャストの声が届いてるのかは分からないが、この吠えっぷりじゃ大層荒れてるのは確かだな。巻き込まれるだけだ」
地の底から響くようなグリムロックの唸り声を聞き、チャージャーがそう言った。
将軍はひどく憔悴した様子で問うた。
「…少佐、何人戻ってきた?」
少佐は運んできた資料を将軍のデスクに広げ始めた。
「聞いても気が滅入るだけでしょうが、知らずに先の話は出来ないのがこの仕事の嫌なところです。虎の子のC-Xおよびそのパイロットはほぼ全滅です、ダグとヘンリーは潰れて即死でした。2号機のジェフは辛うじて一命を取り留めました…が、あいつも気の毒です。ひしゃげたコックピット内でその、両足が…」
まず隊員たちの医療記録といくつかの写真を手渡すと、少佐はそう言い淀んだ。
「彼はこの半年のうちに生まれ育った家と両親だけでなく…学生時代からの友人達と自らの脚を失ったか。ディセプティコンのせいで」
将軍は額を右手で覆い、しばらく沈黙していた。少年期から知っているいくつもの顔が血みどろの記憶の奥底に淀んでいくのを感じながら。
「意識が戻るのは来週か来月か、あるいは来年かもと…そう聞かされています」
「そうか、なんという…グリムロックを投下した輸送機のパイロット達は無事か?リックスとスチュアートは」
加齢のせいだけではない肩の重みと倦怠感に襲われながら、将軍は途切れ途切れに言葉を繋いだ。
「えぇ、相変わらず頑丈な奴らです。人的な損耗はニ名のC-X専任パイロットのみですね…兵器の損害についてはC-Xが三機とも大破、全損しました」
「事件の後始末は手はず通りか?」
「概ねは。地表に激突したネメシスをスカイファイアに破壊させ、森林火災に偽装しました」
「都市部で散々暴れ回った後だ、今更機密保持に神経質になっても仕方ないが…事がコトだからな。辺鄙な平原に落着したのは幸いだった。あとはメガトロンの氷が残っているが…」
とうに手遅れの現状に対し、無理に取り繕おうとしてみせた判断を自嘲するように将軍は零した。
「なんせ12月ですから、辺り一帯が氷の大地なったとてそう人目を引くこともないでしょう。処理しきれていないネメシスの残骸についても随時破壊あるいは接収する手筈になっています」
少佐は冗談めかしてそう言ったが、彼の喉に詰まった空虚さが重みを増しただけだった。
「では次に…彼らについては?」
再び憂鬱そうな様子で将軍は問うた。
「オプティマス・プライムとクイックシャドウは未帰還…ネメシスと共に爆散したものかとも思いましたが、残骸から発見されてはいません。ハウンドはオーバーロードに頭部をひきちぎられた上に顔を剥がされ…蘇生の見込みは薄く、勇敢な最期だったと…そう聞いています。それともう一人、ギアーズは自爆で無数の破片になったそうで…奴がクリフジャンパーなら心配はいらなかったんでしょうが、聞いた話じゃ最近の彼は英雄気取りの発言が多かったとか」
息継ぎをする度に続きを読み上げるのが億劫になることを恐れてか、少佐はそれらの端的な報告をほとんど一息に言い終えた。
「帰還したのはホットスポット、スカイファイア、サイドスワイプ、パーセプター、グリムロック、ウィンドチャージャーと、彼が拾い集めたクリフジャンパーのみです」
「三機と十一体でかかって、生き残ったのは一人と七体か。敵の旗艦を撃沈したからといって…浮かれていられるものでもないな」
差し出された資料に記された詳細な記述の数々を前に、将軍はそう零した。本質的には臆病かつ悲観的なこの老人は、それらの悲惨な状況の記述を文字情報以上のものとして受け取らないよう努めていた。
「我々がいいように蹂躙されていた半年前を思えば、状況は遥かに好転しています」
それが現状の被害に対しての気休めや慰めの類にしか過ぎない言葉であることを誰よりも承知の上で、少佐はいつの間にかそう口にしていた。
「同感だよ少佐。死者達とその家族に詫びながら彼らの目覚めを待つしかなかった日々に比べれば…ずっといい。必要な墓の数も随分減らせた」
将軍もそう応じ、平時には不要であった命の勘定というものの重たさがまた増すのを感じた。
「えぇ、もしオートボット抜きでやることになっていれば今回の作戦だけで何人の部下を失っていたことか…」
少佐はそう言い終えてから、そうして彼ら異星人の被害までも正当化しようとする自分がいることを疎ましく思った。
「ともかく、これでようやく侵略者の軍門に降る以外の選択肢が見えてきたと言えよう。未来に希望を抱くのは若人だけの特権でもあるまい」
今までの犠牲全ての正当化を可能にし得る程の成果が初めて上がったことに言及すると、彼は彼自身の立場にある種の合理的な酷薄さが求められるという事実に閉口した。
「それと…ネメシスの墜落前に脱出艇が数機ほど逃げ出していたという報告がありました。あの幽霊船を墜として終わりと思っていましたが…まだ残党狩りの仕事が残っているようです」
「瀕死のメガトロンもサウンドウェーブを連れて脱出したという報告だったな。体内にスペースブリッジを宿していたとは驚いたが」
「さぁて…連中が散らばったとなると、我々だけで片付くものでもない。穴倉の隠密部隊からの協力要請ともなれば、どこもいい顔をしないだろうが…」
官僚や将官ら堅物たちの顔を思い浮かべながら、将軍は辟易を滲ませた顔をした。
「まぁいい、我々には交渉材料もある。貴重な捕虜も得られたことだしな」
報告書のうちの一枚に大きく配置された記録写真を見つめ、将軍はそう呟いた。
その写真には白や赤、青に彩られた飛行機の残骸が捉えられていた。
「とはいえ、我々の評判は散々ですしね。軍隊じゃなくて政府の特殊機関の私兵だって噂されてますよ」
「エイリアン絡みの案件における優先権に加えて極めて排他的で閉鎖的。注ぎ込まれた物資も予算も人員も、二度と戻らぬカルティストどもの部隊…誰に聞いても大抵そういう評判だそうだが、全くもって耳が痛いな。指揮系統も通常の軍隊組織から半ば独立している以上、機関の私兵という表現も否定はできない。私の出自のせいもあるだろうがな…」
「全くですな」
少佐は短く同意を示した。
「続いて残党狩りの任務に際しての人員についてですが…オプティマス・プライムが不在の状況下、彼らの指揮系統にもある変化が起きたようです」
「…確かスカイファイアからは彼自らが司令官としての責務を果たすと聞かされたように思うが」
将軍は怪訝そうに言った。
「新たにホットスポットがオプティマスプライムとアイアンハイドの代わりに現場でのリーダーをやるとか…ならばスカイファイアもプロールの代わりを担当する、と言ってきています」
「しめて三人分か。それだけの重責が務まるものかな…彼ら二人に」
「思想・軍事両面の指導者であるプライムを中心にその直属の戦闘指揮官と作戦参謀…その絶妙なバランスのもとでオートボットの軍集団は運営されていたように思いますが…現状では、彼らの判断に任せるほかないかと」
少佐は彼らと過ごす間に感じた率直な印象を述べた後、どこか口惜しそうに言った。
「バンブルビーの話では
「どのみち同盟者でしかない我々に彼らの人事や作戦行動の采配を強制する権限があるかと言えば微妙な所だが、かといって事後承認と放任ばかりではそのうち残存オートボットが二派に分裂しかねんな」
将軍は使役者としての思考を巡らせ、そこまで言い終えてから一つの結論にたどり着いた。
「そうだな…テレトランのメンバーセレクトを使う」
「…何かいい手立てでも?」
「一つ、考えがある。」
ホットスポットは修復と弔いを終える間もなくすぐに司令室に召集され、前線指揮官として次の作戦の説明を受けていた。
「スカイファイアとの共同任務ですか…?別々に動く方が俺としても_」
その言葉はもはや疑義を唱えるという以上に、不信感を滲ませ切った様子であった。
「今やオプティマス・プライムもマトリクスも我らとともになく…であれば私はこの任務を通して君ら二人のリーダーとしての資質を問いたいのだよ。どちらがより適性の高い人物なのか、とね」
将軍は座したまま柔和そうな面持ちでそう告げるも、その実ホットスポットが言い終えるのを待たなかった。
そして彼には作戦に対して眼前の二人が異議を申し立てたとてそれを許容するつもりもない。
「それならもう_」
「話なら聞いたとも。だが君と…そこのスカイファイアはそうまで気心の知れた仲なのかね?むしろその逆だろうというのが、私の勝手な見立てだ。老獪な合理主義者と直情型な前線部隊の隊長とでは意見が対立しないことの方が少なかろう」
「それは…」
スカイファイアとしばし顔を見合わせてから、ホットスポットは歯切れが悪そうに言った。
「正直な話、私も少佐と衝突してばかりさホットスポット」
少し冗談めかして言い、将軍は少し笑った。
「覚えておけホットスポット」
次の瞬間には彼の顔から笑みは吹き飛び、厳然とした声音が響いた。
「…指揮官同士の対立や見解の相違は、従う部下を容易く死に追いやるぞ。どちらが上か定めておく必要がある」
「この任務では…その辺りのこともよく考えて行動したまえ!貴様らがプライムの後任だと言うならば_」
将軍は自身よりはるか巨大な二体を見上げ、射貫くような眼差しのまま言い放った。
「それに恥じぬ戦いをしてみせろ」
「俺は常に実力を以て、己の価値を認めさせてきました。望むところです」
ホットスポットはそう答え、両腕を組んで将軍を見下ろす。
「お互い年甲斐もなく熱くなってしまったようだね」
数秒刺すような視線を交わした後、将軍は微笑した。
「再度任務の概要を説明しよう。平たく言えばディセプティコンの残党狩りだ…本隊からはぐれた一体の潜伏場所を突き止めた。個体名はブリッツウィング、これを排除しろ」
「無論、こちらも支援は行う。作戦領域への輸送に加えて随伴する装甲車をつけよう」
「輸送だけで十分かと。そもそも奴自体、二体でかかる程の相手でしょうか?」
ホットスポットはそう疑義を唱えた。
「勇猛なことだが…スカイファイア、作戦目標の脅威度評価については君の意見も聞いておきたいな」
将軍は目線を更に上げ、沈黙を続けていたスカイファイアに問うた。
「気を抜いていい相手ではないのは確かです。私も十分に準備を重ね全力で当たります。が…それより将軍、一つ確認しておきたいことがあります」
「…捕虜の扱いについてかね?」
質問を予期していた将軍は、手短にそう問うた。
「"あれ"を連れてきたというのは事実なのですか?しかしなぜ…」
相手の返答を待ってから、スカイファイアは静かに言葉を重ねた。
「私も"彼"の諦めの悪さや狡猾さは脅威だと認識している。だがそれ以上に、彼の頭の中身は…我々の役に立つのではないかな?」
将軍はモニターを操作し、仮設独房の監視映像を映し出した。
檻の中にあるのは白や赤、そして青に彩られた戦闘機の蠢く残骸だった。
「ではあなたはその為に、その為だけに…瀕死のスタースクリームをこの基地に収容した訳か」
冷徹にそう言い終えると、スカイファイアは右腕のブレードを起動し将軍に向けた。
生存してほしいキャラ
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オプティマスプライム
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アイアンハイド
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プロール
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ブロードキャスト
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ホイルジャック
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パーセプター
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ラチェット
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ギアーズ
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ホイスト
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サイドスワイプ
-
サンストリーカー
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レッドアラート
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ウィンドチャージャー
-
クリフジャンパー
-
グリムロック
-
ホットスポット