トランスフォーマー:Alternation of Cybertron   作:pova

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一話に詰め込み過ぎるのも良くないかなーと思うようになりました、TF好きのポヴァです。
GW中に更新出来そうとか抜かしておいてこのざまでございますが、今回はようやっとの初戦闘です。
さあ戦いだー


オートボット-地球編④:CONfrontation,Part1

地球_ベース217_2027年_9月19日_

 

 

プロール達に呼ばれたオプティマスら三人はベース217へと赴いていた。

長いリフトでの移動を終え、広大な地下空間が彼らの眼前に広がる。

整備ドックや工場区画、研究施設と思しき建物が並び、それらはアーク号さえ収容出来そうなほどの敷地面積に効率的に配置され、さながら地下都市といった趣だった。

 

アイアンハイドは怪訝そうに言う。

「ベース217ねぇ」

 

打って変わって興味津々といった様子のパーセプターは辺りを忙しなく眺めていた。

「大変良い設備だ」

 

アイアンハイドは疑念を持ちながらも基地の細部まで目を凝らすとその威容に圧倒されていた。

「妙だ…サイバトロニアンの生態を知らずにこうまでお誂え向きの代物が作れるものか」

 

オプティマスは自らの数歩前を歩く人間に声をかけた。

「少佐」

 

「プライムだったか、何か?」

 

プロールから聞いた話を受けてか、警戒心を解かず短く事務的な口調で尋ねる。

「我々の処遇に対してどのような命令が出されているのか聞かせてもらえないだろうか」

 

「…それならこれから直接、聞くことになる」

そうにべもなく返し、少佐はまた歩き出した。

 

しばらく進むと整備ドックらしき空間に彼らは招かれた。

クレーン等を備えた巨大なメンテナンスハンガーはサイバトロニアンのサイズとちょうど同じぐらいの高さまで六つの階層に分かれていた。

彼らのおよそ中腰あたりに位置する三階に老人が一人、佇んでいた。

「やぁ」

「待っていたよ」

彼はちょうど梯子のような構造の手すりに両肘をのせ、前のめりの姿勢で親しげにそう言った。

 

「お連れしました、将軍」

 

彼らの足元で声を張り上げそう告げた少佐に将軍はそっけなく応じる。

「見れば分かるさ、ご苦労…下がってよし」

「さて、君が彼らのリーダーか」

 

「オプティマス・プライムです、将軍」

オプティマスは膝をついて姿勢を低くし、彼の位置に目線を合わせた。

 

「もう随分長いこと待っていたよ…今か今かと、君に会うのをね」

「まぁ、座りたまえ。あいにく君に合う椅子はまだしばらくは用意出来そうにないが、そこのコンテナにでも」

そう言うと将軍はオプティマスのそばにあった資材用のコンテナを指し示した。

 

「はい」

オプティマスは言われたようにコンテナを引きずり出し、将軍と向かい合うようにして座った。

「将軍、お聞きしたいことが」

 

「分かっているとも」

「君らの当面の資材・燃料の補給は我々が受け持とう」

「このベース217も諸君らの好きに使ってくれて構わんと、まぁそういうことになっている」

 

「…」

オプティマスは相手が自分の名を知っていたことへの疑問を一旦呑み込み、話を進めた。

「ディセプティコンの討伐に参加する見返り、ということでしょうか」

 

「そうした意味合いもある…が、私としては単に君達に拠点を提供したいと思っている」

「必要なら君らの船に機材を運び込んでくれても別に構わないが」

「好きな方を選んでくれ」

「それと、君を呼んだのには他の理由もあってな」

 

「何でしょうか」

オプティマスはわずかに身構え、訝しむように訊いた。

 

「部隊の質というのは指揮官の顔を見ればある程度は分かるものだ…その意味では既に目的は果たしたと言えるな」

老人の視線は獲物を見るような目に変化する。

「しかし、君はなんというべきか…まるで背負った重荷に耐えかねているかのようだ」

そう言うと将軍の値踏みするような睨めつけるような視線はかすかに憐憫を帯びたものに変わる。

 

「…」

オプティマスは無感情にその言葉を聞いていた。

 

「いやすまんすまん、年寄りの意地の悪さが出てしまった」

「君達は得難き人材だ…我々は大いに信用し、また期待している」

 

「それは光栄です」

柔和に見えて取り付く島のない将軍の話し方に、オプティマスは努めて平静に返す。

「ところで将軍…現在、この星でのディセプティコンはどれほどの規模の攻撃を仕掛けているのですか」

 

ハンガーの正面に備え付けられたモニターが起動し、地図が映される。

「始まったのは今から八か月ほど前だったか」

「辺鄙な田舎町が一つ二つ地図から消えた」

「以来世界の各地で確認された数は全て合わせても三十にも満たん」

この星全体を写した地図のうち、侵攻を受けた地域であろう数十~数百箇所に赤点が重なる。

「しかし彼らは一体一体が従来の兵器で対抗することが困難な存在だ。中には特異な能力や三つの形態を持つものさえいた」

「それに彼らの拠点の所在も依然として掴めないままでな」

 

「連中の母艦はステルス機能を有しています」

 

オプティマスのその言葉を受け将軍は手を叩いた。

「そう」

「それだよプライム」

彼はオプティマスを指しながら愉快そうにそう言った。

「我々には今敵の情報が不足している」

「それも我々が諸君らに期待していたことだ」

 

「…ではその侵攻はどこか一点に集中しているのでしょうか?」

モニターを見てそうでないことを理解しながらもオプティマスは訊いた。

 

「これまでのケースを見るに散発的かつ場当たり的な傾向が見られる、全体的にな」

将軍も横のモニターを見、言い含めるようにそう答えた。

 

オプティマスは顎部に手で触れ、考え込むように体勢を低くした。

「今までディセプティコンが他の星を侵略する際は、入念かつ高度な事前準備を経てからの殲滅戦が基本でした。聞いた限りではここでのやり口は今までの彼らの物と大きく異なります」

 

「それは妙な話だ」

そう応じながら将軍はモニターを操作する。

「関連しているかは不明だが連中の指揮をとっていると目されているのはこのNBE-03…Non-Biological Entity-03(非生物型地球外生命体3号)だ」

画面が切り替わり、映ったのは鮮やかな赤や青、そして白に彩られ、でかでかとタトゥーを入れた戦闘機だった。

 

「"非生物型"…ですか?」

オプティマスは怪訝そうに返す。

 

「その呼び方が気に障ったのならすまないが…単なる"地球外生命体"の呼称は先客にもう使われてしまっているのだよ」

「これが3号だ。我が軍の戦闘機に擬態している」

 

「スタースクリーム…ナンバー2の奴にそんな権限はないはずです。銀色の戦車や戦闘機は確認されていないのでしょうか」

 

「今のところはな…本来指揮権を持つのは_」 

 

将軍がそう応じ言い終えるのを待たず、オプティマスは答えた。

「リーダーのメガトロンです。奴は我々の船を襲った際に確実にネメシスにいました」

 

「ではなぜそのメガトロンは姿を現さないのだろうな」

 

かつてメガトロンの体は人型から更に二つの形態へと変形可能なトリプルチェンジャーへと変貌させられていた。

オプティマスの脳裏に浮かんだその光景は彼に戦慄という感情を思い出させるに十分であった。

「メガトロンの体は新たな擬態を行えないものになってしまったのでしょう。他の星へ潜入するに当たり自ら出てくることは考えにくいかと」

 

「そのうち乗り込んで確かめてきてもらいたいな」

将軍は冗談めかした口調と本気の目で短くそう言った。

「オプティマス・プライム。我々は彼らに対抗出来る戦力を求めている」

「元は諸君らの星から持ち込まれた災厄だ。それを終わらせるため、命を懸けて戦ってもらいたい」

「無論、そのためのサポートは惜しまないよ」

 

「命に代えてもこの務めは果たす所存です」

オプティマスは将軍の眼前にまで近づき、決然とそう言った。

 

「あぁそれと君達のチーム、というよりこの基地に所属する部隊は今後…」

Counter Deception Earth Force Gamma(対ディセプティコン地球軍ガンマ部隊)と呼称されることになる」

将軍は何気なくそう通達したが、オプティマスは降りていく将軍を見ながらその珍妙なチーム名に少し呆気にとられたような顔をし、背後に控えていたアイアンハイドらと苦笑した。

 

 

 

 

ベース217の司令塔とも言うべき中央作戦室はこれまたサイバトロニアンにとっても不自由のないサイズが確保されていた。

ドーム状の建物の内部空間は三段ほどに分かれており、各円周上に人間用の通信端末や情報機器が整然と立ち並ぶ中、最も下段に位置する中央には巨大な立体映像を映し出す円形のホログラム装置があった。

 

その傍らに佇む参謀に呼ばれ、三人のオートボットが作戦室にやって来る。

「呼んだか?」

 

「何の用だ?」

 

口々にそう言ったウィンドチャージャーとクリフジャンパーに対し、プロールは迅速かつ的確に通達する。

「この星で最初の任務だ。ディセプティコンの攻撃を感知した」

「救援に向かうぞ」

 

「へいへい、行って参りますよ参謀殿」

「ん…?向かうってお前今_」

 

戸惑うクリフにハウンドが割って入り、忙しなく尋ねる。

「で、アシには何使うんだ?」

 

「手配してもらった輸送機の出発準備がもうじき完了する」

「急いで乗り込め」

プロールはそう促し、走り出した。

 

「こんな連中のために戦ってやる義理があるのかどうか」

改造車に変形して後に続きながらもチャージャーは怪訝そうに言った。

 

「暇だしいいじゃねぇの…久々に連中の顔も拝みたいしな!」

クリフはプロールを追い越すほどに活発に走りながらそう答えた。

 

二つのプロペラを横並びに備えた大型の輸送機がニ機、今にも飛び立ちそうな様子で佇んでいるのをハウンド達は発見したが、そこでふと我に返ったかのように彼は訊いた。

「待て、そもそもどうやってこの穴ぐらから輸送機を飛ばす?」

 

プロールは何も言わずに含みのある微笑を浮かべ、真上を指さした。

輸送機の駐機していたちょうどその場所の天井がスライドして開いていき、下からは無機質な天井に代わって空が見えた。

 

「無駄に凝った仕掛けだな」

クリフジャンパーはやや呆れ混じりにそう言い、輸送機後部の積み降ろし口に向かった。

 

「ハウンドとウィンドチャージャー、クリフは先に出ろ」

「レッドアラートとホットスポットに私が後から向かう」

輸送機に乗り込んだハウンド達にプロールは機体後部の積み降ろし口から顔をのぞかせてそう言い、去っていった。

 

輸送機はその場から垂直に離陸し、基地から飛び立つと速度を増して目的地へと大急ぎで向かった。

その操縦席の中で操縦士の一人がふと口を開く。

「妙な感じだ」

「人や荷物を運ぶのは慣れっこなんだが…」

 

その声を聞きつけたクリフは彼らの種の基準からしても小さなその体を更に縮め、上半身を縦にして音もたてずに操縦席のすぐ後ろまで迫る。

「そりゃ悪かったな、なんなら車に変形しといてやろうか?」

 

彼はさして物怖じもせず短く答える。

「そらいい」

 

「冗談だよパイロットくん」

クリフはそう軽く応じながらのそのそと後部へと戻っていき、ハウンドとウィンドチャージャーに言った。

「で、武器の準備は?」

 

そう問われたチャージャーは機体の床に寝転びたまま、無造作に積み上げられている武器を見やって訊いた。

「ハウンド、このガトリングはお前のか?」

 

「これか、そうらしい」

ハウンドはガトリングガンを手に取り、両手で抱え上げた。

「…六銃身のものが三つ束ねてある、計十八の銃口が相手に向く訳か。頭の悪そうな代物だ」

「大いに気に入った」

ハウンドは右手で銃をがっちりと保持し、肩に担いで不敵に笑う。

 

隣に鷹揚と構えているもう一人とは対照的に、神経質そうな面持ちの副操縦士はその様子を振り返って見ながら言った。

「細かいスペックやらはそこの説明に書いてある、文字は読めんだろ?」

「…そういやなんであんたら三人が真っ先に運ばれてんのか、良ければ教えてくれないか。上の連中はどいつも秘密主義の機密信奉者なんだ」

 

ハウンドは座り直し、説明書を探しながら返事をする。

「あぁ…俺はハウンド、本物そっくりのホログラムを展開出来るガンマンだ」

「隣のこいつはウィンドチャージャー、両腕から強力な磁力を放射出来る」

ハウンドは端にいたチャージャーを向けた手で示しながら言った。

 

そう紹介されたチャージャーはふてぶてしく寝転んだまま気怠そうに応える。

「よろしく有機物」

 

彼の不躾な返答を気にした素振りもなく操縦士が訊き返した。

「んでこの赤いチビは?」

 

黙って近くの箱に腰かけていたクリフは自分の話題に勘づくと意気揚々と答える。

「俺か?…俺ァ不死身だ」

クリフジャンパーは大口を開けて笑った。

 

「こういう奴なんだ」

「名前はクリフジャンパー。"不死身のクリフ"を自称してる」

ハウンドはなるべく彼の方を見ないようにしつつ、そう補足した。

 

「別にいいだろ事実なんだから、そんな目で見るなよ!」

クリフは自身に向けられた視線と微妙な空気に向けてそう言い返す。

「そんでさ、目的地の到着まであとどのくら_」

 

「もう着くぞ」

 

副操縦士の返答を受けてハウンドが慌てて通信を試みた。

「…プロール、下の状況は!?」

 

「この工場地帯では八体が確認されたと聞いた」

互いに飛行中であるためか通信の状態は芳しくなく、プロールのその言葉はノイズ混じりに彼らに届いた。

 

「誰がいるかとか分かんねーのかよ?」

 

「無理だな」

「健闘を祈る」

クリフの問いにプロールはそう返し、通信を切った。

 

「現場に満足に情報が降りてこないのはお互い様だな。同情するぜエイリアン共」

操縦士はしきりに操縦桿やボタンを操作しながら、呆れるように言って笑った。

 

その様子を見ていたウィンドチャージャーがゆっくりと立ち上がる。

「降りて確かめりゃいい」

「さぁ行くぞ」

言い終わらないうちにチャージャーは磁力を手から放って後部の扉を跳ね飛ばし、そこから飛び上がって地上へと身を投げ出した。

 

「へいへい」

「よっと!」

 

「…向かうか、初仕事へ」

彼に続いてクリフとハウンドも事もなげに強風と重力の中に身を投じる。

 

その様子を口を半開きにしながら振り返って見ていた副操縦士はふと、向き直って問うた。

「…あいつらパラシュート付けてたか?」

 

「さぁ?」

操縦士はあまり考えずにそう返し、二人は押し黙った。

 

 

 

 

三人が一切の制動や減速を伴わないまま、地面に向けて真っ逆さまに落ちていくまさにその最中、ハウンドが口を開いた。

「しかし八対三か」

「サイバトロンにいた頃よりはマシな戦力比だが」

 

眼下に広がる工場地帯が徐々に露わとなっていき、チャージャーはその詳細に目を凝らす。

「気が滅入るな」

「…見えて来た。空にいるのはアストロトレインとブリッツウィングだろう」

 

「ミックスマスターに…」

「クランプルゾーン」

「そしてあれはオンスロートか」

ハウンドは地上に目を向け、うごめく影に焦点を合わせた。

「走ってるのはハードケースとドレンチ」

 

「報告は八体だろ?あと一人誰が隠れてる…」

クリフは両手の指を折り曲げて数を数えながら怪訝そうに言う。

 

「さぁな」

「着けば分かる」

ウィンドチャージャーは短くそう言いかけ、地面に激突した。

辺りに衝撃音と土煙が広がる。

それとほとんど間を置かずに赤と緑の影が空を切って墜落した。

 

「やっぱ痛ってぇな」

なにごともなく起き上がった三人のうち、苦い顔をしてクリフはそう言った。

着地の衝撃によって彼らにもたらした影響といえば、さしたる損傷もなく土と砂がボディの表面を汚したのみであった。

 

「さて、どう攻めるか」

チャージャーは動じず、軽く首をひねりながら悠然とそう問うた。

 

「俺がホログラムを展開しながら撹乱する、二人は左右に回り込みつつ前進しろ」

「まずトリプルチェンジャーを潰す。クリフはアストロを、チャージャーはブリッツを相手するんだ」

基地の簡易的なホログラムマップを展開し、ハウンドは短く説明した。

 

「他の連中は?」

 

「一人残らず俺に任せろ」

「俺のホログラムにアストロトレインとブリッツウィングが注意を向けた瞬間に不意を衝け」

 

チャージャーは説明を聞き終えると、ハウンドの肩に手を置いた。

「分かった」

「俺ら二人の命をお前に預ける」

 

「もう何度目か分かったもんじゃないけどな…!」

クリフはそう言ってハウンドと軽く拳を打ち合わせた。

 

「行くぞクリフ!」

 

二人が二台へと変形して目標へ向かっていく様を眺め、特大のホログラムの投影準備をしながら、ハウンドは小さく呟いた。

「掩護が止まった時は死んだ時だ…」

「それはないがな」

「…多分」

 

 

 

 

工場地帯の空中を飛び回っていたスペースシャトルのような物体はその姿を人型へと瞬間的に変え、同じく戦闘機から変形した人型のロボットに衝突しそうな程の勢いで向かって叫んだ。

「ブリッツ!」

 

自身の倍はある質量に押し潰されかけたブリッツウィングは苛立ちながら怒鳴り返す。

「ぁあ!?何だよアストロ!?」

 

掴みかからんばかりの勢いでアストロウィングは問いかけた。

「こっちが訊きたいぐらいだ…後ろを見ろ」

「全くどういうことだ」

「どうするブリッツウィング」

 

ブリッツウィングは強制されるように促されてその光景を見、そして戦慄した。

工場の周辺には荒れた道の他には何もなく、荒野が広がるのみ…

そのはずだったが、今その地には巨人がゆっくりと歩き出し、彼らに向かって迫っていた。

「ハロニクス・マキシマス*1…」

かすかに呟いたその名は彼に古い記憶を呼び覚まさせるものであり、かつて見た忌まわしい景色が彼の脳裏に浮かぶ。

「全員、聞け…逃げるぞ」

その声は震え、バイザーの焦点は定まっていなかった。

 

「何言ってんだブリッツウィング!!ここを破壊してエネルギーを頂いてくってのがサウンドウェーブの指令だったろうが!」

 

異議を唱える通信に怒鳴り返しつつ、戦闘機に変形し逃げようとして体を反転させた。

「黙れドレンチ!!お前らは奴の恐ろしさを知らねぇから_」

 

「落ち着けブリッツ」

アストロトレインはそんなブリッツウィングの尾翼を左手で掴み、戦闘機のエンジン噴射を相殺し制止しつつ慎重に語りかけた。

「奴は何ギガサイクルも前にスクラップになった」

「よく見ろ、あれは見せかけのホログラムだ」

そう言いながらアストロトレインは右腕に二基備わった二連装の砲塔から光弾を放った。

吸い込まれるようにして巨人へと向かった四つの光弾は弾かれもせずに巨人を貫通し、ハロニクスの姿を霧散させたその勢いのまま、遠方の山を抉った。

「俺が知る限り、そんなことが出来るのは_」

 

「ハウンドか?でもアークはこの星に落ちた時に潰れたんじゃ…」

ハロニクスが幻影であると悟ってか、幾分落ち着きを取り戻したブリッツウイングは人型に戻り、地面に降り立った。

 

「だとしても俺達はその瞬間を見ていない。見てはいないんだ」

そう言いながらアストロトレインもその巨躯を地面に下ろす。

「そして奴がこんな真似をした目的は撹乱だ」

アストロトレインは彼の腰ほどの高さのブリッツウイングを見下ろすようにしながらそう言った。

「となれば_」

 

そう言いかけたアストロトレインに向かって、クリフジャンパーは変形を解除しながら急接近し叫んだ。

「そぉらよっと!」

 

クリフの振りかぶった右ストレートを片手で受け止め、拳を握り潰しつつアストロトレインは呟いた。

「そんなことだろうと思った」

 

「…このデカブツめが」

右手を潰されながらも忌々しげに、あるいは愉悦を滲ませながらクリフはそう吐き捨て、左手から愛用のメイスを展開し素早く振りかぶった。

 

棘が不規則に配置された戦棍による斬撃を胸に受け、アストロトレインは苦悶の表情を浮かべる。

「チビめ、今日こそ……殺してやろう」

 

「残りのボッツはどこに_」

クリフジャンパーをアストロトレインに任せ、ブリッツウィングは飛び立ち、上空から周囲を見回した。

突然、何かに弾き飛ばされたかのように体勢を崩し、彼は真っ逆さまに落下して工場のタンクに激突した。

「何だ!?体が弾かれた…!?」

「さてはお前か、磁石野郎!!」

内側から燃え上がり始めたタンクから飛び上がってブリッツウィングは大声でそう叫びながら、敵影を探した。

 

「珍しく大当たりだ、戦バカ」

チャージャーは無表情でそう言い、転がっていた重機の残骸の上に降り立った。

 

自身に燃え移った火も意に介さず、ブリッツウィングは叫ぶ。

「ふざけた野郎だ…クランプルゾーンとオンスロートはハウンドを迎え撃て!」

「残りはせいぜい、死なないように作業を続けてろ!」

ブリッツウィングは最後まで言い終わる前に、背中の砲塔を前方に向けるとすぐさま発射した。

轟音とともに高速で放たれた砲弾が一直線にチャージャーを吹き飛ばした。

 

「余計な手間だな」

「ついて来い!」

指示を受けたオンスロートは不服そうにそう言い、トレーラーに変形した。

クランプルゾーンも一つの前輪と二つの後輪を持つドラッグレースに用いられるような改造車に変形し、後に続いた。

 

クリフはアストロトレインのレーザーとミサイルの猛攻を跳びはね、あるいは弾を殴り飛ばしていなしつつその様子を視界の端に捉えていた。

「ハウンド!二体そっちに行った!!」

 

「見えている」

猛然と迫る二台のディセプティコンに対してハウンドは動じず、再度のホログラム投影の準備をしていた。

「ホログラムに質量はない…」

「これは目くらましだ」

ハウンドは自身の姿を投影した数十体のホログラムを横一列に展開する。

 

「奴に似合いの姑息な手だ」

「クランプルゾーン、まとめて消し飛ばせ!」

オンスロートはそう号令を出しつつ二連装の砲塔を展開させ、自身も砲撃を放つ。

 

クランプルゾーンは車両のまま、両肩の二基の砲口を前方に展開させ、光条を放った。

放たれた光は数十と並ぶハウンドの姿を薙ぎ払い、跡形もなく消し去った。

そのうち一つだけは光だけでない確かな実体を伴い、攻撃にもわずかに耐えてみせたものがあった。

だがそこから巻き起こった爆風が霧散した後には最後の一つも彼らの足元に緑の残骸を散らばせているだけであった。

「いい気味だ」

 

突如として彼らの真後ろに影がさした。

「それは良かった」

一体残らず消し飛ばされたはずのハウンドは彼らの背後からクランプルゾーンにそう言葉を投げかける。

 

「なんだ!?」

そう驚愕し、振り向こうとした二体が最初に目にしたのは彼ら自身に向けられたガトリングガンとそこから放たれる無数の弾丸だった。

一度に三発を同時に発射し、一分に数百という弾丸を発射可能なその火器によって二体の体躯は瞬く間にズタズタに引き裂かれ、オンスロートとクランプルゾーンは地に倒れ伏した。

 

「不思議そうな顔をしてるな」

瀕死のディセプティコン二体を眺めながらハウンドは訝しむような表情を浮かべた。

「ホログラムの中にたまたまそこらに転がってた緑の車を紛れ込ませ、俺は周囲の景色を車体に映しながら迂回しただけなのに」

オンスロートは這う這うの体ながら尚も立ち上がろうとし、右手で素早く銃を取り出した。

「しぶといじゃないか」

ハウンドは感心しつつそう言い、彼の右腕を踏み潰した。

 

「甘く見てくれるな…!」

オンスロートは痛みにわずか顔を歪め、呻きながら背中の双砲から弾丸を放った。

「勝った気でいるから足を掬われる!」

直撃したハウンドは吹き飛ばされ、爆炎とともに彼の視界から消えた。

 

ハウンドは一瞬で吹き飛ばされ、胸と右肩に大穴が空いた状態で倒れていた。

その表情に生気はなく、穴から漏れ出たエネルゴンは小さく水溜りを作っている。

オンスロートはなんとか立ち上がり、無事な左手で銃を構え直し、ゆっくりと歩き出す。

足元に横たわるハウンドをしばし見下ろし、銃を左手に保持したまま、右手をなんとか動かして彼の頭を掴んで持ち上げ、その苦しむ様を見届けようとした。

 

その瞬間ハウンドは意識を取り戻し、胸部に隠していたナイフを左腕で掴んだ。

彼はすぐさまオンスロートを蹴り飛ばして姿勢を崩させる。

オンスロートは体勢を乱しながらも反射的に銃を放ち、それはハウンドの側頭部を抉った。

しかしそれとほとんど同時に、彼の首筋にハウンドの左腕がねじ込まれ、頭部と胴体の繋ぎ目はナイフで引きちぎられた。

割れたオンスロートのバイザーからは急速に光が失われていき、そのまま彼は力なく地面に倒れた。

 

ハウンドは膝をつき、定まらない足取りの中でつぶやいた。

「勝った気でいたのはどっちだろうな、軍師殿」

背を丸め、右腕を力なくぶら下げながらハウンドは周囲を見回す。

「このテの武器は扱いが難しいな…こっちは終わったぞクリフ」

「…クリフ?」

 

ハウンドに上空から声がかかる。

「赤いチビならこの通り真っ二つだが…縦にな!」

「もしやこいつをお探しだったかな?」

アストロトレインは意地悪げにそう言うと、引きちぎられたクリフジャンパーの右半分をハウンドのもとに投げ落とした。

 

「…またか」

ハウンドは静かにそう言い、特に感情を乱された風もなく、上を見据えて叫んだ。

「クリフ一人に随分と手酷くやられたようだなアストロトレイン!」

アストロトレインは胸部を裂かれ、左脚、そして顔の左半分を潰されていた。

「図体ばかりデカい割に情けない」

ハウンドは笑い飛ばすようにそう言い、挑発をかけた。

 

その言葉を聞きアストロトレインは顔を歪めてクリフジャンパーのもう半分を全力で投げ飛ばす。

ハウンドはナイフを投げ捨て、空いた左手で背中からショットガンを取り出し、迎撃の構えを取る。

眼前に迫るクリフの残骸を一顧だにせず側転して避けつつ、ロボットモードのまま低空飛行で急接近するアストロトレインに向けてハウンドは数度銃を発射した。

アストロトレインが掴みかかるように伸ばした左腕がハウンドに届くほんの数秒前に、アストロトレインの左半身に散弾がめり込み、その衝撃で体勢を崩した彼は地面に激突した。

 

「クリフ、さっさと目を覚ませ」

ハウンドは空となった銃を投げ捨て、半分に引き裂かれたクリフジャンパーにのそのそと近づき、静かにそう告げた。

「無理そうだな」

クリフジャンパーの断面からは体内を循環していたエネルゴンが漏れ出し、彼の内部機器が乱雑にはみ出していた上、瞳とそのスパークの輝きはもう残っていなかった。

 

地に伏したアストロトレインと入れ替わるように、戦車とも戦闘機ともつかない奇怪な姿をした燃え上がるなにかが遠く上空からハウンドに迫っていた。

「…ブリッツウィングか、あれは」

 

機体下部の砲塔から砲撃を放ち、それと同時に翼の下部に備えたミサイルを発射しながら、高空から急降下しつつハウンドを猛追するブリッツウィング。

しかし動けないハウンドにそれらが迫りくるさなか、凄まじい速さで迫る影に下からその体躯を穿たれ、アストロトレイン同様に墜落した。

「何だ!?…誰がや、やりやがった…!?」

 

「砲弾が俺に効くと思うか?」

「撃たれた勢いのまま吹き飛ばされたついでにドレンチ達の胸に風穴を開けて来てやった」

無傷のウィンドチャージャーは変形したままブリッツウィングにそう言うと、ハウンドの横に停車した。

「なぁハウンド、俺のマグネットパワーがなければお前は今頃粉々に消し飛んでたと思わないか?」

チャージャーは空中で車体をひねるようなアクロバティックな回転を見せながら素早く変形しつつ、ロボットモードで隣に並んだ。

 

「今のは一体…」

ハウンドはそう言いつつ体を動かそうとしたが、今の攻撃の余波で彼の片足は動かすことさえ難しくなるほど損傷していた。

 

「砲弾をも止めるのが俺のマグネットパワーだ」

「当然その逆も出来る」

ハウンドの左肩を抱いて持ち上げつつ、ウィンドチャージャーはそっけなく言った。

 

「はっ…なるほど、そういう…ことかよ」

ブリッツウィングは落着した自身が地面に空けた大穴から手を伸ばして這い上がった。

「さながらレールガンだ…な」

「大したもんだぜ、磁石…野郎!」

胴から流れ落ちるエネルゴンのせいか、尚も勢いを増しつつある体の炎に気を取られる風もなくブリッツウィングは立ち上がる。突然彼の背中に備わった砲塔が左右に割れ、中に格納されていた剣が飛び出し、地面に突き刺さった。

ブリッツウィングは嗜虐的な、あるいは被虐的な笑みを浮かべつつ、それを力強く引き抜きチャージャーらに迫らんとした。

 

「まだやるか?」

ハウンドは焦燥に駆られた声音で諭すようにそう問うた。

 

ふとその言葉を聞くとブリッツウィングは考え込むような顔をして歩みを止め、通信を試みた。

「…スタースクリーム!!アストロが負傷した!オンスロート達もだ!!」

「オートボットどもが来てんだよ…俺とあと二人でなんとかする」

「残りは全員今すぐ帰還させろ、トランスワープだ!緊急転送しろ!」

 

「お前はいいのか?逃げ帰らなくて」

そう言いながら、ハウンドは背中に備えたキャノンを展開し、発射した。

 

不意を衝いたその一撃は命中するかに思われたが、ブリッツウィングは片手に持った剣で難なくそれを切り飛ばした。

「ヤラレっぱなしで帰れっかよ」

「この…俺が!!」

弾頭が剣に触れると同時に爆風と爆炎が広がり、周囲の色彩は黒と橙に染め上げられたが、その奥から悠然と炎を纏いながらベージュと紫の影が徐々に露わになる。

 

「さ、始めるか」

ウィンドチャージャーは力を使い果たしたハウンドを磁力を使って弾き飛ばし物陰へ遠ざけてから、かすかに笑みを湛えてそう言った。

 

「始めよう」

笑いながらそう返したブリッツウィングはさながら燃え上がる剣を振るう炎の化身だった…

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