トランスフォーマー:Alternation of Cybertron   作:pova

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どうも、忌明けのポヴァです。
今回は散らばった要素をまとめていく感じの回となります。
視点はアーク→クンタッシ三(四)兄弟です。


番外編:はこぶね

 

S

 

「…我の眠りを妨げるは誰ぞ」

我は思考するより早く、そして明瞭に言を発した。

我は目覚めぬ筈だった。嘗て王は我を永遠に封じるよう配下に命じられた。

「何故、今頃に…」

而して期せず覚醒した意識が感知した異変は其れだけに留まらなかった。

ふと体の内側から懐かしく暖かな光が広がったのを感じる。

放たれた光は弱々しくも素早く体の隅々へと行き渡り、宵闇に沈み曖昧だった我と外との境界をじんわりと染めて行く。

オートノマス・マキシマスの名誉に誓って間違いなく、其の青い光こそは王の証たる…叡智を包む結晶のものである。

聖なる律動にうかされたかの様に我は目を凝らし、緑の光条を岩々の隙間から微かに天へと巡らせた。其の光は触れた岩を瞬く間も無しに塵芥へと変える。

眼前の景色を遮る岩々を消し飛ばすと、其の向こうに在ったのは緩やかに昏くなり行く空であった。だが其処に浮かぶ星々の並びは我の知る物とは異なっていた。

故郷の空には二つ、時期に依っては三つ…否もっと多くの衛星が大きく輝いていた物だったが…

衛星が一つしか無い夜空という物は考えられない光景であり、慣れ親しんだあの景色と比して何と寂しい物だろうかと、小さく息を吐く様に低く呻った。

そうして天に向けていた意識を体に戻すと、体と岩との隙間から吹いた風がふと我を軽く撫で、其の儘に通り過ぎていく。

此の姿で倒れ伏している以上、頭を回して確かめる事はもはや叶わなかったが、表面の鎧から感触や温度を知る事は出来た。

その結果からして、やはり我の横たわる体躯を支えているのは懐かしき金属の大地では無い様だった。

我は眼窩から発した光を収め、体内の独立情報制御機構との通信を試みた。

「テレトランⅡ、応答せよ…テレ、トラ…ンⅡ_」

繰り返し呼び掛けた時にふと、動作が覚束無くなった。

其の事から体内の燃料の殆どが残っていない事に気がつくのにそうはかからず、同時に眠っていた間の旅路の過酷さも朧げながら悟る事が出来た。

同時に此の異界が旅の、そして旅人たる我ら自身の終着点に相違ない事を理解した。

あぁ、ケイス・キンセアの峰々よ…我の無明を赦し給え。

明瞭になりつつあった視界が再び曖昧な物になる中、辛うじて機能する聴覚から我は程近くに接近する物体の在る事を微かに感知した。体の調子が十全であればもっと早くに感づけたに相違無いが…我の中にいた"操りし者"の意識も既に無いのだとしたらそれも無理からぬことだ。

そして今、我がどうにか知覚できたそれらは幾つかに分かれて地上から迫っている様だったが、其の詳細を確かめる時間は多く残されていなかった。

意識が急速に薄れ行く中、我は最後の力を行使する。

接近する物体の方向に向け、己を律し規定する規範に従い艦に残った全ての攻撃力を解放した。

アルファトリンの御名のもとに呪われよ、我が怨敵よ。この異界に満ちる異形なる者共よ…!

 

A

 

今、俺は先日捕まえたディセプティコンが意識を取り戻すのを待っている。

この前工場から帰る道中、輸送機の中で目を覚ました時は流石に慌てたものだが、チャージャーの磁力とクリフの馬鹿力でどうにか沈黙させることが出来た。

しかし、目の前の彼女から得られる情報の中に有益なものがあるかは、実を言うと少々…疑問だった。

そもそもどのような手段を用いて訊き出したものか、俺はまだ決めかねている…

 

「その音…誰だ?」

物思いにふけっていた自分の意識を引き戻すように、どたどたという足音が迫って来た。

 

「ようアラート。俺だよ」

「どうだい調子は?」

騒がしい走り方で迫ってきたクリフはそう言った。彼はなぜかいつも陽気そうな笑みを浮かべている。

 

「…別に」

その様子に俺は少し辟易し、にべもなく突き放す。

「分かってて訊いてるようならその角折るぞ」

 

「あー…捕虜の見張り役だっけか」

若干の申し訳なさを見せながらそう言う彼の姿はわざとらしくも見えず、この単細胞はシンプルに忘れていただけのようだった。

 

「それと目を覚ましたら尋問だ」

鬱屈とした気分のまま溜息じみた排気をしつつ、体ごと彼の方を向いてそう返す。

 

「アークに引きこもってるサンストリーカーに来てもらえよ」

クリフはそう言うが、数百万年の時間を共に過ごして来た兄弟として、一つ確信に近いものがある。

あの難物は決定的に他者の扱いに向いていない。

 

「駄目だな、せめてサイドスワイプの方がいいか?でもあいつバカだしな…」

俺と同じことを思ったのか、クリフは考え込むような仕草をして、小ぶりな体躯を更に丸くした。昔どこかよその星で見た赤いボールみたいな虫に良く似ている。

 

「お前がそれを言うか…」

気がつけば俺は呆れ混じりの漏れ出るような声で、半ば反射的にそう言っていた。

 

「ねぇ」

艷やかかつ冷徹な声が辺りの空気を震わせる。寒気のする刺々しい風が運ばれてきたかのような錯覚が、俺のセンサーに訪れた。

「…あたしもお話に混ぜてくれてもいいんじゃない?」

正面に向き直り、その姿を見るとにわかに自分の意識が先鋭化されて行くのが感じられた。

 

「げぇ」

「またなアラート!」

クリフジャンパーは眼前のディセプティコンに対して面倒そうな顔と態度を隠しもせず、踵を返した。

「チャージャーに呼ばれてたのを思い出した!」

「フルステイシスのルールを人間達に教えてやらないとなんだ!!」

 

「逃げたな」

そう軽くつぶやき、それを最後に意識を切り替えた。

立ち振る舞いや言葉は非番の時のものから保安員としてのそれへと、自分の中で緩慢に…しかし明確に変化していく。

「さてサンダーブラスト。気分はどうだ?」

 

「まぁまぁね…確か、あんた…レッドアラートだったかしら?」

サンダーブラストは手足に枷を付けられた状態で座らされ、更に椅子に縛り付けられていた。

 

「ようやく俺が色替えしたサイドスワイプじゃないと分かったらしいな…迷ったらこの頭で見分けろ」

俺は頭部の二つの突起を指してそう言った。

 

「傷だらけの方がアラートって訳ね」

サンダーブラストはそっけなくそう言い、斜に構えて俺を見た。

俺の頭部は左側面に大きく切り裂かれたような跡が残っている。とある事情から修繕は行っていないが…そろそろ皆に理由を告げるべきだろうか?

…ちょうどそんなことを考えていた時、部屋の入口から音も立てずに滑り込んだ影があった。

敵に侵入されたかとも思ったがよく見ればそれはしなやかなフォルムを持つ四足歩行の小さな…しかし頼れる仲間だった。

「スチールジョーか、いいタイミングで来てくれた」

その言葉に耳を傾ける素振りも見せずに彼は軽く伸びをして、ひょいと肩に飛び乗った。またブロードキャストの中から勝手に出て来たらしい。後で俺もまとめて怒られそうな気もするが…

左手で軽く撫でてやると彼は気ままにゴロゴロとギアの軋むような音を発した。

「さて、ディセプティコンについて知りたい情報ならいくらでもある…それをお前から訊き出す手段もな」

発声回路から絞り出すような低く重いトーンのままそう言うと、スチールジョーも一転して同調するような歯ぎしりをしながら唸った。

「手始めに手足を鋳融かして拷問器具の素材にでもしてやるところからか」

そう告げると彼女の顔色がにわかに曇るのが感じられた。

…別にこの言葉は脅しではないし、実際昔はそうした処置をすることも少なくなかった。自分には元々医師を志していた時期があり、その手の技能は多少有していた。

「事と次第によってはスチールジョーの隠された機能をお披露目することになる。それを見て来た全員に知らないまま死にたかったと言わしめた物をな」

スチールジョーはブロードキャストの中に籠もっていることが多いが、彼とて単なる諜報だけが任務だった訳でもない。

誇るべき戦闘力があることからも分かるように、暗殺や拷問もお手の物である。

だが、この話の内容は半分ハッタリだ。

彼にそこまで過激な機能は搭載されていない、はずだ…恐らく。

 

「…そ、その前に一つだけ!」

「なんであんたにはあたしのシークレットパワーが効かないの?」

重苦しい部屋の空気を吹き飛ばすように彼女は棘のある声色でそう問うた。

 

「最初にここはどこかと訊きそうなもんだが」

この基地の場所を突き止められてしまう危険を侵さずにアークに連れて行った方が良かったのだろうが、ここは少なくとも今にも動力が落ちそうなアークよりかは安全な場所だった。

 

「じゃあそう訊けば教えてくれる?」

俯きがちに問い詰めるような眼差しでサンダーブラストは俺を見た。

 

「まさかな」

スワーブあたりなら彼女のこの表情に悩殺されていただろうと、ふと思った。

「…あの後プロールから聞いたんだが、お前の力は相手を魅了して操ることだそうだな」

聞けばサンダーブラストの名はそこそこ知られていたらしく、そのせいか俺が捕獲したのが彼女だと知った際はかなり驚いていた。

もっともこの場合、初の戦闘でいきなり敵を生け捕りに出来たことへの驚きがその半分以上を占めるのだろうが…

 

彼女は俺の言葉を聞くと先程までのような眼を見合わせるような動作をやめてわずかにのけぞり軽蔑混じりの睨めつけるような顔をした。

「なーんだ、結構有名だったの」

 

「奴いわくお前に差し向けた部隊が操られて同士討ちの果てに全滅なんて話も何度かあったらしいが」

彼女の能力は眼と眼を見合わせることが発動の条件なのか?

思えば輸送機の中でもまずチャージャーの顔を覗いていたが…あれも恐らくは彼の眼を見ていたのだろう(すぐに磁力で弾き飛ばされたが)

その勢いのままクリフの方に行った時はクリフの眼を見ようとしていた。

しかしあの単細胞にそんな高尚な仕掛けが通じるはずもなく、全力のパンチであっさりと沈黙させられていた。

彼女の整った顔立ちが歪んでないといいが。

ただこの気持ちはサンダーブラストへの同情というよりかは、誰しも有している価値や美しさを持つものが破壊されることへの忌避感や惜しさといったものに近いのだろう。

 

「えー?覚えてなーい」

にべもなくそう言いながら、彼女の顔は愉悦に浸るように色んなパーツが跳ね上がっていた。

 

「調子狂うな。そもそもその能力が効かないのは俺だけか?もしそうなら、その力でお前がディセプティコンの幹部らに取って代わることだって出来ただろうに」

俺は単純な興味と知的好奇心からそんな疑問をそっけなく投げかけた。

こうして語らせていくうちに彼女の口も軽くなるだろうという意図もなくはない。

 

サンダーブラストは表情を変えながら思案し、しばらくしてから答えた。

「いいわ、教えてあげる…まず、メガトロンにはそもそも近づかせてもらえなかった。居場所を知ってる奴はごくわずかだし、そもそも万が一失敗でもしたら命はないじゃない?」

 

「お前なんか能力がなきゃ俺でも倒せるぐらいだしな」

戦闘の経緯は…ごく単純だった。

何人か逃げ遅れた人間を乗せながら合流地点に向かって走っていた時、ちょうど待ち構えるように進路上にサンダーブラストがいた。

彼女は手に持ったランチャーからミサイルを一気に全弾放ち俺を吹き飛ばそうとした。

俺は中の人間達の乗り心地や車内の快適性を引き換えにした全力疾走で辛くも回避に成功した。リアが少し焦げたが。

その場で変形しつつ乗員達を外へ放り出して(後で知ったが、一応軽傷で済んだそうだ)奴のもとへ足を使って走った。

俺は全力で接近して距離を詰めてすれ違いざまに飛び蹴りを胴にクリーンヒットさせ、そのまま弾き飛ばされたサンダーブラストは沈黙する…かに見えたが素早く体勢を整え、着地すると同時に跳び上がって蹴りをかまそうとしてきた。

そのハイキックを避けきれずに傷のある方の側頭部に喰らい、俺は視界が揺れ動く中、地に倒れ伏した。

聞こえるのはノイズ混じりの電撃音だけだった。

傷口が開いたせいで起きた漏電現象の音だと理解した頃にはサンダーブラストは悠々と俺を蹴り飛ばして転がしていた。

一瞬、空が見えたかと思ったら、俺はそれを覆うように上下逆さになった奴の顔が近づけられたのを見た。

煌くような蠢くような視線を俺に向けながら、奴は口をゆっくり動かして何かを喋っていたが…頭の寿命が縮む音にかき消されて俺には何も聞こえなかった。

彼女は屈み込んで顔と顔とが触れ合う程に近づいた。

ちょうどその瞬間。

体の制御が戻ったのを俺は本能的に感知し、眼前に迫る顔に思いっきりの頭突きをかましたのだった。

今まで煩わしいとしか思ってこなかった頭部の放電現象はこの一撃に想定以上の威力を付加することに成功していたらしく、彼女は一撃で完全に沈黙した__

 

…と、そんな経緯を思い出したからか、サンダーブラストは悔しさと鬱陶しさを滲ませた顔になった。

「…ほんっとそういう言い方嫌い。油断してなきゃあんたぐらい訳ないっての…」

この言葉も嘘ではない。その後気づいたことだが、彼女はまだ小型の銃を隠し持っていた。

「まぁ後は?…スタースクリームが好きなのは自分だけだし、サウンドウェーブはペットどものガードが堅いし、ショックウェーブは感情と呼べるものなんてほとんどないし、ブリッツウィングは戦うだけのバカだし、アストロトレインには逃げられるし」

彼女の語り口がにわかに勢いづいて来た。

 

「ならオプティマスは?その能力を使って敵の大将首を取れば幹部に昇進するのは確実だったろ」

彼に対してあの妙な能力が効くのかは確かめておく必要がある気がした。

いずれにしても俺達の司令官に近づかせる訳にはいかないだろう。

 

「プライムの場合は…」

そこまで言いかけると彼女の顔が、恐怖に歪んだ。

「あ…あの時が一番恐ろしかった」

 

「オプティマスは誰かを愛したりしなさそうだな」

うなだれる彼女にあえて軽くそう返し、続きを促した。

 

「違うのよ、その逆だったの」

その顔はにわかに慄いていた。

「あいつの愛は大き過ぎた…惑星すら覆うほどに…サイバトロン星を丸ごと愛してるなんてほとんど狂人だわ」

 

「へぇ」

無感情にそう返事をしながら、ふと昔聞いたある話を思い出した。

前アイアンハイドが話してくれたが、オプティマスに友人の写真を見せてくれと言ったら、なんと彼はサイバトロン星の写真を見せたらしい。まだウィングド・ムーンが衛星軌道上にあった頃にあそこの展望台から自分で撮ったものだそうだ。

あそこはそう気軽に行ける場所でもなかったはずだが、アイアコンガードの隊長としての権限を行使でもしたのだろう。

…写真一枚のために?

俺が知る中で二番目に大きな公私混同と職権濫用だ。

ま、実行犯は一番目と変わらんのだが。

 

「メガトロンより相手したくない」

頭を垂れてそう言ったサンダーブラストを見やりつつ、その意見に密かに同意した。 

 

「シークレットパワーとやらが効かない俺も今のどれかに当てはまってるのかも知れんな」

 

「…何か原因があるはず。例えばさ、あんた…恋人を亡くしたりしてない?」

サンダーブラストは無神経にそう訊いてきた。

 

「命を預けあった仲間なら大勢亡くしたぞ。兄弟さえ惨めに殺されたさ」

よりにもよってディセプティコンに連中のことを訊かれたからか、今の自分がこの土くれの星に降り立ってから一番殺気立っているのを、近くの箱を蹴り倒したその少し後に自覚した。

金属でできた箱が転がる音が低く重く部屋に響く。俺の語調に低く重い怒気が滲んでいたせいか、スチールジョーはかすかに怯えているようにも見えた。

 

「兄弟を殺されたって…誰それ?あんたには二人兄弟がいるじゃない」

「味方殺しのサンストリーカーと_」

 

「……それ絶対本人の前で言うなよ、体中をハニカム構造みたいにされるだけじゃ済まん」

実際、そうなったオートボットは多い。そうなったディセプティコンはもっと多い。

…あいつがまだオートボットでいられることについて俺の中に疑問と納得が同居している主な理由はこれだ。

 

「あと元レーサーのサイドスワイプ君」

俺は昔から有名なあいつに間違えられてばかりだったし、その名を聞こうともはや大した感慨もなかった。

それにしても君付けとは…

 

「知らないのか?俺達はずっと四人で生きて来たんだ」

ムッとして俺は衝動的にそうは言ったものの、考えてみれば四人でいた時のことを知ってる奴はもう殆ど死んでいる。

「俺とその二人と、あとコルドンだよ。ずっと昔にデッドロックに殺された」

奴を殺すためサイバトロンに残るか、かつての俺は随分と悩んだ。

結局その仇討ちはホットロッドに託すことに残った兄弟全員で決め、俺達はアークに乗った。

 

「あぁそう。で、他には?大事な知り合いとかさ」

彼女は顔を横に傾けると、興味なさげに続きを促した。

 

「…そうだな、サイバトロンに置いて来た奴らの中で特に心残りなのは…シュアショット、パイロ、そしてインフェルノか」

俺は四百年ほど前に見たあの消防車どもの顔を思い浮かべてそう言った。

彼らももう生きてはいまい、と思うと一抹の寂しさがスパークをよぎる。

「恋人もなにも、そもそも俺はファイアスター以外の女性型とろくに話をしたこともないぞ」

 

「へー」

そう言ったサンダーブラストは無関心そのものといった面持ちになっていた。

「一体だけでもいるんじゃない、女性型の知り合いが」

これがどういった種類の感情に起因するものかは分からないが、辛うじて言えば…嫉妬めいたものをかすかに感知し、俺は話題を他の差し障りのないものに変えるべきだと判断した。

「そもそもお前のような女性型がなんでまだ戦争に残ってるんだ?」

それはこの星でこいつを最初に目にした時からの疑問ではあったが、答えに全くの見当がつかない訳でもなかった。

とっさにより適切な話題が思いつかなかったのだ。

 

「別に?あたしだけじゃないけど、残ってるのは。全部合わせても両手の指で数えられるぐらいでしょうけどね」

彼女はそう言ってから無意識に両手でジェスチャーをしようとしたらしいが、拘束されていたため徒労に終わり、両手のある位置をバタつかせながら軽く身をよじっただけだった。

 

「三百人だか四百人だかいた女性型はその殆どが船でサイバトロンを脱出したはずだぞ」

女性型が戦争に利用されることの危険性は当初から指摘されていた。彼女らのシークレットパワーの存在はあまりに重く、中には戦局を一変させうる能力まであったと聞く。

結局、ボタニカやオーバーライドらがよその星への避難計画を主導した。

そもそもの発案はジアクサスだった。

つまり時期は恐らく星のコアが封鎖されるほんの数サイクル前だ。

船の名は、確かオギュイギアとか言ったか。

計画の性質上、当然乗員は全員が女性型だった。

……忍び込もうとしたバカを何人か知ってるが。

 

「どうして女性型のサイバトロニアンがそんな扱いになったかは?」

サンダーブラストの艶やかな声が俺を現実に引き戻す。

 

「百八十億の総人口に対して、女性型はそれだけしかいなかった。あまりに希少だったからだろ」

パーセプター曰く、サイバトロン星はこの星系で最も大きな惑星と概ね同サイズらしい。そういえば"オーバーホールの回数より多くウーマンタイプと会った奴はいない"というのが、昔の勤務地の近くにあった下品な酒場での定番のジョークだった。

…ちなみに、これを広めたのも店主だったスワーブだ。

実際、よっぽど特殊な職に就いていなければ一生のうち数体も出会うことはないとされていた。

 

「彼女らのほぼ全員がシークレットパワーを持ってたことは知ってた?皆能力の種類は違ったけど。そのファイアスターちゃんの能力は何だったの?」

 

「言うなればテレパシーだ」

ずかずかと無遠慮な口調と内容に対しての憤りを押し殺しつつ、努めて無機質に短く返した。

 

「さぞ仲が良かったんでしょうねぇ」

幼体をあやすような口調で煽りつつ、サンダーブラストは意地悪げにそう返して来た。

 

「そう思うか?」

卑下するような視線を意に介さないようにしつつ、俺はそう言い返した。

 

「顔に出てるもの」

「…まぁそれはともかく、かつて強力な能力を持った希少な存在として、私たちは皆宝のように扱われてた」

「眷属達の伝説は知ってるわよね」

 

「多少な」

この後苦手な話題が出て来るような気がして、俺は自然とそっけない返事をした。

 

「"四人目"はその中で唯一の女性型で、蜘蛛の下半身と人型の上半身を併せ持っていたそうよ」

「エルロンの与太話をどこまで信じていいかは分からないけど、彼女に言わせれば…私達が半神的な存在な理由はね、サイバトロンと一体化することで命を育む"礎"と化した彼女の…直系の子孫だからなんだとか」

 

「その手の宗教臭い話は嫌いなんだが…」

又聞きにしてはなんとも流暢な講釈を聞いてるうち、本来の目的を達成するのにこれ以上の時間を費やすのが億劫になった。

「十分付き合ってやったぞ、そうだろ?これ以上の回り道はごめんだ」

「下らんお喋りに満足したなら、そろそろこちらが必要としていることについても訊かせてもらおうか」

 

「あっそ。どうせあたしの知ってることなんて大してないわよ」

拗ね気味にそう言いながらもサンダーブラストの表情は明るく、どんな話題にしろ会話を続けたくて仕方がないようにも見えた。

 

「味方の情報を教えることに抵抗は?」

そんな疑問がふと口をついて出た。

 

「強い奴について行くだけよ、あたしはあたしにとって一番強い奴の味方って訳」

彼女はそのなんとも薄っぺらく浅はかな矜持を誇らしげに語る。

信用に値するかは甚だ疑問だが、少なくとも今のところ表面上はオートボットについたらしい。

 

「さ、何から訊きたい?」

そう言うと今度は自信たっぷりに不敵な笑みを浮かべた。

 

…無邪気にコロコロと表情を変える彼女を前に、俺は今日一日ここから出させてはもらえないだろうと半ば確信し、スチールジョーにラムホーンを呼ぶよう伝えた。

 

A

 

ベース217、その中心部とも言えるドーム状の司令室の端っこの方の空間に寝転がりながら、俺は誰に尋ねるともなく言った。

「アークってそもそも何なのさ?」

 

「なぜ今そんなことを気にする。お前が今やるべきことと何か関係があるか?」 

一段下にいたアイアンハイドが言った。

戦っている時とは違って、こうして部屋に詰めて事務作業をしているこの人はどうにも覇気がなく、わざわざ揃って新調した赤もどこか錆びついて見える。

手伝いに駆り出した俺がこんなとこで寝っ転がってるからかもしれないが、そもそもその手の仕事に俺を呼ぶのが間違いというものなのだ。

 

「艦種はヴァンガード級深宇宙艇だ…だが元々ただの船ではない」

 

「へぇ?」

どこからか聞こえた声に軽く相槌を打って俺は続きを促した。

 

「かつて"アルティメット・オートボット計画"というものがあった。戦中…ポリヘックス奪還作戦に向けて全軍が準備を始めつつあり、失地回復が現実味を帯びて来た頃の話だった」

見れば声の主だったプロールはサイバトロニアン用の通信端末に目を凝らし、人間サイズの書類にも(外付けの連装モノクルを使いながら)器用に目を凝らしていた。

「……ところで"最初の戦争"において、最も活躍した戦士は誰だと思う?」

 

「また随分と話が飛んだな」

この利己的で粗暴で陰湿な参謀殿にしては珍しい茶目っ気のある口調に驚きつつ、俺はそんなことを言った。

 

「少々付き合え、無関係ではないんだ」

プロールは俺の言葉を聞くと山積みの資料から目を背けつつ、俺に言った。

 

「…しかしそんな何千万年も昔のこととなるとそれこそおとぎ話みたいな物語しか知らないな」

下層都市のチンケな家で同居してた俺達の中で、コルドンだけはその手の話が好きだった。

あいつの講釈は俺には響かなかったが、近所の連中には大層受けたらしい。

彼の休暇の過ごし方は主に歴史の講釈を聴かせることだった。

…相手と場所を選ばずに。

 

「剣士スターセイバーと忠龍デスザラスの話とかか?」

アイアンハイドが気だるげに口を挟んだ。

 

「あーそうそう。他に何があったっけなー」

そう空返事しつつ、俺は適当に話を合わせて適性のない労働から逃れようとした。

 

「口を動かす暇があるならいい加減仕事をしろ」

アイアンハイドは片手で造作もなく俺を持ち上げ、プロールのいる中央の通信コンソールまで転がした。

視界が目まぐるしく移り変わる。

 

「双雄サンダークラッシュとダイアトラスの話は外せんな」

部屋の入口の辺りから重い足音とともにそんな声が聞こえてきた。

重厚ながら張りのある、一度聞いたら忘れないと大抵のサイバトロニアンが評する声だ。

…どうやら彼が来たらしい。

 

「オプティマス?何しに来たんです?」

俺は視界が逆さのまま、プライムを見上げてそう尋ねた。

 

「それは私のセリフだサイドスワイプ。君が高速戦闘員からボールに役職変えをしたという話は聞いていないぞ?」

俺がオプティマスのユーモアのセンスに言及するのは避けるとして、その柔らかな口調からはなんとなく上機嫌なのが伝わって来る。

「プロール、私とパーセプターは少し用事があってここに来た。将軍を呼び出したい」

その声色のまま、オプティマスは中央の装置を挟んでプロールの真正面に位置した。

 

「了解です」

俺は新しい体になったばかりで慣れていないのとタイヤやらの重みのせいもあって立ち上がることが難しかった。

あんまり暴れるとボディに傷が付くな…

「あー…それとオプティマス?サイドスワイプは続きが聞きたいらしいですよ」

じたばたする俺を見かねてかプロールが装置を操作しながら言った。

 

「サンダークラッシュはサイバトロンの歴史上最も偉大な勇者の一人だ。私の師父でもある」

「しかし…ディセプティコンとの戦いが始まってからは、もう当時のことを知るオートボットはそれこそカップやウルトラマグナス、スカイリンクスぐらいだったか」

彼は拾い上げるようにして俺を両手でひっくり返し立たせた。

 

「記録によれば後のゼータ・プライムはマグナスともども一兵士としてこの戦いに参陣していたそうだ」

オプティマスに続いて入って来ていたらしいパーセプターがそう言った。

 

「当時はマグナスの方が上司だったんだっけな…彼は酔うと毎回その話をしてた」

疲れ果てたらしいアイアンハイドは"頬杖をつく"とかいう動作をしてぶっきらぼうに呟いた。

 

「英雄譚ばかり後世に語り伝えられていった結果、真に勝利をもたらした者達は記憶の彼方に忘れ去られていくこととなった。それが巨神達だ」

プロールは両手の軽いジェスチャーを伴いながら普段より饒舌に語る。

 

「誰それ」

そんな様子を見て自然と、俺の返しは随分と味気ないものになる。俺はしばし考えを巡らせ、ハウンドがよく使う巨人のホログラムを連想した。

「あぁ…ハウンドのあれもそうなのか?確かハロニクスとかいったろ」

何でかあいつはあの技をよく使う。

ハウンドは彼の姿が最も相手の本能的な恐怖を呼び覚ますのだとか理屈を並べてたが、結局のところあいつがハロニクスのファンなだけだと思う。

 

「彼だけがそうだったという訳ではないのだけどね」「ヴィジレム」「グランダス」「クロートン」「アイアコナス」「ハイタイド」「ウェイポイント」「ブレイブ・マキシマス」「オートノマス・マキシマス」「ハロニクス・マキシマス」「ダイミクロン・プライマル」「オメガ・スプリーム」「メトロ・フレックス」「13の巨神がいたとされている」

パーセプターの早口は興味や好奇心の高まりによって更に加速する。

聞いたことのあるようなないような名前の羅列に俺の興味はどんどん減退する。

 

「へー…戦争が終わった後は?」

最初の戦争がいつ始まっていつ終わったのか、俺は知らない。

そもそも何と戦ってたのかすらよく知らない。

ほとんど神話とか伝承とかそういうのの類だからだろう。

…それとも何かが隠されているのだろうか?まさかな。

 

「最後には皆星と一体化した」

「文字通りな」

プロールは平然とそう言った。

つまり死んだってことか。星と一体化…

…俺はふと、ある場所を思い出した。

「そういやアイアコンのオートボット本部ってさ…」

あそこは妙な場所だった。

不定期に息づかいか鼓動のような振動が聞こえ、そしてたまに部屋の配置やらが変わった。

二十三階にあった武器庫は次行った時は十九階、その次には五十七階になっていた。

 

「察しがいいな」

プロールはおどけるようにそう言った。

誰でも気がつくだろうとは思ったが、単に皮肉を言いたかっただけという可能性を捨てきれないのがプロールという奴なのだ。

 

「たまに動いたんだよな、あれ。手の込んだ防犯対策かと思ったが」

俺もとぼけたようにそう返してやった。

 

「アイアコンガード時代からそうだったな」

オプティマスは力尽きてうなだれるアイアンハイドを軽く叩き起こしながらそう言った。

 

「…確かそのせいで初日に大遅刻をやらかした訓練生がいましたな。誰とは言いませんが」

おどけるようにそう言ってから、アイアンハイドはその場でトラックに変形した。

これ以上働かされる気はないという彼なりの意思表示だ。

俺をオートボットに引き込んだ時からこの人のこうした根の頑固さ…というかある種の幼稚さは治っていない。

微笑ましいような呆れ返るような感情を抱え、俺は微かにその様子を笑った。

 

「かつてサイバトロンに勝利をもたらした巨神達の失われて久しいその力を再現しようとして、アルティメットオートボットの計画は始まった」

プロールはそこで話を仕切り直した。

アークの話に辿り着くまでの回り道はまだ終わらないらしい。

 

「ようやく話が戻って来たな」

俺は意趣返しとばかりに皮肉混じりにそう言ったが、彼にこの手の意図は大抵伝わらない。

 

「彼らには戦艦サイズのオルトモードが与えられる予定だったがオプティマスは資源の浪費だとして建造を中止した。その後になってジャズの提案で脱出船に転用されることになったという訳だな」

 

「あのままアルティメットオートボット計画を進めていた場合、最大の障壁だった資源問題さえ解決させられれば勝利していたのは我々だっただろう。その上ディセプティコンの支配地域は1%たりとも残らなかったはずだ」

「しかしその後に残るのは…廃墟と残骸、そしてそれらをもたらした大量破壊兵器だけだ。星の復興など叶うはずもない」

 

「私も当時同じことを聞かされたよ。ジャズもその場にいた…結論を言うと、アーク自体は元々一体のトランスフォーマーとして作られ、その後自我を封印された存在だ」

 

「へぇ」

もしそれが封印されてなかったとしたら?

…ふと、ある記憶が呼び覚まされた。

「なぁプロール、そういやマグナスと話してた準備って何のことだ?」

 

「…知らないな、聞き間違いじゃないか?」

 

「確かに聞いた。アークが出発するほんの直前にな。いや物のついでに話してくれって…何を隠すことがある?」

低くうなるような声色になり、俺はプロールにそう言っていた。

 

「オプティマス、将軍は"ラボ"の方にいるようで、現在通信は行えないかと…直接行ってはどうでしょうか」

プロールは俺の言葉を無視していた。

忙しない視線や手元に彼のうろたえる様がかすかに見てとれる。なんだかんだで彼はイレギュラーな事態には弱い。

 

「プロール、この前ハウンドらと一緒に人間達と話した帰りに何が起きたんだ?」

アイアンハイドが変形したまま、そう喋った。

俺の言葉を受けて何か思い出したらしい。

 

「アークからミサイルが勝手に発射されたそうだな。自動防御システムが動かせる状況だったとは思えんが」

険の混じったオプティマスの声色は一瞬にして場の空気を重々しく変じさせる。

「この件についての話はまだだったな、プロール?」

 

「ついでに言わせてもらうとだね私もオプティマスと同じ意見だアークの防御システムが機能不全を起こしていたことは確認が取れている」

パーセプターが誰かの意見に同調することは珍しい。

好奇心が刺激されそうな方に反射的についたといったところだろうか。

 

「巨人は本当に封印されたのか?」

「アイアコンの本部だってなんたらとかいうデカブツが変形した生きた姿だったんだろ?アークは違うのか?」

俺達はこの艦に乗り、短いようで長い間命を預けてきた…

が実の所アークのことを俺も皆も良くは知らないのだ。

 

「それは杞憂というもの_」

 

「そう信じさせてもらいたいものだな、プロール」

「私とパーセプターがラボから戻って来るまでにアークのスパークとトランスフォームコグをここに持って来い。この命令の意味は分かるな」

「…アイアンハイド、ここは君に任せた」

去り際にオプティマスは厳然とそう言い、もはやプロールに有無を言わせなかった。

 

A

 

俺は今、周囲の残骸と同調しつつある。

壁や床に散り散りになって横たわるもの達を感じながらスパークを鎮めている。

この星で言うところの…四百年前まで遡れば、彼らは皆自分と変わらぬ一個の命だった。

しかしながら戦いは我々から容易にそれを奪い去る。

斧や剣、あるいは銃弾によって胴が穿たれ、貫かれる音を聴いた。

鋼の体躯が引き裂かれ、内蔵機器が抉られた結果として、切断面から液体が迸るのを感じた。

苦悶混じりの戦士の雄叫びが、俺の聴覚に何かを訴えかける。

それらが俺のブレインの間隙を満たしていく。みっしりと…

その昔、小さな闘技場でグラディエーター紛いのことをさせられた時の残響とでもいうのだろうか。そうしていつも最後には誰かの「逃げろ」という声…

 

「……なぁサンストリーカーよ」

「兄弟の真似事か?何なんだそのステイシス寸前の体たらくは…そんなに黄色く丸まってるとまるでバンブ_」

 

「また俺のことを言いふらすか相棒?…"妄想癖の画家崩れ"ってな」

反射的に遮ってそう言い、苦笑混じりに振り返るとそこにいたのは。

「誰かと思えば…」

白と黒に彩られた自分の似姿でもなく、白一色の銃撃手でもなく、青と赤の不機嫌そうな面持ちの同僚だった。

「ギアーズか…何か用か?」

現実に意識が引き戻されていく感覚に悪酔いしながら、痛む頭を押さえる。

 

「もう聞いたか?パーセプター曰く、この星の金属だけじゃサイバトロニアンの修復は不完全なものになるらしい」

ギアーズは周囲の残骸を見やりながらそう言った。

数日前、一旦こちらに戻って来た際に"地上に存在する最高級の素材を使ったところで水増しにもならない"とかぼやいていた。

セイバートロニウムの欠乏がどうとか言っていた気がする。

 

「敵味方の死骸を漁ってるのもそのためだろ?」

集中を乱された結果として、いつかのように頭の中を虫が這い回り、痛みを伝播させていくような気分に歯噛みした。

アークの中に積まれている連中はサイドスワイプとホイストのおかげで半分片付いたものの、エネルゴンやら何やらを吸い出された後の抜け殻にはまだ素材としての利用価値が残っているという訳だ。

 

「…変な話さ。そうだろ」

ギアーズの口調は同意を求めているというよりかは、有無を言わせぬ押しの強さがあった。

 

今、俺はその言葉の真意を図りかねている。

敵仲間の死体を溶かして使うこと自体に忌避感があるオートボットもいるか。なるほど真っ当な感性かもしれないが、今となってはそんなものは大して役に立たない。

 

「そもそもアークはなんでこんな所に来た?」

投げかけた言葉に対して何らリアクションを起こさない俺を横目に、ギアーズは話を続ける。こんな星で目を覚ますよりずっと前から、起きているのはおかしな事ばかりだが…

それでも現状の元を辿れば半ば必然的にその話になる。

 

「さぁな、俺も知りたいよ」

「パーセプターの仮説とやらを聞くにどうやらサイバトロンの衛星軌道を出てネメシスとやり合ってるうちにワームホールを通ったらしいが」

俺の視界と思考の揺れはまだしばらく収まる気配がない。

 

「まずオプティマスの狙いはなんだ?彼は何の目的を持ってアークを打ち上げた?」

ギアーズは俺に背を向けながら後ろに手を組み鷹揚に語り始めた。自分に酔ってる奴がよくやる仕草だ。

 

「どういう意味だ…それは?」

 

「前々から思ってたことなんだが、アークは大きな艦だ。だが死んだ連中を含めても乗員が少な過ぎる。仲間を連れて星を脱出するにしては妙だ。サイバトロンに残ってるメンバーだって大半は連れて行けたはずだ」

落ち着きなく顎部に手を当てるようにしてから、ギアーズは首を傾けて語る。その目線や表情が揺らがないところを見るに、推測の中に何か確信めいたものを持っているようにも感じられた。

 

「運び出せるエネルゴンが少なかったのと、マグナス達が残って戦うことを選んだからだろう」

既に限界を通り越していたエネルギーの枯渇と最悪な戦況の中でも、誰かはあの星に残る必要があった。

というのも、ムーンベースⅡ陥落の時点でオートボットは様々な星に展開していた部隊全てに戦闘行為の中止と本星への撤退を命じ、降伏の準備をしていた。

ブラジオンの反乱でディセプティコンが傾きさえしなければもはや大勢は決していたと言っていい。

その反乱が起きる少し前、ディセプティコンが最も優位に立っていたその時期には一日に数万体のオートボットが殺されていたという噂さえあった。

圧倒的な蹂躙によってオートボットという組織は前線への通信能力や指揮系統に壊滅的な打撃を受けた。

…無論そうなる前に降伏の打診はそれこそ何度もなされていたのだろうが、絶対的な優勢という状況にあってメガトロンがそんな条件を呑む道理はなかった。

降伏が通らない以上は揃って星を脱出するしかないとしたオプティマスだったが、ジャズかマグナスあたりが残ってよその星の部隊の帰りを待つと言い出したのだろう。

その頃のサイバトロン上のオートボットの勢力圏は全土の25%ほどだったが、その領域内でも宇宙船を安全に迎え入れることは一応可能だった。

当然それまでに撃墜されなければ、の話だったが。

 

「……なぁストリーカー、ここだけの話だが…オプティマスはな、最初から艦ごとメガトロンを道連れにするために俺達をアークに乗せたんだ」

彼の抱いていた確信の正体はこれか…

オプティマスが脱出船を建造していることは当然メガトロンも把握していたに違いない。

そして奴はその対抗策、ネメシスとかいう名らしい新造の戦艦を作ることを選んだ…実際ここまではオプティマスの計算通りなのだろう。

メガトロンには他の選択肢もあっただろうが、結局彼は自らの手で宿敵を追い詰めることを選んだという訳なのか。

…しかし道連れというのは理解出来ない。

そこに理屈を結びつけるのは不可能だ。

俺は俺なりに積み上げた推理がそこで崩れ落ちるのを感じた。

 

「証拠でもあるのか?」

結局俺はそれを昔スワーブの店に屯していた陰謀論者どものような論理の飛躍だと断じることにした。早死する奴の特徴の一つだ。

 

「ジャズは言っていた。アークは脱出船として作り変えられると…」

「そこでだ、アークはアークになる前何だった?」

この地域の言語では"アーク"は災厄から逃れる脱出船だとか聖者の棺だとかいう意味らしい…ということを思い出しかけたが、ギアーズの口ぶりに謎かけを楽しむような素振りは一切なく彼はただ俺に問いかけていた。

 

「…あれもトランスフォーマーだって言うのか…?」

俺達にとって、そこらの施設やドロイドと同族のサイバトロニアンとの間には明確な認識の区別がある。セイバートロニウムやCNAなどが深く関わってくる(らしい)話で、それこそターボフォックスとルストワームぐらい違うのだが、往々にして他種族には理解されない。

しかし俺達にとってただの施設でしかない艦船や基地が、その実同族であるというケースも非常に稀とはいえ…ない訳ではない。

 

「ブロードサイドみたいな超弩級の個体だ。違うのは…自然に生まれたものじゃないって点だ」

ブロードサイドは空母に変形する。

甲板の上に中型艦数隻を載せられる程の巨体の持ち主でオートボットの持つ最大にして最強の戦力の一つだったが、今どこにいるのかは誰も知らない。

「昔、奴らが研究所の中で暴走するところを俺は見ている」

ギアーズは慄くように、体を微かに縮こまらせる。

…奴"ら"か、複数体となるとさぞかしこの世の終わりといった光景だったことだろう。

その中で怯え硬直するギアーズを想像すると…

少しだけ、滑稽だな。いやかなり滑稽だ。

 

「その欠陥兵器どもを転用したのがこの艦だってところまではなるほど理解したが、それがなんで俺達が捨て駒の生贄にされたことになるんだ?」

しかし結局アークの出自がどんなものであれ、それがオプティマスによる道連れ…ある種の集団自殺へと結びつくとは思えない。

戯れに叩いてみせたアークの壁も反応を返すことはなかった。

 

「恐らく消えたあいつ…」

「バンブルビーが鍵だ」

 

「……あの目立たない黄色の奴がか?」

思い出すのに少し苦労したほど、何の印象にも残っていなかった。

くすんだ土のような体色だったことは覚えている。

色同様、彼自身も目立たない存在だった。

「オプティマスでさえバンパーと区別がついてなかっただろ」

それでも彼は二度目にはきちんと差異を認識出来ていたから、あの記憶力はオプティマスの非凡な才の一つと言っていい。

 

「そう。あの"クリフジャンパーじゃない方"がだ」

ギアーズはゆっくりとそう言い、俺の方に向き直った。

二人は体色と角の形状を除けばほぼ同じ姿をしていた。

片やメガトロンの右腕をもぎ取りスタースクリームを半殺しにした歯止めの効かない猛獣、片や何の実績もない斥候。

バンブルビーにそんな個を否定するかのような蔑称がつくのも無理はない…"サイドスワイプじゃない方"だった身として、一抹の同情を禁じ得ない。アラートも同じことを考えただろう。

「真相に気づいてプライムに消されたにしろ、俺達の様に四百年寝ぼけるでもなく外に出て狩られたにしろ奴が答えだ」

 

「つまらん推理だ」

瞬時にそう断じてはみた…が言われてみれば、気になることもあった。

あの時、アークとネメシスの戦いは防衛戦だった。

つまり俺達はコンズどもの上陸を必死に食い止めようとしていたのだから、逆に向こうの艦に移動出来た者などいるはずもなかった。

なのにバンブルビーだけは艦にいない。

(生死不明といった方が適切だろうとは思うが)殺されたとしたら犯人は誰だ?

畢竟、それはアークの中にいた誰かということになる。

 

思考を纏めようとブレインの稼働が激しくなり、虫食いの頭の中で駆動音が大きくなるのが分かった。

唸るような重低音と歯ぎしりにも似た金属音が複合的なノイズを奏でるのを意識の底で感知しかけたその時、ふと別の音が聴覚に捉えられた。

 

金属の壁に何かが打ち付けられる軽い音。

「やぁ大変そうだな。死骸漁りは」

 

声と分かるそれに体ごと向き直ると、そこには壁にもたれかかる白と紺のオートボットがいた。

個体名はプロールで、性格面においては今この空間にいる三人のうち誰よりも難があると言える。それはとりもなおさずこの星にいるサイバトロニアンの中で右に出るものはいないということだ。

「その死骸漁りを手伝いに来たか?らしくないな」

 

「あることをオプティマスに頼まれた…少し手が要るんだ。二人ともついて来てくれ、すぐ終わる」

そう言った彼は常通りの傲慢さを滲ませながらも妙に言動に覇気がなく、怒鳴りつけられた後の幼体にも似た勢いのなさだった。

 

「頼まれた?何を…あぁ言わなくていいぞ。この艦の正体がバレたんだな」

ギアーズは特段動じた風もなく、呆れたような視線をプロールに向けた。

 

プロールはしおらしく微かに肩を落として目線を俺から逸らした。

「この反応を見るに、どうやらそうらしいな…どうしたもんかな。俺は今やギアーズの仮説を少し信じかけてるよ」

 

「仮説?どんな仮説だ」

プロールは消え入るような声でそう問うた。

 

「アークの中に誰がいたのか、って話だよ。言っとくが、乗員がどうたらって意味じゃないぞ!」

ギアーズは食ってかかるようにプロールに迫りながらそう叫んだ。

 

「…お前も知りうる立場だったな、失念していたよ。"元"一流技師様のご想像通り、オプティマスの命令もそれ絡みだ」

プロールがジェスチャー混じりに"元"を強調し、嘲るように力なく言い返した。

 

「このアークにもサイバトロニアンとしての名があるのか?」

ふと、そうした疑問が口をついて出た。

 

「確か…"ノア"と…いつからかそう呼ばれるようになった。呼び始めたのは一人のスクランブラーだ」

プロールはギアーズを押しのけて俺に近づきながら、説明を始めた。

スクランブラーは巨神と通じ合う特殊な機能を持つサイバトロニアンの通称で、生贄の印としてか炎のような模様を目元から下に伸びるように入れているのが特徴だ。

コルドンの話によれば、巨神一人を稼働させるのに一人の命が必要らしい。

「巨神を模して作っただけの代物なら普通に話せるだろう。あんな生贄が必要か?」

 

「そのはずだったんだがな…」

俺の横を通り過ぎながらそう言ったプロールの顔色は幾ばくか憔悴しているようにも見えた。

 

「この扉の向こうだ」

プロールは分厚い壁を軽く一度叩き、言った。

その重低音は周囲に反響し、背丈の倍はある空間に広がってすぐに消えた。

 

「ロックを外す。少し待て」

そうと知らなければ壁にしか見えない扉の端にある小さなパネルの前に陣取って、ギアーズが難儀そうに呟く。

「多少手間取るが…爆破していいならもっと早く終わるんだが」

 

「構わん、そうしてくれ。あまり時間がない」

プロールは腕組みをしながら扉にもたれかかる。

 

「そりゃあいい…腕が鳴るね」

懐から爆発物を取り出し、ギアーズは不敵に笑った。

「よし、下がってろ」

俺とプロールが見守るなか、ギアーズは扉の中央あたりを殴りつける勢いで、爆弾を壁面に叩きつけて吸着させた。

爆弾に雑多に取り付けられたレバーやスイッチを素早く操作し、最後に拳を振り下ろして表面のボタンを押し込んだ。

 

ギアーズが後ろに飛び退いたと思った次の瞬間、爆音と爆風が広がり、俺は咄嗟に顔を覆った。

胸の内側で反射的にスパークの鼓動が強まるのを感じ、足が竦むような感覚に襲われた。

「…開いたな」

 

「アークの頭部が配置されているのがこの区画だ」

「中からブレインモジュールを引きずり出す」

ろくに明かりもない道を、プロールは胸のライトで照らしながら進んでいく。

 

「あまりいい気はしないな…何でそんな真似をする必要がある?」 

既に葬られている死体を暴く行為は母星に限らず、今まで行った大半の星で禁忌の重罪とされていたのを思い出す。戦場の死体を漁って有効活用するのとは訳が違う…

ケイオン郊外の墓地を連想して、ひどく気分が悪くなった。

「そもそもオプティマスにはなんて言われて来たんだ?」

訊くのが遅かったなと、言ってから気がついた。

 

「ブレインとスパークを持って来いと言われた」

「身の潔白を証明するためにな」

プロールはこちらを振り返りもせず、口早にそう言った。

 

「身の潔白ねぇ…体は半分以上黒だけどな」

ギアーズは失笑を浮かべてそう言った。意見には同意するが、彼の体色は白と紺だ。

 

「中身はもっと黒いぞ」

俺がそう言いかけた時、先頭のプロールが足を止めた。

気分を悪くしたかとも思ったが、行き止まりらしい。

奥に行くにつれ低く狭くなっていくこの道の終着点には、巨大な半球状のものが床に埋め込まれたかのように配置されていた。

「…これがそうか」

「幅だけでもそこらの脱出ポッドの倍はあるが…ブレインは運び出せるサイズなのか?」

 

「この通りな」

プロールがそう言って半球状のものの隙間に手を入れると、それはゆっくりと殻のように割れた。

なにかを引きずる音とともに揺れが起き、殻の内側から巨大な頭部が現れた。

体積で言えば、ディセプティコンのマローダーにも負けないだろう。

プロールは後頭部の装甲を剥き、いくつかのパーツをかき分けて内側から球状のものを引き抜いた。

 

「もっと丁寧に扱えよな」

ノアとやらのブレインであろう球状のパーツは何本ものコードが絡まりながら繋がったままだった。

「雑に切り離してデータが破損したらどうする気だ」

ギアーズは道具を取り出して素早く駆け寄った。

 

「そもそもなんでこいつが身の潔白とやらの証拠になる?」

慌ただしく動く二人を遠巻きに眺めながら、俺は訊いた。

 

「こいつがかけられている疑惑はアークを勝手に目覚めさせたかどうかってことだ。もしそうなら何らかの接触の記録は必ずスパークかブレインに残っている」

アークの大きな頭部に半ば潜り込むようにしてギアーズが早口に言う。

あの頭の内側で音が反響していた。

「スクランブラー越しに何らかの操作をした場合、痕跡が残るのはスパークだ」

「知ってのとおり、巨神を動かすにはスクランブラーが一体、その身を丸ごとあの巨大な緑のスパークに浸して融合させる必要がある」

ギアーズはブレインごとプロールを引っ張り慌ただしく手と頭を働かせていた。

 

「その様はある種の寄生状態と言えるが、両者の意識は混じり融けあい一体となる…らしい。体験した者にしか分からない感覚だろうな」

ブレインを左手に持ったまま、屈んで話すプロールの様子は見ようによっては…愉快だ。

 

「こいつにはどんなスクランブラーがくっついたんだ?ノアって名前を付けた奴か?」

 

「そうだ」

「単なる俗説ではあるが、スクランブラーは巨神とボディの色が似ている者、あるいは小柄で強く明確な意思を持つ者がいいとされている…だからその条件に合致したものを選んだ」

プロールはオレンジに彩られている壁を指さし、俺も辺りを見回した。

「本来なら同じく緑のスパークを持つ女性型こそが望ましいとされていたが、当然それは叶わなかったのでな」

そう言い終える頃にはギアーズに引きずられてプロールも大きな頭の中に吸い込まれるかのように消えていた。

 

「勿体ぶるなよ、誰なんだ?」

俺は言葉を投げかけるかのようにしてそう問うが、頭の中に入った二人には聞こえているかも怪しい。

 

「覚えておく価値もなければ、思い出す価値もない」

「そんな奴だ」

しばらくすると反響とともに、プロールの投げやりな返答が聞こえた。

 

その少し後、ギアーズとプロールがのそのそと這い出るようにして戻ってきた。

「次はスパークだ」

「切り離し方を間違えると…」

 

「どうなるって言うんだよ」

 

「地平線の向こうまで焼け野原になるって寸法だ」

そっけなく訊いた俺に、ギアーズは重々しくも愉快そうな口ぶりで言った。

 

「それで?こいつを持って帰って解析すればいいのか?」

 

「二人がラボから戻る前にベースに持って行くように言われている。その後はパーセプターがデータを精査するだろう」

 

「アラートに読み取らせた方が早いな」

あいつにはどういう訳か超感覚とでもいうべきものが備わっている。

理屈は知らないがそれなりに万能な力らしい。

 

「それはなしだ、あの力は不安定かつ乱用出来ないらしいからな」

ギアーズが咎めるようにそう言った。

 

「仕方ない…ラチェットを呼ぶか」

「今この艦にいるよな?」

 

「あぁ」

「ラチェット!私だ、少し力を借りたい。艦首側の下層燃料室の更に奥の所に来てもらえるか…あぁ、そうだ。扉は開けてある」

プロールはやや億劫そうになりながらラチェットに通達し、返答を待たずに通信を切った。

 

ろくに明かりのない空間で三人揃ってじっと待っていると、赤い光が近づいてきた。

「話は聞いたが…この歳にもなってまさかスパークの分離手術とは」

俺が暗がりの中で虚ろな思考を抱えているうち、ギアーズはラチェットにここまでのナビゲートをするついでに仔細を告げていたらしい。

ラチェットは苦笑混じりに言って、救急車から変形した。

 

「厳しいのか?」

とてもそうは思えなかったが、俺は一応そう尋ねた。

 

「その反対だ…まぁ見ていろ」

そう静かに告げながら、ラチェットは両手を広げ作業に入る前に指をそれぞれ同時に忙しなく曲げ伸ばしして動作を確認した。

アラート曰く、あれは大抵の医師が手術前にやる一種のルーティンらしい。

あの動きでマニピュレータの稼働状態や感度を事細かに把握することができるのだという。

 

「外し方の手順がどうとか言ってたが…あれはどういうことなんだ?」

 

俺の問いに対し、ラチェットは軽く苦笑を返す。

「彼らにどういう意地の悪い話を吹き込まれたかは知らないが…スパークはエネルギーの塊のようなもので、サイバトロンの生命体固有の機関ながらその種類も多い」

ラチェットの両腕はまるで独立した生命体のように繊細かつ整然とした動きで動作する。

「こういう緑色のものは"ナチュラル"と呼ばれる。これはかつてのサイバトロニアン本来のスパークの形で、最も内包するエネルギーが多い」

ラチェットは手を止め、奥底に見える光球を指さして言った。

淡い緑の照り返しを受けるラチェットの体はよくよく見れば傷だらけであり、胸の窓にも細かいヒビが入っているのが分かった。

「彼に使われているものは更に大型で溜め込んでいる量が桁違いだ。そんなものを制御から解き放ってしまえば…地形が変わるぐらいのことは起きるさ」

 

「俺らの青色のは"レギュラー"とか言ったか…」

 

「よく覚えていたものだね。青のスパークでは弾けても大した爆発は起きないんだ」

「…他の種類でいうとグリムロックは半ナチュラルとも言うべき青緑色の大きな"ブライテスト"だし、ショックウェーブのような単眼は黄色のエラー品"クリンカー"だ。古龍の群れがサイバトロンを闊歩していた時代には赤紫の"エンバー"なんてものもあったと聞く」

 

「へぇ」

 

「命の色はひとつではないということさ」

 

「しかし鮮やかな手並みだな」

そう言いかけた時、やけに二人が静かなことに気がつきふと振り返って見るとギアーズは床に崩れ落ちるようにして寝転んでおり、プロールはそばの壁にもたれかかって神経質そうに自分の頭部のツノに触れていた。

 

「これはまだ準備運動のようなものだ」

「ここから先は爆弾の解除と似た作業になる」

 

「なら黙ってた方がいいな」

 

「そうでもない。手を動かすついでに少し話をさせてくれ」

 

「そんなことをして集中を乱していいのか?ただでさえこの頃手の調子が悪いとかぼやいてただろう」

黙って作業の様子を眺めていたプロールが静かにそう言った。

 

「別に大したことはない」

「これを見ていると私には同じスパークを分けた双子がいることを今思い出してね」

 

「本当か?誰だそりゃ…」

ギアーズが興味津々といった様子で口を挟んだ。

 

「それが知らないんだ。存在することは教えられたんだが、その頃にはもう戦争で医療記録の大半は消失していてね。確かめようがなかった」

スパークの端に纏わりつくように接続されている固定具を左手の丸鋸と右手のエネルゴン色のメスで解体しながら、ラチェットは平然として問いに答えた。

「彼がブライテストだったとは聞いていたが…それだけでは手がかりにならない」

 

「双子でスパークタイプが違うなんてことが?」

プロールが何かを連想するような顔をして怪訝そうにそう言った。

 

「言うまでもないとは思うが…我々の生態においてスキャンした対象が同じであること、ボディタイプが同じであること、スパークを分けた双子であることはそれぞれ全く別に分けて考えるべきものだ」

「私とアイアンハイドのボディが体格などの生まれ持った身体的特徴が似通った同型だがスパークには何の繋がりもないようにな」

 

「…説明になってるのかそれって?」

 

「いやそれもそうだな、すまない癖でね」

「種火状態のスパークがレギュラーとブライテストに分裂するなんて、普通はそう起こることではないが…彼は突然変異だったと聞いている」

 

「で、その情報を教えたのは誰だ?」

ギアーズはごろごろと転がりながら先程摘出したブレインを眺めてそう訊いた。

 

「ベクトリウムが死に際に教えてくれたが…結局それ以上のことは分からなかった。あるいは生き別れた彼には名前もなかったのかもしれない」

 

「きっとさぞや手先が器用な奴だっただろうさ」

プロールはラチェットの手さばきを真似たジェスチャーを交えてそう言った。

 

「どうかな…私の知る限りでは、いわゆる双子は気質や特性が正反対だった」

そう言ってラチェットは考え込むような表情をした。

今まで診てきた星の数ほどの患者の中から何組もの双子を想起しているのだろう。

 

「じゃあ饒舌で粗暴な殺しのプロかもな」

特に考えた様子もなくギアーズがそう呟いた。

 

「私はかつて戦士になりたかったんだ。ならきっと彼は医者を目指しただろうさ」

ラチェットは呟くように小さく言った。

 

「戦士か…戦うラチェットって訳だな」

そう言ったプロールは自らの言葉とその想像図になんとも言えない顔をした。

「…意外に想像出来なくはないな」

 

「サイバトロンにいた頃も結構最前線で見かけたしな」

俺がそう言うとラチェットはちらとこちらを見てきた。

 

「あの頃は手が足りなくてな、救護から治療まで一人でやらなくてはならなかった…敵が迫る中、時には撃ち返しながらね」

ラチェットはそう言ったが、オートボットに手が足りてた時期などないと思う。医療チームなら尚人材不足だったはずだ。

 

「俺達が眠っている間にファーストエイドも向こうで似たような苦労してたんだろうな。トリアージとアークタスもついてたけど」

ギアーズの言葉が"苦労している"ではなく過去形だったのに少し引っかかったが、あの戦況で400サイクル経過した現在で彼らがまだ無事などということもないか。

 

「それでも医者はファーストエイドだけだしな…ホットスポットはなんで置いてったんだか」

 

「彼は部下それぞれの意志を尊重し、強制はしないと言っていた」

プロールはどこかここではない遠くを見るようにしてそう言った。

 

「立派だな、誰かと違って」

ギアーズの皮肉は静かで暗い空間の中で一際鋭く響いた。

俺は彼ほどオプティマスを嫌ってはいないが、これについては同感だった。

 

「終わったぞ」

ラチェットは両の手を握り合わせてそう告げた。

「無事に切り離せたのでよほど下手な扱いをしない限り、爆発はしないだろう」

 

「後はベースに持って行くだけだが全員で行く必要はないな…私とラチェットだけでいい」

プロールは取り出されたスパークをのぞき込んでそう言った。

 

「…いや、俺とラチェットはこの艦でまだ作業がある。代わりはサンストリーカーだ」

ギアーズはごく自然にそう言いすんなりと俺に厄介事を押し付けた。

 

「勝手に決めるな…」

そう言いかけた俺はラチェットに一抱えはある巨大なスパークを有無を言わさず受け取らされ、その重みが手に伝わってきた。

「…仕方ない。重い部品を背負って異星人達と顔合わせといこうか」

観念した俺はおどけるようにそう言って出口に向かったた。

顔合わせとは言っても、当然武器の一つや二つ忍ばせてだが…プロールは怒るだろうがこれは俺の流儀みたいなものだ。

 

「まだ人間と会っていないオートボットはお前が最後だ」

後ろについてきたプロールの口調は諫めるものではなく、どことなく呆れが混じっていた。

 

「分かってるさ…連中と良好な関係を築くコツは?」

ブレインを大事そうに両手で抱えるプロールの姿にこみ上げる笑いを抑えつつ、俺はそう言い返した。

 

「頭を使え」

皮肉っぽく響いたプロールの言葉で、一段と視界が暗くなった気がした。




サブタイが日本語な回は一人称形式で本筋があまり進まないというのは旧版の頃からのしきたりです。
今後もため込んだ設定の開示をそれとなーくしていきたいですね。

生存してほしいキャラ

  • オプティマスプライム
  • アイアンハイド
  • プロール
  • ブロードキャスト
  • ホイルジャック
  • パーセプター
  • ラチェット
  • ギアーズ
  • ホイスト
  • サイドスワイプ
  • サンストリーカー
  • レッドアラート
  • ウィンドチャージャー
  • クリフジャンパー
  • グリムロック
  • ホットスポット
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