悪夢から目覚めたら前世まで戻ったのだが?   作:gnovel

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この作品が多くの人に見られていることを知り
思わず「叫ぶ」しそうになりました



こっから徐々に不穏な空気が漂いますが、狩人くんが関わるのはまだ当分先の話です。


それではどうぞ


*3 待ち受ける苦難 血の獣

 自室に入るまでにもだいぶやらかしたが、なんとか自室に入れた。途中この服を洗おうかと母に提案されたが、今着ている狩装束にはそれはもう、繊維の一つ一つに至るまでべったりと獣の血がこびりついていること、そして到底人に見せられないものしか入っていないことを考え、洗濯は自分ですると母に誤魔化すことに成功した。

 

「さて、どうするか……勉強なんぞ何年振りだ?」

 

 取り敢えず服を着替えてパジャマになり、机の上にある教科書類を前にして呟く。

 

「明日のテストの範囲とやらも分からないし、どうすればいいんだ?」

 

 これまでの自分は、というよりヤーナムでは基本的に机に向かって勉強することは無い。あったとしても獣の狩り方を実践で、文字通り死にながら覚えてきただけだ。

 はっきりいって赤点を逃れることができた時点で万々歳。将来のことなんか考えても生きていればそれだけでいい、という考えがヤーナムでこびりついたためか将来のこととかには自分でも驚くほどに無頓着に仕上がっている。

 

「明日は国語と数学に英語……」

 

 何か行動を起こさない限り、物事は進まないと考え、早速明日のテストの範囲に目を通すことにした。

 

 

 

――――――――

――――――

――――

 

 

 

「ご飯できたよ~」

 

 母の声でふと気づく。既に時計の針は午後7時を指している。勉強を始めたのが昼頃で、七時間ほど集中していたようだ。

 

「……もうそんな時間か」

 

 ヤーナムにいた時は気にすることは無かったものだと改めて実感する。

 

「夕食か…」

 

 こっちに来るまでに自分が食べたものと言えば、白い丸薬に獣血の丸薬、鎮静剤、青い秘薬……何一つまともなものがないな。

 

 そもそもヤーナムの血の医療を受けてから腹がすくことが無くなったことも追加で頭に浮かんだ。

 輸血液を摂取すれば致命傷となる傷も即座に回復することが出来たし、何より血を浴びているうちに腹の減りが無くなっていったことを思い出した。上位者になった後なんかは特にそれが顕著に表れ、他者の返り血を浴びることで空腹も怪我も治るので次第に気にすることが無くなっていった。

 

 正直夕食だと言われても腹の減りを実感できない。

 だが食べなければ心配性な家族は俺を病院へ連れていくか、医者を呼ぶだろう。そしてそれは必ず避けなければならないことだ。

 

 この体を調べられるのは不味い。

 

 現実的に考えて血を輸血するだけでどんな怪我でも即座に治癒可能、強靭な身体能力も得られるというメリットだけでも多くの人間が欲しがるだろう。たとえ人が獣になる、というデメリットを抱えていたとしてもだ。

 むしろそのデメリットを駆使して敵国に獣の罹患者を放り込むなんてことも起きるかもしれない。……ちょうど、この国の周辺にはそれを実践しようとする輩もいるようだし。

 

「いくか」

 

 机から離れ、夕食を取るべく階段を下りて1階へ向かって行った。

 

 

 

 

「これは……」

 

 テーブルに並べられていたのは、かつての自分の好物だった山盛りの唐揚げ。

 ヤーナムにいる中で唐揚げを作ってみようと墓場にいたカラスを使って食べようとしたが、あまりの血生臭さとまず過ぎる味という残念過ぎる結果に終わったことが脳裏によぎる

 

「へぇ~母さん、今日は唐揚げなんだね!!」

「ちょっと肉を貰っちゃってね せっかくだから作ったのよ」

「うわぁ~美味しそう!!」

 

 視界に広がるその色、形そして唐揚げから漂う良いにおい……思わず口の中に唾液が溜まる。非常においしそうだ。これまで切り刻んできた獣共の血の滴る生肉なんか比べるだけでもおこがましいものだ。

 

 溢れだしたその感情が素直に頭から口へと出力される。

 

「でしょう!?唐揚げはお兄ちゃんの大好物だもんね!!」

「え?狩夜??」

「泣いてる……?」

「……気にしないで、食べよう」

 

 これ以上言葉を紡ぐと本格的に泣いてしまいそうだ。

 本当に帰ってこれたのか、もうあんな地獄に居なくていいのか、その事実がますます俺を追い詰めるようだ。

 

「大丈夫なら良いんだけど……」

「大丈夫、大丈夫だから」

「狩夜もこう言っているし、さぁ!食べよう!!」

 

 

 

――――――――

――――――

――――

 

 

 

 

「うわああああああ!!!!!」

 

 深夜の閑静な路地裏にてある男の叫び声が響き渡る。

 

「なんだよ! なんだよ! あれは!?」

 

 男は必死に何かから逃げていた。その口からは悲鳴に似た叫びが絶えず漏れ出しており、涙や汗がぐちゃぐちゃに混ざり切った顔には恐怖の色が刻まれていた。

 

「なんだよ……なんだよあの化け物は! 俺が何したってんだよ!?」

 

 男は不幸だった。

 

 今日はたまたま仕事でへまをやらかして上司から散々怒られた後、電車に乗り遅れる、突然の雨にさらされるなどの不幸に見舞われていた。そんな帰宅途中の男は『これだけ不幸な目に合ったから次はいいことがあるはずだ!』というなんの根拠もない期待に心を落ち着けていたところだった。

 

 しかし男が帰宅途中の路地裏に差し掛かったころその奥から何やら異様な音が聞こえたのである。

 

 それはまるでなにかをひきちぎるような音、なにかをすするような音に加えて男を驚愕させたのは、日常に生きてきた男が決して知る筈の無い――――濃い血の匂いだった。

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 男は必死に足を動かす。

 後ろから迫りくる化け物から必死に逃げるために。

 

 しかし男は理解していた。このままでは捕まることを。だからこそ男は探していた自分の身を隠せる場所を。

 

 男の視界に移ったのはコンビニの光。夜間でもはっきりとわかる光に男は歓喜した。

 

「あそこに逃げ込めれば!」

 

 この男にとっての幸運は助けを求められる可能性を見つけたこと、男にとっての真の不幸とは……。

 

「う、うわあああああああ!?」

 

 そこにあったコンビニにはまるで殺人事件が起きたような真っ赤な血の跡が窓にこべりついていた。

 

 男は理解した。

 後ろの怪物はすでにこのコンビニを襲撃した後であったことを。そうでないとしたらどうやって人がこんな大きな爪痕を残せるというのか。

 

 商品の棚は残らず倒され、レジの方からむせかえるような死臭がしたかと思えばそこには無惨にも食い散らかされた店員の死骸が打ち捨てられていた。男は胃の中の内容物を思わず床に吐き出してしまう。

 

「そ、そんな……」

 

 男の足は立ち止まる。

 目の前のコンビニに駆け込んだとしても防御の意味はなさずたやすく殺されてしまうという現実に直面した故に、その心が折れてしまった。

 

 ビタッ ビタッ ビタッ。

 

「ひぃっ!?」

 

 液体が滴る音が聞こえたことで男は後ろに化け物が迫っていることに気付き、背筋が凍り付いた。

 

(ど、どこかに……)

 

 もうすでに獣は近くに迫っている。必死に周囲を見渡すと男の視線は必然的にその方向に向き、気づいた時には脚がその方向を目指して動いていた。

 

「た、頼む神様……」

 

 そういって男はトイレの中に籠り必死に祈った。これまで信仰なんぞしていない中、いるかもわからない神に対して。

 

(き、来たっ!?)

 

 その化け物は店内を探索しているようだった。

 男の存在を知ってか知らずかその行動範囲を徐々にトイレへと近づけていく。迫りくる足音から男は断頭台に立たされる寸前の死刑囚の気分を味わっていた。

 

(たのむたのむたのむたのむ……!)

 

 男は両手を合わせて必死に祈っていた。

 

 

 そうしてどれくらいの時間が経過しただろうか。

 

 やがて血の匂いが遠ざかっていった。そのことを理解した男が静かにトイレのドアを開けた

 

 改めてみると店内はひどい有様だった。

 商品の棚は崩れ落ち、窓ガラスは割れ、そしてなにより肉塊に変えられた犠牲者の死体があるだけ。

 

 凄惨な光景に絶句していると、外に視線が誘導された。

 

「なんだあれ……」

 

 照明に照らされたその化け物の全貌が露になった

 

 まるで全身に血をかぶったような皮膚と背中の皮がめくれている様子を思わせる赤い獣――――かのヤーナムでは『血に乾いた獣』と呼ばれていた獣の全姿だった。

 

「け、警察に……い、いや! こういう時は『機関』に連絡を……!」

 

 

 

 

 

 ――――悪夢は巡り、そして終わらないものだろう!

 

 とある学者の言葉が狩夜の脳裏にちらついたのと、同時刻のことだった。

 

「……獣の気配?」

 

 思わず手に持った鉛筆をへし折りながら窓の外に視線を向ける狩夜。

 曇一つ掛かっていない満月を睨むように見つめること数分。狩夜は気のせいかと思いなおし机に向き直った。

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