純白の流星、緑の空を駆ける。   作:フタバ ハクシ

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ルーキー日刊10位ありがとうございます。これからも日々精進して参ります。


運命か、はたまた偶然か

「ほっ、ほっ......ふぅ....よし!」

 

俺は準備運動をしながら並走相手を待っていた。

あの選抜レースから1週間、俺は色々なトレーニングを試したり、いろいろな相手と並走したりを繰り返していた。色々なウマ娘の情報収集もできて、なおかつトレーナーの目にも留まるからだ。

しかし、トレーニングはかなり上手くいっているが、それを発揮する並走や模擬レースでは負けを繰り返していた。

 

あのレース以降、ウマ娘とレースするのが怖いのだ。地面を踏む音、殺してやると言わんばかりの気迫、迫りくる感覚、その全てが俺を恐怖に陥れていた。

 

「うーん...流石に致命的だよな....」

 

バ群から離れる脚質はたった1つ、大逃げだ。しかし俺には大逃げをしてそのまま押し切るほどのスタミナを持ち合わせていない。一度だけディープチェインとの並走で大逃げを行ったことがある。しかしさながらツインターボのように逆噴射してしまい結果は惨敗だった。俺にはむやみやたらに逃げるやり方は向いていない。ペースを支配する逃げの方が向いている。だから、場数を踏んで慣れるしかないのだ。

 

「ミーティアちゃ〜ん!おまたせー!」

 

元気な声でターフに向かってきたのは黄金世代の一角、日本総大将、スペシャルウィークだ。あのレースの後、カフェテリアで一緒にご飯を食べたりして仲良くなった。めちゃくちゃかわいい。笑顔好き。

 

「ごめんねスペちゃん、突然並走頼んだりして...」

 

「全然大丈夫だよ!こっちこそよろしくね!」

 

そうして俺とスペシャルウィークはゲートの前へと立ち、静かにゲート内へ入った。

 

「よし、やってやるぞ....」

 

小さく俺は呟き、俺は前を向いた。

今回やるのは前と同じ、芝1600メートル、マイル戦。

ガタンッ、と大きな音を立てゲートが開いた。

 

「はっ...!」

 

勢いよく俺は飛び出し、スペシャルウィークよりも前へと位置取った。そのまま一定のペースで走り続ける。

 

「はっ....はっ....!」

 

恐怖は感じないわけではない。だが後ろに1人しかいないとなるとかなり気は楽になる。足音もマシだ。

俺は2バ身ほどリードをとって、加速するのをやめた。ここ、ここだ。

まさに俺の思い通りの展開、思い通りの位置、完璧なペース。これなら、あのスペシャルウィークでも差しきれないのではないか。このペースなら、俺の方が有利なのではないか。

 

「っし...これなら...!」

 

俺は徐々にペースを上げて、スペシャルウィークを引き離そうとする。しかし、スペシャルウィークはそれに追走する形で追ってきた。2バ身ほど距離を取りながら、逃すまいと追ってくる。

 

かかった。・・・・ 

 

恐らくスペシャルウィークは俺の策略にハマっていることに気づいていないだろう。しかし、俺のペースについていくということはその分道中でスタミナを消費するということ。このままずっと俺についてくるならスペシャルウィークは差すスタミナも削られていくことだろう。

俺はあのレースの後、マイルを1分37秒台で逃げ切るほどのスタミナはつけてきたのだ。これならいける。

このままリードを保ちながら....逃げ切ってやる!

 

「はぁっ.....くっ、そぉ....!」

 

最後のコーナーを回って直線へ差し掛かる頃には、俺は息が上がってしまっていた。しかし、それはスペシャルウィークも同じはずだ。かなりハイペースで逃げたのだ。スタミナが残っているわけがない。

その予想は当たり、スペシャルウィークはなかなか速度が上がらず手こずっているようだ。

俺は残っている最後の力を振り絞り、無理やり速度を上げた。

日本総大将に、スペシャルウィークに、勝てる!

 

残り200メートルを切った途端、

近づいてくる足音が、後ろから迫り来る気配が、俺の精神を突き刺した。

気づけば隣にスペシャルウィークが並びかけていた。

 

「はああああぁぁぁぁ!!」

 

スペシャルウィークがそう叫び、俺の前へと出た。

くそ、食らいつけ、恐怖に負けるな、走れ、走れ!!

俺は意地で速度を上げようとした。だが、その考えは恐怖の前に打ち砕かれた。

 

「ひぃっ...」

 

音が、地面を伝って俺の体に伝わってくる。その振動が、冷や汗をかくほどの気迫が、全てが俺に向けられている。

ずるずると俺は速度を落としていき、4バ身ほど差をつけられた状態でゴールした。

 

「はぁっ....っはぁ......げほっ....」

 

俺はゴールした直後、為す術なく地面に倒れた。

やはり、勝てなかった。スペシャルウィークにも、恐怖にも。

 

「はぁ...ミーティアちゃんすごいね!わたし、ペースに乗せられてるのに気づかなかったや!」

 

スペシャルウィークがこちらに手を差し伸べながら俺に声をかける。この子のことだ。気休めではなく本当にそう思ったのだろう。

 

「はあっ...うん、ありがとう!」

 

俺はその言葉をありがたく受け取ることにして、手を取り立ち上がった。途中のレース運びまでは完璧だったのだ。完全に逃げ切る体制に入っていたのだ。あそこから粘ることができれば勝ちも見えてきそうだった。

しかし、問題はそこではない。やはりまだ恐れているのだ。他のウマ娘を・・・・・・

性格が優しいスペシャルウィークでも、レースの時は引きずり下ろしてやると言わんばかりの気迫だった。思い出すだけでも少し恐ろしい。

慣れる以外にどうにかする方法はないのだろうか。このままバ群を恐れていては、前の選抜レースよりも酷い結果になるだろう。最悪このままトレーナーがつかずに....この後は考えたくもない。

 

「どうしたの?ミーティアちゃん?」

 

スペシャルウィークが少し不安げな顔でこちらを覗いていた。

 

「いや、別になんでもないよ!私、今日はもう上がるね。一緒に並走してくれてありがとう!」

 

俺は慌てて返事をして、逃げるようにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....」

 

気づけば三女神像の前にいた。

 

「まったく....なんでこんなにめんどくさいバステ、俺につけちゃいますかねぇ....」

 

俺は三女神像に語りかけるようにして言った。そもそも、感覚ごとウマ娘にしてくれればこんなことにはならなかったのだ。

転生させてくれるなら俺の意見も取り入れて欲しかったなぁ....

その時、大きく風が吹き、俺に数枚の落ち葉が激突する。まるで三女神像が、「贅沢を言うな」と、俺に言うように。

 

「あでっ...はいはい、わかりましたよ。」

 

三女神像が手を貸してくれるようには見えない。やはり自力でどうにかするしかないようだ。と言っても、もう自分でできることはほとんどやった。何をすればいいのか、正直見当もつかない。

色々と考えながら三女神像の周りを歩いていると、突然何かに激突したのか、体がバランスを崩し、地面に引っ張られるように落っこちていった。まずい、ぶつかる。そう思い俺は目を閉じて痛みを待ち構えたが、その痛みは一向に来なかった。

 

「あれ....?」

 

恐る恐る俺は目を開けると、まるでアイドルグループのような整った顔立ちの男が、俺の体を支えてくれていた。

 

「っと、危ない。大丈夫?」

 

その男は俺に話しかけてきた。俺の体を優しく、繊細に扱い、包み込むようにして支えていた。その男の顔は、触れられるほどに近かった。顔は整っており、鼻は高くまつ毛も長い。絵に描いたようなイケメンだった。

 

「っ...!」

 

俺はびっくりして支えてくれていた手を振り解いてしまった。

 

「あっ...す、すみません!ありがとうございます....」

 

失礼な態度をとってしまい、俺はすぐに謝罪の言葉を口にした。しかし、その男は表情一つ変えず、

 

「いや、大丈夫。気をつけてね。」

 

と言って立ち去った。

 

「あ、行っちゃった....」

 

それにしても、すごいイケメンだったなぁ....あんなにイケメンなら、担当はスカウトせずとも向こうから来そう...

俺はそんなことを考えながらも、寮へと帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は寮に帰り、先程のことをディープチェイン、略してプチちゃんに話した。

 

「それって、今噂の一ノ瀬碧月トレーナーじゃない〜?」

 

プチちゃんは何か知っているらしく、あの男らしき名前を俺に教えてくれた。

 

「一ノ瀬、碧月トレーナー?」

 

詳しく話を聞くと、あの男の名前は一ノ瀬 碧月いちのせ むつきと言うらしい。年は19。トレーナー学校を飛び級、しかも首席で卒業したと言うんだから驚きだ。トレーナー学校時代についた異名は”天才"だったらしい。

 

「そうそう、お父さんはあの"神バ"シンザンのトレーナーだった人だよ〜。」

 

神バ、シンザン。

ウマ娘から史実の競馬を知りたくなり、調べたことがある。シンザンは史上2頭目の三冠馬で、19戦15勝、内2着4回と、生涯連対率100%を記録し、まさに"神馬"と言うにふさわしい。日本歴代最強馬は誰かというトピックで語るなら名前は必ず出るほどの超名馬だ。そのトレーナーの息子で、しかも学生時代にそれほどの実績があるのだ。実力は本物だろう。

 

「そんなにすごい人だったんだ....しかもイケメンときたか...」

 

非の打ち所がないとはこう言うことを言うのだろうか。容姿端麗、腕前も申し分なし。新人とはいえ、人気はとてつもないだろう。恐らくもう実力派の担当がいるだろうなと、俺はそう思った。

 

「私はミーティアちゃんとあの人、お似合いだと思うけどな〜?」

 

プチちゃんはそう言って俺に目線を向ける。

...俺とあの男がコンビを組むことを望んでいるのだろう。

 

「そんなにこっち見られても.....あの人にはもう担当いるんじゃないの?私よりも強くて、優秀な素質を持った子が。」

 

「いや、風の噂で聞いたんだけどいないらしいよ〜。ミーティアちゃん、狙っちゃえば〜?」

 

「え?そうなの?てっきりもういるかと....」

 

俺は少し驚いた。何かあるのだろうか。性格が悪い?いや、そんな風には思えなかった。過去に何かやらかしているとか、怒ると手がつけられないとかそういう系か?

 

「わかんないけど、何かあったんじゃないの〜?」

 

しかし、担当がいないとなれば好都合かもしれない。とてつもない実力を持ったトレーナーに担当としてついてもらえるかもしれない。一ノ瀬碧月か、名前だけでも覚えておこう。トレーナーがついてくれれば、俺はトレセンに残ることができるし今の俺の課題も解決してくれるだろう。一石二鳥だ。

俺は少しわくわくしながらそんなことを考えていた。

 

「ん?ミーティアちゃん、ちょっとニヤけてるよ〜?可愛い顔してるねぇ〜。」

 

「んえっ!?ま、マジ.....?」

 

びっくりして変な声が出てしまった。表情に出てたか....

この体になってから可愛いと言われると少し嬉しく感じられるようになってきた。耳がぴこぴこと動き、尻尾も左右にぶんぶんと揺れている。

 

「マジマジ。可愛い顔だねぇ〜。反応も素直だし。」

 

「あ、ありがとう....?」

 

「あのトレーナーさんにも見せてあげたいよ〜。」

 

プチちゃんが面白いおもちゃを見つけたかのように俺のことをからかう。

 

「ちょっと!からかわないでよ!」

 

俺は少し強めの口調でそう言った。しかしプチちゃんは余裕の表情を見せていた。恐らくまたこれでいじられるだろう。勘弁してほしい。

 

「ははっ、ごめんごめん。じゃあ、おやすみ〜。」

 

そう言ってプチちゃんは逃げるようにして布団に潜り込んだ。

 

「もう....おやすみ、プチちゃん。」

 

俺は吐き捨てるようにそう言い、自分の布団の中へと入った。さて、明日の並走相手は誰にしようか。とにかく苦手なバ群をどうにかしなくちゃいけない。バ群が苦手だと、レースで致命傷になる。本格的に策を打たなくては。

 

「あっ、そうだ。」

 

わざと逃げず、後方から捲るタイプの脚質も試してみよう。案外適性を見出せるかもしれない。となれば、相手として適任なのは自由奔放な逃げで相手を翻弄するセイウンスカイが好ましいか。

よし、早速明日試してみよう。

俺は期待に胸を膨らませながら、瞼を閉じて意識を落とした。

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