選抜レースから一夜が明けた。俺は相棒、一ノ瀬碧月とトレーナー契約を交わすためにトレーナー室へと来ている。
「よし、あとは提出するだけだ。改めて、これからよろしく。ミーティア。」
「うん!よろしくね、相棒!」
俺は勢いよく返事をして、相棒とのトレーナー契約を結んだ。こうして、俺、ヴァイスミーティアは晴れてジュニア級のウマ娘となった。
「じゃあこれたづなさんに届けてくるから、先にコースに行っといて。すぐ行くから。」
「分かった!じゃあまた後でねー!」
とても嬉しい気持ちになりながら、俺はターフへと向かった。
これでトレセンに残れる。可愛いみんなを見ながらのんびり学園生活を満喫できるんだ!
西陽がターフを照りつける昼下がり。他の子もトレーニングをしようとコースに出向いている。俺も例外ではない。
俺はターフで準備運動をしながら、あることを考えていた。
俺は相棒についてほぼ知らないのだ。顔が良く、トレーナーとしても優秀ということ以外謎に包まれたままなのだ。好きな食べ物や誕生日、趣味などは全く知らない。休日は何をしているのだろうか....
「お待たせ。やっていこうか。」
「うわっ!?び、びっくりした.....」
慌てて振り向いた先には、バインダーを手にした相棒の姿があった。
「何か考え事?」
「まあね....」
改めて相棒を見てみると、服はベストを着用しており、スタイルの良さが目立っている。髪は少し癖っ毛で、少しミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
いやしかし本当にかっこいいな....相当モテそうだ....
「.....どうかした?」
「い、いや!?なんでもないよ!」
「本当?顔赤いけど。」
「うそ!?」
手で顔を触れると、確かに熱を帯びていた。
「熱でもあるのか?あるなら今日のトレーニングは休ませるけど。」
「いや大丈夫!全然大丈夫だから!!」
焦って大きな声を出してしまう。
「本当?」
「もちろん!準備運動もしたし大丈夫だって!」
俺は必死に弁解をして、なんとか誤魔化そうとした。
「ならいいけど...」
相棒は少し不満そうな顔で納得してくれた。
「じゃあまず、軽く一周走ってほしい。距離は1800でどれだけ適性があるか見てみよう。」
「了解、任せて!」
俺は言われた通り少し緩めのペースで1800メートルを走った。
「ふぅ〜。どう?相棒。」
「思った通り、ミーティアはマイルから中距離くらいがちょうどの距離だね。練習を積めば長距離も行けないことはないけど、それでも3200がギリギリかな。」
一度走っただけでそれほどのことが分かるのか。凄すぎる。流石は天才。この人に選んでもらってよかったと、俺は心の底から思った。
「なるほど.....」
そして、俺の距離適正はマイルから中距離がA、長距離がBかCほどだということが分かった。この距離適正なら、ジュニア級からシニア級までレースに困ることはないだろう。ジュニア級では阪神JF、朝日杯FSがマイルレース、ホープフルステークスが中距離レースとして存在しており、クラシック級には三冠路線、シニア級には春、秋シニア三冠がある。他にも重賞レースが多数あるが、どれも中距離のレースが多く、距離的には問題がない。強くなって重賞ウィナーになれば、挑戦くらいはできそうだ。
ポテンシャルなら黄金世代にも引けを取らない自信はある。あとは自分を磨いてくれるトレーナーと己の努力だけ。トレーナーの腕はお墨付き、環境も最高。あとはひたすら努力するだけなのだが....
いかんせん俺は走ることが好きじゃない。ただここに残る手段がそれしかないから仕方なく走っているだけだ。勝つことは楽しいけれど、それ以上でもそれ以下でもない。負けると悔しさと共に、走ることへの嫌悪感が強くなっていく。上手く付き合って行かなければ、そのうち走ることが嫌になるだろう。どうにかしなければ...
「あと、一応脚質の適性も見たいから一定のペースで走る一周と、ラスト3ハロンで加速する一周も見たいんだけど、いけそう?」
「もちろん!」
「じゃあ、任せた。」
「よーし.......はっ!」
俺は軽い脚取りでコースを1周して、しばらく休憩した後、もう一度走った。
「やっぱりな。ミーティア、君は全ての脚質をこなすことができる。変幻自在の脚を持っているんだ。これはすごいアドバンテージになる。あとは気持ちの問題なんだ。」
俺はそれを聞いて、少し複雑な気持ちになった。状況に応じて全ての脚質になれるのは素晴らしい個性だと思う。先行でペースが遅くなったら逃げに変えることだってできるだろう。ただ、それはバ群を恐れなかったらの話だ。
どうしても、怖くなって逃げてしまう。それをどうにかするのが今後の課題なのだろうが....
「どうしても、怖い?」
「.....」
俺は静かに首を縦に振った。この恐怖が消えないことを、俺は心のどこかで分かっていたからだ。慣れることはできるだろう。だが、恐怖を消すことは不可能だと、俺は理解していた。
「そうだな、ミーティアの逃げはペースに均一性がなくて、なかなか掴みにくい。相手からすると厄介だろうし、それを上手く使っていこう。大丈夫、無理に慣れなくていいよ。」
相棒はそう言って優しく背中を撫でてくれた。
俺の短所を理解してくれて、寄り添ってくれる。この人はきっととても優しい人なんだ。
無意識に、耳と尻尾が揺れる。嬉しい気持ちになると無意識に揺れるんだな....
「....ありがと....」
俺は少し小さな声で答えた。
「どういたしまして。今日はここまでにしようか。距離と脚質の分析できたし、明後日から本格的にトレーニングしていこう。俺も買い物いかなきゃだし。」
「りょーかい!お疲れ様、相棒。」
「明日は休みだから、しっかり休んでね。じゃ、また明後日。」
「うん!ばいばーい。」
俺は元気よく手を振り、寮へと歩き始めた。
「それって恋じゃん〜!!!」
今日のことをプチちゃんに話したところ、開口一番にそう言われた。
「ふぇっ!?いやいやいや.....そんなわけないでしょ....」
「え〜?だって〜トレーナーさんのこと見ると顔赤くなるんでしょ〜?」
「....うん。」
「それで〜、トレーナーによしよしされると嬉しくなるんでしょ〜?」
「よしよしって....」
「撫でられると嬉しかったんでしょ〜?」
「まあ....うん....」
「それはね〜ミーティアちゃん。恋って言うんだよ〜?」
「そうではないでしょ....」
俺には正直分からなかった。嬉しかったのは本当だが、これが恋愛感情と言われると微妙なところである。最近まで男だったのだ。ウマ娘になったとは言え、そんな直ぐに男を好きになるのか....?
「それを恋って言わずになんて言うのさ〜。」
プチちゃんはすごいニコニコしながらそう言った。
「.....それはそうだけど....」
俺は少しふてくされたように言った。この感情はなんて言うのだろうか。友情?信頼?....どう考えても恋ではない。それもそのはずだ。つい最近まで男だったんだぞ。これはそんな感情じゃないはず.....
「あはっ、ミーティアちゃん照れてるね〜。耳が垂れてるよ〜?」
「えっ!?うそ!?」
俺は急いで耳を触って確認する。俺の耳はプチちゃんにの言った通り、半分より上が垂れており、傍から見ると照れているように見えるようだった。
「ふふ〜。ミーティアちゃんかわい〜ね〜。」
「もう、プチちゃんさっきから私で遊んでるでしょ....」
俺は少し呆れた様子で
「さあ?ど〜だろうねぇ〜?」
ニヤつきながらプチちゃんは言った。その顔は面白い遊び道具を見つけた時の悪い顔そのものだった。
「まったく....ほら、寝るよ。」
「は〜い。おやすみミーティアちゃ〜ん。」
「おやすみプチちゃん。また明日。」
「も〜....素直じゃないなぁ〜。そんなに気になるなら、休みの日何してるか調べてみたらいいのに。」
「!?!?」
俺の耳はその言葉を聞き逃すことはなかった。プチちゃん、その発言はかなり物騒だぞ....
だけど、相棒のことを知るのには、それが手っ取り早いのかもしれない...しかしそれで嫌われるのは避けたい.....
「うーん...」
俺はその言葉を忘れられる事はなく、眠るのに少し時間がかかった。
翌朝、あまり眠れなかった俺は昨日のある発言を思い出してしまい、ベッドの前を行ったり来たりしていた。
昨日のプチちゃんの発言が忘れられなかった。
確かに、相棒のことを知りたい気持ちはかなり強い。これから3年間を共にする、大事なパートナーなのだ。知りたい気持ちだってもちろんある。でも、それで嫌われたりしないかが心配でなかなか行動に移せずにいた。
相棒のことを知るとなれば、相棒を尾行するくらいしかないだろう。ただ、バレた時の相棒の反応が怖い。嫌われても仕方がないようなことだ。
俺は相棒のことを知りたい好奇心と、嫌われたくない恐怖心との板挟みにあっていた。
「ふぁ〜....どうしたの〜?ミーティアちゃん。さっきからずっとそわそわしてるよね〜。」
隣のベッドでうとうとしていたプチちゃんが、ようやく布団から体を出した。どうやらさっきの行動を見られていたようだ。
「いや.....あの、さ。プチちゃん....」
俺は思い切って、プチちゃんに判断を委ねることにした。
「う〜ん?」
「昨日のことなんだけどさ....あいぼ...トレーナーさんのこと、もっと知りたくなるって変かな...?」
「...ふ〜ん?それでそれで〜?」
「その....ね?休日何してるか知りたいんだけど.....これってどうすればいい....?」
俺の思っていたことを、全てプチちゃんにぶつける。
それを聞き終えたプチちゃんは、少しニヤつき、
「ミーティアちゃんったら、もう完全に恋する乙女の顔になってるよ〜?もう認めちゃえば〜?」
と言った。
「いやでも....そんなんじゃないし....」
俺はしどろもどろになりながらブツブツと呟いた。恐らくその時の俺の顔は真っ赤になっていただろう。
「そうだな〜...じゃあ、認めたらどうすればいいか言ってあげる!」
「えぇ....!?」
正直すごく気になる。どうすれば相棒のことを知ることができるのか。この気持ちをどうすればいいのか。しかし、俺が相棒に恋をしていることを認めなければそれを教えてくれないらしい。
「いやいや、絶対認めないからね....!?」
「ここがトレーナー寮か〜。意外と近いねぇ〜。」
....はい。結局負けました。プチちゃん強すぎます。あと泣き顔はずるい。承諾せざるを得なかった。だって泣かしたくなかったんだもん。
俺とプチちゃんは草陰からトレーナー寮を覗き、相棒が現れるのを待っていた。というのも、プチちゃんに今日は練習がなく、相棒が休みで買い物に行くということを伝えたら、いつの間にかこんなことになってしまっていた。
「ね、ねえプチちゃん...これ本当に大丈夫...?捕まったりしない?」
「大丈夫だって〜。こんな恋してる女の子を止める人なんていないよ〜。」
「ちょ、ちょっとぉ....!」
俺は必死になって反発するが、プチちゃんはまるで聞く耳を持っていない。
「まあまあ〜。でも私もトレーナーさんのことは色々知りたくなるよ〜?」
「そういえばプチちゃんはチームに入ったんだっけ?」
ここに来て思ったのは、ゲームのように専属トレーナーがつくのはごく僅かということだ。割合は全体の1割あればいいくらいで、他は全てチームになる。専属トレーナーは新人か、一人しか手に負えないが腕はお墨付きのどちらかに二分される。一方チームのトレーナーはベテランが多く、若手は少ない。まずは1人だけを担当してみて、そこからいろいろ学べということなのだろう。
「そうだよ〜。"サージュウェルズ"って言うところ〜。」
「そこのトレーナーさんはどんな人?」
「ん〜とね〜。ストイックって言うのかな〜?とにかくすごく真面目で私たちのことを見てくれるいい人だよ〜。」
話を聞くと、チーム"サージュウェルズ"のトレーナーの名は、渡邊隆人と言うらしい。年齢は21。若いにも関わらずチームを任されている。ただ、チームにスカウトするウマ娘に少し癖があり、選抜レースで目立った成績を残せなかった子や、怪我でデビューが遅れた子などを積極的にスカウトしているらしい。
「プチちゃんはどうしてそこに?」
「私もトレーナー側からスカウトされたんだ〜。"君のスタミナはとてもいい武器になる"って言われてね〜。入っちゃった。」
「なるほどねぇ...いい人だぁ...」
思ったことが独り言のように出てしまった。トレーナーはみんな性格が良い。性格がよくないとなれないとかあるのだろうか。
「ミーティアちゃんのトレーナーさんもいい人なんでしょ〜?レースにもあまり関心がないみたいな顔してるミーティアちゃんを惚れされるくらいだしね〜。」
「なっ....!?だからそんなんじゃないって....!」
俺は顔を真っ赤にしながら言う。
「こらこら。そんな大声出すと見つかっちゃうぞ〜?」
「あ、やば!!」
慌てて自分の口を塞ぎ、しゃがみ込んで草陰に身を隠した。
「およ?あれじゃない〜?」
そう言ってプチちゃんが指を指したのは、少し大きなサイズのパーカーを着ている相棒だった。背中には少し小さめのリュックサックを背負っている。いつもとは違う格好の相棒を見たのは初めてだったが....やはり、顔がいい。イケメンだ。
「はわ.........」
男だった俺でも見惚れてしまうほどのイケメンっぷりで、俺はしばらく見つめてしまった。
「お〜い?ミーティアちゃん〜?追いかけるんじゃないの〜?オトされないでほら、行くよ~?」
「ちょちょちょ!!引っ張らないで!!行く!行くから!」
プチちゃんが俺の服を思いっきり引っ張っ理ながら言った。声を抑えながら、俺はプチちゃんと一緒に相棒の後ろを追いかけた。
相棒が向かった先は、学園から一番近いショッピングモールだった。ここはウマ娘の用品を多く取り扱っており、相棒は迷わずウマ娘用のシューズや蹄鉄を取り扱う店に入っていった。
「ここになんの用が....?」
俺達は相棒から少し距離を取って動向を伺っていた。
相棒....他の子でも担当しようとしているのか?でもまだ相棒は1人しか担当できなかったはず...
俺もプチちゃんも全力でウマ耳を澄まし、聞き耳を立てている。相棒はどういう考えでここに来たのか...
「...もう少し小さいか?」
たしかに相棒はそう呟いた。手にとっていたのはトレーニング用のシューズ。相棒はシューズを入念に触り、感触を確かめていた。その後、シューズを棚に戻した。
次に相棒が向かったのは蹄鉄のコーナーだった。そこにはいろいろな材質の蹄鉄が並んでおり、トレーニング用の重い蹄鉄から、レースに特化した軽量の蹄鉄まで幅広く取り扱っていた。
「トレーニング用だとしても銅じゃ重すぎる....鉄でゆっくり慣らしていくか。」
そう言って相棒は鉄製の蹄鉄を何セットか手に取りレジへ向かっていた。
「一体誰用の蹄鉄なんだ...?」
俺達は引き続き相棒の後を追った。
次に行ったのは本屋で、相棒は迷わず教本のコーナーへ向かった。俺とプチちゃんは少し離れた本棚で本を読むふりをしながら、相棒の読んでいる本のタイトルを見ていた。
読んでいた本はどれもウマ娘関係の教本で、「ウマ娘成長理論」、「本格化後の伸ばし方」など、俺でも少し気になるようなものをよく読んでいた。結局相棒は6冊ほどの本を買って、次の場所へと向かっていった。
さっきの本屋からさほど離れていない場所のカフェに相棒は入っていき、端のカウンター席へ座った。
「私達も少しお茶していこうか~。」
俺達はなるべく相棒から離れた席に座り、プチちゃんはコーヒーを、俺はカフェオレを注文した。この体になってから苦いのが飲めなくなってしまっていたので、少し甘めのカフェオレを選んだ。そのせいでプチちゃんにさっきからかわれた。許さない。
相棒はと言うと、リュックからパソコンを取り出して何か作業をしているようだった。
「あれだけウマ娘関連のものを買って、トレーナーさんは何を考えているんだろうねぇ~?」
悪いニヤつき方をしながら、プチちゃんは俺に話しかけてきた。
「もしかして他の子を担当しようとしたり....」
「ちょっと...!」
「否定するってことは...もしかして嫉妬しちゃってるってこと~?」
「違うよ....ただそうだったら悲しいなって...」
他の子を担当する、つまり俺との契約を解除すると言うことだ。もしそうなったら俺はまたトレーナー探しからになる。いや、それよりも捨てられたことに悲しくなるだろう。偶然とは言えパートナーとしても選んでもらえたのだ。別れはそれなりに辛いものになる。
「いやいや、あのトレーナーさんはそんなことしないでしょ。」
突然プチちゃんが真面目な顔つきになった。こんな顔は初めて見たかもしれない。
「....もしかしてミーティアちゃん、気付いてない...?」
「...え?何が?」
俺はなんのことかわからず、素直にプチちゃんに聞いてみることにした。
「ウソでしょ....」
どこかで聞いたことがある言葉が飛び出す。
「はぁ~....あのね、ミーティアちゃん?」
ゆっくりとプチちゃんが話し始める。
「今日、あのトレーナーさんが買い物してたのは全部、ミーティアちゃんのために買ったんだと思うよ?」
「....ふぇ.....?」
思いもよらない発言に俺は声が漏れてしまった。
「気づかなかったの?靴のサイズとか蹄鉄の重さとか、全部ミーティアちゃんのサイズだったり体格に合わせて選んでたよ?」
「見てた本もトレーニングに活かすんじゃないかな?買った本のタイトルも小さい体で走る方法とかそんなんだったし。」
「いいトレーナーさんじゃ〜ん。ミーティアちゃんのこと、相当大事に思ってるんだと思うよ〜?」
「.....」
「...あれ〜?ミーティアちゃ〜ん?」
「.....ぁ....ぇ.....?」
え?俺のため?今日ここに来たのも...?
確かに靴のサイズは俺のサイズ近かったが...
やばい。今更だけどすごく恥ずかしい。俺は真っ赤になった顔を両手で覆うようにして隠した。耳も前に倒れており、誰がどう見ても照れているのは明らかだったと思う。
「ありゃりゃ〜。これは完全に照れちゃってますな〜。まったく、ここのウマ娘とあのトレーナーは...」
プチちゃんは深くため息をつき、コーヒーを少し飲んだ。
「あっ、そうだ。ね~ね~ミーティアちゃん。せっかくカフェに来たんだし、1枚撮ってウマスタにあげない?」
「......」
「こらこら。いつまで照れてるつもり~?」
プチちゃんはそう言って俺のほっぺたを引っ張ってきた。
「ふぇ!?ふふぃふぁんふぁめふぇ~!!」
「あはは、だってミーティアちゃんのほっぺぷにぷになんだもん〜。」
「だからって急に引っ張らないでよ....」
プチちゃんは引っ張るのをやめて、スマホを取り出した。
「ほらほら、ウマスタに上げる写真撮ろうよ〜。」
「ウマスタかぁ...私やったことないんだよね...いい機会だしやってみようかな?」
俺もそろそろこの体になって1ヶ月が経とうとしている。いい加減ウマスタとかウマッターなどに触れた方がいいのだろうか。
「やってみようよ~。楽しいよ~?」
「う~ん...じゃあやってみようかな...」
俺はスマホを取り出し、そのままウマスタのアプリをダウンロードした。
「どんな感じで撮るの?」
俺は自撮りというものを全くしたことがないのでどうすればいいのか分からなかった。ウマスタを完璧に使いこなしているカレンチャンはどうやって撮っているのだろうか。
「最初だし一緒に撮ってみようか〜。ほら、ミーティアちゃんも何かポーズとって〜。」
「こ、こう?」
俺は自分の顔の横にコーヒーを置く、かなり昔の自撮りの構図をとった。だってこれぐらいしか知らないんだもん。可愛いから許して。
「お、いいね〜。じゃあ撮るよ、はい、チーズ!」
撮った写真を見ると、かなり可愛らしく撮れていたので安心した。プチちゃんも慣れているのかすごく綺麗に撮れていた。
「いい感じじゃん〜!早速投稿しちゃお〜!」
「えーっと...... #ウマーバックス、#トレセン学園、#コーヒー、っと。」
あんまりウマスタとか触ったことないけど...これでいいのかな?とりあえず投稿してみよう。
俺はスマホの投稿ボタンをタッチした。
「あ、そういえば相棒は何してるんだろう....」
ふと気になり先ほどまで相棒がいた場所を見る。相棒は相変わらずパソコンで何か行っている。偶然、俺の席から相棒の横顔が見えた。集中している相棒の横顔は、とても凛々しくて......
「.....い.....お〜い。ミーティアちゃんってば〜。」
横に目をやると、少しふてくされたような顔でプチちゃんが俺を呼んでいた。
「あっ、ごめんごめん。ボーッとしてた。」
「さっきからずっとスマホ鳴ってるよ〜?」
そう言われて自分のスマホを見ると、バイブレーションと共にウマスタの通知が来ていた。
「ん?どうしたんだろ......ってええ!?」
スマホのロックを解除すると、恐ろしいレベルでさっきの投稿にウマいね!がついていた。3分も立ってないのに2000!?嘘でしょ....
ウマ娘の力ってすごいんだなと、俺はしみじみと感じた。
「さてと、ミーティアちゃんのトレーナーがものすご〜くウマ娘思いなのも分かったし、そろそろ帰りますか〜。ね、ミーティアちゃん?」
「...あぅ....うん....そうだね....」
俺は恥ずかしさのあまり下を向きながら返事をし、カフェを後にした。
ショッピングモールの自動ドアの前に来ると、何やら外にかなり大きな人だかりが出来ているようだった。何かあったのだろうか。あれは.....報道陣?でも何で?
「何かあったのかな?」
隣にいるプチちゃんが呟く。俺達は自動ドアを通り、迷惑にならないように端を歩こうとした。
だが、その考えが甘かった。
「あっ!いた!ヴァイスミーティアさんです!!」
えっ、なになになに?待って何でみんなこっち来るの?ちょっとまっ....
「ヴァイスミーティアさん!!あなたのトレーナーはあの一ノ瀬碧月トレーナーと聞きましたが、それは本当なんですか?」
「一ノ瀬トレーナーを選んだ意味などはあるのでしょうか!」
「いつ頃デビューされるんですか?」
まってまってまって!!!どう言うこと!?何でこんなに人がいっぱいいるの!?なんでここにいるって分かったの!?
「プチちゃ....」
「どうなんですか!?」
「いつデビューするんですか!?」
ダメだ!報道陣に囲まれてプチちゃんとはぐれた!!いくら大声を出しても、かき消されてまるで意味がない!!
身長が低くなったせいなのか、自分よりも身長が大きい大人達に囲まれた俺が抱いた感情は、"恐怖"だった。
「はぁーっ........はっ.....はぁーっ.....」
やばい、目の前がぐるぐるしてきた。視界が安定しない。周りの声が遠くなっていく。
あぁ....これ.....まず...い....かも....
「何してるんですか。」
ん........あいぼう......?
俺は何かに抱き止められ、視界を封じられた。でもこれは....相棒の匂いだ....
「はあっ.....はあっ......」
「大の大人がこんな小さな子を寄ってたかっていじめるものじゃない。」
「一ノ瀬トレーナー!ヴァイスミーティアさんのトレーナーについたと聞きますが、本当ですか?」
「はい。この子の素晴らしい素質を活かしたい、そう思いスカウトさせていただきました。」
「ヴァイスミーティアさんを選んだ理由などはあるんですか?」
「...ひと目見た時に思ったんです。『この子は他の子とは違う。』と。それが理由です。」
「いつ頃デビューされる予定なのでしょうか?」
「このまま順調に行けば8月上旬のデビューを予定しています。」
「...質問は以上でしょうか。そうであれば今すぐここから去ってください。それと、今後また許可のない取材をするようであれば、こちら側も相応の対応を取らせていただくのでお忘れなく。」
「そうだそうだ〜!ウマ娘のことを考えろ〜!」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。この声は....プチちゃん....?
「......」
周りの雑音が次第に無くなっていく。どうやらあの報道陣たちは帰ったようだ。
「ふぅ.....ミーティア。もう大丈夫。帰ってもらったよ。」
「あい....ぼう.......?」
「そう。大丈夫?」
「なんで....ここに.....」
俺はなんとか声を出す。さっきのでかなり体力が持っていかれたのか、あまり大きな声は出なかった。
「...あれでバレてないとでも?流石の俺でも、担当とその同室の子の顔くらい分かる。」
「ごめん.....尾行したりして....」
「気にしてないよ。それよりも自分のことを心配してくれ。」
俺は相棒の手で抱き止められているが、その手がなければ俺は倒れているだろう。自分では気づかなかったが、俺は相当疲れているようだった。
「仕方ない。よっ...と。」
俺の体は宙に浮き、次に目を開いた時には相棒の腕の中だった。これって.....お姫様抱っこ.....?
「帰ろう?ミーティア。」
「....うん....」
「うわ.....鈍感系イケメンってこわ....」
プチちゃんが何か言っているが、小声でほとんど聞こえなかった。
「君もありがとう。助かった。」
「いえいえ〜。ミーティアちゃんってなんかほっとけなくてね〜。」
その言葉はしっかり聞こえた。うるせえ。と言いたかったが、俺に言い返す力は残されていなかった。
「ミーティア、居心地悪くない?」
そうか、俺は相棒にお姫様抱っこされているのか....恥ずかしいはずなのに、なんだか、落ち着く。
「ありがと....あい...ぼ...」
「しばらくそこで寝ておきな。」
暖かく、心地よい感触に包まれて、私は眠気が限界点に達した。
「うん....おや...すみ....」
そう言って私の視界は暗闇に包まれた。
翌朝、恥ずかしすぎて起きるのが辛かったのと、プチちゃんから「バカップルめ....」と言われたのは別のお話。