純白の流星、緑の空を駆ける。   作:フタバ ハクシ

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一歩ずつ

相棒とトレーナー契約を結んでから約2ヶ月が経った。俺もすっかり相棒のトレーニングに慣れ、デビューに向けて着々と力をつけている。

コースを一周走り終え、相棒の元へと向かう。手元にあるバインダーには、今日のタイムなどが書かれていた。

 

「もう少しピッチを速めながら走れるか?ミーティアの体格的にもそっちの方が向いてるんだ。」

 

「了解!次の一周はそれを意識してやってみる!」

 

この2ヶ月で俺は見違えるほど強くなった。相棒が人気なこともあり、その担当ウマ娘ということでいろいろな子から模擬レースに誘われたり、並走を頼まれたりしたが、かなりの確率で逃げ切りを決めて勝つことができている。これも相棒が考えてくれたトレーニングメニューのおかげだ。

 

「あ、そうだ。明日キングヘイローとの模擬レースがあるからそのつもりで。」

 

俺はついで感覚で飛んできた言葉に耳を疑う。

 

「えぇ!?初耳なんだけど!!?」

 

「言ってないからな。それに今のミーティアの実力なら勝てると思うし。」

 

「いや....そう言ってくれるのは嬉しいけど...ちゃんと伝えてよ...」

 

相棒はマイペースなのかよく分からないが、少し抜けている部分がある。結構大事なことだと思うんだけどなぁ.....相手が相手だし....

....でも、"今の実力なら勝てる"か。俺が勝てるのか?黄金世代の一角、キングヘイローに。

 

「...本当に、今の私の力で勝てる?」

 

"不屈の王者"キングヘイロー。母父共に良血で、デビューする前から期待されている逸材。実力も一流で、前の選抜レースでは4バ身差の快勝だった。

そんな"一流"のウマ娘に、俺は勝てるのか。相棒は良いように言ってくれるが、俺は正直かなり不安だった。

 

「勝負の世界に絶対はないけど、俺は勝てると思ってる。そのための作戦だってあるしな。」

 

「どんな作戦?」

 

「ちょっと耳貸して。」

 

俺は言われるがまま相棒に近づいた。

 

「いいか、まず.....」

 

「なるほど.....それなら勝てるかも.....」

 

俺は作戦を聞いて大いに納得した。

 

「脚質が差しの子にすれば一番厄介なのは自分のペースを乱される逃げだ。この作戦なら勝率は7割弱ってところかな。」

 

「じゃあ次の一周はその走り方で走ってみるね!」

 

機嫌よく尻尾を振りながら言う。

 

「そうだな、予行演習といこう。」

 

俺はさっきよりも気合を入れてコースを駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミーティアちゃん、最近はもう隠さなくなったよね〜。」

 

お風呂に入り、髪を乾かしていると、思いついたかのようにプチちゃんが話しかけてきた。

 

「えっ、何を?」

 

「ミーティアちゃんのトレーナーさんへの好意。」

 

その言葉を聞いた瞬間、頭を何かで殴られたような衝撃が走る。

 

「ふぇっ!?!?」

 

「いやいやもしかしてお気づきでならない〜...?今日のトレーニングの時、メニューを見てる時の距離感近いどころじゃなかったよ〜。」

 

「確かに今日はメニュー見るとき近かったけど....いつもはあんなじゃないよ!」

 

「そのあとコソコソ耳打ちしてたのに〜?しかも尻尾振りながら。」

 

「だ...だからそれはちがうってぇ.......」

 

俺は熱でふにゃふにゃになりながらも答えた。

 

「でさでさ〜。ミーティアちゃん明日キングヘイローちゃんと模擬レースするんでしょ〜?」

 

「それは....うん。そうだよ。」

 

「かなり強い子だよね〜。勝つ勝算はどれぐらいあるの〜?」

 

「....分からない。でも相棒が教えてくれた作戦もあるし、やるからには勝つつもり。」

 

正直勝てるかは分からないけど、それでも相棒が応援してくれてるんだ。相手がたとえキングヘイローだとしても負けたくない。負けてたまるか。

 

「お〜燃えてるねぇ〜。これは明日が楽しみだなぁ〜。」

 

プチちゃんが俺の顔を見てニヤニヤしながら言ってきた。どうやら考えすぎるあまり表情に出てたみたいだ。

 

「あ、顔に出てた?」

 

「ミーティアちゃん考えてることすぐ顔に出るからな〜。ま、そういうところもかわいいんだけどね〜。」

 

「も〜....褒めても何も出ないよ〜?」

 

俺は照れくさそうに言葉を返す。

最近は俺も女の子っぽい立ち振る舞いや発言をしているからなのか、自分が本当に女の子なのではないかと思う時がある。いや実際ウマ娘なんだけど。

 

「明日頑張ってね〜。応援してるよ〜。」

 

「ふふっ、ありがとう、プチちゃん!!」

 

負けられない理由が、また一つ増えた。

みんなの期待を無駄にはしない。絶対に勝ってみせる。

俺は並々ならぬ意志を胸に抱き、一日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、よく晴れた昼下がり、俺と相棒はターフにて作戦会議をしていた。

 

「向こうは大きく作戦を変えることはないと思う。作戦はこのままで。」

 

「了解!!」

 

靴紐を固く結び、蹄鉄の確認をする。

よし、問題ない。準備完了だ。俺は頬を強く叩き、気合を入れた。

 

「おーっほっほっほ!!このキングが今からターフを華麗に駆けるわよ!!」

 

そう言って姿を現したのは、両耳に青いメンコをつけたウマ娘だった。その姿はデビューのウマ娘とは思えない程に仕上がっており、まさに"一流"というに相応しかった。

 

「君のトレーナーはどこに?」

 

「私のトレーナーなら、徹夜で仕事してたから休ませたわ。なんでも、『あいつは僕と同じくらい一流のトレーナーだから』だそうよ。」

 

キングヘイローはそう言ってしばらく相棒を見つめた。

 

「....それにしても、あなた本当に新人かしら?雰囲気からして他の新人とは違う。...まあ、私のトレーナーには及ばないけど。」

 

「まだまだ駆け出しのトレーナーだよ。そう見えるのはこの子、ミーティアが頑張ってくれるおかげさ。」

 

相棒は俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。無造作に撫でるので、せっかくセットした髪が乱れたが...正直、かなり嬉しかった。

 

「さて、と。改めて、キングヘイロー。今日は来てくれてありがとう。」

 

「こんな絶好の晴れ舞台、行かないわけがないでしょう!!また私の活躍を見せれるなんて!」

 

キングヘイローは手を頬の近くに出して、準備できてると言わんばかりの表情で語った。

 

「やる気は十分だな。ミーティアも、大丈夫か?」

 

「準備はできてる。いつでも行けるよ。」

 

俺だって、かなり真面目にトレーニングに取り組んできたんだ。負けたくないのはキングヘイローだけじゃない。走るのは好きじゃないけど、負けるのは嫌。相棒の為にも、自分のためにも、勝つ。

 

「行くわよ!またこの世にキングの存在を知らしめてやるんだから!おーっほっほっほ!!!」

 

キングヘイローは高笑いをしながらゲートへと向かっていった。

俺はふぅ、と深く一息つき、

 

「...相棒、見ててね。」

 

と言った。

 

「ああ。もちろん。楽しみにしてる。ほら、行ってこい。」

 

相棒はふっと笑い、俺の背中を優しく押してくれた。俺はその勢いのまま、ゲートへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

ゲート前に着いてから観客席を見ると、模擬レースと思えないほどの人が押し寄せていた。キングヘイローが気になるのか、それとも"天才"の担当ウマ娘である俺を見に来たのか。

 

どっちだっていい。やることは一つだ。とにかく勝つ。やるからには絶対負けない。バ群が怖い?後ろからの気迫が怖い?言ってられるか。

 

「キングちゃん、よろしくね!」

 

「いいでしょう!受けて立つわ!ミーティアさん!あなたに、私に打ちのめされる権利をあげる!!」

 

お互いにやる気は十分、か。楽しくなりそうだ。

俺はゲートに入り、

 

「よし!」

 

と声を出して構えた。

隣のキングヘイローもゲートへ入り、体制が完了する。

 

ガタン、と大きな音が鳴りゲートが開く。俺はキングヘイローよりも速く、地面を思いっきり蹴り上げてスタートを切った。

 

「はっ...はっ...!」

 

キングヘイローとの差は4バ身、5バ身とどんどん広がっていった。一瞬、観客席の方を見る。みんな遠目でも分かるくらいに驚いているのが分かった。

 

そう、これこそが作戦・・。俺は相棒の言葉を思い出していた。

 

「いいか、まずスタートから500メートルまでは思いっきり飛び出すんだ。後ろとの差をつけて逃げる。いわゆる大逃げだな。」

 

「でも、序盤にそんな体力使ったら後半ですぐ捕まっちゃうんじゃないの?」

 

「だから600メートルからはペースをできるだけ落として走るんだ。大体のウマ娘であれば序盤にあれだけ逃げたら後半で体力がもたなくなるだろうと踏み、後方で待機するはず。それを利用するんだ。」

 

「第4コーナーまでで息を入れ、最後の直線でもう一度スパートをかける。そうすれば相手はどれだけスパートをかけても差を縮めることができずにゴールする。」

 

「これこそが作戦だ。まだレース経験が少ないウマ娘に、しかも一度しか通じない諸刃の剣だが、ハマると確実に勝てる。」

 

まったく、相棒もなかなかリスキーなことするね。でも、

 

「嫌いじゃないけど、ねっ!」

 

俺は少し走るペースを緩め、体力を回復させるように息を入れた。なるべく脚取りを軽く、脚に負担をかけないように。

第3コーナーに入る。なるべくロスをしないように内のギリギリを走る。

 

手応えは十分。これなら行ける....勝てる!!

 

俺は第4コーナーを大きくリードした状態で直線を迎え、力の限り脚の回転を上げた。

 

「はあっ.....くそ....」

 

流石に俺の体力にも限界が来たのか、思うように息が吸えなかった。しかし、これだけ差をつけてるんだ。追いつけるわけ、

 

「!!?」

 

その時、後ろから怒涛の勢いで迫り来る気配は、まるで後ろに血に飢えた猟犬がいるようだった。

 

キングヘイローだ。あのリードがありながら、食らいついてきたのか...!?何かの冗談だろっ.....!?

くそ、まずい!負ける!!嫌だ!!

 

「はあっ!!...っ負ける、もんか!!」

 

俺は絶え絶えになった息を必死に整え、前へ前へと進み続けた。しかし、

 

大きく視界が歪み、俺は内ラチに激突した。

 

「がっ......!?」

 

ものすごい衝撃が俺の体に走り、俺はフォームを大きく崩した。キングヘイローは俺のアクシデントをものともせず、そのまま置き去りにするかのような末脚でゴールまで駆け抜けていった。

 

「くっ...そぉ...!」

 

俺はなんとか体制を立て直し、そのままゴールまで走り抜けた。

 

.....結果は、4バ身差で俺の負けだった。

ただ、悔しかった。作戦も、ペース配分も、スパートも、全て全力を尽くした。

勝負根性の差だろう。限界を超えて走ったせいで、まっすぐに走れなかった。他にも原因はあるだろう。

走るのが好きで、本気でトレーニングに取り組んでいる者、そうで無い者。...走ることに価値を見出している者と、走ることをただここに残るだけの手段としか思っていない者。その差は少しのように見えて絶望的に大きな差のように感じた。

 

...相棒も、プチちゃんも、俺を応援してくれていた。それなのに、俺はその埋められたはずの差で負けた。みんなの期待を踏みにじり、俺は....

 

 

「ミーティア。」

 

ずっと項垂れている俺の前に相棒はしゃがみ、

 

「怪我、見せて。」

 

と言ってきた。ふと自分の右腕を見てみると、ぶつかった部分が大きく腫れていた。

 

「あいぼ....その....ごめん...」

 

俺の耳はすっかり前に垂れている。

 

「気負わなくても大丈夫だよ。ほら、包帯巻くから腕出して。」

 

相棒は俺の腕を取り、慣れた手つきで包帯を巻いてくれた。

 

「応援...してくれてたのに....」

 

「....ミーティア。こっち向いて。」

 

俺は顔を上げて、相棒の顔を見る。相棒はどこか怯えたような顔をしているように見えた。

しばらくして、相棒は俺の肩を持ち.....そのまま俺の体を抱き寄せた。

俺の頭の後ろをぽんぽんと優しく叩き、

 

「大丈夫。よく頑張った。ミーティアはすごく偉い子だよ。」

 

俺はその言葉を聞いた瞬間、涙が溢れそうになった。

 

「でも....私は.....」

 

いいんだ。俺は自分に負けたんだ。心の底でレースを舐めていた。こんな俺をどうか叱ってくれ。罵ってくれ。

 

「ここで終わりなわけじゃない。俺はミーティアがもっと出来ることを知ってるから。だからそんなに気にしなくても良いんだよ。」

 

「うっ....うぅっ.....」

 

俺は相棒の腕の中で静かに泣き始めた。

 

「俺はミーティアを嫌いになったりしないよ。どれだけ負けようが、結果が出なかろうが、君は俺の自慢のウマ娘だ。」

 

もう、相棒のバカ。

 

「そんなの....いわれたら....がんばるしか....ないじゃん......っ..」

 

「ミーティアのそういうところ、俺は好きだよ。また明日、今日よりも頑張れるようにすれば良いから、今日はもう休もう?」

 

「うん.....わかった.....」

 

俺は泣きながらそう返事をした。

もう相棒にこんな顔をさせたくない。俺は誰にも負けないくらい強くなってやる。大丈夫。俺なら出来る。なぜなら俺は、いや、は、相棒の担当ウマ娘、ヴァイスミーティアだから。

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