運動不足で死にかける系ウマ娘   作:色龍一刻

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過去編なんて湧き出るもんさ。

設定で終わるつもりだった蛇足です。
気分がのったので書きました。
深夜テンションなので少々香ばしいぞ。



ファインモーションは何も設定とか知らず、
SSRサポカイラストが好き過ぎて好きになりました。
その後に設定を調べてもっと好きになりました。
あのシンプルチックな勝負服が愛らしいんよ。





空は澄み、青い貴女は翔んでいく。

私が彼女と出会ったのは、今から数年前のことだった。

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園。

通称、中央。

私、ブルーコンコルドが入学してはや数ヶ月。

 

当たり前のように、

運命の篩である、才能の壁にぶち当たった。

 

 

 

 

 

 

その日、私は走っていた。

がむしゃらに走っていた。

現実を引き剥がすように、遠く遠く逃げていた。

 

人生初の挫折、というより絶望である。

 

夢への一歩の先が崖だったのだ。

井の中の蛙。抱えていた驕りは粉々に散った。

そんなことは、ありふれたことだと誰も言うだろう。

それでも、それは凄まじい苦痛だった。

布団の中で暴れても、泣き叫びたくても、

こうやって逃げても、襲ってくる"衝動"。

 

涙を流して、歯を食いしばって、

私は、逃げていた。

酸素の回らない苦しさも、

脚が上げる悲鳴も、堪えきれない頭痛も、

『お前はその程度だ。』と言われているようで。

 

更にスピードを上げる。

こんなものではない、もっと速くなれる。

こんなもので終われないんだ、私はっ!

 

 

 

「ま"ってッ_____!!!」

 

 

「うるさいッ!  ....ッ!?」

 

 

 

小さい、小さい手だった。

幽霊のような冷え切った手が、私の二の腕を掴んで____意図せず急ブレーキをかけることとなった私は、苛立ちのままそれを払い除けて.....愕然とした。

 

 

 

ブッーーーーッ!!!

 

 

 

目と鼻の先を駆け抜ける鉄の巨駆。

ウマ娘と言えど、当たれば、当たってしまえばただでは済まないもの。

 

見えていなかった。聴こえていなかった。

 

背筋が凍る。

 

トラックの主は、私のことを気づかなかったようだ。

そのまま交差点を走り去っていく。

あの巨駆に存在する死角に、

私が半ば飛び出したようなものだから、それもそうだ。

 

腰が抜けかかった体を叱咤し、振り返る。

まず、我を忘れて暴走していた私を止めてくれた恩人に感謝と謝罪をッ!?

 

 

「ひっ ひっ ひっ ひっ」

 

 

ウマ娘、急患の少女がそこにはいた。

小学生ぐらいだろうか。

顔色は黄土色、口から唾液の泡がアスファルトに溢れ、

投げ出された四肢はピクッピクッと痙攣している。

それでも、その片方の腕は私へと伸びていた。

 

何もわからない。判断がつかない。落ち着け慌てるなどうしたこれはもしや私の振り払いで怪我を?

落ち着け、私。それでさっき死にかけただろ!

 

「だ、大丈夫ですか!? 」

 

.....まず、素人目からしてもこの呼吸音は異常だ。

顔色もだ。応答も無し。

下手に動かすのは不味いと聞いたことがある。

つまり私ができるのは誰かの助けを呼ぶこと。

 

周りを見渡す、糞、誰もいない。というかここはどこだ?

トレセン学園から勝手に飛び出してしまったので、携帯類は寮だ。急いで戻ろうとも脚は限界以上を出していたためガタガタ。

土地勘も寮に引っ越して数ヶ月、しかの暴走のためほぼ無し。

 

詰んでいる。

助けを呼ぶのに少なからず時間がかかってしまう?

そんなこと、許せるわけがなかった。

 

 

やってやろうじゃねーかこのやろう。

 

 

キレていた。

深く深く、混乱の奥底で自分に対して私はキレていた。

兎に角このときは冷静のれの字も頭に無かった。

 

目標:連絡手段を持つ人を可能な限り高速で発見。また少女のいる位置を報告する。

 

この交差点の名前を探す。あった。暗記。

なんでもいい、お店の看板を見つけ次第駆け込んで___

 

 

「すいませんっ! 電話を貸してください! 病院です! 119をお願いしますーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは。」

 

 

病院。

 

芦毛の少女はベッドから上半身だけ起き上がって、

開いた扉の先で立ち尽くす私に笑いかけていた。

 

消毒の臭い。真っ赤な液体のパック。

 

 

 

「貴女は、足がとても速いんだね。追いつくのに大変だったよ。」

 

「当たり前でしょ。これでも中央の生徒だし。後、止めてくれてありがとう。」

 

意外だ。さらりとお礼を言えてしまった。

 

「どういたしまして。怪我も事故も無くて良かった。本当に、凄いスピードだったから。ふふ、あのスピードを見るに、トレセンの生徒の中でも、君は多分エースだね。」

 

そんなことない!! そう叫びそうになって、あの交差点で振り払った手を幻視して、歯を噛み締めて堪える。

 

そんな歪んだ顔を見られたのか、少し困った顔で彼女は言葉を続けた。

 

「私、ちょっと体が弱くてね。この前、リハビリセンターから出てきたばかりでね、ウマ娘の本気の走りというものを見たことがなかったんだ。」

 

それは、

 

「いや、見たことはあるんだと思う。でも、ウマ娘らしくない速さの私を、風のように抜き去った貴女は、本当に速かったんだ。どの映像よりも。いつかの遠い記憶よりも。本当に、速かったんだ。」

 

病的な程に白い頬をうっすら上気させる少女の瞳に、

青い、青い空が鮮やかに広がっていて。

 

私の空。青い風。走り去る、私の姿。

 

ああ、

 

口は乾いていた。

言葉は生まれず、

ただパクパクと開閉するだけの時間が過ぎた。

 

言えない。

 

無知。比較対象の格差。心理的錯覚。速さへの憧れ。

その偽りの速さを壊す、理由など数多にあるというのに。

 

その空を汚す、言葉など、吐けるわけがなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しました。」

 

 

私は病室を後にする。

延々と少女の言葉がリフレインする。

何故か、胸の奥が燃えるように熱くって、

熱くって、熱くって_____

 

 

「ブルーコンコルドさん。」

 

 

気づく。熱さを仕舞い込んで、振り向く。

 

少々乱れたスーツ姿。胸元に光るトレーナを示すバッチ。

未だトレーナーを持たないので、担任が来ると思っていたが.....

 

「はじめまして。通常は学園教育における担任の先生が担当すべき案件ですが、私の血縁者とのトラブルということで派遣されました。花月(かげつ)悠路(ゆうじ)サブトレーナーです。よろしく。」

 

「改めましてブルーコンコルドです。よろしくおねがいします.....血縁者?」

 

「ええ、今現在入院中なのは、私の娘なのです。」

 

 

謝った。兎に角謝った。

何が原因なのか___多分私を止めるために病弱?な体を無理させて走ったこと___薄々勘付いたためそれをふまえて謝った。

 

 

「いえ、大丈夫です。わかっていたことです。娘が倒れたことを貴女の責任と言いたいのではありませんよ。娘が娘の判断で貴女を無理してでも追いかけたのは知っています。あの子は、嫌なところで頑固ですから。」

 

そう言って苦笑している。しかし....

 

「良いんです。学園が問題として上げるのは無断外出、無断欠勤、スピード違反。等のことについてなのですから。」

 

勿論、その処罰はしっかり受けるつもりだ。

現実にショックを受けて勝手に飛び出して事故に合いそうになったのだ。正当な罰だ。

 

「そこまで重く受け止めないで結構です。.......どの時期問わず、いるものなんですよ。飛び出してしまう子は。

才能の問題。怪我の問題。運の問題。お金の問題。

色々な壁が、あそこで走るウマ娘に立ちふさがっているからこそ.....どうしても出てきてしまうのです。」

 

 

私もそのうちの一人だった。ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走るのはキライだ。

どうしたってキライだ。

 

でも、レースは、誰かの走りは、

その限りではないのかもしれない。

 

だって、忘れられないのだ。

今でも、ときめいているのだ。

 

美しき、燃えるような風。

尊き、胸を焦がすほど鮮やかな景色。

 

映像でしか見れなくとも、

中継は細やかな音を拾えずとも、

 

知識は、記憶は、前世は、

 

彼女たちの爽やかな笑顔を、

遠い叫びを、重い涙を、その瞳の色を。

"生"を賭けた、一瞬の耀きを。

 

私に、強く刻み付けるのだ。

 

どうしようもなく、ああも美しいものなのだ、と。

 

 

そして、今日。

 

私は蒼い風を見た。

駆け抜ける、空を裂く飛行機をそこに見た。

 

それは、多分、いつか到る最果てそのもので。

初めて実感した、誰かの色そのもので。

 

本当に美しくて、本当にわくわくして、

いつの間にか、私は、

恐怖(すべて)を置き去りにして、走り出していたんだ。

 

轟々となにかが流れている。

臓の中身ははち切れそうで。

 

それでも、

 

まって。

貴女のをもっと見たい。

 

体を、脚を、前へと、私は手を伸ばして____

 

 

 

因子、解凍。

 

それは、(から)の座にて輝く、誰かの

 

 

今は無き空の欠片(ホロウスカイ・バースデイ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルーコンコルドさん。」

 

「はい。」

 

「父親として、貴女には、感謝と少々の怒り、そして嫉妬がありました。」

 

「嫉妬....?」

 

「多分、貴女が初めてだ。私の娘、ヴァーカンシーと共に走ったのは。」

 

 

 

「スピード恐怖症というものが....。」

 

「依然として解消したわけでもない。しかし、確かに、ヴァーカンシーの質量が増したから。貴女には感謝もあるのです。」

 

「.......。」

 

「軽い子でした。"色が無い子"とも、例えられていました。産まれ落ちた時から、まるで綿毛のように、他のウマ娘の風に煽られ吹き飛んでいきそうな、そんな子だったから。私達は走ることよりも勉強を、読書を、観賞を優先させてしまった。その代償が慢性的運動不足による心肺の不全と未だ全容の掴めない心的外傷です。」

 

「それでもあの時、確かに、私に追い付いた。」

 

「ええ、最初に病室に入って、本当に驚いたのです。見間違いじゃない。錯覚じゃない。あの子には確かに、今までとは絶対的に違う、色が付いていた。誰かの気配。誰かの走り。誰かの.....多分、貴女の色が。」

 

 

 

 

 

 

 

 

傲慢だろうか。

 

私は、貴女の走りに「私」を求めた。

だって、貴女は速かった。

これでも、トレセン学園入学者である。

それに無学無策無力無練で追いついてみせた奇跡があった。

 

白状しよう。

私は、貴女に憧れた。

なぜ追い付けた? なぜ追いかけた? 

なぜ手を伸ばした? なぜ諦めなかった。

苦しかっただろう。恐かっただろう。なのに、なぜ?

なぜ、なぜなんだ?

 

疑問は絶えない、

いくら探しても答えは見つからない。

しかも、時間が経つにつれて、

貴女の色は薄くなっていくものだから。

 

ならば、ならば。

もう一度だけ、色を貴女に。

私の色を、その瞳に、

 

 

 

 

青を。あの空のような、私の領域(未来)を。

 

 

 

 

 

 

 

 




キーポイントは、
『産まれて初めて見た、生の本気の走り』ということ。
正確には、優劣大小多少関係なく、心象領域を曝け出す、もとい纏わせた走りを知覚すること。

相手の固有スキル、心象領域を奪ったり、コピーしたりしているわけではなく、自身の欠けた部分を固有スキルの余剰部分で補填しているわけだ。欠けた部分が大部分を占めているので、まるでコピーに見えるわけだ。
固有スキル既覚醒、未覚醒は、あまり関係ない、補填材料なり得る残滓、気配があればかき集め、無理矢理成り立たせる虚像。まるで鏡のような、蜃気楼のような、見る人によって変わる夢幻の類。

ブルーコンコルドには、理想の未来が見えていた。



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