転生したけど周りがみんな転生者だった。 作:胡椒こしょこしょ
朝。
窓の外から聞こえるであろう小鳥のさえずりを塗りつぶすかのように鳴り響く。
この瞬間だけは、前の世界の事を明確に想起する。
携帯電話の着信音を聞いて、心臓がヒュッとなるのは克服できたがまだこれは克服できていないようだった。
今日は...サボっちゃおうかな....。
私、まだ学生だし...そんな自由がある子供の内にそれを行使するのは悪いことなのかな...。
あぁ...憂鬱だ、鳥かごのようなビルの一室でモニターを眺める日々が脳裏を過る....。
やる気が....一日の力が出ない......。
この世界でも一歩間違えたら似たような労働環境になっちゃうんだよね....。
それ以前にもっと今よりも魍魎が湧いてきたら、大社さんからもっと討伐命令が出て夜中でも駆り出されるようになるんだよね.....。
あれ....この世界でも、あんまり変わらない....?
あぁ...ダメだ、そう思うとこのまま布団の中でヘドロみたいになりたい....。
なんもしたくない....。
ぐにゃぁっとマットレスに体重を任せたその瞬間。
インターホンの音が鳴る。
ぐちゃぐちゃに散らかった部屋の中をインターホンの音が響く。
それでも、身体はまるで粘着シートを踏んでしまったドブネズミのように立ち上がることが出来ない。
すると、その数秒後にカチャカチャと音がなって扉が開いた。
私の部屋の鍵を持っている時点で、それが誰かは分かっている。
掛布団の隙間から外を覗き込む。
そこには一人の男の人が、部屋を掻き分けながら入ってくる。
私と同じ清め人、樋上先輩。
私と同じで大社の寮、それも隣の部屋に住んでいる男の人だ。
「...起きてる...っすか?」
「学校行くの....怠いぃ.....。」
「あっ....。」
何かを察したような反応を示す樋上先輩。
きっとまただって思ってるだろうな。
呆れてるのかな....?
見ると、何とも言えない表情をしている。
見ていて、こんな状況にしているのは私なんだからこんなこと思ったらダメだろうけどなんか面白かった。
「...休むんだったら、学校の方には俺が言っておくっすけど...。」
休む...。
休むか...。
さっきまではそれも辞さない心持だった。
でも、彼を見ると....。
ここにずっと居てもさっきみたいな気分のまま、時間を無駄にする。
それなら.....彼の居る学校に行った方が楽しいのは確定だった。
あとは、動かない身体に発破をかけるだけ。
だから....。
「ううん...行く...ただ....。」
「ただ....?」
隙間から手を出してちょいちょいと手招きする。
すると、彼がホイホイとこちらに来てる気がする。
よし...かかった!!!
「せんぱいがぜぇ~んぶ準備してくださ~い!めんどくさいのやだからぁ~!」
「おわっ....おわぁっ!?何してのアンタ!?!?」
抱き着かれるとは思ってなかったのか驚愕して大きな声を上げてる。
この世界に来て、変わったことが一杯ある。
私自身のこと、環境の事、境遇の事。
それでも私にとって嬉しい変化として挙げられるのは....甘えられる相手が今の自分には居るということ。
寮も学校も清め人であるということも同じだということで、遅刻しがちな私を起こしに来てくれる。
前では考えられない。
前は誰も私を見なかったし、気にもしない。
孤独だった。
恋愛だってする暇がなければ、友達だって作る暇もない。
飲み会があっても上司におべっか使って、無理やり酒を飲まされてその次の日の朝早くに痛む頭を押さえて出勤。
子供の時が懐かしいとずっと思えてしまう程の灰色の景色。
だから、こうして私を見ていてくれる相手が居ると言うことが、たまらなく嬉しくて...私はつい甘えてしまっていた。
本当は...前の世界では、大人だったって言うのにね。
...それにしても反応が大きすぎるような.....。
頭の中に疑問符が浮かぶ。
....あっ!
その原因に気づく。
寝ぼけた頭がヒヤリと冴える。
そして同時に顔は熱くなっていく。
そう言えば、昨日はそんなに寒い日でもないから面倒でパジャマ着てなかったような.....。
自分を見れば地味な色をした生活感溢れる下着だけ。
そして私を布団の方へと押し戻しながら見ないようにしている樋上先輩。
「せ、先輩っ....!そ、その...これは何かの間違いっていうか...寝ぼけてただけっていうかぁ...あ、あははぁ.....。」
気まずい空気。
ゆっくりと樋上先輩は立ち上がると、そのまま私に背を向けた。
「まぁ...なんだ、注意してなかったこっちの落ち度っすわ...。そりゃ、家だもん。解放感....求めちゃうよね。うん...それに寝起きだしね。」
「い、いや...あのっ.....そういうことじゃなくって!」
「大丈夫、うん大丈夫。あの...ユウナさん、学校行くなら制服着替えてもらっても...いいすか?」
「あ...う、うん。そ、そうだねぇ~。」
「じゃ、俺外で待ってますんで....。」
そう言って彼は外へとまた散らかった部屋を掻き分けて出て行く。
やってしまった....。
そう思う反面、どこかまだ熱を帯びている自分が居た。
昔とは違う自分。
異性に対して感じる感情を、男である彼に感じている自分。
それを強く意識させられた。
◇
今日一日の空模様は快晴。
透き通るような青色には白い雲は一つもない。
それでいてそよ風がそよそよと部屋の中を吹き込んでいく。
しかし、俺の心中は一日ずっと曇り模様と言ってよかった。
朝。
一日の始まりともいえる時間に、俺は....やらかした。
いつも通りの朝のルーティンで、隣に住んでいる彼女を起こしに行った。
まぁ、ホラ...彼女は他の連中とは違ってまともそうじゃん。
でも、前世での疲れからか遅刻が後を絶たないので一応起こしに行っていたのである。
そりゃ前の世界で死ぬまで働いたら、学校如き休みたくなりますわ。
とはいえ、大社からはそこらへんはキチンとするようにしなければ支援金を減らすとか抜かすし、そうなるとほっとくとユウナさん確実に減らされると考えるといつも世話になってて、百合豚渦巻く中での一縷の清涼剤になっていると言えるので日頃の感謝のつもりで起こしに行っているのだ。
でも、考えてみれば家というのはパーソナルスペースである。
そう、誰にも干渉されない自分の空間。
独り暮らしが始まった大学生が自室のことを自分の城と表現するように、それだけ部屋というのはプライバシー性が強い物だ。
そう、それを踏まえればたとえ親切心だとしても控えるべきだし、それが向こうの了承があったとしても細心の注意を払うべきである。
それが元は男であると分かっているとはいえ、女の子であるならば一層!!
ユウナ先輩の下着姿を見てしまった。
露出狂...というわけではないのだろう。
以前行ったときはだらしないし、明らかに薄手であったがパジャマをちゃんと着ていた。
だとすれば、彼女が言っていた通りだろう。
面倒臭くてパジャマを着ていなかった。
それだけだ。
うん、言うことはない。
だって彼女の部屋だぞ?
であればどんな過ごし方をしても、部外者である俺に何か言う権利があると?
そもそも露出狂だったとしても、自分の部屋の中だ。
そう考えると可愛い物じゃないか。
「おわっ...あの子、今もう一人の子の頬に付いたアイスクリームをなめっ....ほわぁ....桃源郷....?」
小癪にもこちらに聞こえないような声で百合の気配を察知して一人盛り上がっている隣の馬鹿と比べたら全然常識的である。
そりゃ...前世で抑圧されれば解放感を求めるようになったとしても、至極妥当だよなぁ....。
レイナもアリサが見ている方向に熱い視線を向けていた。
普段ギスる癖に、こういう時はやっぱ同族なんだなって思うわ。
だからコイツらとバス移動は嫌なんだ...。
まぁ、そんなことはともかく。
とにかく彼女の下着を見てしまったということ。
そして、殊更俺の気分を昏い底へと沈めるのはもう一つ....そんな彼女のあられもない姿を見て普通に反応してしまったということだ。
元々は悲惨な境遇だった元男性を見て、反応したんだぞ!?
いや....ヤバいでしょ、俺。
いくら見た目が良かったとしても、バリバリその経歴が見えているんだぞ?
散々前世での大変さを労わるようなことを考えていても、性欲は目ざとく反応するんですね?
死にたい...。
隣の熱気から逃れるように目線を逸らす。
すると、先輩と目が合う。
「あっ....。」
「あっ...あ、あはは....。」
「?...どうかしたの?」
もう、その事実が俺に重くのしかかる。
そりゃ原作主人公(女)こと柚子の声なんか耳に入らないくらいの自己嫌悪オブ自己嫌悪。
「はぁ...はぁ...はぁ....!!」
「ダメだわ...私、クールになりなさい。クールに....。」
息を荒げるアリサにうわごとのようにクールになれと自分に言い聞かせるレイナ。
ダメだ...逃げ場がない。
ユウナ先輩と気まずくなったことで、必然的にこいつらと一番後ろの席に座らないといけなくなった。
最早隣のゴリゴリ百合豚熱気を感じながら、耐えるしかない。
公共の場ですよ?
逆にその見た目の良さでよくオタク君特有の熱気出せるね、君たち。
窓が曇って来たよ....。
空はこんなにも晴れてるのに....。
まるで俺の心の中だな....ハハ。
向かっている先は大社の本部。
悪鬼や妖怪こと『魍魎』について呼び出しがかかった。
大方敵性結界を張っている奴が出て来て、それの討伐の為の作戦会議だろうな。
今はただ祈るしかない。
強くて危ない奴が相手でありますように。
そうして、俺の事をパッと介錯してくれますようにって....。
◇
着いたのは大社の事務所。
事務所と言っても日本家屋なのだが。
正直外から見たら堅気ではない人が住んでいそうな場所である。
中ではキャリアウーマンみたいなタイトスカートのスーツを着た女性が立っている。
俺達の上司に当たる人物、祁答院鳩音。
戦術取り仕切り人とかいうよく分からない役職の人物である。
多分司令官とか作戦立案者的なそういう指示する人ってことだろう。
よく分からんし、あんまり関心はない。
『祁答院鳩音
性別:女性
概要:趣味はアップテンポな曲を聞くこととエアロビクス
この世界におけるヒロインの一人
大社を運営している祁答院家の四女。
高校生から大学生前半は大社という組織を運営している自分の家を古臭い伝統に縛られたダサい家と軽蔑しており、反動でクラブで遊び散らかしていた。
しかし、嫌々参加した見合いの席で現在の夫(神主)に出会って掌を返したように伝統的な価値観を支持するようになって落ち着きを得る。
男性との経験:36回 女性との経験:4回
ア〇ルが弱い。』
関心ないって言ってるよねぇっ!?
この人が若い頃どれだけ遊んでたってことはどうでも良いんだよ!!
ここまでどうでもいい情報並べられるってすごいな、お前マジで特典!?
しかも今まで馬鹿にしてた価値観を好みの男に出会ったことで掌返すような主体性のない女性だってことが丸わかりだしな。
あと、一番ケツが弱いって情報が要らないわ。
確かにア〇ルが弱そうな顔してるなって思ってたけど!
あと性経験が書かれるのが一番キツイ。
お前、その人が目の前で真面目な顔して喋ってるんだぞ?
どんな顔して聞いて良いのか分からねぇよ。
「つまり....その三洋白久ビルというビルに発生した魍魎の退治が今回の依頼....ですか?」
レイナが尋ねると、祁答院さんは頷く。
「えぇ。都心であると考えると、住処としてそこを選んだ妖怪か思念霊....少なくとも自然霊の可能性は少ないわ。」
「自然霊じゃない....なら、そこまで規模は大きくないよね....?ねっ?樋上くん?」
「え....え?あ、...あぁそうだな。」
「...ちゃんと聞いてたのかしら?」
アリサの問いかけに答えた俺に訝し気な目を向けてくるレイナ。
聞けるわけないんだよなぁ....。
ていうかさっきまでバス越しに小さい秋ならぬ小さい百合を見つけてはしゃいでた奴にまともぶられるとちょっとモヤっとするな。
「でも、そこまで規模は大きくなってないってことは別に放っておいても自然消滅するのでは?」
俺は分かってますよアピールする。
正直あんまり頭に入っていない。
直前のアリサの発言から取ってきただけである。
すると、祁答院さんはゆっくり首を振った。
「そういうわけにもいかないわ。当初、結界はビルの4階だけの極めて小規模な物だったわ。しかもその階は誰も使用していない。つまりは誰も居なかった。」
「だったら、私達が集められるのはおかしいよねぇ?」
さっきまで黙っていたユウナ先輩が喋った。
今日は珍しく会議中に眠っていなかった。
俺を目の前にした時とは違って、普段と変わらない。
まぁ、そりゃそうだろうけど。
「ただ結界の規模が広がったことで、3階にある施設...学習塾が飲み込まれたわ。」
「学習塾って....!」
柚子が声を上ずらせる。
そりゃそうなる。
敵性結界の内部は魍魎の領域だ。
そこに一般市民が入ったなんて危険なんてもんじゃない。
それも子供が多くいるであろう学習塾なら猶更だ。
「ってことは、中でもしかしたら子供が命を落として....。」
「....縁起でもないことを言うなよ。」
「で、でもレイナちゃん!十分にあり得る可能性じゃん!!覚悟はしておかないと....。」
相変わらずこういう真面目な話でもギスるんだなお前ら。
単純にコイツら、馬が合わないのか?
それか無意識に同族だと察知して同族嫌悪してるのか。
ただ、野本君ことアリサの言葉は妥当だと俺は思う。
結界に飲み込まれた以上は、それも十分にあり得る可能性だ。
命が関わる以上は最悪の場合を常に考えるのがリスクマネジメント的にも、こちらの精神的に良いだろう。
「命の心配はないわ。結界内部では特に誰一人命を落としていない。」
「なんでそんなこと分かるんですか?」
その物言いだと、まるで内部のことは既に分かっているみたいじゃないか。
俺が尋ねると彼女はゆっくりとPCを持ってくる。
そしてとあるファイルにカーソルを合わせた。
「これはビルの管理会社に連絡して取得した監視カメラの映像よ。中の様子を映したものよ。これを見てもらえば無事であるということは一目瞭然よ。」
そう言ってクリックする。
そこまで言うなんて、どんな映像なのだろう。
「どれどれ....は?え...はぁ!?」
つい声を上げてしまった。
でも、そりゃ誰もが見ても声を上げるだろう。
だって映像には....。
『ちょっ...触んなっ.....は、払いたいのに、身体が....。』
『わ、私ダンスなんてしたことなくてぇぇ!もう疲れ...ひぎぃっ!!わ、分かりました踊りますから!!だからお尻叩かないでください!!』
『何この服....うぅ..おかあさん...先生.....えっなんで顔、近づけっ...んむっ!!』
女子生徒と思われる少女達が煽情的なコスプレ姿で何故か嫌がりながらも踊っている状況が映し出されているからだ。
彼女の周りには黒いマネキンの手や顔のような物が現れて少女達にセクハラまがいの行為をしている。
「な、なにこれ....。」
柚子は唖然とした様子で呟く。
その反面、俺としては類似ではあるが別の感想が浮かんでいた。
なんだこれ....エロMMDか?
こういう絵面、エロMMDで見たんだが....。
『坂本麻衣
概要:宵町高校二年生
好みは電車とかで寝ている働き終わった後の臭いおっさん』
『荒川美維
概要:高遠大学付属中学校3年生
好みはお兄ちゃんみたいな人』
『夏川愛
概要:金華小学校5年生
傘を忘れた姉に傘を届けに行った先で結界に飲まれる。
小学校の担任教師と交際関係にある。』
要らない情報なんだよなぁ....。
こういうのがあるからあんまり家の中でテレビ見れないんだよ俺。
「これは3階の映像だ。そして次に映るのが4階の映像だな。」
祁答院さんはこんなネタみたいな動画を眉一つ動かさずに切り替える。
すると今度は内装の様子が変わっていた。
言うなら行ったことないけどなんか過度に華美で下品な内装のクラブのような感じ。
そこでは同じく少女達が躍っているのだが、なんか囲い腰だと裸に見えるとか標識の指示に従って服が消えたり、そもそも『脱衣ダンスロシアンルーレット~失格者には罰ゲーム!~』みたいなどう見ても頭の悪い立て看板の元、ローテーションする舞台で踊っていた。
ははぁ...さては馬鹿だなぁ?
ヘンテコな魍魎は今まで居たには居たが、このレベルは流石に今まで居なかったな。
「え...これって...エロダン...w...はっ、ゴホン。な、何かな?」
「いや別に?」
「そ...そっか!いやぁ、許せないなぁ!うん、こんなの許せないよ!」
横目で見ると、隣に居たアリサが半笑いになりながらも、こちらの視線に気づいて取り繕っていた。
まぁ...そうなるよな。
明らかにもお前エロMMD知ってそうだもんな。
許せないとか言っているが本心かどうかは怪しい物である。
「...wぷっ..ふっ....今は真面目な会議中よ。そんないやらしい目でモニターを見るのは止めなさい。」
「え?見てないんだが?」
「どうだか...ぶっふw......きょ、今日はいい天気ね....。」
レイナに至っては笑ってしまったのを誤魔化す為に俺を注意しやがった。
この野郎...こっちに擦り付けてくんなっ!
しかも結局モニターを見ないように窓の外を見始めたし。
「.....ナニコレ????」
そしてユウナ先輩は心底意味の分からない物を見たと言った様子で首を傾げてる。
もしかして....知らないのか!?エロMMDを!!!
いや、確かにそうか!
まともな社会人であれば知らない可能性は十分にあるのか。
それこそ日頃から労働で趣味すら作れないような多忙な日々を送っていたこの人なら知らないのも無理はない。
なんて純粋さなんだ....眩しいぜ。
そんな子の下着を見た挙句に、元々男と分かっていながら反応した奴が居るそうですよ。
本当に死んだほうが良いな!!!
....消えてしまいたい。
「古くから踊りというのは儀礼的な意味合いを持っていますし、もしかしたら信仰を失ったはぐれ神がビルの空きフロアに居着いて近くの人間を取りこんで踊りを捧げさせてる....?本体は黒い手と顔なのでしょうか....?」
「どうかしらね。もしかすればこの表示の通り女の子たちは身体を動かしているから、この標識が結界が発生した原因なのかも。」
我らが原作主人公こと柚子は踊りから真面目に考察して、祁答院さんと話し合っていた。
あ....そこらへんは真面目に話が進むんだ。
そりゃ、そうだよね。
エロMMDとかこの二人が知るわけないもんね!
まぁ、でも何はともあれ一つ困ったことがある。
そう、今回の事例....多分死ぬような危険な目には合わない気がするんだ。
うん...そうなるとさ、うまみがないんだよね俺にとって。
ほら、こちとら今日の事もあるし、日々の積み重ねから魍魎に介錯して欲しいって思ってるんだよね。
だから、こういうネタ要員相手だとやる気出ないんだよね。
これ絶対アレじゃん、アニメとかだったらお色気回で出てくる奴じゃん。
おっぱいデカいキャラにリンボーダンスさせるのと同じ感覚じゃん。
うわぁ....やりたくねぇ。
自然消滅しねぇかなぁ....。
「今回は命に支障はないと判断できるため、結界の破壊に注力する。よって...結界術に秀でた雪野。」
「は~い、まぁそこそこにがんばるよぉ~。」
祁答院さんに言われていつも通りやる気があるのかないのか分からないような返事をする。
確かにユウナ先輩は結界術に秀でている。
この中では彼女の右に出る物は居ないだろう。
....そういう特典なのかな?
俺の特典はそういうことに限って何も教えてくれない....。
「そして...同行者として樋上。お前が行け。」
その言葉を聞いて、俺の肩が跳ねた。
それと同時にユウナ先輩の肩も。
「はい?...え、オーガズムしろってこと??」
「...誰が貴様に絶頂しろと言うのか。同行しろと言ってるんだぁっ!!!」
話を逸らしてすっとぼけようとしたら凄まじいボルテージでキレられた。
ダメか.....。
「いくらなんでもそれはないよ、樋上君。」
「キモいわね。ドンピシャだわ。」
いくらなんでも酷くない?
それに百合組に言われるの腹立つんだけど。
ハァハァ言って公共交通機関の窓を真っ白にしてた奴に言われたくないんだけどぉ!!!
「樋上君...大丈夫?もしかしてこの前私を助けるとき...やっぱり、怪我して....。」
「.....。」
柚子が深刻そうな顔をする。
...君の心配が痛かった。
これが、女性ばかりの中に男が一人いるってことなのかな...。
いや、前世カウントするなら男は俺含めて4人居るんだけど。
「っていうか結界術に秀でたユウナが居るなら俺いらなくないっすか?いるとしても俺じゃなくても良くないっすか?今回の作戦では俺は役に立たないと思いますということで休みますね。」
「却下だ。映像を見るに女性だけが自由を奪われて踊らされている。つまりは、結界を解呪しようとしている雪野が躍ってしまったらそれこそミイラ取りがミイラになる。それは他の連中も同じだ。ということで残りは男であるお前一人ということだな。もし何かあった時の為の雪野の護衛を行え。いいな?」
早口でたたみかけようと思ったが、あっけなく却下された。
まぁ、確かに理屈は分かる。
でも、人間理屈では生きてないんだよなぁ。
そもそも気まずいんだよね、今日の事から。
それはユウナ先輩の方も同じだって俺は思うな...。
そう思っていると、裾を引かれる。
なんだ、誰だ....?
振り返ると、いつの間にかユウナ先輩。
彼女はどこかぎこちない笑顔を見せながらもこちらに言葉を掛ける。
「ほ、他のエッチな踊り踊ってる女の人にかまけず、私の事..守ってね♪せんぱい?」
聞けばいつも通りのこちらを揶揄うような飄々とした態度。
しかし、声が震えてる。
そして瞳はまるでこちらを伺うようにこちらを見上げてた。
...そうか、先輩は俺の事を気遣ってくれてるのか。
流石は元社会人、大人の対応である。
さっきからグダグダ気にしてた自分が恥ずかしいな。
でも、そちらがそうやって歩み寄ってくる姿勢を見せて来るならそれに応えよう。
それが償い...っていうか誠意ってもんだろう,精一杯のさ。
「やってやるっすよ....出来る限り。」
「え~、なんか頼りなぁ~い。」
「話はまとまったようだな。他は施設の外に結界の発生源が逃げ出した際の駆逐だ。...まぁ、バックアップだな。」
祁答院がそう言うと俺とユウナ先輩以外が顔を見合わせる。
「...まぁ?私の指示がなくても作戦が遂行できるかは疑問ですが....たまには私の有難みを知るのも良い機会でしょう。」
「なにその言い方、二人が失敗するって言ってるのレイナちゃん。ちゃんと信じてあげなよ....。」
「は?信じてるんですが??前から思ってたけど貴方いちいち私の発言に噛みつくの辞めてくれないかしら?」
「ちょっ、二人とも.....こ、こっちはなんとかやってるから、そっちもしっかりね!頑張るんだよ!!」
そう言って柚子がガッツポーズを見せる。
どうやらあの二人は同族嫌悪でもなんでもなく、ただ単にウマが合わないようだ。
なんとか二人をなだめてる。
うわぁ...大変そうだなー。
まぁ、そちらはそちらでやるだろうが今回の作戦で一番重要なのは自分達だ。
そしてやる気を出したとしてもこれまた俺は気を張らないといけない。
なぜなら俺がヘマをしてしまえば、女の子に転生して平穏を手に入れたこの人にあんなあられもない服を着せて踊り狂わせてしまう可能性が高いからだ。
気を引き締めないとな。
そう自分に再認識させた。
この回と次の回がユウナ先輩回ですかね。