転生したけど周りがみんな転生者だった。 作:胡椒こしょこしょ
作戦当日。
現場のある三洋白久ビルは隣町にある為、俺とユウナ先輩は電車に揺られていた。
他の三人は前入りして周辺に人除けの結界を張るなど下準備をしているらしい。
俺達突入する人間は英気を養うために前の晩から十分な睡眠を取るように言われているので後入りしているのである。
「重いな....。」
ボソリとこぼす独り言。
隣を見ると、紅いジャージの上下を着たユウナ先輩が俺の肩に身を預けて寝息を立てている。
....俺よりも長く寝ていたはずなのにな。
まぁ、彼女は今回の作戦の中心であるので無理やりに起こすようなことはしない。
ただ既に俺の方は疲れているのは事実だった。
それはずっと彼女に肩を貸しているのもある。
「......。」
しかし、それ以上に疲れるのが車内の乗客の視線だ。
彼らの視線の何割かは俺に集まっていた。
まぁ、当然だ。
白昼堂々軍服を着ている少年が何食わぬ顔で電車に乗ってて、肩を上下ジャージの女の子に貸していたらそりゃ注目するだろう。
断じて、コスプレをしているわけではない。
これはアリサで言うところの魔女服、レイナで言うところのチャイナ服に当たる。
第2式霊防装備の一種。
これは大社から提供された装備『礼装』である。
各清め人の霊力量や性質に合わせて機能が調整された装備された物である。
俺の礼装『律命』は基本機能である防御面と対霊的干渉に特化しており、その代わり霊術の助けになったりなどはしない。
多分俺がガンガン接近戦して魍魎としばき合っている間に、他の連中が霊術を使うという作戦モデルを想定しているのだろう。
ただデザインだ。
デザインが軍服なのでこうして公衆の面前で着ていると注目が集まるのは自明の理だった。
俺の立場でも見るもん。
今日どこかでそういうサブカル的なイベント開かれてるのかなって思うし、なんなら現場に向かう段階でその衣装着てるって気合入ってんなって俺だったら思う。
俺だって、普段だったら現場の周辺で着替えたいものである。
しかし今回に関しては現場の結界が拡大の一途にあることと、そもそも隣街で都心なだけあって着替える場所までは確保できなかったらしい。
隣の先輩の礼装はなんなら俺よりも着るのに手間がかかるのでもう着ている。
しかし公衆の面前で晒すわけにはいかない恰好をしているので上下ジャージを上から着ているのである。
それが出来るのであれば俺もしたいが、俺の場合は軍服は...まぁ見られても少し恥ずかしいくらいで済むし、そもそも軍服の上に何かを着たら嵩張って暑くて暑くてしょうがない。
「んへ...にへへ....。」
俺の肩に頭を乗せて寝息を立てながらも、ユウナは笑みを浮かべている。
まったく...こちらの気も知らないで...。
これから仕事だというのに、一体どんな夢を見ているのだろう。
『次は六条寺、六条寺。乗り換えのお客様は.....』
電車内にアナウンスが響く。
六条寺....確かここが目的地だったか。
「おい、着いたぞ。」
「くかー.....。」
声を掛けながら肩で小突くも、口の端によだれを垂らしながら未だに惰眠を貪っている。
おいおい...マジかよ。
「着いたって....おい!いや、起きろって!....いやマジで揺らしてんだけど!?これでも起きないって何!?俺よりも長く寝てたっすよねぇ!!?」
「すぴー.....。」
嘘だろ.....。
身じろぎ一つしない。
身体揺らしてるんだぞ?
しかも夜更かしで睡眠不足というわけでもない。
眠り深すぎんだろ.....。
唖然とする俺を他所に、電車は駅の中に着いてしまってゆっくり減速してそのまま止まってしまった。
ドアが開く。
「まずいって!ちょっ...ユウナさん?ユウナ先輩??ユウナパイセンッ!!?」
「ふみゅ~....。」
やばいやばいやばい....!!
人の視線が集まるのは勿論のこと、このままでは乗り過ごしてしまう。
そうなると仕事の時間に遅れてしまうのだ。
確か、午後は都心部だけあって人通りが増えてしまうから人払いしても不安なので午前中に極力終わらせたいとか言っていたな。
じゃあ遅れたらマジでヤバイじゃん!!
どうする...どうすればいい....。
こうしてる間にも時は経過して扉が閉まる。
なんとか彼女をここから降ろす。
.....だったら、その方法は一つしか....ない。
「...あとで、なんか文句とか言わないでくれよ....!」
彼女の前に背を向けて屈むと、腕を両肩に掛けさせる。
そして、膝下に両腕を通すとそのまま背中に乗せておんぶした。
寝ている人は一層重いな。
幸い、彼女と俺の背中の間には軍服のマントがあるので体の感触は感じない。
この後、気まずくならないで済むな。
電車の扉から外に出ると、その直後にブザーが鳴る。
そしてその後すぐに扉が背後で閉じた。
間一髪だったな....。
「...なんで俺、仕事始まってないのに疲れてるんだ?」
完全に脱力している人間の重さと乗り過ごす一歩手前を乗り切ったこと、そして車内で嫌に好奇の視線に晒されていたことによる疲れがどっと押し寄せて一層足取りを重くする。
「...ん、...あれ?なんで、ここ電車じゃない?....え!?せ、せんぱい!?なんで!!?」
背後でもぞっと彼女が動くのを感じると、そのまま彼女が驚いた声を出しながら急に激しく動く。
まぁ、そうなるよね。
電車の中で座っていたと思ったら男におぶられて外に居るんだもんね。
ただ背中で暴れないで欲しいなぁ!
それに....。
「...もっと早く起きて欲しかったっすねぇ。」
心の底からそう思った。
◇
あの後、状況を理解したことによる俺への謝罪と乗り過ごしたかもしれないという焦りからテンパっていた彼女を宥めながらも現場に向かう。
現場の三洋白久ビルの周りには人払いの結界の効力から人気がなく、周りには大社の人間が複数人見受けられた。
付近には集会用のテントが張られており、机にはモニターなどの見覚えのある機材から何かよく分からない計器のような物まで置いてあった。
そしてそこにはアリサやレイナ、柚子の三人も居る。
三人も既に礼装に身を包んでいた。
アリサは魔女服、レイナはスリットがえぐいチャイナ服、そして柚子は脇が見えている巫女服だった。
正直、中々のカオス光景である。
着ている人間の元が良いだけに、高いイメクラみたいだった。
つくづく人払いの結界があってよかったなって思わせられた。
そして現在、俺はと言うと....。
「.....。」
「.....。」
絶賛気まずい空気に晒されていた。
普段はなんか飄々としてるのに、あの後宥めた後も殊勝にも彼女はシュンとしている。
申し訳なさとか...感じてるんだろうか?
まぁ、別に俺は良いんだけどね。
普段お世話になってるっていうのは本当だし。
ただなんだかんだで前世で過労死してるほどだし、普段飄々としているけど根は真面目だし、ため込みやすいのかもしれない。
なんとか話しかけて打ち解けないと。
さっき気にしないで欲しいって言ってもこの空気だ。
ここは関係ない話題を振ってなんとかしたいな....。
「き、昨日....。」
「あ....あ...はい!」
急に話しかけたからか大きな声を出す彼女。
ちょっとびっくりしちゃった。
いきなりすぎたかな?
「昨日さ、一人でハンバーガー...作ってみたんすよね。夜ご飯に。」
「え....あ、そうなんですねぇ~。私、あまりお肉とかの脂っこい物たべれないんですよね~苦手っていうかぁ~」
「あっ、あっそうなんすね....。」
やばい、会話終わっちゃったよ。
なんだ、会話苦手か?
もっと空気気まずくなっちゃったんだけど....。
しかも脂っこいの食べれないって前世から続く食への嗜好だよね?
大人になっていくにつれて脂っこい物を食べると胃もたれするようになるって言うし。
ストレスが溜まるとそういうの辛いって聞くし。
昔の大変さを少し出されると、途端にこの話膨らませづらいんだけど....。
なんとか...そうだ、誰か助け船とか....。
イメクラ三人娘(二名元男)の方に目線を向ける。
「えーと、そこで貴方達探索者は友人である樋野口君が椅子に縛られてるのを見つけます。どうしますか?」
アイツら....遊んでやがる!
しかもこのTRPGとかいうそこそこ手間と時間のかかる奴を!!
まぁ俺達が終わるまで暇だろうし、警戒以外やることないから時間の使い方的に賢いのかもしれない。
くそ...遊んでるなら俺も混ざりたい...。
「なら私はAPPで魅了して樋野口君と交際を開始するわ。」
「あ、樋野口君は最終的にNPCであるアリスちゃんと結婚するのでそれは無理だよ?」
「は?吟遊GM辞めなさいよ。」
「あの....私目星っていうのを...振っても良い?」
「吟遊じゃないですけど?設定ってだけなんですけど。なに?文句でもあるのレイナちゃん?マンチ??」
「はぁ??私のこと今マンチキンって言ったぁ??許せないわね....もう我慢の限界だわ、GM変わりなさい!!そもそも普段作戦指揮をしている私がこういうのは取り仕切るべきだったのよ!!」
「マンチ....?ぎんゆー....?え、えーとあの...まだサイコロ振っちゃダメ...なのかな?」
と思ったらレイナとアリサが何やら揉め始めており、間に挟まれた柚子がマンチキンとか吟遊とか専門用語に困惑していた。
多分柚子は初心者だろう。
ヒートアップしてて二人は柚子の言葉が聞こえていないようだし、これは柚子は何がなにやら分からなくてTRPGに関心を抱くこともなくなるだろうな。
可哀想に....。
正直知識がある俺でもあそこには混ざりたくない。
こういうテーブルトークのゲームはある程度気心知れてないと揉めやすいのだ。
普段ウマが合わない二人がやったらそらこうなるわって感じだ。
逆になんで二人ともTRPGやろうと思ったんだろう?
どうやら助けは望めない。
寧ろ向こうに居る柚子が助けて欲しいくらいだろう。
そして時刻的にもそろそろビルの中に入る頃合いだ。
しかしこのままの空気感で作戦をするのも....。
「楽しそうですねぇ~三人とも。」
「まぁ、好意的に見たらそう見えるっすね。」
凄く好意的に見たらだけど。
でもまぁ、度々あの二人は揉める所が頻繁に見られるけど決定的な決裂とかはないのでウマは合わなくてもなんだかんだ友人なのだろう。
...うん、多分。
ほら、まぁ....同族...だし?
「だから、私達だけでぜぇ~んぶ終わらせられるように、頑張らないとねぇ~。」
「...そうっすね。」
こちらに笑顔を向けるユウナ先輩にそう答える。
まぁ、あの3人の手を煩わせずに済むのであればそれに越したことはないだろう。
どうやら彼女は気まずい空気を察して、声を掛けて来てくれたようだ。
流石元社会人と言ったところか。
作戦前に良い空気になってくれたのはこちらとしてもとっても助かった。
気遣わせたのは少し申し訳ないが....。
「よ~し!それじゃもう時間だし、さっそく準備始めないとねぇ~。」
そう言って、彼女はいきなりジャージの上着のチャックに手を掛けた。
そしてそのまま下におろす。
その内側が外気に晒された。
開いたジャージ越しに見えるのは包帯と素肌。
上着を彼女が脱ぎ捨てると、露わになるのは上半身に包帯を巻いただけの姿。
その包帯にはびっしりと梵字が書かれており、ジャージを羽織っただけで長時間いたことで蒸れたのか蒸気のような物がむわっと脱いだ瞬間空へと上る。
そして、ジャージの下を脱ぐと下半身も同様の包帯を巻いただけの姿だった。
これが彼女の礼装『界律』である。
結界術に秀でた彼女に合わせて調整されており、本来の防御力や対霊的干渉に回されるリソースを彼女の霊的干渉の範囲の向上や効率の方へと重点的に振った物らしい。
つまりはコンセプト的には前線に出ずに後ろから相手に対して結界で干渉して有利な場を作るという物なのだろう。
しかし、問題はそのデザインだ。
はっきり言って見た目は全裸に包帯を巻いただけの痴女である。
そりゃ、ジャージを羽織る必要性があるわけだ。
正直、今でもちょっと見ていて慣れない。
元男と視界の端に映る文字が主張していて、分かっていたとしても反応してしまう。
男って悲しい生き物なんだなって....。
「....?せぇんぱぁいどうしたんですか?もしかしてぇ....見惚れちゃったかなぁ?やらし~」
「見惚れてなんてないんだが?」
ニヤニヤしながらこちらを見てくる彼女。
メスガキみたいなこと言っちゃって....幼いのは容姿だけにしてほしい物である。
「私の事ですらジロジロ見ちゃってぇ~、ビルの中ではなんかエッチな恰好で女の人達がダンス踊ってるんでしょぉ?大丈夫かなぁ~?」
「そこらへんは多分大丈夫っす。」
正直、頭の中でエロMMDと結び付けられてるのでネタにしか見えないんだよなぁ。
だからそれは杞憂という物だった。
...いや、てか見惚れてはないし。
反応はしただけでさ。
前世では男だって俺知ってるし、見惚れようがないっていうかね!
「っじゃ、用意も出来たみたいだし行くっすよ」
俺は振り返ることはなく、ビルの中へと歩みを進めていく。
腰には木刀。
懐には数枚の札。
俺の方も既に準備は出来ていた。
「待ってよせんぱぁい!からかったのは謝るからぁ!」
背後から彼女の声と駆け寄る足音が聞こえてきた。
別に揶揄われたからこの話題から逃げたわけではない。
ただ単に準備が出来たのであれば仕事を速く始めるべきだと思ったからだ。
ほら、祁答院さんから午前中に終わらせたいと聞いてたし。
うん、他意はないよ....本当だよ?
三洋白久ビルの一階。
非常階段の前。
エレベーターを使用するのは不測の事態の際に密室で対応する必要が出てきてしまうということで非常階段を使用するということになった。
緑色の非常灯が光る階段の中、俺とユウナはまた隣り合って歩く。
階段を一つ一つ昇って行くと壁面に印字された2という文字とその横に扉があるのが見える。
今は2階か。
「あと1階上がれば現場ってことか....。」
ここから上の階段を見ても、特に何もおかしなところはなさそうである。
しかし、油断は出来ない。
あと1階上がればそこは結界に当たる階層なのだから。
「覚悟は出来てますかぁ?せんぱい♪」
「入った時から出来てるっすよ。...それに、やるべきことははっきりしてるし。」
彼女を見ずに答える。
俺がやるべきことは隣のユウナ先輩の護衛である。
つまり、目標としては少なくともユウナ先輩がエロダンスを踊るような事態が起きないように気を張っておくことだろう。
「頼もしいですねぇ~。それじゃまずは階段まで侵されてるかの調査からです。」
そう言うと彼女は右手を上に向かう階段へと差し出す。
すると、包帯に印字されている梵字が淡く輝き揺れる。
右手の包帯が解けて、一人でに差し出した手の方向へと青く光りながらも伸びていく。
包帯が伸びれば伸びる程、ほどけて右手の肌が晒される。
そして伸びた包帯は丁度階段の踊り場に差し掛かった瞬間、何かに飲み込まれて先端が消える。
この一見なんの変哲もない踊り場を境にして、結界が張られていることの証左だ。
「御覧の通りぃ~、踊り場の先から既に結界内部みたいですぅ~。強度は...まだこの程度じゃ分からないですねぇ~。」
「まぁ、そんな簡単に分かれば苦労はしないしな。...じゃ、行きますか。じゃ、俺が先に行くんで。」
「はぁ~い!」
そう言って、俺が一歩踏み出して先行する。
するとユウナ先輩は元気よく返事をして追従する。
...なんか引率の先生みたいだな、俺。
階段を一段一段昇って行って、後一段昇れば結界の中に侵入することになる。
結界に入れば、それは魍魎の領域。
もしかすれば、俺とユウナ先輩でまったく別の場所に出るかもしれない。
そうなれば死に物狂いで探さないとな。
固唾を飲んで覚悟を決めると、そのまま一歩踏み出した。
直後、俺の耳をつんざくテンポだけを重視したかのようなダンスミュージック。
目の前に広がっているのは殺風景な非常階段などではなく、きらびやかなダンスホールの数々。
映像で見たようなディスコとかクラブみたいな場所。
そして、まるで虚ろな目をしたまま縛り付けられたように椅子に固定させられている男性たちの前でいかがわしい衣装を着せられて踊り狂っている女の子たち。
「入った....のか。...ユウナさん!」
「うわぁ~なんかうるさぁ~い!こういう騒がしい所苦手なんだよねぇ。」
背後を見ると、渋い顔で耳を抑えるユウナ先輩がそこには居た。
良かった....結界に入ったタイミングでランダムな場所に出されるとかそういう類の奴ではないらしい。
彼女を探すことから始めないといけないかもしれないと一抹の不安を抱いていたが、それはどうやら要らぬ心配だったようだ。
「敵の気配は....ないっすね。」
周りを見回しても、魍魎の類は見当たらない。
...いや、なんか女の子に手みたいなのがセクハラしていたりするが、実際に見て見るとアレが結界内の起点とは思いにくかった。
通常は結界を開いた魍魎や起点には、一種の圧というかプレッシャーを感じる物である。
こちらにじっとりとへばりつくかのような気持ち悪さや、押しつぶさんとせんほどの視線など。
だからこそ、周囲で女の子相手に元気にセクハラしているマネキンの手や頭のような物からそれは感じなかった。
それに、侵入してきたはずの俺達にも排斥しようとするどころか反応すらしない。
やはりそこまでこの結界は脅威とは言えないのだろう。
そもそも学習塾を飲み込んでいなければそこまで性急に対応されることもなかっただろうしな。
「それじゃ、あの手みたいなの一つ一つ潰していきますぅ?」
「...もしかすれば際限がないかもしれない。それなら結界を何とかした方が早い。」
「私もそう思いまーす。それじゃ、ちゃっちゃっと終わらせますかぁ~。いってらっしゃぁ~い♪」
彼女がそう送り出すと、彼女の全身に巻かれた包帯が一斉に青い光を放ち始める。
周囲に布を広げて張り巡らすことで彼女の結界を張って、既存の結界を彼女の領域に塗り替える。
まずは3階の解放を行うようである。
本来はこのような大掛かりな術式を行使するには詠唱や準備が必要なはずなのだが、それは礼装に刻まれた梵字が代行している為、声などの妨害などがあったとしても即座にこの規模の結界を展開することができるという算段である。
しかしその代償として最低でも一日前から素肌に触れさせておく必要があるという。
俺だったら絶対にこんな布切れ丸一日身に着けるなんて御免なので、よくやるなぁ...と毎度感心させられるものだ。
度々見るこの作業。
しかし、俺からしてみれば彼女との二人きりの任務がやりにくいだろうと考えた最大の要因であったりする。
何故なら、この結界を張る作業の間は彼女の全身の包帯が周囲に伸びて広がっていく。
それはつまり、ほどけて包帯の後に残されるのはユウナ先輩の一糸まとわぬ姿であるからだ。
なんというか、男と分かっていながらもすぐ手の届く距離で容姿の整った少女が一糸まとわぬ姿になっているという事実に否応なしに反応してしまっている自分の情けなさと節操なさに自己嫌悪と気まずさを抱いてしまうのだ。
しかし、今回は完全に彼女から目を擦らすわけにはいかない。
それは、彼女の護衛が今回の任務であるからだ。
結界を張っているのだからよほどのことがない限りは大丈夫とは思う。
そもそも今回の案件は結界の強度や最初の規模からそこまで強力な魍魎も居ないだろうと予測されているし。
しかし不測の事態が起こらないとも言えない。
「....。」
だからこそ、視界の端にちらっと見える程度に収めておく。
完全に目を離したわけではないが、彼女の肢体が完全に見えるわけでもない。
完璧な対処である。
「首尾はどうっすか?」
「うん、問題なし~。あと1分くらいでこの階層は解放でき....。」
あっけらかんとした声で俺に答えたユウナ先輩。
その直後。
視界が、真っ黒になった。
「な、なんなの!?...一体何が起きて.....!!?」
「せ、せんせぇぇぇい!おかあさぁぁぁん!!おねえちゃぁぁぁん!!!ひっ、停電したんだから触るのやめてよぉ!!!」
一瞬、目でも潰れたのか霊的干渉によって視覚を奪われたのかと思った。
しかしすぐに周囲の女の子たちの声を聞いて思いなおす。
ここはクラブのような内装をしていた。
なんか間接照明か何かかと思うようなうすぼんやりとしたピンク色の光やミラーボールの光で照らされていたが、それらが全て消えてしまったのだろう。
窓はない。
そうなれば必然的に待っているのは暗黒だ。
「っ!!ユウナ先輩!!!!」
しかし、そんなこと思索している暇はない!
叫びながらも手で探る。
しかし、彼女が居たであろう場所を探っても何も当たらない。
やられた...!!
余計な事なんか考えずに、見ておくべきだったか....いやそれでもこの事態は避けられたとは思えない。
手でも繋いでおけば....!
「せぇんぱぁぁぁい!!」
「っ!!!ユウナ先輩ッ!!!!」
遅い後悔をしながらも手で探っていると何かを掴む。
ユウナ先輩か!?
そう思った矢先に、照明が再び点いた。
「ほわっ...へ、へっ!?な、なんですかぁ....!?えっ!?マネキンさんかと思ったら次は...軍人さん!?あ、あの...な、何でも良いので踊りやめさせてください!!もうきつくて、お尻もジンジンするんですけどぉ!!もう...疲れすぎて、疲れすぎて...お話するのもきついんですけどぉぉ!!」
『荒川美維
概要:高遠大学付属中学校3年生
いつも夜寝てる時に無理やりお兄ちゃんに襲われて、そのまま日常的におしおきとしてお尻ぺんぺんや首絞めされながらするシチュエーションを妄想して致している。』
くそどうでもいい情報と共に現れるのは侵入前のビデオで見た運動音痴そうな少女。
こんな少女、近くには居なかった。
これはどういうことだ....俺が移動しているのか?
周りを見ればまるで失った主へと向かうかのように張り詰めて上へと伸びている包帯達。
光が段々と弱まっている。
それを辿るように上を見ると、さっきまでなかったのにまるで最初からあったかのようにぽっかりと穴が開いていた。
つまりはユウナ先輩が上へと連れてかれた後に、まるで誤魔化すかのように目の前の少女が移動させられたと言うことか。
「おいおい...マジかよ....。」
結界内は奴らの領域だ。
だからこそ、こんな風に地形を改ざんすることなどは珍しくない。
しかし、彼女は解放まであと少しという程には結界を張っていたのだ。
いくら彼女の礼装自体の対干渉性が低いとは言え、結界を張りさえすればその堅牢さは俺含めた他の連中の比ではない。
そんな彼女を結界を搔い潜って、彼女を上の階へと攫った?
しかも、ほぼ彼女の領域になりかけていた結界を改ざんして??
「認識を改める必要出てきたぞ....。」
そんなことが出来るのはよほど強力な魍魎だけだろう。
少なくとも規模は小さくて、忘れられた山神の類な気がする。
最初に祁答院さんが示していた思念霊の線は完全に消えていた。
....まぁそうなるとこのエロMMD擬きな騒ぎは一体どういうことなのかって話になるのだが。
「す、すみません!すみません!!なんか手を握られたことで貴方の身体でなんかくねくね私の体踊り出したんですけどぉぉぉ!!わ、私そんなつもりじゃないんです!!そもそもこの衣装も気づいたら着ていた物で!!」
なんか羊モチーフの彼女は俺の手を掴むと、俺の身体でポールダンスしようとしていた。
なんかすごく色んな意味で心臓に悪いし、なんか泣きそうになっている彼女を見るのも忍びない。
...アレするか。
そう決めると、懐に手を入れて一枚の札を出す。
そして、彼女の頭を抱きかかえて固定すると札を彼女の顔の前に晒した。
「な、なにして....!」
「今は夜だ...夜夜夜....ほら、晩鐘が聞こえるよ....ごーん...ごーん....羊さんも家畜小屋に帰って行く。一匹...二匹.....羊さんが帰って行く度に君の体はふわふわな布団に包まれていく...ふわ...ふわふわ.....。」
「かお...ちか....はれ...?ふわふわ...ひつじ..ごーんごーん....。」
適当に聞きかじった寝かしつけ音声の真似をしていると、淡く光る札をまるでイカレたかのように真っ直ぐに見つめる少女。
その目は段々ととろんとして、そして瞼が下がっていく。
バタバタと踊ろうとして腕の中で暴れんばかりだった身体もだんだんと緩慢な動きへと変わっていく。
そして、そのまま....腕の中で眠りに就いていた。
...眠ったら踊らなくなるのか。
任務終わりなどに通行人に都合の悪い物を見られた時に出す認識阻害の術式。
それを札レベルに纏めた代物である。
このサイズにまでまとめたので認識を阻害するのではなく、相手を眠らせてその時の記憶を忘れさせる方式に代わってるらしいが、これでも結構役に立つものなんだなぁ....。
どうせあとでスタンバっている人員全員で阻害術式使うからいらないだろうと思っていたが、なんにでも使い道はあるものだ。
寝かせた少女を床にゆっくりと横にする。
さて...面倒事は終わった。
あとは....ユウナ先輩を連れ戻すだけである。
ここは結界だ。
見る限り、階段もないので上に上がる手段はないように思える。
...唯一開いている天井の穴を除いて。
「ッ!」
寝ている少女に手が近づこうとしていた。
それを腰の木刀で斬り潰す。
すると、手は真っ二つになって黒いインクのような物が飛び出す。
匂いはなんというか雑草を野焼きしたかのような匂い。
手を斬った後、身構える。
しかし依然、手は俺を襲うこともなければ反応を示すこともない。
こちらに敵意を見せるわけでもなく、されど彼女を連れ去れるほどの格の魍魎。
不気味な物だ....。
固唾を飲みながらも、天井の穴を見つめる。
そして穴に向かって今なお伸びている包帯に手をかけた。
包帯だけ身にまとったロリ少女を出したくて書いた感じある。
次でユウナ先輩回は終わります。