錬鉄の英雄の居る店   作:三和

103 / 113
103

『アイツは間桐の家で今日までずっと…蟲に凌辱され続けている…』

 

「……当初、私は慎二の言葉が頭に入って来なかった…いや、理解を拒んだと言うのかな…それでも意味が分からなかった訳では無い……ただ…自分を慕い、笑顔を絶やさない彼女が…まさかそんな目に遭っていた事など…どうしても受け入れる事が出来無かった…」

 

『……』

 

彼女の過去を聞かされると、やはりこう言う空気になるか…ここに居るのは一応特殊な私も含め、全員魔術師の家系になるが…それでも同じ女性として当時の彼女が置かれていた状況には心を痛めてしまうだろう…

 

まぁ、性別関係無く彼もそうだろうが…

 

「そんな…そんな事が…!」

 

……と言うよりほぼ一般人と変わらない彼は、当時の私と同じく受け入れ難い様だが…

 

「君に、一つ頼みが有る…」

 

「何でしょうか…」

 

「彼女を…桜を、出来れば特別扱いしないでくれ…彼女は今では愛する夫と娘を得た普通の女性でしかないんだ…」

 

彼の人柄は既にある程度分かっている…彼が桜を嫌悪する事は無いだろうが…彼の場合先に釘を刺さないと同情が前に出てしまうくらいには一般人と変わらない……嫌な言い方になるが、魔術師の家系ではあまり珍しい事では無いのだ…一般人にとっては虐待としか思えない行為も、魔術師の家では子供に対する「教育」になる……まぁ、今の時代…もし同じ様な事例に遭遇したら、表と裏…両方で潰す事は可能だ…そう考えると良い時代になったものだ…昔は、普通の虐待に対する国の対策ですら今より遥かに甘かったからな…

 

「分かりました…正直桜さんがその家に今も居る、と言うのが僕には納得出来無い話ですが…彼女が幸せである、と言うなら僕から何かを言う事は有りません…そもそも部外者ですしね…」

 

まぁ、当時の間桐家は既に跡形も無いんだがな…

 

「話を戻す…衝撃的な話を聞かされたせいか、完全に狼狽えていた私を尻目に凛が静かに前に出て、慎二を殴って地面に投げ出された辺りでようやく私は我に返った…」

 

『!…遠坂!』

 

『どう言う事…?』

 

「慎二のサーヴァント、ライダーは慎二を庇わなかった…後で聞いたら、自分が多少危害を加えられても何もするな、と予め言い含めていたらしい…まぁ、あいつなりのケジメだったのかも知れないな…」

 

とは言え、仮に慎二が桜に対して行われていた事を間桐臓硯を恐れて止められなかった、と言うだけなら…コレは理不尽な糾弾と言えるかも知れない…ただ、あの時のアイツはそうされる理由も有る…慎二は傍観者では無かった…少なくともここに居る女性陣は慎二のやった事をこの場で改めて聞けば…元々高くない慎二への評価は最早地に落ちるだろう…最も、今…あの二人は既にお互いに納得して「夫婦」と言う形になる事を選んでいる…それが二人の出した答えだ。

 

『ちゃんと答えなさい…どう言う事なの!?』

 

『っ…言葉通りだよ…アイツは…桜は…ずっと蟲に、ジジイによって身体を弄ばれていた…それが全て『それだけか』ん?』

 

「何故だろうな、私は…そう言う時に限って鋭くなるらしい…そして、空気が読めない…よせばいいのに、余計な事を聞いてしまった…」

 

『それだけじゃないよな…?お前、桜に何をした…?』

 

『……僕は、ジジイに目を掛けられてるアイツに嫉妬した…ムカついた…それで、犯した。』

 

「……気が付いたら私は慎二の上にのしかかり、拳を奴の顔に振り下ろしていた…さすがに見かねた凛が止めに入るまでな…」

 

「改めて聞いた今でも分からないんだよね…どうしてサクラは、シンジなんて選んだんだろう、って……それでもシンジとの子供を抱くサクラは…凄く幸せそうに見えたけど。」

 

「当時の桜に僅かばかり慎二を想う気持ちが残っていた事と、アイツがせめて責任を取ろうと選んだ結果だ……まぁ、だから最初の内は歩み寄ろうとする桜に慎二が遠慮して、かなりギクシャクした夫婦関係だった様だがな…それでも娘が産まれてからはアイツも二人に向き合う様になったがな……最も、仮に娘が出来てからもあのままなら…どんな手を使っても別れさせていたよ。」

 

元々、桜の身体では普通の子供は見込めない状態だった…芳乃、彼女がこの世に産まれて来たのはもしかしたらこれ一回切りの奇跡かも知れない…これからを考えれば大変だがな…何せあの子は、魔術回路を持っている…開く事無く普通の子供として育てるか、何が起きても良い様に魔術を教えるか…今も二人は迷っている様だ…

 

『慎二、そんなお前が俺たちに頼みたい事ってのは何だ?』

 

『っ…そうだな、お前に殴られる事までは納得してやるし、協力もして欲しいさ!だけどな、勝手に話に入ってくんなよ!これは…あくまで僕と遠坂がしないとならない話だ…』

 

『うるせぇ!帰れって言われたって帰るもんかよ!』

 

「……まぁ、当時の私はそれでまた激高してしまって殴り掛かってな…今度は慎二も反撃して来て話が進まなくなったんだが…」

 

「怒って当然ですわ…私も二人が今夫婦として順調でなければ…どんな手を使っても潰したいですから…」

 

「まぁ、桜さんが一方的にグイグイ来てる様に見えなくも有りませんが…間桐さんも応えようとしてる以上何も言えませんよね…」

 

最も、彼女の全てを背負って行く覚悟が無ければ何も言える訳が無いんだがな…そう言う意味では、ここに居る全員にその資格は無い……正直、凛ですら…もう無理だろう…間が悪かったと言えばそれまでだ…だが、それでも…あまりにも気付くのが遅過ぎた。

 

……どれ程負い目が有ろうと、それが出来た慎二…保身も覚えてしまった今の私には到底選べる道では無い…そう言う意味では私は…俺はアイツに、敵わない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。