続きを話そうとしたが、気付けば口の中が乾燥して来ていた…無理も無い、時折休憩を挟んでいるとは言え、先程から喋り通しだからな…私は取り敢えず自分のカップに口を付けたが…余り量は残っていなかった上、当然冷めてしまっている…やれやれ…ポットを持ち上げたがこちらも手応えから察するに残っていないようだ…周囲を見渡せば、各々のカップももう空の様だ…ふむ、ちょうど良い…
「…皆も少し疲れただろう?私も喉が乾いて来た…追加を入れて来ようと思うが、どうかね?」
「そう、ですわね…私は頂きたいですわ。」
「僕も出来れば…」
「私も…」
「では、行ってくる「ねぇ?」どうしたのかね?」
「そうしてくれるのは嬉しいけど…う~ん…」
イリヤは言いかけてそのまま止め、何やら唸り始めてしまった…良く見れば他の二人も何やら複雑な顔をしている…一体どうしたら良いのだろうか?
「イリヤスフィール「ルヴィア…ずっと思ってたけどもうイリヤで良いよ。長いから呼びにくいだろうし、それに…付き合いも長くなって来たのにずっとそう呼ぶから、何か壁を作られてるみたいで…」…そうでしたわね、今の貴女相手に…もう線引きをする必要は無いのでしたわね…では、イリヤ?言い難いなら私からシェロに言いますが、どうしますか?」
「…ルヴィアも、もしかして同じ事考えてる?」
「ええ…恐らくですが…」
「…貴方も?」
「ええ、僕も多分同意見ですね…」
「三人共、一体どうしたと言うのかね?」
それぞれが同じ考えで有ると認識すると同時に、三人が一様に深刻そうな顔色に変わって行く…ここまでの私の事でそこまで何か気になる事が有ったのか?
「イリヤ、先も言いましたが…どうしても言い難いなら私から言っても良いんですのよ…?」
「何でしたら僕が言っても良いですよ、イリヤさん。」
「……ううん、やっぱり私からシロウに聞くよ。そう、したいの…ねぇ、シロウ…?」
「何かね?」
「こうして…さっきからシロウは何度もお茶を入れる為向こうに行ってるけど…戻って来る度に何か複雑そうって言うか…ううん…その、少し悩んでる顔して出て来るんだけど…ねぇ?本当に何も無いの?本当は、何か気になる事が有るんじゃない…?もし、何か悩んでるなら…話してよ、シロウ…」
「……」
イリヤにこんな…悲しそうな顔をさせるつもりは無かった…やはり私は…いや、俺は"アイツ"の様にはなれないんだな…全く、ここに居るのが俺では無くアイツだったなら…こんな事には…
『戯け…何を寝惚けた事を言っている…』
「っ…?」
「?…シロウ?」
他の皆は私を見て訝しげな顔をしている…気の所為、か?
『フン…お前にとって今聞こえている私の声が空耳か、それともそうでないか…そんな事はどうでも良いだろう。』
「っ…!?」
間違い無い…確かに、聞こえる…!?馬鹿な…そんな筈は…今ここにアイツが居る訳が…この声が聞こえる訳が…!?
『動揺しているな…しかしだ、それがお前だ。』
何…?どう言う意味だ…?
『いつまで私の影を…いや、何故今になってもお前は私に成ろうとしている?』
何を…
『あの時、私は言っただろう…お前と私は、最初から違う…お前は、どうあっても私には成れないと。』
!…ああ、そうだな…分かっている…だが、私は…それでも継ぐと…
『やめたのだろう?』
!……私は…
『"正義の味方"になるのをやめたのだろう?』
そうだ…だが、それでも…
『それが決定的な違いとなった…その時点で、お前はもう私とは違う道を歩き出している。もう、私の影を追い求めるのはやめろ。』
しかし…
『私を…これ以上失望させるな。』
……。
『あの時、お前の見せた可能性…あの時から、私はお前を信じると決めたのだ…お前はもう縛られる必要は無い。歩め、お前の道をな…』
ああ、分かった…分かったよ……アーチャー?
……行ったか。やはりアレは幻聴とは思えん…確かに、今奴はここに居たのだろうな…
「シロウ…シロウってば!」
「っ!…すまない、何かね?」
「何って…シロウが急に深刻そうな顔で黙り込んだんでしょ!?お願い、何か悩んでるなら…話してよ…」
「っ…本当にすまない…そう言う事じゃ…いや、そうだな分かった…何、本当に大した事じゃないんだ…何故か分からんが…先程から向こうで一人になる度に奴の事ばかりが頭を過ぎるんだ…」
「奴って…」
「ひょっとして…店主さんの事ですか?」
「…ああ…何故か、昔の奴の事を思い出すんだ…」
「あの方の…シェロ?」
「…何かね?」
「それは…もしかしたら虫の知らせの様なものでは…?」
「…奴に何か起こると?」
「その、昔のあの方は一時期色々有った事で荒れていましたし…今のあの方も精神的に複雑な気持ちでいるでしょう?」
「…奴が、また何か突拍子も無い事をするのでは無いかと…いや、そうなると…私が無意識に確信した…?」
「当時の状況に似ているって事ですか…?」
「あんなに弱ってる店主さんが何かするって事…?」
「……いや、今の奴には何も「いえ、一つだけ」…むっ?」
「一つだけ、今のあの方が行いそうな事に心当たりが有りますわ…」
「!…まさか…!?」
「自殺、ですかね…」
「そんな…本当に…?」
「クッ…どうすれば…」
「お待ちください…まだ分かりませんわ、これはまだ推測の域に過ぎませんし…それでも、限りなく有力な可能性だとは思いますが…」
「!…確かに、そうだな…」
「でも、何で…?身体は…時間は掛かるけど治るんでしょ?」
「…奴にはそもそも、積極的にこの世界で生きる理由が無いんだ…」
「どう言う事、ですか…?」
「あの方は…以前、大切な方を亡くしているのです…それも、結婚を考える程の…」
「少なくとも奴は、彼女の故郷に骨を埋めても構わない程だったそうだ…あの時私には、確かにチャンスが有った…彼女を救えるチャンスが…だが、私は何も出来無かった…見付けた時には、彼女は既に亡くなっていた…」
「その言い方から察するに…その方は、殺されたんですか?」
「ああ…だが、奴はあの場で既に復讐を果たしている…もう奴にはこの世に積極的に留まる理由が残ってないんだ…」
「…でも、それじゃあ変じゃない?」
「…何がかね?」
「だって…その人最近亡くなったんじゃないんでしょう?」
「そう、だな…」
「なら、今になって急に死にたくなるのは可笑しいと思う。」
「そうですね、あまりにも突拍子が無さ過ぎます。破天荒な方ですが、そこまで不可解な行動は取らない方だと思いますが?」
「…ねぇ、シロウ?」
「何かね?」
「私、あの人がこれから何か大それた事するなら違う事だと思うよ?そもそも、自宅で一人なら分かるけど病院の中で自殺するの難しくない?」
「と言うか、あの人入院時もかなり嫌がって騒いでいたそうですね?監視着いてるでしょうから、先ず無理だと思いますよ?」
「むっ…」
「確かに、言われてみればそうですわね…では、イリヤ…あの方は他に何をすると思いますか?」
「…監視着いてるし、自殺と同じくらい現実的じゃないけど例えば…」
「例えば?」
「…脱走かな。あの人縛られるの嫌いっぽかったし『そのガキの方が、俺の事を良く分かってるみたいだな?』…え?」
この場で聞こえる筈の無い声が聞こえた…まさか…そんな…部屋のドアが、開く…
「…よう、何か面白そうな話してんな?」
そこには、ボストンバッグを持った奴が立っていた…
「…馬鹿な…君は、本当に脱走して来たのか?」
「ハッ…人聞き悪い事言うんじゃねぇよ、ちゃんと退院して来たぜ?ま、気が弱そうな奴が担当医師だったから脅し掛けたけどよ。」
?…奴の担当はそんな方には見えなかったが…
「何と言う事を…貴方は、自分が何をやったか分かってるんですか…?」
「うるせぇな…自分の身体の事は自分が良く分かってんだよ。たくっ…あんな所に居た方が具合悪くなるぜ…俺はな、仕事してた方が調子は良くなるんだよ。」
「全く君と言う奴は…」
「しっかし自殺だぁ?何か知らねぇが、お前ら全然俺の事を分かってねぇな…」
奴がイリヤの頭に手を置いて、わしゃわしゃと掻き混ぜる…
「わっ!ちょっと何…!?」
「おっと…悪ぃな、嫌だったか?」
!…明らかに奴の手付きが優しくなった…
「その、別に嫌って程じゃないけど…急にどうしたの…?」
「さぁな…」
奴が手を下ろした…可笑しい…奴らしく無い。
「何か、有ったのかね…?」
「…何かって何だよ?」
「……」
「そんな睨むなよ…何もねぇよ、別に。」
「君は…本当に退院して来たのかね…?」
「嘘だと思うなら、この場で病院に連絡して確認しな。」
……どうやら、本当に嘘は吐いていない様だな…
「全く…身体はまだ治ってないのだろう?」
「…ハァ…問題無い…って言っても、お前はどうせ店に出させてくれねぇよな。」
「当然だな。」
「その…私も反対。」
「ええ、僕も止めます。」
「店の管理者代理として許可出来ませんわ。」
「おい、誰が管理者代理だって「ならば、私は店主代理として改めて却下しよう」お前らなぁ……分かった、降参だ…しばらくは自宅療養してるさ。」
やけに引き下がるのが早いな…やはり、何かが可笑しい…
「妙に素直だな…?」
「…ハァ…本当は俺の脅迫は通らなかったんだよ…しっかり自宅療養に務める事と、定期的に検査受ける事…それが俺が退院する条件だったんだよ…」
「何だ…一応ちゃんと穏便に退院出来たんじゃないか…」
「いや、何でそこでわざわざ変な見栄張るの?」
「良いじゃねぇか…」
「…その様子だとこってり絞られたらしいな…」
「…あのジジイ医者、結構肝座ってんだよ…俺の殺気に全然怯みやがらねぇ…マジでこっちがビビらされたぜ…」
確かに只者では無いと思っていたが、それ程までにか…
「まぁ良い、そう言う事で有ればそこで大人しくしていたまえ。」
「分かったよ…」
奴がソファに静かに座…
「こっちに来ませんか?」
「あ、何でだ?」
ルヴィアが自分の膝を叩く…ほう。
「そうだな、君は横になっていたまえ。」
「…断固拒否する。」
「仕方無い…彼を運んでくれないか?」
「ええ、もちろん…」
「おい、こっち来んじゃね…おい!?」
バイト君が一瞬で彼の背後に回り、首の当たりを蹴って床に落とす…そこからまた瞬時に、奴の横に到達し…流れる様に横抱きに…やれと言ったのは私だが、あまりにも鮮やかな手並み…しかも、途中の動きがハッキリ見えなかった…
「下ろせ!」
「暴れないでください…ルヴィアさん?彼をこのまま下ろして良いですね?」
「もちろん、お願いしますわ。」
「おい、やめ「……」かはっ…ぐっ…テメ…」
「おやすみなさい…じゃ、下ろしますよ?」
「えっ…ええ…その、彼は大丈夫でしょうか…?」
「ちゃんと加減はしました…まぁ、しばらくは目覚めないでしょうが。」
……彼は容赦無く奴の胸の中心辺りに拳を叩き込んで気絶させた…あまりにも自然な動作過ぎて止められなかった…と言うか、今度のは予備動作が全く見えなかった…
「さてと…衛宮さん?」
「なっ…何かね?」
「…お茶のお代わりをお願い出来ますか?」
「……分かった、入れてこよう…」
私は逃げる様にキッチンに向かう…いつも通りの笑顔でそう言う彼が…私には、とても恐ろしい存在に見えていた…