「…コホン…すまん、迷惑を掛けた…」
あれから十五分程して漸く、私の涙が止まった…
「…いえ、僕は気にしてませんから…」
「私も、特に迷惑を掛けられたとは思ってませんわ。」
「…ねぇ、シロウ?」
「何かね?」
「…取り敢えず顔洗って来たら?ついでに、腫れてる目蓋も冷やすと良いんじゃないかな。」
「そう、だな…行って来る…」
蛇口から出る水を手で受け、その水で顔を洗う……数度繰り返した後、水を止め…顔を上げて目の前の鏡を見る…ここに来た時は本当に酷い顔だったが、今は目蓋の腫れこそまだ残っているが…それでもとてもスッキリした顔をしているのが分かる…と言うより、何故かな…今、思いの外私は機嫌が良い…自然と、笑顔を浮かべそうにもなる…
「入院している凛の事や、強引に退院して来た奴…今でこそ、目立った問題は少ないが…奴とこれからも付き合って行く以上…何れ、また必ず何かは起こるのだろうな…」
と言うか、凛の方も病状の軽重が今の所…判然としない…当然、治らない可能性も考えないとならないが…
「何とかなるか…」
これからの事を考えると憂鬱にはなる(と言うより、確実にそちらの方が感情値の値がデカい…)ただ、楽観的にも考えられる私も…今は、確かにそこに居た…
「さて、戻るか…」
「奴は…まだ気絶してるか…」
「力は抜きましたが、それでも念の為…しっかり急所に叩き込みましたから…」
まぁ、個人的にはこのまま寝ていて貰った方が静かで良い…何より…
「楽しそうだね、ルヴィア…」
「イリヤ、きっとそのうち貴女にも分かりますわ…好いた殿方を時に支え、時に癒す…それは、女にとって何よりの喜びなんですのよ?」
「…そう…本当に、私にもそんな人…見付けられるかな…?」
「もちろん…貴女も、一人の女性なのですから…」
自分の膝の上で眠る奴に慈愛の目を向け、その頭を撫でているルヴィア…正直、奴の意識が戻ったらすぐに暴れ出しそうな気がするな…
「ルヴィア、念の為眠りを深く「暗示ならもう掛けていますわ」さすがだな…」
奴の場合、元々戦場生活が長かったからな…当然、眠りは浅いだろう…正直、今目覚められると話が進まなくなるからな…
「さて、アクシデントは有ったが…続きと行こう…まぁ、結局昼休みは返上して、散々揉める羽目になったが…何とか私たちは同盟を組む事が出来た…」
『なぁ、慎二…』
『何だよ半人前…』
『…俺が半人前なら、お前は何なんだよ?お前、知識は有っても魔術自体は一切使えないんだろ?』
「…まぁ、同盟を組む事にはなったのだがな…そもそもあの時の私は、どうしても慎二が許せなくてな…加えてあの時、慎二自身も私に対して友好的な気持ちにはなれなかった様でな…気付いたらどちらかと言わず、二人して拳を握り締め…お互いに睨み合いをしていたな…」
「…本当に、緊張感が無いですね…」
「まぁ、そうだな…」
その評価も仕方無いのでこの場では甘んじて、受け取る事にする…
『ねぇ?こんな時にケンカするの、やめてくれないかしら?』
「凛が仲裁してくれて何とかその場は丸く治まった…と言っても、半分脅しだがな…」
「脅しって…「屋上と校舎内を隔てるドアに"フィンの一撃"…凛のガンドが放たれ、金属製のドアに小さくない穴が空いたのを見せられれば…そりゃ、迂闊に手も出したくなくなる…聞いた事は無いが、慎二もほぼ同意見だろうな…」うわぁ…」
「…さて、それでだ…慎二と争うのは一旦中断するにしても…改めて考えたら私たちには致命的な問題が有った…」
「問題、ですか?」
「…私たちが組んでも、実は戦略的メリットがそれ程無い。」
「「「あー…」」」
三人が納得の声を上げる…そう、先ず私は聖杯戦争についてはまだ理解しきれて無い部分も多く…何より殺し合いをすると言う覚悟も無い上…更に言えば、戦闘経験は皆無…極端な話、最優と言われるセイバークラスの英霊を従えていても(正直仲違いこそしてないが、信頼もクソも無い状態だから従えてる、は…語弊しか無いが…)私自身、魔術のサポートは元より…指揮する事も当然出来無い…早い話が、このままだと私は文字通り…単なる足手まといにしかなれないのだ……まぁ、その辺は…そもそも魔術回路が生まれつき存在せず、知識は豊富でも魔術は一切使えない慎二もそこまで条件は変わらない。
…結果、足手まといなのは慎二も同じなのだ…と言うか、慎二のサーヴァント…ライダーも実は、真の契約者は桜で…慎二は、あくまで代理しかない……結論を言えば、この場でまともに魔術師として動けるのは凛しか居なかった。
「…とは言え、慎二はアレで頭の回転は早い…特に悪知恵は働く…結局、本当の意味で約立たずなのは私だけだったな…」
「それはまぁ、仕方無いよね…」
「…ある意味救いなのは、凛のサーヴァントはアーチャーだ…そして、ライダーの方もそこまで決め手が有る訳じゃないそうだ…要するに、セイバー…アルトリアの協力が絶対に必要な為…マスターである私をどっちみち外せないと言う事だ…」
「…シロウ、一つ質問良い?」
「何かね?」
「…シンジは、シロウとリンのサーヴァントについて調べてなかったの?」
「…ああ…ただ、てっきり凛がセイバーのマスターだと思っていたらしい…」
「あー…だから衛宮さんを要らないと…あれ?確か、遠坂さんも衛宮さんにそう言ったと言ってませんでしたか?…いや、理由はさっき聞いたのですが…改めて考えると、さすがに不自然で…」
そう言えば、言われてみると…確かに可笑しいか…
「…私のサーヴァントを隠す目的は有っただろうが、それ以上に…自分のサーヴァントが戦力的に不安なアーチャーなのを忘れていたのだろう…要は自分のプライドも有って強く言い過ぎた訳だ…そもそも、ちなみに、アーチャーは召喚時の不備で生前を含め…多くの記憶が無い…」
「…また、"うっかり"…」
「すみません…正直もうそれ通り越して、アホの子とかそう言う次元に思えて来るんですが…」
……当人が聞いたら怒るだろうが、実際私もそう思う…何せ、私もこの"うっかり"に何度振り回されたか分からないからな…
「…実質、遠坂一族の呪いみたいなものだからな…尤も、自分一人でやらかすだけならまだ良いんだが…大抵周りも何らかの被害に遭うからな…こっちもあまり擁護出来無いのが本音だ…少し冷静になってくれれば、被害も最小限に抑えられるんだがな…」
「リンは…何か失敗すると、すぐパニックに陥ってましたわね…」
「結果、力技でミスを補填しようとして…更に被害を大きくするのが定番だったな…本当に、最近漸くマシになって来たんだが…」
「えっと…最近?最近、落ち着いたの…?」
「…凛は私が日本に戻って来て店に務め始めて、少しして再会して…それ以来、凛の方も時折店で働く様になったんだがな…」
自然と歯切れが悪くなる…
「…もしかして遠坂さん、何かやらかしてました?」
「まぁ、色々とな…」
実際、店主が元々かなりアレだ…常連はある程度の事態なら慣れている上、幸い私も居るし…多少何かやらかしたところで対応出来るかと思ってたんだが…初日から凛は見事、斜め上の問題を起こしてくれて…
「…何かシロウ、凄い顔してるけど…リンは一体何をしたの?」
「…まぁ、色々だ…色々な…」
正直、言えば私は良くて半殺しにされる…ちなみに当時被害に遭った常連客は凛と一応和解している…とは言え、相当追い込みは掛けた様で当時の事を話題には出さないがな…今堂々とソレをネタにする怖いもの知らずは奴くらいだろう…まぁ、初日のアレは正直私でも対応しきれなかったからな…何せ、奴が率先してフォロー入れてたからな…文句言う権利も、馬鹿にする権利は有るだろう…