「多少揉めはしたが、そもそも桜を連れ出すだけならそう難しい事では無い…少なくとも、間桐家を潰す必要も無い程だ……その後起きる事に、目を瞑ればな。」
「…間桐さんと桜さん…お二人と元々交流が有ったのはもう分かりますが、仮にも桜さんはマスターでも有るんですよね?穏便に連れ出す事なんて可能だったんですか?」
「…そもそも桜は普段から慎二以上に頻繁にウチに出入りしてたからな…その上で、当主の間桐臓硯は黙認していたからな…もちろん、思惑有りきだったが。」
「思惑、ですか?」
「ああ…」
『そもそも、桜はそんな目に遭って何とも思ってないのか…?』
『あの子…結局私にも何も言わないから…』
『あのな…僕も助けるどころか、危害を加えた側の人間だ…偉そうな事は言える立場じゃないけど言わせて貰う……先ず、衛宮…お前自分の使える魔術を全然隠してないだろ?』
『……いや、桜の前で使った事は無いぞ?』
『…桜の身体の中にはジジイの蟲が居るし、結構前からお前の家の中にももう居る……言っておくけど、お前らの会話は全部じゃないけど蟲を通して筒抜けだったぞ?…つか遠坂、お前なら気付けた筈なんだけど?』
『……』
『ま、とにかく…衛宮は基本、投影と解析と…後は強化ぐらいしかまともに使えないからな…初めから論外だ…助けを求めても仕方無い…ちなみに、何で桜が執拗に家に来てたか分かるか?』
『…それは、桜が料理を習いたいって『桜自身は一応そのつもりでいるだろうけどな…残念ながら理由は他に有る』…理由?』
『桜はジジイの命令でお前の所に通ってたんだ……と、勘違いするなよ?少なくとも、桜がお前に向けてた好意は本物だ…僕も邪魔したくないからあんまりお前の所に行かなくなったぐらいなんだから…ま、結果的に…ジジイにはそれも都合が良かったみたいだけどな…』
『…何が言いたいのか分からない…』
『そうだろうよこの朴念仁…ジジイから桜への命令は…お前の種を手に入れる事だ…』
『は?え?……種!?』
『お前ホントそう言う話苦手だよな…いや、だってほら?消えない投影なんて使い道は色々だろ?子供が受け継いでくれれば都合も良い……と、ヤってしまえば粘膜接触有るから蟲の植え付けも出来ただろうな…ま、尤も?お前は桜のアプローチには全然気付いて無かったみたいだけど…』
『桜が、俺の事を…』
『ウチじゃ居場所が無いからな…ま、最終的に僕の事は多少なりとも信用出来る様になったのかお前の事で良く相談を受けてたりはしたけどね…』
『……』
『…で、遠坂?』
『何よ…』
『"姉で有る前に魔術師の姉さんはもう信用出来ません"』
『!…え…?』
『僕が実際に桜から言われた言葉だ…桜はな、お前の事が一切信用出来無かったんだってさ…ま、時折お前が桜の事を観察してたのは知ってるけど。』
『っ…知ってたの…?』
『言っておくけど桜も気付いてたよ…桜が無視してたから僕もそれに習ったけど。』
『気付いてたなら何故!?』
『ちょっと待ってくれ!遠坂が桜の姉ってどう言う『いやさ…お前空気読めないの?』そんな事言ってる場合じゃ…!』
『ハァ…遠坂、言って良いのか?』
『…私から言うわ…桜はね、私の実の妹なのよ…』
『はっ!?桜は慎二の妹で『遠坂家が桜をウチに養子に出したんだよ…ただ、それだけの話だ』…そこまで、金に困ってたのか?』
『…ま、子供の一人を養子に出すって言うと真っ先に思い浮かぶよな…でも、そうじゃないと思うよ。』
『…今でこそ私がやりくり出来無いせいでウチはカツカツだけど…お父様はアレで結構稼いでいたの…少なくとも、資金力は間違い無く有ったと思う…普通なら、子供二人を大学に出せるお金は有ったと思う…』
『じゃあ…何で…?』
『…さっきから思ってたけど…お前も一応魔術師の子供なのに、本当に何も知らないんだな…』
『だから…一体何だって言うんだ!?』
『魔術師は基本、一子相伝って奴でさ…さすがに言葉の意味は分かるよな?…ま、とにかく…子供自体、そもそも一人しか作らない場合も多いんだよ…』
『一子相伝…じゃあもし、二人居たら?』
『状況にもよりけりだけど…そもそも産まないか、産んだとしても魔術を教えない…大体において、双子だとしても魔術の才能は片方しか受け継がないなんてパターンも有る…ま、多少なりとも人の心が残ってるなら…その家でそのまま普通の子供として育てる事も有るんじゃないか…』
『じゃあ桜は…何で…』
『…桜には破格の素質が有ったのよ…だからせめて、その才能を潰さない為…盟友の魔術師の家に養子に出したの…』
『それが、間桐家…』
『ま、実際はただの玩具にされただけ…だけどね…』
『何よ…私が悪いって『何も知らずに養子に出したのはお前の親だ…親の罪は子の罪、なんて事は無いから気にしなくて良いんじゃない…大体今更じゃないか?今まで、何も知ろうともしなかった癖に』私は…!』
『桜を養子に出したのは親で有る前に魔術師だった…まだ魔術師として何の心構えも持っておらず、ほとんど普通の子供だった桜は行った先でろくに何も知らされないまま…酷い目に遭った……まぁ僕だって責を負わないといけない立場だけど…それでもね、何で僕の事を桜が多少なりとも信用してるのか…分かるか?』
『何で…』
『簡単さ…先ず僕には魔術の才能がそもそも無いから。そして…"優しいお姉ちゃん"から"自分を裏切った両親と同じ魔術師"の顔をする女を信じる理由なんて有ると思うか?』
『……桜…』
『僕にお前を糾弾する資格なんて無い…それでも、一応"桜の義理の兄"として言わせて貰うなら…お前は桜の家族じゃない…桜をウチに追いやったのと同じただの魔術師だ…どちらかと言えば、お前の手を借りるなんて冗談じゃない…対面させたら、どんな影響が有るか…それでも、僕はお前に頼るしか無い…』
『何でよ…』
『…お前が"桜の姉"だから……と言うかアレだな…ジジイが死んだ後はどうにか引き取って欲しいんだよね、僕としては。』
「…その、間桐さんは本当にそんな事を…?」
「当時の事は朧気になりつつ有るが…ああ、間違いは無い…」
「では、あの方は犯した罪の責任を取らずに…リンに全て擦り付けようとしたのですか…?」
「…誤解の無い様に言うが、それは慎二なりに桜の幸せを考えた結果だ…そして、その後は桜や凛からの恨みを全て受け止める覚悟だったのだろう…まぁ、本人に聞いた事は無いからただの推察だがね…」
「受け止めるって、それじゃ…」
「…恐らくだが、あの時…慎二は事が済んだら二人の手に掛かって死ぬつもりだった…例え、二人が自分を許したとしても…自死を選んだだろうな……まぁ、奴の決意は結局無駄になるんだがな…」
「…まぁ、桜さんと間桐さんが結婚してる辺り理由は分かりますが…要するに、桜さんは遠坂さんでは無く…結局は間桐さんを選んだんですね?」
「ふぅ…ああ…それもわざわざ、既成事実を作ってまでな。」
「え…それってまさか…」
まぁ、言っても良いか…今更だしな…
「ハッキリ言ってしまえば…邪険にしつつ、不器用だが確かに兄としての優しさを何度も垣間見せる慎二を桜は手放したくなかった。だから…桜は昼夜問わず慎二を襲ったんだ…慎二は、何だかんだ取らなければならない責任は取る男だ…子供が出来れば慎二は自分の前から居なくなる事は無い…そう考えてな…桜が私や凛にその事を報告して来る度に…その、さすがに私たちも慎二に同情した部分も有ってな…せめて、一度二人で話し合えと忠告したんだが…聞いてくれなくてな…結果、桜は本当に妊娠するまで文字通り慎二を貪っていた……その後に会った時はもう慎二は半分抜け殻の様になっていたな…それでも、何処か吹っ切れた様な顔もしていたが…」
「…じゃあ、今も…その責任を果たす為だけにあの方はサクラと夫婦関係を…?」
「…いや、今では慎二も桜に惹かれている…それは間違い無い…と言うか、ずっと義務でやってるなら…私も凛もとっくの昔に別れさせているさ。」
「両想いになった理由はなんだったんですか…いや、そもそも桜さんも…間桐さんを異性としてちゃんと愛していた様には思えないんですが…」
……また、脱線して来ているな…まぁそれこそ今更だから、良いか…
「切っ掛けは…間違い無くアレだな…とにかく、最終的に桜は妊娠してしまった……さすがに酷だとも思ったが、それでも聞かなければならない。抜け殻状態になった慎二に凛と二人でどうするのかと聞いてみたら…」
『経緯はどうあれ…今、桜の腹の中に居るのは間違い無く…僕の子だ。親が責任を放棄するとか、もう有り得ないだろ?人でなしの魔術師だって出来るんだ…だったら、僕に出来無い理由は無いし…やらない道理も無い。』
「…どう考えても愛では無く、ほとんど義務的では有っても…加えて、奴が目に見えてやつれていても…その言葉と、目は本物だった…私たちはあの時"男の覚悟"と言うものを見せられた…だから、私たちはあの場ではそれ以上何も言わない事にした…」
「…質問しても?」
「構わない…何かな?」
「桜さんが妊娠してしまった時…まだ、桜さんは学生だったのでは?」
「…辞めたよ。慎二は将来の為、そのまま卒業まで通う事になったがな…ちなみに、きちんと大学も出て司法試験を一発パスした…その間、桜は奴の事を離れる事無く支え続けていた…」
「…私からも宜しいですか?」
「君もか…何かね?」
「その…その時の桜の子はどうなったのでしょうか…」
「…流産してしまった…その後少しして二人目が出来たが、そちらも死産で…三人目にやっと産まれて来てくれたのが芳乃だった…結局の所、自分との間に出来た子供の事で一喜一憂する桜の姿を見続けてる内に慎二は桜に惹かれて行き、桜の方は授かった命の尊さに触れる内に…その切っ掛けとなる慎二の方にも目が向いて行った…」
「じゃあ…子供が先…?」
「不謹慎な言い方かも知れないが、逆に言えば…子供が出来て、亡くなる…一連の流れが無ければ…二人が本当の意味で結ばれる事は無かったかも知れん…桜は自分に優しくしてくれた存在を手放したくなくて手段として子供を求めただけの上に、当初慎二を異性として愛した訳じゃなかった…慎二の方も桜の心の安定の為に付き合ってた面は大きかった筈だ…桜と一緒になろうとしたのもあくまで子供の為で…それでも桜は元より、子供にも愛など無かっただろう…ただ亡くした事で二人の意識は確かに変わった…仮にあのままだったら、自然に別れていたかも知れんし…何なら、私と凛で別れさせていただろう…だが、二人が確かに惹かれ合っていると言うのなら…私たちが妨害など、出来る訳が無い。」
「…衛宮さん、下世話な話だとは思いますが…」
「…私も余程失礼な話で無ければ怒らない…何かね?」
「その…衛宮さんは桜さんに恋愛感情は無かったんですか…?」
…成程、確かにそれは気になって当然か…
「正直に言えば、全く桜の魅力に惹かれなかった訳じゃない…それでも、当時の私に恋愛感情は間違い無く無かったな…あくまでも、私にとっては妹分のつもりだった……当初、桜が私に惹かれていたのは本当らしいがね…」
「なら、何で…?」
「さて…今でも私に女心は良く分からない…」
まぁ、本当は何となく察している…恐らく、私に想いを寄せる凛に気付いたから桜は身を引こうした…そこで今まで自分を不器用だが、それでもいつも…確かに優しく見守ってくれていた存在に気付いた…恋愛感情は無くても、そんな存在を無くしたくなかった…だから強引に繋ぎ止め様として…その内、それが恋愛感情にもなって行った…と言った所だろうか…何にしても、二人が今幸せなら私に文句など無い…寧ろ、今私がすべきは…凛とイリヤを幸せにする事だ…道は険しいが、身近に成功例がいるんだ…きっと、私にも出来る筈だ…