三月十四日 早朝
私が厨房に向かうとそこには先客が…
「…何をしているのかね?」
「ん?見りゃ分かんだろ。」
「…クッキーか…ルヴィアにかね?」
「ああ…何だその顔は?」
「…いや、意外だと思ってね…君ならお返しをするどころか受け取りすらしないと思っていたからね…」
「失礼な奴だな…お返し位普通するだろ…つか食い物に罪はねぇ。くれるなら貰うさ…ましてや普段細かい雑用は人にやらせるあいつがわざわざ並んで買ってきたってんだから受け取らざるを得ねぇだろ…最もその次に自分を渡そうとしてドレスに手を掛けた時は即座に気絶させたがな…」
溜息を吐く…ルヴィアも余りに早急だと思うがこいつは一体どれだけ彼女を嫌っているのだろうか…?…何があったのか少し興味が湧いて来たな…
「…しかし…クッキーかね…君は焼き菓子なら大体作れると言ってなかったかね?」
「…何言いたいかは分かるぜ?俺にとってあいつは単なる腐れ縁だ…これから先もそういう仲になるつもりはねぇ…それ程作るのも難しくねぇしよっぽどマシュマロでも用意してやろうかとも思ったけどな…」
……ホワイトデーに送るお菓子には意味があり、クッキーは「友達のままでいましょう」マシュマロは「あなたが嫌いです」…と、なる…
「…そんなに嫌いなのか?」
「…そんなに不思議か?」
「……」
ルヴィアは凛に良く似ている…どちらも破天荒でありながら魔術師らしからぬ…確かな人間らしさを持っている…
「……嫌いさ、大嫌いだね…」
そう言う奴の顔はまるで何かを堪えるかのように歪んでいた…
「…んで、ここに来たのは特別料理の仕込みかい?いくら何でも早すぎるだろ、まだ四時だぜ?…大体お前昨夜だって日付変わる頃まで色々やってただろ?」
……今日はこのホテルでホワイトデーのイベントが行われる。そのための料理の一部を我々は任されている…
「…君と同じだよ。最も私の場合は大事なパートナーにサプライズで用意しようとね…」
「お前菓子作れんの?」
「…失敬だな、普段作らないだけで私も菓子くらい作れる。」
……君には及ばないが。
「あっそ。俺は後、焼き上がれば終わりだからな、好きにやれよ。」
それきり奴は黙る…ん?
「…最近酒の量が増えてないか?」
奴はクッキー作りで余ったのだろうラム酒をあおっていた。
「…あの女、四六時中俺に迫って来るんだ…」
「…はっきり嫌いならば嫌いと言えば良いのでは無いかね?」
ルヴィアは凛と同じく割とサバサバしたタイプだ本気でこいつが嫌がればそれで諦めると思うが…
「……あの女はそんなに殊勝な奴じゃねぇよ…文字通りのハイエナだ…」
そう言う奴の言葉に色々込められているのが分かる…私は追求を止めさっさと自分の作業を進める事にした…