……地獄の沙汰も金次第とは要するに死んで地獄に落ちた際も閻魔大王の裁きは金銭である程度減刑可能という事から、転じて世の中の全ては金で解決出来るという事を意味する言葉である。
「…今現在喉元まで刃が迫っている人間が口に出来る言葉では無いと思うのだが…まさか本当に現世の金が死後も使えるとは考えていないだろう?それともまさかルヴィアが金で懐柔出来るとでも?」
当たり前だがエーデルフェルト家の当主である彼女は資産は莫大だ。守銭奴の気は多少あるとはいえ、一介の刑事が用意出来る程度のはした金ではどうやっても彼女の心は変えられない。
「別に私も死後も現世の金が使えるとは思っていないし、彼女が金で転ぶとは微塵も思っていないさ…彼女自身は恐らくそれなりに金持ちなのだろう?…なのに君たちの店でわざわざ働くと言う事は…相当愛されているのだな、私の弟は…話が逸れたがこれは単に私の座右の銘の様なものでね。」
「……いや、本当に分からない…貴方は何を言っているんだ…」
「…この価値観は私にも説明が難しいのだが、俗に死ななきゃ安いという言葉があるそうじゃないか?私はそんな事は無いと思っていてね…生きていればどうしてもそれなりに金がかかるものだからな…」
「それは…恐らく…意味が違う…」
「そうなのか?…それはまあとにかくだ、だから私は生きていくための金があるなら問題無いと思っていてね。」
「だから…自分の死はいくらでも容認出来る…と?」
「結局死んだら金は必要無いからな。最期は死んだ方が楽だろう?最も簡単に死ぬつもりは無いが…」
……既視感の正体が漸く分かった…彼は昔の私に似ているのだ…彼は死への忌避感があまりにも薄い…私と違って積極的に死にたがっているわけではないが…
「そこまで狼狽える様な話だったのか?戦場にいたら普通に培う感覚だと思うのだが…」
「……今の私は積極的に戦地に行く事は無いし、そもそも私は戦いの中で逆に生の実感と死への恐怖を持ったタイプだからな…だから…今の私には貴方の言う事が理解出来ない…」
最も昔の私でも到底理解は出来ないだろうが…
「成程。恐らくは元々幼少期に全てを失ったトラウマなどが原因で死にたがっていたのに、戦いの中で色々と手に入れてしまい、死ぬのが怖くなってしまったタイプなのか。」
「…今の言葉だけでそこまで分かるのか…」
「…職業柄、壊れた人間は色々見て来ているのでね…当てずっほうだったのだが、正解だったのか…あー…気を悪くしたのならすまない…第三者でしか無い私が勝手に君の抱えていた物に言及すべきでは無かったな…」
「それは構わない…私はもう折り合いをつけていてね…ところで君は…自覚があるのか?その…」
自分の方が遥かに壊れている事に。
「…もちろん分かっているとも。ちなみにこの価値観はこの仕事に就く前から元々私が持っているものだ。」