「…結局の所、店主がいても、いなくてもあんまり忙しさ変わんないわね。」
「言ってやるな。」
奴が内科の病棟に入院した初日、つまり私の退院直後から店の仕事に従事したものの特に問題は無かった。
「でもシロウ…お客さんは皆良い人だけどあの人いなくても誰も気にしてないよ……シロウの事は聞かれたけど。」
「……」
奴は客相手でもあの仏頂面の上、口調も荒いからな…だから普段は厨房から出さないのだが…返ってそれが普通になってしまったか。
「奴は接客に向いてないからな…」
「料理にだけ集中させるのは良いけど、常連さんが店主いなくても気にしないってヤバくない?」
「迂闊に客の前に奴を出せんからな…そもそも常連は慣れてるから良いが、新規の客は寄り付かなくなるだろう…」
「あの店構えで新規の客、ね…まあ雑誌に乗っちゃったからね……でもその後音沙汰無いみたいだけど。」
「正直、無いに越した事は無い…大袈裟に書いてくれたおかげで一時期は客が収容しきれなくなりそうだったんだ…」
客が増えるのは良い事…当初、そんな事を宣っていた自分を殴ってやりたい…バイト君と凛がいなければどうなってたか分からん…
「私はまだいなかったから知らないけど…そんなに大変だったの…?」
「失礼を承知で言わせてもらうが…イリヤの身長だと下手に接客に出せんくらいだったな…」
「それは…もしかして待ってる人が多かったって事…?」
「そういう事だな。」
「料理運んでる私ですら通るスペース無かったからね…お陰で回転率も悪くって。」
「うわぁ…二人には悪いけど私いなくて良かったかも…」
「そもそもさっきも言った通り、君を接客に出せる状態じゃなかったよ…」
「ま、今はこの通り落ち着いてるけどね…あの頃は何だかんだアイツが結構役に立ってたわよね…」
「態度が悪い奴には普通に怒鳴るからな…危ない場面も少なくなかったが、結局は奴のやり方が正しかったな…」
客は減ったが…お陰でタチの悪い連中は来なくなった…どうにも私は普通に怒る分には少々…迫力にかけるからな…
「店主として店に貢献したのにいなくても気にされない「奴は常連の為じゃなく…自分が鬱陶しいと感じたから追い出しただけだからな…自分に矛先が向いて欲しく無い事を考えればそれ程好かれもしないさ……最も、そこまで嫌われてもいないがな…いなきゃいないで良いとは思われるぐらいの好かれ方だが」…まあ、正直不憫とも言い切れないけど…」
「というか、アイツ自身は全く気にしてないのよね…」
「料理は単なる趣味で、店の経営も元々その延長…立ち行かなくなればすぐにでも止めるな…その後は恐らく、戦場に逆戻りだ。」
「アンタが普通に生きられる様になったのに、何でアンタに比べたら普通の生い立ちのアイツが普通の生活出来無いのかしらねえ…」
「幸か、不幸か…戦場での生活は奴の性に合っていた様だからな…」
本来そうなったら私は止めるべきなのだろう…だが、私には奴を止められない。
「でも、ルヴィアがいるから大丈夫じゃない?」
「ま、そうかもね…さてと。二人とも片付けは終わった?」
「私は終わっている。」
「私も。」
「じゃあ帰りましょうか……全く…バイト君は仕方無いにしてもルヴィアまでいないから時間かかったじゃない…」
「それも言ってやるな…初日くらいは好きにさせてやろう。」
「ハァ…仕方無いわね、本当に…」