刑事が出て行って少しして、部屋の中にドアを叩く音が響く…
「…どうぞ。」
「失礼します。」
先程の看護師の声が響き、彼女が若い白衣を来た人物を伴って入って来る。…む、この手の小さな病院に勤めているにしてはやけに若いな…と、止めておくか…さすがに邪推が過ぎるだろう…
「先生をお連れしました。」
「その方の担当になりました、竹下と言います。」
思わず固まってしまう…相当若く見えるその医師は立ち姿も堂々としており、確実に初対面なら威圧感すら感じるらしい私にも特に動じる事無く、口調にも一切の淀みを感じさせなかった…見た目の若さと纏っている雰囲気が一致していない…もしや…若く見えるだけなのか?
……そんな事を考えていると突然目の前の無表情が崩れた…笑っている…
「…何かね?」
「…あ、いえ。すみません…こんな時に不謹慎でしたね…」
その医師の纏う雰囲気が霧散して行き、私の中で上げていた評価を一気に下げて行く…こんな時に笑うとは…!
「…ただ、先に私を疑ったのは…貴方でしょう?」
まるで頭から冷水を被せられた気分だった…身体が冷えて行く…
「…どう言う意味かね?」
「病院、と言う場所で期待されるのは…何よりもどれほど優秀なのか、です。この場合の優秀さは多くの病理知識が有るとか、どれほど手術の腕が有るか…ただこんな話は医師同士で通じる話であり、患者さんや、その家族には関係ありません。」
そこで彼は一度言葉を切り、目を閉じて深呼吸する…
「…患者さんや家族にとって重要なのは…確実にその人に救えるかどうか…もちろん顔を見ただけでそんな事は分からない…ですが、判断出来る材料は存在する…」
「…それは?」
「その医師に多くの患者を救った経験が有るか、です。大学病院などの大きな病院では若い医師は決して珍しくはありませんが、ここの様な小さな病院ではやはり初老の医師の方が経験豊富だと思われるものです…」
「…それで、私が貴方の事を若いから侮ったのだと思ったのか。」
「…貴方は普段は相当に冷静な方だと思いました。ですが、今回は顔に出ていましたよ。」
「……すまなかった、こちらが礼を欠いていた…」
私は頭を下げた。
「気になさらないでください…慣れていますから…ただ、今回はこの通り患者さん本人が昏睡状態ですので…さすがにご家族の方にこの見た目だけで腕を疑われていてはこちらも困りますから…それで、申し訳ありませんが貴方の事を一応詳しく聞かせて貰っても構いませんか?…婚約者との事でしたが…?」
「…ええ、私は彼女遠坂凛の婚約者の…衛宮士郎と言う者です。」
そう言うと目の前の医師の目が見開かれた。看護師に至っては口を大きく開けている…まぁ、恐らくは私が名前通りの日本人にはとても見えないからだろうな…最も、そこまで驚かなくても良いと思うのだが…
「どうやら今度はこちらの方が礼を欠いた様ですね…」
「…いや、私もこの見た目だ…こっちも日本人に思われないのは慣れているから…気にしないでくれ。」
まぁ、元々この褐色の肌になる前から赤茶けた髪、と言うさすがに純粋な日本人には少々珍しい色だから、一族の何処かに外国の血が混じっていても特に不思議な事とは私自身も思わん…と言っても、元の両親全ての記憶を今も失ったままの私には…到底確認し得ない事だが…
「…さて、顔合わせと挨拶はこのくらいにしておきましょう。」
咳払いと共に医師がそう口にする。予想以上に切り替えが早い様だ、この男…今の所…看護師の方がまだ現実に帰還しきっていない様に見える…
「これから彼女の容態について説明したいのですが、大丈夫ですか?」
「…ああ、もちろん大丈夫だ。」
何を言われようと…私はもう覚悟は出来ている…正直聞く前からドッと疲れた様な気もするが…