「そうですか…リンが…」
私と凛で使っているホテルの部屋にルヴィアたちを集まらせ、事情を話した所先ずはルヴィアがそう口にした…当然ながらルヴィアも状況を良く分かっている様だ…
「日本でもそれなりに医療技術は発達している…油断は出来無いが、はっきり言ってしまえば私たちには病気そのものに対してどうにかする事は出来無いに等しい…その代わり、入院中の世話に関しては確実に必要だ。」
私の心象世界に記録されている宝具を検索する手も有るだろうが…現状私ですら未知の宝具が多く、解析にも時間がかかる…無茶をして私まで倒れてしまっては何の意味も無いからな…
「え~っと…ハイエンってそんなに危ない病気なの…?」
イリヤがそう聞いて来たので説明しようとして頭の中で知識を呼び起こした瞬間に言葉が止まる…意外に説明が難しいな…奴なら病気に関しても私以上に色々知っている上、分かるかどうかは別にしてもシンプルに纏めてくれるのだが…
「…イリヤスフィール、肺の事については説明しましたね?」
私が悩んでいるのを察したのだろう…ルヴィアが口を開く。
「…うん、覚えてるよ。呼吸をする所だったっけ…?」
「…かなり大雑把ですが、概ね正解ですわ。そうですわね…酸素と二酸化炭素については覚えてますか?」
「うん、空気の中に含まれてて…私たちは酸素を吸って生きてるんだよね…えと、その時吸った酸素の代わりに二酸化炭素を出すんだっけ?」
「ええ、そうですわ。リンは…肺の中にある、その酸素と二酸化炭素を交換している場所にウイルスが感染してしまったのです。」
「…そうなると、どうなるの?」
「…呼吸がしにくくなります「ええ!?大丈夫なの!?だって呼吸出来無いと死んじゃうんでしょう!?」落ち着きなさい、イリヤスフィール…ええ。ですからお医者様が手を尽くしてくれますし、リンも今頑張っている筈です。ですので…」
ルヴィアがこちらを見る…
「これからリンの世話をする分担を決めますわ。」
説明役をする所か、仕切られてしまった…そして彼女が言うままに分担が決められて行く…口を挟みたいが、彼女のペースに流れを持って行かれて中々発言出来無い…仕方無い…取り敢えずは見守るとするか…
「さて、こんな物ですか…何か意見は有りまして?」
私が手を挙げたのとほぼ同時に、進行役になったルヴィアと慎二とバイト君を除く残り二人が手を挙げた…まぁ…そうなるだろうな…
「では、先ずはイリヤスフィール…貴女から。」
「…私?えとじゃあ…どうしてこの役割の中に私が入ってないのかな?」
「理由は色々有りますが…そもそも肺炎の原因になっているウイルスの種類によっては伝染るのです。貴女の身体の状態を考えれば当然ですわ。」
ルヴィアがそう言うとイリヤは「分かった…」と言って黙る…まぁイリヤを下手に連れて行って狙われたりする可能性も有るが、敢えてそこを言わないのは彼女の優しさなのだろうな…
「そんな顔をしないで下さいな…日本の病院は隔離措置もほぼ完璧だと言います…この中の誰かと一緒に時々会いに行くくらいなら良いでしょう。」
「…うん!」
そう…昔から誤解されやすい様だが、彼女は間違い無く"優しい"のだ…やはり凛に似て魔術師らしからぬ人柄だな…しかもあの頃より性格が丸くなっているから余計に際立って見える…とは言え彼女に聞けば「ノブレス・オブリージュに従っているだけですわ」…と、答えるだけなのが容易に目に浮かぶ…最も、凛も一応貴族の家の生まれになるのだが。
「あの…では私は…」
「サクラ。貴女はその手で抱き抱えている自分の子供の事に専念して下さいな…正直に言うと…こちらとしても毎回色々振り回している様で申し訳無いのです…」
驚いた…あのルヴィアが頭を下げている…
「あ!そんな!謝らなくても…!そういう事なら分かりました…」
「さて、最後はシェロ…貴方ですわ。」
「私か…?聞きたい事は分かると思うが…」
「それでは意見として聞いている意味が無いでしょう?」
む…確かにな…
「そうだな…では、私の口から言うとしよう…分担と言いつつ…明らかに私より君の方が比率が多いのは何故なのかね?」
ルヴィアも積極的に関わって来るのは分かっていたし、それなりに忙しい慎二や桜…それに関わりのほとんど無いウチのバイト君…それから出自の問題などからイリヤが外されるのは当然として、奴の世話がある事を考えればてっきり一日の内午前と午後の様な基準で私と彼女とで区切るのだろうと考えていた…
だが…ルヴィアが書いた一週間分のスケジュール表は四日間が普通に彼女の名前で埋まり、残り三日分に私の名前が書かれている…
「何か問題が?」
「…奴の世話は…どうするんだ?」
「もちろんそちらも顔を出しますわ「二人の病院の場所は…逆方向だぞ」往復するだけです…そもそもあの方の方は私に出来る事も少ないのです…入り浸って長々と話をしている時間をリンに当てるだけですわ。」
「…私に出来る事は無いと?」
「そうじゃありませんわ。そうですね…手が空いている時は、私の代わりにシェロがあの方の所へ顔を出してくれませんか…?」
「私が?」
「来てるのは私ばかりですし、そのせいか…最近はそれなりにうんざりした顔をされる事も多くて…」
「なるほどな…」
奴の中ではルヴィアに対する蟠りが薄れつつ有るのは間違い無い…だが、異性である事を考えれば…それなりにストレスも溜まるだろう…
「そういう事なら了解しよう。それと…」
「何でしょう?」
「店の方は大丈夫か?」
「もちろん出ます「それは店主代理を務める身として簡単に許可は出来無い」ですが…」
「そうだよ!私だっているんだよ!」
「ハァ…予想してたけどやっぱりこういう風になるのか…これからは僕も何とか身体を空けるから、手伝いに行くよ。」
「全く…役割を貰えないなら何の為に呼ばれたのかと思ってましたよ、良かった…そういう事なら僕も店に出る日を増やします…無理はしないで下さい。」
「私も…閉店後の片付けくらいは手伝いますから…」
「しかし「君にまで倒れられるのは私も困る…出るなとは言わないから、もう少し考えて貰いたいものだな」そう、ですわね…」
「分かってくれたなら何よりだ…さて、ここからは店の分担の方を決めようか。」