「先ず、私の原初は病院で目覚めた所から始まる…」
「?…それは赤ん坊として誕生した時の記憶が有ると言う事ですの…?」
…そういう反応になってしまうのか。全く、相変わらず私は自分の事を話すのが苦手だな……何故か私をあの軽薄にすら感じる顔で嘲笑する赤い外套を纏ったあの男の姿が浮かんで来た…ふん、どうせ貴様も似た様なものだろうに…一瞬反抗心が湧き上がったがすぐに心は落ち着いて行く…まぁ結局の所、俺にはあの男をどうやっても本気では憎み切れないからだろうな…
「…シェロ?」
「!…と、すまない…話の途中だったな…」
一旦深呼吸して、薄れつつある昔の記憶を改めて思い起こす…一から説明するのはそろそろ難しくなって来たな…ここに私の話をある程度理解してくれた奴に凛…桜や慎二がいれば分かりやすく補足してくれるのだろうが…
「…いや、実はそうじゃないんだ…私が病院で目覚めた時の歳は恐らくは六か、せいぜい七歳…その時の私は自分の事が何一つ分からなかったんだ…」
「…それは、記憶喪失…と言う事ですか…?」
遠慮がちに聞いて来るのを見て自然と苦笑が浮かぶのが分かる。
「…そう気を使わないでくれ、今もまともに当時の記憶は戻ってないが…今更私自身特に思う所は無いからな。」
あの時…未来の自分自身であるアーチャーと本気で剣を打ち合って垣間見えてしまった僅かな記憶…あの時見てしまった物を思えば、知らなくて良かったのだとすら今では思える…まぁ確かに本当の家族の事は分からず、ルーツとなる本来の自分の姓すら未だに分からないのは少し寂しいが。
「何があったの…?」
「…コレは私を養子にした衛宮切嗣が後に語った事だが、第四次聖杯戦争の際…ある事が原因で起きた大災害に私は巻き込まれたらしい…その時のショックで記憶を失ったのだろうな…」
冬木市で今になってもろくに開発が進んでいない広大な更地と奴から読み取った当時の状況…相当の被害だったのは確かと言えよう…
そんな事を考えていたらこの場の空気が死んで行くのが分かった。
「…そう沈まないでくれ、君にはあまり関係無いだろう?」
私はバイト君に声を掛けた(まぁちゃんと本名は把握してるが基本的に他人に紹介する時など自然とそう呼んでしまっている…)イリヤは参加者だし、ルヴィアは聖杯戦争と間接的に因縁が有るそうだが…何故無関係の君まで落ち込むのか…
「…元の家名すら不確かですが、聖杯はともかく破格の霊地としてこの地に目を向けた魔術師然とした魔術師だったのは先ず間違いは無いですから…それに、仮に僕がもう少し早く生まれていて魔術回路をこの身に受け継いでいたら…確実に参加はしようとしていたでしょうし…」
「…と言うか今更だが…君は聖杯戦争について把握しているのだな…」
ほぼ一般人に近い彼に、いきなりこの説明をした私がする発言では無いが。
「ある程度は。以前僕が出会った魔術使いは聖杯戦争の顛末について調べに来たそうですから、その時に色々聞かされたんですよ。…まぁ結局ほとんど何の痕跡も残ってなかったと言う結果だけを最後に僕に報告して、すぐに冬木市を発ってしまいましたけど…」
……その人物、少し気になるな…後でもう一度詳しく聞いてみるか…
「…まぁとにかく二人も気にしないでくれ、話を続けるぞ。」