錬鉄の英雄の居る店   作:三和

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「…第五次聖杯戦争が始まったあの日、私は部室の掃除をしていた。」

 

「一応聞くけど、何部?」

 

「…弓道部だ。」

 

私がそう言うとイリヤはやっぱリ…と言う顔をした…まぁ私の場合そう思われても仕方無いが、どうせなら一つ訂正しておこう。

 

「…言っておくが、当時の私の弓の腕は二流以下だ。……謙遜では無い。」

 

「え…?そうなの?」

 

「ああ。私の場合、毎回雑念が入ってしまうせいか命中率は低くてな…極端な話、同じ部だった慎二や桜の方が上手かった程だ……コレでも努力はしたのだがな…」

 

今なら理由は分かる…全てを失った記憶が欠けてしまっている上に他人を犠牲にして生き延びた罪の意識すらも無い私には、アーチャーの様に自分の感情を殺す事が出来無かったのだと…

 

「…まぁとにかく話は戻るが…その日私は一人掃除をしていたんだ…季節は冬場、と言う事も有り日も暮れて来ればさすがに寒くもなる…根が凝り性であった私はついついやらなくて良い所まで念入りに掃除している内に肌寒さを感じて、漸く帰りが遅くなってしまった事に気付いた…」

 

「そもそも何でシロウ一人で掃除なんてしてたの?…まさか、イジメ?」

 

……誰だろうな、イリヤにそんな言葉を教えたのは…まぁ人間としてこれから生きて行くつもりなら知らないといけない知識では有るが。

 

「いやいや、基本的には部員全員でやるものだよ。単に私が他の皆が帰ってもやっていただけさ…掃除は嫌いでは無かったからな。特別私にとっては可笑しな話では無い…最も部長の慎二には『今日は僕と桜は用事が有るからそろそろ帰るけど、お前もちまちまやってないでさっさと切り上げて帰れよ』…とは言われたがな…」

 

「…あの方、部長など務めていたんですの?」

 

「アレで人を惹きつける物は有ったからな…高校に入る頃にはある程度毒も消えていたしな…」

 

「さっきも似た様な事を言った気がしますが…アレで良くなった方、ですか…?」

 

「…今思えば、あの言葉も…聖杯戦争に私を巻き込まない様にする気遣いだったのかも知れん…」

 

最も今になって改めて本人に聞いても『ハァ?バカじゃないの?僕が何でそんな忠告しなきゃならないワケ?』とでも言われるのがオチだろうが…全く、本当にアイツは素直じゃないな。

 

「話を戻すが、とにかく私は掃除用具を片付けて鞄を掴んで急いで校舎を出ようとしたんだ……そこであの光景に出くわしてしまったんだ…」

 

「何を見たの…?」

 

「赤と青の閃光のぶつかり合い…要はサーヴァント同士の戦いだ…突発的に起こった戦いではあったんだろうが、今思えば人払いの結界すら無かった辺りが本当に凛らしい…」

 

彼女の場合、そのうっかりは最早間接的に自分の不運にすら直結するレベルだ…歴代の遠坂の中でも最も不幸だったりするのでは無いだろうか…

 

「辛うじて目で追えるそれを見てしまった私は…すぐ立ち去れば良いのに"ソレ"から目が離せなかったんだ……それが私の運命を決めたのだろうな…」

 

「どうなったの…?」

 

「…目の前の光景に圧倒され微動だに出来無いまま、ほとんど呼吸すら忘れていた私は…途中で漸く我に返り、思わずその場にへたり込んだ…座ってしまったんだ…」

 

「その時にな、手に持っていた鞄が地面に当たって音を立ててしまったんだよ…それ程大きな音じゃなかったが相手は人知を超えた存在…英霊だ。私の荒くなった呼吸にすら二人が気付かなかったのがそもそも奇跡の出来事だったのだろう…コレには、さすがに気付いた…」

 

「二人の動きがその場で止まった事で姿が見え、その内青い服をまとった男の方がこちらを見て『誰だ!?』と叫んだんだ…」

 

「見つかったの!?」

 

「…向こうからは顔すら視認出来る様な距離じゃなかったんだが、そこは英霊だ…正確にこちらを明らかに目視し、殺気まで飛んで来たよ。震える足を太ももを叩いて叱咤して強引に立ち上がり、脇目も振らず走り出そうとした……が、この動作に数秒とかからなかった…到底追い付ける様な時間じゃなかった…にも関わらず、耳元でさっきの男の声がハッキリと聞こえた。」

 

「『悪いな、顔を見た奴は殺せ、って言われてるんだ。運が悪かったと思って諦めてくれ』その言葉の直後に胸の辺りに異物感を感じ、次いで…少し遅れて激痛が走った…異物が何なのか確認しようとする前に身体から引き抜かれる感触を感じ、それが消えた瞬間私は膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んでしまったんだ…その時には、もう痛みも無かった。」

 

「刺されたんですか!?」

 

「ああ。あの時は冷静に『あ、コレは死んだな』と私は思っていたよ…傷は確認出来無いが間違い無く致命傷だと思った…そのまま私は目を閉じ、意識を失ったんだ……一旦休憩にしよう、茶でも入れようじゃないか。」

 

「そんなの良いってば!シロウはどうなったの!?」

 

「落ち着いてくれ。私はこうして生きているだろう?長い話になる…少し一息入れよう。」

 

正直…私にとってもアレは苦い経験の一つだ、あの時奴の槍が身体の中を通った感触は…今でも忘れられないからな…

 

「少し待っていたまえ。」

 

私は湯を沸かす為、部屋の中に有るキッチンへ向かった。

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