錬鉄の英雄の居る店   作:三和

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『チッ…よりによってお前が相手か…お前の力は良く知ってる…加減はしねぇぞ?』

 

やかんにかけた火を見詰める…一応集中してないとならないのだが、こうしていると不思議と思考は埋没して行く…そして再び過去の事を思い出して行く…何故かな…先程まで私が参加した聖杯戦争の事を話していたのにこうして一人になると奴の事ばかりを思い起こす…

 

『構わない…こうして相対してる以上、お前は俺の敵だ…でも、出来れば…逃げてくれないか?俺はお前を傷付けたくない。』

 

私の居た部隊の隊長はかなり柔軟な思考の持ち主であり、魔術師と一般人と言う振り分け自体を基本的にしておらず…軍人として一辺倒に生きて来たのに初めて戦場で目にした魔術師の力を明確な脅威として受け入れる事が出来たと言う…そして、自分の隊に入って来た私の持つ固有魔術…それを有益と捉える事が出来た。

 

だが、彼以上に私の事を一番理解出来ていたのはやはり奴だろう…

 

『ハッ…そんな事を言ってると足元掬われるぜ?』

 

部隊にいる間は仲が良かったとは言い難いが、担当も違う筈の奴と何故か組まされる事の多かった為か…奴は私を敵に回す意味を良く分かっていた……そして、奴は私の弱点すらも把握していた。

 

『だから言ったろ?足元掬われるってな…ま、ここまで来たのは褒めてやるよ。まさかせっかく仕掛けたトラップの大半をお前一人にぶっ壊されるとは思わなかったぜ…』

 

あまりにも凶悪で凶暴…且つ、私一人を殺すのにはあまりにも多過ぎる程のトラップ…後に聞けば魔術師に雇われる事になった時から私の様な魔術師の襲撃を想定して作っていたと言うソレを無我夢中で突破しつつ…隙間を縫う様に襲って来る奴の仲間を一人一人確実に仕留めて行った私は一瞬気を抜いた瞬間…その内の一つに引っかかってしまった…

 

『クソッ…!殺せよ!』

 

逆さまの状態で宙吊りになり、直後に飛んで来た矢を身体に受け、身動きの取れなくなった私の前でかがみ、奴がナイフを取り出す…

 

『…止めた、面倒臭ぇ…』

 

『何だと!』

 

『あのなぁ…まだ気付いてないのかよ…お前は囮だったんだ…さっき俺の雇い主の居た屋敷を襲撃されたって連絡が有った…しかも死んだらしい…今更お前を殺す意味がねぇんだよ。』

 

『俺が…囮…?』

 

『お前は他人を信用し過ぎだ…』

 

奴がナイフを私の手に持たせ、自分のズボンのポケットから取り出した瓶を地面に置く。

 

『そもそもお前はもう死んでる筈なんだ…つか、かなり強力な毒を使ったのに何で意識有るんだよバケモンが…今更お前殺しても一円も貰えねぇからな……コイツは解毒剤だ…』

 

奴が立ち上がり私に背を向ける。

 

『おい!何処へ行くんだ!?』

 

『逃げるんだよ、このままだと俺も始末される…ま、縁が有ったらまた会おうぜ?』

 

『クソッ!ふざけんな!絶対仕返ししてやるからな!?』

 

 

 

「今思えば…何とも子供染みた執念を燃やしたものだ…」

 

結局次の遭遇時には私もわざわざ巨大な落とし穴を掘ったが…中々引っかからないから散々追い込んで結局無理矢理穴に落としたんだったな……そして、私は奴を殺さなかった。

 

『テメェ!何のつもりだ!?』

 

『何って言われてもな…俺はお前と同じ事をしてるだけだぞ?』

 

『クソが!首洗って待っとけ!次会った時は俺がお前を殺してやる!』

 

……結局次の邂逅の際にたまたま会った私と奴は組み、次は奴からの依頼で再びの共闘…奴との決着はその次に持ち込みとなった。

 

「いや…決着は…着いてないか…」

 

私と奴の場合…戦ってどちらかが死ぬ…その瞬間こそ真の決着となるだろう……今更奴と命懸けで争いたくなど無いが。

 

「ましてや今は奴を慕う者も居る…知ってしまった以上…今更…私は奴を殺せまい…」

 

アーチャーからすれば甘い理屈だろう…だが、私は元々アーチャーの様に冷酷にはなれんのだ…これから先…奴が取り返しのつかない悪事に手を染めるとしても私はきっと奴を殺せないだろう…とは言え不思議なのは…

 

「何故だろうな…」

 

今、私は慌ただしくは有るが戦場を闊歩していたあの頃に比べれば穏やかな生活を送っている…奴のお陰とは思うが良く考えればそれは結果論に近い…少なくとも三度目に出会ったあの時にやはり殺しておくべきだったとも言える…

 

「…仮に今殺るとなると…ルヴィアとは敵同士になるか…」

 

ルヴィアに関しては明確に友人と言え、争いたくはないが奴は違う…正直に言えば、奴に対して持っている感情は友としてのソレには程遠い…

 

「まぁ良い…今考える事では無いだろう…」

 

何故殺せないのか…そんな事は今考える事では無い。ちょうどタイミング良く湯も沸騰した様だ…さて、茶を入れるとしよう。

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