しかし……軍警察の奴らは、既に何人か倒してきているが、狩猟部隊の人間とやり合うのは、久しぶりだな。
油断せずに、確実に奴を沈める。
「なめるなよ。くそガキ!」
ブォン、ブォン!
俺の言葉にキレたらしい獅子道は、鉄球を回転させると、それを俺へと向かって投擲してくる。
そのスピードは、先ほどよりもはるかに速く、跳び前転で回避した俺の身体が、鉄球の通過時に少し引っ張られるほどだ。
風圧で、引き込まれかけた?
ギリギリで避けると、危険かもな。
すぐさま、連射モードで追撃をかけるが、今度は勢いをつけて俺の方へと腕を振るい、弾丸を腕で弾き落とすと同時に、鉄球を横移動させて俺へとぶつけようとしてくる。
それに対して俺は、バックステップで下がりながら避けつつ、連射を再開。
すると、今度は手元へと鉄球を引き寄せた獅子道は、ぐるぐると身体の前で鉄球を回転させ、扇風機のように弾丸を蹴散らしてくる。
「チマチマ射って来やがって! うざってぇ!!」
「お前こそ、図体の割には芸が細やかでうざってぇ。感心したぜ」
「そのふざけた口……閉ざしてやる!」
俺のセリフが、逆鱗に触れたのかーー扇風機のように回していた鉄球を、突然、空中で停止させる獅子道。
……何をするつもりだ?
その動きに、警戒心を引き上げる中、獅子道は、まさかの行動にでる。
「暴虐武人!!」
その言葉と共に、鉄球を拳で殴りつけると、先程の投擲よりもはるかに速い鉄球が、俺に向かってくる。
くっ!?
避けることが間に合わないと判断した俺は、すぐさま殲滅銃を口へと咥え、両手をクロスして、真っ正面から鉄球を受け入れる。
ゴッ!
そんな鈍い音と共に、衝撃が襲ってくると、身体が勢いよく後方へと流れていく。
「ぐぎぎぎ!!」
急激なGによる負荷で、身体がビリビリと震える中、何とか殲滅銃を離さずにくらいついていると、突然背中に感じる衝撃。
それと同時に、視界に映る天地が、ぐるぐると回転する。
気持ちの悪い景色を、何度見たかわからない程繰り返すと、やっと天井が見える形で、視界が固定させるーーのだが。
くっそ。全身いてー。
頭を左右に振りつつ、立ち上がった俺は、まず、両手の稼働を確かめ、折れてないことを確認する。
……多少の痺れはあるが、戦闘に支障はないな。
しかしーー我ながらあの威力を真正面でくらって、痺れている程度なんて、よくもったものだ。
身体の方も、何度か地面をバウンドしたみたいだし……ずいぶんと、飛ばされたな。
先ほどの背中の衝撃は、扉にぶつかったものだったらしく、部屋から廊下へと歩み出る。
距離的には、俺の攻撃の有効範囲内だがーーそれはあちらも同じか……。
むしろ、これ以上部屋の中に押しこまれたりなんかしたら、狭い部屋の中であの鉄球を避けなければならないという、ハードゲームを強いられてしまう。
そうなれば、完全に向こうの有利だ。
「仕方ない……か」
これ以上後退できないと判断した俺は、本当なら一撃で倒したかった為、ここぞという時に使用したかった殲滅銃の最後のモードへと撃鉄を倒す。
「テメー……なぜ、形が残っている?」
鉄球を引きずりつつ、俺へと接近してきていた獅子道は、俺が普通に立っていることが信じられないのかーー驚いた様子で、そうきいてくる。
まぁ。普通の人間がさっきの攻撃をくらえば、間違いなく挽き肉になっているだろうな。
さすがは、ロボ子さんのフルアーマーだ。
「ロボ子さん。フルアーマーの損傷率は?」
『カチコチフルアーマーの損傷率は、10%だよ。でも、衝撃を消しきれなかったから、あまりくらい続けるのは、オススメしないかなー。機械と同じで、人間もダメージを蓄積しちゃうからさ』
そうか。
フルアーマーが無事なのは、嬉しいことだがーーやはり衝撃を消しきれなかったか。
てことは、あまりフルアーマーを過信しない方がいいな。
「何を、ぶつぶつ言っていやがる」
「お前にはわからないだろうが、開発者と会話してたんだよ。あぁ。そういえば、何で形が残っているのか? だったけ。教えてやるよ! ロボ子さん、
『了解! 電磁砲モード!』
その俺の声にこたえるかのように、殲滅銃が変形を開始する。
銃身が左右に割れるのは、連射モードと変わらないが、そこから動きは、まったく異なる。
別れた銃身は、半回転しつつ前進しながら伸びていき、通常モードよりも銃身が二倍の長さへと変わると、バチバチと、目に見えるほどの放電を始める。
電磁砲ーー。
原理としては、銃弾を二つの板で挟みこみ、そこへと電流を流すことによって、電磁力にる弾丸を射出するというものである。
本来なら、ミサイルの迎撃などに使用されるもので、最高速度はマッハ6まで出せるとかいう兵器である。
そして、殲滅銃は、その兵器を拳銃へと落としこんだもの。
殲滅銃が放電を始めたことで、先ほどと同じ技を出そうと、鉄球を構える獅子道。
だがーー今回は、俺の方が速い!
獅子道へと殲滅銃を向けた俺は、一気に引き金を引く。
バシュン!!
そんな空気を切り裂くような音と共に、眩い弾丸が放たれると、雄叫びをあげつつ、遠くへと飛んでいく獅子道。
さすがにマッハ6など出せないが、音速の四倍ーーマッハ4程度は、出ているだろう。
さすがのあいつでも、この一撃は、かなりきいたはずだ。
高電圧を使用したこともあり、殲滅銃と射線上から湯気が出るなか、クールタイムに入ったことを教えてくれたロボ子さんに、軽く礼を伝えた俺は、獅子道の元へとむかう。
「ぐっ! ぐぅぅ! なんで、お前が最先端科学兵器を持っていやがる!?」
「まだ話せる力があるのか。感謝しろよ、くそ野郎。お前らが嫌っているバーチャルアイドルが、わざわざ護ってくれたんだからな」
と、俺が見下しつつ言うと、なぜそれを? と言いたげに、膝をつきつつ俺を見上げてくる獅子道。
もちろん。知っているさ……。
お前らが、バーチャルアイドルの力に敵わないと考えた時、何をしたのかくらいはな。
「カチコチフルアーマー
「……そうか。どこかで見た顔だと思っていたが、お前……一年前から政府の高官を暗殺し回っている奴か」
「得意気にロボ子さんの作品を使いやがって。彼女は、今どこにいる?」
ロボ子さん……。
彼女の能力に目をつけた軍警察は、彼女を卑怯な手で捕縛すると、その身柄をどこへと幽閉し、今もなお自分達に有利な兵器を作らせ続けている。
それでも、俺の装備の劣化版だと思うと、彼女なりに、今でも抵抗をしてるのだろう。
「どこにいるだと? さぁな。仮に知ってても、教えねぇよ!」
俺の質問にそう答えた獅子道は、鉄球を真横へと振るってくる。
その攻撃を、後ろに下がることで回避した俺は、殲滅銃を連射モードへと変更すると、すぐさま弾幕をはる。
「人類種のくせに、
「そのアイドルに助けてもらわないと、まともに戦えない木偶の坊が! デカイ顔するんじゃねぇよ!!」
弾丸の雨をくらわせつつ、俺が距離をとると、獅子道は、弾丸があたることなど気にもせず、あの技をくりだしてくる。
「暴虐武人!」
がーー。
先ほどとは違い、すでにその攻撃の威力と速度を知っていた俺は、攻撃のモーションにうった瞬間、すぐさま、左手の吸盤を天井へと張りつけ、鉄球が打ち出されると同時に、ワイヤーを巻き取り、天井へと回避する。
考えが甘すぎるぜ。
そんなわかりきった攻撃、二度もくらうかよ!!
『クールタイム終了! いつでもいけるよ!』
と、AIロボ子さんの声で、次弾を射てることを確認した俺は、すぐさま撃鉄を倒し、電磁砲モードへと変え、射とうとする。
ーーが。
「なめるなガキ!!」
そう口にすると、放った鉄球を手元へと引き寄せる獅子道。
その動きによって、空中にいた俺は、鉄球の戻る風圧に身体を揺さぶられてしまい、目的にしていた着地地点からずれただけでなく、着地も疎かになってしまった。
しまっ!?
「爆裂ボンバー!!」
そんな致命的な隙を見逃すほど、獅子道も、弱くなかった。
タックルに近いラリアットを首元へとくらった俺は、体制を立て直すこともできず、そのままの勢いで壁へとぶつけられ、すぐさま顔を鷲掴みにされると、さらに深く壁へと押しつけられてしまう。
「人類種を存続させるためには、バーチャルアイドルなどというものがあってはならないと、今では赤子でもわかることだ! なのに貴様は! やつらに唆され、心を奪われている!! 愚か過ぎて同情さえするわ!!」
ガスン!
一度壁から離れたかと思えば、強くもう一度叩きつけられ、真っ暗な視界が揺れる。
ぐっ!
「後の世の為にも! やつらは、根絶やしにしなければならん! なぜそれがわからんのだ!!」
ガスン!
ガスン!
と、何度も頭を壁へと叩きつけられ、次第に衝撃が身体の底へと響いてくる。
ぐぅがぁ!!
「ロボ子さんだと? 何を人のように、奴らを呼んでいる! バーチャルアイドルなど、もともとデータ上の塊だろうが! ふざけた奇跡によってできた、人間の真似をした劣化物! そんな奴らに、人のような接し方をするな!!」
ガスン!!
と、一際強く頭をぶつけられ、意識が朦朧としてきた俺は、手に持っていた殲滅銃を、ついに手離してしまう。
あっ……やべぇ。
頭が……クラクラする。
『執行人くん!! これ以上のダメージは、ダメだよ!! 早く抜け出して』
そんな状態の俺の耳に、AIロボ子さんの言葉が、入ってくる。
あぁ……。いけない。
心配させてるぞ、俺。
「人類の汚点が……未来の為にも、ここで死ね!!」
そう言うと、一際獅子道の腕に、力が込められる。
ここだ!!
叩きつけが終わった今、頭が割れるように痛むーーが。視界が安定した為、俺は、空いた右手でスパナイフを抜刀とすると同時に、獅子道の腕の
「ぐぉ!?」
「うるせー!!」
突然の反撃に隙ができた獅子道の腹へと、怒り任せに蹴りを入れた俺は、地面へと垂れる血を気にせず、大声で吠えてやる。
先から、うるせぇんだよ!!
「先から聞いていれば、人類の存続だ。未来のためだーーゴチャゴチャうるせぇんだよ!! 俺は、今を生きているんだ! 一度きりの人生を、楽しいことをして過ごして、何が悪い!!」
「なっ! きさっ!」
「あの人達が、データの存在だと? ふざけんな! 彼女達だって、楽しければ笑うし、辛ければ泣く。酷いことをされれば傷つく! 俺達人間と、何が違うってんだ!!」
「っ……貴様。それでも、人類種の一人か! この裏切り者が!!」
ついに、俺の言葉に痛む腕のことすら忘れたのか、暴虐武人の構えをとる獅子道。
そうさ……。
彼女達は、俺らと同じだ。
その笑顔で、その歌声で、俺達に希望と夢をくれる存在なんだ。
それをーー劣化物などと、言わせてなるものか!!
落とした殲滅銃を手にした俺は、暴虐武人を放ってきた獅子道へと、その銃口を向ける。
俺と獅子道。
その射線上には、あの硬い鉄球が立ちふさがっている。
それでもーー撃ち抜いてみせる。
これは、ロボ子さんが……自分の能力が、平和とはかけ離れていると苦悩しつつも、いずれ俺に必要になるからと言って、置いていった
「撃ち抜けー!!」
バシュン!!
俺の想いと共に放たれた銃弾は、鉄球へと当たった瞬間、その箇所を真っ赤に染めあげると、貫通していき、そのまま獅子道の胸へと深く突き刺さる。
「ぐぉぉぉ!!」
そんな雄叫びをあげつつ、背後へと吹き飛んでいった獅子道は、何度か地面にその巨体をバウンドさせると、最後は、壁へとぶちあたり、胸から湯気を立てつつ沈みこんだ。
そうだ。
こんな奴らに、負けられるものか!
トドメをさす為に、獅子道へと近寄ると、まだ息があったらしい奴の眉間へ、通常モードにした殲滅銃を突きつけてやる。
「なぜだ……なぜ、そうまでして人類種をーー同族を拒絶する。何が、お前をそこまでつき動かさせているんだ?」
「……俺が、今こうしてここに立っていられるのは、二人のバーチャルアイドルのおかげだからだ。でなければ、とっくの昔に俺は、存在していない」
「ふっ。命の恩人だと言いたいのか? 人類の消滅を手助けしている奴らが」
「俺は、お前がそう思っている彼女達に救われたんだ。悪いが、お前とは、根底から信じているものが違う。終わりだ獅子道拓磨。お前が傷つけた人達の無念の為にーー俺がお前を裁いてやる」
「裁く? 神にでもなったつもりか……」
「いや。同族の汚点を消すだけだ。息絶えるまでの残り時間……それが、お前に許された猶予だ」
無実の罪ーー。
ただ、推しがいたから。ただ、推してくれる人達とふれ合いたかったから……。
そんな理由で捕まった人達の思いなど、きっとこいつらは知らないのだろう。
最後まで、自分は決して負けていないというように、俺から視線を外さない獅子道。
そうさーー。
だから俺は、この言葉を言い続ける。
お前らが、どれほど罪深いことをしていたのかを、わからせるために。
「お前の罪を、確認しろ」
これで、最後だ……。
『ダメ!』
そんな想いと共に、引き金を引こうとしたその瞬間、耳元へとあの人の声が響いた。