空を見上げて   作:世界 新

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桜神社

 

 

「くそがよー!」

 

 言ってはいけないと思いつつも、どうしてもイライラがつのってしまって、また言ってしまったにぇ。

 

 電脳空間の中で、大画面に映し出されたゲームをやりつつ、みこは、いつものように向き合っている。

 今日こそ、このゲームをクリアしてやる!!

 

 

「ウラ! おらよ!!」

 

 

 バシバシと、ゲーム内の人間が敵に攻撃を当てるたびに、自然と声がもれ、その声に対して35pーーみこを推してくれるファンの総称だーーが、画面の端でコメントを書いてくれる。

 

 そして、やっとその時が来た。

 

 

「おらぁ! やったー!! ク~リアー!!」

 

 

 あまりの嬉しさに、手に持っていたゲーム機を、頭上へと放り投げてしまったみこは、慌ててそれをキャッチし、画面へと笑顔を向ける。

 

 きっと、この向こう側には、多くの人達が、今も観ていてくれているはず。

 ほんの数十人かもしれないし、もしかしたら百人以上いるかもしれない。

 

 だからこそ、みこの配信を観ていてくれている人がいるのなら、せめて、終わりは、笑顔でなければ!

 

 

「みんな~。ついに、みこがやったにぇ! 応援ありがとう!!」

 

 

 そういえば、たちまちコメントが溢れかえってくる。

 

 ふっ、ふふっふー。

 本当なら、ここで少しみんなとお話をしたいところなんだけどーーこの後には、例のあれが待っている。

 

 つまり、今日は、ここまでだ。にぇ!

 

 

「じゃ、みんな! 時間がきたことだし、また今度にぇ~!!」

 

 

 と、その言葉と共に配信を閉じたみこは、すぐさま、近場にあるゲートをくぐり、ある場所へと向かう。

 

 そこは、みこと同じ電脳空間にある、ちょっとしたライブステージ。

 すでに、何人かのバーチャルアイドルが集まっており、画面の向こう側にも何人もの人がいるみたい。

 

 コメント欄が、下へと早いスピードで流れているのが、良い証拠だ。

 それにしてもーーふぅ。なんとか、間に合ったにぇ。

 

 

「こんそめー! みんな~、お待たせしました!!」

 

 

 と、安堵の一息をついていると、すぐに彼女がステージ上へと現れた。

 

 いつもと変わらない、素敵な笑顔。

 可愛いらしいアイドル衣装。

 おぉ~これが、彼女だ!

 

 

「そらちゃーん!!」

 

 

 熱気に溢れる声に負けじと、みこも声を張り上げる。

 同じバーチャルアイドルだとしても、みこは、彼女が大好きだ。

 

 今日歌う曲を発表してくれたそらちゃんは、みこと視線が合うと、あの笑顔でにっこりと微笑んでくれる。

 

 もしかしたら、あの笑顔は、他の人に向けたものかもしれない。

 けどーーきっとみこにしたに違いない!!

 

 そう信じたみこは、今日も変わらずペンライトを振り続ける。

 大好きな、彼女のために……。

 

 

 

 

 

 

 

 桜神社ーー。

 それは、北の国の最南端に位置する場所にあり、どういうわけか、一年中桜が咲いているという都市らしい。

 

 そこには、二千人以上の人々が住んでおり、何にも縛られることなく、自由に暮らしているとか。

 

 

「というのが、表向きな話。本当は、バーチャルアイドルは、もちろんのことーー推している人達が普通に暮らせるような都市を実現しているのが、桜神社ってなわけ」

 

 

 俺の予備知識をフブキさんに話せば、なにやらオタク達が、革命軍のように、桜神社を隠れ蓑にしているらしい。

 

 だがーーそもそものところ、名前からして政府が黙ってないはずだが?

 

 

「そこが、みこちのすごいところさ。自身のキャラをうまく使って、一般人も都市に住まわせてる。だから、国民の信用を崩す動きを、政府もできないって感じ」

 

「キャラをうまく? 巫女さんくらいしか、思いつかないけどな~」

「それだよスバル! お年寄りとか、昔ながらのことを大切にするじゃん!」

 

「あははっ。あくたん正解だよ! みこちは、都市をつくってすぐに『私は、神から遣わされた巫女だにぇ。人類の人々を存続させるために、神から遣わされたんだにぇ』て言って、一般の人達を住まわせたのさ。その中でも、お年寄りが多いのは、あくたんの言葉通りだろうね」

 

 

 へぇー……。

 すごいな、みこちさん。

 法を犯している俺とは、大違いで、法の中で戦っていたのか。

 

 

「でもさ。都市なら、なんで名前が桜神社なのよ」

 

「それは、みこちの譲れないところだったらしくてね。電脳桜神社の名前は、つけたかったみたいだよ……まぁ。電脳なんて言葉使えば、すぐに政府が大義名分で動いてくるから、後半しか使用できなかったらしいけど」

 

 

 ははっ。そこは、みこちさんらしいな。

 

 と、先ほどから名があがっているみこさんこと、みこちさんはーー元ホロライブ所属のバーチャルアイドル、さくらみこ。のことである。

 

 俺の記憶の中の彼女は、よくみなから愛されており、いじられたりしているがーー人一倍努力家で、信念が通った人だったはずだ。

 

 その性格が今回は、都市という形で現れたのだろう。

 

 

「それで、みこちさんは、今どんなことして過ごしているんですか?」

「正門を通って、ま~すぐ突き当たりに見えるデカイ神社があるから、そこにいつも住んでいるよ。出てくるのは、政府からの招集とかがあった時とか、特別な時くらいかな?」

 

「……引きこもってるのかよみこ先輩。あくあと、いい勝負か?」

「あてぃしは、執行人くんに会いに行ってるもん! 二日に一回は、外にでているもん!」

 

「あははっ。張り合わない張り合わない。ほら。そろそろ、見えてくるはずだよ」

 

 

 スバルの無駄な一言によって、あくあが、なにやらプンプンしてしまったが、それに対して先頭を歩いているフブキさんは、苦笑いをうかべると、俺に手招きをしてくる。

 

 なんだろう?

 と、思い行ってみれば、そこは、小高い丘の開けた場所でーー。

 そこから見えた風景は、ハッキリ言って息をのむほどの絶景だった。

 

 ある地点から、咲き乱れている桜ーー。

 そこからまっすぐ続く桜並木の一本道は、大きな鳥居へと続いている。

 

 すごい……。

 本当に、季節外れの桜が、こんなにも咲いているなんて……。

 

 

「フブキさん。あれが、桜神社ですか?」

「そうだよ。すごいでしょ~」

 

「えぇ。正直、驚いてます」

「ふふん。それでは、行こうかねー」

 

 

 と、そう言うと、俺の言葉になぜか得意気な顔をしたフブキさんは、ズンズンと前へと進み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 一本道を通り、巨大な鳥居へとたどり着いた俺達は、左右に立っていた門番と思われる人達にーーどうやら顔パスらしいーーフブキさんのおかげで、何事もなくすんなりと潜ることができた。  

 

 そんな鳥居の先の光景は、これまたずいぶんと古そうな日本家屋が、軒をつなれて建っていた。

 

 

「一応、桜神社って名前だからね。ここに住んでいる人達は、昔ながらの日本家屋に住んでもらっているよ」

 

「まるで、歴史で習った日本そのものですね」

「今の世界じゃ、珍しいよな~」

 

「ちなみに、強制はしてないからね。どうも、みこちのことを神の使いと信じた人達が、自主的にそうしたみたいでね。で、他の人達もそれを真似てこうなったわけだよ」

 

 

 真似てって……。

 それにしては、ずいぶんと統一されている気がする。

 

 歩いてみてわかったことだが、門から一直線に伸びているこの大通りから脇にそれる道が、全て直線になっている。

 

 俺からしたら、歴史の授業でしか知らないが、昔京都と呼ばれていた場所は、道が碁盤(ごはん)ーー碁をする時に使用する対戦フィールドのことだーーのようになっており、中央に御所と呼ばれる場所があったという。

 

 そして、この桜神社。おそらくそれと同じような造りになっているのではないだろうか?

 だから、こんなにも歩きやすいし、通りの先まで見通すことができる。

 

 

「フブキさん。この町ですけど、もしかして京都と同じ造りになっていますか?」

「おぉ! よく気がついたね執行人くん。その通りだよ」

「「京都と似てる?」」

 

 

 俺の予想が、どうやら当たっていたようで、驚きつつ拍手をくれるフブキさん。

 だが、あくあとスバルは、共に頭に疑問符をうかべるように、首を傾げてしまう。

 

 

「旧日本の都市にあった京都とよばれる場所は、その昔、平安時代に風水ーー今でいう占いだね。とか、政権運営のために、町の造りを碁盤のようにしたんだ。で、この桜神社の町も、それにならっているってわけ」

 

「みこ先輩って、占い好きでしたっけ?」

「いや。みこちがってよりは、町の人達だね。実際、ここだけの話……この町は、いつでも戦闘ができるように造られているんだよ。みこちの神社が中心で、なおかつ高い場所にあるのも、城の代わりさ」

 

 

 と、フブキさんの説明に、スバルが唸り声をあげるように言うと、片手で耳元へと語りかけるように、俺にだけそう教えてくれたフブキさんは、苦笑いをうかべる。

 

 戦闘……か。

 穏やかじゃないがーーここにいる人達は、それほどの覚悟があるってことか。

 

 

「おっ! そこの兄ちゃん!!」

 

 

 などと、フブキさん達と会話をしながら歩いていると、突然店の店主に声をかけられる。

 

 みこちさんのところに行くまでの道すがらは、遠くからみても出店が多いーーとは、思っていたが、ついに話しかけれてしまったか。

 

 

「可愛らしい女の子に囲まれてモテモテだねぇ~。どうせなら、カッコいいところを見せてみないかい!」

「……へっ?」

 

「これは、桜神社名物、エリート饅頭だ! 中身は、餡とカスタードの二つで、皮は桜味でできている人気商品! どっちでも好きなのを買っていってくれ! ついでに、そこのお嬢さん達にも買ってやれよ? 女を怒らせない秘結は、定期的な愛情をみせることだからよ!」

 

「いや。別に彼女達は友人で」

「まぁまぁ。そう謙遜するなよ兄ちゃん! ほれ、全部で千八百円だ! 餡の方は、おまけにしておいてやるからよ。持ってけ泥棒!!」

 

「いや! だから!」

「しかし、いいねぇー。こんな可愛らしい子達と歩けてよ。こう見えて、俺も昔はモテてたんだぜ?」

 

 

 なんだこの人!

 全然、人の話をきいてねぇ!!

 

 意味もわからず、千八百円の饅頭を突然買わされそうになっていた俺は、強引に持たせられた饅頭を、なにやらうんうん頷いている店主に、突き返してやろうとする。

 

 ーーが。

 その手を、フブキさんによって、止められてしまう。

 

 

「飯田の店主。あいかわらず、良い商売してるねぇ」

「おや、フブキちゃん! 久しぶりじゃねぇかい。てことは、そこの兄ちゃんは、フブキちゃんの()()かい?」

 

 

 飯田さんーーというらしい店主に、挨拶したフブキさんは、どうやら知り合いだったらしく、なにやら酷い勘違いをして、小指を立てつつ俺へと視線をむけてくる飯田さん。

 

 

「まさか。彼は、私の友人だよ。それに、彼には思い人がいるからねぇ。私なんて、眼中にないさ」

 

「フブキちゃんほどの美人がかい? ずいぶんとやり手だな兄ちゃん」

 

 

 このおやじ……。

 饅頭の変わりに、鉛玉ぶちこんでやろうか。

 

 

「思い人ってーーもしかしてあてぃし!?」

「なわけねぇだろ!」

 

「あははっ。あまり冗談がすぎると、彼も怒りかねないからね。そろそろ、お暇させてもらうよ。ちなみに、彼らは私の後輩だから、この饅頭は、ありがたく私が買わせてもらうよ」

 

 

 なにやら、背後であくあとスバルが漫才を披露しているがーーそれを華麗に無視したフブキさんは、お代の金額を支払うと、すまなそうに俺へと、謝罪をしながら渡してくる。

 

 

「ごめんね執行人くん。飯田の店主は、陽気でいい人なんだけどーー時々強引でさ」

「いえ。俺は、何を言われても問題ないですけど……正直、皆さんに対する風評被害だけは、避けたいです」

 

「風評被害って……今の私達には、ファンなんていないようなものだよ? いわば、失業中さ」

「いや。自分のように表に出てこれないだけで、俺達(ファン)は絶対にいますよ。そいつらのためにも、変な噂は撲滅すべきです」

 

 

 そうさ。

 俺は、例え世界の中心でファンであることを言えと言われれば、余裕で叫ぶことができる。

 

 だがーー今の世の中では、それができない人が多くいる。

 

 だからこそ、そういう人達にとって、今のバーチャルアイドルは、本当の意味で生きる希望となっているはずなんだ。

 ……不名誉な噂なんてのは、すぐさま消すべき。

 そう。絶対に消すべきだ!

 

 

「あー! フブキお姉ちゃんだ!!」

 

 

 と、俺の言葉に対して、何かを言おうとしたフブキさんだが、それより先に、子どもの声が届くと、そちらへとすぐに向きをかえる。

 

 そして、すぐさま突進してきた子ども数人を抱き止めると、まるで花が咲くかのように、優しく微笑む。

 

 

「おっとと! やぁ、みんな。久しぶりだねぇ」

「フブキお姉ちゃん! ゲームしようよ! ゲーム!」

 

「あのね! この間フブキお姉さんに教えてもらった通りにしたら、ボスを倒せたんだよ!」

「僕はね。フブキお姉ちゃんーー」

 

 

 やまないフブキお姉ちゃんコールに、笑顔を崩さず、一人ずつ丁寧に話をきくフブキさん。

 

 ……あの様子からして、フブキさんにとってのこの状況は、いつものことなのだろう。

 

 まったくーーこの町がどれほど素晴らしい場所なのか、あれを見ると、よく実感できる。

 

 フブキさんのように、一目でバーチャルアイドルとわかる人に対して、子どもが、にこやかに話しかけるというのは、正直珍しいことだ。

 

 今の義務教育では、バーチャルアイドルが、まるで悪者のように教えられる。

 

 その為、最近の子ども達は、バーチャルアイドルに対して、恐怖を抱くことも少なくないのだ。

 

 ーーきっと、ここの大人達が差別したりしないから、子ども達もバーチャルアイドルに普通に接しているのだろう。

 

 

「お姉ちゃん外の町からきた人でしょう? 私がここを案内してあげる!」

「バカ。お兄ちゃんだろ?」

 

「いや、スバルはお姉ちゃんであってるよ。うん」

「ふうはぁー!」

 

 

 などと、感動に近いものがこみ上げてきていると、背後で、スバルが子どもに弄られており、思わず吹きだしてしまった。

 

 わっ、笑いすぎだぞあくあ。

 

 

「何笑っとんじゃー!」

 

 

ガスンっ!

 

 俺は、吹きだしただけだったのに……。

 目敏く、俺が笑っていることに気がついたらしいスバルの踵落としが、俺の頭部へと見事命中する。

 しかも、すぐさまヘッドロックをしてくるという、おまけつきだ。

 

 

「いででで!! まてスバル! 笑ってたのは、あくあだろうが!」

「あくあの前に、お前じゃー!」

「おぉー! 私もやるー!」

 

「ダメダメ~。あれは、お兄ちゃんだけの特別な遊びだからね。君たちは、ゲームして遊んでいなさい」

 

 

 フブキさん!? 

 特別な遊びって、なんですか!?

 

 ギャーギャーと騒ぐ俺達に、ついには、通行人の人達もクスクス笑いだしてしまう。

 

 恥ずかしいってか、マジで痛いんだが!?

 たまらず、パンパンとスバルに降参のタップを俺がしていると、突然周囲に独特な音楽が鳴り響く。

 

 ……これは、世界政府の放送か?

 この音には、さすがのスバルも、すぐにヘッドロックを解いてくれた。

 

 世界政府は、重大な発表がある時に、必ず、この音を鳴らすようにしているがーー。

 あいつら……今度は、一体何をするつもりだ。

 

 

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