空を見上げて   作:世界 新

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世界平和年

 

世界平和(WordPeace)年――略してWP。

地球上に存在している人類は、少子化という人類種の滅亡に近づきつつあった。

その為、世界中に存在していた国々は、共存平和を掲げると同時に、世界政府という名前を持って地球圏を4つの国へと統合。

 

 

 

旧日本を中心として、東西南北にわかれた国々は、それぞれ北の国・東の国・西の国・南の国と呼ばれるようになり、争いのない平和な時代へと突入。

そのためか、多くの娯楽設備が普及しはじめ、中でもバーチャルアイドルの実体化にともなう技術が、革新的進歩をおさめた。

 

 

画面上でのみしか出会えなかった彼・彼女らと、本当の意味で触れ合える日が、ついにきたのだ。

そんなバーチャルアイドルの中での代表各が、ホロライブという団体だ。

 

 

ホロライブというのは、人気バーチャルアイドル達が所属する一つのアイドルグループのことであり、かつてこの世に存在していたアイドル達のこと……。

そう。()()()()()()()()

 

 

――WP9年。

止まらない少子化の進行をくい止める為にと、世界政府が発令したのが、革新的な進歩をとげたバーチャルアイドルの完全停止であった。

世の中の少子化は、存在しない偶像(アイドル)への信仰的な誓いからきている。などという、馬鹿げた発想によるものだ。

 

 

当然、俺達(ファン)は、その法律に対して抗議を各地で始めた。

あるものは、政府管轄の敷地(しきち)でデモ行進を行い。

あるものは、ハッキングによって政府の汚点を公表したりと、できることは、あらゆる手を使用した。

 

 

だが。そんなことなど素知らぬ顔で、政府の取り締まりは厳しく続いていき、俺達と政府の溝は深まるばかり……。

その溝は、やがてWP始まって以来の混乱と言われるほどに、険悪(けんあく)な空気となり、世界中に充満してしまった。

 

 

しかし、そんなある日。

俺達と政府の中が、これ以上悪化しないようにと、あるアイドルが声をあげた。

名を――ときのそら。

世界中の人々を笑顔にしたいという彼女らしい考え方によって、俺らは抗議活動を彼女の指示のもと、穏便な物へと変えていく……。

 

 

そして、そんな俺達の祈りは、ついに世界政府へと届くこととなる。

 

 

 

WP10年ーー。

俺らの抗議活動が世論に響き始めると、その力が無視できないと判断した世界政府は、ときのそらとの会談を承諾。

ーーこれで、バーチャルアイドル達との平和的共存ができる。

あの瞬間、俺達は大声をあげて喜んだ。

やっと日常に戻れる。

あの最前列で、ステージを見上げていたあの頃へ……と。

 

 

だが。その日は、永遠に訪れなかった。

会談の席へとついたときのそらを、その日、凶弾が襲ったのだ。

全ては、世界政府の陰謀(いんぼう)だった。

俺達は、まんまと騙されたのだ。

 

 

不幸中の幸いで、ときのそらに外傷は存在しなかったものの、その精神――心が何処かへと抜きとれたらしく、今もまだ眠り続けている。

 

そんな彼女の事件が、俺達や他のメンバーの心に酷く深い傷を残し、その日を境に抗議団体は総崩れ。

さらに、精神的支柱を失った所へ、トドメとばかりに、政府からの圧力がかけられ、完全な消滅をむかえた。

 

 

これが、現在でも語られる『希望の橋事件』といわれる、世界的事件の真相である。

 

 

 

 

 

 

――WP12年。

希望の橋事件から、二年後。

今の俺は、執行人と名前を変え、東の国の都市――渋谷で、現政府の重鎮達を暗殺している。

俺らの希望を壊してくれた奴らに、同じ代償を支払わせるためにしていることだ。

 

 

だが……これがゴキブリの如く、次から次へとわいて出てきやがる。

 

今日のターゲットだって、緻密(ちみつ)な計画を練って、やっとの思いで撃ち抜いたのだが……どうせすぐに、腐りきった空席へと、誰かが座る。

 

 

完全なるいたちごっこ……。

だが。諦める訳にはいかない。

俺が諦めてしまえば、それは、俺達の思いが消えることと同じだからだ。

それだけは、絶対にしてはならない。

 

 

そんな決意と共に、目的地の高架下へとついた俺は、バイクのエンジンを止め、柱に貼りつけられている黒髪の鋭い目つきの少年――もちろん、俺の似顔絵だ――を通りすがりに引き剥がし、丸めて捨ててやる。

 

 

こんなヘタクソな絵ごときで、俺を止められると思っているのなら、おめでたい奴らだ。

いずれ、そのお花畑の頭に鉛玉をくれてやる。

 

 

 

「コラコラ。地面に罪はないぞ~。ゴミ箱にきちんと捨てろ」

「おい。こんな目立つところにいるな。せめて、出入口にいろよ」

「何だと? せっかく迎えに来てやったってのによー」

 

 

 

舌打ちをした俺に対して、ポイ捨てを注意してきたのは、木箱の上で座っている活発そうな女子――大空スバルだ。

 

 

男勝りな性格で、誰とでも分け隔て無く接する彼女は、明るく元気な乙女……なのだが、今は、それが裏目に出て目立ちまくっている。

 

 

その為、俺が不用心だぞと睨んでやると、呆れたようにため息をついたスバルは、地面へと降りてくる。

 

 

 

 

「さっきも言ったと思うが、お前は有名人なんだ。自覚をしろ。自覚を」

「自覚しているっての。それに、そこら辺の奴らに、スバルが敗けるわけないだろ? あははっ!」

 

 

 

などと、ツバ帽子を片手で抑えつつ、心配することがおかしいとでも言うように、腹を抱えて笑いだすスバル。

こいつは……本当にまったく。

 

 

 

「わかった。もういい」

「えっ、あれ? 拗ねた? もしかして拗ねたの?」

「拗ねてねぇ。それより、とっとと入るぞ。誰かに見られていたら、面倒だ」

 

 

 

 

周囲をそれとなく見回してから、俺が顎で入口を指してやると、実につまらなそうに歩き出すスバル。

というか、外に出てくるのから、もう少し周囲に溶け込む服を着てきてくれないだろうか?

 

 

運動部のマネージャーのような、派手な緑と白のストライプの服に加えて、その美少女顔だ。

ハッキリ言って、この地味な高架下では、驚くほど目立つ。

 

 

などと、こいつに言っても「なら、スカートを履けって? それこそ、もしもの時に邪魔だろう?」などと言ってくることは、容易く想像ができる。

ので、あえてここは、触れないでおくか。

 

 

仕事終わりということもあり、一応スバルが背後から襲われないようにと、後からついて歩いていると、なぜか突然立ち止ってしまうスバル。

 

 

 

 

「おい、どうした? 危うくぶつかるところだっただろうが」

「いや、あのさ。やっぱりやめない? この仕事」

 

 

 

 

と、なにやら言いにくそうに、モゴモゴ唇を動かしつつ振り返ってきたスバルは、俺の顔を直視できないのか、チラチラ見上げつつそんな事を言い始める。

おいおい……。

 

 

 

 

「またそれか。いつも言っているが、別にやめてくれてかまわないぞ? 俺なら、一人でも続けられる」

「いや。スバルがやめたいとかじゃなくてさ。お前がこれ以上そのー、何て言うかなー。つまり――」

 

「暗殺をやめろってことだろ? 悪いが断る。すでに決めたことだ」

「そこをさ。やめるってことできないわけ?」

 

 

 

 

……何だ? 

今日は、やけに食い下がるな。

やめるやめないのこのやり取りは、実はスバルとは、飽きるほど何度もしている。

 

 

どうもスバル的には、俺に、今の仕事をやめて欲しいと思っているらしい。

だが。これは、すでに俺が決めた道だ。

やめる気などさらさらないし、その時は、現政府が崩壊した時と決めている。

なので、それを伝えると「そうかー。そうだよなー」と言って、いつもは、すぐに諦めてくれるのだが――。

 

 

 

 

「今日は、ずいぶんと粘るな。さては、誰かから止めるように言われたか?」

「へっ!? いっ、いや。言われてないけど?」

「……目が泳いでいるぞ。俺の事を気にかけ、なおかつスバルが逆らえない人間からの圧力となると……。まつりさんあたりか?」

 

 

 

ギクリ!

という効果音が聞こえそうなほど、肩を縮めるスバル。

やれやれ、本当にわかりやすい奴だな。

あいかわらず、良く言えば素直。悪く言えば騙されやすいタイプだよ。

 

 

 

 

「まつりさんには、俺から言っておく。それより、さっさと進んでくれ」

「すっ、スバルは言ったからな。きちんと言ったぞ。そう言っておいてくれよ!」

「わかったから、進んでくれ。あまり立ち止まりたくない。狙撃の危険性もあるからな」

 

 

 

 

絶対だぞ! 絶対だからな!!

などと、しつこく言うスバルの肩を掴みつつ、前へと強制的に進ませ、やっと目的地である木箱の前へとたどり着くことができた。

 

 

人が退かすのには、苦労する程の大きな木箱だが、これはフェイク――いわゆる見せかけであり、中身は何も入っていない。

なので、比較的軽いそれを横に退かすと、木箱の置いてあった地面に、持ち手のある扉が姿を現す。

 

 

ここが……()()()のいる入り口だ。

周囲の土を払った俺は、持ち手を掴み扉を開け、下へと降りていく階段へと、とりあえずスバルの手を掴んで、先に入るように軽めに押してやる。

 

 

 

「おいおい。女性への扱い方がなってないぞ?」

「悪かったな。仕事終わりじゃなければ、丁寧に誘導したんだが……今は危険度が高い。怪我をされるよりかは、乱暴さを優先させてもらう」

 

 

 

 

少し強引だったことに対して、スバルがそう抗議をぶつけてくるが、謝罪しつつ理由を伝えると、可愛らしく舌打ちをして下へと降りて行ってくれた。

 

 

続いて俺も降りると、そこには広々とした空間――元は、倉庫として使われていたらしい――が広がっており、あらゆる機材が稼働している。

そして、その中の一つ……。

 

中央のカプセルの前にいる白衣を着た女性が、俺達の気配に気がついたのか、椅子ごと回転すると、ニッコリと微笑んでくる。

 

 

 

 

「スバル。執行人くん、お帰りなさい」

「ちよこ~! 聞いてくれよ~。こいつさ、スバルが迎えに行ったのに怒るんだぜ?」

 

 

 

 

人間とは違い、悪魔のような角に加えて、悪魔のような小さい羽。そして、大胆に開かれた胸元のこの人は、ちょこ先こと、癒月(ゆづき)ちょこ先生。

 

 

先生というのは、言葉通りの意味であり、彼女は医学的な知識をきちんと持っており、魔界学校では、保健の先生として勤めていたーーらしい。

 

……魔界学校というのが、どんな所なのかは、もちろん知らない。

が、何度も彼女に治療をしてもらったことがあるので、間違いないのだろう。

そんな彼女は、スバルの言葉を聞くや、あらあら。と優しい声をあげつつ、俺へと注意するような視線を向けてくる。

 

 

 

 

「ダメよ、執行人くん。スバルは、あなたのことが心配で、ここでずーと、ウロウロしていたのに。優しくしてあげないと」

「違うんですちょこ先生。こいつの警戒心の無さが悪いんです」

「おい! 話をすり替えるな!」

「すり替えていないだろ。怒った理由を、きちんと教えただけだ」

 

 

 

 

状況が不利になると思ったのか、何故かスバルが俺に詰め寄ってくる。

なので、それを華麗に避けた俺は、すぐさまちょこ先生の隣へと移動。

 

すると、ちょこ先生の視線が俺からスバルへと変わり、その視線に観念したのか、ため息をもらすスバル。

 

 

 

 

「スバル。あなたが悪いみたいね」

「はいはい。今度から警戒しまーす」

「反省の色が見えないぞ」

「お前な。ちょこ先が味方についたからって、大きな顔をするなよ」

 

 

 

 

はて? 何の話だが。

ジト目をむけてくるスバルに、そっぽを向いて答えてやると、クスクスと笑いだすちょこ先生。

 

 

 

 

「ごめんなさい。こんな世の中だけど、二人のやりとりを見ていると、面白くて」

「おもしろいか? スバルは、ワガママなこいつに振り回されているんだが?」

「スバルと言えば、いつも振り回されていたろ。ホロライブのツッコミ担当」

 

 

「誰がだ! ツッコミたくてしていた訳じゃねぇから! ツッコまざる終えない状況になっていたのが悪いんだよ!!」

「はいはい。二人ともそこまで。それより、今日もそら先輩の様子を見に来てくれたんでしょう? 執行人くん」

 

 

 

 

ツッコミ担当というのが気に入らなかったのか、俺にヘッドロックをしようとしてきスバル対して、慌てて俺が避けていると、ちょこ先生が、微笑みつつ仲裁に入ってくれる。

 

 

そうだ。

スバルと遊ぶために、ここに来た訳じゃない。

いまだに攻撃をしようとしてくるスバルの手を掴んだ俺は、そのままちょこ先生の方へと押し出してやる。

すると、そうしてくるのがわかっていたのかーーちょこ先生がすぐさまスバルを受け止めてくれた。

 

 

よし。

これで、スバルが再度突っ掛かってくることは、ないだろう。

中央に置かれているカプセルへと近づいた俺は、いつものようにその中を覗き込む。

 

 

そこには、黒髪ロングの美少女――ときのそらが、ゆっくりと呼吸を繰り返しながら寝ていた。

……二年前の事件から、何一つ変わらない。

眩しいほど似合っているアイドル衣装に、整った顔つき。

 

 

この状態だけ見れば、すぐに起き上がってきそうなものだ。

だが……彼女は、この状態のまますでに二年間眠り続けている。

目覚めることのない眠りへと、おちているのだ。

 

 

そっと、カプセルに手を添えてみるが、いつもと変わらず、機械の冷たさしか伝わってこない。

けど、別にそれでもかまわない……。

こうして、触れられる距離にいてくれるのだから。

 

 

 

「そらさん。今日も元気そうでよかった。久しぶりに、歌声を聴きたくなったけど……」

 

 

 

それは、また今度にします。

完全な独り言だが、それでも口にせずにはいられなかった。

 

 

彼女は、俺にとっての全てだったから。

だからこそ、彼女の顔を見るたびに、安心するし覚悟も揺るがなくなる。

 

 

俺がカプセルから手を離すと、わざわざ待っていてくれたのかーースバルが近くへと寄ってくると、俺と同じようにカプセルを覗き込む。

 

 

 

「おーい、そら先輩。早く起きないと今日の夜ご飯も抜きですよ~」

「何だそれ。そんなので起きる訳ないだろ」

 

 

「いや、そうだけどさ。ほら。そら先輩は、賑やかなのが好きだったからさ。可能性があるかな~て」

「そうね。そら先輩は、みんなと楽しく過ごすのが好きな人だったから。よく、冗談とかで笑い合っていたものね」

 

 

 

 

俺が、スバルの呼びかけに対してあり得ないと言うと、まさかのちょこ先生がスバルの言葉に同意を示したため、うんうんと首を縦に振るスバル。

 

 

そうか。

俺は、アイドルとしての彼女しか見てきていなかったが、彼女達は、本当の意味でのそらさんを見てきているのか。

 

 

その彼女達が揃って言うのなら、もしかしたらそんな言葉で起きることもあるのかもしれない。

 

 

などと、ちょっとした新たな希望に笑みをうかべると、スバルとちょこ先生も笑顔を向けてくれる。

小さな事だが、こういう時間が長く続く世の中に、早くなってくれればいいのに……。

 

 

そう俺が思っていると、突然入口の開く音が室内に響きわたる。

その音に対して、俺を含めた三人が、揃って顔を真剣なものへと変えるのだった。

 

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