「ちょこ先。カメラ見てたか?」
「ごめんなさい。二人との会話に夢中で、見てないわ」
「となると、誰かわからないということだな」
「よし。それなら執行人、二人でいくぞ。ちょこ先は、そら先輩を頼むわ」
そう言うと、ぷらぷらと手首を振ったスバルは、戦闘態勢の構えをとる。
「まて。俺が一人でやる」
「無理~。仕事なら任せるけど、今は完全なプライベートだからな。それに、ここまで入り込まれているなら、どのみち帰すわけにはいかない」
まったくこいつわ……。
だが、その通りではある。
言い返せないところを、的確に突きやがって。
と、心の中で舌打ちをしつつ、スバルの言葉に軽くため息をついた俺は、腰から拳銃を取り出す。
がーー。
「拳銃は、そら先輩に被弾する可能性があるから、素手にしろ」
と、スバルから釘を刺されてしまったので、それもそうかとホルスターに戻す。
この広くもない室内で銃など撃てば、周囲に跳弾する恐れがあるからな――これまた適切な判断だ。
ちょこ先生が後ろへと下がったのを確認した俺は、言われた通り
「……相手が、近接戦闘寄りなら二人でいくぞ。もし、中距離以上なら……その時は、
「了解……来るぞ」
足音が近づいてくるにつれ、俺とスバルの身体に力が入る。
カツン……コツン。
「おや? 何かなこの張りつめた空気……もしかして、白上は、歓迎されてない感じ?」
無機質な足音に俺らが緊張を張りつめるなか、現れたのはーーこれまたちょこ先生同様、人間離れした人物だった。
真っ白な耳に、フリフリとうごく毛並みの良い尻尾。
和服のような見た目の服は、白と黒が混ざり合っており、それが彼女の白い肌をよりキレイに見せている。
そんな白銀の
名を――
スバルやちょこ先生と同じ、元ホロライブ所属のバーチャルアイドルの一人である。
「フブキさん。驚かさないでくださいよ」
「何だ、フブキ先輩か」
「あはは。驚いたのは、白上もだよ。
俺とスバルが各々そう言葉をもらすと、困ったかのように笑ったフブキさんは、頬を掻きつつこちらに向かって歩いてくる。
しかし、師弟……ね。
久しぶりに言われたな。
実は、俺の格闘技術は、スバルが教えてくれたものだったりする。
なので、構えが同じなのは無理もないことなのだがーー。
思わぬ場面で昔のことを持ち出された為、少し居心地が悪いような気がした俺は、意味もなく肩を一度回す。
すると、何やら横のスバルが、ニヤニヤしつつ肘で突っついてきやがる。
「師弟だって! おいおい、恥ずかしいな~」
「やめろ、余計に恥ずかしい。それよりフブキさん。珍しいですね。ここまで来るのは、大変じゃありませんでしたか?」
などと恥ずかしさもあり、俺が話題を変えると「まぁね」と答えたフブキさんは、そらさんの元へと向い、顔を覗き込むと安心したように何度か頷く。
「うんうん。今日も元気そうだ」
「フブキ先輩は、一週間に一度は、来てくれているわよ。なかなか時間が会わないだけで、別に珍しいことじゃないわよ?」
「何だよ、ちよこ。それなら来たのがフブキ先輩だって、気がついていたんじゃないのか?」
「いやいや。仮に気がついていたとしても、警戒するのは、正解だよ。ここがバレたら、私達の会う場所も無くなってしまうからね」
ホッ!
と声をだしたフブキさんは、近場の機械の上へと飛び乗ると、足をプラプラさせつつ、俺へと視線を向けてくる。
「いやー。しかし、執行人くん久しぶりだね。元気そうなのは喜ばしいことだけどーーもしかして仕事帰りかな?」
「えぇ。そうです」
フブキさんの言葉に俺が素直にそう答えると、ガックリと顔を落としてしまう。
……?
「そうか~。まぁ、君の仕事は白上やちょこ先生にとっては救いだけれどさ……方法があまりよろしくないよね」
「自覚はしています。それでも、フブキさん達が
と、入って来た時から、実は、気がついていたフブキさんの腰にぶらさがっている刀を指しつつ俺がそう言うと、困ったかのような声を出すフブキさん。
「そうだね~。残念だけど、私の場合だと一目でバーチャルアイドルだとバレてしまうからさ。どうしても、これを手離すことはできないよ」
とそう言いつつ、刀の
――バーチャルアイドル禁止法。
政府が
近年、実体を持つことに成功したバーチャルアイドル達は、俺らとさらに近い存在となったことで、よりアイドルとしての存在を高めていった。
しかし、その影響で少子化問題が顕著になってしまい、このままでは、人類の維持をおこなうことが難しい。
ということで、バーチャルアイドルという概念を無くしてしまおうというのが、今の世界政府の考えである。
まぁ……実際は、バーチャルアイドルが現れるより前から少子化問題があったのだが、運悪く人気が出てきたために、見せしめにやられたのだ。
その為、スバルのように俺らと変わらない姿ならば、よほどのボロを出さなければ生きていくことが可能なのだがーーちょこ先生やフブキさんのように、一目で人類とは違う。と、わかってしまうと、軍がすぐに動いてくる。
その対抗策として、フブキさんは刀を持ち歩いているのだ。
「フブキさんは、今どちらに?」
「基本的には、みこちの所にいるかな? あとは、野宿したりしているよ」
「野宿っすか? 危ない気がするけど……」
「あははぁ。そうでもないよ。ほら白上は、見たまんま狐だから。むしろ街にいるより、森や山の方が動きがいいくらいさ」
野宿という言葉に、スバルが心配そうな顔をするが、ケラケラと笑ったフブキさんは、機械の上から降りると、俺の目の前へと近づいてくる。
「執行人くん。仕事も大事かもしれないけれど、君の生活も大事なことだよ? あまり、頑張りすぎないでくれたまへ」
「えぇ。ありがとうございます」
「それじゃ、私はそろそろ帰るよ。まつりちゃんにもよろしく伝えておいてくれたまへ」
「そうですか。わかりました、伝えておきます。俺もそろそろ帰りますから、途中まで送りますよ」
そらさんの顔も見られたことだし、何よりフブキさんが心配だったのでそう伝えると、何やらスバルが俺の肩を掴んで、首を横に振ってくる。
「スバルが送って行くよ。お前は、早めに休んでおけ。明日学校だろ?」
「別に送るくらいの時間なんて、たいしたことないぞ?」
「フブキさんに言われたばかりだろ? 生活も大切にしろ。って」
「そうだね。一人でも全然平気だけどーースバちゃんお願いできるかい?」
何やら、二人して俺が心配だとばかりに話を進めてしまうが、そこまで心配される程追い詰められていないぞ?
と思いはしたもののーーそれを口に出すと、またスバルが突っかかって来そうなので、フブキさんのことはスバルに任せ、俺らは地下室をあとにするのだった。
もう少しで日付が変わろうかという時間に、やっと学生寮に戻った俺は、何故か自身の部屋の灯りがついていることに違和感を覚えた。
おかしい――。
仕事へは、学校のあとすぐに向かったから電気などつけていないはずだ。
こんな仕事をしている関係上、色々なところから恨みを持たれていることは承知しているが……まさか部屋にまで侵入されるとわ。
そう思いつつ左手から吸盤を取り出した俺は、それをベランダへと投げ入れ、盗人よろしく壁を登りつつ、音を最小限にしつつ着地。
その後、懐から拳銃を取り出し、確率は低いだろうと思いつつも、一応窓が開くか試してみるーーと、まさかのすんなりと開いてしまった。
……罠を仕掛けるにしては、不用心すぎる。俺なら、感知爆薬などを窓に取り付けて、
不可解な状況に警戒度をあげつつ、カーテンを拳銃の先で少し開け、中を除いてみるーーが、そこは変わらずの俺の部屋のまま。
特に荒らされてもいなければ、誰かが居るわけでもない。
いや。むしろ前より綺麗になってないか? しかも、何かいい匂いがしてくるぞ。
……これは、肉を焼いた匂いか?
耳に装着している最先端科学機――
赤外線類はなし。
音は――これは、シャワーの音か? それと共に鼻歌が聴こえてくる。
拳銃を構えつつ、部屋へと忍び足で入り込んだ俺は、音源の元である浴室へとまっすぐ向かう。
と、それと同時に浴室の扉の開く音をキャッチし、いまだ鼻歌を歌っているらしい侵入者に不意打ちをくらわせる為、出てくるであろう洗面所の扉の死角へと素早く滑り込み、最適な位置取りをしておく。
さて。どうでてくる?
気配を殺しつつ俺が身構えていると、脱衣所の扉が普通に開け放たれ、そこから一人の少女が歩み出てくる。
その人物は、紫の髪の毛をタオルで拭きつつ、タンクトップにジャージというラフな格好で、警戒心などまるでないかのように、居間の方へと歩いていく。
……人の家で何をしているんだ? こいつわ。
「人の家に入るなら、連絡くらいしろ。あくあ」
「ひゃい!? へっ? しっ、執行人くん!?」
刺客かと思いきや、知り合いかよ。
声をかけてやると、ビクリとしつつ、振り返ってくる。あくあ――本名
彼女は、スバルやちょこ先生と同じく、バーチャルアイドルとして活躍していた人物だ。
ため息をつきつつ、拳銃を懐にしまった俺は、何やらアワアワし始めたあくあを見てーーおそらくラフな格好が、恥ずかしいのだろう。と、察し、着ていたロングコートを投げ渡してやると「あっ、ありがとう」と、消え入りそうな声をだして受け取るあくあ。
「執行人くん。帰ってきたなら、インターホン押してよ」
「あのな。ここは、俺の家だぞ。何で、自宅に帰るのにインターホン押す必要があるんだよ。てか、人の家で勝手に風呂に入るな」
「そっ、それは、仕方なくだよ。掃除していたらさ。ちょっと汚れちゃって……」
ちょっとだと?
あくあの言葉に引っ掛かりをおぼえた俺が、疑いの眼を向けてやると、受け取ったロングコートで口元を抑えつつ何やらゴニョゴニョ言い始める。
このあくあという女子。ドジをすることが多く、こいつがちょっとという時は、決まって
「おい。聞こえないぞ」
「えっと……かなり汚したかも。でも、ちょっとだと思うけど。でも、他の人がみたらすごくかな?」
「はぁ……もういい。それより、どうやってここに入った?」
「玄関から
「合鍵って――いつ盗んだ?」
「盗んでないよ。もらったの。執行人くんから」
はぁ?
また訳のわからないことを。
何がどうしたら、あくあに合鍵を渡すことになるんだよ。
などという言葉が顔から出ていたのか、トテトテと俺の近くに寄ってきたあくあは、俺の手を突然握ってくると――。
「
と、まるで頬をそっと撫でるようにつむがれる言葉。
すると、あくあが言い終えると同時に、握られている手から桃色の淡い光が溢れだす。
この現象により、自身が何をされたのか瞬時に理解した俺は、慌ててあくあから手を振りほどきつつ、怒っていることを伝える為、睨みつけてやる。
くそ、油断した。
あくあに触れられる時は、気をつけなければならないのを、すっかり忘れていた。
「何をした?」
「えへへ。内緒~」
「ふざけるな。
数多く存在するバーチャルアイドル達は、実体化の成功をした時、ある奇跡を獲得した。
それは、本人達曰く、
そして、目の前にいるこの湊あくあも、バーチャルアイドルの一人。当然アイドル力を持っており、
その効果は、触れた物の記憶操作。
ある一部分を消したり、存在しない記憶を入れたりと、記憶に関することなら何でも瞬時におこなうことが可能なのである。
つまり、今俺は、何かしらの記憶をいじられたということ。
たいした記憶でなければいいのだが、これが最悪の場合――例えば、あくあは元々俺の家族である。などという記憶を入れられたら、
自身の記憶を警戒しつつ――まぁ、既にいじられているので、何が正しくて、何が間違っているのかよくわからないのだが――あくあから数歩距離をとる。
「距離をとらなくてもいいのに。久しぶりに部屋に来たんだよ」
「突然アイドル
「うん。きちんと持っているよ。ほら」
「それならいい。お前、少しおっとりとしているところがあるからな。一本しかない合鍵なんだから、落とすなよ」
と、俺が念押ししつつ注意をしてやると、何故か満足そうにコクコク頷くあくあ。
……何が嬉しいんだ? さっぱりわからん。
「そういえばね。執行人くんのために、夜ご飯作っておいたの。ハンバーグだよ、ハンバーグ!」
「夜中にハンバーグかよ。て、それよりどの記憶をいじったんだ?」
夜中にハンバーグを食べるという、胃もたれしそう展開にため息をついた俺は、そういえば答えを貰っていないと記憶の件をきくが「ついさっきの記憶~」とだけしか答えず、キッチンへと向かうあくあ。
ついさっきって、どの場面だよ。
てか、今気がついたけど、そのジャージ俺のじゃね?
明日は、体育の授業とかないから、別にいいけどさ。
何故か、ウキウキ気分で机に食事を並べていくあくあに、納得していないものの、俺も手伝って皿などを置いていく。
「おいあくあ。きちんとした服着てこいよ。俺のロングコートだと、ブカブカで邪魔だろ?」
「ううん。大丈夫。それに、今洗濯して干しているから、着る服がないの」
「俺のジャージ履いておきながらよく言うぜ。すでに他人のを無断使用しているんだから、上着もついでにしちまえよ」
「えっ、いいの!? それじゃ、そら先輩のプリントしてある服着てくるね~」
「なっ!? ちょっと待て! 着ていい服とダメな服がある!! それはダメだ!」
エヘヘ。
と笑いつつ、俺の部屋へと向かうあくあを慌てて追いかけると、とき既に遅く、すでに手に持っていた俺の大切な服を、離さないように抱き締めつつ、布団にくるまっていやがった。
こいつ! さては、俺が服を着てこいっていうのを待っていやがったな!
おそらくだが、タンクトップ姿を見られたのは、本人にとって、本当に事故だったのだろう。
が、この服を見つける早さからして、本来ならこれを着て待っていたりとかする予定だったな?
「おい。返せ!」
「いやいやいやー。返しませ~ん」
「ガキかお前は!! ふざけたこと言ってないで、さっさと返せ!!」
俺が服を引き剥がそうとすると、楽しそうにキャーと叫ぶあくあ。
何を、楽しそうにしているんだこいつ!!
お前の持っているそのそらさんの上着は、限定品の一枚しか買えなかった貴重な物なんだよ!
イヤイヤと首を振り続けてねばるあくあに、最終手段にでた俺は、あくあの着てきた服を全て捨てるという宣言をすることで、なんとかこの争いに勝利をおさめた。
たく。
あくあは、基本的には、優しくおっとりとしているだけの女の子なのだがーー何故かこうして、時々イタズラをしてからかってきたりしやがる。
まぁ。俺も俺で、楽しいから嫌という訳ではないのだが……しかし、よく俺の大切な物がわかるものだ。
「あっ。執行人くん、あの写真飾ってくれているんだ」
「うん? あぁ、あれか。まぁな」
タンスの中からあくあに似合いそうな服を探していると、俺のベット横に置いてあった写真に気がついたのか、あくあが嬉しそうにそれに跳びつく。
その写真は、まだホロライブというアイドルグループが存在していた時に、会談前に気合いを入れようというそらさん発案の元、みんなで集合して撮った物だ。
当時の俺は、
今とは違い、メガネをかけたガチガチの緊張状態での、ぎこちない作り笑いでーーだが。
「あはは。執行人くんのこの姿、懐かしいねー。すっごい緊張してて、撮り終わった後とか、みこ先輩とすいちゃんが大爆笑してたよね」
「緊張するに決まっているだろ。何故か俺が中央で、左右にそらさんとロボ子さんだぞ? しかも、ファンは俺だけだし……緊張で意識なくなるかと思った」
当時を思い出してか、クスクス笑うあくあに、俺は、呆れたため息をつき服を投げ渡してやる。
「でも、今はそんな緊張したりしないでしょう?」
「おかげさまで、自宅にアイドルが居座ってても平気なくらいにはなったよ。それ着てこいよ。くれぐれも、他の服を着るなよ。いいな?」
一応俺が圧力をかけてクギを刺すが、軽い返事のみ返してきたあくあは、まだ写真を見てクスクス笑っている。
くそ……圧が圧になってねぇ。
自分の威圧の無さに舌打ちをしつつ、あくあが着替えている中、作ってくれた料理を温めにキッチンへと向かった俺は、何故か床全体が少し白くなっていることに気がつく。
はて。これは何だ?
と思ったが、すぐに料理の中にパンがあることから、察しがついた。
どうやらあのおっとりは、小麦粉をぶちまけたらしい。
しかも、地面に落ちただけなら風呂になどわざわざ入る必要がないので、おそらく頭から被ったのだろ。
……これからは、下の棚に入れておくか。
やれやれ。あくあは、元々メイドをしていたらしいから、人に尽くしたり家事をしたりするのは得意なのだろう。
でも、こういうポカを高い確率でしてしまうのが、たまにキズである。
だが。それも含めて、あくあの良いところではあると思うと、自然と口角があがってしまう。
嫌な仕事帰りであったが、あくあのおかげで、かなり心が軽くなったな……。
と、口に出すのは恥ずかしいので、心の中で感謝をしつつ、電子レンジで食べ物を温めている間に、雑巾で汚れを全て取り除いておく。
すると、ちょうどタイミングがよかったのか、あくあも部屋から出てきたので、日付が変わってしまったが――かなり遅めの夕食を二人で食べることにした。
「スバルとちょこ先生は、どうだった? わてぃし、あまり会えてないからわからなくて」
「二人とも変わらず元気だったぞ。あくあは、元々争い事には向いてないからな。無理もないさ」
「えぇー。こうみえても、本当は強いんだよー」
ははっ。あくあが強かったら、俺なんて今の仕事をしている必要がないぞ。
と、思いつつも、否定すると面倒なので、肯定の意味を込めて頷いておく。
「……信じてない。その顔は、信じてないよね?」
「まさか。信じているさ。もとより、ホロライブの人達は、誰もが強いだろ?」
美味しそうなデミグラスソースのハンバーグを口に入れつつ、俺がそう返してやると、何故か俯いてしまうあくあ。
「どうした?」
「ううん。わてぃし達は、強くなんてないよ。だって、みんなファンがいないと、何もできないもん。きっと、スバルやちょこ先生も同じことを言うと思う」
「そんなことはないだろ。むしろ、こっちは元気を貰っている立場だぞ?」
俺達こそ、あくあ達がいなければ、とっくにつまらない人生を送っていたはずだ。
だからこそ、彼女達は強い。
あははっ。と、俺の言葉に何やら悲しそうに笑ったあくあは、俺の食べたハンバーグを見るや、何やら急に身を乗り出してきて、鼻息を荒くしてくる。
「どっ、どうだった!? 美味しかった!?」
「おっ、おう。とても美味しいぞ。ありがとうなあくあ」
――しまった。
話に引かれて、感想を言い忘れていた。こういうのは、早めに言わないといけないのに。
と、反省している俺とは違い、俺の言葉をきいて満面の笑みになったあくあは、気を良くしたのか、あれもこれもと、自身の食器から食べ物をドンドン移してくる。
ちょっ!? いくら何でもそんなに食えんぞ!?
「まっ、待てあくあ! 美味しいのは本当だが、時間を考えてくれ! そんなに食えねぇよ!!」
「エヘヘ。美味しかったか~。そっか~」
「えっ? きいてるあくあさん!? ちょっと!?」
おいおい! 皿が大変なことになってきてるぞおい!!
しかし、せっかく作ってくれた物を残すなどあり得ないし、かといって、これを食わないとあくあが落ち込むだろう。
……腹をくくるしかないのか?
「どうぞ執行人くん。あてぃしは、お腹いっぱいだからたくさん食べてね」
「お……おう。ありがとうな」
明日の朝食は、いらないかもしれないな……。
とりあえず、胃もたれしないことを祈ろう。
などと、密かに覚悟を決めた俺は、もくもくとあくあのくれたご飯を食べ続けるのだった。