空を見上げて   作:世界 新

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後輩系女子と幼馴染系女子

 

「どうかしたの? いつもより、元気ないみたいだけど」

 

 

 

河川敷で、いつものように心地よい彼女の歌声を聴いていた僕に対して、途中で歌を中断したそらさんは、心配そうな顔でそう尋ねてくる。

 

 

 

「えっ? そそそそ、そんなこと、ないです!」

「嘘だ~。わかるんだぞっと」

 

 

 

どうしても、そらさんの顔が直視できなかった僕は、言葉につまりながらも、何とかそう返答したのだが、すぐに嘘と看破(かんぱ)されてしまった。

 

 

そして、なぜかイタズラを思いついた子供のような顔になると、ニヤニヤしつつ僕の隣へと腰をおろすそらさん。

 

 

そして、わざと顔をそむけている僕に対して、下から覗き込んだり、回り込んだりしてきて、無理やり視線を合わせようとしてくる。

 

 

 

うくぅ! 

そらさんとの会話で、苦手な時間がきた。

いつもこうして、半強制的に視線を合わせてくるんだよな……。

 

しかも、一度でも視線を合わせると、外した途端悲しそうな顔をするから、視線を合わせ続けないといけないし。

 

 

 

 

「そうだな~。あっ、わかった! 学校の試験の点数が悪かったんでしょう?」

「ちっ、違います!」

 

「違うの? うーん。それならーーゲームのデータを間違って消しちゃったとか!」

「そっ、それも違います」

「えー。それじゃ~ねー」

 

 

 

 

と、顎に人差し指を添えつつ頭を傾けるそらさん。

……あれ?

元気がないことを心配してくれていたのに、いつの間にか、理由を当てるゲームになっていないか?

 

 

 

 

「うーん。降参! わからないや。教えてーーくん」

「たっ、たいしたことでは、ないので……気にしないでください。そらさん」

「それは嫌」

 

 

 

 

えっ?

普段の彼女からは、想像ができないほどのキッパリとした拒否の言葉に、おもわず固まってしまった僕は、真剣な表情で見続けてくるそらさんに、おもわず生唾を飲み込んでしまう。

 

 

キラキラと、誰よりも可愛らしく。そして、笑顔を見せてくれていた普段の彼女とは違い、今のそらさんには、有無を言わさぬ気迫がある。

 

そのあまりの気迫に、変な汗が背中をつたう。

 

 

 

 

「君は、もうそら友さんなんだよ? そら友さんの悩みは私の悩みだし、そら友さんの元気がないのなら、それをあげるのが私の役目なの」

 

 

 

役目……。

真剣なその思いに負けた僕は、できれば話したくなかったことだけど……僕の悩みの種をそらさんに全て話すことにした。

 

 

うんうん。と、優しく頷きつつすべてを聞いてくれたそらさんは、僕が言い終えたのを確認すると、ニッコリといつもの優しい笑顔を浮かべるや、急にその場から立ち上がる。

 

 

 

「そっか。ありがとうーーくん。そこまで悩みながら、私達と関わってくれて。これで、私も決心がついたよ」

 

「えっ? けっ、決心……ですか?」

「うん」

 

 

 

ゆっくりと川の方へと歩んでいたそらさんは、クルリとその場で振り替えると、胸の前でーーまるで何かを優しく包み込むように両手を握りしめると、その顔を真剣なものへと変えーー。

 

 

 

 

「私、世界政府に掛け合うね。これ以上、みんなを不幸にしないためにも!」

 

 

 

 

そう、力強く伝えてくるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと覚醒した俺は、何故か節々が痛む身体を起こしつつ、頭を左右に振ることで、完全に頭を覚醒させる。

 

 

しかし……久しぶりの夢だったな。

最近は、まったく見ることもなかったというのに……。

でも。夢の中だとしても、彼女と会話ができたのは、やっぱり嬉しいことだ。

 

 

と、そんなことを考えている自分に対して自嘲気味に鼻を鳴らした俺は、昨晩あくあが寝落ちしてしまったことで、ソファーで寝ていたことを思い出し、少し重たい身体を無理やり動かす。

 

 

 

こんな場所で眠っていれば、身体も痛むわけだ。

顔を洗い、時刻を確認してみると、思っていたよりもゆっくりと寝ていたらしく、すぐ登校しなければならない時間になっていた。

なので、なるべく静かに自室へと入った俺は、制服やら鞄やらをこっそり取っていく。

 

 

その時、チラリとあくあが視界に入ったが、気持ち良さそうにベットで寝息をたてていたので、少し……ほんの少し羨ましくてイタズラで、強制的に起こしてやろうかとも考えたのだがーー。

 

 

夕食を作って、わざわざ待っていてくれたーーまぁ。連絡なしの居座りだったがーーので、ずれていた布団を戻してあげるだけで、自室をあとにする。

 

 

 

 

「さてと。置き手紙をしておけば、大丈夫か?」

 

 

 

 

制服に着替え終えた俺は、紙に「施錠をきちんとして、帰ってくれ」とだけ記しておきつつ、いつものように眼鏡をかけ、髪の毛をわざとグシャグシャにしていく。

 

 

さて、これで準備完了だ。

フブキさんに言われた通り、こっちの生活も大切にしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は、8時を少し過ぎた頃。

学生寮からの登校となると、皆ギリギリまで寝ていようという考えは同じなようで、この時刻になると道が高校生であふれかえってしまう。

 

 

当然、俺もその中の一人として、ショルダーバックの紐を握りしめつつ歩いているとーー。

 

 

 

 

「みーつーけた!」

 

 

 

などという明るい声と共に、背後から突然衝撃が襲ってくる。

 

 

無警戒だったこともあり、俺がたたらを踏んで振り返ると、そこには、満面の笑みを浮かべている同じクラスの女子生徒。

彼女が、俺のことを押した犯人だ。

 

 

ポニーテールに、活発そうな服装の彼女は、学校指定の制服がありつつも、普段着でもかまわないというルールがあるこの学校で、普段着で登校している数少ない女子生徒の一人だ。

 

 

 

「あいかわらずコソコソしているね~。もっと、胸はって歩けないの?」

「……別に、コソコソしていませんよ」

 

「いや、後ろから見たら陰鬱な気配バリバリだけど? てか。敬語禁止って、何度言ったら覚えてくれるわけ?」

「難しい注文だと、何度も言いましたよね。まつりさん」

 

 

「も~。それじゃ、二人きりの時だけ敬語で許してあ・げ・る」

 

 

 

 

などと、ウィンクしつつ俺の耳元でそう囁くまつりさんーー夏色まつりさんに対して、俺が少し恥ずかしくなったこともあり距離をとると、イタズラっぽく笑ってくる。

 

 

この人……楽しんでるな?

 

 

 

 

「悪趣味ですよ」

「えーそうかな~。むしろ喜べばいいじゃん。昔みたいに、うぉー!! て」

 

 

「おっ、雄叫びをあげたことなんて、ないですよ。それに、俺は、昔からそら友であって、まつりさんを推したことな「あぁ?」いえ。今も推していますけど、雄叫びはあげません」

 

 

 

 

推していない。という言葉に対して、何故か低い声で圧をかけてくるまつりさん。

なので、慌てて訂正をすると、だよねーと言って歩き始めてしまう。

 

 

……これは、ひょっとして、並んで歩かなければならない状況なのか?

 

 

まつりさんは、あのように気さくな性格なこともあり、学校内での人気がかなり高いのだ。

なので、近くにいると望む望まないにかかわらず、目立ってしまう。

 

 

対して俺は、元々な性格もあるが、仕事柄目立ちたくないこともあり、いつも影を薄くして生活をしている。

つまり、まつりさんとは正反対の人間なのだ。

 

 

 

「何しているの? 早く来なよ」

「えっ? さっ、先に行っていいですよ」

「えぇー。あっ。もしかして何か用事でもあった感じ?」

 

「まぁ、そうですね。はい」

「わかった! じゃ、先に行くね」

 

 

 

なかなか俺が距離を詰めないことに気がついたのか、まつりさんが理由をたずねてきた為、特に用事などなかったのだがーーあると嘘を伝えると、わかったと言っていたのに、何故か俺の元まで歩いてくるとーー。

いきなり、腕を組むという暴挙に出てくる。

……はぁ!?

 

 

 

「はぁ!? ちょっ! 何の冗談ですか!?」

「えっ。何が?」

「何が? じゃなくて! はっ、離してください!」

 

 

 

 

何を不思議そうな顔をしているのこの人!!

目立ちたくないのに、余計に目立ちまくっているのだが!?

 

 

恥ずかしさやら気まずさといった、あらゆる理由で引き剥がしにかかるが、こういう時に限って泣きそうな声で「痛い……」と訴えてくるまつりさん。

この! 絶対にわざとだ!!

 

 

 

 

「ちょっと。本当に困ります!」

「何で? どこが困るの? ただの仲良しアピールじゃん」

「俺が目立ちたくないのは、知っているでしょう? それに、他の視線ーー特に男子からの視線が突き刺さるんですよ!」

 

 

「マジで? いやー、まつりの美貌(びぼう)ってやっぱり周囲を魅了(みりょう)しちゃうのよね。きゃー! 罪な女!」

「ふざけないでくださいよ。登校しにくくなるでしょうが!」

「いいじゃん。これで、キミとのお付き合い話なんて噂がでれば、キミも危ない仕事しなくてすむしさ」

 

 

 

 

ーーなるほど。

このふざけた遊びは、そのためか。

小声でやり取りをしていた俺は、まつりさんのその言葉で、なるべく真剣だということを伝える為に、まつりさんの手を少々強引にではあるが、振りほどかせてもらう。

 

 

 

 

「俺のことを心配してくれるのは、とても嬉しいです。ですけど、これは俺の決めたことです。まつりさん、諦めてください。それと、スバルにやめるよう説得しろと言ったでしょう? あいつを巻き込まないでください」

「嫌だ」

 

 

「……そんな即答されても俺の気持ちは揺るぎませんよ」

「はぁ~。あのね、キミ。そら先輩のことは、まつりも許せないと思っているし、今でもムカついているよ? でも、現実は、共存の道を歩みつつあるの。私達が、君達(ファン)と同じように生活することで、世間は平和になるのよ」

 

 

「それは、偽りの平和ですよ。今日、この瞬間だって俺達(ファン)の中の誰かが、政府のふざけた法によって拘束されています。それにーーフブキさん達だって、自由に町を歩けていない。そんなの、おかしいに決まっています」

「それでも、キミのしていることは、政府の取り締まりを強くしている原因の一つだと、まつりは、思うよ。それに何より……まつり達をあんな嬉しそうに推していてくれたキミに、これ以上誰かを傷つけてほしくないの。たぶんーーみんな心の奥底ではそう思っているはず」

 

 

 

 

……それは、よくわかっている。

なんやかんや手伝ってくれているあのスバルでさえ、何度もやめないかと言ってくるほどだ。

それでも……それでも立ち止まる訳にはいかない。

 

 

 

 

「俺は、ただ三年前のあの楽しかった時に戻りたいだけです。そこには、俺達(ファン)あなた達(アイドル)も心の底から笑える笑顔があったはずだ。もし、今笑顔であったとしても、きっとそれは作り物にすぎない。だから俺は、立ち止まりません」

 

 

 

 

そして、そらさんを傷つけた奴らに思い知らせてやる。

お前達が、どれほど俺達にとって大切な人を傷つけたのか。

 

 

そう俺が決意を言い終えると、悲しそうな顔をしたまつりさんは「バカ」とだけ小さな声で呟き、トテトテと先に進んでしまった。

 

 

その言葉と表情に、少しーーいや。かなり胸を抉られてしまったが、言葉を取り消すことはできないし、今の彼女にかける言葉も見つからない。

 

 

 

「ふっ。あいかわらず弱いな……俺は」

 

 

 

 

何人撃ち抜いたとしても、彼女達の元気がなくなる姿には、いまだに耐えられない。

結局のところーー精神は、あの頃から何も変わっていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業の開始時刻までには、なんとか間に合った俺は、いつもより頭に内容が入らない中、午前の授業を終えた。

 

 

まつりさんとは、同じクラスである為、朝の件をどう謝るべきかと、午前中ずっと考えていたのだが……。

これが、見事に思いつかない。

 

 

謝るだけなら、簡単なことだ。

だが、きっとまつりさんは、その先を望んでいるはず。

つまり、もう誰も殺めないという誓いだ。

 

 

しかし、それを誓ってしまうということは、今の見せかけの平和に溶け込んでいくことを意味している為、それでは、俺の目的が達成できない。

 

 

などと、頭の中でいろいろ考えては、みるもののーーどうにも良い案が浮かばない。

仕方ない……とりあえず、昼飯にするか。

 

 

昼休みということもあり、俺は、昨日の残り物を詰めてくれたというあくあの弁当を持ちつつ、さっそく屋上へと向かう。 

学校内であれば、どこで食べてもいいのだが……やはり晴れている日は、屋上で食べたくなるものだ。

それに、人も少ないしな。

 

 

などと考えつつ、階段を上っていると、何やらまつりさんがコソコソ後ろからついきていたーー本人は隠れているつもりなのだろうが、スカートの端とポニーテールが見えているので、間違いないーーので、あえて触れずに、スルーしておく。

 

 

「ふっふっふ。来たわね先輩」

「……何してるんですか? はあとさん」

 

 

 

 

人も少なく、ゆっくり食事ができるだろうと思っていたが……何故か茶髪の緩いウェーブがかった髪の毛の女子生徒ーー赤井(あかい)はあとさんが、腕を組みつつ仁王立ちして、扉の前に立っていた。

何をしているんだ? この人。

 

 

これが、俺でなかったらどうするつもりだったのか。

 

 

 

「こら。はあとの方が後輩なのに、敬語は、おかしいって言っているでしょう?」

「いや、無理ですよ。てか、答えになってないんですけど。何してるんですか?」

「見てわからないの? ダメダメな先輩ね。少し考えればわかるでしょう?」

 

 

 

 

いや、さっぱりわからないが?

食事をしに来たのなら、そこらにあるベンチに座っていればいいだろうに……。

なのに、扉の前で待つ意味とは?

 

 

 

 

「その顔。本当にわかっていないの? まったく、しかたないわね。昼ごはんの時間だし、また一人でモソモソ食べる気だったんでしょう? ()()()()()()、はあとも一人だから一緒に食べてあげるっていうことよ」

 

 

 

 

ふむ。

つまり、一緒に食べたいということか?

 

 

 

 

「いいですよ。俺でよけれ「あぁ! 何ではぁちゃまがいるのよ!」ば」

 

はあとさんのお誘い? に俺がそう答えると、突然割り込みつつ現れたのは、バレバレの尾行をしていたまつりさんだ。

 

 

予想していなかった人物の登場に、はあとさんも目を丸くしてしまう。

 

 

 

「まつりちゃん!? ちょっと! きいてないんだけど!?」

「まつりだって、きいてないわよ! 何ではあちゃまがいるの!」

 

 

「二人して何ですか急に。てか、俺を挟んで言い合いをしないでください」

「言い合いなんてしてないわよ! 先輩とまつりちゃんが、いつからそういう仲になったのかって、きいているの!」

 

 

「キミ。今朝あれだけのこと言っておいて、結局はあちゃま推しな訳? そら先輩にチクるから」

 

 

 

 

勝手に言い合いを始めてしまった二人に、何も否定できずに棒立ちする俺。

てか、否定しようにも、次の問い詰めがきてする暇がない。

何だこの状況は……誰か助けてくれ。

 

 

 

「よりよってまつりちゃんて、おかしいでしょう! はあとの方が可愛いでしょうが!」

「はぁ? なに言っているかしらこの後輩系女子。どう考えてもまつりでしょう? この美少女系幼馴染みが、一番人気に決まってるじゃん」

 

 

「そんな訳ないから! 先輩は、昔からはあと推しなんです~!」

 

 

 

 

いや、昔からそらさん推しです。

 

 

 

 

「いやいや。昔から、まつりに夢中だったから。はあちゃまの握手会に、来たことあるのかしら~。ちなみに、まつりは二回以上あるし、なんなら今日なんて腕組んで登校したし」

 

 

 

 

いや、それはしていない。

 

 

 

 

「あっ、握手会はあれよ。忙しかったのよ。昔から先輩は、私生活と学校と大変だったからね。でも、いつもはあとのペンライト振っていたのは、確実に記憶しているから!」

 

「そんなのまつりだってそうだし~。なんなら、さっき壁ドンされて俺の物になれって言われてるから」

 

 

 

 

いや、言ってねぇよ。

 

 

 

 

 

「なっ、ななな何ですってー! そっ、そんな古典的なマンガ展開を、先輩がしていたなんて!?」

「いや、していないです。完全にまつりさんの作り話です」

 

 

「ちょっとキミ。空気読みなさいよ。ここで負けるわけにはいかないのよ。これはね……古より伝わる美少女系幼馴染みと、後輩系ツンデレ女子の闘いなんだから」

 

 

 

 

何だその闘い。

どっちも良いってことで、完結しませんか?

などと言える空気ではないくらい、まつりさんとはあとさんがバチバチに睨み合っているので、俺は、そっとその場から離れると、ベンチへと静かに腰をかける。

 

 

悪いが、これ以上は、付き合いきれない。

二人して楽しんでくれ。

そして、俺はさっさと飯を食べて、すぐにここから退散しよう。

 

 

などと心の中で言ったのが、間違いだったのか……。

バレないように静かに離れたというのに、すぐさま二人して俺がいないことに気がついたらしく、何やら恐ろしい形相でズンズンこちらに進んでくると、俺を挟み込んで座ってきた。

 

 

しかも、何やら俺の手元を見ると、二人して急ぐようにバックの中に手を突っ込み、それぞれの弁当を取り出してくる。

 

 

 

「まつり、いいこと思いついた。ちょうどキミもいることだしね」

「へぇー。偶然ね。はあともいいこと思いついたの。ちょうど先輩がいるからね」

 

 

 

 

……なぜだろう。すごく嫌な予感がする。

 

 

 

 

「じゃじゃーん! まつりさん特製のお弁当でーす! 食べてみてキミ!」

「ふふぅん。はあとが手作りした弁当よ。さぁ、先輩食べてみて!」

 

「「そして、どっちが美味しいか決めてちょうだい!!」」

 

 

 

 

マジですか?

ギャルゲーよろしくーーいわゆる仮想の女性キャラを攻略するゲームのことだがーー展開で、二人からの手作り弁当を差し出された俺は、何とか拒否出来ないものかと頭をフル回転させてみる。

がーーどうにも難しい。

 

というか、二人の圧があり得ないくらいあるのだ。

これを拒否しようものなら、袋叩きにされかねない。

 

 

かっ、覚悟を決めるしかないのか……。

そうだな……まずは、まつりさんからにするか。

まつりさんのは、全体的にピンク色の弁当箱で、いかにも女子が食べそうな小さな弁当箱だ。

 

 

そして、その中には、半分がごま塩がふられている白米で、残り半分が、ミニトマトや卵焼きというーー色合いがとてもよいおかずが入っていた。

なので、とりあえず卵焼きでも食べようかと箸を動かすとーー。

 

 

 

 

「へぇーふぅーん。まつりちゃんから食べるんだ~。はあとは、先輩が一人で食べるのかわいそうだと思って、わざわざ待っていたのに、まつりちゃんから食べるんだ~。へぇー。まぁ、別にいいけどね~。待っている間、風が寒かったけど。後から食べてくれてもいいけどね~。5分以上待っていたけど」

 

 

 

 

などと、はあとさんが睨み付けつつ横から言葉を挟んでくる。

そっ、そんなに待っていてくれたのか。

それなら、たしかにまつりさんから手をつけるのは、おかしいか?

 

 

などと、決して睨みつけに負けたわけではないのだが、はあとさんの弁当へと視線をむける。

 

 

はあとさんの弁当は、意外にも大きめの黒い弁当箱であり、半分は、梅干しに白米という日の丸弁当であったのだが、残り半分にはーーこれも意外だが、唐揚げやハンバーグという、こってり系の物が多く、色合い的には茶色が多い気がする。

 

 

ふむ。とりあえず、唐揚げを食べてみるか。

と、唐揚げを一つ箸で掴み食べてるとーー。

うん。美味しい。カリッとしていて、噛んだ時に、口の中一杯に肉汁が広まって、とてもうまい。

 

 

 

 

「とても美味しいです。しかし、意外ですね。はあとさんって、そんなに食べる人でしたっけ?」

 

 

 

 

失礼とは思いつつも、不思議に思った為俺がそうきくと、何やら頬を紅くしたはあとさんは、ふんっと、そっぽを向くやーー。

 

 

 

「かっ、勘違いしないでよね。別に、はあとが全部食べる為に作ったわけじゃないから!」

 

 

 

 

と言ってきた。

全部食べるつもりじゃない……だって?

なら、何でこんなにたくさん?

と俺が首を傾げると同時に、何故かまつりさんが大声を上げて急に立ち上がる。

なっ、なんだ!?

 

 

 

 

「はあぁぁ!? ちょっとまてーい!!」

「どっ、どうしたんですかまつりさん」

「やったわねはあちゃま! 卑怯よズルよ! こんなのデキレースじゃない!!」

「何のこと~。はあと、まつりちゃんの言っていることが、全然わからな~い」

 

 

 

 

奇遇だなはあとさん。俺もわからない。

 

 

 

 

「わかるでしょうが! このツンデレ後輩め! 元々食べさせる為に作ってきたわね!! そんなの、ズルよ! だって、そんなことしたら愛情が入っちゃっているじゃない! そんなの負けるに決まってるじゃん!」

「あ、愛情なんて入ってないわよ! あれよ。先輩が好きかな~て、思うおかずは入れてるけど」

「ほら! 卑怯よそんなの! きちんと公平に闘いはおこなうべきでしょうが!!」

 

 

 

 

ダンダン!

と、怒りのあまり地団駄を踏むまつりさん。

なっ、なるほどね。俺の為に、こんな大きな弁当箱だったのか。

通りで、男が好きそうな肉料理が多いわけだ。

 

 

 

 

「えっと……それなら、今回の勝負は無しってことで」

「何よまつりちゃん。負けを認めるなら、別にいいけど? それじゃ、最強ポジションは、後輩系女子ってことで。うふふふっ」

 

 

 

これ幸いにと、勝負を俺が流しにかかるが、ここでまさかのはあとさんがまつりさんを挑発するという展開になり、額に青筋を浮かび上がらせたまつりさんは「あぁ?」というと、また俺の隣へと座りーー。

 

 

 

 

「えっ? 手が痛くて箸が持てないのキミ。もー、仕方ないな。特別だよ? はい、あ~ん」

 

 

 

 

などと、何故か箸で卵焼きを掴むと、俺の口元へと運んできた。

で、人間というのは面白い生き物で、唇に食べ物を持ってこられると、意外と反射的に口を開けてしまう。

 

 

なので、俺も例にもれず反射的に口を開けてしまい、つい、卵焼きを食べてしまう。

 

 

うっーーうまい。

砂糖を使っているのか、ほのかに甘く、かといって甘過ぎずーー卵の素材の味もきちんとしている。

 

 

 

 

「あぁー! ちょっとまつりちゃん!! 何してるのよ!」

「えっ? 何が?」

「何がじゃないわよ! 食べさせるなんて、ズルじゃない!!」

 

 

 

 

などと俺が卵焼きを味わっていると、今度は、はあとさんが大声をあげて立ち上がる。

なっ、何なんだよこの人達!

一周回って、怖くなってきたぞ!

 

 

 

 

「何がズルなのかしら~。まつりは、かわいそうだと思って、優しさで食べさせてあげただけですけど?」

「それが、ズルって言っているの! 味だけじゃなくて、印象も判断に入っちゃうじゃない!!」

「え~。そんなことないでしょ~。あっ! ほらキミ。口元に卵焼きの欠片がついているよ?」

 

 

 

俺が二人に少し引きぎみになっていると、何やら卵焼きが口元についていたらしく、まつりさんがニッコリと微笑んで、取ってくれようとしたのか、手を伸ばしてくる。

が、それを途中で伸びてきた手が掴み止めてしまう。

 

 

 

「本当だ! 先輩ったら、ダメダメね。はあとが取ってあげる!」

「ちょ! 何邪魔してんのよはあちゃま!! 退きなさいよ!」

 

「何よ! 先に印象操作してきたのは、まつりちゃんじゃん!! これくらいはあとに譲りなさいよ!」

 

 

 

 

ギャーギャーと、取っ組み合いに発展した二人は、額がぶつかるくらいに接近すると、今度は、俺についている卵焼きを取るケンカを始めてしまう。

 

 

おいおい……取ってくれようとするのは嬉しいけど、だんだん悪化してないか? これ。

 

 

しかも、この熱量の中、勝敗を決めないといけないってーーどっちに転んでも、手痛いダメージがくるぞ。

 

 

などと、最悪な結果を想像した俺は、とりあえず争いの原因になっているらしい卵焼きを自身で取り除くと「「あぁー!!」」と、二人して大声をあげてくる。

 

 

ので、それすらも無視した俺は、あくあが作ってくれた弁当を開け、そこにあるハンバーグを口へと放り込みーー。

 

 

 

 

「うん。やっぱり、あくあのハンバーグが一番だわ」

 

 

 

 

と、わかりやすく大声で宣言する。

そうーー最悪の選択しかない道ならば、新たな道を造ればいいだけのこと。

 

 

どちらを選んでもダメージがくるのなら、第三の道に逃げればいいのさ。

うんうん。我ながら、うまく考えたものだ。

 

 

と、俺が一人で頷いていると、真横から殺気が溢れでてくる。

誰かといえば、当然まつりさんとはあとさんだ。

 

 

 

「ふーん。あっ、そう、結局メイドなんだ~。はいはいメイドメイド。男ってみんなそう!」

「メイドなんて、ただ仕事でやってるだけだから。かわいそうな先輩。はあとが、目を覚まさせてあげるね?」

「……えっ?」

「いいね~。まつりも手伝うわ」

 

 

 

 

あれ?

もしかしてこれって、最悪の中のさらに最悪な展開になってね?

 

 

などと気がついた俺は、すぐに謝ろうとしたのだが、時すでに遅し。

般若とかした二人のラリアットーー力こぶの部分で、喉を攻撃してくる方法だーーをモロに受けた俺は、そのままベンチと共にひっくり返るのだった。

 

 

てか、結局仲良しじゃん二人とも。

メチャクチャ息の合ったラリアットだったんですけど

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