悪魔の審判が終わった後、土下座をして二人とも美味しかったことを伝えた俺は、今だに少し痛む喉を抑えつつ、帰路につく。
しかしーーなんとか許してもらえたが、ものすごい説教だったな。
土下座中に、頭を踏まれる覚悟をしたぞ。
などと思い出しつつ歩いていると、何やら車道に黒塗りの護送車が止まり、中から三人ほどの、全身白い衣装に身をつつんだ男達が現れる。
あれは……
軍警察とは、世界政府が組織した独自の人類保持部隊のことであり、世界政府の軍は、四人のトップである
そして、彼らの仕事は、従来の警察のような治安維持部隊ではなく、荒事専門の人類維持機関……。
つまり、人類の減少に関わる者か、もしくは、それに類することをした人物を捕縛するのが、彼らの仕事である。
なので、奴らが動くと大抵ろくなことがない……のだが。
などと考えつつ、三人組を視線で追うと、何やら警察官から書類を受け取とり、ある程度話を聞くと、空中に書類を投げ飛ばし、警察官へと拾うよう命じる。
そして、先頭の男に続き他二人も、裏路地へと入っていく。
ふん……あいかわらずデカイ顔していやがるな。
はっきり言って、奴らの事など興味はないし、見ているだけでムカムカしてくるので、さっさとこの場から立ち去りたいのだがーー奴らが
なので俺は、バレないように奴らを尾行し、裏路地へと侵入。
すると、そこには一人の男性がおり、焦った顔つきで何やら軍警察に話しかけていた。
「ごっ、誤解なんです! 自分は、ただ友人が持っていた物を大切にしていただけで! 決して、人類の存続に反することはしていません!」
「ほう……それは、喜ばしいことだな。しかしながら、君のそのバックに入っていたのは、バーチャルアイドルのアクセサリーではないか?」
三人の中でも一番年上なのか……中央にいる30代だろうと思われる男が、男性の鞄の中にあるアクセサリーを手に取ると、それを手の平でお手玉のように跳ねさせつつ、冷たく言いはなつ。
「たっ、確かにそうですが、友人からの贈り物なんです! その友人は、一年くらい前から連絡が取れなくなってしまってーーもう、それしか友人の私物は残ってないんです! ですから、返してください!!」
……おそらくだが、彼の友人は、すでに刑務所の中だろう。
今の世の中では、アイドルや二次元などのアクセサリーを持っているだけで、拘束の対象になる。
その中でも、とりわけバーチャルアイドルへの風当たりは強く、推していることがバレでもすれば、その人物の所有物は、クレジットカードに至るまで、ありとあらゆる物が処分の対象になる。
そして、最終的にはーーその人物はこの世に存在していなかったという状況にさせられるのだ。
「返してください……か。なるほど。友人想いなのだな君は」
「どうします? 先輩」
「言っていることは、とてもまともですし……今回は、厳重注意ってことで、このアクセサリーのみの処分にしますか?」
男性の想いが届いたのか、左右の新人らしき者達が、中央の男に穏便に済ます方向で話しかける。
がーー中央の男は、二人の言葉を聞き終えると同時に、おもむろにアクセサリーを地面へと落とすと、大きなため息をつく。
「やれやれ。いいかね二人とも。我々は、人類の維持を任されているーーつまりは、選ばれた者達なのだよ。そして、彼は人類でありながら、それを滅ぼそうとする存在……
ふっ。と短く息をついた男は、足を振り上げると、次の瞬間には、躊躇なくアクセサリーを踏みつけた。
「あぁ!!」
「疑念が生まれただけでも、処分しなければね。我々の仕事とは、すなわち人類の意思なのだよ」
壊れたアクセサリーに歩み寄る男性を、中央の男が髪の毛を掴むことで阻止し、その腹へと躊躇なしの膝蹴りを入れる。
「ごおはぁ!」
「わかるかね君? 友人を想う君よりも、我々はもっと大きく大切な仕事を任されているということだ。たかが一人の為に、何億人という未来の人類を消させるわけにはいかないのさ」
うづくまる男性に対して、さらに追い討ちをかけるように上から踏みつけた男は、男性が苦悶の声をあげているにも関わらず、グリグリと足をねじり続ける。
「愚かなことだ。存在しない者に心を奪われるなど、道化以下だよ。世の中には、存在している女性が何人もいるというのにね~。
まるで、人ではない何かに言うようにそう吐き出した男は、ダメ押しとばかりに男性の腹を蹴りつけると、二人の新人に対し「これが我々の仕事だ。拘束しろ」と伝えると、ポッケからタバコを取り出し、スパスパと吸い始める。
あぁ……そうかい。
それが、お前らだよな……。
とことん、腐りきっていやがる。
一部始終を見ていただけでも、かなり限界にきていたこともあった俺は、もはや見ているだけでは、自身の怒りを抑えることができなかった。
流れる動作でメガネを外した俺は、万能イヤホンをすぐさま装着し、持っていたメガネを興味なさげに吸っている男へと向かって、投げつけてやる。
「……何だね君は?」
「お勤めご苦労様です。しかし、路上での喫煙とはいけませんねーーきちんと、喫煙所でしていただかないと。今のご時世、小学生でもわかることですよ?」
突然現れた俺に一瞬驚いた顔をした男だが、メガネを投げつけられたことに対してなのか。はたまた、他の理由でかーーさっそく睨みをきかせてくる。
一般人なら、普通に恐怖を抱くほどの視線だ。
だがーーそんなの怖くも何ともない。
むしろ、もっとイライラが増すくらいだぜ。
「我々は、軍警察だぞ。逆らうことは、どういうことになるのかなど、今のご時世、小学生でもわかることだが? 今なら、土下座をするだけで許してやるぞ。ガキ」
「もちろん、言われなくても知っていますよ。デカイ顔して歩いているくせに、存在しなくてもいい組織ーーあれですよね? 税金泥棒ってやつだ」
「……そうか。そこまで覚悟があるのならば、仕方がないな」
俺の言葉に青筋をうかべた男は、タバコを地面へと捨てると、顎で残りの二人へと指示をする。
ハッ!!
警察なんてのは、名ばかりだな。どちらかと言えば、不良集団の方がお似合いだぜ。
男の指示に頷いた二人は、拘束を終えたらしい男性を地面へと置き去りにすると、俺の方へと悠々と歩いてくる。
「荷物検査だ。君のバックの中を見せなさい」
「この男を庇うことから、君もバーチャルアイドル禁止法にふれている可能性がある」
何が検査だ。
どうせ、中になにも入っていなくとも、難癖つけて拘束する気満々だろうが。
着実に距離を詰めてくる二人に、俺は、バックを肩から外しつつ、戦闘へと意識を変える。
「あぁ、そんな法律ありましたね。どうぞ。しっかり見てくださいよっと!!」
と、まず右の男にバックを投げつけてやった俺は、それに気を取られている隙に、腹へと蹴り一発お見舞いしてやる。
「ごぅ!」
「きっ、貴様!!」
俺の攻撃が予想外だったのか、腹を抑えて座り込んでしまった男に対して、すぐさま追い討ちの左の蹴りを、右顔へと叩き込んでやる。
これで、こいつは、しばらく起き上がれないはずだ。
そう判断した俺は、すぐさま左の男へとターゲットを変更する。
すると、何やら警棒を取り出そうという動きを見せた為、それより早く右拳のストレートを顔に向けて放ってやる。
がーーさすがは軍の人間だ。直前で避けられてしまった。
だがな。避けられるのことなんて、想定済みなんだよ!
すぐさま握っていた拳を開いた俺は、男の後頭部を掴みつつ強制的に前屈みにさせると、膝蹴りを顔へと叩き込んでやり、よろけた所を左足で男の左膝裏を蹴りつけ膝をつかせてやる。
完全に緩みきっている右手を掴んだ俺は、その腕に股がり、横回転に男を巻き込みつつ、床へと強制的に倒す。
そして、右足のスネを男の脇腹に当て、十字固めーー腕を限界以上に伸ばす関節技だーーをわりと手加減なしで極めてやる。
「ぐぁー!!」
「おいおい。こんな程度で、叫ぶなよな。そこの男性は、頭踏まれてても叫ばなかったっぞ!!」
と、十字固めを解く前に
さて……あとは、あのムカつく男一人だな。
気合いをいれる意味もこめて肩を一度回すと、一連の動きを見ていた男が、憎々しい顔つきへと変わる。
へー、いい顔つきだな。
「素人じゃないな……ガキ」
「へー。さすがに、それくらいはわかるのか」
「顔に対する攻撃は、普通の人間ならば躊躇う箇所だ。そこを、平然とやってのけるなど……
「ふん。感謝しろよ。お前らが心底嫌っているアイドルから教えてもらった格闘技で、眠りにつけるんだからな」
「やはり、バーチャルアイドルの信仰者だったか。しかしーーふっふっふ。アイドルが格闘技とはな。おかしなことだ」
「おかしいだと? お前らがふざけた法律を施行しなければ、彼女達が身を守る術を覚える必要なんてなかったんだよ」
そうさ。
こいつらさえいなければ、今も歌って踊って楽しく過ごせていはずなんだ。
そうーーこいつらさえいなければ!
ギリッ。と、怒りで奥歯を自然と噛みしめた俺は、拳に必要以上の力がはいる。
「身を守る? 奴らは、元々データ上の存在だぞ。それが、たまたま実体を持っただけのこと。身など、元よりないのだよ君」
「……もう、喋るな。お前は、簡単には眠らせない」
「くっくっく。そうかそうか。ずいぶんと、自分の力を過信しているらしいな。拘束などというのは、生ぬるかったわけだ」
俺の言葉に対して、何やら片手で顔を覆った男は、クスクスと笑いながら、流れる動作で腰元へと手を持っていく。
その動きに対して、何をしようとしているのか予測できた俺は、すぐさま接近。
奴が取り出そうとしているのは、おそらく拳銃ーー。
それならば、距離を潰さないと厄介だ。
と、そのような判断での接近だったのだが、どうやら予想は的中していたらしく、男は、嬉々とした顔で拳銃を取り出してくる。
だがーー行動が遅すぎたな。すでに俺は、お前の手に届く間合いにまで、接近しているんだよ!
引き金を引く動作を見つつ俺は、タイミングを合わせて右手の拳を振り上げ、男の前腕へと力の限り振り下ろしてやる。
すると、俺の拳に力負けした腕は、標準が地面へとむき、それによって発射された弾丸は地面へと着弾。
これで、次弾を撃つまでの時間は稼いだ。
あとは、ここで叩きのめす!
弾がハズレたことが予想外だったのか、男が目を見開く中、すぐさま右
そして、その隙に体当たりでもって壁へとぶつけさせた俺は、男の首を掴み、あいている左手の
「ぐっ!? きっ、貴様ーー自分のしていることが、わかっているのか!」
「あぁ、十分理解しているさ。で? お前は、理解しているのか? 自分のしてきた罪を」
「罪だと? この私が? バカな事を! 私が罪など犯すはずがない! なぜならば、私は選ばれた存在だからだ!」
「選ばれた存在……ね。同じ人間という種族に、優劣があるわけないだろうが」
「あるさ! この世には、存在してよい者と、いらない存在がな! お前やそこに転がっているバカな男など、まさに後者の存在!! 人類にとって、石粒ほどの価値すらないわ!」
へぇ……。
それが、お前の考えか。
「我々に対して反発するなど、無駄なことなのだよ! 私達がやられたと知れば、すぐに狩猟部隊が出てくる! 我々よりも、もっと戦闘に特化した部隊だ。バーチャルアイドルなどという不穏分子が扱う、アイドル
「……言いたいことは、言い終えたか? なら、絶望しろよ。狩猟部隊が来る頃には、ここには、三つの動かない人間が落ちているだけだ。それ以外はーー綺麗な裏路地のままだからよ」
そう伝えた俺は、あいている左手も首へと向かわせ、力の限り首を絞めてやる。
誰が不穏分子だ……誰が、選ばれた存在だ!
「ごぉ、ぐぅ!?」
「ふざけたこと言いやがって……お前らのような、人間のクズが選ばれた存在だと? 自惚れも大概にしろよ。本当の選ばれた存在ってのはなーーお前らがした姑息な罠に倒れた、あの人のように無償の笑顔をくれる人のことなんだよぉ!!」
ギリギリと、怒りに任せて首を絞めてやる。
ふざけるな。ふざけるな!
こんな奴らの為に、そらさんは、犠牲になったとでもいうのか!
こんな奴らの事を信じて、あの人は、今も眠り続けているのか!!
「認めない。そんなことーー絶対にな! お前の罪を確認しろ!!」
あまりの耐え切れなさに大声をあげた俺は、トドメにと、首の骨を折ろうと力をより込めようとする。
が。その俺の腕に、突然誰かが掴みかかってきた。
チッ!
もう、回復しやがったのか。
この男の仲間だろうと考えた俺は、迎撃の為に手の主へと顔を向けるーーが。そこで、思考が止まってしまった。
なぜならばーー俺の腕を掴んできた人物は、あの湊あくあだったからだ。
「……ダメ。ダメ……やめて……」
消え入りそうな声で、俯きつつポツポツと同じ言葉を繰り返すあくあ。
なんで……なぜ、あくあがここにいる?
あり得ない状況に、チラリと彼女の横へと視線を向ければ、エコバックの中に入っている野菜や肉などの食料品の数々……。
そうか。
買い物帰りに、偶然ここの近くを通ったのか。
そして、先ほどの俺の怒声……。
あれで、ここに俺がいることがわかり、ここまで来てしまったのか。
くそ……なんて、最悪な偶然だ。
あくあの腕から伝わる震える振動に、だんだん頭が冷めていった俺は、手から力を抜くと、男を開放してやる。
「ダメ……ダメ……」
「……あくあ。もう、やめたよ。やめたから……手を離してくれ」
ふるふると震える肩に、心が締めつけられる。
……嫌な場面を、見られてしまった。
これがスバルだったのなら、ここまで痛まなかっただろう。
あいつは、俺の汚い部分もよく知っている。
だが。あくあやまつりさんなど、俺にとっての日常生活で関わりのある人達は、今のような俺を見たことがないし、むしろ見せたくなかった。
最悪だ……。
「ごめん、あくあ。もう、大丈夫だから。とりあえず、ここから離れよう……あんたも、歩けるなら早めに逃げるんだな」
あくあの肩を支えつつ、一度俺から離れてもらい、男が落とした拳銃を拾い上げ、拘束具を破壊してやりながら、倒れている男性に一応逃げるように伝えておく。
本来なら、安全に逃げきるまで面倒を見てやるのが正解なのだがーーこちらにはあくあがいる。
優先順位の問題だ。
悪いが、そこまで面倒を見きれない。
感謝を述べる男性の声を背中に聞きつつ、俺とあくあは、重苦しい空気の中、路地裏をあとにするのだった。
重そうな荷物をあくあから受け取った俺は、共に重い足取りのまま自宅へと帰宅した。
てっきり、あくあの家に行くものだと思っていたのだがーー今日も俺の家に行くつもりだったとのことで、俺の家へと来ることになった。
「えっと。どれが、俺にくれる物だ?」
「……全部」
「ぜっ、全部か……。金、払うぜ。高かったろ?」
まさか全部とは思わなかった為、少し驚きつつもキッチンへと食料を置いた俺は、自室へと向かい財布を手に取ってくる。
この量だと……何円くらいするんだ?
「とりあえず、一万円くらいでいいか? あくあ」
「……いらない。あてぃしの奢りでいいよ……」
「いや。奢りってわけには「どうして、あてぃしの顔見てくれないの?」えっ?」
奢りは、さすがに拒否しようとしたのだがーー。
それより先に、あくあから顔を見ていないと言われてしまい、驚きの声をあげてしまう。
ーー路地裏から、もしかしたらあくあが俺のことを怖がっているのではないか? と思い、顔を見ることができず、意識的に見ていなかったのだが……バレていたのか。
「ふっ、深い意味はないぞ。その……怖かったろ。あれが、いつもの俺なんだ。だから、もう俺に関わらない方がいい」
あくあには、まつりさんやはあとさんのように、争いのない普通の暮らしの方が向いているはずだ。
なのに、俺のような血に濡れた奴が近くにいてしまうと、もしかしたら危険なことに巻き込まるかもしれない。
そうだ……だから今回の件は、むしろよかったといえる。
このまま、恐ろしい奴だと離れてくれれば、それでいい。
「どうして、そんなこと言うの?」
「えっ?」
「どうじて……そんなごと言うの!」
ポタポタと、地面に流れる雫の雨。
俺の予想した答えとは違い、離れることを嫌がったあくあは、大粒の涙を流すと、突然俺の胸をポカポカと殴ってくる。
なっ、何で泣いてるんだよ。
「どうしてって。嫌だろ。こんな奴が近くにいたら」
「嘘つき! 忘れたの!? 執行人くんが、言ってくれたのに!!」
えっ!?
ポカポカと殴り続けるあくあに、俺が混乱していると、キッと目を鋭くしたあくあが、見上げてくる。
「あの時……。みんながバラバラになって、寂しくて泣きそうだったあてぃしに、
っ!
……言った。確かに言った。
ホロライブのみんながバラバラに散っていったあの日ーー最後までみんなを引き留めようとしていたあくあに、確かに俺は、その言葉を言った。
でも……でも!
「切りたくないよ。でも、あくあが怖がっていたあの姿が、今の俺なんだよ! あくあを……俺の好きなアイドル達から笑顔を奪って、怖がらせるくらいなら、俺には関わってほしくない!」
「なんで。なんで、そんなこと言うの? 執行人くんがいなくなったら、あてぃし、一人になっちゃうのに! ふぇぇーん!!」
そう言うと、ついに地面に座り込んで大声で泣いてしまうあくあ。
その姿を見て、俺もやっと自分の失敗に気づいた。
なぜ、深夜になってまで俺の部屋で待っていてくれたのか……。
どうして、得意でもない掃除や料理を頑張ってしてくれていたのか。
こんな仕事をしている俺だが、一応家族はいるし、学校に行けばクラスメイトがいる。
仕事にすれば、スバルがいるし、ちょこ先生がいてくれる。
だが。あくあは?
バーチャルアイドルの彼女達には、家族などいない。
その変わりが、ホロライブというグループだったのだがーー彼女達は、今やバラバラに散ってしまっている。
しかも、外に出れば、軍に捕まる可能性がある為、会いたくとも気軽に会えないし、探し出すことだって、難しい状況だ。
かといって、知らない奴と仲良くなったとしても、信頼できるかなど、わからない。
そんな中、あくあにとって、会えるのは俺だけであり、俺に会えさえすれば、少なくともスバルやまつりさん達の近況報告が聞けるのだ。
その俺があくあとの縁を切ってしまったらーー。
……まっているのは、孤独だ。
ただでさえ、バーチャルアイドルには、風当たりの強い世の中なのに。
その中で、俺は、彼女に孤独に耐えろと、言ったようなものだ。
「ごめん。ごめんなあくあ。本当にごめん。俺も、怖かったんだよ……あんな俺を見られて……嫌われでもしたら、もう、二度とあくあと笑顔で話せないんじゃないかって思って。怖かったんだ……だから、ごめん」
いまだ泣き続ける彼女の前で、せめてもと頭を深く下げる。
あぁ……。
もし、ここにスバルやちょこ先生がいたら、俺は、ぶん殴られていることだろう。
それほど俺は、バカなことをした。
泣き止むまで、頭を下げ続けようと決めた俺は、彼女が泣き止むまでひたすら謝り続ける。
例え、それが一時間だろうと十時間だろうと、しつづけようと思った。
だが。その考えとは、裏腹に、すぐさま両手が俺の首に回されると、あくあが泣きながら跳びついてくる。
「バカ~! 執行人くんのこと、嫌いになんてなるわけないのに!! バカ~!!」
とバカを連呼しつつ、泣き続けるあくあ。
嫌いになんて、なるわけがない……。
その言葉に、じんわりと目頭が熱くなった俺は、耐えきれずにあくあの背中に手を回し、服を握りしめる。
「ありがとう……ありがとう。あくあ」
「ふぇぇーん!」
こんな俺でも、嫌いになどならない。
その言葉に、感謝しか伝えられかった俺は、泣き続けるあくあに、ずっと、ありがとう。と言い続けるのだった。