スバルを家へーーと言っても、ちょこ先生やそらさんを普段は守ってくれている為、地下の秘密部屋なのだがーーに送り届けていたら、すっかり夜になってしまった。
AZKIさんに会えたことも嬉しかったのだが、何よりもーースバルとの息抜きが案外俺の精神的によかったらしく、ちょっとだけ、気分が良い。
なので、そらさんの曲を口ずさみつつ歩いて帰宅した俺は、意気揚々と鍵を開けて自宅へと帰宅する。
ーーと、何故かリビングの明かりがついていた。
もちろん、俺がつけて出ていった訳がないので、またあくあでも来たのだろう。
まったくあいつは。
「おい、あくあ。来てもいいが、連絡してくれと言っただろ?」
ため息混じりに、再度注意しつつリビングへと向かうと、そこには、ソファーに堂々と座りながら、テレビを眺めている青いロングヘアーの女性が一人。
もちろん。あいつは、桃色の髪の毛なので、あくあではない。
では、一体誰なのか……。
「残念。あくたんじゃありませーん。正解は~。すいちゃんでしたー!」
「なっ! すいせいさん!?」
星街すいせい……。
ホロライブのアイドルの一人であり、AZKIさんやそらさんと同じく、始まりのバーチャルアイドルと言われている一人だ。
美しい青い髪を揺らして振り向いた彼女は、片手に持っているーー俺が買っておいたアップルジュースだーーをカタカタ揺らしつつ、イタズラぽく笑みをうかべる。
なぜ、すいせいさんが俺の家に?
「帰ってきて、そうそうあくたんの名前が出るとはねー。君は、もっと一途だと思っていたんだけどな~」
「いや、一途ですよ。それより、どうしてすいせいさんが家に?」
「野暮用ついでに、ちょっと報告にね。しかし、元気そうでよかったよ」
座りな。
と、俺の家で俺のソファーなのに、何故か家主のように隣の席をポスポス叩いて言うすいさいさん。
なので、そこから少し離れた所にある空席に座ると、短く呆れた声をもらすすいせいさん。
「あぁ。一途じゃなくて、臆病だったけ? 少しは良くなったかと思ったんだけどなー」
「すいせいさんの隣に、座れるわけないでしょう。それよりどうやって家に?」
「野暮な質問だねぇ。もちろん能力でだよ。これがそらちゃんなら、喜んで隣に座るくせに」
そらさんなら、まともに話せてすらいない気もするが?
と思ったが、それを言うとまたからかわれてしまうので、言わずに頷いておく。
そうか。
能力でなら、納得だな。
「それで。報告したいことってのは?」
「おいおい。もう、本題に入るの? すいちゃんとの、久しぶりの会話だぜぇ? 楽しもうとか思わないの?」
「本題を聞いてからでも、それはできます」
「それができないと思うから、今言ってるんだけどなー」
本題に入ると、会話ができない?
どういうことだ。
「まぁ。ことは、急いだ方がいいし本題に入るか」
ほっ! と声をあげると、飲み終えたらしい空き缶を机に置いたすいせいさんは、先程までとは違い、顔つきを真剣なものへと変える。
「あくたんが、軍警察に連行された。あの子が重大なポカをやらかすとは思えないんだけどーーもしかして、キミ。何かししらのポカをした?」
「なっ!?」
なんだって!!
あくあが、軍警察に!
「バカな! 俺がそんなポカをするはずーー」
と、そこまで言葉が出てから、昨日の出来事を思い出す。
まさかーーあの三人組か!
しまった!
あの時は、あくあが居たこともあって、俺も気が動転していた。
奴らの口封じを、すっかり忘れていた!
くそ!
何をしてるんだ俺は!
「その顔からして、心当たりがあるみたいだね。一体何をしたの?」
「……軍警察の人間を、三人ほど叩きのめしました。そこに偶然あくあが来てーー気が動転してしまって、すっかり口を封じることを忘れていました。俺のせいです。場所を教えてください!」
すいせいさんの質問に答えた俺は、急いでその場から立ち上がると、すぐさま自室へと向かう。
まずい……非常にまずい!
あいつらは、バーチャルアイドルに手加減などしない。
もしも、あくあに何かあったらどうする?
いや、すでに暴力を振るわれている可能性だってあり得る。
急げ!
とにかく、1分1秒でも急ぐんだ。
心臓の鼓動に急かされる中、俺が戦闘の準備をしようとするとーー。
「嫌だ。今のキミに教えるつもりはないよ」
と、ひんやりとするような鋭い言葉が、リビングから聞こえてきた。
……えっ?
「えっ? いっ、今なんてーー」
「い・や・だ! て言ったの。今度は聞こえた?」
「なっ、なんでですか!? 俺の責任なんです! だから、俺が助けにいかないと!」
「そんなのキミの考えでしょう? 私には、関係ないね。なんなら、そういう気分じゃないから教えないってことにしとこうか?」
さてさて。もう一本。
などと、突然素に戻ったすいせいさんは、焦る俺とは違い、軽やかなスキップをしながら、飲み物を取りに冷蔵庫へとむかいだす。
……はっ?
えっ?
「なっ! ふっ、ふざけてるんですかすいせいさん! 俺は、真剣に言ってるんです!」
「私も真剣に言ってるよ~。教えないってね」
「どうしてですか!! 急がないとあくあが! 今すぐに助けにいかないと!!」
「ハァ~~!」
俺が慌てて捲し立てるようにそう言うと、片手を額に当てて、呆れたように大きくため息をつくすいせいさん。
そして、次の瞬間には、恐ろしいほどの怒りを露にした瞳で、俺を睨みつけてくる。
なっ、なんだ!?
「おい、こら。いい加減にしろよガキ。まだ、わからないのか?」
「えっ……なっ、何がですか?」
美人の怒りほど、怖いものはない。
そらさんも、怒るととても怖かったがーーすいさいさんも、その比ではないくらいかなりの圧がある。
正直、震え上がりそうなくらい恐ろしい。
「先から、テメーの目はどこに向いてるんだ? 急がないとあくあが危険? そんなの、わかりきってるだろうがよ。助けにいくのは大前提で、まずは、そこじゃねぇだろ」
うっ……そうだった。
すいせいさんは、とても美人で歌も上手な人だったが、キレると口が悪くなるんだった。
完全に気迫にのみ込まれてしまった俺は、距離があるというのに、自然と後ろに一歩下がってしまう。
「俺の責任だ! 俺が行かないと! 俺が俺が俺が!! バカの一つ覚えみたいに言いやがってよぉ。いったい希望の橋で、テメーは何を学んだんだ?」
「…………」
「私がみんなのために。私に任せて。私が行くよ。そう言って任せた私達が見たのはなんだ? 近くにいたテメーが一番知ってるだろうが!!」
ダン!
力強く拳をキッチンへと振り下ろしたすいせいさんは、言ってみろ。というように、俺を睨みつけてくる。
その力強い音と視線に、すいせいさんが伝えたかったことを、ようやく理解した。
『私が行くよ。だって、白馬くんも居てくれるんでしょう? なら、何も怖くないよ』
そう言って笑顔を見せてくれた彼女は、一発の銃弾で、今も覚めない眠りについてしまった。
私が行く……。
俺が行く……。
今の俺は、あの時の彼女と同じだ。
誰にも手を借りず、自分一人で何とかしようとしてしまった、あの時のそらさんと同じ。
すいせいさんの言葉で、だんだん頭が冷えてきた俺は、その場に膝から崩れ落ちてしまう。
すいせいさんのいう通りだ。
俺は、いったい何をしているんだ。
あくあは、軍警察に捕まったんだぞ。
警察なら、まだ一人でなんとかなるだろう。
その自信もある。
だがーー軍警察は別だ。
昨日の奴が言っていたように、監獄施設となると狩猟部隊の人間が必ずいる。
そうなれば、俺一人では確実に難しい。
しかも、もし失敗をすれば、次はさらに厳重になってしまい、より助け出すことが困難になってしまう。
そうして、俺が傷つけば、俺が築き上げた絆を持つ人達が、きっとあの時の俺と同じように傷つくはずだ。
自身の間違いの大きさに、何も言えなくなった俺が、自身のズボンを握りしめていると、暖かい手が頭上へと置かれる。
「そらちゃんもキミも、頑張りすぎなんだよ。誰かの為にと、私達の為にと頑張ってくれるのは嬉しいけどさ……少しは頼ってくれないと。私達じゃ、力不足なのかい?」
「……そんなこと、ありません……」
「一人の間違いは、みんなの間違い。誰かに押しつけるのは、やめようよ。私達は、ホロライブというアイドルグループなんだからさ」
「俺は……ただのファンですよ」
「おやおや。勘違いしているねぇ。
くしゃくしゃと、俺の頭を撫で回したすいせいさんは、その手を退けると「ほら。いう言葉があるだろ?」と、俺に促してくる。
その言葉と共に、そらさんの笑顔が脳裏に現れる。
……そうだ。
もう、誰か一人に背負わせたりなんてしない!
「すいせいさん。あくあを助けるのに、手を貸してください」
「……うん。いい顔つきだ。やっぱり、君はそうでないと。一年前とは違い、よく自分の口からその言葉が言えた! くぅ~。そらちゃんが少し、羨ましいね」
一年前……。
そらさんの身体だけでも、世界政府から取り戻そうとしたあの時か。
確かに、あの時も俺は、誰にも告げずに一人で行こうとした。
でも、みんな同じ気持ちだったからか、あの時は、自然と足並みが揃ってーーなんとか協力してそらさんを取り戻すことができたんだったな。
しかし、今回は違う。
すでに、ホロライブは解散しているし、あくあが連行された事実を知っているのは、俺とすいせいさんの二人だけ。
つまり、ここからは、俺の言葉で一年前と同じことをしないといけない!
「場所を、教えてくれますか?」
「あくたんが連行されたのは、渋谷のレベル
「レベル3か……。ここから比較的近いし、そこまでレベルも高くないから、不幸中の幸いだと思います。ちなみに、確認ですけどーーこの事実を知っているのは?」
「もちろん。このすいちゃんと、キミだけだ」
「わかりました。これから、集められる仲間に頼んで、救出作戦を練ります」
そう、すいせいさんに伝えた俺は、すぐさま行動を開始する。
まずは、棚に置いてある万能イヤホンを装着し、ある人物へと連絡をかける。
監獄施設なら、内部に詳しい人間の助力が必要不可欠だと、判断したからだ。
だが。呼び鈴を鳴らしている間に、すいせいさんから待ったの声をかけられてしまう。
「どうしました?」
「悪いけど、私は別件があってね。ちょっと、一緒に行動することは難しいと思う。だから、別行動にさせてもらうよ。そんな理由でーー
「別件ですか……えっと、現地には来てくれますよね?」
「もちろん。ただ、基本的に別行動だから、頭数にはいれないでくれってこと」
なるほど。
すいせいさんがそう言うなら、突入部隊には、すいせいさんがいないという考えで動いた方がいいか。
「わかりました。では、現地で会いましょう」
「うん。じゃ、現地でね」
俺がそう答えると同時に、通話が繋がった為、そちらに意識を一度向けると、すでにすいせいさんの姿が消えていた。
むむっ。
移動で、すいせいさんの力を借りれないのは手痛いがーー仕方ないな。
『もしもし? 聴こえてる執行人くん?』
「あぁ! すいませんちょこ先生。聞こえてます」
『もう。急に連絡をしてくるなんて、どうしたの? さっきあったばかりなのに……もしかして、寂しくなっちゃった?』
すいせいさんの件で少し気をとられていると、連絡した人物ーーちょこ先生から、応答がないことを心配されてしまったので、慌てて返事を返す。
しかし、あいかわらず優しい声だ……。
寂しくなったと言えば、本当に話を聞いてるんだろう。
「えっとですね。驚かずに聞いてくださいってのは、難しいと思うんですけど。単刀直入に言います。あくあが、軍に捕まりました」
『えっ!? どっ、どういうこと!?』
まぁ。そういう反応になるよな。
やはり、予想通りの反応で焦り始めたちょこ先生は、携帯を持つ手を変えたのか、ガチャガチャと音がなる。
「詳しいことは、のち程話しますが……俺のミスで、軍にバーチャルアイドルということがバレたみたいです。今は、渋谷のレベル3監獄施設に連れてかれたみたいでーー」
『ちょっ!? ちょっと待ってね! えーと。だからーーまずは、その情報の信憑性は?』
「すいせいさんから、聞きました」
『すいちゃんから……わかったわ。確実みたいね。監獄施設なら、スバルが知ってるかもしれないわ』
例え混乱していても、まずは、情報の信憑性から聞いてきたちょこ先生は、さすがと言える。
なので、俺がすいせいさんの名を出せば、一発で信じてくれたらしいちょこ先生は、俺の意図を察してくれたらしく、ガサゴソ音がしたと思えば、すぐにスバルの痛がる声が聞こえてくる。
『今スバルを起こしたから。スバル! 渋谷のレベル3監獄施設の情報を詳しく調べて、頭に叩き込んで。理由は後で説明するから、急いでちょうだい!』
「起こしたってーーちなみに、どうやってですか?」
『近場にあったティッシュ箱を投げつけたのよ。それより、他の情報は?』
ちょっと気になった為、聞いてみると、かなりパワフルな起こされ方をされたらしい。
すまんな。スバル。
「他の情報としては、すいせいさんが、別行動で現地に突入するくらいですね。なので、スバルだけ貸してください」
『そう、別行動なの……。それなら、ちょこも行くわ。もしもの時に、現地に居た方がいいもの』
むむ……。
ちょこ先生のアイドル
それだと、そらさんを守る盾がなくなってしまう。
「気持ちは嬉しいですが、そらさんを守る盾を失くすわけにはいきません。なので、ちょこ先生は、残ってもらっていいですか?」
『それなら、心配いらないわ。今フブキ先輩が来てるから、そっちに頼んでみる。そうすれば、私も行けるでしょう?』
「フブキさんが?」
『えぇ。用があるとかでね。ちょうどよかった。フブキ先輩、少しの間ここに残って貰ってもいいですか?』
そうか。フブキさんが来ていたのか。
フブキさんが残ってくれるのなら、ちょこ先生が来ても問題はないな。
数秒ほど電話口で、二人の声が聞こえると、すぐにちょこ先生の声がクリアになる。
『残ってくれるみたい。これで、心配ないわよね?』
「えぇ。むしろ、ちょこ先生まで来てくれるなら、過剰戦力かもしれませんけどね。ありがとうございます」
『ふふっ。それじゃ、準備をして合流しましょう。現地でいいかしら?』
「はい。俺も準備が整いしだいむかいます」
そう言うと、通話が終わったのを確認した俺は、すぐさま自室へと向かい、いつものロングコートを着ると、ベット下からアタッシュケースを取り出す。
その中には、漆黒の手の平サイズの五角形の物と、これまた漆黒の拳銃とサバイバルナイフが一つずつ入っている。
……よし。
何も欠けてないな。
まずは、五角形の物体を掴みとった俺は、それを額に押しあてつつーー。
「ロボ子さん。俺を守ってくれ」
そう口にする。
これは、別に必要なことではないのだが、戦いに行く前のルーティーンのようなものだ。
すると、五角形が俺の言葉に答えるように、青白く発光する。
『了解。今日も守ってあげるよ』
「ははっ。頼むよロボ子さん」
機械から発せられた声ーーもちろん、本物のロボ子さんではないが、彼女と同じ声のAIだーーに笑いかけた俺は、その五角形を、脊髄の位置へと押しあてる。
『カチコチフルアーマー
その声と同時に、五角形から透明な
カチコチフルアーマーⅥとは、ロボ子さんの傑作の一つで、見た目的には何も変わっていないのだがーー透明な膜が常に全身を覆っており、衝撃を波紋のように逃がしてくれる最高装備の一つだ。
理論上は、時速40キロの車にぶつかっても怪我すらおわないらしい。
実際に、弾丸の雨が降っても痛くもないので、あながち間違いではないかもしれない。
『展開完了。設定装備を装着してください』
装備が完了したことを確認した俺は、次に拳銃を右腰へ。ナイフを、左脇の下へと装着する。
『
と、俺の装着が完了したことを教えてくれるAI……なのだが。
毎度のことながら、このネーミングセンス……どうにかならないのだろうか。
ロボ子さんの作品は、どれも便利で最高なのだが、ネーミングセンスだけが問題である。
なので、俺は、勝手に名前を簡略化して、カチコチフルアーマーは、フルアーマー。信号機型殲滅銃は、殲滅銃。なんでもスパスパナイフは、スパナイフとよんでいる。
『今回の作戦は、どうするの? 僕が最適な作戦を練ってあげようか?』
「悪いけど、今回は、俺一人じゃないからな。こっちに任せてくれ」
『うーん。まぁ、了解。頑張れ白馬くん!』
ふっ……AIとはいえ、まるで、ロボ子さんと話している気になるから、面白いものだ。
さて。そろそろ行かないとな。
待ってろよ。あくあ。