鈍行列車 作:ンゴォ
私は、鈍行列車に乗っていた。また、昼が沈み、夜が顔を出すような時であった。夕陽は、前回あの男と話していた時よりも、どこかぼんやりとしていた。電車の鳴き声も、すこし静かになっているように聴こえた。しかし、私はまた、電車の心地よい揺れを感じながら、座席に体を投げ出していた。前回のように、なにか考えごとをするわけでもなく、景色をじっとみつめていた。
私は、またあの男に会えると予感していた。その予感どおり、私は男と再び出会った。私は、予感が当たったことに、内心喜んでいた。
「また、会いましたね。今日の電車は、前と違って、ずいぶん様子がおかしいとはおもいませんか。ただの私の見方が良くないだけかも知れませんが」
私は、さっそく疑問を投げかけた。彼なら答えてくれると思ったし、そのとおり彼は答えてくれた。余談だが、今日の鈍行列車は、前より人が、見える範囲で、二三人程増えているのだ。そこも私の疑問のひとつである。もしかしたら、前回乗った時の私の願いが、ほんのすこしだけ叶ったのかもしれない。
「お久しぶりです。確かに、前回より雰囲気は違って見えますね。どこか、いや、全体が淡くぼんやりとしている。これはおもしろい」
男は今、おもしろい、と言ったか。彼は学者なのだろうか。そうでなくても、不思議な現象に、強く興味を持つ人間なのだろうか。それにしても、たしかに夕陽を含め、全体がぼんやりとしているように見える。まるでこれは、きさらぎ駅のようだ、と思った。冥界へと連れて行かれてしまうから、現世の境界があやふやになっているのだろうか。だとすれば、実に大変なことだな、と他人事のように思った。
そういえば、夕方は黄昏時、とか、逢魔が時、とか言われていたことを思い出した。なるほど、こんなふうにあやふやに見えるから、昔の人はそう名称したのか。今まで、その言葉の意味を理解していなかったが、自身が体験して初めて理解ができた。電車というのは、こういう不思議な現象によくあうのではないか。電車での不思議な出来事、という話は世にたくさん出回っているし、知人からも聞いたことがある。私は、男にこの考えを話してみた。
「あなたは、逢魔が時とか黄昏時とかいう言葉を知っていますか」
「ええ、もちろん知っています。それがぼんやりとしていることに、何か関係があるのですか」
「ええ、もちろん。これらは夕方に起きる、と私は聞いています。そう考えると、夕方というのは不思議なことが起きる時間帯なのではないか、と。そして、電車での不思議な出来事の体験談もよく聞きます。このふたつは共に、人に物事を不思議に感じさせるのではないか、と考えました。逢魔が時なんかは、人とあの世の境界線があやふやになる、とか言ってました。ちょうど今ここもあやふやな状態でしょう」
「なるほど。そうすると、私たちは今あの世に連れ去られようとしてるわけだ」
私は、男のその言葉で笑いだした。男も笑った。
男は次の駅で降りるようだ。今度は、男の方が「また会えるかもしれませんね」と言ってきた。
「ええ、私もそう思います」