前回のお話を投稿した後に頂いたイラスト置き場を制作したため、旋回の更新分をお読みになっていない方がいらっしゃるかもしれません。こちらの不手際で誤解をしてしまうような投稿方法になってしまい、まことに申し訳ございません。
お手数おかけしますがその確認の方して頂いたのちにご覧いただきたく思います。
よろしくお願いいたします。
「……私のお話は、これでおしまい。」
これで、全部。全部曝け出した。
私がみんなに言うべきだったこと、言わないといけないこと、全部。
さっきまでは自分の思いを口にすることで、いっぱいいっぱいだったせいか周りを見る余裕なんかなかった。けど話し終わったおかげでちょっとだけ余裕が戻ってくる。みんなの様子は……、内容を何とか整理しようとしてる。って感じかな? どうだろ、みんなが何考えてるかわかんないや。
自分でも、精神が少しおかしな方向に進んでいるのが解る。解っているが止められない。不安、不安なのだろう。このどうしようもなく沈んでいくような感覚を言葉にすることができない。何もない時間が永遠に続いているような気がする。
一瞬だけ、キャプテンがトニーの方を見る。その視線を感じた彼が立ち上がり、私の方へと歩いて来た。
昔は彼の方が高かった身長も、超人血清のせいで私の方が高くなってしまっている。もう、頭を無造作に撫でてもらう、みたいなことはしてもらえそうにない。ふと、そんなことを考えてしまう。
私は、どうなるのだろうか。
……単に拒絶されるのはいい。多分、悲しいという感情が沸いてくるだろうけど私がしたことを考えればそれでも優しいぐらい。『知っている』ということは『助けられた』ということ。私がいるせいで変わってしまったこの世界でも私の記憶によって助けられたはずの人間はたくさんいる、ニンジャの件だってみんなと共有していればあれだけの人が死ぬことはなかった。死ななくてよかった。
私はその責を果たすべきだったのに、自分のことを優先してそれから逃げた。それを理由に、皆から拒絶されるぐらいなら喜んで受け入れる。ただ、もし……。私のせいで彼らの大事な人が死んでしまってて、それを私が把握できてなくて、そんな私がのうのうと生きているとすれば……。
この命の使い道は決まってる。でもそれはすべてを優先するほどのものじゃない、私以外だってできること。……もし私の存在がなくなることで誰かの気が晴れるのなら、私はそれを受け入れる。受け入れないといけない。……あはは、みんなから敵意を向けられるって考えたらなんでこんなに心が揺れるんだろ。なんでこんなに弱くなっちゃったの、私。
トニーが、彼が。私の目の前に立つ。
私は、何を言われるのだろうか。何を告げられるのだろうか。……こうも不安になるとは思わなかった。何があってもいいように、ナノスーツの自動防御システムをoffにしておく。誰も傷つかないように。
彼の体が少し動いて、何故か目を瞑ってしまう。目を背けたらダメなのに、逃げたらダメなのに。
……覚悟していたものは、来なかった。
「言うタイミングを逃してしまったが……、少しその恰好はどうかと思うぞツグミ。」
私の肩に、彼の上着が掛けられていた。
「キャプテンに先に言われてしまったが……、ボクらはずっと君が話してくれるのを待ってたんだ。それがいつになっても怒ったりなんかしない。責めたりも、だ。」
「キミが色々なものを背負っているのは解っていた、だがそれを僕たちから指摘するのは君にとって負担になるのでは。と思ってしまってね……、気が付いてやれずすまなかった、ツグミ。」
「トニー、キャプテン……。」
私が一番憧れた人の手が、肩に乗せられる。
「よく話してくれたな、ツグミ。……ありがとう。」
この後のことは、よく覚えていない。
ただ、我慢してたものが全部溢れ出て。
ずっと降ってた大雨が、ほんの少しだけ、晴れたような気がする。
「……ご、ごめんね。ちょっと泣き過ぎた。」
「大丈夫だとも。僕の胸はいつでも空いてる。キャプテンは……、ちょっと髭がむさ苦しいかもな。」
「……そうか?」
昔みたいな雰囲気が私を包み込んでくれる。みんながいて、私もいる。……たりない、なんて贅沢は言えない。私は、幸せだ。
「気に入ってるみたいだったから言わなかったけど……、前の方が似合ってたわよ、キャプテン。」
「俺もそう思う。」
「ナターシャにサムまで……、すまないローディ。あとで洗面所貸してくれ。」
「どうぞお好きに。」
彼らのやり取りにみんな顔が緩んでる。内戦なんかなかったみたいに。
「さて! じゃあキャプテンのお髭の話はそこまでにして真面目な話をしよう。じゃないとそこの魔術師に怒られそうだ。」
「……私はそこまで薄情ではないぞ、スターク。」
「おっと失礼。で、問題はどうやってサノスを追い返すのか、だ。こっちには石が三つもある、アベンジャーズがこうして再結集したことだし、みんなで作戦でも練るか? それともそこのおじさんが何か用意してたり?」
「私はもう長官ではないぞ。だが戦力にはアテがある、時間はかかるかもしれんが戦うのなら広い場所がいいだろう。」
「だったらワカンダはどうだ? 確認を取らなければならないが、彼らなら協力してくれるはずだ。」
わ。すごい。どんどん話が進んでいく。
「あ、あの私が石を使うってのは……。そ、それだったら地球に来る前に倒せるよ?」
わ、すごい。進んでた話が急に止まってため息が聞こえる。
「あのねツグミ、私たち今そういう話してないでしょう? わかる?」
ナターシャ怒ってる……、静かに怒ってる。久しぶりに見た。こわい。
「大体それ使ったらどうなるんだ?」
「えっと、死ぬ……」
「だろう? 誰が使わせるんだ。俺たちは地球最強のヒーローチーム、アベンジャーズって言ったのはお前だろ。ツグミ。サノスだったか? そいつなんか一瞬だ。」
結構食い気味にクリントに叱られる。
「僕はちょっとまぁ、戦力にならないかもだけど……。君にはイヴやコーンちゃん、娘たちもいるんだろう?」
バナー博士には教師のように、優しく教えを説くように。
「そういうことだ、何。あそこの魔術師くんみたいにネックレスにでもしてしまっとけ。」
トニーに、背を叩かれる。優しく、元気を分けるように。
「……キャプテン。」
「ツグミ、僕たちはその石が必要なんじゃない。君の力が必要だ。……手を貸してくれるかい?」
◇◆◇◆◇
先ほどまで皆が話していた部屋から少し離れた場所。彼女が話した内容が非常に情報量が多いものであった上に、これから迫りくる脅威の大きさも決して無視できるものではない。彼女曰く『正直色々無理したら私個人で対処できる、みんなでやったら無理しなくて済む。』ということらしい。彼女が生まれたときから持つ記憶はすでに参考程度にしかならないらしいが、ここにいる皆でサノスは倒せるということだ。
それが少し余裕になったのだろう、各自が決戦に向けた用意を進めながらも時間が時間だ。エネルギーを摂取するためにも昼休憩をとることになった。少し気楽すぎないかと思う自身もいるのはいるが、休息がなければ十全なパフォーマンスは取れない。休んだ後に休んだ分だけ動いたらいいだけだ。
あの内戦の時に初めて顔を合わせた少年と、初めて会う魔術という不思議な力を操る男、そしてサムが何か摘まめるものを買いに行ってくれた間にワカンダへの連絡をしておく。かの王であれば受け入れてくれるはずだ、そして戦力も揃っている。
「トニー。」
「ん? あぁ彼女か。今はヴィジョンたちと話してるよ。ツグミに言わせれば彼も子供の一人らしくてな、ワンダをちゃんと母親に紹介しろってことらしい。あとマインド・ストーンの処理もするそうだ。」
「処理?」
すでにあの時のような対立する必要はない。この戦いが終わった後にもう一度同じチームとして活動するのは難しいだろう、だからこそこの時間が心地よく、そして懐かしさを感じさせてくれる。
「あぁ、当時の僕らには考えも付かなかったがストーンとヴィジョンの人格を分離できるようにするんだ。今はすこしくっつき過ぎてるからな。ま、溶接からダクトテープに変える感じだ。」
「……なるほど?」
「簡単に言うとパワーアップさ。」
なるほど、それならわかりやすい上に頼もしい。移動中にヴィジョン本人から聞いたらしいが相手には彼の能力を無効化できる技術があるらしい。パワーアップというぐらいであるし、彼女のことだ。多分それを改善してさらに強くなるのだろう。
「ストレンジは魔法使いのお家の確認、ピーターは叔母さんへの言い訳と現状報告、サムはサンドイッチの購入。まぁなんというか自由だな。あとあの魔術のゲートは常時使えるようにしたい。」
机に置いてあったスナック、おそらくローディのものを無許可で口に入れながらデスクの上を整理し始めるトニー。……この場には私たち二人しかいない。そういう話だろう。
「……さっきの彼女の話だが。」
「あぁ、ツグミがあの場で嘘を言っていないことは理解している。」
「よし。まぁボクとしても少し気になるところがあった、それで時間旅行やら石のエネルギー量やらざっと計算したんだが……。」
そう言いながら、彼はホログラムを起動させる。帯のようなものが大きな円を作り出す映像に、6つの石の詳細が事細かに並べられ多くのグラフによって比較されている。正直自身が見てもそのすべてを理解できることはない。それはトニーも解っているはずだ。つまりこれは彼自身にとって必要な整理の時間。
「あちら側、まぁツグミの月面基地だな。いつの間に作っていたのかはわからないがあの時からずっとそこに籠っていたんだろう。…
…そこからついさっきボクが求めていたデータや研究結果の資料が送られてきた。彼女の娘たち、あっちもあっちで色々動いているらしい。」
そう言いながらホログラムを整理していく彼。こちらから、何も言うことはない。頭の中に浮かぶ議題はともに同じ、本来ならば今この場で考えることではないのかもしれないが、戦いのことに関しては彼女が一番準備をしてきている。それこそ僕らが何もすることがないレベルで。
「量子世界を経由した並行世界間の移動、可能。インフィニティ・ストーンの同時使用により発生するエネルギー量、その軽減率、人体における影響。治癒因子に、力の移譲……。全く、いつの間に追い越されたやら。」
「……どうなんだ。」
「……少なくとも、いま彼女の状態がかなり危険なことは確かだ。今着ているあのスーツがなければまともに動けないほどに衰弱している。それを無理やり超人血清や治癒因子を投与し、リアクターのエネルギーで活性化させ続けている。一月というタイムリミットも事実なんだろうな。」
「……そうか。」
自分で証明しなければそれを認めることができない訳ではないのだろう、だがその確証を得なければ対策も、対応も取れない。だから今急いで彼は検証を行った。差し出される結果がなんであろうとも。
「……キャプテン、これはボクらの……、我儘か? 人の命は嫌なほどに平等だ。一つしかない、そこに例外もない。それは僕らも、彼女も同じだ。それに、僕らが何を言おうとも彼女の気は変わらないだろう。見たか、あの目を。確かに少し気休めには成れたかもしれない。少しの持ち直してやれたかもしれない。だがまだ彼女の眼は……。」
「……あぁ。」
「僕らじゃダメなんだろう、いやこの世にあるものじゃダメなんだ。もしそれがインフィニティ・ストーンで手に入れることができるものならツグミはしていたはずだ。だがしてない、それが答えだ。」
……気持ちは、痛いほどにわかる。彼女の気持ちが、彼の気持ちが理解できてしまうが故に。誰かが乗り越えられたとしても、彼女が乗り越えられるとは限らない。そしてその後の選択をするのも、最後の決定を下すのも、彼女だ。
「トニー、我儘でいい。やろう。」
「……。」
「今の彼女は、確かに僕らじゃ助けられないかもしれない。だが今後、それがどうなるかわからない。彼女には子供がいて、僕らもいるはずだ。乗り越えられなくてもいい、何か違う、拠り所ができるまで。時間がいる。」
「僕らのお節介かもしれない、僕らの我儘かもしれない、もしかすると彼女も望んでないかもしれない。……だが、他ならぬ君と僕が望んでいる。だろう?」
「……あぁ。」
「なら、やるべきだ。」
彼女はこれ以上生きることを望んでいないかもしれない。自分の命を使って何かしようと言ってしまうことからそれは強く表れているように思える。だが、今の彼女は選択肢がない。一月という時間はあまりにも短く、そして心変わりが起きるかもしれない時間とすればあまりにも長い。ほんの少しのことで何かが変わるかもしれない、もう少し先を生きてみたいと思うかもしれない。そんな時に、まだ生きるという選択肢がないのは。
「僕が手伝えることは少ない、だが手伝えることならなんでもやる。……あとは、君だ。」
「そう、だな。いやそうだった。……ボクらしくもない。」
「……ありがとう、キャプテン。」